胡蝶の夢、残酷な現実

作者:刑部

「世界を守る光の天使よ、私に力を! 必殺魔法ティンクルイリュージョン!」
 祈りを捧げた少女が振り下ろした杖先を突き付けると、杖先から螺旋を描くリボンの様な光線が飛び、赤龍が悶え煙を上げて倒れる。すると、赤龍から2体の怪物が現れ襲い掛かって来た。
「貴方達が赤龍を操っていた悪者ですね? 覚悟しなさい!」
 くるっと回ってスカートの裾を翻した少女は、ポーズを決め憤怒の形相で襲い掛かって来る怪物に杖を突き付ける。
 ……それは虚構。
 煙を上げる消防車の前でくるくる踊る少女。その隣で赤龍と怪物を倒した魔法少女が決めポーズをとっており、その足元には血塗れの消防隊員が2人倒れてていた。
 少女の顔にはVRが装着されており、少女は映し出されるファンタジーゲームを楽しんでいた。そのVRがダモクレスであり、己の行動が現実にどう言った影響を及ぼしているかも知らずに……。

「山口県は美祢市の駅近くで、VRギア型のダモクレスを顔に付けた少女が現れて、人々を虐殺する事件が見えたで」
 美祢市に向って跳ぶヘリオンの中、杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)がそう切り出す。
「VRギア型ダモクレスを装備した少女は、現実をゲームやと思とるみたいで、消防車はレッドドラゴンに消防隊員は怪物やと思って攻撃して、やっつけに掛る。
 少女のそばに、VRギアが実体化した魔法少女のアバターが現れとって、実際に攻撃しよんのはこのアバターや」
 身振り手振りを加えて説明を続ける千尋。
「アバターは一定のダメージを与えると消滅しよるけど、少女のゲームを続ける意志が尽きへん限り、すぐに新しいアバターが戦闘開始時と同じ状態……つまりダメージやバッドステータスの無い状態で現れてしまいよる。
 少女のゲームを続ける意志を折る様な感じでアバターを撃破する事ができたら、VR型ダモクレスは撃破されて少女を助ける事が出来る様や」
 千尋の説明に頷くケルベロス達。
「VR機をつけとる少女を攻撃した場合、少女の身を守る為に少女はアバターと合体して戦いよるみたいや、この場合、戦闘力は強化されよるけど、一度倒せば復活させずに撃破する事ができるわ。
 せやけど、当然ながらこの場合は少女を救出する事は出来へん」
 その千尋の言葉に渋い顔をするケルベロス達。
「少女は自分らやデウスエクスと同じ様に、普通のダメージは無効となっとるみたいやから、少女に対してグラビティによる攻撃をせーへん限りは、アバターと合体する事はあらへんみたいや。
 出来たら助けたげたいけど、そう努力した結果、VRゲーム型ダモクレスを取り逃したら別の被害者を出す事になる。時には非情になるのも必要かもしれへんで」
 と念を押す千尋。

「急げば最初の被害者である消防隊員と接触する前に着けるはずや。
 連絡して出動を止めて貰える様にお願いしたんやけど、火事が起こっているのに出動しない訳にはいかないって断られた。誇り高いな消防隊員の人は……せやからこっちもヘリオンかっ飛ばして、絶対殺させへんで」
 決意を新たにする千尋とケルベロス達
「少女の出しとるアバターは、ピンクのふりふりの衣装を着て、マジカルステッキを持つ魔法少女や。よく少女向けアニメとかで見る主人公タイプの奴やな」
 あーという顔をする何人かのケルベロス。
「VRゲーム機型ダモクレスは、ゲームの世界観に相応しく無い現実を、ゲームの設定に合わせて修整して少女に認識させとるみたいや。
 自分らケルベロスについては『倒さなければならない強敵』である様に認識させよるから、優しい言葉や説得の言葉は、ダモクレスによって都合の良い敵のセリフに変換されて、少女に認識されてしまいよる」
 説得が難しい事を説明する千尋。
「せやけど、自分らが最初からゲーム世界の設定に相応しい『倒さなければならない強敵』の格好や演出をした場合、変換修正されんとその言葉や行動が、そのまま伝える事が出来る様や。
 これを上手く利用したら、少女のゲームを続ける意志を折る事ができるかもしれへん。
 『ゲームを続けようとする意志を折る』っちゅー事は、『このゲームつまんない、やーめた』と思わせる事や。どんな状況になったら『このゲームつまんない、やーめた』と思うか、考えて実行したら、上手くいきやすいかもしれへんな」
 と千尋が説明を締め括り、
「VRゲーム機の入手経路は不明やけど、こんな危険な機械が広まったら、とんでもないことになるかもしれへん。少女が罪を犯す前に必ず止めてや」
 と、ケルベロス達に発破をかけるのだった。


参加者
夜乃崎・也太(ガンズアンドフェイク・e01418)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
アイリス・ゴールド(愛と正義の小悪魔・e04481)
立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)
クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)
柚野・霞(瑠璃燕・e21406)
グラナティア・ランヴォイア(狂焔の石榴石・e33474)
ジン・エリクシア(ドワーフの医者・e33757)

■リプレイ


「逃げていく雑魚ばかりだわ。私の相手に相応しい強敵は何処に居るのかしら?」
 VR機を付けた白いワンピース姿の少女が、そう言って首を左右に振ると、彼女の傍らに立つピンクのふりふり衣装の少女も、同じ様に左右に視線を奔らせる。
「居たっ!」
 そして見るからに妖しい悪の集団を発見した少女は、くるくるっとステッキを回し、
「そこの悪の集団、この魔法少女ティンクルスターが来たからには覚悟なさい!」
 と、揃って決めポーズをとる。
「ほう、よくぞ僕……我らを見つけたな。くっ……静まれ!」
 ボロボロのパンクっぽい服を纏ったヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が、芝居がかった調子で応じつつ、苦悶の表情を浮かべ腕を押える。
「あーっ、お前は! その姿に騙されてはいけない! 天使と悪魔の混血堕天使にて悪の組織のボス。凄まじい魔力を持っていて、本気出せば軽く世界を滅ぼせる力を持っているヴィルフレッド!」
 すかさず一団から距離を取りつつ、夜乃崎・也太(ガンズアンドフェイク・e01418)が説明めいたセリフを吐く。
「魔法少女ティンクルスター。わたし達の邪魔をするなら容赦はしない」
 続いて女暗黒騎士……立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)が妖艶な笑みを浮かべると、
「おーっと、続いてその年の差17才。将来の禍根を早めに取り除こうという女の敵は女! 暗黒騎士、彩月だ!」
 声を張り上げる也太をそっと心の『いつか殺すリスト』に加えた彩月は、それでも表面上、笑顔を浮かべて少女と対峙している。
「赤竜の下へ行かせる訳にはゆかぬ」
「その日暮しも悪かねぇ。食うや食わずの生活と、決別してやる今日こそは。魔法少女『ビンギング・ガーネット』!」
 ねじれた杖を掲げる柚野・霞(瑠璃燕・e21406)とズビシィ! と人差し指を突き付けるグラナティア・ランヴォイア(狂焔の石榴石・e33474)。
「自在悪魔召喚師、霞と悪に堕ちた魔法少女……少女? と、とにかく、悪として一日一悪。地道な活動を続けるビンキング・ガーネットが今、因縁のティンクルスタァの前にぃ立ちはだかるぅぅぅぅ!」
 北斗の拳の次回予告ばりにノリノリの也太。
「ぐはははははは! 貴様を魔物の実験材料にしてやる!」
「正義にかこつけて親のいう事をきかない子にはお仕置きですよー」
 シャーマンズゴーストの『トーリ』と御揃いの白衣を纏ったジン・エリクシア(ドワーフの医者・e33757)が、腕を組んで高笑いすると、オルトロスの『オッさん』を連れたクリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)が、幽霊宜しくかわいく呪詛を吐く。
「でたー! 狂気の悪魔博士。魔物を生み出すゴットハンド・ジン! 今日の標的はティンクルスターなのか! そして勇者だからと言って人の家に土足で入って箪笥をあさる者に鉄槌を下す、こちら猛犬注意の幽霊クリスティーネだー」
 既に也太は疲労困憊だ!
「フフフ……真打は最後に登場かの。私と共に新たな王国を作りあげる、もしくはパンツを寄越すならば、筆頭将軍としての地位を約束してやるぞ!」
 とアイリス・ゴールド(愛と正義の小悪魔・e04481)が胸を張る。
「おーっと最後に登場。すまいした顔でパンツを要求。女性だからスルーできるが、俺がやると変態だー! 羨まけしからん。おすそ分けお待ちしております。とパンツハンター、アイリスだ!」
 最高潮に盛り上がり、シャウトする也太。
「で、あなたはだあれ?」
 その也太に顔を向け、小首を傾げるアバターとVR機を付けた少女。
「お嬢様お忘れですか! 貴女の執事のセバスですよ! おぉーお会いしたかった! ギャー!」
 と、也太は涙を浮かべて抱き付こうとし、知らないの一言と共に至近距離から放たれたファイヤーボールで炎に包まれた。


「私が来たからには全部解決、問答無用天罰てき面よっ!」
 火だるまになってのたうち回る也太を余所に、ポーズを決めるアバター。その隙にジンの鎖が防御陣を、グラナティアがヒールドローンを展開し、霞が魔法円を広げる。
「お父さんの言うことをちゃんと聞きましょうね~」
 間延びした口調とは裏腹に、跳躍したクリスティーネが鋭い蹴りを繰り出すと、アバターは杖を振り回してその蹴りをブロックする。しかし、注意がクリスティーネに向いた隙を突き、地を這う様に駆けて来たオッさんが、飛び上がってアバターの服を裂く。
「君の事なんてお見通しさ……ほら、そこ! くおっ……静まれ、僕……俺の左腕」
 その一撃に今度は視線が下に向く間隙を突いたのはヴィルフレッド。
 構えたuccello biancoからアバターに弾丸を放つと、急に腕を押えて苦しみ出す。その隙に距離を詰めたアイリスが、オッさんの攻撃でスリットの入ったアバターのスカートをめくる。
「悪と言ってもやっていい事と悪い事があるのよ!」
 そのアイリスの頭をハリセンではたく彩月の向こうで、ヒールを後回しにされ、やっと鎮火した也太が親指を立てている。
(「この姿は絶対写真に残せないわね……」)
 そう思いながら荒ぶる鷹のポーズをとった彩月は、そのままハリセンで他のケルベロス達に襲い掛る。
「何をしてるの! ちゃんと私と戦いなさい!」
 少女とアバターが声を上げる。彩月は、見た目とやってる事のアンバランスさと、勝手に同士討ちという、クソゲー感あふれる状況を少女に見せつけていた。そのアバターをオッさんが睨むと、その体が燃え上り炎に包まれたアバターが消滅する。
「オッさんすごーい」
 その様に、ぱちぱちと手を叩くクリスティーネだが、オッさんの顔は少しイヤそうだ。
 しかし直ぐに、少女の前に新たなアバターが現れ、
「私が来たからには全部解決、問答無用天罰てき……」
「君かそこに現れる事もお見通しさ」
 アバターが決め台詞を言い終わる前に、ヴィルフレッドのナイフが突き入れられた。

「私が来たからには全部解決、問答無用天罰てき面よっ!」
 4度目のアバターが現れ、マジカルステッキをくるくる回して決めポーズをとる。
「いくら復活しようと無駄。わたし達に勝てはしない」
 20cm程浮遊したまま、Goetiaを手にした霞が黒いローブを翻すと、オーロラの光が前衛陣を包み、先程のアバターが加えた催眠効果を撃ち消す。
「なんという禍々しい暗黒のヴェール……」
 口を一文字に結んで霞を睨むアバター。
「睨んで口先だけか、ぼろぼろになって死んでいったお前の母親と同じだね」
「うるさい、お母様の仇! お前は絶対許さない!」
 ずっと母親を侮辱する様な台詞を吐き続けた結果、この4体目でグラナティアは『ティンクルスターの母親を殺したビンギング・ガーネット』の設定が付与された様で、それを確認したグラナティアは僅かに口角を上げる。
「いいぞ、その瞳、その憎悪、お前を改造すればより最強の魔物が生ま……お前を改造すればより最強の魔物が生ま……お前を改造すればより最強の魔物が生ま……お前を改造すればより最強の魔物が生ま……生ま……生ま……」
 その視線を遮る様に立ちはだかり、痙攣しながら同じ言葉を繰り返すジン。
「ちゃんと喋りなさいよ!」
 ローディングが繰り返される様なその動きに、イライラした少女が叫ぶと、同調するアバターのステッキから雷撃が飛ぶ。ジンを庇ったヴィルフレッドが、雷撃を受けた腕を押えて倒れ、何故か也太も一緒に倒れるが、
「『小さき鍵』の名の下に、増幅の円陣よ――開け! 穿たれたし傷も、奪われし魂も全て元へと戻らん!」
 霞の声と共に巻き起こった風がローブの裾をはためかせ、魔導書のページが次々とめくれると、現れた魔法円に晒されたヴィルフレッドと也太が、何事もなかったかの様に起き上がる。
「ぐはははははは! 見たか、いくら我らを傷つけようと無駄な……いくら我らを傷……を傷……」
 高笑いしたジンがまた痙攣し、フリーズして止まる。
「もう、なんなのよ!」
 敵のリセットにフリーズというクソゲー満載の動きに苛立ち、注意力が散漫になったアバターに、クリスティーネとアイリスが容赦ない攻撃……もっとアイリスの攻撃はスカートめくりで、直後に彩月に頭をひっぱたかれた。
「っと、またおかしくなったか。やれ! 魔物ト-リよ!」
 自分に斜め45度チョップをかましたトーリを見遣ったジンが、そのトーリを嗾ける中、
「諦めなさいティンクルスター!」
 カッ! と目を見開いたグラナティアの放った御霊殲滅砲が、アバターの近くに炸裂して砂礫を巻き上げた。

「お嬢様、あぶなーい!」
 そのグラナティアの攻撃から庇う様に也太が、アバターに覆いかぶさりつつのハウリングフィスト。ここでどうせアバターだからと、胸を揉みにいかないところに也太の最後の良心があった。
(「えー、だって少女に記憶が残ったらイヤじゃないっすか」)
 後に也太はそう語る。ちなみに記憶が残らないと確約されていた場合は、色々保証しなかったかもしれないと事。
「貴様っ……」
「ああっいけない。ドジ執事の私め!」
 睨むアバターの前で、わざとらしく自分の頭をげんこつする也太。
 その爆発のどさくさに、その地面を転がって来たアイリスが、
「貴様のおぱんちゅの色は何色だ!」
「ひっ!」
 とVR機をつけている少女の足元に頭を突っ込むと、少女がスカートを押えて跳び退き、アバターがそれにつられて無防備に跳び退き、クリスティーネとジンの攻撃を受けて崩れ落ちる。
「私が来たからには全部解決、問答無用……」
 また新しく現れたアバターに、まさしく問答無用でヴィルフレッドとグラナティアが波状攻撃を仕掛ける。
「貴様がコンティニューする限り、ボクは何度でもスカートをめくる!」
 彩月に頭をはたかれながらも不屈の闘志を燃やすアイリスが、踏鳴を起こしてスカートをめくる。
「あぶなーい! 私めがお助けします!」
 と也太が少女を庇おうとしたアバターを、背後から銃撃。
「そっちじゃないでしょ! あっち!」
「わがひけんをかつもくしてみよ!」
 敵と味方が混乱し首を左右に振り声を上げる少女に連動するアバターに、アイリスが『パンツはいてるヤツ、絶対許さないビルシャナ』から鹵獲した秘拳、パンツ返し!! が炸裂し、アイリスの手に緑の縞々の入った布が!
「ちょっと、それをよく見せてくれ!」
 思わず也太が声を上げるが、次の瞬間アバターがトーリの攻撃を受けて消滅し、アイリスの手にあった布も掻き消える。
「やっていい事と悪い事があるぞ!」
「本当だ。ここから無貌の従属経由でブラックスライムであーんな事や、こーんな事という……」
 思わずトーリに也太とアイリスが詰め寄る中、
「私が来たからには全部……」
「お前の母は私だ!」
 また現れたアバターのセリフを遮り、その両肩を掴んだグラナティアが衝撃の告白。
 そして、夫がギャンブルで大儲けするも、すぐさま投資詐欺で莫大な借金を作ってしまい、挙句には妊娠中だった所を、お腹に身ごもったアバター諸共連帯保証人にされてしまったというしょーもない身の上話を滔々と語り出し、
「なんだってー、なんだってー!」
 その合間合間にジンが、壊れた機械の様に相槌を打つ。
「もうわけわかんない! こんなゲームいやー!」
 混乱と混迷の状況という名の大人たちの醜態を目の当たりにした、少女が叫ぶと、頭に付けたVR機から煙が上がってアバターが消滅し、少女の頭から落ちたVR機は地面に落ちて小さな爆発を起こして黒焦げになったのだった。

 彩月とクリスティーネを中心に、少女をケアしつつ送り届けたケルベロス達。
 彼らの戦った場所には黒焦げになったVR機と、簀巻きにされたアイリスと也太だけが残されたのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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