これぞゲームの理想形!?

作者:ともしびともる

●ゲームはここまで進化した?
「これが魔王……すごい大きい……」
 紫のローブととんがり帽を身につけ箒を手にした、いかにも魔女といった出で立ちの少女の眼前には、上半身だけを地上に現した、見上げるほどに巨大な魔王が佇んでいる。
「でも、絶対負けないから! ……えーいっ!!」
 少女は箒を振るい、生み出した火球を魔王へと放つ。攻撃をうけた魔王が呻くと、魔王の身体から次々と使い魔が飛び出してきた。
「手下たちね! 一人残らずやっつけちゃうから……フロストスパイクっ!!」
 少女の意のままに氷の矢が無数に生み出され、現れた醜い使い魔達へと飛んでいく。氷針に貫かれた使い魔が情けない声を上げながらバタバタと倒れるのを見て、少女は嬉しさに飛び跳ねる。
「うわぁ、まるで本当に魔法使いになれたみたい!!」

 千葉県某所の高校。午後の授業が行われている教室に突如轟音が響き、校舎がぐらりと振動した。窓際の生徒が外の様子を伺うと、校庭の真ん中に魔女の格好をした少女と、ベッドギアを着けた部屋着姿の少女が立っていた。二人の動きは不自然なほどシンクロしており、二人が手を振るうと、魔女っ子の方から巨大な火の玉が校舎に向けて放たれた。少女の謎の攻撃により校舎の窓が次々割られ、学校全体が阿鼻叫喚の大混乱に陥る。パニックを起こした1、2階の生徒が窓から校庭に飛び出してしまい、少女の氷の矢に容赦なく貫かれていく。
 自らの魔法によって蹂躙され、血塗れで倒れ伏す生徒達を見渡しながら、少女が実に楽しそうな歓声をあげた。
「すごい……! こんなに楽しいゲームは生まれて初めて!!」

●こんなゲームはお断り
「みなさん、VRってご存知ですか?頭部に視野を覆うギアを装着することで、ゲームなどの映像をまるで現実のように知覚することが出来る技術のようです」
 集まったケルベロスたちへと、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を始める。
「このVRギア装置を模したダモクレスが現れ、これを装着した少女が近所の高校を襲撃、虐殺を行う事件が発生しようとしています。皆さんにはこの少女が引き起こす事件を食い止めて頂きたいのです」
 VRギア型ダモクレスを装着してしまった少女は、現実をゲームであると錯覚させられており、高校の校舎は巨大な魔王に、現れた生徒たちは雑魚の使い魔のように見えてしまっているようだ。
 少女の側には少女のアバターである魔女っ子が現れており、実際に攻撃を行うのはこのアバターの方になる。アバターは一定のダメージを与えれば消滅するが、少女がゲームの『リトライ』を選べば、すぐに戦闘開始時と同じアバターが現れてしまう。
 少女がリトライする気が無くなるような形でアバターを撃破すれば、VR型ダモクレスも撃破されて少女を解放することが可能だ。
 少女はダモクレスに守られて、グラビティ以外の攻撃は効かなくなっている。もしも少女自身やVRギアを直接グラビティ攻撃した場合、危険を感じた少女はアバターと合体して戦うようになる。アバターと少女が合体すると戦闘力は強化されるが、二度と復活することはなくなるだろう。ただし、この場合は少女の命も奪ってしまうことになる。
 「目標はVRギア型ダモクレスの撃破なので、対処法は皆様におまかせしますが……ダモクレスに利用されている少女もある意味では被害者です、出来れば助けてあげて下さい」
 ケルベロス達は少女が現れるよりもかなり早く現場に到着できるので、校舎内の人々を安全に避難させるのは容易だろう。
 VRギア機型ダモクレスは、ゲーム世界に相応しく無い現実を、ゲームの設定に合わせて修正して認識させているようだ。ケルベロスについては『倒さなければならない強敵』であるように認識させる為、優しい言葉や、ケルベロスとしての説得の言葉は、ダモクレスによって都合の良い敵のセリフに変換されてしまう。
 しかし、ケルベロスが最初から、ゲーム世界の設定に相応しい『倒さなければならない強敵』のような格好や演出をした場合、その言葉や行動をそのまま伝える事が可能であるようだ。これを利用すれば、少女のゲームを続けようとする意志を折る事が出来るかもしれない。
「少女はこの魔女になりきれる『ゲーム』をとても気に入っているようで、これが楽しいと思っている間は、何度倒されてもかなり粘り強くリトライしてくると思います。一方で少女は感受性の強い性格のようで、特に『仲間が裏切る』とか、『良心の残った敵を倒さなければいけない』とか、気が咎めたり、ゆううつになる展開は大嫌いなようです。これを踏まえて皆さんが『ゲーム』を演出すれば、少女はうんざりしてゲームを早く投げ出してくれるかもしれません。」
 セリカは一つため息を吐いて、改めてケルベロス達に向き直った。
「夢を叶えると見せかけて人々を虐殺させるゲーム……。皆さんの力でこのゲームを、相応しいお粗末なゲームに変えてしまって下さい。よろしくお願いします!」


参加者
ゼロアリエ・ハート(魔女劇薬実験台・e00186)
エニーケ・スコルーク(戦馬乙女・e00486)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
ヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128)
戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)
セレッソ・オディビエント(ケムッソ・e17962)
灰縞・沙慈(小さな光・e24024)

■リプレイ


 現場となる高校の人員の避難を終え、ケルベロス達は高校の校庭でターゲットを待ち構えていた。
「しかし、ケルベロスカード様様だね。あれがなかったら俺らのほうが不審者だったもん」
 ゼロアリエ・ハート(魔女劇薬実験台・e00186)が皆と自分の姿を見渡しながら苦笑いする。ケルベロス達は、少女が見せられているゲームの世界に溶け込むため、そして彼女がゲームを放棄したくなる演出をするために、彼女が嫌がるというホラーな雰囲気を目指し、多くのものが無残なゾンビの格好をしているのだ。
「変装もしたし、ゾンビ映画をみて勉強したからゾンビな動きもばっちりデスよ!! ヴォー、うごご……」
 練習成果を軽く披露するシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)に、皆の笑いが漏れたが、変装のせいで朗らかながらもどこか不気味な雰囲気だ。
「しかし、子供一人騙すのにここまで手をかけなきゃならんとはな」
 戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253) がそう言って持参した唐揚げを口に放り込む。
「不本意だが、やるしかねぇんだよな。不本意だが」
 唐揚げを飲み込んだ久遠はそう言ったが、悪のカリスマ科学者っぽく白衣をビシっと着こなした姿はどうみてもに乗り気だった。
 久遠とともに敵の幹部、女将軍役を演じる予定のエニーケ・スコルーク(戦馬乙女・e00486)は、獣人姿に禍々しい漆黒のビキニアーマーを纏っており、すでに威圧感満載だ。
「最近流行の体感型ゲームは遊んでみたいですが……まずは事件を解決してからですね。こんなので発売中止、なんてなったらシャレになりませんもの」
 エニーケの言葉に、ゾンビの変装を施したヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128)肩をすくめて同意する。
「子供には楽しい思いをしてもらいたいが、こんな仕様のゲームじゃ、些かな。バンビーナには悪いが、一つ演じてみるか」
「とにかく、子供が人を殺める事だけは阻止しないと……」
 セレッソ・オディビエント(ケムッソ・e17962)は複雑そうに呟きつつ、悪者を演じるという変わった機会の到来に、内申少しだけ戦闘を楽しみにしていた。
「……自分の動きと連動するVR……とっても、楽しそう。でも人を傷つけるダモクレスVRは……ダメ。だよね」
 灰縞・沙慈(小さな光・e24024)がウイングキャットのトパーズに呟く。巻き込まれる人はもちろん、利用され、兵器にされている少女も必ず救う、と小さく心に誓っていた。
「うん、取り返しがつくうちに、ボク達がとめなきゃね。ロアと、トレーネもよろしくね?」
 シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)が沙慈の呟きにさり気なく答える。シエラシセロの問いかけに、なぜか主人であるゼロアリエにそっぽを向け続けているテレビウムのトレーネが、彼女の問いかけには、了解、のサインを返した。
「……ほんとに、頼むよトレーネ? 俺信じてるからね?」
 背を向けたまま反応しない反抗期状態の相棒に、ゼロアリエが軽く頭を押さえた。


 時刻は3時半頃、魔女っ子姿の少女アバターがワクワクした様子で校庭へと侵入してきた。隣にはヘッドギアを装着した部屋着姿の少女が同じように走ってきている。
「あ、魔王の前に手下が相手ね!結構数がいるし、強そう……」
 現れた敵の姿を見渡して、少女の表情が早くも曇る。
「指揮官ぽい人が二人に……、えっ、やだ、ゾンビの群れ? このゲーム怖いやつだったの……?」
 ホラーゲームじみた見た目の敵に、あきらかに引く少女。彼らの姿は無事敵役として認識されたらしい。
 第一段階無事クリアと見なし、獣人姿のエニーケが早速オーバーな高笑いをしてみせる。
「おほほほ! 来たわね可愛い子猫ちゃん? 今日は素晴らしいプレイを教えてあげますわよ!」
「フハハハハ!ようこそ私の実験場へ。さあ、お前たちの出番だ」
 久遠もこれみよがしに白衣をたなびかせて少女を威圧する。
「行け! ゾンビども!彼奴の腸を食いちぎれ!」
 エニーケのセリフに合わせ、狼人姿になったセレッソが唸り声を上げながら鉄塊剣を引き摺り、次の瞬間アバターへと突撃する。
「ひっ!!」
 少女の動きに合わせて、アバターもその身を庇う。大検に薙ぎ払われたアバターは、胴体部が一瞬大きくかき消された。
「こ、怖い……。ううん、みんなやっつけちゃえばいいんだもの! ……サンダーボルト!」
 少女は意を決し、前衛に向けて感電攻撃を繰り出す。
「ぎゃー!」「ぐぐぐがぁ!」
 攻撃を受けた前衛は大げさに吹っ飛んだり派手に倒れたりして、いかにも撃破されたように見せつけた。
「よしっ」と、撃破の手応えに少女は喜んだが、その表情もすぐに曇る。派手にやられた筈のゾンビ達が、皆這いずるようにしながら立ち上がってきたからだ。
「い、生き返るの!? これだからゾンビって嫌い!!」
 意に沿わぬ展開に、少女はすっかり嫌悪感を露わにする。
「すまない、君を撃ちたくはないが、身体が言うことを、聞かないんだ!」
 ヴィンチェンツォはそう言いつつフラフラをリボルバーを構えてみせ、サイコフォースでアバターの右手を容赦なく爆発させる。
「きゃ……、もう!」
 ケルベロスゾンビ達の猛攻に苛立ちつつ、少女は後衛へと氷の槍を無数に飛ばして攻撃する。
「ぐぎゃあ!」
 少女の攻撃によってシィカの服の中に仕込んでいた血みどローションが割れる。赤い液体が派手に撒き散らされ、少女が引きつった悲鳴を上げた。
「ひっ! もう何なのこのゲーム……!!」
 スプラッターな演出に早くも及び腰になる少女。そして少女の期待も虚しく……
「いたい…… いたい……」
 シィカも嘆きながら不気味な動作ですぐに立ち上がってみせた。
「どうしたどうした? その程度では私の作品達は倒せんぞ!」
 久遠が両腕で天を仰ぎながら、いかにもゾンビを強化しているぞと言った雰囲気で後衛にメディカルレインを降らせる。
「ぐるる……ガウッ!!」
 ゾンビがうめきながら次々と攻撃を繰り出す中、沙慈はトパーズとともに素早くアバターに詰め寄り、至近距離でドラゴンブレスを吹き掛けた。
「うそっ、ドラゴンのゾンビ!? そんなのありなの!?」
 中ボスにしては強力過ぎるイメージの敵に、少女が思わず不満を漏らす。沙慈と入れ替わるようにトパーズがひっかき攻撃を放ち、そのダメージにアバターの姿が耐えきれずに掻き消えた。
「やられちゃった……ううん、悔しいまま終われない!」
 当初の笑顔はすっかり消えてしまった少女だが、めげずにリトライを選択したらしく、無傷のアバターが再び出現した。


 ゲームと信じた敵に気丈に立ち向かう少女だったが、戦いが進むほどにその表情はみるみる疲労と困惑の色に染まっていく。
 苛立った表情で少女が中衛に氷の槍を打ち出し、咄嗟に沙慈がエニーケを庇う。
「……ふふふ、残念。多勢に無勢で可哀想ね、子猫ちゃん?」
 エニーケは沙慈の動きに合わせ、不敵に笑みながら一気に踏み込み、馬脚蹴撃衝でアバターの胸部を蹴り貫いた。
 敵軍団はゾンビの癖に妙に連携が達者で、少女は思うように攻め込めない。その上、今の攻撃で倒れたはずだったヴィンチェンツォも、当然のようにフラフラと起き上がり、
「なぜ動く! もうやめてくれ、そのまま倒れさせてくれ!」
 などと嫌々戦わされているらしいのを悲痛な声で訴えてくる。どうもゾンビ達には理性が残っているらしい上、戦いの中でその嘆きをうんざりするくらい語りかけてくるのだ。
「ごめんね……本当はこんな事したくない……でも、こうするしかなかったんだ。双子の兄さんが人質に取られたらボクはこうするしか…っ」
「また俺たちを殺すのか…もう魔王のところには帰りたくない…家族の所に帰してくれ…!」
 シエラシセロが目に涙を浮かべた迫真の演技で少女に迫り、ゼロアリエは嘆きを口にした後、理性を失ったかのように唸って攻勢植物を構える。ゼロアリエは右手に捕食型植物、シエラシセロは左手に降魔の力を纏わせて同時にアバターに襲いかかり、その胴体を深く噛み抉った。
「なんで……!? まるで私が戦うから皆が苦しむみたいに……!」
「今頃気づいたか? これらはお前を苦しめ、抹殺するために開発した兵器だからな!」
 久遠のセリフに、少女が愕然と顔をあげる。
「そういうこと。このゾンビ共は皆お前の友達家族から作られているのよ!」
 エニーケは高らかに言い放ちながら、アルティメットモードを起動した。その背に天使と悪魔の翼が生え、より背徳的な姿へと変わる。
「なにそれ!? そんなのひどい……!」
 ゲームの演出であるにも関わらず、本気で傷ついた表情をする少女。
「たすけ、て…… デース……、死にたく、ないデス………」
「嫌だ…… 死ぬのは嫌だ……。誰か…… 助けて……」
「Che palle!  なぜ動く! 俺はもうバンビーナに手をあげたくはないんだ!」
「どうして、こんなことになったの? もう殺して、こんなの嫌……っ」
 死にたいと言ったり死にたくないと言ったりして少女を追い詰めるゾンビ達。少女の表情に焦りと悲しみが宿る。
「待って、私が助けてあげるから……、でも、どうしたら良いの!?」
 とは言え、ゲームの主人公としての少女に攻撃以外のアプローチ方法は無く、殴れば殴るほど状況は悪化しているように思える。
「簡単よ。貴様はそのまま殺戮を愉しみ続ければいいのよ!!」
「ち、違うもん! そんなんじゃ……!」
「ゾンビにトドメを刺す時のお前の顔、実に生気に満ちていたぞ♪ 存分におやりよ?」
「そうだ、その身が滅ぶまで続けるがいい。私がいる限り、これらを殺す方法など存在しないのだからな!!」
 あまりの言われ様に呆然とする少女へと、シィカがフラフラと近づいて血がこびりついた鉄パイプのようなものを振りかざす。
「ごめ……、よけて、デース……!」
 言葉とは裏腹に、シィカは釘だらけの凶器を狂いなくアバターの脳天に振り下ろし、縦に両断されたアバターがそのままかき消された。
「……」
 少女が無言でアバターを再生させる。新たに現れたアバターの目には薄っすらと涙が溜まっていた。
「(……私達、やりすぎてない、よな?)」
「(だ、大丈夫、何もかも計画通りデース、自信を持って、心をオニにするデス!)」
 セレッソとシィカが少女にバレぬようこっそりとやり取りする。少女は怒りを込めて久遠を睨みつけた。
「もうやめて! 皆を解放してあげてよ!!」
 そう言って、少女は半泣きながらも久遠に狙いを絞って攻撃をしかける。
「(なんか、久遠が一番悪いみたいになっちゃってるね……)」
「(こっちの演出が成功した証拠さ。フォローしてやろう)」
 ゼロアリエとヴィンチェンツォの小声のやり取り。このタイミングで少女が個人を狙うようになってくれたのは、短期決戦を狙う彼らにはむしろ好都合だった。ケルベロス達は久遠を庇ったり支援したりしつつ、確実に攻撃を当てて少女を追い詰めていく。
 少女の火球から久遠を庇ったタフトが、器用にも悲しげな声を上げてみせた。
「どうした? この私を止めるんじゃなかったのか?」
 あまりの打つ手のなさに絶望感を漂わせるアバターの腹部に、唐突に槍が突き刺さった。
「……え」
 アバターを貫いたのはセレッソが投擲した『千疋狼』だった。彼女を串刺しにした槍の、その柄に描かれた狼が突然ケタケタと嘲笑しはじめ、不気味な笑い声の中、アバターの姿がみたび消えた。
 次の瞬間、少女はついに泣き声を上げ始めた。涙の雫がヘッドギアから次々と伝い落ちる。
「ひどい…… 面白そうなゲームだと思ったのに…… もうこんなゲーム、いらない!!」
 少女がむしり取るようにヘッドギアを外した。少女が泣きながら、怒りに任せてヘッドギアを地面に叩きつけた瞬間、存在を拒絶されたヘッドギアはボン、と小さく爆発し、見る影もなくバラバラになった。


 声をあげて泣いていた少女は、不意にここが自分の部屋でなく、学校の校庭であることに気づいてキョトンとする。当たりを見回しているうちに、ゲームのゾンビ達と似た姿をしたケルベロス達にも気づいて、ひっと短く声を上げた。
「……ったく、手間取らせやがって、どれ、大丈夫だとは思うが一応チェックしとくか」
 久遠が首を鳴らしながら聴診器を取り出し、人型に戻ったエニーケも努めて優しい声音で少女に話しかける。
「酷く怖い夢を見られたのね……。でも、もう大丈夫ですよ」
 一番怖かったはずの2人に気遣われ、状況を飲み込めずにいる少女にヴィンチェンツォもまた優しく声をかける。
「怖い思いは終わったのさ、バンビーナ」
 彼らの優しい声掛けに、少女自身も悪夢は終わったのだとようやく納得した。
「んー…楽しいのは分かるけどさ、ちゃんと周りもみような?じゃなきゃヒーローどころか、とんでもない悪役になるぞ」
「本当にここまで現実を歪められるってんなら、VRってのも、善し悪しだな」
 セレッソが少女を軽くたしなめ、久遠とともに周囲を見渡す。少女も辺りを見回して、ひどく荒れたグラウンドと自分を気遣うケルベロス達の様子に、何が起きていたのかなんとなく察する。
「あの……、迷惑をかけてしまったみたいで、ごめんなさい……」
 しょげかえってしまった少女の手を、沙慈が優しく取った。
「大丈夫だよ。えっと、貴方が悪いんじゃないし、もう、終わったから、大丈夫なんだよ」
「ゲームは楽しいけどさ、大事な人達との時間も大事にね。そっちのが楽しいもの。ね、ロア」
「ま……そーだね。……シェラの話聞いてた?トレーネ。身近な存在は大事にしてよ?」
 ゼロアリエは期待していない口調でトレーネに話しかけ、当然のように反応しないトレーネの様子に、ゼロアリエはため息を付き、シエラシセロは困ったように笑った。
「……あなたが遊んでいたそのゲームは、どこで購入なさったのですか?」
「分かんない……気づいたら枕元にあったから、お父さんが買ってくれたんだと思ってたけど……」
 エニーケの疑問への少女の答えは要領を得ず、エニーケは顎に手を当てて考え込む。
「……ねえ、つまらないゲームのことなんか忘れて、今度はお姉ちゃん達と遊んでみる?きっと楽しいよっ」
「あっ、それなら私も一緒に……! それとね、次はもっと楽しいゲームに出会えると思うの。その時は、私にもゲーム教えてほしいなって」
 シエラシセロと沙慈に励まされ、少女はようやく元気な笑顔を取り戻した。
「一件落着デスね! それではミッションコンプリートの一曲、デース! イェイ!」
 シィカが元気一杯の声とともに、愛用のギターで楽しげな旋律を奏で始める。彼女の音楽は荒れ果てたグラウンドを修復し、少女を狙った悪意と、彼らが作った不気味でおかしなゲームの残香を、きれいさっぱりと吹き飛ばしていった。

作者:ともしびともる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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