血のクリスマス事件~機械仕掛けのジングルベル

作者:刑部

「リヴァーレさんらの調査によって、『VRゲーム型ダモクレス』事件が、大侵略期の地球で『血のクリスマス』と呼ばれとる大虐殺を引き起こした侵略型超巨大ダモクレス、『ゴッドサンタ』復活の予兆やった事がわかったで」
 杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)が、今回の事件についてリヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)らの調査があった事を説明し、
「VRゲーム機型ダモクレスは、ゴッドサンタの配下の手によって、少し早いクリスマスプレゼントっちゅーことで子供達に届けられたみたいや。
 更に『ゴッドサンタ』は、クリスマスを楽しみにしとる人らを血祭りに上げる事で、復活するグラビティ・チェインを得ようとしとるみたいや」
 千尋がケルベロス達の顔を見回して説明を続ける。
「襲撃が発生するのは、12月24日の午前中。この襲撃が成功してグラビティ・チェインが『ゴッドサンタ』の元に集まったら、クリスマスの夜に『ゴッドサンタ』が完全復活して、えらい事になってまう。それを阻止するには、皆の力が必要なんや」
 頷きながら話を続ける千尋。

「『ゴッドサンタ』の配下として実際に襲撃をしよんのは、『ヴィクトリーサンタ』と『ヴァンガードレイン』っちゅー2体一組の量産型ダモクレスや。
 奴さんらは12月24日の早朝、日本各地に一斉に現れて、クリスマスを楽しみにしてとる人らを襲ってグラビティ・チェインを奪い取ろうとしとるみたいや」
 討伐する敵について千尋が説明を続ける。
「ヴァンガードレインは、その光る角から電撃を放ってきよるし、ヴィクトリーサンタの方は、格闘家みたいな拳と蹴りを主軸にした攻撃を繰り出してきよる。なかなか連携のとれた攻撃をしてきよるから、そういった部分も気を付けなアカンで」
 と千尋は注意を促す。
「この襲撃を阻止する事が出来たら、復活しようとしとるゴッドサンタはグラビティ・チェインが枯渇したままになるから、撃破するチャンスがあるかもしれへんからな。みんな頑張ってや!」
 と、笑う千尋の口元に八重歯が覗くのだった。


参加者
メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)
清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)
ツヴァイ・バーデ(アンデッドライン・e01661)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
天目・宗玄(一目連・e18326)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)
神飾・古織(推定有害・e33844)

■リプレイ


 襲撃前に到着し、児童養護施設を背後に敵を待ち構えるケルベロス達。
「アレ……っすかね? サンタの赤は血の色でーすって感じ?」
「赤けりゃえぇってもんでもないんやけどねぇ。血のクリスマスや血のバレンタインは堪忍して欲しいわ」
 黄金のトナカイを駆る赤い服の人影を視界の端に捉えたツヴァイ・バーデ(アンデッドライン・e01661)が軽口を叩くと、肩を竦めた清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)がそう応じて首を左右に振り、ピンク色の髪の地獄化した毛先が揺れる。
「ツヴァイさんの連絡でちゃんとカーテンも閉められてますし、これだけ距離があれば大丈夫でしょう」
 と言ってクイッと眼鏡を押し上げたのは、傍らにクリスマスツリーを置いたメリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)。
 ダモクレスがやけくそになった時に備え、子供が何処に居るか判らない様にと、ツヴァイが提案した事が生かされているのを確認し、迫り来るダモクレス達に向き直る。
「無茶をされる前に倒してしまいたいですね」
「然り、刀の錆びにすらする事無く屠ってやろう」
 言いながら皮袋の紐を解き、色とりどりの輝く魔石の中からいくつかを摘まんだウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)が、その赤い瞳をこらすと、天目・宗玄(一目連・e18326)もゆっくりと刀を抜く。
 そして一直線に向かって来るヴィクトリーサンタとヴァンガードレイン。
「やぁ、心持たぬ玩具の輩よ。君に意思はあるかい? ……ないのだろうね」
「フハハハハハハ……」
 篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)の呼び掛けにも応じる事無く、ヴァンガードレインは雷を湛えた角を押し出して佐久弥目掛けて突っ込み、それを駆るヴィクトリーサンタが腕を組んだまま高笑いする。
「良い子にしてる子にプレゼント持ってくるサンタさんはいいけど、こんな悪いサンタやトナカイはお断り、やっつけちゃうんだよ!」
 佐久弥に突っ込んだヴァンガードレイン目掛け、重い飛び蹴りを見舞って飛び退く鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)の頭に、真っ赤な花の髪飾りが彩りを添える。
「メリークリースマス!」
 横に吹っ飛ばされたヴァンガードレインを余所に、そう口を開いたヴィクトリーサンタが、問答無用とばかりに重力震動波を前衛陣に叩き付ける。
「うなー! 楽しい楽しいクリスマスを邪魔するなんて、許しませんよう!」
 が、迫るプレッシャーを払う様に声を上げた神飾・古織(推定有害・e33844)が、薬液の雨を降らせ、その重力衝撃波によってもたらされた憂いを払いに掛る。
「人の話を一切聞かないタイプですか?」
「この道を修羅道と知り推して参る」
 ウィッカが御業を鎧として纏う中、光が地面を蹴ると皆もそれに続く。


「眼鏡も掛けていないあなたがサンタの筈ないでしょう。私が本当のクリスマスを教えてやる……」
 仲間達がサンタを斬り抜けヴァンガードレインを狙う中、宗玄に気を取られたヴィクトリーサンタ目掛けて、メリッサが思いっきり振り被ったクリスマスツリーを、ダンクシュートよろしく振り下ろす。
「これが……これこそがクリスマスだ!」
「メリメリメリークリスマース!」
 ヴィクトリーサンタの目がつり上がり、明らかな怒りの表情で胸を張るメリッサを狙う中、
「機先を制する一発だけは私も入れておくのですよう」
 光や佐久弥に続き藍色のマフラーを棚引かせた古織が、ジャマダハル型の回転する刃をヴァンガードレインに叩き込んで飛び退く。
 ヴァンガードレインはその古織を追う様に角を突き出すが、
「その角は長すぎ、切り時だよね」
 美沙緒がそれぞれの手に持つ神斬り鋏・陰と神斬り鋏・陽を組み合わせ、大鋏としてヴァンガードレインの角を狙う。ヴァンガードレインは雷壁を出してとんぼ返りするが、美沙緒に続いたツヴァイとウィッカの攻撃に晒され、苛立たしげに雷撃を撒く。
「しつこい……男は……嫌われますよっ、まずは眼鏡を掛けて……出直して下さい」
 ヴィクトリーサンタの繰り出す拳や蹴りを捌きながらシャウトし、彼女本位の要求を突き付けるメリッサ。
「うなー。いい感じにメリッサさんに引き付けられてますが、一人だと大変そうなのです。早くトナカイの方を倒さないといけませんねぇ」
 シャウトで補いきれないと見た古織が、そのメリッサにウィッチオペレーションを施しつつごち、
「ちゃっちゃと片付けるから、もうちょっと頑張ってだよ」
 ローズクォーツのあしらわれたペンダントを揺らして退く古織と、入れ代わる形で美沙緒の蹴りがヴィクトリーサンタの顔に炸裂した。

「……ふん、小賢しい」
 宗玄の振り下ろした鉄塊の如き刃が、ヴァンガードレインの張った雷の壁に叩き付けられる。
 小さなスパークを残して霧散する壁を突っ切る形で光。
「数の利点はしっかり活かさせてもらうんよ」
 僅かに口角を上げた光の背後から右に佐久弥、左にツヴァイが踊り出て距離を詰め、
「散り乱れ、緋色の花を咲かせ!」
 突風に舞う花弁の如く光の繰り出す連続切りに合わせ、攻撃を見舞う。
 それらを喰らいながらもヴァンガードレインの角が雷光の如く輝くと、迸った雷撃が光を穿つ。
 体をくの字に曲げた光に畳み掛けようとするヴァンガードレインだったが、
「させぬ! 鍋島、アルマンダイン!」
 宗玄がヴァンガードレインのお株を奪う様に、迅雷の如き突きを繰り出して踏鳴を起こすと、その宗玄の肩を足場に宙を舞った美沙緒と、背後から踊り出た勢いのまま回転したウィッカが追撃を掛け、ヴァンガードレインに攻撃の隙を与えず、その隙に古織が光を回復させる。
「油断しとったつもりはあらへんねんけどな」
 施された回復に対し目礼を返した光は、ヴィクトリーサンタの方を引き付けるメリッサを見て大丈夫と判断すると、再び地面を蹴り、
「力勝負なら負けはせぬ」
 水平に構えた刃で角を受け止め、その勢いを殺した宗玄を睨むヴァンガードレインに、思いっきり横撃を加える。

「天より降り来る天ツ狗――万物喰らい万象呑まん」
 跳躍した佐久弥が陽炎を纏って加速降下し、一つの鉄塊となった刃を叩き付ける。
 ヴァンガードレインはその一撃を回避しようとしたが、同じタイミングで美沙緒と宗玄が左右から斬り掛った為に完全に回避する事が出来ず、結果としてそれを受けた角の片方の大半が、折れ砕けて飛ぶ結果となる。
「やるっすね。俺も負けてられないっすよ」
 たまらず雷壁を出して距離をとるヴァンガードレインを追ったツヴァイが、音速の拳を繰り出してその雷壁を砕くと、マントとツインテールを棚引かせたウィッカ。
「ナイスですツヴァイさん。黒の禁呪を宿せし刃。呪いを刻まれし者の運命はただ滅びのみ」
 刃の側面を魔石でなぞったウィッカが、魔術文字が浮かび上がったその刃をヴァンガードレインに突き入れる……呪いが体内を浸食しているのか、痙攣する様に震えて一瞬行動が止まるヴァンガードレイン。
「ここは一気に決めさせてもらいます」
 そのまま畳み掛けようとするウィッカだったが、今までメリッサに引き付けられていたヴィクトリーサンタが、突如として踵を返してヴァンガードレインに仕寄っていた宗玄と光襲った為、陣形が乱れる。
「ちゃんと相手してあげるから、もう少し待って頂けますか?」
 オウガメタルの『体現装悟』が右半身を覆った佐久弥が、その拳でヴィクトリーサンタを押し返す。その間に古織から回復が飛び、波状攻撃を仕掛けるケルベロス達。
「さあ、その外面が文字通り剥がれるまでひれ伏し願え。全ての祈りが無駄になるまで、なんっつって?」
 ニイッと口角を上げたツヴァイが起こした白炎の雨に撃たれたヴァンガードレインが、足を折って地面にひれ伏すと、そのまま頭を垂れて動かなくなる。それを見たケルベロス達は、一斉にヴィクトリーサンタ目掛けて動き始めた。


「待たせたっすね、ナマハゲ」
 小馬鹿にした調子で笑ったツヴァイの鋭い突きが、メリッサに蹴りを繰り出したヴィクトリーサンタに突き入れられると、蹴りを繰り出していた為にバランスを崩し、尻もちをつくヴィクトリーサンタ。
「ラッキーチャンスや! そのままずっと座っておいてくれていいんだよ。さぁ、人に仇なす悪神を斬り裂け!」
「これぐらいで足腰に来とるなんて、サンタクロースを語るんは百年ほど早いんよ」
 間髪入れず美沙緒が大鋏で切断しに掛り、毛先の地獄を躍らせた光も容赦ない一撃を叩き込んだ。
「お待たせなのですよう」
「助かりました。流石にこれ以上一人だと眼鏡が割れてしまうところです」
 ウィッチオペレーションを施してくれる古織にそう応じたメリッサは、大きく息を吐いてから息を整えると、
「使う私すら恐怖する眼鏡人にとって禁忌の技……その威力、しかと受けなさい! めー! がー! ねー! シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥト!」
 眼鏡を光らせて手にした眼鏡を投じ、その眼鏡を受けたヴィクトリーサンタが辺りを見回し、メリッサを見つけると、怒りで我を忘れているのか、彼女目掛けて一気に距離を詰めて来る。
「そう簡単に行かせはしないのです」
 メリッサに後ろに立ったウィッカが、真正面から捕食モードとなったブラックスライムを嗾ける。……が、ヴィクトリーサンタは、口を広げるブラックスライムをものともせず、その口に突っ込むと、水平ダブルチョップでそれを切り裂いて突破する。
「捨てられ拾われ、それでもリサイクルの先に輝かしい未来があると信じて」
「それは攻撃に非ず、目暗ましよ」
 やればできると自分に信じ込ませた佐久弥が振りかぶる鉄塊と、宗玄が振り被る鉄塊。
 水平ダブルチョップを繰り出した為、両手を広げる形でウィッカのブラックスライムを突破したヴィクトリーサンタに、その二つが思いっきり叩きつけられた。
 吹っ飛ばされたヴィクトリーサンタが顔から落ちて跳ね、更に空中で一回転して頭から地面に突っ込んだ。
「犬神家でしたっけ? クリスマスらしくないオブジェっすね」
 動かなくなったのを確認したツヴァイがそう言うと、皆は大きく息を吐き戦場の緊張がほぐれてゆくのだった。

 本物のサンタ生け捕り作戦決行の為、急いで帰った美沙緒を除いたケルベロス達は、サンタに扮して児童施設を訪れると、思い思いのプレゼントを渡して喜ぶ子供達の笑顔を瞼の裏に焼き付け、富山の地を後にしたのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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