忍軍の屍隷兵~屍人形、からくり師

作者:白石小梅

●血飛沫の人形劇
 山間にある郊外型のショッピングモール。
 広場に集まった人々は、満開の桜のような輝きを眺めていた。
 冬の始まり。温もりのひと時。
 今日はイルミネーションの点灯式……。

 少し離れた樹上で、何者かが笑っている。
「アダムスの旦那も、焦っちまって……ま、しくじれば次はないしねェ」
 袴姿の童子人形が、オウムのように歌いだす。
『他人様ノ玩具作りノ真似事デ、技モ磨かず商いばかり』
 答えて返すは、螺旋の仮面。
「まァ、そう言うな。代わりにアタシみたいな三下が、磨いた技で雇い主サマに喜んでいただくのサ」
 一人芝居を終え、螺旋の仮面は人々で賑わう広場へ降り立った。
『さァさ、皆サン、お立会い! これより始まるハ『からくり師・西明』の人形劇ダヨォ!』
 恋人同士、家族連れ、取材のテレビ局……童子人形の甲高い声に、人々が唖然とする中、人形遣いが語り出す。
「さて皆さま! 本日お見せいたしまするは、喰らい付いては血を啜り、爪で裂いては骨も断つ! 世にも恐ろしき屍人形でございます」
 その前口上は、生放送のテレビカメラに向けて。
「これなる人々の躰を繋いで組んで立たせるだけで、あら不思議! ただの屍が、精強なつわものに早変わり! アタシは商売上がったりだ! さァ、どうぞご覧に入れましょう!」
 ぱちりと指が鳴って、五体の影が降り立った。
 顔も躰もぼろで覆った四つ手の人影が、炯々と目を光らせて群衆を見る。
「これぞその名を……屍隷兵(レブナント)」
 人々は、気付いた。
 人形遣いは、自分たちに語っているわけではない。
 自分たちこそ、これより壊れる人形なのだということに。
 指が鳴った。
 血飛沫の人形劇の始まりを告げる、指の音が。
 
●屍隷兵
「アダムズ男爵と屍隷兵を覚えていますか?」
 望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)の問いに、ケルベロスたちは首を捻る。
 その両者に、何の関係があるのか?
「順を追って説明いたします。冥龍ハーデスの生み出した神造デウスエクス『屍隷兵』は、製作者の死と共に失われるはずでした」
 漂着した屍隷兵『ヘカトンケイレス』の迎撃を以って事件は終わったはず。
 ……だった。
「しかし、地球人を材料にして戦力を手軽に現地生産出来る点に着目した螺旋忍軍が、迷走していたヘカトンケイレスを鹵獲。その技術を解析していたのです。技術解析と模倣品商売は彼らのお家芸。その研究はすでに実戦レベルに到達しつつあります」
 ハーデスが到達した『知性ある屍隷兵』は作れていないものの、無知性型の量産体制はほぼ完成。最終テストを兼ね、他勢力へのデモンストレーションを行う段階まで来ているという。
 その演習の総指揮を執るのが、ケルベロス暗殺作戦を企てた『アダムス男爵』だ。
「この研究を潰すため、屍隷兵制作の実験被験者として拉致された多数の一般人の救出部隊に加え、螺旋忍軍の研究所強襲部隊を警備排除班と研究者の強襲暗殺班に分けて編成中です」
 小夜は淡々と告げる。
「皆さんの任務は、最終テストの為に屍隷兵を率いて襲撃を掛けてくる螺旋忍軍の迎撃です。新兵器のデモンストレーションを捻り潰し、研究成果の全てを闇に葬り去るのです」

 
●からくり師・西明
「皆さんの担当は、この男。螺旋忍軍の人形遣い集団『西宮衆』において、若年ながら当代一の使い手と謳われる『からくり師・西明』です」
 人形遣いの名声から屍隷兵の最終テストの指揮官の一人に抜擢されたらしく、屍隷兵の操作に関しての実験データ収集を行っているという。
「彼はあるショッピングモールに五体の屍隷兵を率いて現れ、人々を虐殺します。しかし皆さんが現れれば、戦闘を優先するはず。人質を取るなどの行動は一切しないでしょう」
 何故か。簡単だ。
「これは他勢力へのデモンストレーションでもあります。野心溢れる業師にとっては屍隷兵と抱き合わせで自身の名を売れる大舞台。番犬相手となれば喜んで飛び掛かって来ますよ。喧伝の為に、目撃者も生かして帰したいはずです」
 警察の手配などはしている。戦闘開始と同時に避難を始められるだろう。
「ですがこの西明、さすがに人形遣い。その糸で屍隷兵を制御し、破損を修復しつつ潜在能力を最大限引き出します。また本人もからくり人形や操糸によって攪乱を掛けてくるでしょう」
 量産型屍隷兵など、一対一でも勝てる。
 だが操縦に長けた指揮官と、言うなりに動く死兵の組み合わせとなれば……侮れぬ難敵となるだろう。
 
 言い終えて、小夜は資料を閉じる。
「この研究が進み、やがては知性を持つ屍隷兵が生み出されたら。敵は西明のような指揮官を割かずとも、現地調達した人体だけで一軍を組織可能となります。屍隷兵制作技術は、日の目を見てはならないのです」
 必ずここで、研究成果を灰燼に帰してください。
 そう念を押して、小夜は出撃準備を願うのだった。


参加者
フラウ・シュタッヘル(未完・e02567)
二藤・樹(不動の仕事人・e03613)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
井関・十蔵(羅刹・e22748)
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)

■リプレイ

●前座
 冬が来た。
 イルミネーションは雪氷のように白く、蒼い。
 人々は身を寄せ合う。
 冴え冴えとした中の温もり。
 灼熱の血反吐がそれを塗りつぶすとは、まだ誰も気付いていない。
(「しっかし、またいらんとこからロクでもないもの持ち出したなあ……使えるもんは由来出所が何だろうと使い倒すその姿勢だけは割と共感するけど」)
 エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)が、樒・レン(夜鳴鶯・e05621)と並んで、広場へと進んでいく。
(「無辜の民を虐殺し、悍ましき兵を披露するなどという悪逆非道……絶対に見過ごせん。この忍務、必ず成し遂げる」)
 そこへ向かうは、八人のケルベロス。
 その圧力に、これから広場に行こうとしていた人々は足を止める。
「これより戦闘が始まります。危険なので戦場から離れてくださいね」
 そう諭すのは、湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)。
 走り去る人々は後ろから来る警察が保護し、包囲の外へと逃して行く。
『……これより始まるハからくり師・西明の人形劇ダヨォ!』
 広場では、童子人形の前口上が述べられて、五体の亡者が現れる。
 その時、運命に割って入る声が響いた。
「おい、からくり屋ぁ! 玩具遊びなら俺達がつきあってやらぁ!」
 ハッと振り返る一同。
 井関・十蔵(羅刹・e22748)が、従者のシャーマンズゴースト竹光を連れて、そこにいた。
「人形師の西明、だったか……? 死体を玩具にするとは不愉快な野郎だ。テメエらの目論見、全力で叩き壊してやるよ」
 志藤・巌(壊し屋・e10136)が指を鳴らして激怒を匂い立たせれば、群衆は気圧されるように道をあける。
「さ、皆様。人形のお相手は私達ケルベロスがいたします。危ないですからここから離れてくださいませ」
 理解の追い付かない群衆を、フラウ・シュタッヘル(未完・e02567)が、美緒と共に退かせ始める。
 頭を下げていた人形遣いも、眉を顰めて顔をあげた。
「誰だい? 舞台の邪魔しねェでいただけますかね?」
「自分の名前売るために、お下がり使った人形劇で地道にコツコツ営業活動……宮仕えのツラさは、デウスエクスもまた同じと」
 進み出た二藤・樹(不動の仕事人・e03613)は、鼻で笑うように言葉を続ける。
「あっ、今日もお仕事お疲れ様でーす」
 その台詞に、少し苛立ったのか。西明はひょいと仮面をずらしてこちらを覗き込んだ。髪に隠れた目が光る。
「おぉ? おいおい……コイツは願ってもない。糸繰童子よ、なんと番犬サマの飛び入りだぜ!」
『首を捥いだラ、一等手柄! 名も売れるコト間違いナシ!』
 その頃には、人々は事態を理解して足早に後ろに下がっていく。
「ふむ、その仮面、葛籠、そして人形……そうか。貴様が話に聞いた『西明』か」
 クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)にそう言われ、人形遣いはニヤリと笑んだ。
「名をご存知とは光栄だね。よし、皆様! 本日は演目変更だ! 人形遣いの西明による、屍人形『屍隷兵』と、番犬ケルベロスの皆々様の大立ち回りと参りやしょう!」
 人形遣いは仮面を帽子に見立てて周囲に振り、逃げていく群衆へ恭しく頭を下げる。
「へっ……こういう芝居っ気のある奴は嫌いじゃねぇ。鼻ッ柱のへし折りがあってたまらねぇや」
 十蔵もまた、鼻で笑う。
 やがて群衆は去り、広場は静まり返った。遠くから、息を詰めて見守る野次馬たちが、視線とレンズを向けるのみ。
「観客が、席につくまで待ったか。律儀な奴。良いだろう、我が身がどれだけ『姉』に近付けたか。その試金石として……正々堂々、挑ませて貰おう!」
 姉の遺した槍を振るって、クオンが開幕の火蓋を切った。

●開幕
 向かってくる屍隷兵を前に、クオンがさっと槍を背負い直す。
「失われた魂たちよ! 我々に加護を! 操られる亡者たちを、打ち破る力を!」
 高らかに響く寂寞の調べに誘われて、輝ける魂が前衛へ降り注ぐ。
 巌は無言のまま踏み込み、エリシエルは小さく雄叫びをあげ、フラウと美緒は左右に散る。四者四様の動きで前衛は四つ手の屍隷兵と激突した。
「初っ端から飛ばして行くぜ……穿て! 羅漢把心掌ォ!」
 その掌底は、狙いあやまたず屍隷兵の心の臓を直撃する。カウンターとして入った一撃が屍隷兵の気脈を崩し、包帯に覆われた口が豪快に血反吐を吐いた。
 歩みの止まった一瞬、雷撃を帯びた刺突が屍隷兵の口に潜り込み、脳髄を一撃で貫通した。
「思考も理論も理解はできるよ……けど、こいつは踏み込んじゃいけない領域だ。目論見諸共叩き潰させてもらうよ」
 巌とエリシエルの速攻の連撃に、屍隷兵はだらりとその腕を下げ……。
「……!」
 次の瞬間、頭を貫かれたまま顔面を刃の上に走らせた。
「させません」
 エリシエルの首筋に伸びた牙を、フラウの腕が押さえ込む。腕に喰らいつかれながら、フラウは胸倉から閃光を放って屍隷兵を弾き飛ばした。
「まだ動くとは。しかし、一体ずつなら対処は余裕です。湯島様……!」
「ええ。こんな模倣品程度でしたら……!」
 転げた屍隷兵に美緒の編んだ炎の御業が追い討った。しかし、その四つ手を前で組んだ別の一体が、それを庇って火炎に飛び込む。
「残念、ハクロウキの旦那お手製の人形は、馬鹿だが頑丈でね。それっぽっちじゃ止まらねェのよ。おまけに、ほォら……」
 人形遣いが糸を手繰れば、倒れた屍隷兵の顔面の傷に糸が走り、血の噴き出す裂傷を縫い上げていく。さらにみしみしと、四つ手の筋肉が膨らんで。
「繰り手を誰だと思ってる? アタシはからくり師の西明サマだ。連携だって完璧よ! 三、二で前後! 派手に暴れな!」
 糸で筋肉を膨張させ、三体の屍隷兵が再び飛び掛かって来る。残る二体は、胸倉を膨らませて灼けた血反吐を吐き散らした。
「へっ! 小汚ぇ人形劇だな! おう、後ろは俺がやんぜ! 前を頼む!」
 十蔵が後衛に星の加護を降り注がせて、竹光は血反吐に灼けて痛いのか、急に祈りを捧げ始める。その要請に応えるのは、風のように血反吐を避けて着地した、黒い影。
「夜鳴鶯、只今推参! 名高き西宮衆の業がどれ程のものか興味があったが撤回だ……! 弱き者を操り、弱きものに仇名そうとするその心根は、即ち覚悟と意志を欠いている……!」
 蛍のように散りながら輝くメタリックバーストが、屍隷兵と揉み合っている前衛を背から支える。染み込んだ毒はたちまち消え去り、更にその後方から士気を高める爆炎が上がる。
「よし、準備完了。俺も頑張ってお仕事するか。モラトリアム気取るのにもお金がいるのは、身に染みて分かってるからな……」
 樹がため息を落とすと、前衛に向けて童子姿のからくり人形が飛び出した。
『お相手ハ、屍人形ダケじゃないヨォ!』
 無数のクナイを弾けさせて、糸繰童子が宙を舞う。
 雄叫びを上げて突貫してくる屍隷兵。
 これは、大立ち回りの人形劇。
 血煙の舞う、乱闘だ。

●佳境
 迎え討ちつつ、前へ押し出す番犬。庇い合いながら押して引いて、後方からは回復支援が飛び交う。接戦の中、決め手のないまま時は過ぎる。
 巌の前で、屍隷兵が唸る。元は若い女だったのだろう。ぼろ布越しに見える体の線は細く、柔い。
「哀れだが……こうなった以上は仕方ない。一刻も早く、眠らせてやる」
 雄叫びと共に筋肉質の体が拳を構える。だが、巌のブーストナックルは、放たれる直前に何かに引かれるように射角を変えた。
「……っ!」
「各個撃破は、させねェよ」
 人形遣いの指に合わせて、意志とは無関係に拳は西明へと向かい、それを更に別の一体が飛び込んで庇う。ダメージを散らされ、巌は苛立たし気に舌を打った。
「ちっ……! 癪に障るヤローだ……気をつけろ。さっきの人形の攻撃。人を操る糸か何かが仕込んでありやがる……!」
 レンが纏わせた分身が、巌の体を呪縛する糸の呪いを引きちぎる。
「己より弱い部下を前に立たせて自身を守らせるか……お前たちのような覚悟では、忍びとしての高みへ至ることなぞ到底望めまい。全う醜き也!」
「ハッ、アタシは忍より前に芸人でね。技を高めるためにゃ、なんだってするのサ。そぉら、押し返せ!」
 波のようにこちらを打つ化物の群れ。
 クオンが放った牽制の火炎弾は、ダメージを与えこそすれその足は止められない。
 更には西明が指を動かせば、その火炎さえ鎮められてしまう。
「前衛を庇わせ合って攻撃を散らし、自分は支援をしつつ折を見てこちらの攻撃を自分へと誘導……か。奴の指揮を崩す必要があるな」
 現状は、堅い布陣同士での削り合い。互いにゆっくりすり減りつつ、膠着している。恐らく、どちらかの前衛が一人でも崩れた時、一気に流れが傾くだろう。
 クオンは、炎の中を乗り越えてくる一体と激突して、その足を止めた。
 小さな目配せ。
 それに呼応して、エリシエルが屍隷兵へ向かおうとした瞬間、西明は指を動かしてその攻撃を自分へと引きつけた。
「させねェんだよ! さあ、まずこの姐さんを、引き裂いちまいな!」
 剣を抜き放とうとしていたエリシエルを待ち構えるように、二体の屍隷兵が牙を剥く。
「それなら、こうさ」
 そして次の瞬間、エリシエルは踏み込んでいた。瞬速の一足が、屍隷兵の隙間を抜き去って、人形遣いの眼前へ。
「へっ?」
「生憎現世に未練タラタラでね。まだあたしは原の道の霜と消える気はないよ。……万理断ち切れ、御霊布津主!」
 目にも留まらぬ一刀が、ぎりぎりで身を捻った人形遣いの背を薙ぎ切る。それは彼の背負った屑籠を断ち、内側に入っていた紙切れを舞い飛ばした。
「……っ! しまった! 実験結果の書き付けが!」
 意外なまでに人形遣いは青ざめて、童子人形に舞い飛んだ紙切れを掴みかからせに行く。
『屍隷兵強化のタメのモノ! 失えバ、ハクロウキはご立腹ダ!』
 一瞬の、指揮の乱れ。そこに反応したのは、レン。
「……! 哀れな亡者と繰り手を涅槃へ送るは今! 覚悟!」
 童子人形を跳ね飛ばして、再びのメタリックバーストを前衛へ放つ。それを合図に、ほぼ全員が屍隷兵へと躍りかかった。
「模倣から生まれる技術もあります。だけど模倣で満足しているようでは発展など望めませんよ。貴方たちがこんなものの量産だけで満足しているとしたら……思ったよりしょぼいんですね」
 美緒が一気に飛び込み、最も傷ついていた一体へと流体金属の拳を叩きつける。その一撃は胸倉を貫き、屍隷兵は赤黒い霧となって爆散した。
 慌てた人形遣いが振り返るころには、巌が雄叫びと共に屍隷兵の足を蹴り払い、フラウが倒れた体にフラウが注射器を突き立てている。
「お薬の時間ですよ……今、その糸を断ち切って差し上げます」
 その手が離れた時、邪悪な糸に縛られていた体は、膨れ上がって紅く弾けた。
「ああっ! くそ、下がれ!」
 慌てて残った三体を引きさがらせようとする西明。しかし、その一体の足元には、すでに見えぬ地雷が配されている。樹の、二藤式地雷起爆術が、一体の下半身を消し飛ばした。
 樹が、死体となった屍隷兵の肩口の糸を掴む。魔術的な力によって、断ち切られても糸は西明の操作下にあるようだと探りつつ。
「他人様の玩具作りの真似事で、技も磨かず商いばかり……か。アンタはアーティスト気取りみたいだけど、スポンサーがいなきゃ技も磨けないのは忘れちゃダメだって。余所見してないで、真面目にお仕事した方がいいんじゃね?」
「くっ……」
 西明は倒れた三体と、地に落ちた紙切れを見比べる。ちらりとその目が、後ろを振り返ると……。
「おぉっと! こっちは舞台袖だぜ、からくり屋? 引っ込む気か? そうは問屋が卸さねえな。俺の芸も、見て行けよ」
 菊の花弁と旋風が舞う。紙束を踏み付けてそこに立つのは、十蔵。雨を乞うように祈り続ける竹光と共に、返り血を拭う仲間たちを癒している。
「あら素敵……ケッ。割に合わねェ仕事だぜ。こんなお人形が出回ったら、誰も人形遣いなんざ雇わねェってのに、退けねェんだからよ」
 残った二体の屍隷兵を率い、人形遣いは時代に抗うように突撃する……。

●終幕
「アタシはからくり師の西明サマだ! 使う人形が壊れりゃ、こうよ!」
 舌打ちと共に、からくり師の糸が舞う。
 前衛を操ろうと糸の刺突が降り注ぐ中、柄にもない祈りを捧げて突貫する男が一人。
(「天国ってもんがあるなら、そこに行きな。今、送ってやるからよ」)
 巌の雄叫びと掌底とが、屍隷兵の胸を砕く。エリシエルと美緒の刺突が残りの一体を貫いて、屍隷兵たちは前衛に飲まれるように倒れていった。
 最初に西明の前に立ったのは、フラウ。糸の呪縛を祓う分身をその身に纏わせて。
「貴方の人形になるつもりはありません。逃がしもしません。報いは受けていただきます」
 その手のチェーンソーを唸らせながら。
「アタシは芸道一筋よ……舞台の途中で投げ出しゃしねェ」
『最後の最後マデ、舞を踊るガ我ラの仕事!』
 殺到してくる番犬たちにその身を削られながら、童子人形がクナイを放つ。尤も攻撃目標を逸らす程度の呪縛はもう意味を成さず、身を操る深い呪縛もレンと十蔵の解呪がほどいていく。
 やがて樹の爆撃が炸裂し、粉々に砕けた童子人形と共に、人形遣いも地に落ちる。
 息も絶え絶えの西明の前に立ったのは、姉より譲り受けた槍を持った、クオン。
 彼女もまた、長い闘いの中、擦り傷、切り傷、痣だらけながら。
「どうした、がらくた使い。もうネタ切れか?」
「へっ……人生、筋書き通りにゃいかねェもんだ、なァ!」
 抜刀するように糸を放った西明の胸倉に飛び込み、槍がその肢体を貫通する。
「がらくた劇の駄賃だ……冥府への片道切符、遠慮なく受け取れ!」
 選定の槍が輝いて、その力が爆裂する。
 血を吐いて倒れた人形遣いは、掠れた声で呟いた。
「お前らだって……きっと……筋書き通りにゃ……」
 その躰は、灼けるように消える。
 ふっと、息を落として、膝を折る八人。
 いつの間にか狭まっていた観客の輪から、一斉に歓声が沸き起こった。

●吉報。そして……。
 輝かしいイルミネーションの中、封鎖していた警官たちも、取り巻きの野次馬も、カメラを回し続けていた取材班も、一斉に番犬たちを囲む。
 十蔵は笑って屍隷兵をこき下ろし、樹は賑わう人々を嗜める。
 クオン、レン、巌は無言のまま消滅した屍隷兵へと祈りを捧げ。
 美緒とエリシエル、フラウは会場にヒールを施して群衆に微笑みかける。
 恐るべき人形遣いと屍隷兵はここに潰え、その強化の為に集められた実験結果も灰と化した。
 翌日の朝刊には勝利を背負った番犬たちが載るだろう。
 吉報を抱えて、番犬たちは現場を去る。
 そして、ヘリオンの中で。
 彼らは耳にすることになる。

 屍隷兵研究主任ハクロウキ、逃走。
 禍つ月は亡者を率い、大阪城追手門に昇る。
 その凶報を……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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