ぬくぬく炬燵の罠

作者:天木一

「ん~、やっぱり冬の寒い日にはコタツでごろごろするのが最強だなー」
 少年がコタツに足を突っ込んで寝っ転がり、漫画を読んでいた。そして腕だけをコタツの上に伸ばし、テーブルに乗ったミカンを取る。
「コタツにミカンがあれば無敵だね」
 漫画を床に置いてミカンを剥き、一口でパクリと食べながらテレビのチャンネルを変える。
「んぐ、はぁ、もうずっとコタツで住んでたいなー」
 そんな怠惰な時を過ごしていると、足が何かに強く引っ張られた。
「わぁっ!?」
 慌てて少年がコタツ布団を捲る。するとヒーターの赤い光がまるで目のようにギロリと動き、視線が合う。
「うわっ!」
 少年は驚いて足を抜こうとする。だがコードが絡みつき足が動かない。
「熱いって!」
 オーブンのように加熱する内部から、少年はもがき足を何とか出そうとする。
 だがそこへがばっと布団が大きくなって覆い被さり、少年の全身をすっぽりと呑み込んでしまった。
「うわーーー、あ?」
 がばっと汗を掻きながら少年が起き上がる。周囲を見渡せばつけっぱなしのテレビから笑い声が聞こえる。
「あーー、夢だよね。あーびっくりしたー」
 安堵したようにごろんと少年は横になる。その胸に鍵が突き立てられた。いつの間には少年の横に女が現れ、手にした鍵を少年に刺していた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 少年が意識を失うと、そのまま女は姿を消してしまう。少年の胸には傷一つ残ってはいない。まるで今の出来事が夢であったかのように、だが眠れる少年の隣に異変が起きた。新たに巨大なコタツが突如現れたのだ。
『ビックリビックリ、人食い炬燵だぞー!』
 まるで動物のように炬燵は4本の木の足で動き出し、ドアを蹴破り出ようとするが、体がつっかえて出られない。すると方向を変え、大きな窓ガラスを突き破り、2階のベランダから寒空の外へと飛び出した。
 
「もうすっかり冬だね……寒いと暖房器具から離れられなくなっちゃう、よね。そんな冬に似合う……コタツのドリームイーターが現れる、の」
 円谷・円(デッドリバイバル・e07301)が敵が現れたとケルベロス達に告げる。
「驚く夢を見た少年が第三の魔女・ケリュネイアに襲われ、『驚き』を奪われる事件が起きたようです」
 その隣で資料を持ったセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が詳しい事件の説明を始める。
「奪った『驚き』を使い、新たなドリームイーターを生み出して、人々を襲わせようとしています。被害が出る前に、皆さんにそのドリームイーターを倒してもらいたいのです」
 放っておけば人を襲いグラビティ・チェインを集め始めてしまう。そして倒す事によって『驚き』を奪われた少年を目覚めさせる事が出来る。
「外見は大きな炬燵の形をしているようです。中に人を閉じ込めたり、高温による熱攻撃など、炬燵の影響を受けた攻撃をしてくるようです」
 見た目が炬燵とはいえ、ドリームイーターだ。油断するわけにはいかない。
「場所は深夜の住宅地です。ドリームイーターはそこで人を驚かせようと家の前で待ち伏せています。周辺に避難勧告は出していますので、敵が人を襲う前に遭遇できるでしょう」
 人を驚かせようとする欲求が強く、驚かない人間を優先的に狙ってくる。上手く利用すれば有利に戦えるだろう。
「炬燵で寝てしまう気持ちはわかりますが、炬燵のドリームイーターに襲われたいとは誰も思わないでしょう。皆さんの力でこの敵を倒し、少年を助けてあげてください」
 よろしくお願いしますとセリカが一礼し、ヘリオンの準備へ向かう。
「猫はコタツで丸くなる……コタツで眠ると猫になっちゃう、かも? コタツで寝ると風邪をひいちゃうから、ダメだって、教えてあげるんだよ」
 炬燵から連想して円が猫の眠る姿を想像し、ほのぼのとした気分になりながらも、悪い炬燵を倒そうとケルベロス達に呼びかけ、炬燵退治へと出発するのだった。


参加者
花骨牌・旭(春告花・e00213)
ルディ・アルベルト(フリードゥルフ・e02615)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
ヴィンセント・ヴォルフ(白銀の秤・e11266)
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)
結真・みこと(ょぅじょゎっょぃ・e27275)
玄乃・こころ(夢喰狩人・e28168)

■リプレイ

●冬の夜
 もう12月、そして夜も更ければ凍えんばかりの冷たい風が吹き抜ける。そんな寒さから逃げるように人々は足早に家へと帰っていく。
「わかるぜ、コタツから抜け出せないその気もち……だが俺はコタツには屈しない! 屈しないからな!」
 寒空の下、暖かなコタツが恋しいと花骨牌・旭(春告花・e00213)は体を震わせる。
「冬の味方おこた様を、驚きの道具にするなんて許せないんだよ」
 コタツを悪い事に使うのは許せないと、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)は拳を握ってぷんぷんと怒る。
「こたつかぁ、我が家にはなくってね。まだお世話になったことはないけど、冬にはピッタリそうだ。そんなものが急に動いたら確かに怖い、クモみたいに這いずり回られたら驚くのも無理ないよ」
 蜘蛛のように動き回る不気味なコタツを思い浮かべ、ルディ・アルベルト(フリードゥルフ・e02615)は僅かに顔をしかめる。
 ケルベロス達が住宅街を歩いていくと、角を曲がった道の真ん中に、横に3mはあるコタツがどーんと道を塞いでいた。その上には籠に入ったミカンが乗っていて日常感を醸し出そうとしているが、そのミカンもまたコタツに合わせて大きかった。
「コタツでみかん、良いな……あれだと、全身すっぽり、何人でも入れそう……」
 道に鎮座する巨大コタツを見ながら、ヴィンセント・ヴォルフ(白銀の秤・e11266)は皆で暖まる姿を想像して和やかな気分になるが、今は戦いに集中しようと気を取り直して周囲に殺気を放ち人払いをした。
「炬燵で蜜柑は良いけど、さすがにあの炬燵は色んな意味でダメだと思うぞ?」
 コタツを見上げた鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)はその大きさに呆れたような声を出した。
「ねーねー、ねーこおこただって!」
 コタツを指さした結真・みこと(ょぅじょゎっょぃ・e27275)がウイングキャットのねことに呼びかけると、ねことはふわふわとコタツに向かっていこうとする。
「あっだめだよねーこ! ねーこおこたの中はいったらでてこないでしょ! それにあのおこたはね、倒すんだよ!」
 みことはめっと叱ってふらふらしないように胸に抱きしめた。
「いくら炬燵でもドリームイーターなら、斃すだけ」
 表情を変えぬまま、玄乃・こころ(夢喰狩人・e28168)が淡々と言い放つ。
「そうだな、被害が出る前に倒してしまおう」
 エルボレアス・ベアルカーティス(正義・e01268)の言葉に頷き、ケルベロス達はコタツへと近づく。

●巨大炬燵
「何故炬燵がこんなところにあるのだ?」
 エルボレアスは棒読みの台詞で、眉を寄せ困惑した顔を作って傍に寄る。するとコタツが二本足で立ち上がるようにして内部の真っ赤な目のようなヒーターを見せた。
『たーべーちゃーうーぞー!!』
 そして子供っぽい声でおどろおどろしく台詞を叫んだ。
「ふえぇ……!」
 分かっていながらも本気で驚いたみことが思わず力を込めてぎゅっと抱きしめると、ねことは息苦しいと尻尾で顔を叩いた。
「な、なんだこいつはー!? コタツのお化けだとー!?」
 それを前にして旭は大袈裟に驚いてみせる。
「こ、こたつが勝手に動くなんて……」
 その流れに乗るようにルディも絶句して驚いたという顔をしてみせる。
「……わっ」
 ワンテンポずれてヴィンセントも驚きの声を上げ言葉を失ったような芝居をする。
「わー、おっきい。これなら背の高いひとでも、全身入れるね……!」
 驚きつつも嬉しそうな声を出して円はコタツを見渡した。
『そうだぞー! 驚くがいい! そしてコタツの中で永遠にぬくぬくするのだ!』
 すると気をよくしたコタツが更に驚かせようと、4本の木の脚を器用に動かして動き出し、呑み込むゆうにコタツ布団を広げた。
「っ……こんな子供騙しで驚くと思ったのか?」
 手で口元を隠して驚きを噛み殺し、口を引きつらせるような笑みを作ってみせた郁は小型ドローンを展開して戦闘態勢に入る。
「安っぽい擬態ね。せいぜい宿無し家無しの寝床がいいとこ」
 表情を全く変えずにこころが冷たい視線を向ける。その隣でミミックのガランも平然としていた。
『ビックリした? ビックリ……してないのは悪い子だー!!』
 するとコタツのヒーターの赤い光がまるで目のようにギロリと睨みつけ、こころを布団で覆い被せて拘束する。
「コタツは大好きだが、悪さをするなら退治しないとな」
 旭が手にしたスイッチを押すと、カラフルな爆発が巻き起こって仲間の士気を高める。そしてシャーマンズゴーストのからしは祈りでルディに加護を与えた。
「堂々と待ってるとは物凄い度胸だこと」
 ルディが左右にナイフを抜き放つと刀身が地獄の炎を纏う。
「あの少年の「驚き」は返してもらうよ。失くしてはいけない、大切な感情だからね」
 煙に隠れるように間合いを詰め、ルディは右の一閃で覆う布団を切り裂き左の刃を足に突き立てる。炎が伝わり布団に火が点いた。その間にこころは布団から逃れる。
『コタツ布団の傍で火を使うなー! 火事になっちゃうぞー!』
 怒ったようにコタツがヒーターを向け燃えるような高熱を放つ。それは塀を焼き、アスファルトの表面を溶かす。
「ガラン行って、護りなさい」
 こころが指示すると、ガランは前に出て身代わりに熱を浴びる。そしてこころは縛霊手で殴りつけ、霊力で相手を縛り付ける。
「人を驚かせたらダメなんだよ! おしおきするんだからっ、ねーこも行くよ!」
 みことが魔法を唱え、仲間達の呪いの力を高める。そしてねことは飛び回りながら清らかな風を送って抵抗力を上げる。
「炬燵とは人々を暖め癒すものだろう。それが人を襲うようでは破壊するしかないな」
 疾風のように駆けたエルボレアスは、背後から鋭い回し蹴りをテーブルに叩き込む。衝撃に2本足で立っていたコタツが傾き手をつくように4つ足に戻る。
「驚いた……けど、3mのこたつはちょっと羨ましいの。みんなでごろごろ出来たらいいのになぁ」
 でも今は倒さなくてはならないと、跳躍した円は巨大なハンマーをテーブルに叩きつけてひびを入れ凍りつかせた。ウイングキャットの蓬莱はコタツを興味深々に眺めながらも、翼を羽ばたかせて仲間に風を送る。
「ぬくぬくできない人喰いコタツは、壊さないと」
 ヴィンセントは竜の幻を生み出し、その口から放たれる炎がコタツ布団を燃やす。
「人を喰う炬燵なんて必要ないんだよ」
 敵が火に気を取られている間に、郁は敵の構造を見て、布団を駆け上がり脚の付け根がある位置に蹴りを打ち込んだ。
『ぬっくぬっくだ! 真っ赤に燃えるくらいだぞー!』
 布団が捲れ中から熱光線が放たれ、郁がその攻撃を受けて堪える。
「聴け」
 両腕を広げたエルボレアスは、目の前で両の掌を思い切り叩き合わせまるで落雷のような轟音を響かせる。その音は味方を鼓舞し力をみなぎらせた。
「的がでかいから、簡単に当たるな」
 横から近づいたヴィンセントが蹴りを放ち、太い木の脚にひびを入れる。するとコタツは熱光線の向きをヴィンセントへと変えようとする。
「絶対に当たる的当てだな、だが狙うなら大当たりを狙うべきだよな」
 人の背丈程もあるブレードライフルを構え郁は引き金を引く、放たれた光線は布団を貫き内部のヒーターを保護する網を撃ち砕いた。
「暖かくて気持ちよさそうだけど、その誘惑に負けるわけにはいかない!」
 旭は纏う鋼からオウガ粒子を放って仲間の感覚を目覚めさせる。
「そんなに暖かいのが好きなら、これで燃やしてあげるよ」
 腕に炎を纏ったルディは掌にそれを集めて投げつける。その炎は敵を燃やし喰らうように命を吸い上げた。
「おこたの適温はぬくぬく。あっちっちは、ダメなのです。実際、こんなおっきなコタツあったら……まさしく『夢の』アイテム、だよね」
 でも残念な事にこれは偽物だと円が足元から植物の蔦を伸ばし、コタツの四脚に絡みつかせて地面に繋ぎ止めた。
『布団に包まって、あっためるぞー!』
 がばっと布団が周囲に広がり上から覆いかぶさる。
「此処は粗大ゴミ置き場じゃ無いわ、失せなさい」
 そこへ飛び込んだこころがくるりと回転して、勢いをつけて蹴り上げ布団を上に弾いた。
「みんな、みこの魔法を受け取って! それで悪いおこたなんてやっつけちゃうんだよ!」
 みことが魔法を続けて放ち、仲間達の呪力を高め続ける。その力はコタツへの攻撃を一層強力なものにしていく。

●ぬくぬくあつあつ
『コタツといえば、これ! ミカン食べ放題だぞー!!』
 テーブルに乗っていた通常の何倍ものサイズのミカンが、まるで砲弾のように次々と飛んでくる。地面に着弾したミカンが爆発し周囲を黄色く染めた。からし、蓬莱、ガランが仲間の前に出てミカンを受け止め、黄色くなって吹き飛ばされる。
「食べ物を粗末にするな」
 エルボレアスは薬液の炎を降らせ、ミカンの汚れを消し去ってゆく。
「手の内はこれだけか? なら次はこっちの番だ、みんなガツガツ殴ってくれ!」
 スイッチを手にした旭が起こす爆発が仲間の力を高め、攻撃の鋭さが増す。
「もうこたつとして使えないように切り刻もうか」
 ルディは相手の周囲を回りながら、両手のナイフで幾度も布団を斬りつけてゆく。
『布団に穴が空いたら熱が逃げてしまうだろー!』
 それを止めようと布団を覆いかぶせるが、間に合わずにルディは駆け抜けて間合いを離した。
「帰ったらおこたが待ってるの、だからそれまで蓬莱も我慢してね」
 円がコタツに入りたそうにしている蓬莱に呼びかけながら、植物を獣の口のように変化させて布団に食らいつかせる。食い千切った部位から綿が溢れ出た。それを蓬莱が爪で引っ搔いて傷を広げ大きな穴を空けた。
『ああ、穴が?! 許さんぞー!』
 コタツは空いた穴から熱光線を通して蓬莱を吹き飛ばした。
「……冷たいの、嫌いではないかと、思って」
 ヴィンセントがフルスイングしてハンマーを叩き込み、脚をアスファルトに縫い付けるように凍らせる。
「少しは炬燵らしく大人しくしてろ」
 郁がグラビティでライフルを形成しエネルギー弾を撃ち出す。弾は凍り付いた脚に着弾し、そこから全身に電流を流して動きを鈍らせた。
『おいしいミカンで爪の先まで黄色くなれ!』
 ミカンの爆弾が周囲にばら撒かれる。駆け寄ったみことが飛び蹴りを当ててミカンを打ち返した。
「べーだ! みこはこっちだよ!」
 そしてあっかんべーをしたみことが後方へ回り込むと、コタツもそれを追うように脚に絡みつく蔦や凍ったアスファルトを削りながらゆっくり反転した。
「ゴミに出しやすいように、粉々に砕いてあげるわ」
 そこでヒーターについた目とこころの視線が合わさる。赤く熱されたヒーターに視線を向けたこころが精神を集中すると、爆発が起こりヒーターの光が弱くなった。
『ぐわぁっ、ヒーターが強にできなくなっているだと!? これでは気持ちのいい適温になってしまう!!』
 熱を弱めたコタツが内部のつまみを弄り、何とか火力を上げようと悪戦苦闘する。
「いくら大きくて、全身が入ってぬくぬくできそうなコタツだからって……俺はコタツには屈しない!」
 今にもコタツに飛び込みたいという誘惑を断ち切り、旭は鋼を纏った拳を叩き込んで脚を一本砕いた。
『遠慮せずにぬくぬくポカポカしていけ!』
 コタツが熱を放つと、からしが対抗して炎を放ちながら防ぐ。
「嚙み砕いて跡形もなく消し去ってあげるよ」
 ルディが青い炎を纏うと、それが猟犬のようにコタツに襲い掛かり布団をずだずだに引き裂いた。
『よくも布団を! 許さんぞー!』
 コタツが二本足で立ち上がりルディに覆い被さろうとする。
「炬燵が動いては熱が逃げてしまうだろう」
 エルボレアスは降魔の力を籠めた腕でコタツの脚を受け止め、ちゃぶ台返しのようにひっくり返した。
「おこたはおうちではいるものなんだよ!」
 跳躍したみことは裏返ったコタツに斧を振り下ろし、巨大な刃がヒーターを叩き割る。
『よくもこんな! ヒーターが壊れてはただのテーブルになってしまう!』
 穴だらけの布団を動かして起き上がり、コタツは潰れたミカンを飛ばしてくる。
「食べられないみかんはお断りするよ」
 ヴィンセントが腕を振るうと魔法の刃が放たれ、飛んでくるミカンを切断して爆発させ、そのまま脚を一本断ち切った。
「みかんも炬燵も廃棄処分してやる」
 更に郁もライフルでミカンを撃ち落とし、コタツを穴だらけにしていく。
『やめろっ、冬はコタツでぬくぬくと眠ればいいものを、どうして抵抗する!』
「伽藍開封、断滅……逝きなさい」
 こころが命じると、ガランが変形、巨大化して大砲と成り、エクトプラズムを濁流のように吐き出した。それに呑み込まれたコタツは全身がぼろぼろに朽ち果てていく。
「コタツで寝ると風邪をひいちゃうから、ダメなんだよ」
 魅力的だけどコタツには入るのは我慢すると、コタツを蹴って頭上を取った円は全力でハンマーをテーブルに振り下ろした。
 重い一撃はコタツを真っ二つに割り、両側に倒れた残骸は幻のように消え去った。

●暖かな家
 ケルベロス達は壊れた道にヒールを掛けていく。
「少年の意識も戻ったようね。ドリームイーターの被害者が出る前で良かったわ」
 家の中から漏れる子供の声が聴き取り、こころが口元を少し緩めた。
「こたつに入ってみたいなぁ……ねぇ、旭、キミん家こたつあったっけ? 今度入らせて」
「え、ルディコタツ入ったことないの!? それは絶対損してるって! いいぞ、今度入りに来い、日本の冬の楽しみを教えてやるよ」
 ルディが日本に来てからまだコタツに入った事がないと言うと、旭が食い気味にコタツの楽しみ方を力説した。
「炬燵か……近頃は寒くなってきたし、これを期に買ってみようか……」
 皆の話を聞いていると自分も欲しくなったとエルボレアスが購入を考える。
「炬燵かー、うちでも買おうかな」
「どんなの買うの?」
 郁の言葉にヴィンセントが尋ねる。
「買うんなら普通にのんびり温まれそうな炬燵が良いな……」
「うちには猫もいるから、楽しみだ、な。みかんも欲しい」
 流石に勝手に動いたりするようなのは御免だと郁が笑い、ヴィンセントは家にコタツを買ったら猫も一緒に丸々ってぬくぬくする姿を想像して微笑んだ。
「おそとはさむいんだよ、でもねーこがいたらあったかいね!」
 寒そうに震えたみことがねことをぱふっと抱きしめる。ねことは仕方がないとばかりに丸まって大きな欠伸をした。
「もうお外は寒いから、帰って温まりたいの。例えば……そう、こたつと、その中を陣取るねことかで」
 白い息を吐く円の言葉に、蓬莱は翼をパタパタと機嫌良さそうに動かしながら早く帰ろうと先導する。
 ヒールを終えすっかり冷え切ったケルベロス達は、早く帰って暖まろうとそれを追うように足早に歩き出した。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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