光明神域攻略戦～無敵植物の召喚を止めろ！

■リプレイ

●植物迷宮
「迷宮探索……ちょっと楽しそうだけど、そうも言ってられないね」
　用意して来た探索アイテムを確認しながら、相棒のウイングキャット『蓬莱』に語りかけるのは、円谷・円（デッドリバイバル・e07301）。
「想定の範囲内だったが、通信機の電波は阻害されるか……」
　通信機の電源を切りながら、雪村・達也（漆黒纏う緋色の炎剣・e15316）が呟く。
「アイズフォンも使用出来ないとなると、他チームへマップを送るのも無理ですね」
　他チームとの情報共有が難しいと言うのを再認識し、玖々乱・儚（もしらばの時と姿・e00265）は、マップを開きながら苦い顔をする。
「ここまで大きい迷宮とはの……。一番近い班でも、この迷宮の中では声を届けるのは無理そうじゃな」
　植物迷宮の床に『Ｙ』の文字を残しながら、端境・括（鎮守の二丁拳銃・e07288）も言う。
「これが『神』と呼ばれる方々の力……。それでも、私達の希望を閉ざすと言うのならば、退くわけにはいきません」
　ランプで前方を照らし、様子を窺いながら、シャルローネ・オーテンロッゼ（訪れし暖かき季節・e21876）が決意を込めてそう口にする。
　雄大のヘリオンで琵琶湖へ辿り着いたケルベロス達は、琵琶湖南東から植物迷宮に侵入していた。
　琵琶湖を覆った植物迷宮は、ケルベロス達が想像していた以上に広く、上下の階層もかなり多い。
　事実、一番近い探索チームでも侵入口はかなり遠く、迷宮内部でお互いのチームを認識出来そうには無かった。
「とにかく、進めるだけ前に進んで、探索するしかないな。進んでる間に他チームと交差する事もあるかもしれない。マーキングはしておいて損は無いだろう」
　１０フィートの棒で床を叩きながら、天谷・砂太郎（壊して治すお医者さん・e00661）が、先陣を切って進んでいく。
「それにしても、まさか琵琶湖でかくれんぼするとは思わなかったな。さて、命懸けのかくれんぼを始めるとするか……」
　周囲を警戒しながら、ジョー・ブラウン（ウェアライダーの降魔拳士・e20179）も砂太郎の後を続く。
「階層毎のマップを作りながら進まなければ、来た道が分からなくなりますね。儚さん、スーパーＧＰＳは大丈夫ですか？」
　中邑・めぐみ（ときめき螺旋ガール・e04566）がそう聞けば、儚は静かに頷く。
「大丈夫そうです。自分達の位置情報は表示出来ます。ナンナの場所までは分かりませんが、迷宮突破とまいりましょうか。いくよ。シャマ。……さてさて鬼が出るか蛇が出るか」
　儚が振り返れば、相棒のシャーマンズゴーストも静かに頷く。
　ケルベロス達は、慎重に自分達の位置を確認しながら、植物迷宮を進んで行く。

●カンギ戦士団『友野愛』
　植物迷宮に侵入して５０分が経過していた。
　その間、デウスエクスの攻撃等は無かったが、植物迷宮の複雑さがケルベロス達を悩ませていた。
　なだらかに下へと道が続いたかと思えば、上へと抜ける通路がいきなり現れたりと、正確にマッピングをし、マーキングをしていなければ、同じ道を繰り返し通る事になっていたかもしれない。
　上下の階層も自分達が通った道だけでも１０を超えている。
　他のチームが通った後に残されているであろうマーキングも、いまだに見つかっていない。
　それだけでも、この植物迷宮の異常な広さが窺えた。
「こちらの通路は行き止まりじゃな」
　迷宮の上部に現れた空洞を高い跳躍力を活かして確認していた括が仲間達に伝える。
「長丁場になりそうだな。ナンナが撃ち倒されれば、植物迷宮の崩壊が始まる筈だから、他のチームもまだナンナの元に辿り着いていないんだろう……」
　そう言う達也は、心の中で他のチームを気にかける。
（「誰かがナンナの元に辿り着ければそれで俺達の勝ちだ……自分はその為の礎で構わない」）
「一度、地図と情報を整理しましょう。儚さん、地図を貸して下さいますか？」
　シャルローネはそう言って、儚から地図を借りると情報の妖精を呼び出し、マップを整理していく。
「琵琶湖の中心へと近づいているけど、ナンナが中心に居たとしても階層が違えば、気付くことは出来ないのかな？」
　円が気になったことを口にすれば、仲間達も渋い顔になる。
「ナンナ程のデウスエクスが同じ座標に居れば、感じ取ることが出来るかもしれません。その場合は、天井や床の破壊をしてでもナンナに辿り着きましょう」
　植物迷宮自体の自爆ダメージがあろうとも、それでナンナに辿り着くことが出来るのであれば、そこに迷いは無いと、めぐみは言う。
　その時だった……。
「心配しなくても、あなた達がナンナ様の元に辿り着くことはありません。何故なら、あなた達はここで私に殺されるのですから」
　淑やかでありながら挑戦的な女性の声が、植物迷宮に響いた。
　その声は、めぐみがよく知るもの……。
　迷宮の先の通路から姿を現したのは、忍者装束に身を包んだ黒髪の小柄な女性。
「……まさか、愛が出てくるとは思ってもいませんでしたが、いつからカンギの部下になったんですか？」
　めぐみに愛と呼ばれた女性、螺旋忍軍『友野愛』は、少しだけ目を細める。
「私もあなたが居るとは思っていなかったわ、めぐみ。私はカンギ様と出会って、生まれ変わったの。あの方に忠義を尽くし、あの方の望みを叶えることが私の喜び。ナンナ様をお守りするのが私の役目」
　そう言う愛にめぐみは、何処と無く違和感を感じる。
　修行を共にした親友の愛は、こんな雰囲気の持ち主だっただろうか……。
「……愛。こんな形で再会するとは思ってもなかったわ。ただ、今はこの先にいるナンナに用があるの。さすがにこの儀式を成功させるわけにはいかないから。……だから、あなたには悪いけど、早々に立ち去ってもらうわ！」
　言葉と共にめぐみは、螺旋の力を氷結の力に変えて愛に放つ。
　それを軽々と避けると、愛もめぐみに向かって螺旋のエネルギーを撃ち出す。
　だが、その螺旋の力は咄嗟に飛び出したジョーが身体全体で受け止める。
「悪いが先を急いでるんでな。通してもらうぜ！」
　攻撃を受けてもなお、ジョーは前に進むと流星の如き蹴りを愛に打ち込む。
「さてさて、大ボスさんの前の中ボスですか。楽はさせていただけなそうだね」
　言いつつ儚が雷の障壁を構築すれば、相棒のシャマはジョーに向かって祈りを捧げる。
「新しい得物の出番だな。迸れ、雷！」
　砂太郎は叫ぶとまだ使い慣れないロッドを振るう。
「蓬莱、前へ出て。私は金の果実の力を解放するよ」
　円の指示で蓬莱が前へと羽ばたいて行くと、円は緑の蔓から黄金の林檎を生み出し、仲間へと輝くグラビティを降り注がせる。
「めぐみさんのお知り合いでも、カンギの仲間だと言うなら……ごめんなさい、意地でも退いて頂きます」
『-白鎌- リインカーネーション』を手にすると、シャルローネは力の限り、愛に向かって投げつける。
　愛の衣服が破れる中、小柄な括の身体が素早く動いていた。
「蘆原に害なすとあらば是非もなし。通してもらうのじゃ！」
　愛の顎を狙う様に括の右足が蹴り上がれば、反射的に愛は後ろに避けるが、それを計った様にめぐみが掌に溜めた螺旋のエネルギーを愛の鳩尾に打ちすえる。
「めぐみ……。関係無い……。カンギ様！」
　叫ぶと愛は、拳を突き出し緑の蔓草でめぐみを捕える。
「攻性植物ですって！　愛！　どう言う事ですか！？」
　めぐみの知る限り、愛の戦闘手段は螺旋忍術と鍛え上げた体術の筈だ。
「『オニキス』！　オウガ粒子散布だ！」
　達也が、身に纏う黒曜石の輝きを持つオウガメタルに言葉をかければ、光の粒子が仲間達の超感覚を覚醒させる。
「マリア！　めぐみを援護しろ！　あいつはただの螺旋忍軍じゃねえ！」
　ジョーが叫ぶと、相棒であるビハインドのマリアが愛に向かって、束縛のグラビティを放つ。
「……愛、わたくしの知る愛では……もうないのですね」
　静かに呟くと、めぐみは眼鏡の奥の目を切なげに細めた。

●侵略寄生
「ひとふたみぃよぉいつむぅなな。七生心に報いて根国の縁をひとくくり。さて、おぬしの御魂は此方側かの彼方側かの？」
　言霊と共に括のリボルバー銃から放たれた６発の弾丸は、御業を卸すと６体の分身となって、括と共に一斉にリボルバー銃の引鉄を引いた。
　その銃弾を受けても、愛は動きを止めず、めぐみへと飛び蹴りを決める。
「めぐみ……私が今、回復するね」
　円の身体から桃色の霞が溢れれば、めぐみの身体を包み痛みを和らげていく。
「そんなに無敵植物とやらを呼び出したいんですかねぇ。召喚されると厄介なものは地球に来る前にお帰り頂きましょう。そうですよね、……めぐみさん。気をつけよ、怠惰の夢に飲まれぬように」
　愛の必死な形相を見ながら呟くと、儚はめぐみに向けてヒール用ナノマシーンを浴びせる。
　愛との戦闘開始から９分が経過していた。
　回復と防御、そして攻撃とバランスよく立ち回っているケルベロス達が有利に戦闘を進めていると言っていい状況になっていた。
　だが愛は、螺旋忍軍としての術、めぐみと研鑽を共にし磨いた体術以外に、攻性植物も器用に戦闘パターンに組み込むことで、完全に不利になる状況を回避していた。
　ただ、愛が攻性植物の力を振るう度に、愛の身体を覆う緑の蔓が徐々に全身へと広がっているのが、ケルベロス達の眼には不気味に映った。
「本当に自分の意思だけで……戦っているのか？」
　愛の傷口にナイフを突き立てながら達也が問うが、愛は笑みを浮かべるだけで答えない。
「もしかして……これが、侵略寄生……」
　シャルローネが頭をよぎった言葉を口にすれば、一瞬だけ愛の唇の端が上がる。
「めぐみさん……彼女の為に、あなたの為に私も全力で彼女を止めます」
　めぐみと愛を交互に見て呟くと、シャルローネはとんがり帽子を被った３体の小人を召喚する。
『キキキ……。今日ノ遊ビ相手ハ、オマエ、カァ？』
　小人達はそう楽しそうに言うと、それぞれ手にした武器で愛を蹂躙しようと襲いかかる。
「邪魔をするな！　カンギ様の！　ユグドラシルの為に負けられないのよ！」　
　小人達を振り払いながら、愛が絶叫する。
「ジョー！　俺が斬り込む。続けぇ！　当たると痛てぇぞオラァ！」
　砂太郎は、あらん限りの破壊の力を『蒼晶華ハルワタート』に込めると、一気に振り下ろし、返す刀でもう一度、愛を下から斬り上げる。
「粉々に消し飛びやがれ！」
　砂太郎が地面を蹴って射線を開いた瞬間、ジョーはその獣人のバネを宿した足にグラビティを注ぎ、愛に飛び蹴りを喰らわせる。
「めぐみ！　お前が終わらせてやれ！」
　ジョーの叫ぶ様な声を、めぐみは何処か冷静な気持ちで聞いていた。
（「…………愛」）
　ケルベロスとなった今でも、めぐみは愛と共に修行した日々を忘れたことは無い。
　だからこそ、今の彼女を止めなければいけないと、めぐみは心静かにする。
「あなたはここまでよく闘いましたわ。でも、もうおしまいです。これが私のフィニッシュホールド。さあ、安らかにお眠りなさい」
　朗々とそう宣言すると、めぐみは全身をエビ反らせると、膝に全てのグラビティを込める。
（「わたくしの、プロレスラー『中邑めぐみ』の必殺のフィニッシュホールドですよ……愛。……さようなら」）
　めぐみの全てを込めた膝蹴りが愛の上半身に完全な形で決まれば、愛は遂に崩れ落ちる。
「……愛」
　思わずめぐみの口から零れる友の名前。
「…………めぐみ」
　めぐみの言葉に答える様に、倒れ伏した愛がめぐみの名前を呼ぶ。
「カンギ様……」
　愛がそう呟くと、愛の周りの植物達が急成長し、愛の身体を覆い、迷宮の一部にするかの様に飲み込んでいく。
　その異様な光景にケルベロス達は動けず、息を飲む。
　そして、植物の動きが止んだ後には、愛の黒髪を縛っていた結い紐だけが残っていた……。

●崩壊……そして脱出
　ケルベロス達は、それぞれに傷をヒールすると、植物迷宮の探索を再開した。
「……探索を開始して、約３時間経過しているな。……ナンナの召喚儀式が完成するまでのリミットは、あとどれくらいなんだ……」
　呟く達也の表情にも焦りの色が表れる。
　これだけ探索しているにも関わらず、ナンナを見つけるどころか、他のチームと遭遇する事も無いのだ。
　広大で複雑な植物迷宮で時間だけが過ぎて行く。
　だが、それは前触れ無く起こった。
「植物迷宮が崩壊していくのじゃ！」
　思わず括が声をあげる。
「何処かのチームがナンナを撃破したんだな」
　ジョーが確認する様にその事実を言葉にする。
「崩壊する迷宮から脱出ってのも、冒険らしくていいかな……」
　悠長に言う儚だったが、シャマがそれどころではないと首を振る。
「儚さん。脱出のルートを地図上で確認しましょう」
　シャルローネが情報の妖精を再び呼び出し、自分達の位置情報と脱出経路を要約する。
「もしかして……」
　試しにと、砂太郎は崩壊を始めた植物迷宮の壁に斬りかかかる。
　崩れゆく植物の壁は自爆する事無く、空間を開ける。
「爆発、しない、ね」
「でしたら、グラビティで破壊して、最短距離で脱出しましょう」
　円の言葉を聞くと、めぐみはすぐさまオーラの一撃を壁に向けて放つ。
「儚、方角の指示をよろしく頼むのじゃ。ありったけのグラビティでわしらが道を開くのじゃ」
「ここは随分、下の階層みたいだな。上を目指して行かないと、琵琶湖に落ちるぜ」
　括と達也も言いながら、道を切り開く為にグラビティを放つ。
「皆さん、こちらです。このまま駆け抜けましょう。私が先導します」
　走りだした儚の後に続くケルベロス達。
「他のチームの様子がやっと分かってきたな。今更だけどな」
　殿を行くジョーが言う様に、植物迷宮が崩壊を始めたことにより、他のチームの姿が遠くにだが肉眼で確認出来る。
　どのチームも、迷宮を破壊しながら脱出を図っているようだ。
「ナンナが倒されたなら、『ミドガルズオルム』の召喚も、されなかったってこと、だよね？」
「そうみたいだな」
　円が問えば、砂太郎が短く答える。
「バルドル側がどうなったかは分かりませんが、こちらは阻止できたと思って間違いないでしょう」
「バルドルだけでは、召喚出来ない筈じゃ。カンギの策略は防げたと思っていいのじゃ」
　シャルローネの言葉に続けるように、括が言う。
「空が見えて来ました。このまま、走り抜けましょう」
　先頭を行く儚の言葉に、仲間達は駆ける足を一層速める。
　殿を務めるジョーは、めぐみが一瞬だけ来た方向を振り返った事に気付いたが、何も言葉はかけなかった。
　めぐみが何を想ったのか何となくだが分かったからだ。
（「……愛。わたくしは、ケルベロスとしてカンギと戦います。……おやすみなさい」）
　ケルベロス達は、琵琶湖に消えゆく植物迷宮を駆け抜けて行くのだった……。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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