凶手

作者:紫村雪乃


「飛ぶ腕、か」
 青年がつぶやいた。深夜の道路脇の道である。
 どこからともなく飛来する腕が通行人を襲う。そのような都市伝説があった。その腕は凄まじい握力をもち、掴んだ者の首をへし折るという。
 ほとんどの者は信じない噂であった。が、青年はその伝説を信じている。腕をビデオに撮り、ネットで配信するつもりであった。
 その時だ。彼の背後に人影が現出した。
 黒いフードを被った白い肌の女。名はアウゲイアスいった。第五の魔女・アウゲイアス、と。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にはとても興味があります」
 魔女はいった。そして手にした鍵を青年の胸に突き刺した。
「あっ」
 呻きをもらし、『興味』を奪われた青年はその場に崩折れた。横たわったその身体の上、異様なモノが浮かんでいる。
 それは腕であった。しなやかな腕だ。ただし指の爪は獣のそれのように鋭かった。


「不思議な物事に強い『興味』をもっている人がドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が形の良い唇を開いた。
「またドリームイーターなの?」
 黎明の色にも似た紫髪紫瞳の少女が、うんざりしたようにため息をこぼした。
 黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)。彼女は先日ドリームイーターと戦ったばかりであった。
 この紫織という少女であるが、実は家族を殺され、その復讐のために別のデウスエクスと取引をしている。大人しいようにみえて、本当は胸に復讐の炎を燃やす少女なのであった。
「はい」
 セリカはうなずいた。確かにドリームイーターの事件は多発している。
「『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『興味』を元にして現実化したドリームイーターにより事件は起こるようです。被害が出る前に、そのドリームイーターを撃破して下さい。ドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまった被害者も目を覚ましてくれるでしょう」
 セリカはある都市の名を口にした。大都会だ。
「ドリームイーターはその都市に現れます。正確な出現場所はわかりません。しかし、ドリームイーターは自分の事を信じていたり噂している人がいると引き寄せられる性質があります。その性質を利用すれば誘い出すことができるかと」
 ドリームイーターの戦闘手段は、とセリカは続けた。
「ドリームイーターは腕の姿をしています。そして飛燕のように空を飛びます。風のように機動しますので、捉えることは難しいでしょう」
 具体的な攻撃方法は爪です。セリカはいった。
「鋭いその一撃は鋼すら断ち切る威力をもっています。さらに握力は岩すら砕くほど。気をつけてください」
 言葉を切ると、セリカは小さく微笑みつつケルベロスたちを見回した。
「強力な敵です。けれど皆さんならきっと斃すことができます」
 セリカはいった。


参加者
リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)
高原・結慰(四劫の翼・e04062)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
一目・深山(黒焦げ・e18929)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)
天変・地異(ぷえぷえ侵食率超過・e30226)

■リプレイ


「これで大丈夫だな」
 寒い夜に声が流れた。
 硬く剛い声音。そして、どこか孤独の響きをおびた声音。
 声の主は二十代半ばの青年であった。がっしりした体躯の持ち主で瞳は冷たい灰色だ。
 名は日月・降夜(アキレス俊足・e18747)。チーターのウェアライダーであった。
 彼は己の施した細工を見回した。キープアウトテープだ。
「銀狼の次は空飛ぶ腕……人間の興味は尽きんな」
 キープアウトテープを確認し、その若者は苦笑した。
 風貌は精悍そのもの。闇に光る血色の瞳は異様であるが、さらに異様であるのは、衣服から覗く肌にはしる無数の傷痕であろう。
 ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)。降夜と同じウェアライダーであった。
 すると、大きな目の紋様が刻まれた仮面をつけた男が首を傾げた。細身で小柄の男である。
「しかし腕だけが飛んできて殺しに来るってどういう話から生まれたんだ?」
 男――一目・深山(黒焦げ・e18929)は誰にともなく問うた。すると、深山と同じ竜種である若者が口を開いた。
 天変・地異(ぷえぷえ侵食率超過・e30226)。真っ直ぐな、あまりにも真っ直ぐな眼差しの持ち主である。
「さあな。都市伝説奴だろ」
「そんな変なものに興味を持つもの好きさんって、いるものなのね」
 ふっ、とその少女は声をもらした。
 猫を想起させる美少女だ。紫瞳紫髪のためもあってか、どこか妖しい雰囲気がある。さらに――。
 その謎めいた紫瞳の奥を良く見てみるがいい。地獄の業火にも似た紅蓮の炎がちろちろと燃えている。復讐者の瞳であった。――黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)である。
「人はそれぞれだよ」
 苦笑したのは端正な顔立ちの若者であった。名をレスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)というのだが、その目は笑っていないように見えるのは気のせいであろうか。おそくはあまりにも多くの死を見つめ続けてきたのだろう。そう思わせる哀しい瞳の持ち主であった。
「空飛ぶ手か……しかし奇妙な都市伝説だね」
「まぁ、うん」
 ひらひらと。その少女は面倒そうに手を振り、肩をすくめてみせた。
 華奢で童顔。天使を思わせる可愛らしい美少女だ。
 少女――高原・結慰(四劫の翼・e04062)はいった。
「仕方ないよ。元は噂だからね。奇抜な内容の噂があってもおかしくはない。……はぁ、面倒で疲れそう」
 結慰はがくりと肩を落とした。


 明かりに浮かびあがったのは端正な顔立ちの若者が口を開いた。
「空飛ぶ手。…聞いたことあるかい?」
「あるわ」
 紫の髪の少女がうなずいた。
「それ、両腕らしいわね」
「両腕?」
 灰色の目の青年が眉をひそめた。
「しかし、腕だけってのも中々怖いね」
「左腕が二本とかだったら、もう少し面白そうだったのだけど」
「二本か」
 端正な顔立ちの若者が眉根をよせた。
「女性の手なんだろうか。それとも男性の手なのかな。ともかく興味は尽きないね。両手を切り落とされた人間の怨念が具現化したものだったら怖いよね」
「もう」
 ぷっとむくれたのは童顔の美少女だ。
「怖いこと、いわないでよね。でも……何かそんな敵が出てくるゲームがあったような無かったような……どんな感じなのかな?」
「こんな感じじゃねえか」
 ぬっと、赤茶の髪の若者が手を突き出した。すると童顔の少女がびしゃりと手を叩いた。
「やめてよね」
「まーたリアクションに困る相手だぜ。まぁ厄介なことだけは確かだが」
 仮面を頭の上にずりあげた若者がごちた。するとがっしりした体躯の若者がいった。
「的は小さいだろうな」
「確かに、な」
 仮面の若者が素早く周囲に視線をはしらせた。
「ふふふ」
 背に翼ある黒猫をうかべた少女が笑った。可笑しそうに、哀しそうに。
 リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)。触れれば壊れそうな繊細可憐な美少女である。
 その手の星を模ったランプをゆらせ、リラは続けた。
「てのひらの、お化け。どこから、生まれる、のでしょう、ね。夜に、対する、恐怖が、生み出す、の、でしょう、か。星が綺麗な、夜なのに、ね」
 ふっ、と。リラの微笑みが消えた。彼女の鋭敏な近くは蜘蛛の糸のような殺気を捉えている。
「後ろだよ」
 叫ぶ声が響いた。レスターだ。
 グラビティ、ウォンテッド。彼は手配書で相手の位置を知ることができるのだった。
 ほぼ同時。何かが空を裂いて疾った。
 反射的にリラが振り向く。が、遅い。その何かは上空に疾りぬけた。
「ベガ?」
 声をかけ、リラは慄然とした。ベガ――ウイングキャットが消滅している。
 リラは目を上げた。空に異様なものが二つ浮かんでいる。肘から先の腕だ。
「あなた、ですね。ベガを、やったのは」
 リラは腕を見つめた。怒りというより、憐憫の光のにじむ目で。彼女はベガが庇ってくれたことを悟っていた。


「夜を、彷徨う、ふたつの、手。何も、掴めないの? 壊すしか、できないの? ……かわいそう、ね」
 リラの全身から金色の光が散った。光粒子をあびたケルベロスたちの感覚がさらに研ぎ澄まされる。
「さて……おでましだ。手薬煉引いて待っていたぞ」
 デュークスがかまえた。その手の爪が漆黒に変色している。そこには神秘的な青い紋様が描かれていた。
 刹那だ。空間そのものをびりびりと震わせ、叫びが発せられた。降夜だ。
 すると腕の一つが動いた。もう一つはとまったままだ。
 跳び退りながら、降夜はごちた。
「なるほど。二つ同時には効かんようだな。――うっ」
 地に降り立った降夜の目が信じられぬものを見るように見開かれた。彼の胸を鋭利な刃のごときものが貫いている。腕の人差し指からのびた爪であった。
「ぐふっ」
 口から血を噴き、降夜は膝を折った。
「――飛ぶなら落とせば問題無い。――with“喰らえ”」
 デュークスの手から禍々しさすら感じさせる漆黒の液体が噴出した。それは空で巨大な顎に変化。腕を飲み込んだ。
 ぎちちち。
 強大な圧力に腕が軋んだ。
 次の瞬間である。漆黒の顎をぶち抜いて顎が飛び出した。デュークスに掴みかかる。
「なっ」
 咄嗟に躱せぬデュークスの首を腕は掴んだ。そのまま飛翔。デュークスの身体をビルにたたきつける。コンクリートの壁が陥没し、デュークスが崩折れた。
「好きにはさせないよ」
 結慰の背で眩い白光が渦巻いた。開いた天使のものの如き翼だ。
 デュークスめがけて結慰の身が空を翔けた。飛鳥のように。
「上だよ!」
 レスターの叫び。ちらりと振り向いた結慰の目は疾風の速さで迫るもう一つの腕を見とめた。
 結慰の飛行速度はおよそ時速三十キロメートル。対する腕の飛行速度は時速三百五十キロメートルをしぼりだす。これでは勝てない。
 猛禽の襲撃速度で腕が襲った。
 びしいっ。
 肉を叩いた音がした。結慰の背後。同じく飛行している者がいる。地異だ。彼の交差した腕がドリームイーターの攻撃をブロックしていた。が――。
 砲弾の直撃をうけたように地異の身が吹き飛ばされた。結慰を巻き込み、下方に落下。地に叩きつけられる。
「くっ」
「うう」
 地異と結慰が身を起こした。地異は血まじりの唾と折れた歯を吐き捨てる。
「なんて破壊力だ。腕だけだってのに」
「それに凄い速さ」
 結慰は呻いた。
「厄介ね」
 紫織が上空を睨みあげた。空を二本の腕が旋回している。まるでこちらの隙を窺っているかのように。
「やるじゃねえか」
 ぼそりとつぶやき、深山が無造作に歩みだした。案山子のように無抵抗なその姿は魅魔に魅入られた者のように見える。
 観念したか。ならば殺してやろう。
 そうとでも思ったか。腕が動いた。怪鳥のように深山を襲う。
 ずぼり。
 腕が深山の胸を貫いた。


 鮮血がしぶいた。いや――。
 鮮血ではない。それは漆黒の粘液であった。
 次の瞬間だ。深山の姿が溶けたように崩れた。
「見たか。分身殺法――ブラックアウトを」
 いつの間に隠れたか、闇に身を潜めていた深山がニヤリとした。
 刹那である。地から蔓がのび、空に残された腕をからめとった。
「アースヴァイン。その蔓は地の精霊の力を借り、砂を呪的結合させたもの」
 紫織の紫瞳が闇に妖しく光った。
「捕まえたわよ」
「私がやるよ」
 飛翔する結慰。真上から蹴りをぶち込んだ。あまりの脚の鋭さにつま先が摩擦熱で赤化している。
 対戦車砲弾に匹敵する破壊力が炸裂した。腕が地に叩きつけられ、はねる。
「まだまだぁ」
 閃光。そうとしか思えぬ神速の蹴りを降夜ははねた状態の腕に放った。
 たまらず腕が吹き飛ばされる。壁に激突、コンクリート片を撒き散らし、めり込んだ。
「ぬうっ」
 しかし呻く声は降夜の口からもれた。蹴りを受ける寸前、腕は爪を疾らせていたのである。
 それは腕の殺戮衝動がさせた行動であったろう。狙いをつけずに放った五つの爪の攻撃のうち、一本が降夜の喉を貫いたのだった。
 次の瞬間、三人のケルベロスが動いた。一人はリラだ。
 リラの繊手が舞った。
 座標固定。魔術を発動させ、降夜の傷を切開する。星屑のごとき光が散った。
 それは物理的外科手術ではなかった。その証拠に降夜の肉体にメスがはいった様子はない。
 が、確実に傷は癒されていた。分子レベルで修復されていたのである。
 そして、もう一人。それは地異であった。
 アームドフォート――身体に装備する、携行型の固定砲台からミサイルポッドをスライド。腕を発射トリガーをしぼった。
「落ちろッ!落ちろッ!」
 叫びつつ、地異は撃った。無数の焼夷弾をばらまく。灼熱の爆炎が開いた。
 空が焦げる。が、腕は無事であった。巧みに炎を回避したのである。
 地異は歯軋りした。
「無駄かよぉ」
「無駄じゃないよ」
 声はレスターのものであった。その鋭い目はスコープを覗いている。かまえたバスターライフルの銃口は飛行する腕をポイントしていた。
 腕は焼夷弾の回避に専念している。今が好機であった。
「手か……」
 レスターの脳裏にある情景が蘇った。奴隷だった頃の情景を。
 彼はエインヘリアルの少女に飼われていた。その少女はよく戯れにレスターの首を絞めたのである。綺麗で華奢な手で。今でも彼は嬲りながら愉しそうに笑っている少女の顔と手を思い出すことがあった。
「……嫌な事を思い出した」
 ちらりと彼は腕の刺青を見た。隷属の印である。
「いい加減過去の悪夢とは決別する頃合いだ」
 レスターはトリガーをひいた。撃ち出されたのは弾丸ではない。凝縮され、指向性を与えられた魔力粒子であった。
 光が腕を撃った。衝撃に落下する。
 同じ時、三人めのケルベロス――深山はニンマリと笑んでいた。その手は何かのスイッチを握っている。
「終わりにしてやるぜ」
 深山はスイッチをおした。
 それは爆破スイッチであった。分身を腕が貫いた時、すでに深山は腕に『見えない爆弾』を貼り付けていたのだった。
 爆発。
 腕は魔性の細胞ごと消滅した。
「あー汚ねぇ花火……」
 深山は顔をしかめた。


 ぎら、とデュークスの目が光った。
「動く武器は慣れている……所詮、自由自在に見えて、的は、一つだ」
 デュークス手が眩く輝いた。その口が紡いだのは遥かなる太古に造られた魔術式言語である。
 虚数空間から汲み出したエネルギーを集約。デュークスは腕にむけて撃ちだした。
 闇を裂く閃光。魔力光をうけた腕の一部が石化した。
 刹那だ。空を貫いて五つの光条が疾った。
 爪だ。五本の指先からのびた爪が刃と化してケルベロスを襲ったのである。
 咄嗟にケルベロスたちは跳んだ。が、遅い。四人のケルベロスが爪で貫かれた。
 が、一つの爪のみはじかれた。それはボクスドラゴンの仕業である。
 ナハト。紫織のボクスドラゴンが爪に体当たりしたのであった。攻撃態勢に入っていた紫織である。
「わかった? もはや一つとなったあなたと違って、私とナハトは人竜一身。あなたの攻撃が効くわけがないわ」
 紫織の手から巨大な鎌がとんだ。それは大きな刃圏をもつ旋風であった。さすがの腕も躱しきれない。ドリームイーターの指を切断し、鎌は再び紫織の手にブーメランの如くに戻った。
 もし腕に口があったなら絶叫をあげていたかもしれない。腕は反転した。ともかく空に逃れ、距離をとるつもりだ。
「逃がしては、だめっ!」
 反射的にリラが『Baguette etoile』――戦闘兼手術用の電撃杖をのばした。撃つ。迸りでたのは星屑の光を散らせた稲妻である。一億Vものエネルギーが腕を灼いた。
 が、それでもまだ腕は滅びない。むしろ腕は反撃に転じた。限界を超える機動力をふりしぼり、ケルベロスを襲う。
 疾風――いや、迅雷という言葉こそふさわしい襲撃速度に、さしものケルベロスたちの目もついていかない。ならばと地異は再び焼夷弾をばらまいた。
「今度こそ、落としてやる。落ちろッ!」
 空に炎の花が開いた。散るのは花吹雪ではなく、火花である。
 ぬっと。炎の花を突き破って腕が現れた。もはや黒焦げの姿となって。それでもまだ腕は戦うつもりであった。
「遅すぎ。そんなんじゃ、すぐに追いつかれるよ?」
 嘲弄するような声は腕の上空から響いた。天使の翼ひらいた結慰だ。
「アナタが紡いだ歴史と世界は此処でお終い。壊劫は等しく滅びを齎す。例え世界でも関係無く絶対に、ね」
 結慰は全身を覆うオウガメタルを『鋼の鬼』と化した。そして拳を腕にぶち込んだ。
 ただ拳ではない。それには限定的ではあるが、滅びの崩壊を意味する【壊劫】の恩恵が与えられていた。
 想像を絶する破壊力が生まれた。吹き飛ばされた腕が地に叩きつけられる。
 まだ、死なぬ――。
 その意志を具現したように、ぼろぼろとなった腕の残る指がぴくりと動いた。そして、爪が――。
 ぶさり。
 死神のものに似た大鎌が指を断ち切った。
「……楽しかったわ」
 紫織の瞳の中で、陰火の如き炎がちろとゆらめいた。

「……終わったようだね」
 ふうと太い息を吐くと、レスターは倒れた青年に歩み寄っていった。
「大丈夫かい?」
「あ――」
 夢から覚めたように青年は目を開いた。
「好奇心旺盛も程ほどにね」
 レスターはいった。すると、やや離れたところで深山はごちた。
「口は災いの門、ろくでもねーことこそこそ言ってひどい目に合ったやつなんざ結構見てきたもんだがよ、ろくでもねー噂するほど余裕のねぇ世の中ってのも考えもんだよな」
 深山はちららりと背後を振り向いた。陥没したビルの壁面を見つめ、地異がぶつぶつと呟いている。
「いつかは悪は消えるんだ。絶対、消えるんだ」
「おい」
 降夜が地異の肩を叩いた。危ういものを感じたのだ。強すぎる想いは、時として自らをも滅ぼす。
 そんな降夜の想いは知らず、ただリラは祈りを捧げていた。
「さようなら。優しい星々の、譜が、貴方に、届きます、ように」
 星が一つ、流れて、落ちた。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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