忍軍の屍隷兵~絶叫と狂気と巨大な刃先

作者:質種剰

●実験
 そこは、屋外からは古びた廃屋にしか見えない、隠れ研究施設とでも言うべき建物。
 ——ブツッ、ブツッ、ブツッ!
 中では、大きな刃物による切断音とそれに被さる叫び声が絶えず響いていた。
 ブチィッ!!
「ガアァアァアアアッ!!」
 獣の咆哮のようなその絶叫が、激痛に耐え兼ねた悲鳴だと判った時、そして、大きな切断音が肉を裂く音だと知った時、誰もが耳を覆いたくなるものだが、この研究所内にそのような行動に出る者はいない。
 何故なら、凄惨な人体実験をされているのも、同じ室内でそれを見ているのも、屍隷兵。
 彼らは、同胞が実験台となって苦痛に喘ぐ様を見ても、何の反応も示さない。
 恐れたり同情するだけの知性すら、ここに居る屍隷兵は持っていないのだった。
 ただ、時が経てば巡ってくる実験台の順番を、部屋の隅に蹲って待つしかできない。
 如何なる苦痛が与えられようとも、研究の為に生み出された彼らだから、疑問を抱く知性すら持ち得ぬ彼らだから、感情の籠らぬ目で、実験台を見つめるだけた。
 そして、類い稀な知性を有していても、実験台へ無感情な視線を注ぐ者もいる。
 冷酷非道な人体実験を繰り返している張本人、螺旋忍軍のドクター・シカバネだ。
 唯一無二の究極生物の創造を目論む彼にとって、屍隷兵達はただの実験動物に過ぎない。
「クヒヒヒヒヒヒ……良いぞ、まだ息絶えるな。その無尽蔵な体力で耐えてみせろ。まだまだくたばられては困る。クヒヒヒヒヒ……」
 ドクター・シカバネは、その白い仮面の内に酷薄な笑みを浮かべながら、白衣がべったりと返り血に染まるまで、屍隷兵を切り刻み続けた。


「冥龍ハーデスが生み出した、神造デウスエクス『屍隷兵』は、冥龍ハーデスの死と共に失われるものだと思われたであります」
 しかし、地球人を材料に手軽に戦力を生み出せる事に着目した螺旋忍軍が、鹵獲したヘカトンケイレスを元に、新たな屍隷兵を生み出している事が判明した——そう説明する小檻・かけら(鉄球ヘリオライダー・en0031)の表情は固い。
「冥龍ハーデスみたいに、知性のある屍隷兵を生み出す事はできていないようですが、知性の無いタイプの屍隷兵は既に完成させているであります」
 奴らは、完成した屍隷兵の最終テストとして、屍隷兵を使った襲撃事件を起こそうとしている。
「そこで、皆さんには、屍隷兵の研究を行っている螺旋忍軍の研究者の討伐をお願いしたいのでありますよ」
 ここで研究所を完全に破壊して研究者である螺旋忍軍を撃破する事ができなければ、さらに、強力な屍隷兵が生み出される事になってしまう。
「そうさせない為にも、この事件の解決を宜しくお願い致します」
 深く頭を下げるかけら。
「皆さんに倒して頂きたい螺旋忍軍の研究者は、ドクター・シカバネ……巨大な直剪刀——手術用のハサミ——を用いて攻撃してくる強敵であります」
 巨大直剪刀を振り翳して斬りつけてくる『強制切開』は、複数人へ追撃同様のダメージを与える、敏捷性に長けた破壊攻撃。
 また、相手1人の胴を巨大直剪刀で挟んでギリギリと圧迫してくる『耐久実験』は、頑健さに満ちた斬撃で捕縛に似た効果がある。
 さらに、直剪刀を閉じた状態で刺突してから刃先を開いていく『心身剥離』という、トラウマを呼び起こす攻撃も使ってくる。これは理力に溢れた魔法のようだ。
「ドクター・シカバネは、研究施設内で人体実験を行ってる筈でありますから、中には実験台の屍隷兵も何体かいるでありましょう」
 その知性を持たぬ屍隷兵達は、ズタズタラッシュ、スカルブレイカー、グラインドファイアに似た攻撃を繰り出してくる。
「屍隷兵の戦闘力はケルベロスとサシで渡り合える程度に高いので、油断はなさいませんように」
 かけらはそう補足すると、
「屍隷兵の研究が進めば、月喰島にいたような、元の人間の姿や知性を持つ屍隷兵が生み出されるかもしれません……そうなれば、屍隷兵の脅威は更に大きくなるでありましょう。それを防げるのは、皆さん方ケルベロスだけであります。作戦の成功を期待してるでありますよ!」
 彼女なりにケルベロス達を激励したのだった。


参加者
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)
フェル・オオヤマ(焔燃えるは白黒の盾・e06499)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
イ・ド(リヴォルター・e33381)

■リプレイ


 螺旋忍軍の隠れ研究施設。
 外から見ただけではまるきりただの廃屋としか見えないこの建物へ、今ケルベロス達が侵入しようとしていた。
「知性が無いとは言え、非常に危険な存在である屍隷兵とその研究をしているドクター・シカバネ……これは確実に葬り去らねばならないでしょう」
 サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)は、いかにも真面目かつ丁寧な口調で決意を語る。
 絹のような銀髪を水色のリボンで一つに纏めた髪型が、落ち着いた印象を与えるシャドウエルフ。
 滅多な事では動じない肝の太さを持ち、性格も冷静沈着、周囲の状況を落ち着いて観察できる。
 それでいて、仲間へは物腰柔らかく穏やかに礼儀正しく接する、口数の少なさも気にならないぐらい笑顔の可愛らしい女性だ。
「冥龍ハーデスの遺物か。どんなものか楽しみではあるのう!」
 一方、ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)の物言いからは、強者との戦いに対する期待がありありと判る。
 余程、かつて手合わせの叶わなかったドラゴンの遺した敵と相見えるのが楽しみでならないらしい。
 傭兵稼業を生業とし、戦いに何よりの悦楽を感じる戦闘狂でもある為か、強者との戦いが生き甲斐なのだ。
 そんなドルフィンの性格は豪放磊落、気に入った相手へは世話を焼く一面もあるとか。
「……嫌いなのですよ。人の身体を道具としか思っていない者は……この右腕と、弟の声を奪った者と同じ事をする者は……!」
 他方、重々しい声音で憤怒の感情を露わにするのは、水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)。
 クリスティ流神拳術を修業中のブレイズキャリパーで、両目を隠すほど長い前髪が特徴的。
 自分の右腕と弟の声をデウスエクスに奪われるという辛い過去を持つからこそ、ドクター・シカバネの非人道さが殊更許せないのだろう。
 家族経営の小さなカフェ『カフェ「GoldLore」』の店員だが、料理の腕はまだまだ父親に及ばないそうな。
「命を弄ぶような奴は……絶対に倒さなきゃ!」
 疵無を握り締めて仲間の無事と依頼の成功を祈るのはフェル・オオヤマ(焔燃えるは白黒の盾・e06499)。
 白く柔らかな髪と紫の瞳が印象的なドラゴニアンで、マインドリングを愛用する自宅警備員。
 フェルはなるべく気配を殺したまま廃屋の周りをぐるりと回って、玄関以外の出入口や窓が幾つあるか確かめた。
 その後、廃屋の玄関を無理やり抉じ開けて、中へ入っていく8人。
「ええっと、今日はなんの集まりでしたかしら?」
 突入寸前、シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)が生来の忘れっぽさを発揮して、そんなボケをかましたりした。
 それどころか、初めての依頼で何をどうすれば良いかすらよく解ってなかったが、仲間に説明して貰い事なきを得た。
 漆黒の髪と細い橙の瞳が愛らしいヴァルキュリアで、かつては数多のエインヘリアルを造り出してきたシフォル。
 地球の輝きに惹かれて定命化したが、今まで知らずにいた『死』という概念へ強い拒絶反応を抱きつつ、戦いの日々を送っている。
 ともあれ、シフォルも皆と一緒に足並みを揃えて、研究施設内へ無事突入。
 屍隷兵は全員がドクター・シカバネの元に集められているのか、まるでおばけ屋敷のようなポロポロの廊下に、人の気配は無かった。
「実験室へ突入する前に、建物内部の構造を把握しておいた方が、脱出経路を塞いで敵の逃走を阻むのに役立つかもしれませんね」
 北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)は、慎重に建物内を見回し、扉の位置を確かめて歩いている。
 黒目黒髪の誠実そうな風貌だが、その実日頃の言動はなかなかに過激なガンスリンガーの青年だ。
 仲間からは女装癖に目覚めたのかと心配される傍ら、計都は順調なリア充ライフも精力的に送っていた。
 それもまた、何にでも全力投球という己がモットーを実践した結果なのだろう。
「屍隷兵さんの詳細について伺ってはおりますが……罪の無い人を無惨にも侵略の為の道具にするなんて……」
 ふと、ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)は哀しげな顔で呟いた。
 実はクラシカルなエプロンドレスの上からでも判る程に巨乳な、明るく朗らかなメイドさんである。
 最近では光を失った瞳で冷ややかな笑みを浮かべたりと、年頃らしく様々な表情を見せるようになった。
「……ただ不幸を撒き散らすだけの研究は、この世界には無用です。必ず止めてみせるのです」
 キッと顔を上げて前を見据えるニルスの瞳には、強い光が宿っている。
「奥に非常口が見えるな。万一にも包囲網を突破された場合、己はあの扉を塞ぐ事を第一に動くとしよう」
 さて、抑揚のない語り口ながら、ドクター・シカバネの逃走阻止について真剣に考え巡らせるのはイ・ド(リヴォルター・e33381)。
 金髪と精悍な体格を持ち、緑の目は眼光鋭い全身機械鎧のレプリカント。
 元ダモクレスの尖兵だったが、さる戦いにおいて自我を獲得してケルベロスに覚醒した過去を持つ。
 物事を合理的か非合理的かで判断する性格のイ・ドだが、その感覚は一般常識から大きくズレているようだ。
 現に、ドクター・シカバネの屍隷兵改造にも嫌悪感はなく、むしろ勝利への道筋として合理的であるとすら思っている。
 故にその合理的な強さを叩き潰す事で、それをも上回る己の強さを証明すべく、班の勝利に死力を尽くす覚悟であるらしい。


 実験室の扉を破って突入した時も、ドクター・シカバネは屍隷兵の耐久実験にかかりきりだった。
 それでも8人が奴を包囲するように陣取って初めて、手術台からゆっくり顔を上げる。
「クリスティ流神拳術、参ります……!」
 右腕の手袋と袖ごと燃やして地獄を強めたアンクは、突入した足を停めずにドクターへ接近。
「壱拾四式……炎魔轟拳(デモンフレイム)!!」
 地獄の白い炎をバトルオーラに纏わせ、ドクター・シカバネの背へ力一杯叩きつけた。
 と、見えたが。
「ゴフッ!」
 ドクター・シカバネの代わりに血を吐いて苦痛にのたうち回ったのは、奴を庇った屍隷兵だった。
 アンクは唇を噛んだが、落胆ばかりでは無い。
 5体も居る屍隷兵の中にもしディフェンダーが2体以上いればそいつらから狙う——予め決めていた作戦が実行し易くなったからだ。
「ケルベロスか、思う存分切ってみたかった……」
 ドクター・シカバネは巨大直剪刀をシャキシャキと鳴らしてから、勢いよく斬りかかってきた。
 太く長い刃先は、前衛中衛を通り越して後衛の身体を切りつけるべくギラリと閃く。
 すると、計都のライドキャリバーこがらす丸や、ニルスのトライザヴォーガーが、メディックであるフェルとイ・ドを身を呈して守ってくれた。
 ブルルルル……。
「大丈夫か、こがらす丸?」
「ザヴォちゃん……!」
 体力面に多少の不安があるとはいえ、こがらす丸とトライザヴォーガーのエンジン音が弱々しい。消耗の激しさが気になった。
「ドクター・シカバネのポジションはジャマーであろう」
 追撃が重なった為に予想以上のダメージ量が出たに違いない——イ・ドがそう見当をつけた。
「私達ケルベロスがいる限り、あなた達の好きにはさせません。そしてこの先、永遠にあなた達の出番はありません!」
 サラは兼定十文字槍を真っ直ぐ構え、素早く屍隷兵達へ飛びかかる。
 高速の回転斬撃を見舞って、5体を次々と薙ぎ払った。
 そして、妙な物を目の当たりにした。
「グガァ……ッ!」
 槍に肩を抉られて痛がっているのは、5体中3体。
 しかも、ドクター・シカバネを庇った個体とは別の者達ばかり。
 これは、屍隷兵の内2体が同胞への斬撃を肩代わりしたと見て良いだろう。
「ディフェンダー同士で庇い合っているのですか……意図が読めませんね」
 サラはそう口の中で呟いて、ふと気づく。屍隷兵には理性が無いのではなかったか。
 ならば、彼らがディフェンダーとして動いているのは、ドクター・シカバネの思惑に他ならない。
 屍隷兵達は、ケルベロス達の不審にも気づかず、それぞれ炎を纏った蹴りや脳天割りを仕掛けてきた。
 どれだけ炎に巻かれたり威圧感に苛まれようとも、ドルフィンもサラも眉一つ動かさない。
 こがらす丸やトライザヴォーガーも自分の怪我に構わずメディックの2人を可能な限り庇い続けた。
「カッカッカッ! すまんがそう簡単に切られてやるつもりは無いんじゃ」
 やはり強敵との対峙に高揚するのか、豪快に笑うのはドルフィン。
 開いた口からそのまま炎の息を吐きつけて、屍隷兵達を一気に焼き払い、内3体へ重い火傷を負わせた。
「アンクさん、サラさん、シフォルさん、補助します!」
 フェルは攻性植物を『収穫形態』へと変形。
 前衛陣へ黄金の果実の聖なる光を照射して、彼らの異常耐性を高めた。
 同時に、ライドキャリバー達の傷も多少癒えた事になる。
「刃物にはあまりいい思い出がないんですがね……」
 巨大直剪刀を前にして、嫌な記憶が蘇るのか渋い顔で呟くのは計都。
 胸を刃物で刺し貫かれた事があり、そのせいで刀剣や長身の刃物がトラウマになっているらしい。
「命を弄ぶ非道、許してはおけない……! その生命で償わせてやる、覚悟しろ!」
 それでも計都は、リボルブレイカーを砲撃形態に変じさせ、竜砲弾を撃ち出して屍隷兵1体を撃破した。
 平穏な日々を送る反面、心の奥底にデウスエクスへの怒りと憎しみの炎がずっと燻っていた彼なので、それが今噴出したのだろう。
 こがらす丸も計都の意志へ忠実に、激しいスピンで前方へ滑り込み、屍隷兵達の足を轢き潰した。
「そこまでですわ、ドクター・シ……シ……シシケバブさんでしたかしら?」
 次いで、シフォルもドクター・シカバネへビシッと言い放つが、見事に名前を間違えていた。
「シフォル様、シカバネです、シカバネ……!」
「行きますわよ!」
 ニルスが小声でツッコむのも聞こえたかどうか、シフォルは光の翼を暴走させるや全身を『光の粒子』に変えて、屍隷兵へ突撃をかました。
「……ごめんなさい、私達にはあなた方を元に戻す術がございません」
 ドクター・シカバネに操られるかのようにこちらを攻撃してくる屍隷兵達へ向かって、ニルスは切々たる声音で謝罪してから、
「せめて、自覚無きまま害をなさないようにこの場で……」
 アームドフォートの砲口で屍隷兵達それぞれを同時にロックオン、無数のレーザーで彼らの胴を撃ち貫いた。
 トライザヴォーガーも車体に炎を纏って突撃、屍隷兵1体へ火傷を負わせんと頑張っている。
「《反抗》、開始」
 イ・ドは全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出、前衛陣の超感覚を覚醒させる事で、命中率を高めた。


 屍隷兵達との戦いは続いた。
 相変わらず意味も解らずに互いに互いを庇い合っている屍隷兵達は、ケルベロス達の集中攻撃に圧されて、1体、また1体と倒れていく。
 そして、4体が倒れたのちドクター・シカバネと共に侵入者へ立ち向かおうとする個体が居なくなってようやく、ドクター・シカバネが忌々しそうに呟いた。
「失敗作が……ケルベロスの攻撃にも耐え切れんとは」
 その声には、実験動物の損失を惜しむ響きすら無い。
「ふ、クヒヒヒヒヒヒ……ならば我が取る行動は一つ、新たな実験動物の確保だァッ!!」
 奇声をあげながら巨大直剪刀を振り回して飛びかかるドクター・シカバネ。
 突き刺さった両の刃をギリギリと無理やり割り広げられて、
「そう簡単には行きませんよ……!」
 アンクが襲いくる痛みに必死に耐えている。
 その上、何かトラウマを刺激する幻影にも攻撃を喰らったのだろう。
「負けませんよ。特に貴方の様な相手には」
 顔を庇った左腕から血を滴らせつつも言い返すアンクの声は、ドクター・シカバネへの態度よりずっと冷たい。
「アンクさん、今回復します!」
 すぐさまフェルが『真に自由なる者のオーラ』でアンクを包み、癒しの時間にて傷を塞ぎ、アンクにしか見えぬ幻影をも消し去った。
「決めます……! 外式、双牙砕鎚(デュアルファング)!!!」
 平静を取り戻したアンクは、蒼い冷気を纏った手刀ならぬ足刀を左上段からドクターへ見舞い、白い炎の右拳を打ち下ろすが如く追撃、思いっきり床へと叩きつけた。
「苦痛よ、苦しみよ! あまねく世界の根源よ! 眼前の歪んだ死を塗りつぶせ!」
 世界にあふれる苦痛を力へと変換するのはシフォル。
 それらをグラビティで生み出した水の礫に乗せて、ドクター・シカバネに正面からぶち当てた。
「クヒヒヒッ……!」
 正確に狙い澄ました咎人の水の威力は大きく、ぐらりとよろめくドクター・シカバネ。
 ニルスは、巨大直剪刀を床へ突き立てて立ち上がるドクターに向かい、恭しく一礼してから、
「私達を直接付け狙うならまだしも、何の関係のない方まで巻き込んで……貴方の研究は、即刻白紙撤回していただきます」
 アームドフォートの主砲を一斉に発射、砲弾を霰のように浴びせてドクター・シカバネを爆煙に包んだ。
「灰燼と帰せッ!」
 マインドリングに、その瞬間持てる限りのグラビティを注ぎ込むのはイ・ド。
 長大な充填時間、自壊、オーバーヒート——それらの危険性を一切厭わぬが故にできる捨て身の全力攻撃は、ドクター・シカバネに決して少なくないダメージを齎した。
「一発で駄目ならもう一発、それでも駄目なら全弾撃ち込む……!」
 計都はレイジングフレアの照準をドクター・シカバネの腹へと定めて、奴が確かな苦痛を味わうまで、ありったけの弾丸を撃ち込んだ。
「我が閃光、その身に刻め!」
 抜刀の構えより出でし刹那の閃きにて、ドクターを斬りつけるのはサラ。
 その上、突きによる追撃を幾度も浴びせて、ドクター・シカバネの体力を大幅に削っていく。
「屍隷兵は楽しめたが、おぬしは不快なゲスじゃのう。よい、ただ死ぬがよい!」
 ドルフィンは、シカバネの傷口にガバッと手を突っ込んで関節を極めるや、情け容赦なくドラゴンオーラをねじ込んで、体内からダメージを増幅させた。
「ぐ……ゴフッ……!」
 竜極壊「海竜乱脈」にすっかり全身を内側より破壊されたドクター・シカバネは、汚物を吐き散らしながら倒れ伏し、絶命した。
「せめて、安らぎがありますように」
 シフォルが呟く。
「カカッ、面白い代物ではあったが、螺旋忍軍の再利用ではつまらんかったかのう」
 ドルフィンが何の衒いもなく笑う傍ら。
「他の螺旋忍軍さんが研究を引き継がないように……」
「こんな技術は、あってはならない物ですからね……!」
 アンクはドクターの残した屍隷兵研究に関する資料を手当たり次第に回収。ニルスや計都は施設内に隠し部屋等が無いか調べた上で、研究施設の全てを破壊した。
 回収した資料は良く判らない内容ばかりだったが、とりあえず帰りのヘリオンの中で小檻へ預けたという。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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