光明神域攻略戦～緑洞に在り

■リプレイ

●上陸
　淡路島北西部。上陸したその砂浜も、既に巨大な植物が根を張っていた。海の際まで伸びたそれらは、元を辿れば島の中心部から来ている。
「でっかく育ったもんだなー」
　その先へと視線を向けて、ディー・リー（タイラントロフィ・e10584）が感嘆の声を上げる。
　手元に広げているのは、今回の舞台である淡路島の地図だろう。ランドマークを記したそれを上書きしてしまうかのように、根を絡ませ、枝を結び、蔦を編み上げたような歪な建造物がそこにはあった。
「こんな事まで……」
　規模の大きな状況に、シア・ベクルクス（秘すれば花・e10131）が戸惑うように視線を巡らせる。この場所は島単位で多層構造の迷宮に呑まれてしまっている。目的箇所を定めるのも一苦労だろう。
　そんな弟子に、塩谷・翔子（放浪ドクター・e25598）が軽口をかけて背中を押す。
「さすがは神サマ……いや、それを擁する植物様かな？」
　そして、それらが『切り札』としているミドガルズオルムの強大さは如何ばかりか。
「絶対に阻止しましょう、私たちならきっとできますわ！」
　シアの決意に、ロゼ・アウランジェ（時紡ぎの薔薇歌姫・e00275）もまた同意する。大切な人達、愛する者、彼等を守るためにも、怯んではいられないのだから。
「それが民を害する者であるならば、神が相手であろうとも、我が矢は射貫きましょう
「俺はお掃除ができればそれで良いんですけど」
　アリシア・メイデンフェルト（マグダレーネ・e01432）と三廻部・螢（掃除屋・e24245）が、それぞれの得物を手に足を踏み出す。
　砂浜から硬質な木の根の上へ。眼前には、絡み合う木々の隙間。恐らくは、ここから内部に侵入する事ができるだろう。
「それじゃ、ピクニックと行こうか」
　翔子の言葉を合図に、ケルベロス達は迷宮の中へと足を踏み入れた。

●ダンジョンアタック
　この迷宮へと足を踏み入れたのはもちろん1チームだけでは無い。島の他の場所では、それぞれ別のケルベロス達が同時期に攻略に当たっているはずだ。可能ならば、手を組んでいきたいところだが……。
「まぁ、こうなるよな」
　知ってた、という顔で白刀神・ユスト（白刃鏖牙・e22236）が通信機を降ろす。デウスエクスが何か手を打ったか、それとも迷宮の副産物か、ほかの場所の仲間との連絡は断たれていた。
「その、やるべきことは変わりませんよ、ね？」
　苦笑混じりにそう返し、和泉・紫睡（紫水晶の棘・e01413）が仲間の方へと目を向ける。
「目指すはいざなぎじんぐー、だったなー」
「そうですね、現在地は――」
　ディーの広げた地図にシアがスーパーGPSでマーキング。とりあえずの目的地と、現在地を見比べる。地図上ではそう遠くないように見えるのだが。
「どこになにが潜んでいるかわかりません……十分に注意して行きましょう！」
「さぁて……蛇が出るか、神が出るかってトコ？
　ロゼが前へと歩く側、翔子がボクスドラゴンのシロと共に最後尾に回る。殿をサーヴァントに任せつつ、行軍を開始した。

　迷宮の空気は、深い森の中に似ている。一度深く息を吸い込み、ディーはそう考える。違う点があるとすれば、他の生き物の気配が希薄に感じられることだろうか。
「よし、問題無さそうだ」
　前方で、隠密気流を解いたユストの声が上がる。ディーは首から下げていた明かりを点けて、「いかにも奇襲に向いた木々の死角」を調べていた彼に向けた。
　上方も完全に植物に覆われているため、この辺りはどうにも薄暗い。そうして歩みを進めた先には、何度目かの分かれ道が現れた。
「さて……今度はどっちに進みます？」
　アリアドネの糸を落とし、アリシアが後ろを確認する。曲がりくねった道のため、先程通った分岐点は既に見えない。だが今回も、とシアが前へ進み出る。
「悩むところ、ですわね……」
　その手にあるのはスプレー缶だ。自分たちが向かった方向をマーキングし、袋小路ならばその矢印を×で上書き。単純かつ地道な手段ではあるが、自分たち、そしてここを通る事になった仲間に間接的に目印を渡す事ができる。有用性は言うまでもないだろう。
「どうした、目的の方向は決まってるんだから……、ああ」」
　立ち止まった彼女等に、追いついてきた翔子が合点がいったように頷いて見せる。一行の目の前には人が三人並んで通れるサイズの穴が開いている。
「上下、ですか」
　螢もまた、発見したその状態に明らかに嫌そうな顔をする。マッピングにおいてこれは鬼門だ。
「ここ、何階くらいなんだろうなー？」
「あ、と言うか、いつの間にか上の方まで来ちゃってます……？」
　穴の下の空間に明かりを向け、ディーと紫睡が顔を見合わせる。明確な階段や坂を上った記憶は無い。恐らく、上下左右にうねったこの道は、緩やかに上に向かっていたのだろう。
「神宮があるとすれば、地表ですよね」
「多分な」
　穴の先の通路を見つつ、ロゼの言葉にユストが返す。しかし両名とも、「そこまでしてランドマークに拘るべきか」という疑問のために歯切れが悪い。
「……一直線にボスまで行く道とか作ってやりたいもんです、このへん全部掃除して」
　地図上の迷宮から目を離し、螢が低く呟きながら使い魔へ声をかける。
「柴犬、疲れてないで行きますよ」
　結局の所、下へと向かうことを決め、一同は穴の下へと降下していった。

「儀式の場と言うからには、やはり近づけば周囲の地形や様子に変化が見られるのでしょうか」
「そうですね……わかりやすいものだと、祭器や呪具、特徴的な図形や供物の類が置いてあったりするかもしれません」
　いまいち代わり映えのしない壁の様子を眺めつつ、ロゼと紫睡が言葉を交わす。ひときわ饒舌になった紫睡の手元の地図には、『召喚の代償は？』、『迷宮の通路が龍脈、または儀式の象形、文字になっている可能性』など様々な仮説が書かれては消され、としていた形跡が見える。
「なるほど、そういう趣味か」
「あ、これは、その……！」
　その辺りを察した様子のユストに、紫睡が慌てる。
「ここまで大規模な物になるとかなりの準備と手間と力が必要になってくるので、それを想像すると未知の魔術に興味が尽きなくて……」
「ああ……召喚術はロマンあっからなあ」
　使命がある中、趣味に走った後ろめたさもあるのだろう、そんな彼女にフォローを入れつつ、ユストはまた前方へと視線を戻した。
「んじゃ光明神に会ったら、どんだけ大変か語って貰おうぜ」
「素直に教えてくれりゃ良いんだけどね」
　微妙に和やかになりつつある空気に、翔子が軽く肩をすくめる。だが、それも長くは続かなかった。
「――明かりを」
　消して欲しい、という螢の所作を察し、一同が照明を落とす。警戒の糸を伸ばした先は、曲がり角の向こう。誰かが、こちらにやって来ている。
「気づかれましたかね……？」
　可能ならば敵との遭遇は避けたい。だが螢の懸念の言葉にも、若干諦めが混ざっている。
「迂回は無理そうですね」
「迎え撃つしか……！」
　アリシアが武器を構え、シアもそれに倣う。ディーもまた、そんな二人に頷いて。
「戦闘も強敵も、ディー・リーは歓迎だぞー」
　尾に灯った炎が大きく揺らめく中、角を曲がってそれが現れる。
　手にしたのは巨大な鎚。硬質な足音を響かせるそれは、鎧を纏った骨の様。
「ミツけたぞ、ケルベロス」
　石を擦り合わせるような声音で、迷宮の番人が敵意を告げる。

●番人
「カンギ戦士団……で、相違ありませんね」
「サヨウ」
　弓に矢を番えるアリシアに、敵が応じる。
「カンギ戦士団がヒトリ、ガラド。ワがメイユウのジャマはさせぬ」
「竜牙兵ですか……」
　少し意外そうに紫睡がつぶやく。竜牙兵と言えば、ドラゴンに生み出されたその尖兵。主を持つ兵のはずのそれが、別の勢力に従っている。
「ほう、カンギってのはそれ程の人物なのかい」
　興味深げに言いつつ、ユストがオウガメタルを展開する。続けてディーの纏ったオウガメタルから、光り輝く粒子が飛び、味方を包み込んでいく。
「勿論おぬしも強いのだろー。楽しませろ？」
　戦闘開始。竜の力で急加速した竜牙兵の鎚が走り、ユストのオウガメタルとぶつかり合う。
「歓喜の戦士！　白刀神！　てめえが最後に耳にする名だ、覚えとけ！」
　金属音と衝撃波が空気を揺らす中、アリシアとボクスドラゴンのシグフレド、そして翔子のシロが敵を囲むように動き出した。
「シグ、行きますよ！」
　連携して姿勢を崩しにかかる彼女等に続いて、ロゼの斧が上空から敵を両断すべく襲い掛かる。
「儀式は止めさせて頂きます！」
「ソウはサせんぞ」
　浴びせられた一太刀をものともせず、竜牙兵は鎚の獲物を探すように、構えた。

　続く戦闘の中、振り下ろされたハンマーの余波に煽られ、螢が口に乗せていたタバコが吹き飛ぶ。
「……！」
　もったいない、という台詞に代わって紡がれた竜言語により、編み上げられたドラゴンの幻影が竜牙兵を襲う。強力な一撃ではあるが、まだ倒すには遠いか。
「焼却処分とはいきませんか」
「なら次は、これですの！」
　踊る炎を踏み越えて、シアの刀が稲妻と化す。傷を刻み、鎧を削る一撃。単騎で動いているだけあって竜牙兵も相応の実力を持っているようだが、シアも決してそれに負けていない。
「（少しはやるようになった、かもねぇ）」
　そんな様子に感心しながら、翔子は傷ついた仲間に癒しの矢を放っていく。
「よし、助かる」
「はいよ、回復はお任せってね」
　さらには前衛、アリシアも回復に参加、敵の攻撃による影響を最低限に留めていく。
「私は拒絶する。死の因果、闘争を求める本能、その全てを。我が歌は今ここに、全てに滲み通る」
　不戦を歌う共鳴の旋律。だが癒しの歌はすぐに次の戦いを呼び起こす。
「刺し貫けッ！黄道十二星剣――「アンチアレスの星腿鞭」！！」
　ユストの纏った流体金属が鋭くしなり、敵を穿った。

「見つけましたよ、苦手な攻撃！」
　ロゼの拳による衝撃波が、鎧の下の骨を揺らす。
　こうして弱点を周知し、前衛、中衛、後衛とバランス良くメンバーを配置したケルベロス達は、徐々に敵を追い詰めていく。回復に重点を置きつつも火力を確保したその陣形は、『邪魔者を蹴散らしながら進む』探索向けのものと言えた。
「ヌウ……！」
　劣勢を感じ取ったガラドが、手にした鎚で全力の一撃を放つ。込められた力に地面が割れ、噴き上がる炎がケルベロス達を襲った。
「アメジスティア！」
　迎え撃つのは紫の滴。紫睡のグラビティによる紫水晶の泉が炎の勢いをも抑えていく。
「マケられヌ、ワがオンジン、ワがトモのためにも……！」
「うんうん、裏切れぬ相手や力になりたい相手もおるよなー」
　渾身の一撃をいなされ、呻く竜牙兵にディーが迫る。
「でもそれはディー・リーも同じなのだー。故に――」
　おぬしらは殺す。氷と共に振るわれた鎚が敵に確たる傷を刻む。ここまで積み重ねた攻撃の残響もあり、竜牙兵が体勢を崩す。
「ここが機ですね……合わせましょう、ここで落とします」
「シア、師匠が見てるんだ、ちゃんと決めなよ！」
「はい、せんせい！」
　攻撃に転じたアリシアが炎を纏ったエアシューズを打ち込み、ロゼとシアがそれぞれの歌を奏でる。
「さあ、別れの吟を歌いましょう。忘れない為に」
「運命紡ぐノルンの指先。来たれ、永遠断つ時空の大鎌――あなたに終焉を」
　急速に生い茂る勿忘草が敵を包み、終焉の大鎌がその命を刈り取る。――だが、それでもなお。
「まだシねぬ、マダ……ッ」
　執念で以って、敵が一歩踏み止まった。

「いえ、ここまでです」
　宣告と共に、螢の手にしたデッキブラシ、もといファミリアロッドが使い魔の形を取る。
「今度こそ、骨の髄まで綺麗にしてやりましょう」
　ファミリアシュート。割と雑に放り投げられた柴犬が、竜牙兵の頭に衝突した。
「グ、オォ……！？」
　見た目はともかく威力は一級品である。決定的な一打に、竜牙兵の体が崩れていった。
「……ユルせ、カンギヨ」

●もうちょっと続く
「よーし、敵も倒したしどんどんいくのだー」
「ディーさんはまだまだ元気そうですね」
　負けていられない、とロゼが立ち上がり、それぞれの傷を癒した後の小休止を締めくくる。
「なかなかの強敵だったな」
「続けて戦闘になると辛いかもね」
　ユストと翔子がそう言葉を交わし、彼等はまた迷宮を歩みだした。

　軽い疲れを滲ませながらもしばし、いやかなり進み、迷宮の地図も予定外のサイズになりだしたところでそれが起こった。
「……今の、何です？」
「揺れましたわね……」
　螢とシアが顔を見合わせる。一度起きた振動は、徐々に大きく、強くなってきている。
「地震とか、ですかね」
「あ、あの。もしかしたら、なんですけど」
　訝し気に言うメンバーの中で、紫睡が一際大きな声を出す。
「その、術者が居なくなったのでは、ないかと」
「……ああ」
「なるほどなー」
　状況としてはあり得る話。『島を覆う植物迷宮』という巨大な異常が、主を失って自然に戻ろうとしているのならば。
「アリアドネの糸ならまだ追えますが……」
「時間がなさそうだね」
　おそらくこのまま待っていれば崩れ去る。巻き込まれる前に脱出する必要があるだろう。
「これは『死んでいる』みたいだな、今なら壊せるぞ！」
　壁を探っていたユストが声を上げる。スーパーＧＰＳ、迷宮の地図と淡路島の地図。じっくり見ている暇はないが、これまでの成果で大体の道筋は見えていた。
「急いで海岸まで行きましょう！」
　ロゼの言葉を皮切りに、一同は一直線に海岸に向けて走り出した。

　紫睡の轟竜砲、アリシアのグラインドファイア、そしてユストのアンチアレスの星腿鞭。要所の壁をぶち抜きつつ、崩れ行く迷宮をケルベロス達は駆け抜ける。
「おっと――！？」
　だが脱出は目前といったところで、目の前の通路が限界を迎え、巨大な裂け目が生まれてしまう。
「せんせい、こっちへ！」
　幸いと言うべきか、このチームは飛べる者がほとんどである。翔子をシア達が支え、螢を――。
「あー……」
「えっ」
「良いか―、今から見るものはすぐ忘れるんだぞー？」
　何やら一瞬の躊躇があった後、ディーが仲間達から一歩遅れて『羽根』を広げ、螢をそこから運び出した。

「終わった……ということでしょうか」
　砂浜に着地し、紫睡が後ろを振り返る。恐らくは、どこか別のチームがバルドルを撃破し、召喚の儀を阻止する事に成功したのだろう。
「良かったです、これで――」
　愛しい者達に、ロゼが思いを馳せる。これで、きっと多くの物を守れたのだ。
　彼等のチームは結果として大本には至れなかったが、だからと言って無意味な旅路だったわけではない。これは、二つの迷宮に乗り込んだ皆で勝ち取った勝利なのだから。

　じきに、迎えも来るだろう。次の戦いまでは、せめて一時の休息を。

作者：つじ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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