光明神域攻略戦~神へと至り討つ

作者:流水清風

●淡路島上空
「ここが淡路島、ナンナが担当する琵琶湖と対となる美しい島ですね。さっそく、私の『超召喚能力』を見せるとしましょう」
 光明神バルドルが、手にした頭骨型の魔具を掲げると、淡路島全土を覆う植物の迷宮が生み出されていく。
 それを満足そうに見やったバルドルは、彼の護衛として付き従っていた、カンギ戦士団の面々に信頼の視線を向けると、軽く一礼する。
「では、私はこの中で、『ミドガルズオルム』の召喚を行います。皆さんには、私の身を守る警護をお願いしますね」
 そう言われた、カンギ戦士団の戦士達……ダモクレス、エインヘリアル、シャイターン、竜牙兵、ドラグナー、ドラゴンといった多種多様なデウスエクス達が、その信頼に応えるように胸を叩いた。
「任せて貰おう。我らカンギ戦士団、生まれも種族も違えども、確かな絆があるのだから」
 光明神バルドルが迷宮に入ると、それに続いて、カンギ戦士団の戦士たちも迷宮へと歩を進める。
 全ては、彼らの主たるカンギの為に。

 ヘリポートでケルベロス達を出迎えた静生・久穏はコートを羽織っていた。季節は冬を迎え、このような場所で薄着でいるのは厳しいからだ。
 しかし、久穏はケルベロス達に伝える状況は、冬の寒さなど比べものにならない程の事態であった。
 ハロウィン攻性植物事件を引き起こした、パッチワークの魔女を支配下に置く『カンギ』。その軍勢によって、『淡路島』と『琵琶湖』が同時に植物に覆われてしまったのだ。
 無論、それは敵の手段であって目的ではない。
「敵の目的は、『無敵の樹蛇』ミドガルズオルムの召喚のようです」
 久穏が口にしたミドガルズオルムは、いかなる手段でも破壊することが不可能であるという特性を有している。そのため、もしも地球上に召喚されてしまったなら、攻性植物のゲートを破壊し侵略を排除する事は困難を極めることとなる。
「現時点で淡路島と琵琶湖は、繁茂した植物によって迷宮となってしまっています。そしてその中には『侵略寄生されたアスガルド神』が設置されおり、その神力によってこの大規模術式が展開されているようです」
 この迷宮には『カンギ』の配下精鋭軍が防衛に就いている。それらの精鋭軍は『これまでにカンギが打ち負かし、配下に加えたデウスエクス』であり、『カンギ』とは熱い信頼と友情で結ばれている。このため、決して裏切りはしない不屈の戦士団である。
 同時に二カ所の攻略が必要となった今回の事態だが、久穏のヘリオンが向かうのは、淡路島の迷宮だ。
「淡路島と琵琶湖の全域を覆う植物迷宮ですが、これを突破する手段として直接破壊して進むという方法がありますが、お勧めはできません」
 久穏がそれを否定するのは、迷宮を構成する植物は破壊されると自爆してこちらに痛手を与えてくるからであった。この理由から、ここぞという場面を除き、迷宮を進むには正攻法で突破する必要がある。
「迷宮は広大で、アスガルド神の居場所も不明です。探索には複数のケルベロスチームが赴いてくださいますので、探索の開始地点や区域を予め分担しておくと良いでしょう」
 厄介な迷宮を突破しアスガルド神に到達しなければ、樹蛇ミドガルズオルム召喚を阻むことは出来ない。が、ケルベロスの障害となるのは迷宮のみならず、先にも述べられた『カンギ』の精鋭軍も控えている。
「迷宮への侵入者を察知すれば、デウスエクス達は迎撃に出て来るでしょう。迷宮侵入から一定の時間が経過した以降は、何処であろうと敵の攻撃を受ける危険があります」
 敵デウスエクスの襲撃を掻い潜りながら迷宮を突破し、アスガルド神を撃破しなければならない。
 ケルベロスにとっての好条件は、既に周辺区域の避難が完了している点と、複数のチームで攻略できるという点くらいだろう。つまり、いつもと変わらない苦しい作戦であるということだが。
 それでも、淡路島の迷宮の何処かに潜む『光明神バルドル』を討つことができれば、植物迷宮は崩壊しデウスエクス達も継戦の意味は無くなり撤退していくので、泥沼の殲滅戦には至らない。
 一見すると複雑なこの作戦だが、主眼は光明神の撃破。それに尽きるのだ。
「敵地への潜入作戦は常に厳しいものになりますが、ケルベロスのチームが1つでも光明神を撃破できれば皆さんの勝利です。そのための工夫と互助を念頭に、緑の迷宮を突破してください」
 樹蛇ミドガルズオルムの召喚は、何としても阻止しなければならない。一度それを実現されてしまえば、攻性植物勢力に圧倒的な優位を確保されてしまうのだ。
 だが、それを未然に防ぐことができる機会を得たことは、とても大きな好機である。
 ケルベロスに作戦阻止の機会を与えたことが、拭い難い失態であるという事実。それを知らしめるべく、ヘリオンは現地へと飛び立った。


参加者
ルトゥナ・プリマヴェーラ(慈恵の魔女・e00057)
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
戯・久遠(紫唐揚羽師団の龍・e02253)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
プロデュー・マス(サーシス・e13730)
ルクレツィア・フィグーラ(自鳴機構・e20380)

■リプレイ

●緑の迷路
 淡路島全域が植物に覆われ迷宮と化し、その内にて絶対に阻止しなければならない召喚儀式が行われようとしているという未曾有の事態。これに対し、大勢のケルベロスが解決に乗り出した。
「ここがミドガルズオルムの召喚をしようとしている迷宮なんですね……」
 眼前に広がる光景に、リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)は驚嘆を隠せずにいた。
「仮にも神様を名乗るだけあって、半端じゃないものを作るねえ。構造の複雑さは、どれ程のものかしら?」
 様々な植物が複雑に入り組んで出来上がった迷宮を、ルクレツィア・フィグーラ(自鳴機構・e20380)は品定めをするような視線を向ける。
「淡路島って思ったより広いんだな。こいつは、一筋縄ではいきそうにもないぜ」
 迷宮自体もさることながら、この中にはカンギ戦士団と称されるデウスエクスが待ち構えている。強敵との戦いの予感に、鈴木・犬太郎(超人・e05685)の愛刀を握る手に力が籠る。
「犬太郎ちゃん、張り切るのは分かるけど、今から力んでたら疲れるわ。リラックスも大事よ」
 そんな犬太郎に笑顔を向けるルトゥナ・プリマヴェーラ(慈恵の魔女・e00057)は、どこか楽しそうだった。まるで、テーマパークのアトラクションに臨むかのようですらある。
「迷宮かあ……。ボク方向音痴なんですよね。生きて帰れる気が全くしないなあ」
 2人とは対照的に、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)は、悲観的な空気すら纏っている。
「モブの俺が参加する作戦じゃねぇよな、これ」
 口では迷宮の規模に委縮しているかのようだが、堂々たる態度で唐揚げを食べて英気を養っているのは戯・久遠(紫唐揚羽師団の龍・e02253)だ。
 1つのチームの中で、こうも異なる雰囲気が混在しているというのも、ケルベロスならではだろうか。
「……インカムは使えないようだ。他の班との連絡は諦めるしかないようだな。まあ、どちらにせよやるべき事に変わりは無いだろう」
 インカムを操作していたハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)は、その使用を諦め手荷物の中に仕舞い込んだ。
「……時間か。行くとするか」
 プロデュー・マス(サーシス・e13730)は出発地点となったこの場所に目印となる糸の設置を行い仲間達にもそれを確認してもらい、歩き出した。
 電子機器による通信連絡などは行えないが、淡路島の地図とスーパーGPSを用いた現在地の確認は可能のようだ。これに実際に踏破した内容で地図を自作しながら、ケルベロス達は迷宮を進んで行く。

●枝壁根床
「さぁて、いざダンジョン探索ってな」
 英気を養った久遠は、意気揚々と迷宮に踏み込んだ。他の面々も、気合いは十分だ。
 いざ中に入ってみると、内部は外観から想像できる通りの代物であった。
 ケルベロス達を囲む四方いずれを見渡しても、目に入るのは花と葉、そして枝と根であった。小さな昆虫の目から見た景色は、このようなものなのだろうか。
「まるで御伽噺の一幕のよう。これでもっと情緒のある光景なら、素敵だったでしょうね」
 数多く咲き乱れる薔薇の美しさに、ルトゥナは溜息を漏らす。もっとも、薔薇の綺麗さを素直に受け入れるには些か問題がある。
「周りに茂っているのは全然別の植物ね。これじゃあ雰囲気も台無しだわ」
 リュセフィーの言うように、薔薇の花を支えているのは松の木だったり名前も分からない植物の蔓だ。実に混沌とした植生である。
「これといって迷宮の突破に影響がある点は見られないわね。他の班が通った痕跡も無いみたいよ」
 ルトゥナとリュセフィーは多少なりとも花の綺麗さに着目しているが、同じ女性であってもルクレツィアはそういった事柄に興味を示さなかった。感性の問題ではなく、任務に対する姿勢の違いだろう。
 周囲に対する警戒を怠る事なく歩を進めるケルベロス達だが、なかなか思うようには進むことが出来なかった。それも当然で、迷宮は進みたいと思う方角に道があるとは限らないからだ。
「……少し気になっているのだが、先程から微妙に上下していないだろうか?」
 薄々気づいていたが、確信が無いためプロデューは地図を作製しているハルに問い掛けた。
「どうやらそのようだ。傾斜が緩く周囲が囲まれ高低差を計ることが困難だが、間違いないだろう」
 木の根が絡み合って構成された床にハルがペンを置くと、ほんの少しだが転がっていく。水平ではない証拠だ。
「多層構造なのに、明白に上下の切り替えポイントが無いのが本当に厄介です。ここまでの地図、ちゃんと合ってますか?」
 ハルと自分の作成している地図を見合わせながら、東西南北は多少の食い違いを修正する。もし地図を作っていなければ、元来た道を辿ることも出来るかどうか怪しいものだ。
「これが敵の拠点というのなら敵が迷わないための目印の1つもあるだろうが、完全に俺達に対する時間稼ぎの為の物ではな……」
 うんざりとした口調で、犬太郎は迷宮を睨む。いっそ壁を破壊して進みたいとすら思えるが、そうすればこの植物群は自爆してしまう。
 苦心しながら、少しずつケルベロス達は迷宮を踏破して行くのだった。

●其の武はカンギの為に
 かれこれ、迷宮の中を1時間は歩いただろうか。ケルベロス達の心情としては、彷徨ったという方が正解かも知れない。
 ここまで迷宮の構造にはこれといった規則性が無く、細い個所や広い場所など様々であった。だが、この地点はまるで予め用意されていたかのようだ。
「皆さん! カンギ戦士団を見つけましたよ!」
 リュセフィーが仲間達に言いながら指差す先には、鎧を纏った長身の敵がケルベロス達を待ち構えていた。
「貴殿等が、カンギの目論見を阻まんとするケルベロスか。我はエインヘリアルとして生を受け、カンギと友誼を交わせしヴィゴレ」
 ヴィゴレと名乗ったエインヘリアルは、手にした槍のように長大なゾディアックソードの切っ先をケルベロス達へ向ける。
「我はエインヘリアルとして生来武を宿し、独自に武を極めんと生きて来た。しかし、我が武を活かす術を持ち合わせてはいなかった」
 己の過去を語るヴィゴレは、どこか誇らしさを感じさせる。
「しかし、カンギと出会い、我は得た。この武、友たるカンギの為にこそ活かすのだと!」
 ヴィゴレは明らかに侵略寄生されており、それが自身の内から湧いた感情であるかは疑わしいが、ケルベロス達にとってはどちらであろうと倒すべき相手である事に変わりない。
「君達に譲れぬものがあるように、我々にも為すべき事がある。悪く思え、ここは押し通らせてもらう」
 二振りの斬霊刀を構えたハルを中心に、特異な空間が展開される。それは、彼自身の心を映し出した無数の刀が舞う領域であった。
「同感だ。悪いが! 押し通る! 戦士というのなら、問答無用だろう!」
 ハルと同時に、プロデューも動いていた。敵の前口上に聞き入ってなどおらず、いつでも攻撃を開始できるよう備えていたからだ。
「燃やし尽くす! 灰も芥も残さず! 応えてみせろ、私の地獄!」
 ハルが作り出した刀が一斉にヴィゴレに殺到し滅多切りにし、同時にハルのコア・ブラスターが地獄と化した個所から生じる破壊の力が襲う。
「俺達が目指しているのは、ミドガルズオルムの召喚阻止なんだ。ヴィゴレ、お前は通過点に過ぎないんだぜ!」
 犬太郎は己の地獄と化した個所から噴き上がる炎を纏い、鉄塊剣を力任せに叩き付ける。
 かつて数多の英雄を滅ぼしたドラゴンの牙を加工したと伝えられる鉄塊剣に、エインヘリアルの巨体が揺らぐ。
「友人の為に尽力するのは、悪い事じゃないわね。でも、私達はもっと大勢の人の為に戦っているのよ」
 いつの間にかサキュバスの特徴である角と翼と尻尾を顕わにしたルトゥナは、巨大なルーンアックスを軽々と扱いながらにこやかな笑顔を崩さない。その姿は威容とすら形容できるものだ。
「ならば我と貴殿等のいずれが勝るか、競おうではないか。我は盟友カンギの為ならば、何者をも打ち倒して見せよう!」
 ルトゥナの放ったドラゴンの幻影に焼かれながら、ヴィゴレはそれを物ともせず間合いを詰め剣撃を繰り出した。
 確かな手応えが武器から手へと伝わって来たが、当のヴィゴレは僅かに顔を顰める。狙った対象に刃が届いていないと。
「ふふ。八王子東西南北を侮らないでください。例え火の中水の中攻性植物の胃酸の中バルドルのスカートの中ですよ!」
 謎の発言をする東西南北だが、痛みで錯乱しているということはない。これが彼にとっての平常である。少しだけ赤面しているのは、発言を恥じているのではなく庇ったルトゥナが異性であるからであった。主の傷を癒すテレビウムの小金井が呆れたような様子に見えるのは、きっと気のせいだろう。
「クレフ、東西南北をお願いね。あまり時間を掛けていられないから、手早く終わらせるというのはムシが良過ぎるかしら?」
 テレビウムに東西南北の治療を任せ、ルクレツィア自身は高速の回転斬撃でヴィゴレを薙ぎ払った。まだ致命傷には到底至らず、見立て通り簡単に倒せる敵ではないと実感する。
「友人の為とか、胡散臭いセリフをよく吐けるもんだぜ。友情に篤い自分に酔ってるだけじゃねえのか」
 鋭い一撃を放つ久遠は、眼鏡を外し戦闘に意識を切り替えている。けれど、皮肉な調子はそのままだ。
 ヴィゴレの信念が本物であろうと偽物であろうと、その実力は間違いなく本物だ。リュセフィーの発した雷と使役するミミックの攻撃も、その動きを鈍らせることは出来ない。
 カンギ戦士団。その名に相応しい猛者の集いであると、ケルベロス達は思い知らされたのだった。

●武の終着
 ヴィゴレの目的がカンギの為に己の武を奮うことであれば、それはもう達成してしまったのかも知れない。
「感じるぞ。これが充足というものだ! 独り武を研鑽するだけでは決して得られなかった、絆を!」
 ケルベロスに星座のオーラを飛ばしその威力を誇るのなら、傍目にも理解できる。だが、ヴィゴレはその行為がカンギの敵に害を与えている事に満足感を覚えているらしい。
「相当そのカンギってのが好きみたいね。あたしにはちょっと理解できそうにないよ」
 仲間の陰から飛び出し、木の壁を蹴ってヴィゴレに肉薄する。そうして、肘から先をドリルのように回転させたルクレツィアの一撃がヴィゴレの鎧を削り取った。
「攻性植物にも、他のデウスエクスにも、地球は渡しません。ここはボクの故郷ですから。いけっ東西南北疾雷。しびしび痺れちゃってください!」
 可能な限り仲間の盾となるべく奮闘する東西南北だが、攻勢に加わることも忘れはしない。体内で圧縮した指向性の高圧電流が、ヴィゴレを捉えその巨体を痺れさせる。
「貴殿は戦士として大きな心得違いをしているな。力を持つ者は、己の力を己の意思で使わなければならないんだ。その制御を他者に明け渡してしまったのなら、それはただの武器でしかないだろう!」
 雷に痺れるヴィゴレを、プロデューの地獄の炎弾が焼きその生命力を喰らう。
 しかし、ヴィゴレにとっては肉体的な苦痛よりも、プロデューの言葉が精神に突き刺さっていた。
「力は手段に過ぎぬ! 正しき目的の為に駆使してこそ、武はその意義を成すのだ!」
 戦いの余波で舞い散る花弁を忌々しげに払い除けながら、ヴィゴレは剣を振り回す。
「傷はしっかり処置した。問題は無い、存分に暴れてやれ」
 数手前にヴィゴレの刃から味方を守り負傷した犬太郎を強引な緊急手術で処置を施した久遠は、その痛みを返してやれとばかりに発破を掛けた。
「一流の武人を気取るのなら、優雅さも必要よ。花を愛でるような……ね」
 ルトゥナが何を言っているのか、ヴィゴレは咄嗟に理解できなかった。
 そのため、自分が鬱陶しいと振り払っていた花弁が、この迷宮を構成する植物ではなく敵が魔力を込め作りだした攻撃の一種だと気付いた時には、手足を満足に動かすことができなかった。
 駄目押しとばかりに、リュセフィーのミミックが喰らい付き、ヴィゴレの身動きが封じられる。
 犬太郎の洞察力と判断力、そして抜群の反射神経が、この絶好の好機に渾身の一撃を重ね合わせていた。
「一撃だ、俺のたった一撃を全力でお前にブチ込む!」
 獄炎と降魔力を纏った犬太郎の拳が、ルクレツィアが削った鎧の破損部分からヴィゴレの身体を直接殴打する。
 堪え切れず弾け飛ぶヴィゴレに右拳を叩き込んだ姿勢のまま、犬太郎は後ろ手で久遠に左手の親指を立てて見せた。
 結果的に、ヴィゴレの武はケルベロス達の連携を破るには至らなかった。己の武力を過信した、その末路とでも言うべきか。
「俺もまた、お前と同じ孤独に戦い続けた身だ。だが、独りではなくなった俺とお前には、随分な差があったようだな」
 ハルの魔を断つ事に特化した赤い刀身の斬霊刀は、ヴィゴレのゾディアックソードと同じように長大な一刀だ。
 同じような武器、同じような生き方のハルとヴィゴレだが、辿り付いたのは、全く異なる居場所であった。
「ヵ……」
 空の霊力を帯びた刀によってトドメを刺されたエインヘリアルの武人は、最期に盟友の名を口にしようとし、声にはならなかった。断末魔も最後の悪足掻きも無い、呆気ない終わりであった。
「やっとカンギ戦士団を倒す事が出来ましたね……」
 リュセフィーの確認するような言葉を聞くまで、ケルベロス達は勝利の実感が湧かなかった。

●脱出
 その後、ケルベロス達は探索を再開した。
 迷宮に突入してから、おおよそ2時間30分ほど経過した時、事態は急変した。
「これは?」
「ゆ、揺れてますか?」
「地震、な訳ねぇな。崩れ始めてるぜ」
 ハルの疑問に東西南北が疑問を重ね、久遠が応える。
「誰かがやってくれたのね」
「おそらくは、そうだろう」
 ルトゥナとプロデューが頷き合う。きっと、他のチームがこの任務を達成したのだと。
 しかし、喜んでいる余裕はない。このままでは迷宮の崩壊に巻き込まれてしまう。
「急いで脱出しましょう」
 リュセフィーに促され、全員が踵を返す。
「面倒だな。道を作るぜ!」
 来た道を辿っていたのでは、とても間に合いそうにない。道が崩れて塞がっている可能性も高い。それならばと、犬太郎は覚悟を決めて壁を破壊した。
 身構えたが、爆発は生じなかった。どうやら、崩壊が始まったと同時に爆発する機能は失われたようだ。
「あーあ、勿体ない。楽器の材料になりそうな良い木材もあったのにね……」
 立派な木が倒壊する横をすり抜けながら、ルクレツィアは残念そうに呟く。
 数十分後。無事に脱出した8人は、互いの健闘を称え合ったのだった。

作者:流水清風 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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