忍軍の屍隷兵~燻る炎

作者:志羽

●忍軍の屍隷兵
 とある地方にある廃病院――その職員用出入口の前で燃えるような赤い髪の少女が伸びを一つ。
「あーあ、暇だ! こんなやつらじゃ相手にもならねぇし」
 ちっと舌打ちした少女は傍に並ぶ屍隷兵に視線を投げた。
 五体の屍隷兵はそこにいるのみ。知性のない屍隷兵に少女の興味は向かない。戦う相手にすらならないからだ。
 彼女が好きなのは強者。強い者と戦う事を考えれば気持ちは高揚する。
 強ければ、どんな相手がきてもきっと楽しく遊べる。
 しかし、何者かが来る気配はもちろん今のところない。そもそも廃病院になんて誰もわざわざ足を運ばないだろうと思うのだが、『禍つ月のハクロウキ』からの命令は絶対だ。
「誰も来る気はしねぇけど、来たら来たで」
 俺が楽しく遊んでやる、と口端上げて好戦的な笑み零す。
 禍つ月のハクロウキを守るため少女は――実験体168号はこの場に立っていた。

●予知
 ひとつ、皆で協力しなければならない依頼があるのだと夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は集まったケルベロス達に告げた。
「冥龍ハーデスが生み出した、神造デウスエクス『屍隷兵』の事は覚えてるよね」
 それは冥龍ハーデスの死と共に失われる――そう思われていた。
 しかし、地球人を材料に手軽に戦力を生み出せる事に着目した螺旋忍軍が、鹵獲したヘカトンケイレスを元に、新たな屍隷兵を生み出している事がわかったのだ。
「冥龍ハーデスのように知性を有した屍隷兵を生み出す事はできてないみたいなんだけど、知性の無い屍隷兵は既に完成させているようなんだ」
 そして、その知性の無い屍隷兵の最終テストとして屍隷兵を使った襲撃事件を起こそうとしているのだとイチは続ける。
「で、ケルベロスさん達には、この襲撃事件を阻止するだけでなく、屍隷兵の材料として拉致された一般人の救出。そして屍隷兵の研究を行っている螺旋忍軍の研究者の討伐を手分けしてお願いしたいんだ」
 ここで研究所を完全に破壊し、研究者である螺旋忍軍を撃破することができなければ、更に強力な屍隷兵が生み出される事になると、イチは言う。
 そうさせないためにも、この事件の解決をお願いしたいのだと。
「俺が頼みたいのは、ある研究者の討伐なんだけど……一番大きな施設なんだ」
 今回、襲撃する地方のとある廃病院だ。
 そこには『禍つ月のハクロウキ』という螺旋忍軍の一人がいる。そして、その配下の者達が守りについている。
 まず先に廃病院を守っている配下の螺旋忍軍を撃破しなければ、ハクロウキには手が届かない。
「何か所かに配下がいるんだけど、皆には職員用出入口を守っている実験体168号という螺旋忍軍と戦ってほしい」
 職員用出入口を守るのは燃えるように赤い髪の少女。強者を好む彼女は5体の屍隷兵を連れている。
 配下たる螺旋忍軍を倒した後は廃病院内に突入。配下達はこの場を警護しているとともに、ハクロウキの退路を守っている様子。すべての敵を撃破する事でハクロウキを逃さないように追い詰めていくことができるはずだとイチは言う。
「隙を見せれば逃走されるかもしれないから、慎重に追い詰めて、撃破してほしい」
 屍隷兵の研究が進めば、月喰島にいたような元の人間の姿や知性を持つ屍隷兵が生み出されるかもしれない。そうなれば、屍隷兵の脅威はさらに大きくなるだろう。
「今回の作戦は一つの可能性を潰すことになるだろうから、成功させてほしい」
 ケルベロスさん達に作戦を託すから、よろしくとイチは告げた。


参加者
長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)
イピナ・ウィンテール(折れない剣・e03513)
サクラ・チェリーフィールド(四季天の春・e04412)
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)
先行量産型・六号(陰ト陽ノ二重奏・e13290)
スマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)
鍔鳴・奏(弱モフリスト・e25076)
御ヵ啼・文(花色ヴァンガード・e33000)

■リプレイ

●168号との邂逅
 廃病院――人の立ち寄らぬそこに潜む螺旋忍軍を討つべくケルベロス達は集っていた。
「結構な規模な作戦だなぁ。正に連携取り合って無いと逃しそう」
 鍔鳴・奏(弱モフリスト・e25076)は傍らのボクスドラゴン、モフへとなぁと視線向ける。
 ケルベロス達はわかれ、それぞれ配下の居る場所へと向かっていた。
 そこに敵が居るのは予知の段階でわかっていることだからだ。
「ははっ! 来やがったかケルベロス!」
 赤い髪を靡かせて楽しげに笑う少女、それが実験体168号。
 この職員用入口の守り手だ。
「……相手をしてもらいます」
 これ以上の話は不要とばかりにイピナ・ウィンテール(折れない剣・e03513)は刀を構える。
(「それだけ、デウスエクスにとっては魅力的な戦力ということでしょうか」)
 五体。168号の傍に控える屍隷兵を見てイピナは思う。
「戦うのが、お好きなんですか? しばしお相手願いましょうか」
 そう言って笑むサクラ・チェリーフィールド(四季天の春・e04412)の周囲で火花散らす紫電が舞う。
「穏やかなだけだと思いました? 春の天気は荒れやすいんです」
 凛と緊張感を帯びた空気と共に拡散し、共に前に立つ仲間の加護を。
 ドラゴニックハンマーを振るうのは西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)だ。
 その形を砲撃形態へと変え、竜砲弾を放った。その弾丸は一体の屍隷兵を捕らえ、絶大な威力を以て打ち砕く。
「神造デウスエクス……ねぇ……」
 目の前にいるその存在。先行量産型・六号(陰ト陽ノ二重奏・e13290)は高速演算でもって弱点見抜き、屍隷兵へ攻撃を掛けた。
「さて、貴様らは知性を得る事が出来るか……得て何を成すか……ま、それを止めねばならぬのだがね」
 ぐらつく屍隷兵の上へ、影が落ちる。
「何らかに利用されるだろうなと予想はしてたぜ」
 長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)は先の攻撃に合わせ地を蹴って跳び越えその背後を取ったのだ。猫のウェアライダーらしく、その動きは素早く軽い。
 そして、その手で閃くのは惨殺ナイフの刃。屍隷兵の喉元捕らえその生命力を奪う。
 続けて屍隷兵へとイピナが斬りかかる。空の霊力乗せた斬霊刀を振るえばそれは膝をついた。
「あはっ! そんな弱いやつらばっかり削って何になるんだよ!」
 俺は放っといて良いのかと168号は高らかに笑う。
 抜き放った日本刀、その動きは水というより炎のように苛烈に振るわれ薙ぎ払うかのように動く。
 サクラは庇いに入るが、二人とも守りきれない。
 攻撃に合わせて笑い声が、楽しいと響いている。
 そこへスマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)が自分を含めた仲間へ光輝くオウガ粒子を放出し終え態勢整え前に立った。
「あなたの相手は私なのよ」
 スマラグダが両手に一振りずつ持つ星辰を宿した長剣が、重力を刃に。それでもって十字斬りを繰り出す。
「守れ、雷の加護よ、ライトニングウォール!」
 前衛の仲間へ向けて御ヵ啼・文(花色ヴァンガード・e33000)は雷の壁を構築し異常耐性を高め上げる。
 文が心に思うのは、誰も倒れさせない、そして自分も倒れないということ。
 それを目標に、戦いの中で文は回復に命を張っている。
 奏は瞳細め、戦いながら様子を伺っていた。
「敵、実験体168号。連絡取り合ってるようには……見えないかな」
 しゃらりと音をたて地を踊るケルベロスチェインによって描かれる魔法陣は仲間の守りを厚くするもの。
 それは奏が受けている恩恵を以て、一層強く働く。
 奏のモラは仲間を守る壁として動いている。さらに回復も兼ね、守り重視の動きだ。
 その調子と奏はふと笑み零す。 
 殴る蹴るを攻撃の主体とした、ケルベロス達より少し弱い程度の屍隷兵達を倒すのに時間はかからない。
 三体倒した所で攻撃は168号へ集中するようになる。

●笑み
 敵の数は減り、戦況は変わっている。
 168号も自分の分身の幻影を纏い回復を行うが、それが攻撃の手を上回る事なく削られている。
 その上、前衛の攻撃担当の仲間には文がその威力上がるよう早い段階で電気ショックを飛ばして生命の賦活を行っていた。
「出来ればハクロウキの場所を教えてくれない? お礼は、全力で楽しめるような戦闘を」
 奏の問いに、教えるわけないだろうがと攻撃を掛けながら168号は答える
 スマラグダは身を覆うオウガメタルと『黒太陽』を具現化し絶望の黒光を放った。
 その光により、屍隷兵を含め168号の動きが鈍くなる。
「穿つ落涙、止まぬ切っ先」
 そこを水の精霊の力を纏い、イピナの切っ先が168号を捕らえた。
 繰り出されるは降り注ぐ雨の如く途切れない刺突。
 目を守るように交差された168号の腕。その下から、歪む笑みが零れていた。余裕は、ない。
「その笑顔……ようやく、緊張感を持ってもらえたようですね」
 イピナも笑み浮かべる。それは戦いで高揚している表れだ。
 168号はイピナから離れるべく距離を取った。しかしその先にはすでに正夫が待っている。
「歳を取ると先の事に気を取られて目の前の事に集中しないなんて事は無くなるんですよ」
 逃がしませんよと正夫は拳を向ける。
「おじさんちょ~っとカッコつけますね……六道輪廻に絶えなき慈悲を……」
 繰り出したのはただのパンチ。しかしそれは愛する家族を守る力求めて、大岩撃ち千日行を越えた拳だ。
 重くないはずがなく、168号は思わず呻き声を上げる。
 その耳にふと届いたのは六号が紡ぐ声。
「黒狼……お前の能力、真似るぞ……」
 黒陰と名付けられた式神が宿る神楽笛。六号はそれを己の胸へと突き立てる。
「イメージしろ黒陰……闇に溺れたどうしようもねぇ孤高の狼の姿を……影狼噛砕……二度と離すな、噛んで来い!」
 その言葉と共に解き放たれる。六号の『悪なる感情』が狼の形をとり168号へと牙を剥き喰いかかった。
 牙は深くその身に入り込み、血が流れ落ちるが168号にはまだ余裕があった。
「あんた、剣の使い手か。殴る蹴るばっかりの屍隷兵に厭きてた所だ、相手してくれよ!」
「はっ! あんたにその腕があるならな!」
 智十瀬は168号の元へ踏み込んだ。挑発的な言葉に智十瀬の口の端は上がる。
「こいつは簡単には避けられねぇぜ?」
 帯刀状態から抜き放つ我流抜刀術。白刃の斬撃は蛇へと姿を変え、鋭い牙を以て喰らい付いた。
「痛いじゃねぇか!」
 168号は楽しそうに笑いながら、そのまま正面の智十瀬へ攻撃を。螺旋を込めた掌で軽く触れ、内部から壊しにかかる。
 しかしその智十瀬の傷も、文がすぐさま動いて対処する。
「大丈夫、回復は任せて!」
 文はライトニングロッドを振り上げその先を智十瀬へ向ける。
「轟け、雷! エレキブースト!」
 その先から迸る電気ショック。一瞬のその衝撃に生命が賦活される。
 智十瀬の傷はその一撃で塞がり、またその戦闘能力を高めてゆく。
 その間に、とんと一歩。突き出されるのは稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブの切っ先。
「エクレール!」
 サクラがその名を呼ぶ。それに答えるように傍らのエクレールが雷の吐息を向けた。
 ケルベロス達の攻撃は重なる。168号も応戦するが圧倒的に攻撃手数はこちらが多い。
 屍隷兵もいるがその攻撃のダメージは文が誰も倒れさせないと回復し、支えていた。
「さて、キミの魂は、記憶は、感情は、全て貰い受ける。……どうか安らかに」
 奏は踏み込む。死に瀕した者にとどめを刺す事で、死者の魂を導きエインヘリアルとする能力を昇華させた魂喰らい。
 エインヘリアルとせず、それを喰らい、力とするのだ。
 けれど、168号から奪いきれなかった。
 彼女はまだ、立っている。しかしそれもどうにかというところだ。
「ま、だだっ! こんな楽しいの、終わらせてたまるかよっ!」
 笑って、168号はまだ向かってくる。その姿はもうギリギリで踏み止まっている所。
 あと一撃で、終わりを迎える瀬戸際だ。
「これで……最後だ!」
 ふらつく168号へと智十瀬は畳み掛ける。空の霊力帯びた刃で傷跡斬り開けば、168号は笑い零してその場に倒れた。
 戦い好む少女は満足そうに笑っていた。
 けれど屍隷兵はまだ残っている。しかしすべて倒すまでに時間はかからなかった。

●探索
 携帯、無線。そういった物は妨害電波が出ているのか、どうやらこの場では使えないらしい。
 となれば、とる作戦はと六号は皆と確認する。
 通信可能であれば、配下達を3班が倒した段階で突入。ただしハクロウキ逃亡の予兆があれば撃破した班から突入する事となっていた。そして突入しない班は、撃破後に目標と交戦している班あれば援護を、と。
 しかし、互いに連絡はとれない。だがそこでどうするか、と迷うことはなかった。
 通信不能の場合はと事前に決めていたのだ。その場合の連絡方法も決めてあったが、今はそれを行う条件を満たしている場合ではない。
 職員用入口付近には潜んでいそうな場所はなく、そろりと一行は進んでいく。
「罠や伏兵といったものも、なさそうですね」
 イピナは迅速に行きましょうと先を進む。
 他班がこの辺りを探したというような印はまだない。
 しばらく建物内を探索しつつ進んでいると、その先に人影。敵かと思って身構えたがそれは他班だった。
 何か緊張した様子と見受けられ近づいて声をかけることに。
「何か発見しました?」
 ハンマーを振るおうとする――その前に、サクラは声をそっと掛けた。
 その言葉に動きが止まる。そしてまた向こう側に別班の姿が見えた。
 そこへ集うと、ひとりの少女が階下を指し示す。
「この先に屍隷兵が沢山いるのよ! きっと、ハクロウキを守っているんだわ!」
 それに子供も何人か牢に捕まっているという。
 そう告げた者がくるりと周囲を見回して。
「これだけ揃ったのなら、心配いらないね。一気に突入しよう」
「問題ない、進もう」
 六号は頷く。
 ああ、任せとけと少女が口の端あげて笑った。
 各々準備を整える。
 そしてドラゴニックハンマーを振るい、轟音が響いた。
 残る班への知らせ、それを合図に一気に霊安室へとなだれ込む。
 その内部にいる屍隷兵の数は20を超えていた。
「纏めて串刺しにしてあげる!」
「わる~いヤツは、どこですか~?」
 他班の声が聞こえる。共に戦えることは心強いが負けていられない。
 先ほどの戦いと同じように、奏はケルベロスチェインの力を以て仲間の守りを厚くする。
「一気に来られたら押し切られそうかな、モラ」
 またよろしくと奏は一声。
「こんなにうじゃうじゃと……敵にとっちゃ利用価値のある配下ってとこか」
 智十瀬は攻撃を受け止め、惨殺ナイフを振るい相手の体力を奪う。
 屍隷兵相手に深い傷を負う事はないが、先程もらったダメージは完全に回復しきれていない。
 その屍隷兵を六号が流星の煌めきと重量乗せて飛び蹴った。これで敵の動きは鈍くなり戦いやすくなる。
「こんなに多いとさすがに厄介ですね」
 正夫は呟きながら、身の内の地獄の炎を弾丸として放つ。
 炎に抱かれる屍隷兵の姿を目に正夫は思う。
(「死しても弄ばれるこんな外道が許されて良いはずがない」)
 正夫が拳に祈るのは、そこにデウスエクスとの生存競争があるから。しかしこれは、どうにも違うと思えるのだ。
「ハクロウキは?」
 屍隷兵の攻撃を掌でいなし、そこへ斬霊刀突き立てながらイピナは周囲に視線を巡らせる。
「見当たりませんね」
 サクラも向かってくる敵を稲妻突きで払いつつ霊安室一体を見渡す。
 その死角から襲ってきた屍隷兵をエクレールがタックルで離し守った。
 今は戦いに集中とサクラは屍隷兵へ向き直る。
「死者を無理やり戦わせる技術だなんて……」
 このまま見過ごすわけにはいきませんと、との気持ちは強くなるばかりだ。
 戦いながらハクロウキと思わしき者を探すがそういった者の姿はない。
「おじいちゃん直伝のヘドロ瓶、くっらえー!」
 文も回復の間を見て攻撃を。どこからか採取してきたミカナギ家直伝のヘドロ瓶を目の前に迫る屍隷兵へと投げつけた。
 屍隷兵一体ずつは、ケルベロス達よりも少し弱い程度だ。
 しかし、多数で来られると戦いにくい。
「この数じゃ威力も弱まるのよ」
 まとめて攻撃をかけても威力は散る。
 それなら一体ずつ確実に倒していくだけとスマラグダは唱える。
「我が劍、万象捻じ曲げる幻妖の刃よ。天光を鎖し、偽りの姿を刻め――玖之祕劍ヘロヤセフ!」
 スマラグダの九つ目の祕劍。光を屈折させ、偽りの位置にある自分を偽りの視覚的情報として敵へ。幻惑に惑わされた者は味方の区別がつかなくなり、時折同じ屍隷兵を攻撃するようになる。
 と、その時入口の方から響く声があった。
「遅くなって悪い、俺たちもいくぜ!」
 知らせの音に気付いた他班も駆けつけたのだ。
 戦力は更に増え、霊安室にいた屍隷兵達は一掃されてゆく。

●ハクロウキの行方
 屍隷兵は全て倒されたが、この場にハクロウキと思われる者の姿は無かった。
 戦い終わり、文は牢に囚われていた子供達を助け、声をかける。
「大丈夫? 怪我はないかな?」
「全部倒しましたよ」
 もう何もいないのよとスマラグダも子供達へ示す。
 最初は怯えていたが、ケルベロスであることを知りほっとしたらしい。
 少し落ち着いてから、誰かここにいなかったかと尋ねてみた。
「兜の怖い人はいたよ……」
「ケルベロスさんたちが来るより前に出て行ったけど……」
 次々と紡がれる言葉は端的だが繋ぎ合わせるとハクロウキがここにいたことは確かだった。そして、すでにこの霊安室からは脱出しているということも。
「突入よりも前にこの部屋を出て行ったみたいですね」
 子供達からの話を正夫はまとめていく。
「兜をかぶった怖い人とはハクロウキでしょうし」
 もしかしたらまだいるかもしれない――そう思い、ケルベロス達は手分けして再度、病院内をくまなく探しまわった。
 しかし、その姿を見つけることはできない。
「くそ、逃げられたか……」
 智十瀬の言葉に悔しいですとイピナが続ける。
「逃げたけど、ハクロウキの拠点は潰した事になるかな」
 わざわざ戻ってくることはないだろうしと奏は言う。
「そうだね。子供達は無事に保護できたし」
 それだけでも良しとしようよと文は続けた。
「次に見えるときは、逃がしはしません」
 サクラへああ、と六号は頷く。
「次は逃げる余地無きよう詰めてみせよう」
 拠点の制圧は成功したものの、首魁のハクロウキは逃走。
 配下のいた場所はハクロウキの退路でもあった。そこから離れて探索を行っている間に、どこからか上手くすり抜けられてしまったのだろう。
 作戦は成功したものの、苦いものとなった。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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