ワタシ、キレイ?

作者:麻香水娜

「女性はすべからく美しい! 口裂け女だろうと美しい筈だ!」
 御園・礼二が住宅街で1人力説する。
「学校帰りの子供にしか声をかけないと言うのだから、この時間に見張っていれば現れる筈! さぁ! 僕に君の美しさを見せておくれ!」
 恥も何も感じないマイペースさを持つ礼二に通り過ぎる学校帰りの小学生が眉を顰めたり、冷ややかな視線を送っていた。
 通り過ぎる小学生達がほぼいなくなった頃――。
「やはり僕じゃ出てきてくれないよね……また明日出直そう……」
 礼二が歩き出すと、いきなり何かで心臓を穿たれ、道路の上に倒れてしまった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 大きな鍵を持った黒いローブ魔女・アウゲイアスが一人ごちる。
 その傍らには、モザイクのマスクをかけた赤い服の女性が立っていた。
 
「口裂け女も色々なバリエーションがあるようですね」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)がスマホを見ながら呟く。
「ポマードが苦手とか聞いたことあるんだよ」
 アリサ・ロードレット(オラトリオの鎧装騎兵・e25161)が言うのは口裂け女から逃げる際の対処法だ。
 蒼梧が見た予知では、1人の青年が口裂け女に『興味』を持ち、子供達が多く下校している住宅街の道で口裂け女を探していた。
「『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪った『興味』を元にして現実化した赤い服の女性が事件を起こそうとしているようです」
 被害が出る前に女性ドリームイーターを撃破して欲しいと続けた。
「ドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われた青年は目を覚ますでしょう」
 時刻は16時すぎの住宅街。丁度子供達の殆どが帰宅をして周囲に人がいなくなった頃合。
「赤い服に赤い靴、赤い帽子を被って、かけているマスクがモザイクになっておりますので、一般の女性と見間違える事はないでしょう」
 最初に『ワタシ、キレイ?』と訊ねてきて、マスクを外して裂けた口を見せながら『ワタシはだぁれ?』等と訊ねてくる。問われて正しく対応できなければ襲ってくるようだ。
 つまり『お姉さん』『口裂け女』等の答えであれば襲われない。しかし、『妖怪』『化け物』等と答えると襲ってくるそうだ。
「この特性を使って、戦闘を有利に運ぶようにできるかもしれません」
 続いてドリームイーターが使うグラビティの説明が続けられる。
 口裂け女は高速で走る事ができるとされているだけあって、動きが早いようだ。
「随分とフェミニストな方のようですが……都市伝説に会いたいとは筋金入りと言いますか……しかし、純粋な『興味』です。それを奪って化け物を生み出すなど言語道断。どうか、ドリームイーターの撃破をお願い致します」


参加者
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
天照・葵依(蒼天の剣・e15383)
ルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)
アリサ・ロードレット(オラトリオの鎧装騎兵・e25161)
左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)
天原・俊輝(レプリカントの刀剣士・e28879)
ヒメル・カルミンロート(セブンスヘブン・e33233)

■リプレイ

●口裂け女って?
「少し調べてみたが、情報が多岐に渡り過ぎて追い払う方法もどれが当てはまるやらわからんが、どれもが子供の空想っぽいのが面白いな」
 事前に口裂け女について調べてみた左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)が思い出したように口を開いた。
「口裂け女か……都会には怖い話が結構あるんだね」
 僕に取って一番怖いのは那岐姉さんの拳骨だけど、と源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)が何かを思い出したように震えている。
「……子供の時流行ったな……」
 仲間達の話を聞きながら天原・俊輝(レプリカントの刀剣士・e28879)がぽつりとひとりごちる。
 口裂け女が社会現象にまでなったのを実際に子供の頃に経験しているのだ。
「……?」
 俊輝の少し後ろで会話を聞いていたエヴゲーニャ・アヴェルチェフ(エヘイエ・e26805)が、自分の口の両端に手をやって首を傾げる。何故口が裂けているのかが不思議なようだ。
「口裂け女って都市伝説だっけ? じゃあ妖怪さんだよね!」
 ルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)が明るく笑う。
「諸説あるが、精神を患った女性が口紅を顔の下半分に塗りたくった姿や、整形手術に失敗した女性の姿という説が多かったから、妖怪というわけではなさそうだが……聞かれて答える時はそれで攻撃を引き寄せられる、とはヘリオライダーも言っていたな」
 十郎がルルの解釈に思考を巡らせながら、だから『妖怪』でも間違った答えになるのか、と納得した。
 口が裂けている事が疑問だったエヴゲーニャは、十郎の話で答えが得られたようですっきりした顔になる。
「こちらは完了だ」
 使った残りのキープアウトテープを手に持った天照・葵依(蒼天の剣・e15383)がゆっくりと近付いてきた。
「キープアウトテープのこっち側には一般人いないし、剣気解放使って無気力にして言う事聞かせなきゃいけないって事はなさそうかしら?」
 口裂け女を発見した時に、一般人が近くにいれば避難させようと思っていたヒメル・カルミンロート(セブンスヘブン・e33233)が周囲を確認して必要がないと判断する。
「あ、いた。この倒れてるのが御園・礼二さんなんだね。一応ちょっと離れたところで寝ててもらうんだよ」
 アリサ・ロードレット(オラトリオの鎧装騎兵・e25161)は、ドリームイーターに『興味』を奪われて倒れている被害者を見つけて、葵依が貼ったキープアウトテープの外側に引きずっていった。
「全部終わったらレイジにイタズラしちゃおうかしら……」
 引きずられていく礼二を見ながら、ヒメルがいたずらっぽく笑う。
「赤い服に赤い靴、赤い帽子でモザイクのマスク……」
 俊輝は、アリサが礼二を引きずっていくのを見ながら周囲を注意深く観察した。
「あれ、かな」
 瑠璃が何かを見つけて口を開く。
 全員がその視線の先を見ると――予知の情報通りの口裂け女ドリームイーターがいた。

●ワタシ、キレイ?
 口裂け女がケルベロス達に近付いてくる。
『ワタシ、キレイ?』
 口裂け女の定番台詞。
「あなたがキレイか、ですって? 一番キレイなのはこのヒメル様よ!」
 口裂け女の問い掛けにヒメルが自信満々に断言した。
『……』
 そんな予想外の返答をされるとは思わなかった口裂け女は、一瞬だけ拍子抜けしたように戸惑う。しかし、気を取り直したようにモザイクのマスクを外した。
『キレイでしょ? ほら、アナタよりキレイ。ねぇ、キレイなワタシはだぁれ?』
 耳まで口が裂けた恐ろしい顔を見せつける口裂け女は問いを重ねる。
「くっ、口裂け女ーーーーーーーーーーーーッ!!」
 葵依が大声で叫びながら一気に後ずさった。
「あれはデウスエクス……あれはデウスエクス……」
 演技ではなく本当に怖がっているようで、ぶつぶつ呟きながら何度も自分の左手に『人』の文字を指で書いては飲み込み、冷静になろうと必死になっている。
(「お話だけでも怖いけど、現実に出てくると……『超怖い』んだよ」)
 マスクを外した口元を見たアリサも恐怖に顔を強張らせた。
「お、お姉さんなんだよ」
 顔を引きつらせたまま正解を答える。
「妖怪さん!」
「化け物としか言いようがねぇな」
 ルルが明るく元気に答えると、十郎が冷静に何食わぬ顔で吐き捨てた。
『誰が化け物なの!!』
 怒りの形相で叫んだドリームイーターは、その大きな口で十郎の右腕に噛み付く。
「……っ」
 口裂け女を振り払って後ろに飛び退いた十郎は左手で傷口をおさえた。

●都市伝説退治!
「あれはデウスエクスだ、しっかりしろ」
 葵依がパンッと頬を両手で挟むように打ち付けて気合を入れる。
 引き締まった表情でケルベロスチェインで地面に魔方陣を描き、前衛の仲間達に守護を与えた。
 先程口裂け女に噛み付かれた十郎の傷も回復させながら、力の入らなくなってしまった腕に力を取り戻させる。
 そこへ葵依のサーヴァントであるボクスドラゴンの月詠が、十郎に駆け寄って属性インストールで治りきらなかった傷を癒して耐性をつけさせた。
「ありがとう。じゃ、まずは……っ!」
 葵依に笑顔で礼を述べた瑠璃は、十郎に振り払われて体勢を崩した口裂け女に、思い切り殺神ウィルスを投射する。
『ク……ッ!』
 口裂け女は左腕を顔の前に翳して、カプセルが当たった瞬間腕を振り払ったが、腕に当たった途端にカプセルから飛び散ったウィルスを吸い込んでしまった。
「都市伝説ってあんまり詳しくないけど妖怪さんでしょ!」
 ビシっと言い切ったルルがペトリフィケイションを放つ。
『妖怪じゃないワ!!』
 体勢を立て直した口裂け女は、即座に高く飛び上がりながらひらりと右へ飛び退いて交わしてしまった。
 そこへルルのサーヴァントであるイコが可愛らしい凶器を振りかざしながら突進する。
『!?』
 地面に着地したところにイコの凶器が脚を思い切り殴りつけた。
『ア、アア……』
 口裂け女が何かに怯えるような表情を浮かべる。
「まさか実物を見るとはね……」
 ぽつりと呟いた俊輝が一気に距離をつめて絶空斬で傷口を広げ、サーヴァントの美雨がポルターガイストで周辺の石や空き缶を浴びせた。
「聞こえるか、森の守り手達の唸り声が」
 静かに口を開いた十郎のあ影から闇色の狼の群れが呼び出され、一斉に口裂け女に向かって飛び掛かる。咄嗟に空中に逃げようとした口裂け女だったが、美雨のポルターガイストで浴びせられて周辺に散らばった石に躓いて体勢を崩してしまい、狼達の鋭い牙が肩や脚を引き裂いた。
「……」
 じっと口裂け女を見据えたエヴゲーニャが熾炎業炎砲で炎弾を放ち炎で包む。
「いくんだよっ」
 アリサが爆炎の魔力を込めた弾丸を大量に連射して、サーヴァントのニャーゴ大佐が弾丸と一緒にキャットリングを飛ばした。
「そんな大きすぎる口でヒメルよりキレイなわけがないじゃない! ヒメルの方がキレイでしょ!」
 ヒメルが『アナタよりキレイ』と言われた事に思わず大声を上げながら真っ赤なバールを刀のように振るって絶空斬で傷口を的確に斬り広げる。
『……!! ワタシの方がキレイよ!!』
 重なるダメージに苦しそうに顔を歪める口裂け女は、体のあちこちの傷をモザイクで埋めた。特に傷の大きかった脚の傷を殆ど治し、見えていたトラウマを消し去って脚の動きを取り戻す。
「傷はそこまで回復してないみたいだけど、動きが戻っちゃったね。だったら……っ」
 殺神ウイルスの効果で傷はそこまで回復していないが、随分動きが良くなってしまったと瑠璃が時空凍結弾を放った。が、口裂け女はふわりと飛び上がるように大きく左に避けてしまう。
 回復する口裂け女に、葵依は念には念をと、紙兵を大量にばら撒いて前衛の仲間達を守護させた。その隣から月詠は主人が支援をしているならばと、ボクスブレスを放射する。しかし、それも大きく後ろに飛び退いてブレスが届かないところまで逃げてしまった。
「もう! 逃げないでよ妖怪さん!」
『妖怪じゃないって言ッテルでしょ!!』
 飛び上がったルルがスターゲイザーを放つと、またしてもひらりとかわしてしまう。再び凶器を振りかざしたイコだったが、その攻撃は見切ったと言わんばかりの口裂け女は軽々と回避してしまった。
「動きが随分よくなりましたね……美雨!」
 俊輝の声に美雨が金縛りにして動きを封じたところに、俊輝がコアブラスターを放つ。
『……ッ!! ギャアアアアアアアア!!!!』
 冷たい空気を切り裂くような絶叫が響き渡った。

●イタズラ? 注意?
「凄く怖いお姉さんだったなあ……早く帰って姉さんの笑顔みたいかも」
 背中から倒れ、傷口からモザイクを噴出させながら消えてしまった口裂け女のいた場所を見ながら瑠璃がぼそりと呟く。一番怖いのは怒らせた姉だと言いつつも、優しい笑顔は大好きだから。
「確かに恐ろしい敵だった」
 葵依が、口裂け女を見た時はのうろたえようを思い出してこっそり頬を染めながらしみじみ口を開いた。
「でも、被害が出る前で良かったよね!」
「えぇ、子供の頃によく聞いた口裂け女と戦う事になるとは思いませんでしたけど」
 ルルが明るく笑い、俊輝が穏やかに微笑む。
「あ、レイジの様子見てこなくっちゃね」
 イタズラを目論んでいるヒメルが、大きめのマスクを取り出して装着した。口裂け女のフリをするつもりらしい。
「イタズラはともかく、目が覚めてまだウロウロする気なら止めなくちゃなんだよ」
 アリサもヒメルの後を追ってレイジを運んだ場所に向かった。
「やれやれ……20歳も過ぎて何やってたんだかなぁ……俺もちと行ってくるわ」
 周辺の片付けをしていた十郎も2人の後をのんびり歩いていく。
 ヒールや片付けが終わり、他の5人もレイジの下へ訪れようと歩き出した一番後ろ――。
(「主よ……今日も無事務めを果たせました」)
 エヴゲーニャが両手を組んで祈りを捧げた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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