マジカル・ガール!

作者:洗井落雲

●ステージ1
「さぁ、みんな、助けに来たよ!」
 少女は、くるり、と回ってポーズを決める。
 彼女がいるのは、悪魔に襲われた魔法の国だ。ファンシーな外見の建造物とは不釣り合いな鉄製の檻が所々に設置されており、その中には、動物を擬人化した魔法の国の住人が捕らえられている。
「めぐみちゃん!」
「たすけて! めぐみちゃん!」
 少女――『めぐみ』は頷くと、魔法のステッキを一振り。きらめく星の光線が、檻の近くにいた悪魔をやっつける。
「やったね!」
「すごいや、めぐみちゃん!」
 動物たちの拍手喝采。驚き逃げ惑う悪魔たち。めぐみはご機嫌な表情で、ご満悦。
「気を付けて、悪魔が来るよ!」
 その声に振り替えれば、剣を持った悪魔たちがこちらに向かってくる。
「大丈夫! 全員やっつけてあげる!」
 めぐみは不敵に笑うと、再び魔法のステッキを振りかざし――。

 休日の動物園に、その少女は突如として現れた。
 その彼女はパジャマの様な格好で、頭にヘッドマウント・ディスプレイのようなモノをかぶっている。
 その隣には、何やら魔法少女じみた格好の女性が立っていた。
「さぁ、みんな、助けに来たよ!」
 少女がくるりと回ってポーズを決めると、隣に立つ女性も、少女と寸分の狂いのない同一の動きで、同じようにポーズを決めた。
 どうやら、少女の動きと女性の動きは、完全にシンクロしているらしい。
 少女が、右手を振りかざす。
 女性も、右手を、持っていたおもちゃのステッキの様なモノを、振りかざした。
 ステッキから、一条の光がほとばしる。それは、動物の檻の近くにいた観光客の男に命中。悲鳴をあげる間もなく、男は地に倒れ、そのまま動かなくなった。
 呆然としていた観光客たちだったが、これが異常事態である事を間もなく察知した。誰かが悲鳴をあげると、それを合図にしたように、逃げ出し始める。
 少女は満足げな笑みを浮かべていた。
 そして、彼女を止めるために数名の警備員が駆け付けるが、
「大丈夫! 全員やっつけてあげる!」
 少女は(女性は)、そう言って、再び右手を(ステッキを)、振りかざす――。

●マジカル・ガールの襲撃
「さて、新たな事件だ」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は集まったケルベロス達に向かって、事件の概要を説明し始めた。
 休日の動物園にて、VRギア型のダモクレスを装着した少女が現れ、突如虐殺を始める、という予知がなされた。
 少女はゲームを遊んでいるつもりのようだが、実際にはそうではない。少女のすぐ近くには、VRギアにより実体化したアバターが存在し、少女の行動に合わせて現実で暴れだす。その結果、多くの被害者が出てしまうのだ。
「実際に君達が戦うのは、このアバター体だ。こいつは少々厄介でな。ある程度のダメージを与えることで消滅させることが可能だが、少女の『ゲームを遊び続けようとする意志』がある限り、戦闘開始時の状態で再び実体化する。つまり――なんというかな。ゲームオーバーになったらコンティニューして、完全回復状態で復活する、というようなイメージだ」
 つまり、アバター体を倒そうとする場合は、『彼女がゲームをプレイし続けることを諦める』ような形で撃破しなければならない、という事だ。
 もし、このような形でアバター体を完全消滅させることができれば、少女を無傷のまま解放することができるだろう。
「そして、仮に少女やVRゲーム型ダモクレス本体をグラビティで一度でも攻撃してしまった場合、アバターは少女と合体してしまう」
 こうなった場合、敵の戦闘能力は向上するが、一度倒すことができれば復活する事はないという。
「当然だな。これはゲームプレイヤーもろともに敵を撃破する、ということを意味するのだから」
 そうである以上、この手段をとれば、少女は帰らぬ人となるだろう。
「今回の作戦目標は、VRゲーム型ダモクレスの撃破だ。どちらの手段をとってもらっても構わない……が、被害が少ない方が、私としては好みだな」
 既に動物園側には話を通しており、当日は臨時休園、動物たちの避難も済ませておくという。建物自体はヒールグラビティで直せるので、周辺の被害や人払いなどは気にしないで構わない。
「なお、VRゲーム機型ダモクレスは、現実をゲームの設定に合わせて、少女に認識させているようだ」
 例えば、ケルベロス達が少女の前に立ちはだかった場合、今回の場合は『ゲームのボス悪魔』として彼女に認識されてしまう。
 また、優しい言葉や説得の言葉などは、ダモクレスによって『敵が発した挑発などの言葉』に変換されてしまう。
 しかし、最初からケルベロス達が『ゲームのボス悪魔としてふさわしい格好や言動』をしていたならば、それはそのまま、少女へと伝えることができるという。
「少女……めぐみ、と言う名前の子なのだが。本来は心優しく、真面目で、臆病な所のある少女だそうだ。彼女の性格を踏まえ、『彼女がゲームをプレイし続けようとする意志を折る』ような言動ができれば、手早く事件を解決することができるだろう。彼女に『このゲームをやりたくない』と思わせれば我々の勝ちだ」
 アーサーは、ふむん、と唸ると、
「質問がなければ以上となる。奇妙な事件に思えるが、実際に少女一人の命がかかっている。彼女を救えるのは君達だけだ。吉報を待っているよ」


参加者
桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)
エフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)
志穂崎・藍(ウェアライダーの巫術士・e11953)
プロデュー・マス(サーシス・e13730)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)
伊織・遥(血の轍を振り返らず・e29729)

■リプレイ

●ステージ1、いっかいめ・表
「さぁ、みんな、助けに……あれ?」
 少女――めぐみは、くるり、と回ってポーズを決め……ようとして、小首をかしげた。
 めぐみの瞳に映るのは、ファンシーな外見の建造物と、不釣り合いな鋼鉄の檻が配置された『魔法の国』であったのだが、ゲームスタート時に説明されていた、囚われた魔法の国の住人も居なければ、悪魔の姿も見当たらない。
「あれ、おかしいなぁ」
 再び首をかしげるめぐみ。と、そこへ――。
「一足遅かったようですね。この魔法の国の住人達は、既に私達の手の中」
 禍々しいオーラと軍服姿。そして不釣り合いなほどの笑顔で現れたのは、悪魔たちの軍の幹部、伊織・遥(血の轍を振り返らず・e29729)。
「……わかりますか? さらってしまったぞ、という意味です」
「それくらいわかるよぅ!」
 注釈を入れた遥に、頬を膨らませ反論するめぐみ。まぁ、本当にわかっていたかどうかは定かではないが。
「ウフッ、フ、フフフフ……お、愚かなり、めぐみよ。た、たった、一人で、私達にか、かなうとでも?」
 続いて現れた幹部は、ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)だ。
「そうよ、私達ケル……じゃないや……えーと、悪魔軍8人の幹部に勝てると思わない事ね!」
 全体的に黒を基調とした服装に仮面、例えるなら悪の魔法少女と言った風貌の幹部は、卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)だ。
 少々セリフが棒読み、かつ、たどたどしいが、めぐみはあまり気にならなかったようである。
「8人!? 8人もいるの!?」
 びっくりした様子で叫ぶめぐみ。それはそうだろう、ゲームが始まってすぐ、いきなり敵のボスが8人である。
 ゲームなれした人間なら「あ、負けイベントか、顔見せかな」とか思うかもしれないが、そこは純粋な少女であるめぐみ、ちょっと戦々恐々としている。
「クックックッ……弱っちそうだなぁ……、簡単に壊れてくれるなよぉ?」
 何やら狂気を孕んだ瞳でめぐみを睨みつける、幹部、プロデュー・マス(サーシス・e13730)。
「ハハハ、プロデュー! オレの楽しみも残して置いてくれよ!」
 桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)がプロデューを制しつつ現れる。さながら蜘蛛の糸のようなモノをばら撒きつつ、動きは妙に生物的で、めぐみに嫌悪感を抱かせた。
「魔法少女よ、諦めるがよいニャ」
 猫耳の幹部、志穂崎・藍(ウェアライダーの巫術士・e11953)が挑発する様に言う。
「むむーっ、私、諦めないもん! あなた達皆をやっつければいいんでしょ!?」
 めぐみが反論した。右手のステッキをひらりと振るい、幹部たちに突きつける。
「ははは! オマエなんかに負けるおいら達じゃぁないぜ!」
 幹部、エフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)が嘲笑する。
「おほほ、なら、めぐみちゃん。こういうの、なんだったかしら……そう――『くそげー』、始めましょう?」
 ボンテージ風の衣装、まさに悪の女幹部然としたユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)が戦いの始まりを告げる。
「いくよ! ぜったい、ぜったい負けないんだから!」
 めぐみがステッキをかざし、戦闘態勢に入った。
 かくして、魔法の国を救うため、魔法少女と悪魔8幹部との戦いの火ぶたが切って落とされる――!

●ステージ1、いっかいめ・裏
 というのもVRゲーム視点での話。
 現実には、些か恥ずかしい格好をしたケルベロス達が、避難の済んだ、閑散とした動物園の真ん中で、VRゲーム型ダモクレスの生み出したアバターと対峙しているわけである。
「話に乗ってる、って事は、仮装と演技は効果を発揮してる、という事かしらね」
 顔を赤らめつつ――まぁ、そうだ、過激度は抑えているとはいえ、剣をモチーフとしたボンテージスーツなどを着ているわけで、恥ずかしさは相当なのだろう――ユリアが言う。
 今回、ケルベロス達の言動は、VRゲーム型ダモクレスによって『ゲーム内の敵にふさわしい言動』へと変換されてしまうわけである。
 そのため、単純な説得が不可能である。ゲームを止めさせるには、『ゲームをやる気をそぐ』と言う行動が必要になってくる。その為、各員、思い思いの『悪の幹部の仮装と演技』をし、『めぐみを怖がらせたり嫌がらせたりしてゲームのやる気を削ぐ』と言う作戦をとらざるを得なかったのだ。
「し、かしあれ、ですよね。あの、言動、あの、設定……。公衆の、面前でやっちゃってたと知ったら……すごい、黒歴史確定、です」
 ウフフ、と笑い声をあげつつ、ウィルマ。
 めぐみはゲームで遊んでいるつもりでいるわけだが、実際にはパジャマ姿で外に飛び出し、人前で魔法少女の真似事をしているわけである。皆もVRゲームで遊ぶ時は気をつけよう。
「うん……いや、私達も人の事言えないかもしれないけど……」
 ウィルマの言葉に、サナが答える。まぁ、確かに、自分達もめぐみに付き合って仮装に悪の幹部ロールだ。恥ずかしさの度合いならどっこいどっこいか。
「ウフフ……み、皆さんの、雄姿……しっかり、録、録画、しときます……!」
「それは止めて!」
 顔を真っ赤にして止めるユリア。
 ウィルマは、残念、等とデジカメをひっこめる。
「そんな事より……来ますよ。必ず、彼女を助けましょう」
 遥は変わらずの笑顔で言う。ただ、その眼には明らかな、ダモクレスに対する敵意が宿っていた。
 かつて、作戦にて子供を助ける事の出来なかった遥は、そのことが深く心に根付いている。
 同じように子供を利用するという状況への怒り、そして、今回は子供を助けることができるという希望。同時に、演技とはいえ子供を怖がらせてしまうという悔恨。それが、遥の内心に渦巻き、複雑な心情を生み出していた。
 かくして、ケルベロス達の視点でも、戦闘は始まった。
 先手を取ったのはエフイーである。
「女の子のゲームを楽しむ心を利用するなんて許せないね! ……っと、ええと、悪い演技悪い演技……」
 呟きながら、ラセンの力を込めた拳で『アバター』を貫く。
「きゃっ」
 と、めぐみが悲鳴をあげる。もちろん、めぐみ自身には痛みも衝撃もない。ただ、驚いただけである。
「ハハハ! その程度か魔法少女! そんなんじゃぁ、おいらたちを倒すことなんて不可能だぞ!」
 エフイーは『不可能』という言葉を強調した。そうして、めぐみのやる気をそぐつもりである。
 続いたのは、プロデューだ。
「クククッ! 次は私の番だァ! お前のトラウマは何だろうな! 教えてくれよ!」
 悪役の演技を上手くできるか自信がない、とぼやいていたプロデューだが、割とノリノリである。
 惨殺ナイフから、めぐみにしか見えない『トラウマ』が現れる。
「お、お父さん!? どうして!? ふえっ、ご、ごめんなさい~っ!」
 どうやら、父にこっぴどく叱られたのがトラウマであるようだ。
 続いてウィルマが紙兵を散布。もちろん、めぐみを怖がらせるような演出を忘れない。
「さて、オレの攻撃、うけてみろや!」
 ナギが、電光石火の一撃を見舞う。『アバター』に直撃。その動きの自由を奪う。
「な、なにこれ……『ぱららいず』?」
 めぐみが困惑して呟く。ナギの一撃によるアバターの身体能力の低下は、どうやら、ゲーム上では『パラライズ』と表現されたらしい。
「くくくっ、これからすこーしずつ、めぐみの自由を奪っていくで! いつまで耐えられるかなぁ?」
 いじわるそうに答えるナギ。
 そう、これもケルベロス達の作戦である。要は、行動阻害効果のあるグラビティを重ね、めぐみに文字通り手も足も出せなくさせてしまい、ゲームをつまらない、と思わせてしまおうというものだ。
「なにそれ、ずるい!」
 憤慨するめぐみ。
「あら、これは死合よ? 気持ちよく遊べると、思わないでね」
 先ほどまでのどこか柔和な雰囲気は何処へ行ったのか、鋭い刃物を思わせる声で、ユリア。ナギと同様、急所を狙った電光石火の一撃が、再びめぐみに『パラライズ』を付与する。
「……ごめんね、ちょっとだけ我慢して!」
 呟き、サナの飛び蹴りがさく裂。
「こんどは『あしどめ』!? うう、なんなのぉ!?」
 サナの一撃は『足止め』として表示されたようだ。着実に行動阻害効果は蓄積されている。
「もう、怒ったんだから! いくよ、マジカル☆コメット!」
 こんどはめぐみのターン。ステッキを振るうと、可愛らしくデフォルメされた小さな隕石が、ケルベロス達に向けて降り注ぐ。
 隕石群は、エフイー、プロデュー、ウィルマ、ユリアの四名を襲う。着弾。そして土煙。
 得意げに胸を張るめぐみだったが、
 ばしゃっ。
 と。
 彼女の服を、真っ赤な液体が濡らした。
「えっ?」
 めぐみが、呟いた。触れる。どこか生暖かく、真っ赤なそれは――。
「血……?」
「ふふふ……やるじゃないか……」
 体から真っ赤な液体を吹き出しながら、エフイーが立ち上がる。
「アハハハハ! 痛いなぁ! イイヨ! いいサ! 苦痛ヲ! モット、モット! クレヨオォッ!」
 身体を真っ赤に染めたプロデューが笑う。
「む、無駄無駄、無駄無駄。ぜ、んぜん効きま、せんねえ?」
 ウィルマの外見に傷はなかったが、体中に赤い液体がべっとりと。
「言ったでしょ? これは死合、って」
 黒のボンテージを赤に染め、ユリアが凄絶な笑みを浮かべた。
「い――やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 たまらず叫ぶめぐみ。そこにはメルヘンさなど欠片もない、最高にスプラッタな光景があった。
 とは言え、ネタ晴らしをしてしまえば――すべて、血糊やら、トマトジュースである。
 これも作戦の一つ。本来は気弱な少女であるめぐみを『ビックリさせて』ゲームを止めさせようとする作戦である。
 あるのだが。
「……少し、やりすぎただろうか……」
 内心焦りつつ、プロデューが呟く。
「う、うん……正直みてるこっちも結構怖いかも」
 答えるサナ。藍も、
「で、でも、これくらいやらないと、ゲームを続けちゃうかも知れないし……うう、このもやもやは後で幼馴染にぶつけよう……」
 と答える。なぜか標的にされた幼馴染が些か可哀想だ。藍はコホン、と咳払い一つ、気を取り直して、
「臨める兵、闘うもの我が符の加護を受け前にあり」
 呪文を唱え、紙兵を散布。味方の援護を行いつつ、
「ふふふ、魔法少女よ。この戦闘イベントをクリアするための課金がまだまだ足りないようだニャ」
「……かきん?」
 小首をかしげるめぐみ。分からなかったらしい。
「うむ、つまり、お金を払うんだニャ!」
「えーっ、お金が必要なのぉ!?」
 心底びっくりしたようなめぐみ。もちろん、やる気を削ぐための口から出まかせである。
「にゃっはっは、課金をするのニャ!」
「うう、お金無いよぉ……!」
「ふむ。その程度の実力と覚悟で、本当に我々からこの国を救う気でいたんですか?」
 藍の言葉に乗っかりつつ、遥が告げる。
「あなたではこの国を救うことなど不可能……諦めてはいかがでしょう?」
「うう……まだ、まだあきらめないもん……!」
 戦いを続ける決意の言葉。
 だが、めぐみの口調は徐々に弱々しくなっていった。

●ステージ1、なんかいめ?
 さてさて、ケルベロス達の『バッドステータスでがんじがらめになっちゃうクソゲー! ついでに描写がホラーだぞ作戦』と言った感じだろうか、兎に角その作戦は見事に功を奏し、めぐみのやる気を容赦なく削っていった。
 元より気弱な所のある彼女である。動けなくされ、一方的に攻撃を受け、偶に反撃してみれば鮮血が飛び散るホラーな描写。
 最初のメルヘンな説明は何だったのか、これでは流石にプレイを続ける気にはなれない。
 かくして、戦闘時間としては長く感じるかもしれないが、ゲームのプレイ時間としては短い、片手で数えられる程度のコンティニュー数で、めぐみはネを上げたのである。
「うう……何なのこのゲーム! もうやだよぉ!」
 声をあげて泣き出す……というわけではないが、その一歩手前くらいの状態である。
「それじゃぁ、そろそろゲームオーバーね!」
 サナが叫び、星火燎原を構える。
「お日様、お月様、お星様……サナに力を貸して下さいっ!」
 それは、太陽と月と、星の力を宿した刃。すべてを占う星の力を以て得た未来予測にて、対象を断ち切る必中の剣。
「……日月星辰の太刀っ!」
 寸分たがわず、その刃は『アバター』を両断した。
「もうやだ、もうやめる!」
 同時に、めぐみの悲鳴。
 おそらく、ゲームオーバーを選択したのだろう。バジッ、と電気がはじける音とともに、煙を噴き上げたVRゲーム機型ダモクレスが、めぐみの頭から外れて落ちた。
「…………えっ?」
 涙目で、周囲を見回すめぐみ。
 当然のように、状況がよくわかっていないようだった。だが、ケルベロス達を確認するや、
「う、うぇぇぇぇ、まだ終わってないのぉ!?」
 と、今にも逃げ出しそうになる。
「ま、待って! 話を聞いてくれ!」
 エフイーが慌てて声を上げた。

 逃げ腰の彼女に、ケルベロス達は事情を説明した。
 自分がVRゲーム機型ダモクレスに操られていた事、それをケルベロス達が止めてくれた事を知ると、めぐみは、
「ご、ごめいわくをおかけして、ごめんなさい……」
 と、半泣きで謝るものだから、
「気にしないで、大丈夫だよ? 悪いのは、ダモクレスなんだから」
 藍が慌ててフォローする。
「そうですよ。むしろ、私達の方こそ、ひどい事を言ってしまって。ごめんなさい」
 遥が頭を下げた。めぐみは大慌てで頭をふる。
「ううん、悪いのは私だから……」
 そんなめぐみの頭を優しく撫でつつ、
「今日の冒険は、全部嘘でしたけど……誰かを助けたいという気持ちは、捨てなくてもいいんですよ。大切にしてください」
 そういう遥へ、めぐみは大きく頷いた。
 一方ナギは、
「これ、怖がらせてもうたお詫びや! ゲームをするときはマナーを守るんやで!」
 と、おすすめのゲームソフトをめぐみにプレゼントする。
「ありがとう! ……あ、でも」
 めぐみは、一瞬、躊躇してから、
「……このゲーム、さっきみたいに、私が何もできなくなって、やられちゃったりしない?」
 と、真剣な目で尋ねるので。
「ぷっ……あは、あはは! あー、ごめんごめん、それは大丈夫な奴やから!」
 と、思わず笑ってしまうナギ。釣られてめぐみも笑ってしまう。
 一歩間違えば大惨事となっていたかもしれない事件ではあったが、ケルベロス達の活躍により、無事笑顔で幕を閉じることができたのだった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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