光明神域攻略戦～止めろ！光が導く世界蛇

■リプレイ

●植物に覆われた島
　ケルベロスたちが淡路島北側の一角に上陸すると、そこは植物の支配する場所だった。
「これはまた大規模な事を仕掛けてきましたね。でもまぁ大丈夫！　なんとかなりますよ！」
　明るい声を出したのは山田・ビート（コスプレ刀剣士・e05625）だ。
　かつては暗い性格だった彼だからこそ、明るくふるまうことの大切さを知っている。
「美しい淡路島をよくもまぁ……好き勝手に弄ってくれましたね……それ相応の罰を与えに行きましょうか」
　フィーユ・アルプトラオム（悪夢の少女・e27101）は植物に覆われた島を見回す。
　この島のどこかに、攻性植物に寄生された神がいるのだ。
　ケルベロスたちはまず妙見山を目指し、そこから探索を始めるつもりでいた。
「カンギとか言ったな……。植装者……撫子達、一連の攻性植物事件の黒幕……ヤツに辿り着く為にも、確実に企みは潰す……っ！」
　螺堂・セイヤ（螺旋竜・e05343）の声には隠しきれない怒りがこもっていた。
（「撫子さんの仇……必ず討ちましょう」）
　彼の背に視線を向けて、エリオット・アガートラム（若枝の騎士・e22850）は心の中で誓う。声に出さないのはセイヤの心中をおもんばかってのことだろう。
「カンギ、というのが何者かは分かりませんが。攻性植物に好き勝手させるわけにはいきませんね」
　川北・ハリ（風穿葛・e31689）は人形のような無表情のまま、セイヤの言葉に頷く。
　彼になにがあったか、全員が知っているわけではない。だがしかし、先日まで起こっていた事件について調べていれば、多少は予想がつく者もいただろう。
　いずれカンギ本人にたどり着くためにも、ここで敗北するわけにはいかない。
　出発の前に、ケルベロスたちは探索のために準備してきた装備を再確認し始める。
「光明神バルドル、その野望打ち砕かせていただきますわ！」
　漆黒の薔薇を咲かせたリーゼロッテ・アンジェリカ（漆黒の黒薔薇天使・e04567）は、普段は一部しか広げない２対４枚の羽根と地図を広げた。
　従者であるテレビウムのたまは、呆れた様子を見せつつも隣に立っている。
　地図はもちろん、本来あるべき淡路島の地図だ。もっともこのチームが探索を始めようとしているのは山岳部なのでそれほど詳しいものではない。
「そうだね。ミドガルズオルムの召喚、絶対に止めないと。攻性植物の思い通りにはさせないんだから！」
　エメラルドグリーンの髪を持つシャドウエルフの少女も、リーゼロッテと同じように言葉に力を込めた。
　まだまだ子供っぽい佐竹・灯子（餅とエルフ・e29774）は、持ってきた装備の確認を終えると、仲間たちより少し先に歩き始めた。
　他のケルベロスたちも、灯子を追って歩き出す。
「ミドガルズオルムへの脅威より……神を殺す、そのことに興奮を覚える。……不謹慎かもしれないけど」
　ピンク色の髪をした魔女が、小さな声で呟いた。
　いつも通り感情の読みにくい表情をしたノーザンライト・ゴーストセイン（ヤンデレ魔女・e05320）の隣に、フィーユが並ぶ。
「そう……不謹慎かもしれませんわね。けど、ノーンらしくていいんじゃないかしら？」
「……ありがと、フィー」
　言葉を交わしつつケルベロスたちは淡路島の迷宮へと入っていった。

●植物迷宮を進め
　ほどなく、ケルベロスたちは妙見山を登っていた。
　……少なくとも、地図上は。
　山登りと言っても、足元は結局植物迷宮の床だ。登り方も、斜面を行くこともあれば会談になっていることもあり、さらには蔦を使って移動する場所もある。
「私の黒魔術によれば、このあたりが頂上のはずよ」
「そうですね。山肌も見えませんが、僕の地図でもそうなっています」
　リーゼロッテの言葉に、エリオットが応じる。
「疑ってはいないけど、上も下も植物しか見えないと意味が薄く感じてしまうわね」
　フィーユが周囲を見渡す。
　セイヤはスマホのアプリでここまで描いてきた地図を見返す。
「地下に新たに作られた空間がある可能性は考えていたが……それどころじゃないな。淡路島を覆いつくして、さらに多層構造になっている」
　現在いる場所は、妙見山上空で果たして何層目に当たるのか。
　セイヤの予想通り地下や建物内の空間にも迷宮が展開している可能性すらある。
　わかっているのはここが地図上では山頂付近に当たるということだけだ。
「淡路島って広いねえ……」
　灯子が息を吐いた。
「他の班と連絡できたらよかったけど、やっぱり無理そう……どうする？　予定通り、常隆寺付近から平和観音像を目指す？」
　念のためＳＮＳが使えないか試していたノーザンライトが仲間を見回す。
　基地局か電波か、原因か不明だが迷宮内で携帯端末は使えないようだ。もっとも、ここがデウスエクスの支配する空間である以上驚くにはあたらない。
「予定通り行きましょう。見えないとしても元々あった建物が無意味とは限りませんし、探索には目安が必要です」
　ビートの発言に仲間が頷いた。
「妖精さんを呼び出してこれまで通ったルートをわかりやすくまとめてもらう。その上で、まだ探索していないルートを通って移動しよう」
　セイヤが情報の妖精さんを呼び出している間に、ハリは黙って周囲を警戒していた。
　今のところ、まだカンギ戦士団は姿を見せていない。
　常隆寺を――地図上では常隆寺であるはずの場所を越えて、ケルベロスたちは探索を継続していた。
　灯子は用意してきたリボンを、壁を構成している枝の１つに結び付ける。
「目印のリボン、足りるかな。この迷路、永遠に続いてるような気がする……」
　分かれ道や行き止まりなどで、一度来たことがわかるようにリボンを結んでいるのだ。
　もちろん迷路に対抗するために目印をつけておくのは有効な方法だ。もっとも、数えきれない分かれ道に対して、必ずしも効率がいいとは言えない。
「でも、こんな迷宮に私は負けないよ！」
　まだまだ未熟なところもある灯子だが、負けるのは好きではない。
「その意気です。きつい状況ですが、笑顔で進みましょう！」
　ビートが灯子の肩を叩く。
　再び身を隠す気流をまとうと、灯子は仲間たちから先行する。
　それからさほど時間がたたないうちのことだった。
　ハリは曲がり角の先で、何者かが植物を踏む音を聞きとがめる。
「なにかいます。気をつけてください」
　巫術によって強化した愛用のリボルバーを前方に向ける。
　先行していた灯子が、縛霊手の拳を握った。他のケルベロスたちも武器を構え、ノーザンライトとフィーユがプリンセスモードに変身する。
　果たして、曲がった先には１人の少女がいた。
　迷宮内には不釣り合いなフリルのついたピンクのブラウスとスカート。球体関節の腕には小さなクマのぬいぐるみを抱えている。
「来タわネ。カンギ様に逆ラう悪イ人たチ」
　青いリボンでピンクの髪を変形ツインテールにまとめている彼女は、ダモクレスだ。
「……リーセロット」
　リーゼロッテは思わず呟いていた。
　彼女にとって、そのダモクレスは見知った相手だったからだ。
「ダれ？　あなタなンテ知らナイ。わたシはカンギ様ともっト遊ブの」
　ダモクレスの少女はケルベロスたちへと無造作に歩み寄ってくる。
「知り合いですか？」
「ええ。あの子は……捨てられた人形よ。少なくとも私はそう思ってる」
　ビートの問いにリーゼロッテは答えた。
「ねエ、早ク死んデ。そうしタラ、カンギ様はたくサん遊んでくレル」
「……貴方は覚えていようがいまいがどちらでもいいわ。私が気まぐれに捨てたモノ。私の手でその始末はつけたいのよ……ごめんなさいね、リーセロット」
　球体関節の腕が回転をし始める。
　襲いかかってくるリーセロットの腕を、割り込んだエリオットが体で受け止めた。

●人形は踊る
　回転する腕に傷つけられて、エリオットの体から血が吹き出した。
　だが、彼は痛みをこらえてケルベロスチェインを操る。
　ノーザンライトがゲシュタルトグレイブに雷をまとわせた。
「気分転換には、良い」
　一歩後ろから飛び込むようにして突き出した一撃に、他の仲間たちも追随する。
「凍える風を刃に纏え！　霊刀解放！」
　ビートは切れ味鋭い二振りの刀に、魔神の魔力を宿した。
「申し訳ありませんが先を急いでますので、短期決戦で決めさせてもらいます！」
　全てを凍らせる力を秘めて、薙ぎ払った刃が敵を切り裂く。
　だが、攻撃は切り裂いただけで終わりではない。
　斬撃と共に生まれ出た氷が風に乗って周囲を飛び回り、敵をさらに斬り刻む。
　リーセロットを倒すことが目的ではない。この先の戦いのためにも、早々に敵を片付けなければならないのだ。
　淡路島で再び人々が笑って暮らせるようにするためにも、ビートは最初から全力でダモクレスに攻撃をしかける。
　ナノナノがハートの光線を敵に放つ。
「餅子ナイス！それじゃ私もいくよ。……雷の、おまじない」
　サーヴァントに合わせて、灯子も電気石の力を込めた符を飛ばした。
「撃たれたいなら、仕方ありませんね」
　しびれている敵に、ハリが淡緑色の魔力弾も叩き込む。
　動きを鈍らされながらもダモクレスの攻撃は脅威だった。
　対峙しているダモクレスはバルドルの前座などではない。１体でケルベロス８人と渡り合う強敵なのだ。
　クマのぬいぐるみに現れた銃口から、嵐のような弾丸が中衛を薙ぎ払う。
　体中から血を流しながらも、ノーザンライトが舞うような動きで連撃を叩き込み、それと共に月の魔力を流し込んで敵の不調を増幅する。
　フィーユは血まみれになっている恋人の姿を見て、自らの腕を傷つける。
「ノーン、しっかりして！　私の薔薇よ咲き誇りなさい！」
　魔力を込めた血を振りまくと、真紅の薔薇へと変化する。優しい香りが傷ついた仲間たちを治癒する。
　けれどもこの薔薇には少しばかり副作用があった。
「フィー……えっちなことは……うくっ」
「ノーン目を覚ましなさい！　外ですわよ此処は！！」
　薔薇は至福の幻影で相手を虜にしてしまうのだ。
　なにを考えているかわからないタイプであるノーザンライトとハリであったが、少なくともその一方は薔薇の影響を受けている。
　むしろ傷への心配以上に心配そうな声を出して、フィーユは恋人を正気づかせる。
　今は面白空間に捕らわれていい状況ではないのだ。
　リーセロットの攻撃は、その後も留まることなくケルベロスたちを傷つけていった。
　エリオットはたまや餅子と共に仲間を守り、リーゼロットやフィーユが受けた傷から回復して戦線を支える。
「しぶとイのネ。でモ、カンギ様のために負けルわけニハいかないノ」
　激しく回転し、引き裂こうとする人形の腕。オーラをまとった腕で、エリオットはそれを受け止めた。
「あなたは……カンギに感謝しているのですね」
「ええ、カンギ様は私ニいつまデモ遊んデいいと言っテクれタ。私はカンギ様のタめに、ずっトズッと遊ブの」
　青い瞳を伏せる。
　おそらくはこれまでの事件も、今回の召還も、攻性植物の大規模侵略計画の足がかりなのだろう。カンギはそのために彼女たちを手駒にしている。
（「ですが、宿主の心を壊し利用するだけのおぞましい行為が、救済や慈悲などであるはずがない」）
　ライトニングロッドをセイヤに向ける。
「僕は、こんな欺瞞と非道を、絶対に許さない。セイヤさん、お願いします！」
　電撃を飛ばして生命力を賦活し、強化する。
「ああそうだ！　お前の背後にいる奴に思い知らせてやる！」
　怒りの叫びを放つと、漆黒のオーラをまとったセイヤが拳を固めた。突進はエリオットの電撃でさらに加速され、ダモクレスの体を貫く。
　漆黒の龍牙に喰われても、敵は動きを止めなかった。
　段差になった植物の上で淡々と狙い撃つハリの魔力弾が、ダモクレスの服を引き裂く。
　引き裂かれた胸元で硬質な肌が開いて発射口が出現する……だが、一瞬放電が敵の体中を走って、動きが止まった。
　灯子が与えた電気の枷が攻撃の機会を奪ったのだ。
「ノーン合わせなさい！　撃ちますわよ！」
　ノーザンライトはフィーユに呼びかけられ、彼女の手を取った。
　薔薇と銀糸で彩られた魔女の姫装が、フィーユの身に着けているドレスと重なって迷宮の中であでやかにひるがえる。
　壊れかけのダモクレスは、魔女の目に玩具のように映った。
　はたから見れば、子供が飽きた玩具に向けるのと同じ目つきに見えただろう。
　２体の竜がほとんど同時に出現し、幻炎が焼きつくす。
　リーセロットはまだ立っていた。
「とどめは譲ってあげる」
「感謝しますわ。ここで因縁を終わりに！」
　妖精弓を引き絞りながら、リーゼロッテが２人の攻撃に続いた。
「あなたを捨てて得た暗黒の力を見せてあげる。感謝なさい、我が矢は貴方を死という黒薔薇の森へとお招きする招待状。さあ案内してあげますわ！」
　放たれた矢がまるで茨のように変化し、死に至らしめる茨の棘がダモクレスを貫く。
　咲き誇る黒薔薇はリーゼロッテの意思で癒しを与える花弁へと変化させることもできるが、彼女はそれをしなかった。
「カンギ、様……」
　そして、人形は最期まで、彼女の名を呼ぶことはなかった。

●砕け散る迷宮
　動かなくなったダモクレスの前で、ケルベロスたちは手早く手当てをする。
「……知り合いだったんだよね。お疲れさま」
「この子はもうカンギの物になっていましたわ。私はただ、因縁を終わらせただけ。拾われたことが幸せだったかどうかはわからないけれど……」
　灯子の言葉に、リーゼロッテは首を横に振った。
「幸せだったはずがありません。たとえ、本人がどう思っていたとしても、です」
　エリオットがはっきりとした声で否定する。
「リーセロットが来た道をたどってみましょう。迷宮はまだまだ続くでしょうが、少なくともそのうちどれかがバルドルにつながっているはずです」
「ああ……まだまだ倒さなければならない相手がいる」
　ビートの意見にセイヤが頷いた。
　ケルベロスたちは再び探索を続ける。
　けれど、彼らがバルドルを見つける前に、迷宮が鳴動し始めた。
「迷宮が崩れて始めています。誰かがバルドルを見つけて倒したみたいですね」
　最初に気づいたのは壁や天井の様子をうかがっていたハリだった。
「そう……残念。できれば、神殺しを経験してみたかった」
「仕方ないですわ。それより、早く脱出しましょう。崩れる迷宮のせいでノーンが傷つくなんて耐えられませんもの」
　だが、あくまで淡々としたノーザンライトの言葉から気落ちしている様子を感じ取ったのは、恋人であるフィーユだけだった。
　自分たちの手で達成できなかったことを残念に思う気持ちは皆あっただろう。
　とはいえ戦いはこれで終わりではない。
　ミドガルズオルム召喚を防がれた敵が次になにをしてくるか……ケルベロスたちは次なる戦いに備えるべく、来た道を戻り始めた。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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