
もう誰にも使われなくなった倉庫の隅に、小さなクリスマスツリーがあった。
古びた、安物のツリーセットだ。飾りは剥がれ落ち、壊れた電飾がだらりと垂れ下がっている。
そのツリーの幹を、蜘蛛みたいな小型ダモクレスが這い上がっていた。
その姿が葉に隠れ、次の瞬間、ツリー全体を眩い光が包む。
『クリスマス、クリースマス』
機械的なヒールを施されてロボと化したツリーは、大きくなった体をぶるりと震わせた。埃ひとつない葉をピカピカ光る電飾が彩る。
『タリナイ、タリナーイ』
だが、どこか不満そうに唸ると、ロボツリーは近くの瓦礫を物色し始めた。
ハロウィンからこちら、街は衣替えのようにクリスマスムードを醸しだし、十二月に入った今ではそれはいっそう深いものになっている。
「こんな時期だからかな。玩具のクリスマスツリーがダモクレスになるなんてさ」
遠く街並みから視線を外し、ティトリート・コットン(ドワーフのヘリオライダー・en0245)はケルベロスたちに向き直った。
「場所は郊外の廃倉庫。壁面は崩れてて窓ガラスも割れてる、いつ取り壊されてもおかしくない建物だよ。そこでクリスマスツリーのダモクレス――長いからロボツリーって言うけど――が何かごそごそしてる」
「ごそごそしている、というのは?」
テレビウムを抱いた薄紅色の髪の忍者――苑上・郁(糸遊・e29406)が疑問を口にした。
「もしや、怪しい企みでしょうか?」
「ううん。なんか、自分の体に飾りが付いてないのが不満みたいでさ。倉庫の中に転がってる物を片っ端から自分にくっつけてるんだよ」
そして倉庫内には崩れた壁の破片が多く転がっていて、その結果、ロボツリーは瓦礫を装着したような見た目になっているという。
「でも綺麗じゃないからまだ満足してないみたい」
納得のいくオーナメントを求め、いずれそう遠くないうちに人を襲いだすだろう。そうなる前に倒さねばならない。
「そういう性質ですか……。でしたら、綺麗な飾りがあれば、それを身に着けるために攻撃の手を緩めたりするのでしょうか」
郁の推測にティトリートが頷いた。その可能性は高い。
「ロボツリーとしてはクリスマスの準備をしてるつもりなんだろうけど、それで危害を加えられちゃたまったものじゃない。鮮やかな解決をよろしくね」
参加者 | |
---|---|
![]() 月織・宿利(ツクヨミ・e01366) |
![]() 峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366) |
![]() 揚・藍月(青龍・e04638) |
![]() アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107) |
![]() 箱島・キサラ(チェイサー・e15354) |
![]() カシオペア・ネレイス(秘密結社オリュンポスメイド長・e23468) |
![]() 苑上・郁(糸遊・e29406) |
![]() アドナ・カテルヴァ(ドラゴニアンの降魔拳士・e34082) |
●灰色ロボツリー
廃倉庫の隅っこ、崩れた建材のそばにクリスマスツリー型ダモクレス――ロボツリーは屈んでいた。
せっせと瓦礫を拾っては体にくっつけている。その姿はまさに一心不乱で、入口から中を窺うケルベロスたちにはまったく気付いてそうにない。
「クリスマスツリー……そういえば、もうそんな時期でしたか」
そろそろ私も準備しないといけませんね――そう呟いたのはカシオペア・ネレイス(秘密結社オリュンポスメイド長・e23468)だ。大組織のクリスマス準備ともなると大変そうだが、カシオペアに気負った所はない。淡々と今後の予定を確認してから、改めてロボツリーを観察する。
「それにしても、いくら飾りがないからとはいえ、瓦礫を使うのは杜撰の一言の気がしますね。本格的なクリスマスツリーの飾りを用意して、飾りつけをして貰うと致しましょう」
「ええ、せっかくのクリスマスツリーですもの。灰色ばかりの瓦礫の飾りなんて、物足りないに決まっていますわよね」
同じように考えていた箱島・キサラ(チェイサー・e15354)がオーナメントを取り出す。ツリーの天辺に飾るトップスターだ。美しいきらきら星に、ボクスドラゴンの紅龍が目を輝かせる。
「きゅああっあーきゅああっあーきゅあきゅあきゅー♪」
「クリスマスか……此処まで規模が大きくなると術にもなりそうだね」
ジングルベルのリズムで唄う『弟』の頭をポンと撫でつつ、揚・藍月(青龍・e04638)も飾り用の光り物を集めた小袋を取り出した。クリスマスという習慣にこそあまり馴染みがない藍月だが、昔は弟と一緒にきらきらした物を集めたものだ。懐かしむように細めた目を小袋に落とす。
「飾って満足しても大人しくしてくれるような子じゃないと思うのよね。ダモクレスだし」
指先に小さなベルを摘むアイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)だが、静かに紡いだ発言は冬の外気よりも冷たい。
「クリスマス近いところ悪いけど、処分するしかないわね」
「外に出て人を百舌鳥の早贄みたいに飾り付け出す前に、終わってもらわないとね……」
ケルベロスコートのポケットに手を入れたまま峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)が頷く。アイオーニオンと恵の主張は正しく、討伐はこの件に臨む全員の意志でもある。
「寂しい場所にたった独りでいるツリーさん……」
ロボツリーが街中に出たら多大な混乱が起こるだろう。だから――。
テレビウムの玉響――ユラを抱いて、苑上・郁(糸遊・e29406)は倉庫内に踏み入った。
「ここで一緒に遊びましょう」
郁の呼びかけに対し、ロボツリーは緩慢な動きで向き直った。瓦礫をいくつも重そうにぶら下げた姿はお世辞にも綺麗とは言えない。
「クリスマスツリーならお洒落したいよね。倒さないわけにはいかないけど、目一杯キレイしちゃおう」
それを見かねた、というわけでもないが、楽しげにアドナ・カテルヴァ(ドラゴニアンの降魔拳士・e34082)がクリスマスリースを手にする。
「そうだね。ロボツリーさん、キラキラいっぱい着飾って……」
オルトロスの成親を伴った月織・宿利(ツクヨミ・e01366)が郁の隣に立ち、懐に手を入れた。それに反応してロボツリーが体から瓦礫を一つ剥がし、振りかぶる。
だが倉庫に響いたのは投じられた瓦礫が砕ける音ではなかった。
カツ、ン……。
宿利の手からこぼれた丸い、きらきら光るボールが床を跳ねる。
『オーナメント、オォーナメント』
瓦礫を取り落として、まるで目を奪われたようにロボツリーが転がるボールに手を伸ばし――。
直後、輝く飾りの数々が大音響とともにケルベロスたちから拡がった。
●拡がるきらめき
恵がポケットから取り出した大量のオーナメント、キサラが投げたベルや色付き松ぼっくり、アイオーニオンがばら撒いた小型ベル、郁がキラキラリボンでラッピングしたクッキーのクリスマス飾り。
室内を転がり拡がるそれらは、ロボツリーには宝物の波に見えたかもしれない。
「貴殿はこういうのが好きだと聞いた」
闘いの前に挨拶というのもなかなかない経験だ――そう思いながら藍月が投げたのは、先ほどの小袋だ。ロボツリーの足下で跳ね、中から煌びやかなネックレスや石……藍月と紅龍が厳選した光り物グッズがこぼれ出てくる。
『ネックレス、ネーックレス』
目移りするようにきょろきょろしていたロボツリーがネックレスを拾った。先ほどまで瓦礫があった場所にいそいそ貼り付ける。
ロボツリーの魅力度がちょっぴりアップ。
『オーナメント、オォーナメント。タクサン、タークサン』
「この飾りはわたくしたちからのプレゼントですわ」
散らばった飾りの数々や、紅龍が「きゅあー!」と泣きそうな声で放出しているぴかぴかした星や雪の飾りを、ロボツリーが喜々とした様子で追いかける。その背後に忍び寄ったキサラの指輪から、眩い光が細く伸びた。
「どうぞ心ゆくまで着飾ってくださいませ。わたくしたちがあなたの素敵な飾り付け、手伝って差し上げてよ」
形成した光の細剣をためらいなく突き込む。
『クリスマァー!』
優しい囁きとともに繰り出された刺突はツリーを貫通し、前面の瓦礫を一つ突き剥がした。機械的な絶叫の中、重い音を立てて瓦礫が床に落ちる。
新しい飾りを付けるためには瓦礫を外さねばならないが、この『手伝い』は気に入らなかったらしい。振り返ったロボツリーが胸部の瓦礫を外すや、キサラに横殴りに叩き込む。
その瓦礫が砕け散ったとき、キサラとロボツリーの間に立っていたのは宿利だった。すかさず、瓦礫を砕いた縛霊手を鋭く翻す。手刀のような一撃はロボツリーを浅く削り、その部分を氷結させる。さらに同じ箇所を稲妻突きが襲った。
「ぴかぴか光る飾りは如何ですか?」
郁の声は届いただろうか。被弾箇所を中心に発生するスパークに全身を彩られ、ロボツリーが不器用なタップを踏む。
『シビ、シビーレ』
「追加です」
ようやく痙攣が治まってきたところでカシオペアが時間延長とばかりに稲妻突き。再び雷撃がロボツリーを内から蝕む。だが慣れたのか、今度は先ほどより短い時間で戦闘行動を再開。また一つ瓦礫を剥がし、振りかぶる。
そのとき、涼やかな音を響かせ、小型のベルの飾りがロボツリーの前を舞った。
「いろんな色のベルがあるわよ。欲しければあげてもいいけど?」
『ベル、ベール♪』
「まぁ取っても取らなくても容赦なく倒すまで」
跳躍したアイオーニオンが告げたときには、鋭利な軌跡を描いた蹴り足はロボツリーにめりこんでいる。人間なら顔面に相当するであろう位置への痛撃にロボツリーが吹き飛び、壁に衝突する。
「あなたに芽生えた感情はツリーじゃなく、ダモクレスの意思だもの。倉庫で眠って貰うわ」
軽やかに着地し、アイオーニオンは常と変わらぬ冷徹な視線をよろめくロボツリーに向けた。
●飾り足りたロボツリー
『オーナメント、オォーナメント!』
唸りを上げて倉庫内を飛ぶのは、ついさっきまでオーナメント代わりだったいくつもの瓦礫だ。人の頭くらいなら簡単に潰せそうなそれが、後衛たちへと精確に飛来する。
「ボクに任せて」
恵の指輪が瞬き、次の瞬間、彼女のそばには光の盾が浮遊していた。マインドシールドは音もなく空を翔けると、カシオペアを守る形で瓦礫と衝突し、これを防ぎきる。
「きゅあきゅあきゅあー!」
飛来する質量に、サーヴァントたちも奮闘していた。自ら飛び込んで瓦礫を受け止める紅龍に、凶器で打ち落とそうとして逆に跳ね飛ばされるユラ、パイロキネシスの炎で破壊して損耗を抑える成親。
次々と床面に着弾しては砕け散る瓦礫をなめらかに回避して、アドナが接敵する。
「ロボツリーさん」
呼びかけるアドナを――正確にはその手のクリスマスリースを――見て、ロボツリーの攻撃が止まる。
「どんな飾りがお好みかなー?」
『リース、リィー……ッ!?』
投げられたリースをロボツリーがキャッチした瞬間、アドナの右手が閃いた。
命中重視で叩きつけた降魔の拳はロボツリーの右半身にめり込んだ。鈍く硬質な音を立ててロボの肩部がひしゃげる。あの負傷ではもう、今しがたのような激しい攻撃は繰り出せまい。
いや、それ以前にロボツリーの攻撃手段は乏しくなってきていた。度重なるケルベロスたちの猛攻で体中がグラビティの炎・氷・毒に侵され、動きのキレも悪くなっている一方で、その全身を彩るのは煌びやかなオーナメントだ。キラキラしたモール飾りやラッピングクッキー、チョコ入りオーナメントボールに、さやさやと優しい音色を奏でるベル――贅沢極まりない数のそれらの中に、瓦礫はもうない。
ロボツリーがさらにそこへリースを加える。しかし、どこか物足りない。
「これがないといけませんでしょう?」
そうキサラが差し出したのはトップスター。受け取ったロボツリーが、それを自らの頂点へ器用に設置する。
星を得たツリー。手足付きなことを除けば、それは立派なクリスマスツリーだった。
『ウレシイ、ウレシーイ』
「満足した? それじゃあ斬るわね」
アイオーニオンの氷のメスが、喜ぶロボツリーの体を横切った。オーナメントを避けた斬撃は深くロボを抉り、動きを鈍らせる。それでもアイオーニオンに向かったロボツリーだが、反撃の拳は宿利の縛霊手ががっちり受け止めた。動きの固まった隙を見逃さず、藍月のケイオスランサーが横合いからロボツリーを貫通する。
「もう動きもぎこちないですね」
カシオペアの双槍が旋回し、直後、穂先は百の地獄と化してロボツリーを突き上げていた。巨体が嘘のように宙を舞う。
ふと宿利が振り返り、郁と目が合った。二人の微笑みが重なる。
「行きますよ、宿利さん」
「行きましょう、郁ちゃん」
宿利が床を蹴った。見惚れてしまうほど凛々しい眼差しを追いかけて、郁もまた跳躍する。
上を跳ぶ宿利が追い付いてきた郁の手を引き上げ、さらに上方へと導く。その先にいるのは打ち上げられたロボツリーだ。
「光り輝いてとても綺麗……」
最初の瓦礫まみれとは雲泥の差だ。ウレシイ、と喜んでいた姿をそっと思い返しながら、手を差し伸べる。
「天上へ送ってあげるから、煌めく星の一つになぁれ」
郁の手に集った螺旋が、ロボツリーの最期のオーナメントとなった。
●温かいお茶でも如何でしょう?
「さて、どうなるか……」
少々の思案の後、藍月は爆破スイッチを押し込んだ。盛大な爆音とともにカラフルな煙が壊れた壁や床を覆い、数秒後、破損していた箇所はそこだけ色鮮やかに修復していた。
物が物なだけに躊躇いもあったが、これなら充分だ。次の破損箇所へと藍月は再びスイッチを押した。
「持ち込んだ分はちゃんと持って帰らないとね」
恵はオーナメントを回収していた。
「……なんかのデウスエクスのネタにされても困るし」
説得力ある理由だった。
とはいえ皆が片付けるのはそれだけが理由ではなく。郁が提案したクリスマス会のためでもある。
白いクロスの敷かれた丸テーブルには、オーナメント用に持ってきたお菓子が並んでいる。
「えっとぉ、この立派なテーブルはいったいどこから……?」
「お茶会ということで、私が用意させていただきました」
アドナの当然の疑問に答えたのはカシオペアだ。
「せっかくあちらにツリー(残骸)があることですし、これここにクリスマスケーキのようなものも用意しておりますが、如何でしょう?」
「わ、喜んで! でもそんな豪華なの、どこから出したの……!?」
デキるメイドには秘密が多いのである。
「長い間放置されていたのでしょうね……できたら、普通のツリーとして飾られた姿を見たかったですわ」
帰ったらわたくしも物置から出してあげませんと――片付けを終えて、キサラはツリーのなれの果てを見ていたが、やがて紅茶のカップに口をつけた。
「はぁ……やはりほっとできますわね」
幸せそうに口元を綻ばせるキサラの二つ隣の席で、アイオーニオンがクッキーをさくりと口にする。少しくらい楽しんでも罰は当たらないでしょう――ほのかな甘みを味わう。
「宿利さん、このクッキーをどうぞ」
「ありがとう郁ちゃん。私からはこれを」
各々のサーヴァントを抱いて暖を取る女子二人。星型のクッキーと星型のチョコレート、お星さまの交換に郁と宿利が微笑む。
「そうだ、帰りにプレゼントでも見ていきませんか?」
「うん。プレゼント、何が良いかしら……今からクリスマスが待ち遠しいね」
ふと見上げた窓の向こう、空はもう暗みがかっている。
だんだん深くなる夜の中に星が一つ瞬いていた。
作者:吉北遥人 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
![]() 公開:2016年12月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
|
||
![]() あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
![]() シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|