勇者ここに立つ

作者:天木一

『グルルゥゥ』
 粗末なレンガの家が並び立つ町中に、一匹の大きな四つ足の獣が飢えた瞳を輝かせて闊歩する。その口は人を一飲みできるほど大きく、牙は鉄をも嚙み砕けそうなほど力強い。一歩を踏み出す足には刃のように鋭い爪。
『ヴァァアアアアッ!!』
 そんな獣が涎を垂らし雄叫びをあげた。
「くっこんな町にまで魔獣が!」
 その前に立ち塞がるのはファンタジー風の鎧を纏った少年。背負った長剣の柄を握り抜き放ち、刀身が光り輝く剣を魔獣へと向けた。
「だがこの勇者ハルが現れたからには好きにはさせないぞ!」
 少年は大きく跳躍する。
「くらえ! ライトニングソーーード!」
 掲げた剣に雷が落ち、力が籠った刃を振り下ろす。その一撃を受けて魔獣は爆散した。
「見たか! これが雷光の勇者ハルの力だ!」
 魔獣が消滅すると光となって少年の体に入り、経験値とお金になる。
『貴様! 勇者か!?』
『勇者だ! 勇者が現れたぞ! 魔導兵を集めろ!』
 わらわらと少年に向けて武装した兵が殺気立って集まってくる。
「いいぜ、かかってこい! 全員返り討ちにしてやる! 魔王を倒すまで、ボクは負けない!」
 剣を構えた少年は敵兵の群れへと斬り掛かった。

「げはっ……止めるんだ、どうしてこんな事を……」
 剣に胸を貫かれスーツ姿の男性が血だまりに崩れ落ちる。その周辺には無数の死体が転がっていた。老人も、まだ若い男女も区別なく、それにリードの繋がった子犬の死体まで、斬り刻まれたパーツが散乱している。
「やったー! 勝ったぞ! これで町の平和は守れたんだ!」
 そんな血の海の真ん中で、VRギアをつけた寝巻きのような格好をした少年が服を赤く染めてはしゃいでいた。
 その隣にはゲームの登場人物のような鎧を纏ったアバターが血まみれの剣を掲げていた。
 
 
「東京の街中で、VRギア型のダモクレスを装着した少年が現れ、街の人々を虐殺する事件が予知されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が新たな事件の説明をケルベロス達に始める。
「VRギア型ダモクレスを装備した少年は、この現実世界をゲームの中であるように感じているようです。町中の一般人を敵兵に、ペットの動物を魔獣とみなして殺してしまいます」
 少年のすぐ近くには、VRギアが実体化した少年のアバターが現れており、実際に攻撃を行うのはこのアバターとなる。
「アバターに一定のダメージを与えれば消えてしまいますが、少年がゲームを続ける限り、新たなアバターがゲーム開始時の状態に戻って復活してしまいます」
 少年にゲームを止めさせない限り、何度でも復活してしまう。
「少年のゲームを続ける意思を折り、アバターを倒せばVR型ダモクレスは撃破され少年を救出する事が出来ます。ですが少年(VR機部分含む)を攻撃した場合、少年は身を守るためにアバターと合体してしまい、復活する事がなくなりますが、助ける事も出来なくなってしまいます。気を付けてください」
 少年はケルベロスやデウスエクスと同様、通常ダメージは無効となっているので、少年にグラビティによる攻撃を行わない限り、アバターと合体する事はない。
「任務はVRゲーム型ダモクレスの撃破となっており、少年の生死を問うてはいませんが、可能な限り助けてあげてください」
 ただゲームで遊んでいるだけの少年を殺してしまうのは後味の悪いものになるだろう。
「少年が暴れだす場所は分かっていますので、先に待ち伏せる事ができます」
 現れればすぐに一般人の避難誘導も始まる。
「どうやら皆さんのことを『倒さなければならない強敵』と認識されるようです。優しい言葉をかけても、ダモクレスによって悪意ある敵のセリフへと変換されてしまいます」
 そのままだと少年を説得するのは不可能だろう。
「ですが、皆さんがゲーム世界に相応しい恰好や演出をすることで、変換されることなく言葉や行動を直接伝える事が可能になるようです」
 このシステムを利用すれば、少年のゲームを続けようとする意志を折る事が出来るかもしれない。
「説得でゲームをつまらないと思わせる事が出来れば、アバターは蘇らなくなりゲームは終了するでしょう」
 少年の性格なども考慮すれば成功率は上がるかもしれない。
「VRゲーム機がどうして流通しているのかは分かりませんが、現実で人を殺してしまうようなゲームを放置はできません。皆さんの力で被害が出る前に、このゲームを終わらせてください」
 少年の事もよろしくお願いしますと頭を下げ、セリカは出発の準備に向かう。ケルベロス達も、子供が無自覚にその手を汚す前に止めようと、顔を合わせて作戦を練り始めた。


参加者
花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
六条・深々見(喪失アポトーシス・e02781)
リフィルディード・ラクシュエル(チビ助可愛い・e25284)
ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)
ルカ・フルミネ(レプリカントの刀剣士・e29392)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
二階堂・燐(キックミー・e33243)

■リプレイ

●VR
 日中は冬でも人々は活発的で、子供を連れた母親や老人が道を行き来する。
「子供に最悪なプレゼント配るなんて、どんなサンタよ。全く」
 獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)はそんなプレゼントした何者かに悪態をつき、ともかく春樹くんは絶対助けようと意気込む。
「ダモクレスは相変わらず人心を上手く揺さぶって来るね……させはしないが」
 花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)はフェロモンを放ち、ここは戦場になると一般人達を避難させる。
「これまた、面倒というか、ある意味で人質だよなぁ、これ……」
 敵の厭らしい作戦に溜息をついたリフィルディード・ラクシュエル(チビ助可愛い・e25284)は、光輝きながら大きくなり18歳の姿へと変身した。
 ケルベロス達が人払いを終えると、マンションからVRギアを装着した寝巻姿の少年が現れる。その横には同じ顔をしたファンタジー衣装のアバターがいた。
「ゲームは楽しいよねー私も好きだよ。でもだからって現実にそれを持ち込むのはちょっと迷惑過ぎでしょー」
 ゲームを現実でやればとてつもない惨劇になると、ルカ・フルミネ(レプリカントの刀剣士・e29392)は少年を見る。
「少年にゃ悪いけど、ここらでそのゲーム機は取り上げだ」
「VR……自分で動き回ってゲームする時代か―……そっかー……でもあたしは家でネトゲしてる方がいいなー……楽だし……最近は寒いし……」
 新たな時代のゲームに感慨を受けながらも、六条・深々見(喪失アポトーシス・e02781)は慣れ親しんだゲームがいいと思いながら冷たい風に体を震わせた。
「……あ、言ってたらほんと寒くなってきた……早く終わらせて帰ってコタツ……コタツに入らないとあたし死ぬ……死ぬ……」
 とにかく早く終わらせたいと深々見は少年に近づく。
「このような所業、早く止めなくてはなりません。何も知らぬ少年に、罪を犯させてはなりません」
 少年の手が赤く染まる前に止めようと、ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)が後に続く。
「斬って終わり、なら楽なのに、何故僕のところにはひとひねり必要な依頼ばかり……」
 今までこなした依頼を思い出し、二階堂・燐(キックミー・e33243)は溜息をつく。
「でも仕方ない。哀れな勇者のために、僕らが一肌脱ごうか!」
 気分を入れ替えて燐が仲間に視線を向けると、仲間達も頷き少年に近づいた。
「むっ、何者だ!」
 ケルベロス達に気づいた少年が警戒して誰何の声を上げる。
「さてクソゲー方面は他の人に任せて、俺はちょっくら勇者に対抗して正義のヒーロー風にいくとしますか………ううむ今さらながら少し恥ずかしいなおい」
 何とも気恥ずかし気分になりながらも、ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)は覚悟を決めて少年の前に出る。
「変身!」
 高らかに叫ぶと、スタイリッシュに光り輝き全身が鋼に覆われ、ヒーローのようにカッコよく宙返りしながら変身した。
「マッスルメタル此処に推参!」
 ムギは恥をかき捨てるようにポーズをとって名乗った。

●連続イベント
「マッスルメタルだと!? 魔王の手下か!」
 少年が指さすとアバターが前に出る。
「貴方がハルと言う者か?」
「その通り、ボクが勇者ハルだ!」
 和服姿のリフィルディードは抜き身の刀を突きつけると、少年が堂々と名乗る。
「私自身には貴方に恨みはないが、依頼だ、ここで倒させてもらう」
「!? ボクが何故狙われなければならない!」
 リフィルディードの放つ殺気に当てられアバターも柄に手を掛ける。
「なに、世に争いを産みだそうとしてるハルという者を討て言われただけさ」
「世界を救うボクが争いを生み出すだって?」
 理解できないと少年は首を振る。
「弟の仇よ、勇者、覚悟!」
 電柱から飛び降りた、胸元や太ももがあらわになったセクシーな忍者装束に身を包んだ銀子が立ち塞がる。
「仇!?」
「弟は争いが嫌いな優しい子だったのに……。勇者の戦いに巻き込まれて」
 銀子は分かりやすく説明をして涙を拭う芝居をする。
「勇者を倒して戦いを終わらせるっ」
「待って! 訳が分からないよ!」
 少年が慌てて待ったをかける。
「なぜこのように無惨な行為をなさるのでしょうか」
 光の翼を出して神秘的な雰囲気を醸し出したドゥーグンが、諭すように話しかける。
「傷つけられた者たちにも家族がおります。貴方の守らんとした人々と同じように」
「そんな……」
 ドゥーグンの言葉を受け少年の脳裏に悲しむ人々が過ぎる。
「お前が勇者だと、いいや違うお前はただの人殺しだ」
 ムギが厳しい声で少年を叱責する。
「う、うわー! ボクは勇者なんだ!」
 何故まだ何もしていないのにこんなに責められなくてはならないのかと、少年は涙目になりながら叫ぶ。するとアバターが剣を抜き放った。その刃には雷が落ちる。
「ライトニングソーーード!」
「誰も殺させはしない」
 アバターが剣を振り下ろすと、腕に纏った鋼でムギは受け止めてみせる。
「俺の背に護るべき仲間がいる限り、俺の筋肉は不滅だ!」
 ムギは刃を押し返し、逆にアバターを吹き飛ばす。
「勇者よ、君の暴挙は此処までだ!」
 魔王の従者兼幹部という役で、黒の羽飾りの付いた外套に袖なしベストにスーツパンツとピシッと決まった服装をした颯音が少年に呼びかける。
「君は僕らを倒すのに必要な隠しアイテムの回収イベントを行っていない状況で抗えると思っているのかい? 因みにマルチエンド制でこれはAルートだ!」
 颯音は台詞の度にいちいち外套をばさりと広げ、その隣に浮くボクスドラゴンのロゼもきゅっと鳴いて、それを真似するようにお揃いの外套をばさりと翻した。
「ルート説明とか! 親切を通り越してるよね!?」
 少年は唾を飛ばす勢いで文句を垂れる。
「勇者よ……私はあなたに光神からのお告げを伝えるためにやってきました……。魔王を倒すには……」
 水晶玉を手にした旅の占い師の恰好をした深々見が、仰々しいお告げの言葉を切り大きく息を吸う。
「光神の力が宿る光の剣の破片を持つ12体の魔将を倒し破片を修復できる伝説の鍛冶師を封印から解き放った上で追加の材料として炎神と水神と風神と雷神の持つ宝玉をそれぞれから試練を受けて授かり形だけ修復された剣に世界で最も高い山の頂で明朝に光神の加護を付与する必要があります……」
 怒涛の説明文を一気に話し終え肩で息をする。
「え? ちょっとちょっと! 早口すぎて覚えられないよ! もう一度、話すコマンド!」
 少年が慌ててもう一度説明を聞こうとするが、深々見は口を閉ざしたまま一切喋らない。
「ログ機能はないし……あーもう! っていうか謎解きとか全部説明してなかった!?」
 少年が頭を掻き毟って叫ぶ。それに反応してアバターが剣を振るおうとするが、リフィルディードが剣に銃弾を撃ち込んで動きを止めた。
「まだ問答の途中だ、それともすぐに倒されたいか?」
 リフィルディードの脅し文句に少年が怯む。
「待たせたな……私が魔王だ」
 そこへブラックホールのように渦を巻く闇を纏い、中から魔王の姿となった燐が現れる。
「えええええ!? 出てくるの早すぎない!?」
「勇者ハルよ、この世界にも神がいるというのなら、何故争いは消えぬノダー」
 驚く勇者に燐は棒読みで一方的に話しかける。
「それはお前が悪い奴だからだろ!」
「魔王様の行いこそ正義なのじゃー」
 フード被って俯いたルカは老婆のような声色を作り、年老いた魔法使いのように見えた。
「魔王が正義なんてありえない!」
「貴様の行いの影で泣いてる者もいる。お前さん、そんなで勇者を名乗れるのかえー?」
 反発する少年に、ルカは年長者が助言するように言葉を重ねる。
「あと実はこれエンディング後のネタバレ情報なんじゃが、お主の持つ剣、それ魔王様の愛用品じゃぞ」
「わー!! あっさりネタバレするとか、どういうゲームなんだよこれーー!?」
「私とて、そうせずに済むのなら、殺し合うことなどしたくはないノダー」
 胡散臭さを漂わせながらも、燐は沈痛な面持ちで頷く。
「勇者ハルよ、この穢れた世界より解脱せよ。お前の大義は、そのとき果たされるノダー」
「ああ、もう! もうっ! こんなクソゲーやってられないよーー!!!」
 少年の顔からVRギアが外れ、地面に落ちた。

●勇者
「え? なにこれ……なんでボク外に居るの? 家でゲームしてたはずなのに……」
 自分の置かれた状況に少年が目を丸くする。
「お怪我はございませんか? すぐに終わりますので、下がっていてくださいね」
 ドゥーグンが少年を守るようにアバターの前に立ち塞がる。
『ライトニングボルト!』
 アバターの掌から放たれる電撃を、ドゥーグンは雷の壁を作って防ぐ。
「さあ、後は勇者を倒すだけだ! いくよロゼ!」
 颯音が手にしたスイッチを押すと、色鮮やかな爆発が起こって仲間の心を奮い立たせる。そして煙の煙幕を突っ切ってロゼがブレスを浴びせた。
「現実世界へおかえり、勇者ハル……いや春樹少年。ゲームクリア、おめでとう」
 少年に向けて燐が微笑む。
「エンドロールは、僕たちに任せて」
 そして敵へと鋭い視線を向けて駆け出す。アバターの放つ突きを低く搔い潜り、抜き放った青白い刀身が閃く。鬼火のような残像を残しながら刃は逆袈裟にアバターを斬り上げた。
「外は寒いし……コタツに戻りたいし……」
 早く終わらせようと深々見がふらりと間合いを詰めると刀を抜き打ち、アバターの胴を横一閃に薙いだ。
『この身に宿れ雷電!』
 アバターの全身から雷が発し、そのまま高速で突っ込んでくる。
「俺の司る属性は筋肉、ゆえにお前の雷光は俺の筋肉には効かん!!!」
 ムギが鋼を纏った体でオウガ粒子を放ちながら受け止める。だがアバターは何度も方向を変えては高速の突進でムギを打ち据える。それでもムギは一歩も引かずに堪え凌いだ。
「ここからは手加減無しだよ」
 そこへリフィルディードが左手の銃を撃つ、それをアバターが剣で弾くと、その間に接近して右の刀を振り抜く。刃が袈裟に体を斬り裂いた。
「窮屈な魔法使い役はここまでっ、ここからが本番だよ!」
 フードを払ったルカが、ローブの前を開けて動きやすくして突撃する。それに対してアバターは剣を横に薙いで迎撃する。ルカは大きく跳躍して頭上を越えながら、体内のミサイルポッドを展開し、無数のミサイルの雨を降り注いだ。爆撃されきりもみに吹き飛ぶアバター。
「勇者倒してゲームを終わらせるわ、覚悟してもらうわよっ」
 銀子は竜の幻を生み出し大きな口から炎を吐き出し、倒れたアバターに追い打ちを掛ける。全身を焼かれながらアバターは地面を転がって炎から逃れる。
『ライトニングソーーード!』
 アバターはゲームキャラらしく、先と全く同じ調子で台詞を言いながら雷の剣を縦横に振り回す。
「このような少年を利用し殺戮を行うなど……断じて許しはいたしません。ダモクレス、ここで必ず処分いたします」
 ドゥーグンはロッドで剣を受け止めながら相手の瞳を見つめる。すると相手の瞳に蛇が写し込まれ、巨大な蛇の幻に動きを止めた。
「マルチエンド制でいうなら、これはバッドルートだ! 勇者ここに死す!」
 外套を靡かせた颯音は原初の海より水を召喚しアバターの体を包み込む。全身を圧迫されたアバターは剣で水の棺を切り裂き何とか脱出する。だがそこにロゼが突進し体当たりで撥ね飛ばした。
「じっとしてても寒い……でも動いても寒い……消えて、なくなればいいのに」
 宙を舞うアバターに、深々見が圧縮された憂鬱を込めた右手で背中に触れる。するとビクンと体が跳ねてアバターの体が消滅していく。
『ライトニングボルト!』
 アバターが反撃の電撃を放つと、間に入ったムギが背中を盾にして受け止めた。
「俺の筋肉を舐めるなぁぁああああ!!!」
 電撃を筋肉で防ぎムギは気合を入れて耐えきる。
「さあゲーム終了だ、現実に帰る時だぜ」
 振り向きざまにムギが地獄化した炎を溜めた右腕を突き出す。炎の拳がアバターの顔面を捉え吹き飛ばした。
「精密機器は電気に弱いってね! シビれて壊れろっ!」
 アバターが着地したところへ、待ち構えていたルカが指先の内臓兵器から電撃を放つ。閃光が周囲を覆いビリビリと感電したアバターが膝をついた。
「これでゲームオーバーよ」
 銀子の掌が胸に当てられる。すると螺旋の力が内部に浸透しアバターの胸が捻じれて消し飛んだ。
『このミに……ヤ、ヤド、ヤドれ雷電!』
 壊れたスピーカーのように音を籠らせながらアバターが雷を纏って突進してくる。
「まだやるというなら相手してあげますよ」
 リフィルディードが左の銃で敵の足を撃ち抜き、動きと止めたところへ右の刀を振り抜いて胸を深く斬り裂いた。
「よーく見といてよ春樹少年。……これが現実世界で泥臭く戦う、格好悪い僕らの、超必殺技さ!」
 敵の肩を踏み潰すように蹴って空高く跳躍した燐は、その手に巨大な鬼火の刃を形成し、落下と共に振り下ろした。
『ラララ……ライ、トニング、ソー……』
 一刀両断にされたアバターは、塵のように粉々になって消滅していく。
「勇者ここに立つ……なんてね!
 着地した燐がキメポーズをとると同時にVRギアが爆発して吹き飛んだ。

●ゲーム
「助けてくれてありがとうございました!」
 事情の説明を受けた寝巻姿の少年が深く頭を下げる。そんな肩をロゼがぽんぽんと叩いた。
「ロゼかっこ可愛い、最高! ハル少年も無事で何より!」
 うんうんと颯音はロゼの愛らしさを褒めて和ませ、少年の事も大したことはないと笑い飛ばす。
「気にするな、俺の鍛えた筋肉は雷光などものともしない。少年も強くなりたければ筋肉を鍛えることだ!」
 受けた傷などかすり傷程度だと、ムギはその筋肉質な体に力を籠めて健在っぷりを見せる。
「お家でコタツに入ってネトゲでもするといいよ……寒空の下でゲームとか……無理だし……」
 もう限界だと深々見は唇を紫にして自分の震える体を抱きしめた。
「でもゲームのやり過ぎには気を付けてくださいね」
 何事ものめり込み過ぎるのは駄目だとリフィルディードが注意しておく。
「しかし子供を使って人々を傷つけようとするなんて、今回は阻止する事ができて良かったです」
 子供が被害を出す前に止められて良かったとドゥーグンが安堵の息をつく。
「ゲーム好きとしては熱中する気持ちも分かるけどね。今度からは普通のゲームを遊べばいいよ」
「その通りよ、これじゃなくて楽しいゲームは沢山あるわ」
 ルカと銀子が少年を励まし、最近どんなゲームをしているのかという話題で盛り上がる。
「春樹少年の冒険はまだまだ続くってね、違うゲームを新しくスタートすればいいよ」
 燐が笑いかけ少年の背を押し、寝巻姿の少年をケルベロス達は家へと賑やかに送り届けるのだった。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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