人面犬現る!

作者:なちゅい

●ゴミを漁る怪物犬
 1990年前後に巷で出回った都市伝説、人面犬。
 一説に寄れば、当時の小中学生の噂話から都市伝説となったとされる。
 現状、それは下火になってはいるものの、インターネットの掲示板などでは密かに目撃証言が上がっているという。
 女子中学生の坪川・和世もその1人。彼女はスマートフォンで人面犬の話を知り、しかも、それが近場に現れると聞き、夜の街を密かに歩いていた。
 警察に補導されぬよう注意し、彼女は目撃証言のあったゴミ捨て場を回る。
 なんでも、人面犬はゴミを漁っていることが多いという。だから、和世はそうした場所を巡っていた。
「やっぱりいないかなあ……」
 一通り回ってそれらしき姿を発見できず、人気の無い道まで来て和世はがっくりと肩を落とす。所詮は荒唐無稽な都市伝説でしかないのだ。
 そんな彼女のそばにいつの間にか、ぼろぼろの黒い衣装を纏い、ひどく病的な肌をした魔女が立っていた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 その魔女は持っていた大きな鍵で、和世の胸を貫く。彼女はすぐに意識を失って倒れてしまったが、彼女の胸には傷すらついてはいない。
 それを見下ろす魔女の周囲には、モザイクに包まれた腕が見えた。この魔女はドリームイーター……第五の魔女・アウゲイアスである。
 やがて、倒れる和世のそばから大きな四足の獣が現れる。それは、和世が思い描いていた人面犬そのものの姿をしているのだが、中年の男性らしきその顔面にはモザイクがかかっていた。
「なんだってんだよ、俺は……」
 そいつは何かを呟いた後、その場から歩き去っていく。それを見届けたアウゲイアスもまた、いずこともなく消えていったのだった。
 
 ビルの屋上に集まるケルベロス達。彼らの話は、人面犬が発見されたという話で持ちきりである。
「聞いたか、人面犬を探す興味を狙うドリームイーターが現れるって!」
 そこにやってきたアンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)が詳細な情報を持ち寄ると、ケルベロス達は「やっぱり夢喰いか」、「人面犬なんていないかー」と様々な反応を見せる。
「うん、残念ながら、ドリームイーターだね……」
 ヘリオンから降りてくるリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が話を切り出し、そのまま依頼の説明を始める。
 どうやら、人面犬に関する都市伝説を目にした少女が、実際に自分の目で確かめようと街を徘徊する最中にドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまうようだ。
「奪われた『興味』を元にして、怪物型のドリームイーターが実在化してしまっているよ。この夢喰いが事件を起こそうとしているようだね」
 すでに 『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消している。こちらも気にはなるところであるが、今は新たな被害が出る前に、人面犬のドリームイーターを討伐したい。
「このドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまった被害者も、目を覚ますはずだよ」
 襲われたのは、愛知県豊橋市在住の中学2年生、坪川・和世だ。
 夢喰いに襲われて『興味』を奪われた彼女は、人通りの少ない繁華街の裏通りに倒れており、昏睡状態にある。無事にドリームイーターを倒したのならば介抱し、何かフォローしてあげたい。
「『興味』から生まれたドリームイーターは、夜中、繁華街の裏通りをメインに歩いているようだよ」
 このドリームイーターは、人面犬についての都市伝説を信じていたり、噂していたりする人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質がある。これを利用して相手をうまく誘い出せば、有利に戦うことができるはずだ。
「現れるドリームイーターは、人面犬の姿をしたドリームイーターが1体だけ。配下などはいないようだよ」
 敵は全長2メートルほどと大きい。しかも顔面にモザイクがかかっているときているから、見ればそれがドリームイーターだとすぐ分かるはずだ。
「このドリームイーターは、人間を見つけると『自分が何者であるかを質問してくる』よ」
 この返答によっては、相手を殺そうとするようだ。ドリームイーターと出くわした一般人がこれによって、危機に瀕する可能性がある。
 もちろん、ケルベロスとしては見過ごすわけにはいかないので、返答内容に関わらず、早々に討伐してしまいたい。
 ドリームイーターは大きく口を開いてのかぶりつきや、敵陣へと猛ダッシュすることで、相手を怯ませてくる。また、モザイクを飛ばし、相手の『興味』を奪うこともあるようだ。
 説明を終えたリーゼリットは複雑そうな顔をした。
「こんな奇妙な姿の生物、本当に存在するのかは疑問だけれど……」
 首を傾げるリーゼリットはその存在の是非はさておき、これだけはと断言する。
「ただ、現れる人面犬は人に害成す存在でしかないからね」
 人面犬に関して色々と思うことはあるだろうが、今回は討伐をよろしく頼むよと、リーゼリットは改めてケルベロス達へと依頼するのだった。


参加者
七種・酸塊(七色ファイター・e03205)
草間・影士(焔拳・e05971)
フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)
錆滑・躯繰(カリカチュア・e24265)
アンナ・トーデストリープ(煌剣の門・e24510)
レオナルド・ドール(沈む獅子・e26815)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
カレン・アブシンス(ファンタズマ・e33694)

■リプレイ

●人面犬に対する興味
 愛知県豊橋市。
 ケルベロス達は、ヘリオンから降下して活動を始める。
「ううむむむむ……。相変わらず、ドリームイーターどもの為す事は珍奇じゃのお」
 服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が唸りながら呟く。繁華街の裏通りにドリームイーターが現れると聞いたケルベロス達が当たる今回の任務はそのドリームイーターの討伐だ。
「好奇心は身を滅ぼす、っていうのがこういう状況なのかな。まぁ、人面犬がいるだなんて聞いたら気になるよね」
 少女の純粋な好奇心を利用するドリームイーターが悪いと、レオナルド・ドール(沈む獅子・e26815)は断言する。
 しかしながら、人面犬に対してネガティブな反応を見せるメンバーもいて。
「顔にモザイクの人面犬か……。都市伝説でもデウスエクスでも、おぞましい事には変わりないのう」
 カレン・アブシンス(ファンタズマ・e33694)は悪態づくようにして仲間に強気な態度を見せていたが、ビハインドのアクイラの手を引く振りをしてその手をぎゅっと握っている。実は、初依頼で少し緊張していたのだ。
(「……ちゃんと役に立てればよいのじゃが」)
 微妙な距離感のある2人だが、カレンにとって一緒にいると安心する存在らしい。
「人面犬っていたとしても、探そうとは思わねえんだが……」
 人面犬にはさほど興味がなさそうな、七種・酸塊(七色ファイター・e03205)。さりげに、ツチノコはいてほしいなと彼女は考えているらしい。
「ただ、こんな時期に寒空でほっとかれてんなら、手早く終わらせねえとな!」
「そうだな、繁華街に女の子を置き去りだなんて心配だし。さっさと片付けてしまおうか」
 夢喰いによって『興味』を奪われた少女を介抱する為にも、現れる人面犬のドリームイーターを倒さねば。酸塊がそう意気込むと、レオナルドもまた同意して見せたのだった。

●呼ばれて出たその夢喰いは……
 人面犬……ドリームイーターの対処の為、人通りの少ない裏通りを見定めたケルベロス達。
 通りがかった人にはフォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)がラブフェロモンで籠絡し、この場から退去を促す。童顔なフォトナは自身の色気でサラリーマン男性を説得できたことに、大人として見てもらえたと気を良くしていたようだ。
 錆滑・躯繰(カリカチュア・e24265)は隣人力を使い、自らの知名度と美貌を活用して女性をナンパしつつ、人払いを行う。後は仲間がどうにかしてくれることを期待し、彼は女の子との会話を楽しんでいた。
 やがて、近辺から人気が無くなる。カレンも手が足りなければパニックボイスで加勢をと考えたようだが、その必要はなかったようだ。
 人がいなくなった後は、酸塊とレオナルドが周囲にキープアウトテープを張り巡らせ、誘い出しの環境を整えた。
「人の顔をした犬がいるっていうが。どんなやつだろうな」
「聞くところによると、やたらと足が速いらしいのじゃ。……なんぞ、人面であることと関係無くないかの?」
 徐に、草間・影士(焔拳・e05971)が人面犬に興味を持つ素振りを見せると、無明丸が噂話について語る。
「え、人面犬が出るんですか? おじさん顔の? ……そこは、美少女の顔になりませんか?」
 ニコニコと笑みを浮かべるアンナ・トーデストリープ(煌剣の門・e24510)は、そう仲間達へと訴えかけるが。
「なんで、人面犬ってオスばっかなんだろうな。それとも、実はメスもいんのか?」
 近くで見られたならば、それが分かるかもしれないと酸塊が話したのもあって、アンナは考える。仮に顔が美少女であったとして……。
「あ、でも、体は犬……いや、でも、迷う……。あ、はい。なりませんか、はい」
 仲間の話を聞き、アンナは面白くなさそうに指で髪をくるくるしていたようだ。
 それはさておき、無明丸は別の噂も語る。
「繁華街でゴミを漁っておるところに声をかけると、『ほっといてくれ』と返したそうじゃ。……酔っ払いが乞食を見間違えただけではないかの?」
「人面犬か……、そんなのいるはずないと言いたいところだが……、この世の中だとそれを言い切れないのがどうもな」
 私達がその典型例だからと、躯繰はまだ見ぬ何かの存在について完全否定できないでいたようだ。
「人面犬って喋るのよね。口は犬と人間、どっちなのかしら?」
 フォトナがそんな疑問を口にすると……、そいつは物陰からゆらりと現れた。
「つーか、犬じゃなくて、狼くらいあるじゃねえか大きさ!」
 酸塊は自身よりも大きな敵の出現に、驚く。そいつは、全長2メートルもある犬のような胴体を持っていた。
 その顔面は中年男性のようにも見えるが、淡いモザイクがかかっている。
「Mamma mia! 人面犬って、こんな感じなんだね……。なんだかこう、うん」
 その出現にレオナルドは最初、驚きの声を上げたが、徐々にそのテンションは下がってしまう。
「アレが人面犬モドキかあ……。予想はしてたけど、致命的に可愛くないわね……」
 フォトナもまた、ややげんなりとしながら仲間に本音を漏らす。
「なんだってんだ、俺は……?」
 人面犬は低い声で問いかけてきた。夢喰いの様子に、酸塊は別の意味で恐れを抱いていた様子だ。
「今回はどうやら紛い物だったようだけれど……。いや、これはこれで本物と呼べるのか……」
 自分の存在すら分からぬこの敵に、躯繰は哀れみすら覚える。
「なんだってんだよ、俺は……?」
 質問を繰り返すドリームイーターに苛立ちを覚えたのか、無明丸が声を荒げた。
「たわけ! 何者であるかなどという高尚ぶった問いが似合う面相か!」
 彼女は構えを取りつつ、さらに叫びかける。
「せめて、もっとそれらしいことを言わぬか! 低い! 再現度のくおりてぃーが低いのじゃ!」
 無明丸は仲間と敵の状態を見つつ、攻撃のタイミングを図る。
「お前が何者かって? ただのドリームイーターだろ」
 その間に、気を取り直した酸塊が冷淡に告げた。
「あなたは何者か、ですか? それは畜生です」
 全身を鎧装に包むアンナもまた、敵へと主張した。もう少し小さくて可愛い女の子だったならば、舐めたりじゃれついたりも構わないのにと。
「うふふ、でも、あなたに『興味』は無いんです」
「折角、出てきてもらってなんだが。俺もお前には興味がない」
 影士は敵の退路を断ちつつ攻撃態勢を整え、掌に竜の力を込めていく。
「人だろうと犬だろうと。とっとと片づけさせてもらう」
「さっさと片付けて、眠ってるお嬢さんの安全を確保しないとね」
 レオナルドは槍を手にし、敵へと突きつける。
「それじゃ、行こうか。シルヴァーナ!」
 オウガメタルを拳に纏わせたフォトナもまた動き出した。
 ドリームイーターが攻撃に動き出す前に。メンバー達は早速その討伐に当たり始めるのだった。

●ケルベロスvs人面犬
 人面犬が動く前に、冥界の番犬の名を冠するケルベロス達は攻撃を仕掛ける。
「その緊張感の無い間抜け面を吹っ飛ばしてやるのじゃ!」
 仲間の態勢が整ったことで、無明丸が先んじて敵へと飛び込む。彼女はただ全力で敵に立ち向かい、己の力を存分に奮うことができればと考えている。
「いざ尋常に……勝負! ぬぁああああああああああーーーーーッ!!!」
 ドリームイーターの正面に出た彼女は、思いっきりオウガメタルを纏わせた拳を振りかぶり、渾身の力を込めて敵のモザイクの顔面へと叩き付けた。
 ただ、初撃で倒れるほど柔な相手ではない。
「アタシはケルベロスの七種・酸塊。七色を纏う降魔拳士だ、覚えとけ!」
 口上を述べた酸塊も近距離から、ルーンを発動させたルーンアックスを振り下ろし、敵を守るモザイクを少しでも晴らそうとする。
(「被害者の件もあるし、なるべく早めに倒したいな。こいつからは情報も……いや」)
 彼女は敢えて、人面犬へと言葉を掛けてみた。
「魔女について、何か知らねぇか?」
「うるせぇよ」
 そこで、殺気を放つ夢喰い。思った返答は得られなかったが、酸塊は敵の殺気を感じて嬉しそうに笑い返した。
 両手にナイフを握った躯繰が敵へと切り込んだ直後、掌に竜の力を集めていた影士も敵へと近づいて言い放つ。
「砕け散るか燃え尽きるか、好きな方を選ぶといい」
 敵の組み合う形をとった影士はその拳から集めた力を解き放つと、まるで天へと舞い上がるように昇る竜が夢喰いの体を焼く。影士はその間も、近場に一般人がやってこないかと気に掛けていたようだ。
 モザイクの中で怪しく瞳を光らせる敵を警戒し、フォトナは鎖を展開して前線の仲間の足元に魔方陣を描く。
 そこで、ようやく動き出した人面犬は素早い動きでケルベロスへと疾走し、その威圧でメンバー達を竦ませてしまう。
 それでも、全身を光に変えて突撃することで反撃したアンナは、渋々といった表情でレオナルドを庇う。
 レオナルドはそれに少しだけ複雑な表情を浮かべつつ、『獅子の稲妻』と名づけられた槍で、文字通りに稲妻のごとき突きを繰り出して夢喰いの体に痺れを走らせる。
 やや後手に回ったが、カレンもまたアクイラと一緒に前に出て、仲間を護ろうと意気込む。アクイラが人面犬の背後から大鎌で斬りかかり、カレンが続けてオーラの弾丸を発し、敵の体へと食らいつかせた。
 ケルベロス達が攻撃を連続して叩き込んでなお、人面犬は何やらぶつぶつと声をくぐもらせながらも、顔面を包むモザイクをケルベロスへと飛ばしてくるのだった。

 その見た目に反して、人面犬の攻撃は激しい。
 大きく口を開いてかぶりつき、またモザイクを飛ばしてくるドリームイーター、人面犬。
 カレンが振り上げたルーンアックスで、敵もろとも地面を叩きつける。
 着地したカレンが大きな口を開いてかぶりつく敵を受け止めると、無明丸が敵の腹目掛けて蹴りかかった。
 合間にオウガメタルで殴りかかるなどして攻撃を挟んではいたが、フォトナは冷静に仲間の状態を見極め、傷が大きくなっていたカレンを緊急手術によって治療していく。影士も合間を見て、仲間へと気力を撃ち出していた。
 それでも、夢喰いはなおも食らいついてくる。狙われたのは酸塊だったが、女性メンバーを庇うとなれば、アンナは積極的な姿勢で盾となっていた。
「死出の門、開放」
 そして、彼女は鎧の胸部装甲を開放し、六角形の砲門へとグラビティを収束させていく。
「ビーハイブ超重力砲。照射」
 肩部装甲を変形させたクローを地面に打ち据えて姿勢制御を行ったアンナ。次の瞬間、彼女が放ったグラビティの奔流が夢喰いの体を包み込む。
 人面犬はその一撃で息をかなり荒くする。ただ、食らいつかれたアンナも体力を消耗しており、膝を突いてしまっていた。
「Erwacht in Freuden wann der Geist euch reget wieder.」
 レオナルドが紡ぐ言葉は、祈りの賛美歌。『魂が再度呼び起こされるのであれば、喜んで目覚めなさい』といったフレーズだ。
 それにより、幾分か態勢を立て直すアンナ。まだまだ倒れるわけにはいかない。
「うおおおおおッ!!」
 その後、酸塊が雄たけびを上げて猛然とエアシューズで蹴りかかれば、躯繰も地獄の炎を纏わせたナイフで夢喰いの体を刻み、傷口を燃え上がらせる。
 夢喰いが倒れかけたところで、影士が両腕に魔力を込めていく。
「この力。生に導くか死を手繰り寄せるか。試してみるか?」
 影士は手前に集中させた赤いエネルギーの奔流を、敵へと放出した。それは敵の顔面へと命中し、人面犬の体を貫く。
「あ……あう……」
 横倒しに倒れ、ドリームイーターは全身がモザイクに包まれる。そして、何も無かったかのようにモザイクは晴れてしまったのだった。

●噂は噂でしかなく……
 人面犬のドリームイーターが倒れたのを確認し、無明丸は朗々と告げる。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
 高笑いする彼女のそばでは、レオナルドが少女、坪川・和世を発見してこの場へと運び、ゆっくりと物陰に横たえる。外傷はなさそうだが、体が冷えていることを懸念してカレンがブランケットを掛けていた。
 程なく和世が目覚めると、カレンは水筒に用意していた温かいハーブティーを差し出す。
「大丈夫でした? 怪我はありません? 汚れていません?」
 アンナが気遣うと、ハーブティを口にした和世は首を横に振る。無事を確認したケルベロス達は安堵の表情を見せた。
「全くデウスエクスにも困ったものだね……。こんな噂話を流すなんて」
「残念だけど……、噂の輩は『人面犬の姿をしたデウスエクス』だったわ。そもそもの噂も、連中が流したのかもね……」
 人面犬について気に掛ける和世に、レオナルドとフォトナが言葉を返す。所詮噂話に過ぎなかったのかと、彼女は残念がっていたようだ。
「全く、こんな世の中なのだから、一人で、しかも女の子が夜に出歩くものじゃないよ」
「うむ、夜の街は色々な意味で物騒だから、やめておけ」
 躯繰、カレンが和世を嗜める。厳しい言葉ではあったが、それもメンバー達が彼女を心配しているからこその言葉だ。
 犬ですらあるけば棒にあたる。だから、デウスエクスに当たっても仕方ない。躯繰は爽やかな顔で和世に告げた。
「ま、今回は無事で良かったが……。やれやれ、そんなに可愛いのだから気をつけたほうがいいよ?」
 良ければ、家まで送ろうかと提案する躯繰に、和世は「はい」と頬を赤らめて頷く。
 その道中、躯繰は和世へと偶然撮れた人の顔っぽい犬の写真や、人の顔っぽい魚の写真を見せて元気を出させようとしていたが、彼の美貌にうっとりとしていた和世の目には入っていないようにも見えた。
「今度は本物が見つかるといいですね」
「はい!」
 アンナが別れ際に和世へとそう言葉を掛けると、和世はすっかり機嫌を良くし、手を振って家に戻って行った。
「ううむむむむ……。なんとも噂話とは、珍妙なものを世に生み出すものじゃな」
 噂はデウスエクスが流したものと、ケルベロス達は方便として少女に話はしたものの。無明丸は独りごちるように考えを口にする。
「結局のところ、この噂話は出所もはっきりせんのであろ? 正体は夢であったか現であったか、さて、どちらの方が浪漫のある話かのお?」
 無名丸はそんな言葉を和世の背にかけてから、その場を去っていったのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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