●ひつじとわたぐも
ふわり、ふわりとまっしろな雲が空を泳ぐ。
あの雲は兔さん。あっちの雲は猫さん。それからあれは羊のような雲。少女は澄み渡った空に浮かぶ雲をひとつずつ指差して微笑む。
なかでもふわふわとした羊の雲はひときわ愛らしい。
「空飛ぶ雲のひつじさんに乗れたら良いのになあ……」
少女が思いを呟くと眺めていた雲が急にぴょこんと動き出した。それは見る間に可愛らしい羊となって空から下りて来る。わくわくした気持ちを感じた少女は近付いてくる雲の羊に向かって手を伸ばした。だが――。
「待って待って、何で突撃して来るのーっ!?」
可愛らしかった羊雲が突然怒ったような表情に代わったかと思うと、少女を襲おうと狙って駆け出してきた!
「……わあっ! あれれ、夢だったの?」
お昼寝の最中、飛び起きた少女は胸を押さえて小さな安堵を抱く。雲の羊が襲ってくるなんて夢でしか在り得ない。ほっとした少女が大きく伸びをした、そのとき。
突如として少女の胸が大きな鍵によって貫かれた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
響いた声の主は魔女ケリュネイア。それだけを告げた魔女が踵を返して去って行く中、少女は意識を失って倒れ込む。
そして、奪われた『驚き』は少女の夢を映し出すかのように新たなドリームイーターとなって具現化した。その見た目は一見、雲で出来た愛らしい羊。しかし、その実体は――人を驚かし、襲いに向かう凶暴な存在だった。
●ふわふわの恐怖
子供の夢は想像力と希望に満ちている。
けれどその中にも驚いてしまうような夢もたくさんあるだろう。そんな夢を見た子供がドリームイーターに襲われ、『驚き』を奪われてしまう事件が起きた。
「驚きを奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた驚きを元にして現実化した雲羊さんが事件を起こそうとしているのでございます!」
このままでは被害が出てしまううえに夢を奪われた少女も目を覚ますことが出来ない。急いで現場に向かって解決して欲しいと願い、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)はぺこりと頭を下げた。
「敵は一体。ふわふわした雲の体の羊さんなのです」
相手に配下などはおらず、現在は一匹で少女の自宅付近にある草原の中を彷徨っているようだ。昼間なので周囲は明るく見晴らしも良いが、その分だけ一般人も近付きやすく敵も標的を見つけやすい。
「まずは人払いをしてから草原を歩いていてください。敵さんは誰かを驚かせたくて仕方ないみたいなので、皆様が目立てば近寄ってきますです!」
最初は愛らしい姿で近寄って来る雲羊だが、距離が近付いた瞬間に恐ろしい形相に変わって突撃してくる。最初の驚かし行動自体にダメージはないが、可愛いものが恐ろしいものに豹変するのは心臓に悪いかもしれない。
遭遇した後は戦いに持ち込み、倒してしまえば良い。
また、ドリームイーターは自分の驚かせが通じなかった相手を優先的に狙ってくる。その性質を利用して標的を定めさせることも出来るので有利に戦えるだろう。
それ以外に難しいことはないと告げたリルリカは其処で説明を締め括る。
「びっくりする夢も本当じゃなかったって思うと面白いものに変わるのです。でもでも、現実に出てきちゃうのは違うのです!」
何よりも子供の無邪気な夢を奪ってドリームイーターを作るなど許せない。リルリカは少女が再び目を覚ませるように願い、そっと両手を重ねる。
そして、顔をあげたリルリカはケルベロス達に信頼の宿った微笑みを向けた。
参加者 | |
---|---|
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386) |
八柳・蜂(械蜂・e00563) |
クーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408) |
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339) |
未野・メリノ(めぇめぇめぇ・e07445) |
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289) |
ミュルミューレ・ミール(カンパネラ・e24517) |
アウレリア・ドレヴァンツ(白夜・e26848) |
●ふわふわり
晴れた日の草原に冬の風が吹き抜ける。
空に浮かぶ雲はゆっくり、ふわふわと青空を流れていた。空気は冷たいながらも陽射しは真っ直ぐに大地に降りそそぎ、爽やかな心地が感じられる。
お腹空いてる時に雲を見ると綿菓子のようで美味しそうに思えた。
「……なんて、いい大人の蜂も思ったりするから雲に夢をみるのは素敵な事です」
八柳・蜂(械蜂・e00563)は上空を見上げ、ちいさく微笑む。するとクーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)も頷いて雲を探し始めた。
「いやはや、こうやって空の雲を何かに例えるのは久しぶりかも」
犬っぽい雲とかあるかな、とクーリンは歩を進め、一行は暫しのんびりと草原を歩く。
既に人払いは泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)や、空を飛んで周囲を見て回ったマイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)とビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)によって完了していた。
これで暫くは一般人が戦場となる草原に訪れることはないだろう。
後は誰かを驚かせたくて仕方がないという雲羊型ドリームイーターを待つのみ。ミュルミューレ・ミール(カンパネラ・e24517)は辺りを見渡し、こてりと首を傾げた。
「楽しそうな音楽を奏でてみれば、羊さまも気になって下さるでしょうか?」
「めえめえ!」
そのとき、可愛らしい鳴き声がケルベロス達の耳に届く。音を鳴らすまでもなく訪れた敵を見つめ、アウレリア・ドレヴァンツ(白夜・e26848)は目を細めた。
「わぁ……ふわりふわり浮かぶ羊雲、とってもとっても愛くるしいの」
同じく、壬蔭もその可愛さに思わず拳を握ってしまう。
「や、やばい凄く……フッワフワのモッコモコだ」
「まぁ、なんてかわいらしい羊さま。おかしいの、きけんな香りなんてしないのですよ?」
そして、壬蔭とミュルミューレは羊を手招く。その瞬間、愛らしい瞳が険しく変わり、ぎゅわっという羊にあるまじき鳴き声が響いた。同時に羊の形相もそれまでの見た目からは想像できぬ恐ろしいものへと変わる。
「わあ、急にどうしちゃったの!?」
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)が一歩後退って驚いたフリをすると羊は満足そうな様子を見せた。
アウレリアも愛らしい姿が変貌する様子に眼をまあるくし、壬蔭はオーバーアクション気味に、ミュルミューレはみゅううううっと泣きそうになるほど驚く。
だが、反して未野・メリノ(めぇめぇめぇ・e07445)や蜂、ビーツーは少しも驚かない。蜂に至ってはにこにこと笑みを浮かべているほどだ。
「そんなに怖い顔をしたって、もふもふ可愛い羊さんに蜂は驚きませんよ」
「空飛ぶ雲の羊、その想像力は微笑ましいが、害を為すのなら倒さねばなるまいな」
蜂とビーツーが敵を見据えると、メリノも挑発するように声を掛けた。
「私も、羊のウェアライダーです。それぐらいでは、驚きませんよ?」
対するドリームイーターは驚かなかった対象を睨み付ける。ふわふわの羊と聞いて少しばかり親近感を抱いていたが、目の前の夢喰いは本物ではない。
「人を驚かしているだなんて、そんな悪い羊は退治しないといけません、ね」
メリノは始まる戦いを前に気を引き締め、倒すべき存在をしっかりと見つめた。
夢は夢のままがいい。
それに、雲はいつか空に流れて消えてゆくものだから――。
●もこもこ
戦闘態勢を取った雲羊は恐ろしい形相のまま、体を震わせた。
来る、と感じた壬蔭は前衛を担う仲間達に注意を呼びかけつつ、改めて敵を見遣る。
「うーん、此処まで豹変するのか……これが本性だとガッカリだな」
残念な気持ちを覚えながらも壬蔭は雷刃の突きを放ちに駆けた。それより一瞬早く、雲羊がビーツーにめえめえと鳴き声を向ける。
「鱗持ちからすると、ふわもこというのは対極の感覚だな」
身を蝕む感覚を堪えたビーツー。その後方ではボクスドラゴンのボクスが癒しの力を放とうと動いた。見る間に催眠が取り払われていき、匣竜もぐっと身構える。防護と引き付け役の蜂とメリノも構え、どのような攻撃が来ても良いようにしかと立った。
其処に続き、ミュルミューレがピッコロを取り出して星の鼓動を奏ではじめる。
「……どうか落ち着いて下さいますよぅ」
怖い顔のままの羊に怯えそうになったが、ミュルミューレは軽やかなリズムを響かせてゆく。刹那、降り注ぐは数多の星の煌めき。
光の軌跡が戦場に散る最中、アウレリアとウイングキャットのシエルが援護に入る。
「シエル、がんばろう、ね。――さぁ、皆に、力を」
少し緊張気味の言葉の後にアウレリアは自分を律した。そして、生命を賦活する雷電を解き放った彼女に続き、シエルが清浄なる翼を広げる。
アウレリア達の援護を受けたクーリンも攻勢に移り、幻影竜を生み出した。
「出て来るって分かってても驚くよね。それに突然襲ってくるなんてビックリするだろ! そのふわふわ具合を確かめさせてくれたら許したげる!」
なんてね、というクーリンの言葉と共に迸った焔が雲羊を包み込む。動物のデウスエクスを見るとどうしても過去にダモクレスにされた動物達を思い出す。だが、クーリンは首を振って辛い思いを振り払った。
更にマイヤとボクスドラゴンのラーシュが攻撃に入る。
「……顔、まだ怖いよ」
地獄の炎を武器に纏わせたマイヤは近付き様に羊にもふっと触れた。間髪入れずにラーシュがボクスブレスを放ち、マイヤが与えた炎を増幅させてゆく。
雲羊がめぇ、とやや苦しげに鳴いた。
その隙を狙ったビーツー達が攻撃を行い、更に死角を突いた壬蔭が斬り込む。
同じく、メリノとミミックのバイくんが雲羊を追い詰めにかかった。バイくんが吐き出したエクトプラズムは羊毛のようにもこもこしている。其処から生まれた武器が雲羊に襲い掛かる中、メリノが跳躍した。
「絶対、負けられない。負けたくない。そう、思います」
流星の軌跡を描いた蹴撃を見舞い、その衝撃を活かしたメリノは宙で回転しながら敵との距離を取る。次の瞬間、開いた空間に蜂が駆け込んだ。
「ふわふわ恋しい肌寒い季節ですから、ぜひもふもふさせて下さいな」
虚を突かれた雲羊に構うことなく、蜂は纏った紫炎を叩き付ける。焔が煌々と燃えあがり、羊に大きな衝撃を与えた。
されど敵もやられてばかりではない。反撃を見舞おうと脚に力を入れた雲羊はぴょんと飛び上がって蜂にダイブしていった。
「――!」
「大丈夫? 今すぐに癒すから安心して」
蜂の受けた衝撃が大きいと気付き、すぐにアウレリアが気力を溜めた。ふわりと広がった回復の力が仲間を癒して痛みを和らげてゆく。
アウレリアはシエルへ自分の分まで攻勢に移って欲しいと願う。すると翼猫は心得たという風に尻尾を立てて輪を敵へと舞い飛ばした。
ビーツーはアウレリア達の連携に気付き、自らもボクスに視線を送る。
「畳み掛けるのが吉か」
その身に纏った鋼の鬼をビーツーが叩き付けると、白橙色の炎を纏ったボクスが体当たりをくらわせた。その勢いに夢喰いが揺らいだ瞬間、ミュルミューレが杖を構える。
「ふわもこには負けませんよぅ。ねっ、イス」
ミュルミューレが呼び掛けると、杖はエゾモモンガへと変化した。これが自分達の仕事だと意気込み、イスを放ったミュルミューレは敵の不利益を増やそうと狙う。
クーリンも仲間に合わせ、守護獣を召喚した。
「そのふわふわと私の友達のもふもふ、どっちが上か勝負よ!」
守護獣もといフォルンを呼び出したクーリンは指先を真っ直ぐに雲羊を向ける。目標を定めた狛犬は牙を剥き、夢喰いに向けて襲い掛かっていく。
マイヤも仲間に負けていられないと気を張り、ファミリアを解き放った。そのとき、マイヤは敵が癒しの動作に入ったことに気付く。
「見て、敵が回復しようとしてるよ!」
「大丈夫です。手は打ちますから」
マイヤの呼び掛けを聞いた蜂は殺神ウイルスを解き放ち、癒しの妨害に入った。敵は羊、自分達は番犬。何だか牧羊犬の気分だと蜂は薄く口許を緩める。
それに続いてメリノが斧を振りあげ、雲羊を穿ちに向かった。
「ふわふわももこもこもめぇめぇも、私には、充分間に合ってます」
ルーンの力を帯びた輝く呪が敵を貫きながら迸る。メリノの鋭い一撃に合わせてバイくんはがぶっと羊に喰らいついた。メリノとバイくんの連撃によって大きな隙ができ、壬蔭は再び敵の背後へと回り込む。
完全なる死角から放たれるのは紅炎の煉撃。
「――vermiculus flamma」
大気との摩擦により拳に炎が生まれ、壬蔭は全力の一閃を叩き込んだ。羊毛が炎に焼かれゆく中、ケルベロス達は好機を感じ取る。
夢喰いを夢に戻す為には前進あるのみ。誰もがそう感じ、頷きあった。
●ふわもこ
雲羊は傷付き弱りながら、尚も驚かなかった相手を狙い続ける。
何がそれをそうまでさせるのか。夢喰いという存在を思う蜂は僅かに肩を竦めた。その間にアウレリアは癒しに徹し続け、仲間の背を支える。彼女と同様にボクスも自らの属性を癒しの力に変え、誰も倒れぬよう努めていた。
攻撃を受け続けるビーツーはボクス達の援護に確かな感謝を覚える。
「ふむ、そろそろ来るか」
戦いは激しくなっているが敵の消耗とてかなりのものだ。冷静に状況を判断したビーツーは敵が更なる攻撃に移ってくると察する。飛び込んで来る雲羊の動きを見極め、鱗の光る尾を振るったビーツーはその勢いで敵を弾き飛ばした。
「キィ、出番だよ。今回もいっぱい燃やしちゃって!」
クーリンはファミリアロッドを豆柴の子犬へと変え、その名を呼ぶ。主人からの願いを聞いたキィは愛らしいながらも素早く駆け、敵を穿った。
見事な動きにすごい、と感嘆の声を零したマイヤは笑顔を浮かべる。
それなら自分も、と気咬を練ったマイヤは即座に気の弾を飛ばしてゆく。その補助を行うようにしてラーシュが駆け、封印箱の体当たりをくらわせた。
「今だよ、羊さんが怯んでる!」
「わかったのですよぅ」
ミュルミューレがマイヤの声に応え、掲げたバスターライフルから魔法光線を放つ。鋭い光の軌跡は見事に羊の身を貫き、ミュルミューレは胸を張った。
メリノも今こそ畳み掛けるべき時だと感じ取り、蹴りを見舞っていく。
「大人しく、倒されて、驚きを返してください、ね」
「しかし、ただのフワフワなら良かったのに……羊の皮を被った狼か?」
更に壬蔭が指天殺を放ち、弱りはじめた敵を見遣った。震える羊は何だか可哀想だが、壬蔭の言う通り眼光だけは狼のようだ。
蜂は戦いの終わりが近付いていると感じ、傍に大蛇を召喚した。
「さぁ、おいでなさい」
つづらちゃんと呼ばれている蛇はぐるりと蜷局を巻き、主人の傍に控える。そして、蜂が踵を二度鳴らせば大蛇は毒牙を剥いて標的に襲い掛かった。
かぷっと雲羊につづらちゃんが噛み付く様はまるで大きな綿菓子を喰らっているかのよう。なんて、と双眸を細めた蜂は大蛇を呼び戻す。
されどドリームイーターもやられてばかりではなかった。癒しが駄目なら、とめえめえと激しく鳴いた声がメリノを惑わせる。途端に催眠がメリノの身を蝕み、視界が揺れた。アウレリアがすぐに癒しに移ろうとした。だが、少女は己の気力で以て惑いを振り払う。
「負けません。小さな子の、無邪気な想いを返してもらいます、から」
そして、メリノはグラビティチェインを織り上げ、指先大の重力の塊を生み出した。バイくんが先んじて駆けてエクトプラズムを放ち、その後を追わせるようにしてメリノは敵の自由を奪う一撃を放つ。
クーリンは仲間の力に感心しながら、胸を衝く痛みを堪えた。
「もう私にも一緒に戦ってくれる人達がいる。だから、きっと大丈夫」
たくさんの友達が、仲間が自分を支えてくれる。そのことを実感したクーリンは、今回も負けないと胸に誓った。
フォルン、と守護獣を今一度召喚した彼女は一気に力を解放する。それによって雲羊の体勢が大きく傾ぎ、壬蔭が即座に反応した。
「そろそろ終わりにしようか……」
絶空の斬撃で以て敵を穿ち、壬蔭は静かに告げる。その言葉に頷きを返したビーツーはボクスを伴い、雲羊との距離を詰めた。
戦況を観察し、辿り着いた解は今こそ連携攻撃を叩き込むべきだということ。
「マイヤ殿、合わせてくれるか」
「もちろんだよ。竜の連携を見せてあげよう!」
ビーツーがマイヤに呼び掛け、二人と二匹は一斉に敵を取り囲む。超鋼拳に炎、匣竜達の一閃が羊の力を最大限に削った。
めぇ、と弱々しく鳴いた雲の羊は既に虫の息。
アウレリアは終わりを齎すと決め、雲を包む白の力を発動させた。
「――舞い散れ」
その呼び声に呼応し、大地に眠り沈んだ数多の種が発芽する。蔓が天に向かい延びる様は、祈りの如く。舞う花は六花の雪のように白く、ただ白く周囲を染め上げた。
そして、ミュルミューレは敵の最期を感じ取る。
最初と同じように、奏でるのは光のカノン。穏やかなメロディを紡いだ少女はふわりと微笑み、夢の羊に優しく告げた。
「つぎにやさしい夢で出会えたならば、どうぞその背にのせてくださいね」
だからそれまで、おやすみなさい。
囁くような少女の言の葉と共に羊は地に伏し、永遠の眠りについた。
●雲は流れゆく
夢は夢に還り、草原に穏やかさが戻る。
雲羊は空に昇っていくようにして消えていったが、その光景はまるで本当の雲になっていくかのようだった。マイヤは傍に居たラーシュを抱き上げ、ふわもこだった敵を思い返して小さな溜息を吐く。
「可愛いのに怖いって凄くギャップがあって可愛かったかも。ってラーシュ?」
腕の中からじっと見つめてくる相棒の視線に気付き、マイヤは慌てた。ラーシュはラーシュだよ、と告げるもぷいっと拗ねた匣竜。一生懸命に弁明するマイヤの様子を眺め、クーリンは微笑ましい気持ちを覚える。
「ふふ、シエルもお疲れ様。勿論みんなも、ね」
アウレリアもシエルを撫でて労い、ミュルミューレも笑顔で仲間達を見渡した。
「これで解決なのですよ」
「被害者の少女も目を覚ましている頃かな?」
壬蔭は夢の主を思うと、メリノもこくりと頷く。その隣ではバイくんがぴょこんと跳ねて勝利を喜び、メリノは空に流れる雲を見上げた。
「綺麗な空、ですね」
「そうですね。透き通った色です」
蜂も倣って冬の空を振り仰ぎ、薄青の空の色を瞳に映す。
ビーツーとボクスもまた、草木と天涯が織り成す心地を胸いっぱいに満たした。晴れた日の草原、翼干しをするのに良い日和だ。暫くゆっくりしていこう、と彼が仲間を誘うと皆も其々に頷いて同意した。
空は澄み、雲は流れる。ふわふわとした穏やかな時間が、其処には在った。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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