茜色に染まる廃墟に徘徊する有象無象を打ち払いながら少女は進む。
「えーい、ガードブレイク!」
『魔女だ』『捕らえろ』『生贄に』『あの方の元へ』などとざわめく敵達が差し向ける魔獣へ彼女は光線を撃ち放つ。炸裂した光が敵のシールドを打ち壊し、身を焦がされた獣の唸りが悲鳴じみて響いた。『クリティカル』『五十コンボ達成』『ゲージ上昇』などとシステムが読み上げているのは、プレイヤーである彼女にしか聞こえていないのだろう。
「ブースト、からの、強攻撃ー!」
ぶん、と手にしたロッドが振られて先端から刃が飛び出し──車道の只中で壊れて止まった乗用車の運転手が切り裂かれ血を噴いた。
夕方の商店街、買い物客の行き来の為に渋滞がちの車道に居た車達は、ごくゆっくりとしか進めずにいたゆえに、被害の拡大もまたゆっくりであったことは不幸中の幸いだろうか。
死傷者の数以上に、人が密集していた歩道側の混乱が酷かった。悲鳴と怒号が響き、避難や救助に動こうと考えた一部の人の動きも遮られる有様で、全員遠からず少女の餌食となってしまうだろう。
次の獲物を探す『彼女』──ごく軽装の幼い少女の動きに合わせて首を巡らせる、武装した魔法戦士が不敵に笑った。
「こんな所で負けないよ。あなた達からあの人を助けなきゃいけないんだもの!」
「──こういうものって、小さい子は使ったら駄目、と聞いた事があるのだけれど」
VRギア型のダモクレスを身につけた子供が大量殺人を犯す事件について話す篠前・仁那(オラトリオのヘリオライダー・en0053)は首を傾げた。
件の少女は十歳にもなっていないだろう。彼女は『ゲームを遊んでいる』と認識しているようだ。その操作により人を殺めるのは、傍に現れているアバターだという。
「ええと、その、アバター? には直接触れるみたいで、攻撃を加えて消滅させる事も出来るみたい。でも、すぐに復活してしまうようよ。これを止めるには、彼女にゲームをやめようと思わせなければならないみたい。その状態でアバターを倒せば、同時にダモクレスも倒せるようね」
そう出来れば、少女を無傷で救出する事が可能になるようだ。だが、少女の体やダモクレスを直接攻撃した場合は、少女はアバターと合体し応戦して来る。この場合、特に細工をせずともアバターの復活は起こらないが、アバターの死は少女の死と等しくなる。
「ダモクレスの影響なのでしょうね、彼女の体はあなた達と同じように、グラビティでの攻撃以外は平気なようだから……例えば、体で進路を塞いでちょっと押し返す、程度であれば合体させずに済むみたい」
仁那は胸前に上げた両掌を前方へ向けた。少女は現場の大通りに沿って直線のコースを進攻して来るので、取り敢えず彼女の足を止めさせて、などを試みる場合は一つの手かもしれない。物理的に接触出来る状況であれば。
「今回は、あなた達を彼女より先に現場へ届ける事は可能なのだけれど、ごめんなさい、それが精一杯。そこの人や車を事前に退けておくだけの時間は無いわ。着いた先で、あなた達に対処して貰えるとありがたいのだけれど」
急げば、少女の到着より先に状況を整える事は不可能ではない。車もあまり速度を出せる状況では無いので、少しばかり体なり声なりを張って貰えれば、といったところか。
「彼女に遭った後は、……ダモクレスの影響を受けている彼女を、ダモクレスごと倒すのであれば、すぐに応戦して貰えれば済む、わ。けれど、助けるのであれば、ダモクレスが設定している『ゲーム』に反しない範囲で彼女にはたらきかけて、ゲームをやめさせなくてはいけない」
ダモクレスの力に依って少女は、ケルベロス達を『倒すべき強敵』と認識するようだ。ゆえ、その役柄に反する説得の言葉や行動などはねじ曲げられてしまう。『敵』として相応しい言動は、少女にそのまま伝わるようなので、それにより彼女にコンティニューやゲームクリアでは無くリセットやパワーオフを選ばせる事が出来れば、敵はダモクレス──少女の操作を受けないアバターのみとなる。
「余裕があれば、彼女の命は助けてあげて貰えると、わたしは嬉しいけれど……方法はあなた達に任せるわ。……こんな仮想現実、被害が出る前に壊して来て欲しい」
ゲーマーとしては限りなくライト寄りな身でも思うところがあるのか、仁那はインターネット検索の画面を表示しっぱなしにしていたスマートフォンの表示を消して息を吐いた。
参加者 | |
---|---|
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771) |
ジエロ・アクアリオ(贖罪のクロ・e03190) |
鳴無・央(緋色ノ契・e04015) |
ノイア・ストアード(ブレイズドライブ・e04933) |
タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699) |
カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834) |
アークレスフリート・ヴァルキュリアーク(其の正義の心は静かに瞑想する・e27191) |
十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149) |
●幕開け前
驚いたようにクラクションが鳴った。危ないぞ、と顔を出す運転手に穏やかに謝罪を返したのは、翼を出したアークレスフリート・ヴァルキュリアーク(其の正義の心は静かに瞑想する・e27191)だった。
「交通整理をお願いしたくてね、ごめんねぇ。僕自身はケルベロスだから大丈夫なんだけど」
黄昏の中車道に舞い降りる眩い翼は人々の注意を惹いた為、大事には至らなかったが──不安や混乱を避けたかったか、単に面倒だったか──少々説明が足りない。
「ああゴメン、アリガト」
ゆえ、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が継いで声を張り上げた。
「ここちょい危ないんだわ、誘導手伝うンで早めに離れて貰えっかな!」
近くの駐車場から抜けられる車はそちらへ、直進するしか無い車は早めに通過を。ざわめきの妨害を受けながらも渋滞の中程で青年は指示を出して行く。
とにかくこの道を空けなくては。ケルベロス達は手分けし動く。通りの両端ではそれぞれ、敵の出現を警戒し盾役達が車の流入を抑えていた。
「不便を掛けて済まないが、この道は暫く封鎖させて欲しい。あちらに迂回を頼めるか」
「買い物は出来ればよそでお願いだぜー」
商店街への主な入口に当たる大きな交差点ではカジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)が二体の小竜と共に人々を誘導し、大通りと繋がる脇道の辺りはミミックを従えたタクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)が巡回していた。
「──という事だ。お前達が居ると戦闘の邪魔になる、慌てず速やかに此処から離れろ」
「…………。怪我などあってはいけないからね、この場の警戒は私達に任せ、あちらから避難をお願い出来るかな」
歩道の人々へ向けた鳴無・央(緋色ノ契・e04015)の指示は簡潔で明瞭で、無駄と容赦が無かった。だがケルベロスの言う事だからとすぐに応じられる者ばかりでは無く、理解が追いつかずきょとんとしている者が居る事に気付き、ジエロ・アクアリオ(贖罪のクロ・e03190)が手を伸べ補足と誘導を試みる。
「どういう事? 一体何が……」
「悪ぃが時間が無えんだよ」
「そちらの方、この方に肩をお貸し頂けますか。アランはこの子を運んで下さい」
彼らの手が届かぬところは十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)が対応した。困惑し説明を求める者へ睨みを利かせ反発を封じ従わせる。一人での移動が難しい者にはノイア・ストアード(ブレイズドライブ・e04933)が己のミミックと共に手を貸す。歩道側は人の数こそ多いものの、上手く補い合い速やかに避難が進んでいた。
●『魔物使いと静かな赤と亜人の黒と怖い白』
白い光が飛来した。初めに気付いたのは近い位置に居たタクティ。彼は咄嗟に身を晒し、己が盾となる事で周囲を護った──未だ路上に残る車達やその乗員達を。
異変に依る一般人の混乱、は無いに等しい。歩道は避難が済んでおり、車道も残るはほんの数台。そう、障害物が無いゆえに即座に状況を把握した歩道側の者達が次に動いた。近い位置に居た二名は敵の対応へ、周囲の店舗へも気を回していた二名と一体は仲間達への伝令と怪我人を出さぬ為、それぞれ散る。
「逆側に敵が現れました、急ぎ向かって頂けますか」
「車は置かせて貰う、足止めをお願い出来るかい」
片目を伏せたノイアが肉声では届かぬ距離の者達を呼ぶ。がらんとした車道を急ぎ駆けて来たキソラは、人々への対応を継続する意思を見せたジエロの依頼に一つ頷いて。行き掛けに、抉れたアスファルトの中で立ち往生している一台の扉を剥ぎ折った。
「ゴメン、後で治すんで」
不安げな目に短く応えた。騒ぐな、とも手振りで頼み込む。芝居掛かった遣り取りは、もう少し先から聞こえて来ていた。
「よくここまで来れたもんだぜ、魔女さんよ」
「もー、皆して魔女魔女って。そうやってあの人の事だって……」
決して軽くは無い痛みを抑え不敵に笑うタクティの姿に、少女は彼を強敵と判断したのだろう、距離を保ったまま頬を膨らませる。
「『あの人』ねえ。まだ助けられる気で居るのかだぜ?」
「どういう意味!?」
「さあ? まあ下手に動かない方が賢いって事なんだぜ」
時間を稼ぐ間に、足音が複数。重ねて轟音。竜砲がアバターへ炸裂する。
「動かなくても始末するがな」
(「……親は何を」)
為した央は靴も履いていない少女の姿に眉をひそめた。そうした類のものが今も機能していれば、こうはなっていないと解ってはいたけれど。
「知りたきゃ俺達を倒してみるか?」
爆風を抜けて刃鉄が距離を詰める。威嚇に広げた竜の黒翼が刹那少女へ影を落とした。直後怯んだ彼女の意に沿う如く彼は、蹴り技でアバターを弾く形で距離を取る。ぶれる視覚に堪えるよう、数歩退く少女の眉がきつく寄った。
「随分早いお着きじゃねェの」
一足遅れて合流したキソラは余裕を見せるよう手中の得物を弄びながら、仲間達へざっと避難状況を伝えた。混雑する箇所と歩行者達は既に捌き終えており、車道側は手が回りきらず数台の車が取り残されたが乗員の避難は順調。物損は避けられなかろうが人命に関する憂いは無し。
「そんな話を堂々と……! やっぱりあなた達は許せない」
それに少女が噛み付いて来た。修正が入る事を想定してはいたが、相当に歪んだようだ。
「……ドーゾ? ケド、一人で何が出来るんかね」
「っ、数で押し切ろうとするあなた達になんて負けないもん!」
無難に合わせて煽ると、少女が刃を振りかぶる。お供から倒そうという考えなのか、その狙いはミミック。アバター以外を決して傷つけぬよう主から厳命を受けていた為に攻めあぐねていたサーヴァントが的になる形。効率だけを考えれば此方が攻めに注力するには好都合で、癒し手も足りぬ今であるからこそ彼もまた皆を護る盾としてじっと耐える。
●『魔法使いと黒騎士と多分女参謀』
「済まない、待たせたな」
「おー……遅いんだぜー」
数えた時間は決して長くは無かったが、乱射される光を欠員を出さずに捌ききった主従の疲労は酷いものだった。無用な騒ぎを厭い目眩ましをとも考えたが、未だ付近に要避難の民間人が居る現状ではそうも行かず、急ぎつつも人々を気遣いながら移動して来たカジミェシュは彼らへ頭を下げた。
「黒っ!?」
新たな敵の登場につい手を休めた少女の驚愕の声が彼らを現状へ引き戻す。
「凄い悪そうなのが出て来た……またでっかいし、お供増えたし……」
彼女の視線はカジミェシュへ向いたが、直視を避けるよう徐々に下がる。禍々しい装飾を施した黒鎧を纏う彼の姿は大変判り易い悪の騎士そのものであったようで、気圧され少女は慎重に間合いをはかる。
「僕達ばかり働かせないで欲しいかなあ」
「そうは言うが、たかが小娘一人だろう」
少し前に到着していたアークレスフリートがぼやいて見せた。少女の不安を煽れればと落ち着いた声を交わす。その間に小竜達が治癒を為し護りを固めた。
「よ、余裕ぶらないでっ」
光線が出でる。主を護ったミミックは限界を迎え、少女は小さく拳を握るが。
「分けてた力が戻っただけなんだぜ?」
胸元へ手を遣ったタクティが口の端を上げる。丁度その時彼らの背後で車がずるりと水平に動いたのを見、少女が顔を青くした。
「魔獣が……っ、死んでたんじゃないの!?」
「ええ、もう使えません」
彼らにとっても想定外の事、誰より早くに口を開いたのはその現象の原因となったノイア。彼女は避難の手伝いを粗方終え、仲間達の背後を塞ぐ車両を退ける作業に移ったのだった。台詞は取り敢えず即興で合わせた。
「仲間じゃないの? そんな言い方は」
「使えないものを使えないと言うのが悪いのかだぜ? そもそも俺達だけで十分なんだぜ」
車はエンジンさえ掛ければ動くだろう。外装にダメージが見える為なのか、眠るも死ぬもゲーム上の表現では大差無いのか。少女はケルベロス達を悪と断じ眉を逆立てる。
「青い事を。所詮は子供か」
善良な心は痛むが抑え、再度仕掛ける。ほどなくアバターが悲鳴をあげ掻き消えて、同じ姿が無傷で現れる──もう一度、動きを封じるところからだ。
「こっちは残機無限だもん! 脆そうな小っちゃいのから倒してあげるんだから!」
「てめぇのが小せえだろうが! こっちはゲージ振り切ってんだよ」
サーヴァント達と纏めて小さいの扱いされた刃鉄は少女の攻撃をいなし、黒い肌に呪紋を浮かばせた。
●『悪い魔法使い』と、悪くなれなかった魔法使い
怪我人は自分達だけで済ませられそうだと安堵して、補佐を務めたアランと共に戦場へ辿り着いたジエロは暫し考え込んだ後。
「おや、そろそろ頃合いかと思ったのだけど」
「またリトライされたんだよ。五……いや、四回目だったか?」
折角なので悪そうなのを目指してみた。ら、竜砲を多用する羽目になっている央が面倒そうに応えた。
「その度にこっちもどんどん固くなるってのにだぜー?」
光盾を展開するタクティが疲労を誤魔化すよう息を吐く。敵の耐久度はさほどでも無いが果ては未だ。後方からの援護に努めていたノイアが冷静に報せた。
「……また黒い人が増えた……どこまで増えるの、中ボス多過ぎない……?」
ケルベロス達の傷が増えるのと同じように、少女の疲労も抑えきれぬ域には来ているらしい。独言は溜息と共に吐き出された。
「そりゃ、突破出来るよーには出来てナイし」
「ルート開けたきゃサクっと俺達を倒してみろよ。こんな手こずってちゃ無理だろうがよ」
「いや、期待持たせるのは可哀相っしょ。迷子なの気付いて無さそだし」
メタ気味のキソラと刃鉄の台詞に困惑する少女を見、ノイアがそっと嘆息する。
「……こちらに来てしまっている時点で手遅れなのですよ」
声は冷たく淡々と、それでも一片の慈悲を滲ませたかの如く、彼女は静かに少女を諭した。
「あ、あなた達の言うことなんて……そういうイベントの可能性だってあるわけだし」
だが少女は動揺を見せつつも、同じくメタ交じりに抗う。そうして六回目のリトライが選ばれた。
少女曰くのブーストは、ケルベロス達が丁寧に無効化して行く為、戦法から外されたらしい。残機制限が無いゆえの捨て身で彼女はひたすらに攻撃を繰り返す。その度にケルベロス達の護りが砕かれて行くものだからより厄介だ。アバターを倒し続ける事は容易いが、少女を巻き込まぬよう立ち回るのは、ケルベロス達の疲労を加速した。
「君の望みは、永遠に叶わぬと言うのに」
顔を覆う兜で表情ごと疲労を隠したカジミェシュの声が落ちる。低い掠れは威圧となって少女をおののかせた。
「彼女の望み、とは?」
「『あの人を助ける』と言って聞かないんだよ」
ジエロが問うて見せる。そういえば彼の耳は未だ直接聞いていない。思い出して答えたのはアークレスフリートだった。アバターの姿が霧散するのと同じように少女の意思も挫けてしまえば良いのにとばかり、繰り返し呪いを紡ぐ。
「……そうか、あの子はまだ知らないのだね。可哀相に」
ジエロは間を置き、口元に笑みを作る。それに少女は何を思ったか、アバターが不安を隠し敵意を乗せた酷い目で彼を睨む。
「腹黒が」
「そうかな」
伏した目の奥の感情は見せぬまま彼は、表情を殺した央の視線を受け流す。参戦が遅れた事も利用した、思わせぶりなアドリブだった。
「信じない、から……っ!」
それでも未だ少女は向かい来る。とはいえ最早、自棄を起こしたような雑な戦い方で、深く敵陣へ突っ込む彼女達への対応にケルベロス達は苦労させられる事となった。
「ケド、パターン読めてンだよね」
アバターからの攻撃を捌き、態度だけは余裕を崩さず、攻める機を逃さず撃破を重ねる。
だが、負担はやはりひどく重い。ヒトが倒れては彼女を調子づかせかねぬとサーヴァント達が体を張った。
「負け、ないも、ん」
アバターの姿は変わらず。けれど少女の息は大分上がっていて、ふらつくように踏み込んだ彼女は近接の大技を試みる。盾役達が護りに動くより早く、アバターのロッドから伸びた刃がアークレスフリートの肩に沈んだ。
身を退けば深手は避けられると判っていた。けれど、袈裟に斬らんとする刃の行く先に見えたのは少女の小さな足。
ダモクレスの体を『護っている』彼女がたかが余波一つでどうにかなるわけが無いとも、解ってはいたけれど。
(「もし怪我したら、痛いからねぇ」)
敵の刃が肉を断つ手応えに鈍り、最後は地面を打った。丸めるように身を折った彼は、少女が赤に汚れていない事に安堵して、微笑んで。
「……ごめんねぇ」
重く、血溜まりへ沈んだ。
●ゲームオーバー
「……今のまま繰り返しても無駄だ、いい加減解れよへたくそ」
「やろうというなら止めないがね。君の力ではまず無理だろうし……万一私達全員を倒せたとしても、君の負けは決まっているのだけど」
決して動じず、揺らがずに。全て計画のうちとばかり、彼女へ無駄だと言葉を投げ続ける。ここまで来ると最早根比べのようで。
「『アレ』が無いままで、よくもまあ頑張るんだぜ?」
「手遅れと申し上げました。私達は足止めに過ぎません」
「言ったろ、とっくにフラグ折れてんだよ」
折るというより削るよう、繰り返す。
「やり直すってどっからだっけ?」
「まあ……『最初から』だろうな」
歪められると承知ながら、システムにも言及する。この先にはバッドエンドしか無いのだと、きっと彼女ももう解っている。
「……また、あのイベントするのやだもん」
少女の口がへの字を描く。かなりの鬱イベントなのか、声も沈んだ。
「詰んでるんだ、諦めろ。……第一お前、此処で何回死んだ?」
痛ましい声をそれでも、央は冷たく嘲って見せた。
疲労も鈍りも乗せずに技を繰り出し続けるアバター。同じように戦う動きをしていた筈の少女の腕はしかし、重石を着けたように徐々に上がらなくなって行った。
既に少女の手を離れた事を示すよう、アバターと少女の距離が開いて行く。隙間に滑り込むように、ケルベロス達はアバターの包囲を試みて。
「──奔れ……!」
彼女が操るそれよりも鋭い光刃で以て、長い戦いに幕を下ろした。
「後は……」
間を置かず、顧みた刃鉄が少女へ刀を向ける。自壊より速く、少女の目を眩ませる重い機械だけを斬り落とす。沈黙したままなれど、形を残し地へ転がったそれを、タクティが粉々に砕いた。
風圧にすらよろめくほど疲れ切った少女の体を、カジミェシュが抱き留める。現実へ戻された彼女の為に出来る事は──求めて彼はまず、黒い兜を脱ぎ捨てた。
作者:ヒサ |
重傷:アークレスフリート・ヴァルキュリアーク(其の正義の心は静かに瞑想する・e27191) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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