刑事さん……俺がやりました……。

作者:深淵どっと


 暗い小さな個室。その中央には質素な事務机と、スタンドタイプのライトが置かれていた。
 パイプ椅子に座り、机の上に置かれたカツ丼を見下ろしながら、男は1人、呟く。
「……田舎のお袋、泣いてるかなぁ」
 さながらそれは、刑事モノのドラマに出てくる取調室。
 丼の蓋を開ければ、立ち昇る湯気、そして汁に浸された卵とカツの芳醇な香り。
「……シチュエーションもカツ丼の味も完璧なんだけどな……何が、いけなかったのかな」
 見た目からは想像も付かないが、そこは食堂である……いや、『だった』。
 刑事モノドラマの犯人気分が味わえる『取調食堂』。あまりにニッチな需要だったためか、一瞬だけ話題に上がったきり、結果はご覧の有様である。
「くそっ、やっぱり1週間に1回は殺人事件が起こるサスペンス食堂にするべきだったか……!」
「……そういう問題ではないと思うけど、その『後悔』、奪わせてもらいます」
 店主の男が口惜しげに机を叩いた瞬間、不意に声が響いた。
 そして、椅子に座った店主が振り向く間も無く、その背中に鍵が突き立てられる。
 不思議な事に、倒れた店主に外傷は見当たらない。しかし、意識を失った彼の隣で、モザイクの塊が奇妙な形を作り始めていたのだった……。


「しかし、実際に警察の取り調べでカツ丼を提供すると違法になるそうだな。そもそも、何故カツ丼なんだ?」
「ふむ、お袋の味と言うイメージはないですね。出前で取れると言う意味ならラーメンでも……」
「やはり絵面の問題か? カツ丼の力強さは刑事の男気と言う側面を……あぁ、失敬、早々に話が逸れてしまったな」
 チャールストン・ダニエルソン(グレイゴースト・e03596)との、謎の談義で盛り上がっていたフレデリック・ロックス(蒼森のヘリオライダー・en0057)だが、ケルベロスたちの姿を確認すると小さく咳払いをして、話を中断する。
「改めて……ドリームイーターの活動を確認した。今回は経営難から店を潰してしまったある店主の『後悔』から新たなドリームイーターを生み出したようだ」
 その店とはその名も『取調食堂』。
 まるで取調室さながらの個室に、店員がそっとカツ丼を運んでくれる刑事ドラマ風サービスが話題だったのだが……。
「残念ながら人気は続かなかったようだな。店は潰れ、その後悔をドリームイーターに狙われた、と言うわけだ」
 件のドリームイーターは今も尚、店の中で来客を待ち続けている。
「その姿はそれこそ刑事ドラマから出てきたような、着古されたトレンチコートの男の姿をしているようだ」
 一見、人間らしい格好をしているが、目元はむしろ犯人よろしくモザイクで覆われている。一体どっち側を演じたいのだろうか。
「居場所ははっきりしている以上、乗り込んで問答無用で攻撃をしかけてもいいが、どうやらこのドリームイーターの茶番に付き合ってやるのも全く無意味でも無さそうだな」
 どうやら今回のドリームイーターは、客として店のサービスを受け、その後悔の念を満足させてやる事で力を大幅に失わせる事ができるらしい。
 今回で言えば、個室で彼の取調を受ける事になるわけだが……。
「嘘は見抜かれれば逆効果になると思ってくれ。本当に自分がした犯行をそれっぽい空気で自白する事に意味がある」
「自白、ですか……中々難しそうですが」
「いや、そうでもない。空気さえ出れば内容は何でも良い。大事なのは、雰囲気だ」
 この際、内容はつまみ食い程度でも十分だろう。
「まぁ、こんな店を建てる程には刑事モノが好きなんだろう。狙われた店主の夢を叶えるつもりで付き合ってやるのも悪くはないんじゃあないか?」


参加者
紫・恋苗(紫世を継ぐ者・e01389)
メイベル・メイヤー(ダーティーリード・e02726)
アウィス・ノクテ(ノクトゥルナムーシカ・e03311)
ストラス・オルト(雲外蒼天・e04282)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)
日御碕・鼎(楔石・e29369)
杜乃院・靜眞(羊愛し鴉親とす朝焼けの猫・e33603)

■リプレイ


 ――紫・恋苗(紫世を継ぐ者・e01389)の告白。
「あんたがやったんだろう? もう、ネタは上がってんだ、吐いて楽になっちまいな……」
 仄かな電灯とスタンドライトだけに照らされた簡素な部屋。今日も、モザイク刑事の元に罪を犯した人間たちがやってくる。
 最初はオラトリオの女性。職業は、ケルベロス。
「えぇ、あたしの医療ミスで……いえ、ミスというのは正しくないわ。故意に、あたしは薬を盛ったのよ」
 この女性、なんと人を救うための医療を事もあろうに鳥類に、それも明王的なサイズのやつに使い、殺めたのだと言う。
「初めはただただ、助けたい一心だったの…だけれど、もう手遅れだって、手の施しようがないって気づいて――うぅっ!」
 自白と共に罪の意識が心を苛んだのか、女性の頬を一筋の涙が流れ落ちる。
「あんた、自分のやった事を後悔しているんだろう? だったら、娑婆に出たら今度はその手で多くの鳥類を救ってやんな……」
「刑事さん……っ!」
 そっと差し出されたカツ丼。女性はただただ涙しながら、その優しさを噛みしめるのであった……。

 ――ストラス・オルト(雲外蒼天・e04282)の告白。
「あんた、何か隠しているだろう? ほら、そんな苦しそうな顔してねぇで、吐いて楽になっちまいな……」
 続いてはドラゴニアンの青年。職業は、ケルベロス。
 モザイク刑事の慧眼に見抜かれ、驚く素振りを見せながらも、言葉は中々出てこない。
 どうやら当たりらしい。見かねた刑事は、そっとホカホカのカツ丼を青年の前に差し出す。
「ほら、それでも食べて、ゆっくり話そうじゃないか」
「……嘘を、吐いてしまいました。私の主に」
 その温もりに緊張をほだされたのか、ぽつぽつと青年は語りだす。
「スターゲイザーパイを頼まれたんです。ですが、あの飛び出た魚の虚無を見つめる瞳に耐えられず……材料が無いと偽って別のパイを……」
 何という重罪。きっと、青年も今までその罪の重さに苦しんできたのだろう。
「だったら、次はきちんと作ってやんな……きっと何年だって待ってくれているさ……」

 ――ティユ・キューブ(虹星・e21021)の告白。
「やっぱり、あんたがやったんだな……その目でわかるぜ」
 先程の青年と同じように、中々自白をしない女性の前にカツ丼が差し出される。
 その瞬間、モザイク刑事の目が鋭く光った。女性がカツ丼へ向けた物欲しげな視線を見逃さなかったのだ。
「っ……流石は刑事さん、ご明察だよ」
 女性の職業はケルベロス。18歳と言う若さで、一体どんな罪を犯したと言うのか。
「……やったんだな」
「あぁ……やったよ、つまみ食い」
 何と言う事だろうか。女性の口から出たのはまさかのつまみ食い。このまま隠し続けていれば、いずれは身を滅ぼしていたかもしれない。
「でも刑事さん、一番の食べ時を逃すなんて耐えられないよ……ほら、このカツ丼だってそうだろう?」
 立ち昇る湯気越しに女性は自嘲気味に微笑む。
「気持ちはわかるが、罪は罪だ……それ食ったら、ちゃんと償うんだぞ……?」

 ――メイベル・メイヤー(ダーティーリード・e02726)の告白。
「もう時間の問題だ、全てが白日に晒される前に、自分から吐いた方が罪は軽くなるぞ?」
 お次は、レプリカントの女性。職業は、ケルベロス。
「……ああ、刑事さんの睨んだ通り、あの日、某製薬会社のデータサーバにハッキングを仕掛けたのは私だ」
「やはりか……何故そんな真似をしたんだ?」
 モザイク刑事が尋ねると、女性はこちらに妖しげな笑みを向けた。
「クライアントの素性も、目的も、私には関係無いからな……私が話せるのはここまでさ」
 深い闇に潜む、巨悪の存在が浮かび上がる。彼女もまた、そんな巨悪に踊らされた哀れな被害者なのかもしれない……。
「……ところでカツ丼はまだなのか?」
 ……そうでもないのかもしれない。

 ――日御碕・鼎(楔石・e29369)の告白。
「これ以上、罪を重ねる前に、ここで楽になった方がお前さんのためでもあるんじゃないか?」
 物静かそうに見える地球人の青年。職業ケルベロス。
 刑事の直感が告げる。この青年もまた、罪を犯していると。
 当てられたスタンドライトの光に目を細め、青年は恐る恐る、その罪を告白するのだった。
「あれは、疲れて帰宅した時のこと。です。……とても、お腹が、空いていて……」
 直感は、的中していた。
「やったのか」
「……やりました」
「つまみ食いか」
「はい」
 本日、二人目。まさか、このような出来事が繰り返される事になろうとは、モザイク刑事もこれには眉間の皺を寄せた……ように見える。モザイクの下で。

 ――プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)の告白。
「お嬢ちゃん、もう正直に言おうや……やっちまったんだろ?」
 モザイク刑事の向かい側に座るのは、なんと6歳のオラトリオの少女。この幼さで、現役のケルベロスである。
 いたいけな瞳は罪の重さに苦しみ、潤んでいるようにも見える。少女に寄り添うテレビウムのいちまるも、何かを知っているらしく沈黙を保っている。
「……お嬢ちゃん、もうすぐクリスマスだろ? サンタさんってのは、正直な良い子のところに来るんじゃあないのかい?」
 刑事の言葉に、少女はハッと顔を上げる。
 その前には、ホカホカのカツ丼。彼女の心根を信じて出された、少し早いクリスマスプレゼントだ。
「お花にお水を上げていた時にね……もぐもぐ……躓いて、植木鉢を転ばせちゃって……もぐもぐ」
 カツ丼を食べながら、少女は罪を告白する。齢6歳の子供が背負うには、あまりに重たい罪だ。
「悪気は無かったんだろう? ちゃんと自分のやった事、反省するんだぞ」
「もぐもぐ……え? 刑事さん今何か言ってた?」
 きっと悪気は無い。たくさん食べて大きく育って欲しい。モザイク刑事は、ただそれだけを願うのだった。

 ――杜乃院・靜眞(羊愛し鴉親とす朝焼けの猫・e33603)の告白。
「まぁ、そう身構えんなって……これでも食べて、ゆっくり話してくれ」
 続いてはウェアライダーの男性。職業ケルベロスにして、二児の父だと言う。
「刑事さん、おれ……昔、公園で人から弁当たかったり……猫撫で声で誤魔化したり……」
 それはおよそ20年程前の事。その間、彼はずっと自分の過ちに苛まれてきたのだろう。
 そして、更に男性は語る。
「それにこの名字! これもおれが考えたんです! こういうの、厨二って言うんですよね……」
 厨二病、いわゆる不治の病。果たして、本当に男性が病を患っているのかはさて置き、結果として家族を厨二名字に巻き込んだ事を、酷く悔やんでいるようだ。
 そんな男性の前に、刑事はありったけの優しさを込めて、カツ丼を差し出す。
「良い名字じゃねぇか……出所しても世間は冷たいかもしれねぇが、父ちゃんのあんたが胸張らないといけねぇって思わねぇか?」
 罪は罪。償わなければならない。しかし、刑事の優しさに男は涙を流し、熱々のカツ丼を頬張るのだった。

 ――アウィス・ノクテ(ノクトゥルナムーシカ・e03311)の告白。
「お嬢ちゃん、残念だが……目撃者がいるんだ。……こんな事、親御さんが聞いたら、悲しむんじゃあないのか?」
 本日最後に取り調べに訪れたのは、オラトリオの女性。職業、ケルベロス。
 最初こそ、黙ったままの彼女もまた、モザイク刑事の人情溢れる言葉にぽつぽつと罪を告白する。
「ごめんなさい、アウィスがやりました。道端で寝るのダメって言われてたのに、眠くって寝たの、アウィスです」
 道端で居眠り。まさか、こんな大人しげな女性が、そんな極悪非道を働いていようとは、これには刑事もごくりと唾を呑む。
「いっつも怒られてるのに、ついついやっちゃいます。ごめんなさい」
 一度はまると中々抜け出せない、居眠りによる負のスパイラル。ある意味ではこの女性もまた、社会と言う名の闇に囚われた被害者なのかもしれない。
 しかし、どんな罪も自ら告白し、反省する心があればいつかはきっと抜け出せる日が来るのだ。
「カツ丼、ホッとする味……。おいしい。刑事さん、ありがとうございます」
 彼女の素直な言葉が、そう思わせてくれるようだった。
 こうして、今日もまた多くの罪をモザイク刑事はカツ丼と広い心で受け止め、悪事を暴いていく。
 明日も、明後日も、モザイク刑事の戦いは続くのだ……!
 ――完。


「い、いや、勝手に終わらせてもらっちゃ困るんだけど」
 全員の取り調べが終わり、危うくエンドロールが流れそうな雰囲気の中、8人はモザイク刑事の前に対峙していた。
 靜眞の言葉通り、まだ何一つ終わってない。
「何か、刑事ドラマと言うより『実録! 何とかかんとか』的な空気じだったような」
 気の所為だろうか、ティユの耳にはナレーションも聞こえてきた気がする。
「まぁ、やる事はやったわ。もう十分でしょうし倒しましょう」
「同感です。そろそろ、奪ったものを返してもらいましょう」
 躊躇の欠片も無く武器を構える恋苗とストラスの表情は、取り調べの時とは打って変わって淡白一直線である。
 と言うか、恋苗の手には目薬が握られてた。最早隠す気もない。
「まぁ、どうやら作戦自体は成功してそうだな。これなら、後は単純作業みたいなものだ」
 こちらの戦意にモザイク刑事も懐から拳銃を取り出し、応戦の意志を見せてくる。
 しかし、メイベルの言う通り、普段戦っているデウスエクスに比べ構えには隙も多く、どこか覇気が無い。弱体化には成功していると見ていいだろう。
「あ、いちまる、もう戦うって! 早く食べちゃお」
「ま、待って、アウィス、最後だったから……まだ食べ終わってない」
 のんびりカツ丼を楽しんでいたプルトーネとアウィス。急いでご飯を喉へ通していく。
「あなたのでは無いです、が。……カツ丼、美味しかった、です」
 でも。と、鼎は続ける。その瞳は鋭く、ドリームイーターを捉えていた。
「お前がそれをしていても、意味がないんだよ。……眠れ、夢喰い」


「お前たちは完全に包囲されている。無駄な抵抗は止めて、投降するんだ!」
「どちらかと言うと、包囲されているのはあなたの方だと思うけど」
 戦いが始まっても尚、刑事らしく振舞うモザイク刑事。しかし悲しいかな、恋苗の冷めざめとした言葉通り状況は8対1である。
 更に、ケルベロスたちの体を張った取り調べのお陰かその力は明らかに弱まっており、射撃精度はかなり落ちている。
「攻撃はこちらで受ける。その隙に攻撃を」
 飛び交うモザイクの弾丸と、光線銃のようなスタンドライトの高熱を鼎らが中心になって受け流していく。
「こ、ここだっ!」
 鼎が攻撃を受けている隙を狙って、死角から靜眞が飛び出した。
 手にしたバールの尖端がモザイク刑事に突き刺さる。
「好機ですね、動きを止めます」
 その一撃にモザイク刑事がよろめいた瞬間、ストラスの放った鎖が瞬く間に体を縛り上げ、動きを制する。
「このまま敵の守りを引き剥がすぞ」
「うん、わかった」
 弱体化しているとは言えデウスエクスだ。すぐに鎖を振り解き、距離を取ろうとするが、メイベルとアウィスがそれを許さない。
 同時に繰り出される拳撃はモザイク刑事が着込んでいた分厚いコートと防刃チョッキを抉り、貫く。
「いちまる、行くよ!」
「ペルルは攻撃に警戒してね。これなら、僕も攻撃に回れそうかな」
 仲間の支援をサーヴァントのペルルに任せ、ティユもプルトーネ、いちまると共に身動きが取れないモザイク刑事への一斉に攻撃を繰り出す。
 この様子なら、一気に攻勢に回って短期決戦に持ち込んでしまった方が被害はむしろ少ないだろう。
 そして、決着は間も無く訪れるのだった。


 油断無く確実に攻めるケルベロスたち。このままドリームイーターに反撃のチャンスは訪れないと思われた、だが。
「貴様を『無断夜食摂取及び隠蔽』の容疑で逮捕する!」
「っ……これは」
 一瞬の間を突いて、モザイク刑事は懐に隠していた手錠を鼎に向かって投げつける。
 瞬間、まるで何かを見て驚いたように大きく目を見開き、鼎の足が止まった。
 残る力でケルベロスの攻撃をかいくぐり、モザイクに覆われた銃口が鼎に向けられる。
「危ない!」
 その前に咄嗟にティユが踊り出る。響く乾いた銃声、硝煙と共に跳ねる薬莢。そして、彼女を貫く銃弾。
 まるでスローモーションのようにゆっくりと崩れ落ち、ティユの体が床に転がった。
「お前こそ、いい加減その無駄な抵抗をやめろ!」
 それは本当に最後の反抗――いや、犯行だった。
 ティユが倒れるのと同時に、メイベルの左腕がモザイク刑事の胸元に突き付けられる。
 弾ける2発の銃弾。至近距離から放たれた散弾は容赦なくモザイク刑事の胸元を抉り、貫く。
「て、ティユさん、大丈夫!?」
 モザイク刑事が倒れるのを見届けると、ケルベロスたちの視線は一斉にティユへと向けられた。
 駆け寄ったプルトーネに揺さぶられるも、彼女は一向に動かない。
「ねぇ、もういいと思うんだけど」
「あ、もしかしてもう倒したのかな?」
 が、恋苗にヒールを受けた途端にあっさりと起き上がるのだった。
「ああ言う刑事モノっぽい雰囲気で気を引けたらなと思ってね、どうだった?」
「うん、迫真の演技だったと思う。凄く」
 スローモーションまで自力再現していた辺りがかなり。
 しかし、本当にやられてしまったと思ったのか、アウィスやプルトーネはほっと胸を撫で下ろしていた。
「ともあれ、これで解決ですかね、お疲れ様です。……ところで、日御碕様は先ほど何かが見えてらっしゃったんですか?」
 戦闘後の後片付けに入ろうとしていた鼎に、ストラスが声をかける。
 再び、ぴたりと止まった足。そして、ぽつりと呟く。
「……つまみ食いをした料理たち、に。つまみ食いをされそうになっていました」
 何とも恐ろしく、シュールな光景であった。
「あのドリームイーターを肯定するつもりは無いです、けど。つまみ食いは……やっぱり悪いこと、ですね」
「……まぁ、そうかもしれませんね」
 かく言うストラスの脳裏には、死んだ目をした魚についばまれる自分が過っていた。
 帰ったら今度こそ主のためにパイを焼こうか、そんな考えも、少しだけ。
「どうした?」
「……あ、何でもない。何でもないよ」
 動きが止まっていた靜眞は、メイベルに声をかけられ、慌てて首を振る。
 どんな事情があっても、罪は罪だろうか。償い、許される事はあるのだろうか。その術すら無いのなら――。
 靜眞がその胸中に抱いた思いは、彼以外、誰も知らない。
 かくして、戦いは一旦終わり、間奪われた後悔を取り戻した店主もすぐに目を覚ます。
 デウスエクスによる事件は今日も、明日も、明後日も続くだろう。
 故に、ケルベロスの戦いも、未だに終わる事はないのだ。
 ――今度こそ、完。

作者:深淵どっと 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。