忍軍の屍隷兵~屍の虜囚を救出せよ!

作者:秋津透

「喰っていないのか」
 独房の中の虜囚を扉の覗き窓から見やり、螺旋忍軍『犬稗の神笑(いぬびえのひがみ)』が冷やかな声で告げる。
「意地を張って喰わずに衰弱して死ぬのは貴様の勝手。こちらはまた別の奴を攫ってくる。それだけだ。だが、貴様に生きるつもりがあるなら、人を越えた存在にしてやろう。興味はないか?」
 告げるだけ告げて、犬稗の神笑は覗き窓を閉じる。
「……人を越えた存在か」
 素質のある奴を見込んで攫い、螺旋忍軍に仕立てている時には、もっと熱を籠めて口説いたものだが、と、犬稗の神笑は苦々しげに呟く。今や彼の任務は、手当たり次第に人を攫い『屍隷兵』とかいう知能の低い怪物の素材にする、というものに変わってしまっている。
「確かに不死だ。力は強い。しかし、肝腎の頭脳は人に劣る。何が、神造デウスエクスだ」
 虜囚を閉じ込めた独房がずらりと並ぶ倉庫の通路を歩きながら、犬稗の神笑は呟く。そこかしこに警備のため屍隷兵を立たせているが、はっきり言って、ものの役に立つとは思えない。力はそこそこ強いものの、いちいち指示してやらなければ、殺すべき敵と助けるべき味方と傷つけずに捕えるべき虜囚の区別も付けられない愚鈍な存在だ。
 そして、その愚鈍な存在の中の何体かは、螺旋忍軍になりうる素質があると見込んで犬稗の神笑が攫ってきた者が改造された成れの果てだという事実を、彼は知っている。自分の提言が無視され、自分が心血を注いだ仕事が無駄にされた。その思いが、冷徹を誇るはずの螺旋忍軍、犬稗の神笑を苛立たせる。  
「馬鹿げた話だ。100人の屍隷兵よりも、優秀な1人の螺旋忍軍を教育すべきだろうが!」
 ついに、はっきり声に出して犬稗の神笑は言い放ったが、自分たちを否定する言葉を耳にしても、屍隷兵たちは何の反応も示さない。否定されていると理解するだけの知能がないのだ。

「冥龍ハーデスが生み出した神造デウスエクス『屍隷兵』は、ハーデスの死と共に失われるものと期待されていましたが、残念なことに、そうはならなかったようです」
 ヘリオライダーの高御倉・康(たかみくら・こう)が、心底苦い口調で告げる。
「『屍隷兵』を生み出す技術に注目し、継承強化しようと企んでいるのは、螺旋忍軍です。奴らは既に、各地で一般人を攫って素材にし、知性のない『屍隷兵』を作りだすところまでいってしまっているようです」
 そう言って、康は一同を見回した。
「もちろん、そんな企てを許すわけにはいきません。螺旋忍軍の研究者の討伐、研究所の破壊、試作『屍隷兵』による襲撃の阻止等が行われる予定ですが、皆さんにお願いしたいのは、『屍隷兵』の素材として攫われ監禁されている人々の解放と、素材集めをしている螺旋忍軍の撃滅です」
 そして康は、プロジェクターに地図と画像を出す。
「青森県八戸市の港近くに並ぶ倉庫の一つを螺旋忍軍が密かに占拠し、攫った人々の収容所にしていることがわかりました。現場はここです。人々を攫い、監禁している螺旋忍軍の将は、艮・鬼怒(無影の凶梟・e13653)さんの宿敵でもある『犬稗の神笑』で、気配を消す術や相手の五感を欺く術に長けた手強い相手です」
 そう言うと康は、難しい表情で続ける。
「もともと『犬稗の神笑』は、素質のある人間を厳選して攫い、螺旋忍軍の一員にするという任務を担っていたのですが、自分が選んだ候補を知性のない『屍隷兵』にされてしまい、憤慨しているようです。そのため、配下として付けられた『屍隷兵』を役立たずと決めつけ、適当に配置して、自分は単独行動をしています。現在の任務にあまり価値を認めていないので、すぐさま逃げてしまう怖れもありますが、配下を身近に置いていないという点では、急襲して斃す好機かもしれません。何しろ、非常に捕捉しにくい相手のようですから」
 そして康は、小さく首を振って告げた。
「心情的には捕われた人々の救出を最優先にしたいですが、『犬稗の神笑』を逃がしてしまったら、すぐに別の場所で、別の人たちが攫われてしまうでしょう。まず螺旋忍軍を全力で斃し、それから『屍隷兵』を潰し、敵を一掃してから人々を解放するのが上策なのではないかと思います。どうか、よろしくお願いします」


参加者
メルティアリア・プティフルール(春風ツンデレイション・e00008)
御崎・勇護(蒼き虎哮の拳士・e00655)
蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
艮・鬼怒(無影の凶梟・e13653)
影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)
尽影・ユズリハ(ロストブレイズ・e22895)
八尋・豊水(狭間に忍ぶ者・e28305)

■リプレイ

●いざ、突入!
「倉庫管理室は、かなり高い位置にある。壁から倉庫の内側へ突き出るような構造で、内側の壁面がガラス張りになっていて、倉庫内部全体を見渡せる」
 斥候から戻ってきた尽影・ユズリハ(ロストブレイズ・e22895)が、落ち着いた口調で説明する。
「管理室に入るには、倉庫外側の螺旋階段を上がるか、倉庫内側壁面の梯子を登って床面の上げ蓋を開けるか、どちらかになる。私たちや螺旋忍軍はもちろん、人間にとっても普通の手順だが、屍隷兵には容易ではないと思う」
「なるほどね……」
 八尋・豊水(狭間に忍ぶ者・e28305)がうなずき、ユズリハに尋ねる。
「で、螺旋忍軍は管理室にいるの?」
「ああ、管理室のガラス面に影が映った。上から倉庫の中を見回しているのだろうが、いつ出てくるかはわからない」
 そう答え、ユズリハは薄く笑う。
「襲うなら、今。でも、一つ懸念がある。全員が外階段を上がり扉を破って突入したら、おそらく螺旋忍軍は、ガラス窓を破って倉庫内に逃げると思う。そうなると、かなり厄介だ」
「確かに……だけど、どう阻止する?」
 尋ねる蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)に、ユズリハは即答する。
「飛べる者が倉庫内に入り、こちらから先に窓を破って突入する。同時に、外からも突入して挟み打ちにする」
「それ、乗ります!」
 ドラゴニアンの蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)が真っ先に応じ、オラトリオのメルティアリア・プティフルール(春風ツンデレイション・e00008)が一同を見回す。
「飛べるのは、ボクと『ヴィオレッタ』、真琴、凛子、ユズリハとサーヴァントで六人?」
「ほぼ半々か。好都合だな」
 御崎・勇護(蒼き虎哮の拳士・e00655)が呟き、軽く首を傾げて続ける。
「しかし、ステルスなしで倉庫に入ったら、たちまち見つからんか?」
「管理室から死角になる場所の壁を破って突入する。具体的には、あのあたりだ」
 ユズリハは、倉庫の壁を指さす。
「屍隷兵が配置されているのは、扉や入口だ。壁を破って入れば、咄嗟には対処できまい」
「よし! じゃあ、私たちは外階段から!」
 この場所に詰める螺旋忍軍『犬稗の神笑』を宿敵とする艮・鬼怒(無影の凶梟・e13653)が、勢いよく言い放つ。
「タイミング、合わせていこうね!」
「もちろん」
 いい感じだ、いい意味で気負いがない、と、内心で呟きながら、ユズリハは鬼怒への言葉を続ける。
「では行こうか。慎重に、かつ大胆に、ね」
「うん!」
 うなずいて、鬼怒は勇護、影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)、スカーフを顔に巻き直した豊水と彼のサーヴァント『李々』とともに、管理室へ通じる外階段へと走る。
 一方、凛子が倉庫の壁際へと進み、斬霊刀の柄に手をかけてユズリハに尋ねる。
「壁を破るのは、このあたりでよろしいでしょうか?」
「ああ、間違いない」
 ユズリハが答えると同時に、凛子が居合抜きで斬霊刀を一閃させる。ずぱっ、と倉庫の壁が大きく斬り割られ、手前側にばたんと落ちる。
 そして、一同はすぐさま倉庫へ飛び込み、翼を広げて管理室へと飛翔する。高い位置にある大きなガラス窓は、それと知っていれば一目で分かる目標で、ユズリハが指示するまでもなく、或る者は体当たり、或る者は足からの蹴りで窓を破って管理室に飛び込む。
 ただ、真琴は翼を展開する直前に、護符を撒いて翼全体を覆った。何かの理由で、翼を誰にも見られたくないらしい。

●死闘! 犬稗の神笑 
「……なっ!?」
 真っ先に突入した凛子を、管理室の扉近くにいた螺旋忍軍が振り返って見据える。
(「不意を突いた!」)
 声には出さない一瞬の思考に続き、凛子は必殺の『蒼龍魔王剣・氷刃華斬(ソウリュウマオウケン・ヒョウジンカザン)』を敵に叩きつける。
「我は水と氷を司りし蒼き鋼の龍神。我が名において集え氷よ。凛と舞い踊れ!」
「ぐあっ!」
 一刀両断、とはいかなかったが、螺旋忍軍の左腕が完全に切断されて飛び、傷口から噴き出た血が即座に凍りつく。
 刃に乗せた氷の吐息を神速の斬撃で叩きつけ、凍りついた傷口がまるで氷の華が咲くように見える魔性の剣が、螺旋忍軍『犬稗の神笑』に深手を負わせた。
 そして、凛子の一撃と同時に管理室の扉が破られ、外階段から上がってきたケルベロスたちが突入する。
「くっ……不覚……」
 端正な容貌を歪ませ、犬稗の神笑は一分の隙もなく自分を包囲する八人プラス三体の敵を睨み回したが、その表情が不意に変わる。
「お前は……鬼怒!? 艮・鬼怒か!?」
「その顔、変わってないね、加賀見姉さ……いや、神笑」
 宿敵に相対したというよりは、久しぶりに懐かしい人に会ったような口調で、鬼怒が応じる。
「サシじゃどう足掻いても勝てないのは悔しいけど、少しは鍛えたんだ。ケリを付けるよ、私の拳と、仲間の力で」
「そうか……お前の方から、私を追ってきたのか……」
 もはや、他の敵はあまり見えていないような雰囲気で、神笑は鬼怒を見据える。
 よし、この間に、と、メルティアリアが自分を含む前衛のガードを固め、彼女のサーヴァント、ボクスドラゴンの『ヴィオレッタ』がブレスを吐いて螺旋忍軍の傷に付着する氷を広げる。
「……手強い奴らを仲間につけたようだな」  
 斬られた腕でブレスを防ぎながら、神笑は呟く。
「それに比べて私に付けられたのは、知性のかけらもないでくのぼう……しかし、役に立ってもらわなくてはな!」
 そう言うと神笑は、口の中に含んでいたのか、小さな笛を銜えて吹き鳴らす。
(「ちっ!」)
 召集の笛を使う素振りが見えたら揺さぶりをかけようと狙っていた豊水が、小さく舌打ちをする。
「屍隷兵を呼んだのね……罪なき人を実験体に……虫唾が走るわ」
「ほう? ならば、罪あるものなら実験体にしてよいと?」
 笛を口の中に戻し、神笑は嗤う。
「螺旋忍軍に逆らう貴様らを、いっそ捕えて実験体にしようか?」
「ふむ……仕事にかける君の情熱、感心しないでもないが……」
 冷静に告げながらユズリハが紙兵を撒き、前衛のステータス異常耐性を強化する。彼女のサーヴァント、ボクスドラゴンの『シオン』は、『ヴィオレッタ』に続いてブレス攻撃をかける。
「私達にとってはありがた迷惑だな。此処でお終いにさせてもらおうか」
「それは御免こうむる。でくのぼうの素体集めが最後の仕事というのは、さすがに避けたい」
 軽口を叩く螺旋忍軍に、真琴が猛然と愛用のゲシュタルトグレイブ『烈槍葵牙』を突きこむ。
「年貢の納め時だ、犬稗の神笑! ここで確実に仕留める!」
「いやいや、貴様らに年貢を納めねばならん義理はないぞ」
 当初の衝撃から立ち直ってきたのか、片腕を失い傷口を氷で厚く固められながら、犬稗の神笑は手練れの螺旋忍軍らしい不敵でトリッキーな動きを見せ始める。
(「焦ってはダメ。そう簡単に斃せる相手じゃない」)
 リナは声に出さずに呟き、自分の周囲に魔法の木の葉を撒く。続いて豊水が、鬼怒の周囲に同じ木の葉を撒く。
 そして豊水のサーヴァント、ビハインドの『李々』が、破れた扉の破片や窓ガラス片にグラビティを籠め、螺旋忍軍に叩きつける。
「くっ、サーヴァント風情が……」
「でも、屍隷兵よりはずっと有能だよ?」
 言いながら、鬼怒が猛然と踏み込む。
「そして、どんなに不本意でも、螺旋忍軍は上の命令に逆らえないんだってね? それじゃ、いくら有能でも、上が馬鹿なら役に立たないってこと?」
「くっ!」
 鬼怒が叩き込んだ螺旋掌と、投げかけられた言葉と、どちらがより痛かったのか。犬稗の神笑は顔を顰める。
「強くなったな、鬼怒……ああ、お前をきちんと指導できたら、どんなに強力な螺旋忍軍になったかと思うと……何とも歯がゆい!」
「いや、お前に託そうものなら、最悪、屍隷兵にされちまう。それは御免こうむるぜ!」
 勇護が言い放ち、切れ味鋭い跳び回し蹴りを放つ。
「鷹爪疾空脚! しゃあ!」
「ぐぬっ……」
 蹴りを受けてよろめいた神笑に、凛子が殺到する。しかし神笑は、即座に跳びさがって躱す。
「そうそう喰らってはいられん……本気で命に関わる」
 呟くと、神笑は分身の術で態勢を立て直す。やはりしぶといですわね、と、凛子は再度構えを居合に戻した。

「りゃあっ!」
 気合とともに鬼怒がクナイ手裏剣を投げつけるが、神笑は最小限の動きで躱す。続いて勇護が、ガントレットからの加速を十分に乗せた正拳突きを叩き込む。
「一撃必殺……つあっ!」
「それを喰らうのは、御免こうむる!」
 まさに紙一重で、神笑は身を翻す。さすが身軽さが身上の螺旋忍軍、躱しに徹されるとなかなか当たらん、と、勇護は内心唸る。
 と、その時。
「時間を稼いでも、ムダよ!」
 言い放って、豊水が爆破スイッチを押す。床の上げ蓋と外の階段とで、続けざまに爆発が起こる。
「現場見る前は、爆破でバリケード作って屍隷兵を足止めするつもりだったけど。こうも好都合な立地なんだもの、階段と梯子落として増援が登ってこれなくするのが、当然でしょ?」
「むむむ……」
 神笑が、ぎりっと奥歯を噛む。階段と梯子を壊されたら、屍隷兵は管理室に登ってこられない。身体能力的には、壁に窪みを刻んで足場にするとか、ロープを掛けるとか、登る手段がなくもなかろうが、そんな創意工夫をする頭脳が屍隷兵にはない。
「使えない……やはり、馬鹿は使えない……」
 苛立たしげに呟くと、そこまで躱しと自己回復で時間を稼いできた神笑は、猛然と鬼怒に飛びかかる。
「やむを得ない! お前を倒して活路を開く!」
「そうはさせないよ!」
 誰一人欠けさせるものか、と、ディフェンダーのメルティアリアが飛び出す。そこへ、更にボクスドラゴン『ヴィオレッタ』が飛び出し、マスターに代わって神笑の螺旋掌を受ける。
「……確かに、サーヴァントの献身は無視できん……あの役立たずどもとは比べるのが失礼だな」
 弾き飛ばされる『ヴィオレッタ』を見やり、神笑は苦く微笑する。
 そこへユズリハが、必殺技『無明の月(ムミョウノツキ)』を発動させる。
「……君の終わりを、私が見よう」
「う、うぬっ……」
 五感を地獄化したユズリハの視覚に捉えられ、神笑の動きが止まる。
 そして凛子が、満を持して斬り込む。
「我は水と氷を司りし蒼き鋼の龍神。我が名において集え氷よ。凛と舞い踊れ!」
「ぐわっ!」
 二撃目の『蒼龍魔王剣・氷刃華斬』が、螺旋忍軍の残った片腕を飛ばす。
「真琴さん、合わせて!」
「おう!」
 言い放つと、真琴はとっておきの必殺技『翔星光軌斬(ショウセイコウキザン)』を発動させる。
「手加減はなしだっ! 陰と陽が混ざりし刃よ。我が放ちたる一撃に彼の者を儚く散らせ!」
 愛槍『烈槍葵牙』に傷の治りを阻害する呪いの斬撃(アンチヒール)を乗せ、放たれる混沌の一撃は光となりて魂をも切り裂く。まともに胸を貫かれ、さしもの神笑も斃れるかと思いきや。
「まだ……まだだっ……こんな……こんな甲斐のない任務で……倒れてなるものかっ!」
 血を吐くような叫びとともに、両腕を斬られた螺旋忍軍は意志の力だけで現世に踏み止まる。
 そこへ豊水が、冷やかな口調で尋ねる。
「無駄にしぶとくあがくなら、ちょうどいい、尋ねるわ。あんた、百面老っていう名前に覚えはある?」
「ふ……答える義理などないと思うが?」
 べっ、と血の塊を吐き、神笑は壮絶な笑みを浮かべる。
 その姿を見やって、メルティアリアが鬼怒に告げる。
「とどめを……キミの役目だと、思うから」
「……うん」
 うなずいて、鬼怒は螺旋忍者の技、螺旋氷縛波を神笑に撃ち込む。
「さようなら……定命化してくれてたら違う未来があったの……かな?」
「さあ……な」
 呟くと、犬稗の神笑は崩れ倒れ、動かなくなる。その頭に巻いた濃緑のバンダナを、鬼怒がほどいて取る。
「やった……」
「いや、まだ終わってないぞ!」
 吐息をつくリナに、勇護が殊更に大声で告げる。
「下には、屍隷兵が集まってきている。十体揃っているかどうかは知らんが、とっとと片づけんとな!」

●殲滅と解放
「オン・シュリ・ニン! 私の香りに溺れなさい……」
 豊水が八体に分身し、必殺技『八尋流・手裏剣幻夜の術(ミッド・ナイト・シャドーノジュツ)』で屍隷兵を翻弄する。
 この術は、直接のダメージこそ大きくないが、幻覚を伴う香りを複数の相手に嗅がせて混乱を招き、うまくいけば同士打ちまで引き起こす。
 そして、動きの鈍った屍隷兵の集団に鬼怒が突入、必殺技『千旋凶梟(センセンキョウキョウ)』を駆使する。
「闇夜を翔る梟の凶爪、見切れるもんなら見切ってみなさい! 無音無影、千旋凶梟!」
 鈍重な屍隷兵には触れることもできない高速で、鬼怒は螺旋の力を籠めた攻撃を連続で叩きつける。
 こちらも、大勢の敵に対する列攻撃なので、ダメージは比較的小さいが、螺旋力で麻痺を起して更に動きを鈍くする。
「よし、一体ずつ確実に潰すぞ!」
 勇護が宣言し、必殺の『虎吼天翔拳(ココウテンショウケン)』を放つ。
「こおぉぉぉ……虎吼、天翔拳!」
 勇護の鍛え上げられた全身から放たれる強力な大型気弾に直撃され、一体の屍隷兵が粉微塵に吹き飛ぶ。
「では、わたしも……放つは雷槍、全てを貫け!」
 リナも必殺技『幻影雷刃槍(ゲンエイライジンソウ)』を放ち、一体の屍隷兵を雷電の力を帯びた武器で貫いて斃す。
(「こいつらも……元は普通の人だったのよね」)
 助けられなくてごめんね、と、内心詫びつつ、メルティアリアは石化魔法を放つ。
 更に、凛子の斬霊刀が一閃し、真琴のドラゴニックハンマー『冷焔龍手』が咆哮をあげ、サーヴァントたちも攻撃を仕掛け、屍隷兵は次々に倒されていく。
 何とか生き残って攻撃に出られた屍隷兵はわずか三体、しかも、その攻撃はすべてディフェンダー役のサーヴァントたちに阻まれる。
「……神笑の言う通り、役立たずだね」
 鬼怒が呟くと、勇護が眉を寄せて応じる。
「いや、数を揃えてそれなりの指揮官を付ければ、意外にあなどれんぞ」
「そうだね。人間の兵士なら、確実に逃げるか降伏する局面でも、徹底抗戦を続けて引かないのだから」
 そう言って、ユズリハは最後の屍隷兵をゲシュタルトグレイブの一撃で突き倒す。
「更に冥龍ハーデスは、知性のあるタイプやパワーに優れた大型の屍隷兵を、既に開発していた。螺旋忍軍が、そこまで研究を進めてしまったら、役立たずどころではなくなる」
 今回の作戦で、螺旋忍軍の屍隷兵研究を完全に潰せればいいのだが、と、ユズリハは呟く。
「まあ、私たちは私たちの為すべきことをした。後は、捕えられている人々を解放するだけだ」
「警察と救急に連絡しました」
 凛子が、きびきびとした口調で告げる。
「あとは皆さんの鎖を切って、もう大丈夫ですと励ましましょう」      

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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