●トロフィー・コレクター
愛知県知多郡、内海海岸。
三河湾と伊勢湾を一望出来る海沿いに建つ、とあるドライブインは、日頃から家族や気のおけない仲間達と、旬の海の幸を使ったバーベキューや地元の食材を使った食事が楽しめる場所として知られていた。
そんな、日常を離れ、少し贅沢な時間を送るべき場所に、悲劇は突然訪れた。
「やあ、みなさん、こんにちは。突然やって来て悪いんだけどさ……今から、僕たちのテストに付き合って頂くよ?」
突如現れた忍び装束の男が、にやにや笑いを浮かべながら、周囲の人々にそう宣言すると、男の背後より、フード姿の大柄な男達が現れた。
そして、大柄な男の一人が、突然の状況に戸惑ったままでいる一人の中年男性へとよろよろと歩み寄り、フードの中の顔が露わになった瞬間。
「ヒィッ!? ぞ、ゾンビ……っ!」
近寄って来た大男の瞳に生気の色が全くない事を見て取った中年男性が悲鳴を上げた。
「ハハハ、ご名答~! でも、コイツらの本当の名前は『屍隷兵』って言うんだけどね……で、実はコイツらの戦闘テストをしなくちゃいけないからさ……」
目の前に現れた恐怖に怯える中年男の顔を見ながら、その笑顔を崩す事無く、忍装束の男が語り続ける。
そして。
「……全員、死んでくれない?」
その言葉と同時に、屍隷兵の腕が中年男の首を掴み、そして引き千切った。
続く様に周囲から響き渡る数々の悲鳴と命乞いの声の中、5体の屍隷兵達は人々へと襲い掛かっていく。
その様子を心から愉しむ様に、忍装束の男、螺旋忍軍が一人『紫ノ月』は、より一層、にんまりとした笑顔を浮かべると。
「うーん、いいねえ、その恐怖に歪んだ表情……って、あっ、顔は潰しちゃ駄目だって!」
一人の女性の頭部を潰れたメロンの様に爆ぜさせた屍隷兵へと注意をすると。
「あーあ、その首、僕用の屍隷兵に使うつもりだったのになぁ……まあ、仕方ない。他のもっといい表情……涙混じりで命乞いでもしてる首でも探そうかな?」
目の前で続く惨劇を……笑顔のまま、見守り続けた。
●忍軍の屍隷兵、内海海岸に現る
「ケルベロスの皆さん、『屍隷兵』の事は、ご存知っすよね?」
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が集まったケルベロス達に早速ですが、と口を開いた。
「『屍隷兵』は、冥龍ハーデスが生み出した、神造デウスエクスっす。冥龍ハーデスの死と共に、その技術や存在も失われたものだ、って思われてたっすけど……どうやら、それは間違いだったみたいっす」
ダンテの話によれば、地球人を材料に手軽に戦力を生み出せる事に着目した螺旋忍軍が、鹵獲したヘカトンケイレスを元に、新たな屍隷兵を生み出している事が判明したらしい。
情報によれば、螺旋忍軍は現時点において、冥龍ハーデスの様な、知性のある屍隷兵を生み出す事は出来ていないようだが、知性の無いタイプの屍隷兵は既に完成させてたらしく、完成した屍隷兵の最終テストを行おうとしてるみたいっすね……そこでっすけど、皆さんには、この襲撃事件の阻止をお願いしたいっすよ」
そう言うと、ダンテは今回の作戦と、敵についての情報を話し始めた。
今回、襲撃が行われる場所は愛知県の知多半島にある海沿いのドライブインっす。そこは周囲民家が少ない割に、それなりの数の観光客が訪れる、という……ぶっちゃけ、敵が襲撃するにはピッタリな場所っす。敵は身を潜めながら、西の海側か東の森側のどちらかから攻めてくるみたいっすね」
そうなると、事件が起こる前にドライブインに到着する事は避けなければならない。
「そこで皆さんには、襲撃が敵が現れた瞬間にヘリオンから降下し、戦闘に突入して貰う事になるっす。ちなみに、敵は皆さんが現れると、より戦闘テストに最適な相手である皆さんへと、攻撃の優先目標を変更するんで、一般人の避難は警備の人達などに任せても、最小限の被害で済むと思うっすよ」
つまり、降下後、速やかに敵に攻撃を仕掛ければ、人的被害は抑えられる、という事だ。
「……で、皆さんが戦う事になるのは、5体の知性の無いタイプの屍隷兵と、その指揮管である『紫ノ月』と名乗る螺旋忍軍の男っす。コイツはっすね……常ににんまりとした笑顔を浮かべてはいるっすけど、 人の人間らしい汚い感情や表情を好み、人を弄ぶのが趣味で、刀の様に鋭利な切れ味を持った鋼糸で醜くゆがんだ笑顔のまま人の首をはねるのが至福の時……っていう、すっげーゲスい奴っす。どうやら、屍隷兵という存在が、自分の趣味に合うという事で、協力を申し出て襲撃事件の指揮官となったみたいっすね。そして、いずれは自分が殺した人間の顔をそのまま屍隷兵として配下にしようと考えてもいるらしいっす。まさにゲスの極みっすね」
そう語るダンテの表情には、あからさまに嫌悪の色が浮かんでいる。
「ちなみに、配下の屍隷兵の戦闘力は、ケルベロスの皆さんが1対1で戦っても互角以上に戦える程度っす。とはいえ、そこに紫ノ月が加わる以上、油断は禁物っすよ」
表向きは、ごく一般的な襲撃事件ではあるが、そこから連なるであろう事象を考えると、決して失敗は許されない。
ダンテは、そんな決意の色を浮かべるケルベロス達の姿を見ながら。
「この最終テストに満足すれば、螺旋忍軍は屍隷兵の研究を更に進め、いずれは月喰島にいたような、元の人間の姿や知性を持つ屍隷兵を生み出すかもしれないっす。そうなったら、屍隷兵の脅威は更に大きくなるっす」
事の重要性を改めて集まった者達へと伝えると。
「でも、ケルベロスの皆さんならば、それを防ぐ事が出来るっす! そんな訳っすから、どうか、よろしくお願いするっす!」
と、励ましの言葉と共に、彼自身の尊敬と信頼をケルベロス達へと真っ直ぐに向けたのであった。
参加者 | |
---|---|
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706) |
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806) |
花月・ロゥロゥ(太陽と月の尻尾・e02190) |
御柳・夾(孤高の旅人・e10840) |
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205) |
椿木・旭矢(雷の手指・e22146) |
レオンハルト・シュトラウス(獅子の泪冠・e24603) |
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744) |
●
冬の内海海岸に、肌寒い潮風が吹く。
そんな海岸沿いに建つドライブインは、多くの家族連れや団体客で賑わっていた。
「キュッキュリーン★ 非道な魔の手から、未来のファンを守ってみせますよー♪」
ドライブインの上空へと接近しつつあるヘリオン内では、レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)が、拳を強く握り締め意気込んでみせる……が、そのジャージ姿とキャラ口調のせいで、その緊張感は伝わってこない。
「自分もかつては地球侵略の尖兵だった身分、せめて拾って頂いた恩返しはしませんと」
対して、自らの過去を振り返りつつ、傍らに従うテレビウムのアルトを撫でているレオンハルト・シュトラウス(獅子の泪冠・e24603)は、少年ながら大人びている様にも見える。
「しっかし、苦戦してるフリをするなんて、クッソ面倒くせェよなァ……」
「まあ、そう言うなよ。デウスエクスを倒せるのは、俺達ケルベロスだけだ。だからやるべき事をやるだけだ」
そして、そんな二人と同様に、ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)が気だるげに漏らした呟きを聞いた椿木・旭矢(雷の手指・e22146)が、その整った面差しを僅かに歪めながら、やや咎めるかの様に言葉を返す中、花月・ロゥロゥ(太陽と月の尻尾・e02190)は、いつもの明るく元気な姿とは打って変わり、真剣な面持ちで手にした電撃杖を見つめている。
「紫ノ月は、ここで絶対に倒す……」
そう呟いた彼女が、普段は戦闘時に被っている仮面も無く、素顔を晒したままでいる事に、並ならぬものを感じたのだろうか。御柳・夾(孤高の旅人・e10840)は、やや心配げな顔で、ロゥロゥへと言葉を掛ける。
「ロゥロゥ、何があったか聞かないが……あんまり思い詰めるなよ?」
「……有難う」
そんな夾の言葉を受け、ロゥロゥが感謝の言葉を口にした時だった。
「見付けた。奴ら、海側からやって来るぞ」
ヘリオンの窓から外の様子を伺っていた、ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)が、防波堤を越えようとする敵の姿を指し示す。
「敵は、防波堤の影伝いにドライブインへと接近してきたみたいですね」
「ああ、お陰で誘い込む手間が省けましたね……このまま一気にバーベキュー場へ降下しましょう」
敵を様子を伺ったレオンハルトの言葉に、ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)が頷き返す中、旭矢が勢い良くヘリオンのドアを開ける。
続く瞬間、ケルベロス達は躊躇う事無く、次々と地上へと降下していった。
突如として現れた死せる大男達に、人々は戸惑い、次いで恐怖の声を上けていた。
そんな人々を忍装束の男が嘲笑いつつ、屍隷兵の一体を中年男性へとけしかけた瞬間。
「見つけたぞ! 紫ノ月!」
不意に上空から声が響くと、数人の男女が地上へと舞い降りてくる。
彼ら、ケルベロス達は、いまにも一般人を襲わんとする屍隷兵の前に立ち塞がると。
「さあ、今のうちに避難誘導を!」
「ここはレピちゃん達、ケルベロスにおまかせだよー★」
「あ、ありがとうございます!」
武器を構えたジュリアスと、ポーズを決めるレピーダの雄姿と力強い励ましは、人々に勇気を与え、我を取り戻した警備員達によって、人々は速やかに建物内へと避難していく。
「ご協力ありがとう、これで目の前の敵に集中できるってもんです」
ジュリアスとレピーダが構えを取る中、紫電を纏う杖を手にしたロゥロゥが忍装束の男を睨み付ける。
「待たせたな、紫ノ月。絶対、お前を倒してやる!」
「おやおや。誰かと思えば、死にたがり屋のロゥロゥちゃんじゃないか」
対する紫ノ月は手にした鋼糸を弄びながら、にやにやと薄笑いを浮かべる。
そして、相容れぬ両者は、互いを倒すべき敵と定め、戦いへと突入した。
●
「いいねぇ、自分の秘密を守る為にも、絶対に僕を殺そうと決意した、その瞳の色……ちょっとだけ、殺し甲斐がありそうだよ?」
紫ノ月は薄笑いを浮かべたまま、ロゥロゥを挑発する……が、後衛に立つ彼女へ自分の攻撃が届かないと気付くや、ベルンハルトへと刃にも似た切れ味を秘めた鋼糸を放ち、その身体を絡めとる様にして斬り裂いていく。
「ぐ、はっ……!」
その痛みにベルンハルトの体勢が揺らぐも、何とかその場に踏み止まった姿を目にし、ジュリアスは敵が手強い相手だと確信し、気を引き締め直してバスターライフルを構え直すと、敵のグラビティを中和し弱体化するエネルギー弾を屍隷兵の一体へ撃ち込む。
そこへ敵の急所を目掛け、旭矢が長い足を活かした電光石火の蹴りを放てば、続く様にベルンハルトが剣に宿した星座のオーラを隷飛兵達に飛ばし、隷兵達の腕が薄氷に侵される。
「へえ……なかなかやるじゃねェか。お返しにこれなんかどうだ?」
ニヤリと微笑んだジョーイが、すぅっと息を吸い込むと、
「AAAAAAAAAAAAAGH!!!!」
戦場に響き渡るは、永劫の時を生きた悪魔が如き叫び声。
3オクターブ高いその咆哮を耳にし、死隷兵はその動きを鈍らせていく。
「いっきますよー★」
その気を逃さず、レピーダの手にした妖精の弓から放たれた矢は、複雑な軌道を描きながら、手負いの死隷兵へと突き刺さった。
「ベルンハルトさん、大丈夫ですか?」
レオンハルトが、傷を負った彼に向けて溜めたオーラを与え、HPと回復させると共に状態異常を解き放つ。
と、同時に、彼のサーヴァントであるテレビウムのアルトが、顔の画面を次々と変えながら、さらにベルンハルトの傷を癒していく。
「ロゥロゥがどうしても倒したいって言うんでな、悪いが逃がさないぜ?」
紫ノ月を見つめて冷静に言葉を発すると、彼から放たれた半透明の「御業」が死隷兵を鷲掴みにする。
主人の攻撃に続かんと、彼が従えるテレビウムのシンちゃんが、手にした凶器で死隷兵に躍り掛かる。
その隙にと、ロゥロゥが仲間の傷を癒さんと、ベルンハルトに緊急手術を行う。
しかし、やられっぱなしだった死隷兵達が、うっそりと動くとその口を大きく開く。
「ギィェアアアァァッッ!」
更に、紫ノ月の前に立った他の屍隷兵達までもが、一斉に後衛へ咆哮を浴びせる。
「なっ……!」
「これは……!」
一体一体の攻撃は大したものではない。だが、5体同時の攻撃は流石に洒落にならない。
咄嗟にレオンハルトとアルトが仲間達を庇うも、当初は防衛役を担う筈のジョーイが撃破役に加わった事もあってか、庇いきる事は出来ず、後衛達は少なからぬダメージを受け、思わず体勢を崩してしまう者すらいた。
自らも痛みに耐え、痺れる身体を鞭打ちながら、ロゥロゥは紫ノ月を睨み付け、叫んだ。
「お前なんか、怖くなんてない!」
それは、仲間達を守る為、自分に言い聞かせる様に、己を奮い立たせ様に。
だが。
「ふうん、そんな事言っちゃうんだ……あ、お友達が一緒なら、強気になれるんだね?」
そんな彼女の言葉を、紫ノ月は平然と嘲笑ってみせると、手にした鋼糸を弄んでみせた。
●
幾度目かの攻撃を交わし合い、戦いは、苛烈さを増していく。
ケルベロス達は敵を包囲し、退路を断とうと試みたが、身軽さを活かして広い戦場を駆け回る紫ノ月を包囲するのは至難の業だった。
「君達の強さなら、良い実戦データが取れそうだ。さあ、もっと遊んでくれないかい?」
紫ノ月が印を結ぶと、傷を負った死隷兵の一体がちらつく分身の幻影を纏う。
「ほらほら、君達も頑張って!」
そんな紫ノ月の命に、死隷兵達は忠実に……否、愚鈍に従って、その拳と爪を振るう。。
だが、ケルベロス達も黙っている訳ではない。
ジュリアスとレピーダの放った竜の力を秘めた砲弾と、旭矢の放った冷凍光線とが続け様に屍隷兵へ命中する。
そして、ジョーイが流水の如き動きで戦場を駆け抜け、死隷兵達へと斬撃を見舞う。
「深く冷たい眠りへ落ちろ」
そこにベルンハルトが走り込んだ。彼は冷気で生み出した刃で死隷兵を次々と斬り裂んだ瞬間、遂に敵の一体が、大きな音を立てて地へと倒れ伏した。
「ふう、やっと1体ですか……」
「救済の光、受け取って下さいねー?」
そう呟いたジュリアスへと、レオンハルトが神聖術を込めた祝福の弾丸を放ち、傷を癒していく。
既にアルトを失い、レオンハルト自身も度重なる負傷で徐々に身体を鈍らせていく。
が、彼の闘志はいまだ消える事はない。
「やっと動けた! ありがとな!」
そして、シンちゃんの応援を受けた夾も、死隷兵の咆哮による麻痺から解放され、再び武器を構え直す。
そんな仲間の戦いぶりを見詰めながら……ロゥロゥは、己の力不足を感じ始めていた。
敵の攻撃に対して、彼女だけの力では回復が間に合っていないからだ。
だが、それでも仲間を癒し続けなければ。
彼女は苦しい思いを胸の内に秘め、雷の壁を構築し、仲間達の傷を癒す。
だが、そんな彼女を嘲笑うかの様に、死隷兵達の猛攻が始まった。
大振りながらも重い一撃が、着実にケルベロス達の体力を奪っていく。
そして。
「残念ですが、ここまでです……後は、お願いします……」
死隷兵の鋭い爪を浴びたレオンハルトが遂に膝をつき、そのまま地面へと倒れ込む。
そして彼の意識は、闇へと飲まれていった。
「うんうん、なかなか良い感じだねぇ。どうだい、君の仲間が苦しむ様は? とても素敵だろう?」
「黙れ! 黙って! その笑顔が、気持ち悪い!」
ニヤニヤ笑いのまま、嘲り続ける紫ノ月に、ロゥロゥが叫び返す。
そんな彼女の表情は苦々しく、何とか平静を装ってはいるが、心の中の動揺は完全に隠し切れていない事は明らかだ。
それを知ってか、紫ノ月は薄笑いを浮かべたまま、流れるような仕草で鋼糸を振るい、ケルベロス達を薙ぎ払う。
だが、盾役のアルトとレオンハルトがが倒れた今、残された前衛達はその攻撃を避ける事も叶わない。
「このままだと、不味いですね……しかし!」
そんな中、ジュリアスは空中高くまで飛び上がり、屍隷兵へと渾身の飛び蹴りを見舞う。
「ドゥエェーイ!!」
続く瞬間、凄まじい衝撃音と共に、その身体を貫かれた死隷兵が地へと倒れ込んでいく。
「これで……2体!」
そこへ続けとばかりに、旭矢の放った凍結光線とベルンハルトが射出した砲弾が、新たな屍隷兵へと襲い掛かる。
「妖精八種族が光のヴァルキュリア……その輝きの真髄を、今!」
更にレピーダが自身の光を武器へと集め、極大の光刃を形成すると、そのまま屍隷兵へと叩き込み、続いてジョーイが己のグラビティ・チェインを愛刀に乗せて叩きつける……が、死隷兵はその巨体を傾けるも倒れはしない。
「ったく、簡単には倒れてくれないな……って、おい!?」
「くっ、回復……でき、ない……!」
そんな中、愚痴を零しながらも敵を喰らうオーラの弾丸を放った夾は、傍らに立つロゥロゥが仲間達を癒そうとするも、麻痺により動きを止めた事に気付き、思わず声を上げる。
その瞬間、死隷兵達はジョーイへと一斉に飛び掛かった。
続け様に襲い来る、爪と牙の嵐。
「グァッ……これは流石に……キツイ、な……」
さしものジョーイも、その猛攻には耐え切れず、がくりと片膝を付くと、そのまま地へと崩れ落ちていく。
激戦の中、既にケルベロス達には、敵を欺く余裕など持ってはいない。
それでも彼らは、眼前の敵を逃すまいと、攻撃の手を緩めはしなかった。
●
「ふぅん、君達もやるねぇ。結構、頑張るじゃないか」
紫ノ月が薄気味悪い微笑を浮かべたまま。舌で唇をペロリと舐めてみせる。
そして、素早くその手を振るうと、レピーダへと鋼糸が絡みつき、その身体を一気に斬り裂いた。
「た、大したことない笑顔ですね……ほ、本当の笑顔は、こう、するんです……よ!」
限界を超えた傷を負い、今にも倒れそうな彼女は、最後の気力をふり絞り、紫ノ月に向かって満面の笑みを見せると、その場へと倒れていった。
「このままでは……とにかく数を減らさないと」
ジュリアスが、満身創痍の死隷兵に向かって光弾を放ち、三体目の屍隷兵を葬ったのを見て取るや。
「何故命を弄ぶ? 何故こんな無益な、残酷なことを好むんだ?」
「さぁて、どうしてかな?」
旭矢は怒りと共に、赤き戦鎚より竜の力を秘めた砲弾を放ちながら、紫ノ月へと問いを投げる。
が、紫ノ月は薄笑いを浮かべたまま、彼の問いには答えようとはしない。
そこへ、ベルンハルトがアームドフォートから放った砲弾が炸裂し、紫ノ月の身体を痺れさせると同時に、夾も「御業」で紫ノ月を鷲掴みにしていく。
「お願い、もうこれ以上みんなが倒れるのは見たくない!」
ロゥロゥが仲間と自身を鼓舞するかの様に言い聞かせると、ジュリアスに緊急手術を施していく。
そんな中、残る死隷兵は後衛に向かって再び咆哮を放つ。
その様子を見ていた紫ノ月は、そろそろ退き際と思ったのか。
「うーん、データも結構取れたし、そろそろ潮時かな……じゃあ、僕はこれで失礼するよ」
「ま、待てっ!」
そう言うが早いか、ケルベロス達の制止を振り切って、戦場を後にしようとする……が。
「あれ? 身体が……痺れ、て……」
紫ノ月の麻痺した両脚は、その場から一歩も動こうとはしなかった。
紫ノ月を倒せる機会は、今しかない。
そう悟ったケルベロス達は、紫ノ月へと猛攻を仕掛ける。
ジュリアスが竜の砲弾を放ち、旭矢が冷凍光線を打ち込む。更にはベルンハルトの振るうナイフに映った煌きが敵のトラウマとなって襲い掛かる。
そして。
「紫ノ月! お前を……喰らい尽くす!」
夾の放ったオーラの弾丸が紫ノ月の喉笛へと喰らい付くと、螺旋忍者の手から鋼糸が零れ落ちる。
「あーあ、失敗しちゃったな……仕方ない、後は適当にやっちゃって……」
そして紫ノ月は呟く様にして残る屍隷兵へと最後の命令を下すと、にやにや笑いを浮かべたまま、どさりとその場に倒れ込み動かなくなった。
「これで……やっと……」
その最後を見届けたロゥロゥからも小さな呟きが漏れる。
そして続く言葉は、誰の耳にも届く事は無かった。
「神よ、彼らにひと時の安らぎを……」
ベルンハルトが、倒れた死隷兵に祈りを捧げる。
指揮者を喪い、統制を失った2体の死隷兵を倒す事は、それ程難しいものではなかった。
が、それでも敵の一撃を受け、意識を失ったジュリアスを旭矢が助け起こす中。
壊れた設備の修復を終えたロゥロゥが、夾の背中へと声を掛けた。
「……あのさ、夾」
「ん? ああ、お前の過去なんざ、聞く気はねぇよ」
が、そっけない言葉を返し、仲間達の元へと歩いていく夾の姿を見た彼女は。
「……有難う」
その後ろ姿に、小さく呟くと、仲間達の元へと軽やかに走り出した。
そして、二人を迎え入れたケルベロス達は、揃って人々からの喝采を浴びるのであった。
作者:伊吹武流 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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