●ボクはゾンビハンター
崩れ落ちそうな廃墟で、玄関口の壁に張り付いて圭太は内部をうかがった。
手にしているのは、美麗な装飾が施された長剣。
「足音が聞こえる……1体だけ、かな?」
廃墟をうろつきまわっているという、生きた屍が近づいてきているのを察して、少年の心臓の音が高鳴った。
「大丈夫、ボクは歴戦の剣士なんだ。ゾンビなんかに負けやしない」
剣を握る手に力を入れる。
1、2……3で柱の陰から飛び出し、同時に手を足音の方へと向ける。
髪が抜け落ち、紫に変色した死体が圭太に近づいてきた。
本来の少年ならば怯えて逃げ惑っていただろう。だが、今の彼は剣一本で世の中を渡り歩くタフガイだ。ろくに自己主張もできない臆病者の少年ではない。
「さあ、ぶった切ってやる!」
剣を振り下ろすと、耳障りな叫びを上げてゾンビが倒れていく。
安心している暇はない。
今の叫びを聞きつけて、たくさんの足音が近づいてくる。
「まずいな……いや、やってやる! あのくらいならまとめて倒せる!」
圭太は剣を体の右側に構え、強く足に力を入れた。
――大型ショッピングモールに現れた、ゲーム機らしいヘッドセットを身につけた少年のかたわらにはRPGに出てくるようなひげ面の戦士の映像が立っていた。
映像の戦士は、少年の動きに合わせて1人を惨殺。
さらに、駆けつけた店員や他の客に向けて力強く剣を薙ぎ払うと、衝撃波が彼らをまとめて両断した。
●ヘリオライダーの依頼
集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は北海道の苫小牧市で惨劇が起こることを告げた。
「2階建てのショッピングモールにVRギア型のダモクレスを装着した少年が現れて、お客さんたちを虐殺する事件を予知しました」
ダモクレスを装着した少年は現実をゲームのように感じているようで、周囲にいる一般人たちをザコモンスターのように殺していくようだ。
「彼のすぐ近くには戦士のアバターが出現しています。実際に攻撃を行うのはこのアバターになります」
アバターは一定のダメージを与えると消滅するようだ。ただし、消滅してもまたすぐに戦闘開始時と同じ状態で出現する。ゲームをコンティニューしたかのように。
「完全に消滅させるためには、少年にゲームを続ける意志を失わせる必要があります」
少年がもうゲームを続けたくないと思うような形で撃破することができれば、VR型ダモクレスも破壊され少年を救出することができる。
「なお、アバターではなく少年自身やVRを攻撃した場合、少年は身を護るためにアバターと合体して戦おうとします」
この場合、戦闘能力は上がるものの一度撃破すればもう復活することはない。
ただし、少年もアバターと共に死亡し、救出することはできない。
ちなみに攻撃とはグラビティを用いたもののことだ。ケルベロスやデウスエクス同様普通の攻撃ではダメージを与えることはできず、彼も攻撃とは認識しない。
「いずれにしてもVR型ダモクレスは破壊できます。どちらを選ぶかはお任せします」
芹架は言葉を切った。
少年はおそらく小学校高学年。アバターは彼が40前後まで成長した姿をしている。
「武器として長剣を持っています。全力で振り下ろすことで、近距離にプレッシャーを与えつつ攻撃してきます」
また、薙ぎ払うことで数人をまとめて切り裂くこともできる。強烈な衝撃を受けると武器を使う手が鈍ってしまうだろう。
他に急所を狙って切り裂くことで動きを麻痺させることも可能らしい。
戦場はショッピングモールの入り口だ。わずかな時間ながら少年よりも先に到着することが可能なので、その間に客を避難させることは可能だろう。
「ダモクレスはゲーム世界にふさわしくない現実を、ゲームに合わせて修復して認識させているようです」
ケルベロスたちは、少年の目には倒さなければならない強敵の集団に見えるだろう。
優しい言葉や説得の言葉も、ダモクレスが変換してしまうため症年には届かない。
「ただ、ゲーム世界にふさわしい言葉……つまり、ゲームで立ちはだかる『強敵』らしい格好や演出を行うことで、言葉や行動を伝えることができます」
これを利用すれば少年がゲームを続ける意思を折ることもできるかもしれない。
ゲームがつまらない、もうやりたくないと思わせるためにはどうすればいいか……少年の気持ちを想像した上で考えて欲しいと芹架は告げた。
「VRギアをどうやって入手したのかはわかりませんが、もしもこの機械が広がればなにが起こるかわかりません。今のうちに確実に止めておくべきでしょう」
たとえ犠牲になる者がいたとしても、と芹架は静かに告げた。
参加者 | |
---|---|
暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443) |
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695) |
無拍・氷雨(レプリカントの自宅警備員・e01038) |
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623) |
空木・樒(病葉落とし・e19729) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
明星・紫姫(夢色赤ずきん・e24614) |
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532) |
●惨劇の現場へと
ヘリオンから降りたケルベロスたちは、現場であるショッピングモールへ走っていた。
「新しいタイプのダモクレスだね。 次の依頼に繋げるためにも、男の子のためにもしっかり助けたいね」
女の子らしく見えるようにかぶっている赤いずきんが外れてしまわぬよう抑えながら、明星・紫姫(夢色赤ずきん・e24614)が言う。
「ダモクレスもいろんなバリエーションが出てくるものだねぇ……。でも、操るとかそういうのって許せないよね」
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)が口を尖らせる。
「そう……操られて強制的に時間外労働とか最悪よね」
無拍・氷雨(レプリカントの自宅警備員・e01038)が呟いた。
たどり着いた建物では、まだ騒ぎは起こっていないようだった。
「私達はケルベロスです! すぐにここから離れてください!」
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)が行き交う人々に声をかける。
焦り気味ではあるが穏やかな声。
呼びかけられた人々は、一瞬戸惑ってから彼の言葉に反応した。
「時間がありません。急いでください!」
「こっちから来るはずだから、みんなはそっちに!」
奏過だけではなくシルや紫姫、他のケルベロスたちも人々に呼びかける。
とりあえず現場のすぐそばから人が見えなくなったところで、空木・樒(病葉落とし・e19729)とシルは殺気を放って人々が近づけないようにする。
入り口付近にある柱の影に、少年が忍び寄ってきたのはその時だった。
「……舞台は整ったよ。さぁ、始めましょうかっ!!」
シルの呼びかけに、ヘッドギアを身につけた少年と、そのかたわらに立つアバターが剣を構えて出てきた。
「VRですか、殺しの心理的障害を取り除くには、画期的で有効かもしれません。……まあ、一般人を巻き込むのは看過できませんけれど」
樒は少年が身に着けているダモクレスに視線を向けた。
「ゲームキャラの演技かぁ……うまくできるか自信ないけど、助けるためだし頑張るよ!」
暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)は呟く。
「私もちょっと……でも、逃げる時に、噂してる人がいましたよ。有名な子役だったんですよね?」
魔女のような黒いドレスに目を落としながら、神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)が輝凛に言った。
「ボクも、ゲームってやらないけどやる気を失くさせるよう頑張る」
紫姫も言った。
「お前らが街をこんな風に変えた連中だな」
少年はケルベロスたちの言葉など耳に入っていない様子だった。
言葉と共にアバターがケルベロスたちをにらみつける。
その目を緑色に包まれたなにかの目が見すえていた。
「……テキ……ヤットキタ……!」
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)が46mm砲をアバターへと向け、目を光らせた。
●幻想の戦士
隙のない少年の構えは、ダモクレスによる影響なのか。
鈴は仲間たちの後方から少年に声をかけた。
「わたしを倒せば、呪いは解け、人々は元の姿に戻る事ができるのですよ。ですが……逃げ出せば、街の人々は未来永劫ゾンビのまま!」
「悪党の考えそうなことだな。心配しなくても、すぐに倒してやるさ」
剣を振り上げた少年は、前衛に立つ4人をまとめて薙ぎ払った。
「操られているだけの 罪もない人々を斬り殺して楽しむだなんて 酷い勇者様ですね。くすくす……」
「お前らと一緒にするな。ボクはそんな悪趣味じゃないさ」
「えー? 何が違うんですか? 正体を知らなければ楽しく斬り殺してたでしょう? こんな風にっ!」
小刀な刃が鈴のグラビティを動力として回転し始める。
一気に踏み込んで繰り出したナイフが、剣をすり抜けてズタズタに敵を引き裂く。
「死体を壊すのが楽しいなんて、とんだ変態だな、お前らは」
少年の言葉は、単にゲームのキャラクターになったつもりで言ったものなのだろう。
だが、鈴は確かに、悪役を演じる自分の姿は父や母を殺した同じようだと思えた。
(「……正直、自己嫌悪しちゃうけど……必要な事だから……ごめんね……」)
心の中で父母に謝り、鈴はさらに戦いを続ける。
「レディアント・モード……!」
小さな声で言った輝凛の髪が金色へと変わる。
「『あれ』がないなら怖くないね。見せてあげるよ……僕が得た力を」
金色の閃光がアバターを鋭く引き裂いたかと思うと、シルが翼の意匠の施された靴で蹴り飛ばす。
「こんな攻撃すら防げないのに、それでわたし達に立ち向かおうなんて甘いんじゃないの」
悪役らしく見えるように表情を作って、シルは少年に告げた。
マークは無言でレーザーの波長を調整していた。
ヤドリギギリースーツを身につけて、モジャモジャとした緑の塊と化した彼は床に伏せて狙いをつけている。
「光学兵器波長変更完了」
威力はそれほどではないが、調整したレーザーは精神に影響する。
命中した光は、少年の攻撃衝動を増幅させてマークを狙わせやすくする。だが、遠距離攻撃手段を持たないアバターが彼に攻撃するのは難しい。
マークはこれで少年がゲームをつまらないと感じてくれることを期待していた。
「ヒャァァァ! 凍れ! 折れろ! 千切れ飛べぇぇぇ!!」
一般人に向けていた穏やかな表情はどこへやら。
奏過が叫びながらライフルから重力弾を放つ。
「夜闇に沈む小さき星すら、ただの獲物と成り下がるのです」
樒がこれみよがしに身につけた薬品類の中から粉薬を取り出し、前衛の仲間たちへと振りまいて回復する。
紫姫はギターの弦を弾いた。
「ボクは夢い……ぁ、違った。鈍色の悪い魔女! ふふん! ボクが強くつよーく強化したゾンビたちを倒せるかな♪」
奏でるのは、立ち止まらずに戦い続ける者たちの歌。
敵の攻撃に耐える力を与えてくれる。守りを固めることで戦意をくじくのも目的だが、アバターの攻撃もけして弱くはない。
(「できるだけ情報も調べておかないと。これからも同じような敵が出てくるかもしれないもんね」)
紫姫と同じように敵の攻撃に備える姿勢を取りながら、氷雨もケルベロスチェインで守護の結界を展開して前衛の守りを固めていた。
剣が届く距離にいる前衛の4人は相応に攻撃を受けていた。
ただ、敵はマークを狙おうとして攻撃の機会を逸することも多く、まだ体力は十分に残っている。
やがて、輝凛に爆発させられて、少年のそばに立つアバターは姿を消す。
すぐにまたアバターは彼の横に出現した。まだ心は折れていないのだ。
剣がシルの急所を狙って貫いた。
シルはこれまでに喰らった魂を自らに宿し、全身に呪紋を出現させる。
「まだ続けるつもり? なら、何度でも倒してあげる。徹底的に、戦ってあげるよ。そう、いやだって言うまで、徹底的にねっ!!」
「パワーアップイベントが起こるってことは、ダメージを与えてるってことだろ」
再びアバターが剣を振り上げたところに、マークの赤いレーザーが命中する。
「……うっとうしいなあ、あいつ!」
緑色のモジャモジャのほうへ、少年は視線を向けた。
ケルベロスたちの攻撃を受けながらも無理やりマークへ近づこうとするが、氷雨や紫姫がそれを許さない。
「火よ、水よ、風よ、大地よ……。混じりて力となり、目の前の障害を撃ち砕けっ!!」
シルの前に4大精霊の属性が収束していく。
魔力の砲撃に貫かれて、アバターが吹き飛んだ。
「その程度の実力でわたし達に挑むなんて、134万3468年早いよっ!!」
言葉と共に発動した追加術式が倒れた敵に追い討ちをかける。さらに放った砲撃が、アバターを宙に浮かせた。
空中で回転し、着地するアバターに仲間たちも追撃を加えていった。
●折れた心
さらに一度アバターが消滅したときも、まだ少年は戦いを諦めなかった。
大きく剣を振り上げる。
氷雨は輝凛を狙って振り下ろされた剣から、彼をかばう。
アバターが繰り出す攻撃の威力は低くはないが、守りを固めていればまだ耐えられる。
「頑張ったってムダですよぉ。だって、私がすぐ治しちゃいますからね。ほら、リューちゃんも」
ボクスドラゴンのリュガとともに、鈴が氷雨を回復する。
「時間をかければかけるほど強くなるよ。もっともっと硬くなる」
静かに語る氷雨の後方から赤い光が走った。
芋虫のように伏せたまま、マークが放つレーザーが確実にアバターを捕らえて、攻撃衝動を増幅させる。
確実に彼を狙うわけではないので、封殺はできない……が、少年がマークに攻撃しようとして攻撃機会を逸しているのは間違いない。
時折マークが意味もなく立ち上がるのは、少年の攻撃を誘うための動きか。
(「後衛からの仕掛けでうまくいかなかったら私の怒りを注入してあげるつもりだったけど、必要なさそうね」)
声には出さずに考えると、氷雨は持たざる者のオーラで自分自身を回復する。
鈴と樒、2人と1匹の回復役だけでなく、防衛役である氷雨と紫姫も回復を重視して行動しており、ケルベロスにはまだ余裕があった。
回復できないダメージは徐々に蓄積していたが、それでも余裕のある戦いをして見せなくてはならないのだ。
「無駄! 無力! 無意味ぃぃ! オマエにはまだ早いぃぃぃ!! だからさぁ……ぶちまけなよぉぉ!」
奏過のエネルギー光弾がアバターを捉える。
アバターの剣が前衛を薙ぎ払うが、グラビティを中和されて威力を減じた攻撃では誰も倒れない。
樒は大きく手を動かして、ベルトにつけた薬を取った。
普段は隠している武器や薬を、今日はこれみよがしに身に着けているのは、ゲームらしさを意識してのことだ。
「夜闇に沈む小さき星すら、ただの獲物と成り下がるのです」
粉薬を仲間たちへ散布する。
かつて中央アジアに興った遊牧民の国で用いられたものを改良したこの薬は、癒すとともに目が利くようになる。
「ふふ、わたくしが居る限り、永遠にゾンビは復活し続けますよ。ゾンビたちに押し潰されて、絶望の中で息絶えなさい」
悪役らしく笑う。
仲間たちには演技が必要かもしれないが、職業暗殺者である樒にとっては違う。もっとも、普段は隠密と援護に徹するのが彼女のスタイルではあるのだが……。
(「……ベタな悪役というのも、なかなか楽しいかもしれませんね」)
心の中で呟いて、樒は次なるアバターの動きに備えた。
「ああ、もう、こんなに攻撃してるのになんで誰も倒れないんだよっ!」
「どうして勝てないかって? 君は『あれ』を見過ごしたからさ!」
輝凛は愚痴を言う少年を嘲ってみせる。
「なんだよ、『あれ』って! わけわかんないこと言うなよ!」
少年が初めて反応を示したのは、彼が追いつめられてきている証だろう。
「君が勝つチャンスのことさ。なんだ、わからないのかい? まあ、わかったところで……もう手遅れだけどねえ!」
鋭い蹴りがアバターを蹴り裂く。
仲間たちの攻撃も、またアバターの耐久力を削り取っていく。
「くそっ!」
少年がケルベロスたちに背を向けた。
「逃げるんですかあ? みんなを見捨てちゃうんですねえ」
鈴が声をかけた。
「やーい臆病者ー」
輝凛も調子を合わせて少年を挑発する。
「ボクは臆病なんかじゃない! 戻ってくるさ。悪党から逃げるわけないだろ。次に会う時がお前らの命日だからな!」
だが、挑発には乗らなかった。
「バカだなあ。逃がすわけがないだろ? シルさん、そっちから回り込んで! 氷雨さんと紫姫さんも!」
実際のところ、逃げられてはまずい。
焦りを声に出さぬよう気を付けて、輝凛は仲間に呼びかけ逃走経路をふさごうとする。
「ほら、もっと遊んでいきなよ! 楽しいだろ? 戦うのはさあ!」
両拳を組んで突き出し、空間ごとアバターを引き裂く。
「しっかり作りこんでるね。こんな状況でも演技を忘れないんだ」
タイミングを合わせ、シルも属性エネルギーの砲撃を叩き込む。
「そうそう、もっとボクのゾンビたちと遊んでいきなよー♪」
動きが止まった隙に紫姫が退路をふさいでくれた。
「なんで逃げられないんだよ! キーアイテムを取りに戻らなきゃいけないんだろ!」
奏過はわめく少年のかたわらに立つアバターにライフルを向けた。
「何度やってもねぇ……駄目なんだよぉぉぉ!!」
凍結光線が4度アバターを消し飛ばす。
(「お願いです、もう出てこないでください……。恐怖心が高まり……無力感を味わう事でこのゲームをやめて欲しい……。今はまだ逃げて……いいんですから……」)
狂ったような口調の裏で、奏過は必死に願う。
「こんな怖いの嫌だ! もういいよ!」
泣き出しそうな声で叫ぶ。
そして、アバターはもう現れず、ダモクレスは小さな爆発と共に落下した。
●ゲームオーバー
「あれ……ここ、どこ……?」
不思議そうに周囲を見回した少年へと、シルが駆け寄った。
「怖かったよね。でも、もう大丈夫だから……」
「え……うん……ありがとう、お姉さん……」
戸惑う彼の顔を、鈴も覗き込んだ。
「ごめんね、追いつめちゃって。……あのね、わたしも昔は普通の子で臆病だったんだよ。ケルベロスの力もなくて……。なんでお父さんみたいになれないのって泣いてたの」
「……ケルベロス?」
優しく語りかけられて、ようやく少年は状況を飲み込み始めたようだった。
立ち上がったマークがギリースーツを体からはぎとる。
「どうやら終わったようだな」
緑色のモジャモジャの下から人型をした機械の姿が現れた。
「そうですね。モールを直せば依頼完了です」
樒は少年に近づこうとはしなかった。彼女は別に少年を救いたかったわけではない。ただ、彼を殺すことでダモクレスを倒すのでは完璧な仕事にならないと考えただけだ。
「僕も手伝うよ。ずいぶん怖がらせちゃったから、離れてたほうがいいかもだし」
少年の無事を確かめていた輝凛も手伝いを申し出た。
「俺はあの子に聞きたいことがある。モールを直す手段もないからな」
マークは少年に近づいて行った。
「外でゲームをする時は、ちゃんと周りを確認しないと……ね」
「うん……でも、ボク、ずっと家にいたつもりだったんだ」
奏過に言われて少年が首を振る。
「このゲーム機はどこで手に入れたの?」
問いかけた氷雨は、壊れたダモクレスの部品を手に取ってながめていた。
それはマークや皆が聞きたいと考えていたことだ。
「朝起きたら、机の上に置いてあったんだ。ちょっと早いけど、クリスマスプレゼントなのかなって思って……」
「なるほどね! 体のほうはなんともない?」
「うん、大丈夫……だと思う」
紫姫に言われて、少年は自分の体を見下ろす。
見た限り、特に異常がある様子はない。
少年は無事に救われ、ダモクレスは破壊された。だが、ゲーム機のダモクレスを贈った者がどこかにいるとすれば、事件はまだ始まりに過ぎないのかもしれなかった。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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