忍軍の屍隷兵~嘆きの館を解放せよ!

作者:林雪

●実験体
 今は廃屋となった、新興宗教施設の建物の中。
 ここに男女あわせて30人以上の一般人が監禁されてから既に、一週間以上が経過していた。皆縛られたり暴行を受けた形跡はない。だが広間から出ることは許されておらず、食事や入浴も最低限。皆疲弊し、絶望していた。身を寄せ合い、互いに小声で励まし合ってここまできたが、そろそろ限界だろう。
「……帰りたい、もう嫌、いやぁ……」
 20代くらいの女性が絶望にすすり泣くのを、初老の男性が肩を撫でて慰める。
「頑張るんだ、きっと助けが来る。それまで……」
『いいじゃない。毎日仕事に行ってクタクタになってただ年とっていくよりは、死なないし老けない体になる可能性を与えられたんだよ? あなたはぁ』
 鼻にかかった声でそう告げたのは、螺旋忍軍、甘音・ぎあである。ぎあは研究施設側からの要求に応じて、実験材料とするための一般人をここに監禁しているのだ。
「ふざけたことを言うんじゃない!」
 初老の男性が声を荒げたが、ぎあは面白げに目を細めるだけだった。
『あれぇ、そんなに怒らないでぇ。あなたきっと現状に不満があるよ。まずはあなたから変えてあげるね、きゃははっ』
「な、何を……離せ!」
「きゃあぁっ! やめてぇっ!」
 男性はぎあにずるずると引きずられ、広間から連れ出されていく。開いた扉の隙間から覗いた、屍隷兵の不気味な姿と唸り声が人々を絶望させた。
 後に残された女性が叫ぶ。
「助けて……誰か、誰か助けてぇっ!」

●救出作戦
「冥龍ハーデスの事件、覚えてるよね。屍隷兵のこと」
 ヘリオライダー、安齋・光弦が緊張した風に集まったケルベロスたちの顔を見回した。
「冥龍ハーデスの死でもう新たな屍隷兵は生まれないはずだった。ところがね、地球人を材料に手軽に戦力を生み出せる事に、螺旋忍軍が目をつけた。冥龍ハーデスには技術で劣るものの、知性のないタイプの屍隷兵は既に完成させていて、最終テストとしてそいつらを配下に率いて襲撃事件を起こそうとしているんだ。事は一刻を争う」
 襲撃事件を未然に防ぐ、だけでなく、急がなくてはならない理由はもう一つあった。
「螺旋忍軍のひとり『甘音・ぎあ』、こいつが実験体として一般人を拉致監禁して数日以上が経過しているとの情報がある。許されることじゃない。人々を助け出した上で、ぎあを完全撃破して欲しいんだ」
 ここから運び出された一般人が連れていかれる研究施設への襲撃作戦も、ケルベロスたちによって同時に行われることになっている。
「君たちはまず、不安に震える人々を助けてあげて。ぎあは30人ほどの人々を、とある館の大広間に閉じ込めている。敷地の中には10体ほどの屍隷兵が警備に当たっている。そいつらは知性もないし大した強さじゃないけど、ぎあの力は侮れないよ。素早い動きと、至近距離から放ってくる掌底は特に危険だ。注意してね」
 謎多き生命体・屍隷兵どもをなぎ倒し、有力螺旋忍軍甘音・ぎあを撃破する。これが今回の使命である。
「人間を手駒にすることしか考えないようなヤツらは、遠慮なくぶっ飛ばしてやるべきだよ。絶対負けないでね、ケルベロス!」


参加者
神崎・晟(剛毅直諒・e02896)
シャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104)
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)
上里・もも(遍く照らせ・e08616)
メルーナ・ワードレン(小さな爆炎竜・e09280)
グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
葛城・かごめ(ボーダーガード・e26055)

■リプレイ

●突入
「人質、ずいぶん長く捕まってるらしいわね? だったら時間短縮よ!」
 メルーナ・ワードレン(小さな爆炎竜・e09280)の言葉に、異議を唱える者はいなかった。全員思いは同じ、まずは一刻も早く囚われの人々を救うのが先決である。仰々しい門を押し開き、正面から全速力で敷地内へ駆け込んだ。
『ヴォ、ヴぉ……』
 ケルベロスたちの予想通り、姿を現したのは屍隷兵。事前情報の通り知性は感じられないが、ケルベロスたち目がけて迷いなく集まってくる。ケルベロスたちはひとつ処に集まり、互いに背を預け合うような陣形でこれを迎え撃つ。
「ゾロゾロ出て来やがったなぁ、色気のねーのばっかし」
 レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)が、手元で愛銃フェンリルを軽やかに構えながらそう笑った。
「こんなおぞましいもの、この世に在っちゃいけないんだ……」
 不自然に歪められた生命体に対し、葛城・かごめ(ボーダーガード・e26055)は怒りを隠さない。勿論その怒りは、哀れな人造屍隷兵を作り出したものに向いている。
 彼らも、元々は人間、そこに憤り、躊躇いを感じるのは神崎・晟(剛毅直諒・e02896)もまた同じだった。
「しかし、これ以上犠牲者を出すわけにはいかん」
 すまない、と心中で詫びながら、晟は武器を構える。その巨躯の影から飛び出すように、シャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104)が跳び上がる。
「まずは貴方よ」
 そう告げると一番近くまで距離を詰めていた屍隷兵へ、流星の煌きとともにキックを炸裂させた。シャルロットのその先制に、上里・もも(遍く照らせ・e08616)もハンマーを振り回す。 
「さあ、あたしもギア上げるぜ!」
 戦いの中でもどこか華やいだ声を出すももではあるが、攻撃には容赦がない。
「新たにレブナントを作るとはふざけた真似をする……我はヴァルキュリア、高潔なる光翼の騎士! 死を看取り導く戦天使なり!」
 エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)も声高く名乗りをあげ、身を低くして屍隷兵へと突っ込んでいく。
「野望、必ず打ち砕いてみせよう!」
 ケルベロスたちの気迫に動揺したか、動きを鈍らせた屍隷兵の1体を、グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)は見逃さなかった。紅蓮の炎を纏った拳が、彼の心の内の怒りを乗せて派手に敵を吹き飛ばした! 
「加減はしてやれないからな……精々楽に死ねるよう祈る事だ」

●人質解放
『うガァッ』
 ローラーから火花を散らしてダッシュをかけ、ももが敵の顔面を蹴り上げる。屍隷兵たちは一応攻撃から身を守るような仕草をするものの、ケルベロスのグラビティ攻撃を避けるには至らない。
「こいつら、弱いな!」
 ももが振り返ってそう叫ぶ。そこへ体当たりをかましてきた別の個体を、メルーナが身を割り入れ足を引っかけて転ばせた。
「攻撃も随分、緩慢だこと。行くわよ、ミカン!」
 高らかに笑うメルーナの足元から立ち上がろうとする屍隷兵の胸を、晟の槍が激しく貫いた。穂先を引きながら、晟が軽く窘める。
「上里君、油断は禁物だぞ」
「わかってるって! スサノオ、その調子でもっと張り付いて!」
 ももが明るい声のまま、オルトロスのスサノオに指示を飛ばす。自身のライドキャリバー、ファントムにそれを手伝わせながら、レイが横っ跳びで移動して弾丸を敵にめり込ませていく。
「まぁ、ちょっとくらいの油断なら俺がフォローしてやるよ。女子の油断、歓迎」
「しないって言ってるじゃんか! もう!」
 囲まれた、というよりケルベロスたちに屍隷兵が群がってくるのはむしろ都合がいい。捕らわれた人々を無事避難させるためには、屍隷兵を一体残らず駆逐しておかなくてはならないからだ。
「……もっと強くなるために糧にさせてもらうわ」
 蒼い瞳に闘志を宿らせ、シャルロットが敵を見据える。この個体は自分が倒す、と決め、赤いドレスの裾を翻して斬りかかる。使い込んだ剣の重みが、手にしっくりと馴染む感覚がシャルロットを高揚させ、戦いに没頭させていく。
「!」
 突っ込んできた屍隷兵から身をかわしたかごめの耳元で、ガチリ! と歯が噛み鳴らされた。
「……人間一人犠牲にしてこの程度? 機械化のほうがまだましだよ」
 普通に暮らしていた人々が、噛みつきなどという動物的な戦い方しか出来ない化け物にされてしまったのだと思えば、かごめの眉間には皺が寄る。何とか、元に戻せないものか……と思いつつも、今は全力で手にした武器を振るう。
「面白半分に人の命を……」
 グレッグが低く呟いた声は静かな怒りに満ちていた。まだ生きている人々の元へ一刻も早く、逸る気持ちを飲み込んで、ごく冷静に操るグレッグのナイフが敵を斬り裂いていく。動きの単調な屍隷兵たちは1体、また1体と倒れていく。
「急ごう! 残りは何体だ」
 エメラルドがギターを振り回し、目の前の1体をなぎ倒しながらそう叫ぶ。
「あと……2体!」
 ももが続いて敵をぶっ飛ばし、素早く目線を走らせる。続いて床に片手をついて身を支えつつ、フェンリルを放って命中させたレイも声をあげる。
「これでラス1だ!」
 その声を受けて、ケルベロスたちが辺りを見回す。同時にズガァン! と衝撃が響き、最後の1体を晟が床に組み伏せた。
「待たせたな、行くぞ!」
 全員が頷きあい、一丸となって廊下を走り抜ける。メルーナが普段と変わらない調子のまま、仲間を気遣った。
「誰もケガしてないわね? 雑魚相手に消耗してたんじゃ話にならないわ! ヒールが要るなら言いなさいよね!」
 連携のとれた戦いで素早く屍隷兵をなぎ倒したケルベロスたちは、広間の入り口へたどり着く。
「ここだ、ぶち破るぞ!」
 晟が巨体にものを言わせ、施錠をものともせずに扉を開いた。
「こっちの方がみんなが逃げやすい!」
 その開かれた扉に取りついたかごめが、メキメキッと音をたてて引き剥がして放り投げた。閉ざされていた空間に、ぽっかりと穴が開く。中にいた人質たちの視線が一斉に注がれる。一瞬状況が理解出来ずに固まる人々の間に、ももの明るい声が響いた。
「もう大丈夫だ、私が来たぜ」
 堰を切ったように、人々が出口に、ケルベロスたちに向かって殺到する。口々に助かった、怖かった、と興奮状態で訴える人々を、ケルベロスたちは皆で懸命に宥めた。
「遅くなってごめん。助けに来たよ」
「ああもう大丈夫だ、歩けるか? 無理するな落ち着いて」
 かごめとレイが人々の肩や背に触れながら、避難誘導する。
「待たせたわね! 猟犬様の到着よ! アンタたちもう10年分くらいの苦労したんだから無事脱出しなさい! それでさっさとお風呂に入って美味しいものでも食べることね!」
「安心するのはまだ早いぞ。まずは安全な場所への移動だ。さあ気をつけて」
 メルーナと晟も武装展開し、人々に頼もしい姿を見せる。
 奮い立って脱出する人々の中から、ひとりの女性がシャルロットに駆け寄った。
「お願い、連れていかれた人がいるの、その人、わたしのこと励ましてくれて、そのせいで……お願い! 助けて、あの人のことも助けて!」
 興奮しきった様子の女性は必死でそう訴えながら、シャルロットの腕の中で泣き崩れてしまう。その彼女の震える背中に近づき撫でてやりながら、かごめが声をかけた。
「わかった、大丈夫だよ。私たちだけじゃない。仲間もみんなで助けに来てるから」
 泣きながらうんうんと頷く女性、その肩に手を置いたシャルロットが真っ直ぐに視線をあわせて力強く告げる。
「さあ頑張って、皆を励ましながら出口まで走って。あなたの助けたい人は、必ず救ってみせる」
 その言葉に、女性も涙を拭いて顔を上げる。避難は順調に進んだ。傷の深い者があればヒールをと、エメラルドが丁寧に人波に目を凝らしたが、どうやら皆、元気が残っている様子だった。
「良かった。あとは……」
 逃げる人々の背を視線で追っていたエメラルドは、廊下を警戒する。怯えた人たちの手を引いて立ち上がらせる手伝いをしていたグレッグも、室内の至るところに視線を走らせていた。
「……いない? いや」
 グレッグが警戒するのは、勿論、甘音・ぎあの存在である。屍隷兵どもは全滅させたが、肝心のぎあに奇襲されてはたまらない。
「……そろそろ、どこに居たって出てくる頃合いだろ」
 主に女性中心に積極的に言葉をかけていたレイはいつしか両手に銃を構え、攻撃態勢になっていた。そこへ。
『あらぁ、お揃いで遊びに来てくれちゃってぇ。結構大変だったのになー、あいつら集めるのー』

●VSぎあ
 扉のなくなった入り口に背をもたれさせ、ぎあがお茶らけた調子でそう言った。
「現れたか、甘音ぎあ!」
 エメラルドが恫喝すると共に、武器の穂先を突き付けた。晟はさりげなく立ち位置を変え、万が一にもぎあが人々を追った時の壁にならんとする。
「罪のない人々に対するこの仕打ち、絶対に許さんぞ。人々を恐怖で抑えつけ、あまつさえその命を弄ぼうとは……!」
 エメラルドが凛とした声で怒りを伝えるその言を、ぎあの笑い声が遮った。
『きゃはは、ウッザイそういうの』
「なんだと……!」
 興奮するエメラルドの前に片手をかざして、グレッグが前に出る。
「お前達の下らない目的とやらに長々と付き合ってやる義理も何もないからな……とっとと終わらせる」
 ごく冷静なグレッグの声に、ぎあがつまらなそうに鼻を鳴らした。こうしていると、ちょっと生意気なだけの普通の少女にすら見える。レイは特にそう思ったらしく、実に残念そうに呟いた。
「見かけは可愛いんだがなぁ……まぁ」
 残念ではあるが、揺らぐわけもない。銃口を真っ直ぐに突きつけるとレイは片目を眇め、ほんの少しだけ語気を強めた。
「逃がしはしねぇから、大人しく吹き飛びな」
『やれるもんならね、おにーさんっ♪』
 踊るような足取りで、ぎあが動く。
「ラグナル、来い!」
 晟の呼びかけに応じてボクスドラゴン・ラグナルが晟にグラビティの注入を開始する。あたかも巨竜の如き威圧感とともに、豪腕がぎあの首元を捕えた。ウワ、と一瞬苦しげな表情をしたぎあだったが、次の瞬間ニヤリと笑う。
『ねえ、逃げた人たちほっといていいのお? 私たち屍隷兵いーっぱい作ってるんだよお? 無事に逃げられるかな? きゃはっ』
「?!」
 一瞬だけ、晟の胸に疑惑が持ち上がる。まさか追加で屍隷兵を放ったとでも? 否、ただの諫言だ、逃がしはしない。そこへレイの射撃がぎあの腕をかすめる。
『痛ぁーい!』
「嘘つき女はあんま可愛くねえぞ!」
「あなたの戯言に誑かされる私達じゃないの」
 続いて至近まで一気に駆け込んだシャルロットの斬撃が、その小さな傷を狙って正確に追い討ちをかけた。続けざまにももが轟竜砲を撃ち込む。
「一度絶望した人たちが希望を得るとな、ものすごく強くなるもんなんだよ! あとは私らがお前を倒すだけだ!」
 ももの言葉に忌々しげに舌打ちするとぎあはスルリと晟の拘束を逃れ、お返しとばかりに超至近距離から掌打を放った。
「ッ!」
『……ウッザ、アンタたち本当ウザイ!』
 ドンと衝撃が走るが晟は腹筋に力を込め、耐える。ぎあはぴょんぴょんと跳ね回って距離を取ったが、グレッグのナイフはそれを逃がさなかった。激しく斬りつけた肩から鮮血が噴き出すがそこは手練の螺旋忍軍、そう簡単に大人しくはならない。
『アンタたちなんかギッタギタにやっつけて、私専用の屍隷兵にしたげる! 毎日私の靴の裏舐めるといいよぉ、きゃははっ』
「はんっ! なるほど分かりやすいクズね、絶対逃がさないわよ!」
 メルーナが怒りに任せて飛び上がった……ように見えたが、そうではない。炎の翼を広げる竜姫の姿は神々しさすら纏い、仲間達の戦意を煽る。
「おお……」
 その炎を瞳に映し、一瞬内なる衝動をすら揺さぶられたエメラルドだったが、すぐに己の戦場を思い出し、傷を負った晟の元へ駆け寄った。
 舞い散る火の粉を心から美しい、と思いつつかごめも舞うような所作で紙兵を撒き散らす。人の命は時にひどく儚い。だからと言って弄ぶのは許せない。かごめのそんな思いを受けて、戦場に桜吹雪が踊る。
「さあ咲き誇れ!」
 スピードが交錯する戦場だった。ぎあの動きは小癪に速く、ケルベロスたちを翻弄した。螺旋の力を込めた氷結が、レイを襲う。
「ッ、って……」
『きゃはは! しんじゃいなよ!』
 崩れそうになる体を必死に支えるレイに、ぎあが追い討ちの掌底を放とうとする。だが。
「そっちは偽者だよ!」
『チイっ!』
 かごめが分身で幻影を作り出し、その隙に、エメラルドとメルーナが治療に当たる。
「大事ないか、ジョーカー殿」
「し、しっかりしなさいよね!」
 この状況……悪くない、とこっそり喜ぶレイ。その横をすり抜け様に、シャルロットが告げる。
「私が斬り込む、畳み掛けて」
「任せな、魔弾魔狼は伊達じゃねぇ……全てを撃ち抜け! ブリューナクッ!!!」
 シャルロットが牙突の構えで突き込む。そこへレイが放った5つの光弾はぎあに命中、全身から鮮血を振り撒きながらなおも突っ込んでくるぎあ。
『まだよ! あたしは元気ぃ!キャハハは!』
「こンの……、お調子乗り忍者め!」
 ももが利き腕に白雷を纏わせ、激しい破裂音と共に渾身のパンチ! 吹き飛ばされた反対側に待ち受けていたのは、静かな声。
「やりすぎたな。お前に祈りの言葉は、似合わん」
 地獄の炎を纏った左腕は、グレッグの心中を表す紅蓮に燃え上がる。振りぬいた拳の軌跡までをも焼き尽くすような、最も重い一撃が、ぎあの胸を打ち抜いた。
『ほんっとに、ウ、ザ……いぎゃぁあああっ!』
 ぎあの体が融けて消える。甘い音色を奏でる舌が人々を惑わすことは、永遠になくなったのだった。


「皆が心配だ。まあ、協力は要請してあるんだが」
 先に脱出した人々の安否が気になる晟は早々に部屋を出る。エメラルドが一度室内を見遣り、それに続いた。シャルロットが溜息混じりに呟く。
「……尋問できれば良かったんだけど」
 尤も、出来たとしてもそう簡単に口を割るぎあではなかっただろう。戦いを終え元の静かな男に戻ったグレッグも、静かに歩き出す。
「まあ、とりあえずはな」
 レイは辺りの本棚やファイルラックから屍隷兵に関する資料と思われる書類などを運び出していた。今後の対策や、はからずも屍隷兵にされてしまった人々を元に戻す方法が模索出来るのではないか、という願いと共に。同じ思いでかごめもそれを手伝った。その姿を珍しく複雑そうに見つめていたメルーナの肩を、ももがポンと叩いて明るく言った。
「お疲れ! まずは助けた人たちに会いにいこうぜ!」
「い……いいわよ」
 ひどい事件だったが、囚われの人々を解放し笑顔を取り戻したケルベロスたち。他施設への同時作戦の成功を信じつつ、その場を後にするのだった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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