魔法でマジ狩る……?

作者:なちゅい

●少女が実際に倒す相手は
「うわ、すっごおい!」
 寝巻き姿の少女、大浜・杏璃はゲーム内で魔法を操り、現れる敵を倒す。ゲーム内で操るキャラクターは、可愛らしい魔法少女といった姿をしていた。
 対して、現れるは目の前に現れる怪人達。それらを、自らが振るう杖から魔法を発して倒していくのだ。こんな気持ちの良いことは無い。
「いくよ、マジックミサイル!」
 発する魔法の矢が怪人を貫き、倒す。その度に、杏璃は嬉しそうにはしゃいでいた。
 一方、現実世界では……。
 VR(ヴァーチャル・リアリティ)ギア型の装置を頭に装着した杏璃のそばには、ゲーム内で彼女が操る魔法少女と同じ姿のアバターが存在していた。そして、杏璃が怪人と見定めていたのは、学校や仕事から杏璃が住むマンションへと帰宅しようとする人々だ。
 すでに、アバターが飛ばす魔法によって、周囲には人々が倒れている。ただ、杏璃はそれに気づかず、楽しそうに新たな住人を怪人と見定めたようだ。
「それっ、オーラシュート!」
 杏璃の声に応じたアバターはオーラの塊を飛ばし、また1人、買い物帰りの主婦を倒してしまったのだった……。
 
 ヘリポートにやってきたケルベロス達。
 そこで待っていた、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)手を振り、ケルベロスへと駆け寄ってくる。
「来てくれて、本当に感謝しているよ」
 また、悲劇を防ぐ為にケルベロスの力を借りたいと彼女は語る。
 今回の依頼、それは、VRギア型のダモクレスを装着した少女が一般人を虐殺する事件なのだと言う。
「VRギア型ダモクレスを装備した女の子は現実をゲームのように知覚して、住宅街の一般人をまるで怪人のように見定めて手にかけてしまうんだよ」
 実際には、少女のそばに実体化した少女のアバターが攻撃を行うらしい。
 アバターは一定のダメージを与えると消失するが、少女にゲームを続ける意志がある限り、すぐに新たなアバターが現れてしまう。
 これはゲーム上で、少女がコンティニューを選んだからだと思われる。アバターは完全回復した状態で再度現れる為、実に厄介だ。
「この女の子がゲームを続ける意志をなくした状態で、アバターが撃破できればいいのだけれど……」
 そうすることでVRギア型ダモクレスは撃破され、少女を救い出すことが可能となる。
 また、VR機器部分を含み、少女を直接グラビティで攻撃した場合、少女は身を守る為にアバターと合体して戦うことになる。なお、少女は他のデウスエクスと同様、グラビティ以外の攻撃は効かない状態となっているようだ。
「女の子がアバターと合体した場合は、戦闘力が強化されるけれど、一度倒せばアバターを復活させずに撃破が可能だよ。だけど……」
 この場合、少女を救出は不可能となってしまうので、留意しておきたい。
 敵となるアバターは、魔法少女といった出で立ちをしている。魔法のステッキを操り、ケルベロスが使う幾つかのグラビティと同様の攻撃を行うようだ。
「現場となるのは、宮城県仙台市の住宅街。少女の住むマンションの出入り口付近だね」
 少女、大浜・杏璃はゲーム内で、街に攻め入ろうとする怪人から街を護るつもりで攻撃を行う。ただ実際は、少女自身の住むマンションへと帰ってきた住人を襲っている状況だ。
 この為、この近辺に人が近づかないようにした上で、ケルベロス達がマンションへと入ろうとすれば少女に狙われ、その対処に専念できるだろう。
「あと……、VRギア機型ダモクレスは、ゲーム世界に相応しく無い現実を、ゲームの設定に合わせて修整して認識させているようだね」
 ケルベロスについてはボス敵のように認識させる為、優しい言葉やケルベロスとしての説得の言葉は、ダモクレスによって都合の良い敵のセリフに変換されてしまう。
「でも、皆が最初から、ゲーム世界の設定に相応しいボス敵のような格好や演出をしたなら、言葉や行動をそのまま伝えることが出来るよ」
 これを利用すれば、ゲームが面白くないと思わせ、少女がゲーム進行を止めるかもしれない。
「この女の子は、可愛らしく魔法を使って怪人を倒すのに楽しさを覚えているから、……そうならない状況を演出できればいいのかもしれないね」
 リーゼリットはそんな考えを示す。上手く対処することで、少女救出の可能性は高くなるはずだ。
 少女がどうやってこのゲーム機を入手したかは分からない。ただ、この機械によって、彼女が取り返しのつかない罪を犯してしまうことは避けたい。
「どうか、この少女を止めてあげて欲しい」
 そうして、リーゼリットはケルベロス達に現地へと向かうよう促すのである。


参加者
ミリアム・フォルテ(緋蒼を繰る者・e00108)
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
シルフィディア・サザンクロス(この生命尽き果てるまで・e01257)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
神居・雪(はぐれ狼・e22011)
サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)
トープ・ナイトウォーカー(影操る戦乙女・e24652)

■リプレイ

●面倒なダモクレスに……
 宮城県仙台市に降り立つケルベロス。女性ばかりのメンバー達はとあるマンションを目指す。
「現実とゲームの区別がつかなくなるというのも……危険ですわね……」
「ちっ、悪趣味なやろうだ。子供の手を汚させようなんてよ」
 大きな胸を弾ませて歩くミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)の呟きに、神居・雪(はぐれ狼・e22011)が舌打ちして唾棄するように語る。
「厄介なダモクレスが現れたものだ」
 軍人のような外見のトープ・ナイトウォーカー(影操る戦乙女・e24652)が言うように、今回の相手はダモクレスだ。VRゲームの形をした敵は子供に現実をゲームのように見せながらも、一般人を手にかけさせるのだという。
「本人は楽しく遊んでいるつもりなだけ、というのが辛いわね。誰も傷つけさせたくないし、傷つけずに解放してあげたいけれど……」
 できれば、装着してしまった少女にゲームを止めさせ、倒さずにVRゲーム機を外してもらいたいとユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)は語る。
 困難な依頼ではあるが……。ユスティーナはとあるメンバーに視線を送った。
「子供使って酷い事させるなんて、なんてまあ効果的で最低な考えでしょ」
 敵にそんな悪態をつくミリアム・フォルテ(緋蒼を繰る者・e00108)は、私生活はさておき、尊敬するべき先輩ケルベロスだ。
「止めないといけないわねぇ……。どんな手を使っても」
 命は大事。だからこそ少女を助けねばと意気込むミリアム。
 そんな彼女との一緒の依頼。ユスティーナは安心して依頼に臨む。
「……まぁ、救出の余地があるだけマシか」
 そんな仲間の会話を聞き、トープもまた少女の救出に意欲を見せるのだった。

●少女の前に現れたのは……
 現場となるマンションに到着した頃には、日が暮れかけていた。
 作戦開始に当たり、ケルベロス達は人払いを始める。マンションの住民に対し、ユスティーナ、ミルフィは声がけを行う。
「ケルベロスだー。危険だから逃げろー」
 ミリアムは大声で叫び、ある程度人がいなくなったタイミングで殺界を作って人の接近も防ぐ。
 ただ、それは同時に護るべき対象となる少女、大浜・杏璃もまた、この場から離れようとすることになる。寝巻き姿の彼女はVR型ゲーム機をつけており、そばに魔法少女のアバターを連れている。
「敵だね……!」
 ぴりつく殺気を感じる杏璃はゲームだからと割り切り、目の前に現れる敵に対する。
 一方、敵と認識されるケルベロス。
 黒いフィルムスーツに黒マントという出で立ちで、ユスティーナは現れる。濃いルージュにアイシャドーで、悪女を演出する。
「ふん、魔法少女風情が邪魔をするか……。抵抗する気も起きんぐらいに、ここで叩きのめしてやる」
 軍服姿も手伝い、トープの幹部らしく威圧的に少女へと言い放つ。
 少女がさらに横を見れば、狼男、ならぬ狼女に扮する雪、紳士らしく振舞うヴァンパイアの空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)。
 サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)もヴァンパイアだが、モカが男性らしく見えるのに対し、サロメも中性的な顔をしてはいるが、胸が主張している為か男装といった印象は拭えない。
「私はヴァンパイア怪人……うら若き乙女の血を啜る者さ」
 タキシード姿にマントを羽織り、仮面を被るサロメの姿は、演劇で出てくる貴公子といった印象だ。
 さらに、横へと視線を向けると。頭はフルフェイス、全身を包むフィルムスーツの上から地獄の炎を纏うシルフィディア・サザンクロス(この生命尽き果てるまで・e01257)が、ギロリと睨みつけてくる。
「クソが……、さっさとバラバラにしてやります……!」
 自身よりも小柄な少女から発せられる殺気に、杏璃は身を震わせる。
「あらん……可愛い魔女っ娘さんね♪ ……でもね、貴女……これは、実は『大人』向けのゲームですのよ……」
 そうかと思えば、きらきらと大人の姿に変身したミルフィは妖艶なボンデージ衣装を纏い、大人向けゲームに出そうなサキュバスの女幹部を演じる。
「げへへ。ボスぅ、やっちゃいやしょうぜ。へっへっへ」
 幹部を演じるメンバーが多い中、ミリアムは特別に衣装を着てはいないが、三下キャラを演じる。
 一通り、敵を確認した杏璃は複雑な顔をしていたが、彼女の操るアバターはすぐに杖を突きつけてくる。
「……そろそろいくよ!」
「いいでしょう……。化け物らしく、ぶっ壊してやりますよ……!」
 シルフィディアが小さく呟くと、ケルベロス達は少女を止めるべく、グラビティを行使し始めたのだった。

●魔法少女を操る少女
 魔法少女のアバターは素早く動き始めた。
「マジックミサイル!」
 手にする杖から飛ぶ魔法の矢。それを、前に出たサロメが受け止める。テレビウムのステイも身を張ったが、主より少しばかり遅かったようだ。
「危険だから私の後ろに」
 サロメは仲間に下がるよう告げる。その姿はまるで、どこかの国の王子様のよう。
 意にも介していない素振りをしていたが、サロメが受けた傷をすかさずユスティーナが溜めたオーラを発して癒していく。
「あーあ、さっきの攻撃が無駄になっちゃったわねェ」
 彼女はくすりと小悪魔のような笑みを浮かべる。
 この状況をゲームのように捉える少女は、複雑な表情のままで距離を取ろうとするが、他メンバーがそれを許さない。
「ほら、まだ始まったばかりだぜ!」
 同じく前に出る雪。機体を燃え上がらせるライドキャリバーのイペタムがアバターに突撃したのに合わせ、雪はアバターに迫ってからの破鎧衝。縛霊手をつけた拳を叩きつける。まずは様子見といった一撃だ。
 次に、後方からシルフィディアが迫る。彼女の姿に杏璃が小さく呻く。全身を地獄化させたシルフィディアの姿は、少女にはそのまま見えているのかもしれない。
「そんな技で、わたし達を倒せると本当に思っているのですか?」
 たかだか、魔法の矢ごときでというニュアンスを含んだ物言いで告げたシルフィディア。
 それは作戦として、自分達が倒せない強敵だと思わせる為ではあるのだが、彼女は少女にこんなことをさせるデウスエクスに対する怒りと憎しみで感情を埋め尽くしていて。
 ドラゴニックハンマー「墜龍槌」を握り締めたシルフィディアは、ドラゴニック・パワーを噴射させてアバターを力の限り叩く。
 攻撃の手を止めぬよう、ケルベロス達は攻撃を続ける。
「魔法少女よ。貴公の恐れる物を見せてやろう」
 少女やアバターの視線上に飛び込むトープは、惨殺ナイフを煌かせる。
「いや……、いやあっ!」
 それに映し出された鏡像に、アバターは……少女は何かを見たのだろう。何かを虚空に見て怯え始める。
 そこで駆けてくるミリアムが電光石火の蹴りを食らわせた。体を痺れさせる相手に、彼女はけらけらと笑ってみせる。
 体を痺れさせるアバターへ、今度はモカが涼しい顔で近づく。
「フフッ……、お嬢さんも一緒に優雅なティータイムを楽しまないか」
 モカの両手にはティーカップと皿。彼女はカップの中に入った紅茶を口にしつつ、足技で仕掛ける。
 マインドリングを操るのが最も命中しやすい攻撃だが、それは手を使わねばならない。彼女はその為アバターの急所……胸の中心に蹴りを叩き込んだ。
 立て続けに蹴りを食らい、アバターの魔法少女が怯む。
「入り込んだからには、覚悟してね? ……うふふ……♪」
 涼しい顔をしたミルフィがアームドフォート「アームドクロックワークス」を突きつけ、その主砲を発射する。
 砲弾を受けてさらに痺れを大きくするアバターへ、テレビウム、ステイが凶器で殴りかかり、サロメが間髪入れずにアバターの傷口を斬り広げようとしていく。
「こんな、ひどい……」
 いきなり強敵に囲まれる状況に、少女は口を尖らせながらもオーラの弾丸をケルベロスへと飛ばす。
 それを、今度は雪が身を挺して受け止める。決して威力が小さい攻撃ではないが、しっかりと対策を練っていた雪は、出来る限りダメージを抑えていた。
「はーっはっはっ!! 効かねぇ……効かねぇなぁっ!!」
 高笑いする雪。他のメンバー達も決して余裕を崩さない。それに、アバターも、そしてそれを操る杏璃も、顔を顰めていたようだった。

●理不尽な展開に……
 魔法少女のアバターは、大浜・杏璃が操作するままに魔法を飛ばす。
 だが、飛んでくる魔法にも、ケルベロス達は皆平然としていて。
 メンバーの中衛に布陣するトープ、モカに飛ぶ燃え盛る火球。着弾して燃え上がるが、トープは涼しい顔をしている。
「どうした、その程度か」
 モカに至っては、ティーカップを持ったまま紙一重で躱してみせた。
「フフン……その程度の攻撃など、優雅なティータイムを楽しみながらでも避けられるよ」
 モカは残像が見えるほどの速さで、アバターの周りを動き始める。
「蜂のように舞い、そして刺す!」
 蜂刺乱舞脚。その名の通り、モカはハチの様な一刺しをアバターのうなじ付近に突き刺す。無論、両手が塞がる以上。それは蹴突での痛烈なる一打だ。
「このっ、このっ!」
 杏璃は次々にアバターに魔法を撃ち出させる。魔法の矢にオーラの弾丸。それらを雪が受けとめ、ミルフィをカバーする。
「そんなへなちょこ魔法なんて、ぜ~んぜん効きませんわよ……☆」
 ミルフィは妖艶な笑みを絶やさす、女神直属の戦乙女達の銘を冠した槍を携える。
「ほらほらぁん……。その可愛いコスチュームを破いて、大胆にしちゃいますわよ……♪」
 彼女は槍全体に雷の霊力を込め、瞬きする暇すら与えることなく魔法少女の体を突き貫く。幾度も襲う槍はアバターの服を破ってしまう。
「なにこれ!」
 思わぬ攻撃に杏璃は絶叫しながら、魔法を放つ。ディフェンダーのカバーが間に合わず、シルフィディアがオーラの弾丸を受けていた。
 しかし、大振りの体勢で迎撃が間に合わぬアバターの体に、ミリアムが伸ばす黒き鎖が絡みつき、きつく締め上げる。
「うっそ……」
 まさか取り巻きにやられるなんて。杏璃が唖然とする間に、魔法少女の姿は消えていく。
「こんなのないよ!」
 杏璃がそう叫ぶと、そばに再びアバターが現れる。コンティニューしたようで、その体には傷すらついてはいない。
「下手な演技は仕舞だ。こっからは本気で行くぜっ!」
 雪は特攻するイペタムの後ろで、妖精の加護を宿した矢を射る。
「ふふっ……。えっちな悪戯、しちゃいますわよ……♪」
 扇情的な所作をしつつ、ミルフィはふわりとアバターに肉薄してから口づけをする。
「……!?」
 驚くアバター。だが、目の前の相手はすぐに霧となってしまって。ミルフィは離れた場所で笑うのみだ。
 アバターはなおも火球を飛ばして攻撃を繰り返す。少女のモチベーションが低下してきているのは間違いないが、平静さを装うケルベロス達も決してダメージが小さいわけではない。
「……どんな暗闇でも、心に宿した光がある限り歩もう。魂が唄う限り」
 ユスティーナは、小夜曲を歌う。その歌声は、共に戦う仲間へと前に進む為の力を与えていく。
「何回やっても結果は同じ。さっきのでわからなかったのかしらぁ?」
 歌い終えた彼女は、アバターにそう主張する。
 それによって回復するサロメは利き手に握る惨殺ナイフを振り回し、すでに仲間が与えた傷を斬り広げる。
 攻撃に関しては、やることは同じ。とにかく相手の手を止めようと、ケルベロス達は攻撃を繰り返す。
 アバターもまた魔法の矢で反撃する。それに射抜かれた雪は、カムイへと祈りを捧げ始めた。
「アタシの祈りが、誰かのためになるなら――」
 アイヌの血を引く雪の祈りは、清浄な風となり、前で戦う仲間達を包み込んでいく。
「なんで、なんで!?」
 なかなか倒れぬ敵に、アバターは、杏璃は苛立ちを募らせて。
 すかさず、トープは古代語を詠唱して魔法光線を発射し、アバターの右太ももを石と化した。
「どうだ、魔法少女よ。これで動けんだろう」
 トープは魔法少女を見下ろすように視線を向けた。
 ミリアムもまた、畳み掛けるようにして魔法光線を発射していく。すでに戦意を失いつつある少女の姿を見て、彼女はやや安堵していた。
(「さすがに、最後の手段を見せずに済むかな」)
 この戦場には、ユナこと、ユスティーナの姿がある。あの姿……アサシンとして力を使う姿は、さすがにユナに見せたくないのだ。
「動いて、動いて!」
 叫ぶ杏璃に、シルフィディアが冷淡に告げた。
「いい加減時間の無駄なんですよ……! 諦めて命乞いでもしたらどうです……?」
 彼女が露出させた両腕は禍々しい地獄の刃となって。アバターの体を無慈悲に切り裂いていく。
 事切れるアバターは再び、掻き消えるように姿を消してしまう。
 だが、それを操作していた杏璃に再プレイする気力はなく。ポロリと彼女の頭から取れたVRゲーム機が落下し、爆ぜ飛んだのだった。

●現実にかえった少女に……
 無事、少女を救出したケルベロス達。
 戦場となったマンション前に、ミリアムは気力を撃ち出して補修に当たっていた。
「ぶ、無事助けられて、良かったです……!」
 そんな中、元に戻ったシルフィディアは、おどおどしながらも杏璃の無事を喜ぶ。
 事実を知った彼女は、ややしょげてしまっていた。
 サロメは仮面を外し、紳士的な態度で杏璃へと謝罪する。
「怪我はないかい、マドモワゼル。辛いことを言ってすまないね」
「酷い事をしてごめんなさいね……。もう、大丈夫ですわ……」
 子供の姿に戻ったミルフィもまた、小さく頭を下げていた。
「ううん……」
「危険なダモクレスだったとはいえ、ゲームを止めてもらえるよう、キツい攻撃をしてしまったな」
 我に返って首を振る杏璃に、気分を害して申し訳ないと謝るトープが続けて問いかける。
「すまないが、あのゲーム機をどこで手に入れたか教えてもらえないか」
 杏璃は分からないと首を振る。朝起きたタイミングで部屋に置かれていたそれを、帰宅して部屋着に着替えてから起動し……今に至るらしい。
「今回は面白いゲームではなかったかもしれないけれど、面白いものは色々あると思うし。この一回でジャンルそのものを嫌わないでほしいわ」
 ややぐったりとしていた少女にユスティーナがそうフォローするが、彼女は浮かない返事をした。
 モカもそこで、自身の考えを口にする。
「現実(リアル)も面白いものだ。そうは思わないか?」
「うん……」
 こちらははっきりと頷く。少女はケルベロスに出会うことで、ほんの少しだけリアルの楽しさを知ったようだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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