光明神域攻略戦~阻止せよ樹蛇召喚

作者:狐路ユッカ

●淡路島上空
「ここが淡路島、ナンナが担当する琵琶湖と対となる美しい島ですね。さっそく、私の『超召喚能力』を見せるとしましょう」
 光明神バルドルが、手にした頭骨型の魔具を掲げると、淡路島全土を覆う植物の迷宮が生み出されていく。
 それを満足そうに見やったバルドルは、彼の護衛として付き従っていた、カンギ戦士団の面々に信頼の視線を向けると、軽く一礼する。
「では、私はこの中で、『ミドガルズオルム』の召喚を行います。皆さんには、私の身を守る警護をお願いしますね」
 そう言われた、カンギ戦士団の戦士達……ダモクレス、エインヘリアル、シャイターン、竜牙兵、ドラグナー、ドラゴンといった多種多様なデウスエクス達が、その信頼に応えるように胸を叩いた。
「任せて貰おう。我らカンギ戦士団、生まれも種族も違えども、確かな絆があるのだから」
 光明神バルドルが迷宮に入ると、それに続いて、カンギ戦士団の戦士たちも迷宮へと歩を進める。
 全ては、彼らの主たるカンギの為に。

 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は慌ただしく資料を捲った。
「パッチワークの魔女を支配下に置いてハロウィン攻性植物事件を引き起こした『カンギ』の軍勢によって、『淡路島』と『琵琶湖』が同時に植物に覆われる事件が発生したよ。彼らは無敵の樹蛇『ミドガルズオルム』を召喚しようとしてる……!」
 ミドガルズオルムは、どのような方法でも破壊されないという特性を持つ。そのため、そいつを地球上で召喚されたなら、攻性植物のゲートを破壊して侵略を排除する事は極めて困難になると祈里は眉を顰めた。
「今、淡路島と琵琶湖は生い茂った植物で迷宮化してるんだ。その中に『侵略寄生されたアスガルド神』が置かれて、その神力でこの大規模術式を展開しているんだって」
 迷宮には、それを守護するものがいる。それは、『カンギ』の配下の精鋭軍だ。
「精鋭軍は『これまでの幾多の戦いで、カンギが打ち負かし、配下に加えたデウスエクス』だよ。『カンギ』とは信頼と友情を築いていて、決して裏切ることは無い……不屈の戦士団と言えるね」
 祈里は息を整えると、次の説明へ移る。
「それで、僕からお願いするのは淡路島への探索なんだけれど、さっきも言った通り今は植物迷宮になっちゃってるんだ。破壊して進むという事も出来なくはないけど、その壁や床は破壊されたら自爆して皆に危害を加える。だから、ある程度は迷宮に沿って移動しないとだね」
 少し考え込むと、祈里は続けた。
「迷宮はとても広いんだ。その何処にアスガルド神がいるかはわからない。だから、どのあたりを探索するのか……チーム毎に地域を手分けするというのも良いかもしれないね」
 が、敵は『迷宮』だけではない。
「迷宮内には『カンギ』に支配され、攻性植物に寄生されたデウスエクスがいて、君たちを攻撃してくるよ。侵入者がいるとわかった時点で彼らは迎撃に出てくるから、一定時間経過したら何処に居ても襲われると思っておいてね」
 ――つまり。
「敵であるデウスエクスを撃破し、迷宮を探索して、この事件を引き起こしているアスガルド神を撃破する事。それが、今回の目的だね」
 淡路島の迷宮にいるアスガルド神『光明神バルドル』の撃破に成功すれば、植物迷宮は崩壊をはじめ、デウスエクス達も撤退する。だから、と祈里は手を合わせた。
「負けるわけには行かないんだ。絶対にミドガルズオルムを召喚させてはいけない。危険な戦いになると思う。でも、信じているよ。祈ってる。皆が無事に帰ってくるように」


参加者
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
西水・祥空(クロームロータス・e01423)
白銀・風音(お昼寝大好きうさぎ・e01669)
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
夜陣・碧人(幼竜の守歌・e05022)
忍足・鈴女(キャットハンター・e07200)
ルチル・ガーフィールド(シャドウエルフの弓使い・e09177)
アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)

■リプレイ


 ケルベロス達が着地地点に選んだのは、淡路島の北に位置する新村の近辺。迷宮の中へと入る草木の入り口を見つけ、早速足を踏み入れた。忍足・鈴女(キャットハンター・e07200)は、スーパーGPSで自分のいる位置が狙った通り、新村の金刀比羅神社のすぐ近くである事を悟る。しかし、迷宮化しているためそこへ一直線に向かうというわけには行かず、草木で阻まれた通路にケルベロス達は迂回を余儀なくされるのであった。
「ミドガルズオルムっていうと北欧神話の怪物でござるか……そんなもん召喚されたら日本くらい丸呑みにされてしまいそうでござるな」
 鈴女の声にアイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)が頷く。
「散々怪しく謎めいた行動してたけど、とうとう大事起こしてくれたわね……」
 隠密気流を展開させながら、アイオーニオンは周囲の壁に怪しいところがないかじっくりと見ながら歩んだ。
「どのような方法でも破壊不能な存在の召喚、でございますか」
 西水・祥空(クロームロータス・e01423)は一呼吸置き、そして断言する。
「無論、阻止です」
 もしもの時の為にと彼が張ったアリアドネの糸が、帰り道を示す。
「こんなにも植物に囲まれているのに……心休まる風景とは言えませんね」
 小さくため息をつき苦笑したのはルチル・ガーフィールド(シャドウエルフの弓使い・e09177)だ。全くだと同意し、コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)は呟いた。
「城ヶ島の時と違い人的被害がなかったのは不幸中の幸いといったところか」
(「……やっぱり」)
 浅川・恭介(ジザニオン・e01367)は、迷宮の内部の植物が明らかに自然のものではないため、隠された森の小路は通用しないと気づいた。白銀・風音(お昼寝大好きうさぎ・e01669)は殿をつとめて隠密気流を流し、耳をぴこぴこさせつつ歩く。不審な影にすぐに気付けるようにと、その赤い瞳は敵を探していた。
「地球上にない森……興味ありますね」
 ぽつりと呟き、最前を歩く夜陣・碧人(幼竜の守歌・e05022)は手鏡に曲がり角の先を映した。――とくに何も無い事を確認し、先へ進む。ポケットの中のスマホは圏外だ。この迷宮内では、声も届かないだろう。他班との連絡を取ることは叶わないが、前もって区域を決めておいたからくまなく探索は出来ると信じ、ケルベロス達は歩む。


「……ハズレでござるな」
 本来の地図であれば新村の金刀比羅神社である場所に到達すると鈴女は手にした地図にバツの印をつけ、首をゆるりと横に振った。地面や壁に傷をつけることも考えたが、爆破の可能性を考えて思いとどまる。すっかり植物迷宮に覆われきっているため、何処に神社があるのかはわからないが、スーパーGPSによればおそらくこのあたりであろう。
「次は伊弉諾神宮、ですね」
「ああ」
 コロッサスの返事を聞くと、碧人はボクスドラゴンのフレアを後ろに従えて、先行する。何にも阻まれていなければ南西の方角に進むだけであったが、やはり迷宮がそれを邪魔する。ケルベロス達はおおよその方角を決め、迷宮に沿って手探りで伊弉諾神宮が迷宮の下に位置する場所を目指した。
 この迷宮に足を踏み入れて、もう一時間ほど経過する頃だろうか……。
「……待って、何か音がするよ」
 ぴこっ、と耳を動かし、風音が足を止めた。前方を歩いていた碧人は、手鏡に謎の影を発見する。
「……ッ! 何かいる!」
 即座に隊に戻り、ケルベロス達は臨戦態勢へと移った。碧人を追ってやってきたのは……。
「ダンッスィイイイング!」
 腰を振り、右手を高く天に突き上げた――竜牙兵。
(「……あー……どっかで見た骨がいるわー」)
 そのハイテンションさに、恭介はうつろな目になってしまう。
「なんか土曜の夜にフィーバーしそうな骸骨君でござるな」
 鈴女は腰を低く落として攻撃の機会を伺いながらぽつりと呟いた。
「貴様らケルベロス達が邪魔をしに来ることはわかっていた。この歌って踊れるカンギの戦士ホネくんが、ここを貴様らの最後のダンスホールにしてくれよう!」
 突き上げた右手の人差し指を、びしりとこちらに向けるホネくん。ざわり、と左肩に纏わりついた攻性植物が蠢いた。碧人は仲間を守るために前衛で妖精伝承を語り始める。
「本日語るは妖精の噺。古今東西よりどりみどり、まずはこの子で始めましょう」
 骨っこ、骨っ子! と現れた妖精たちはホネくんの足に纏わりついて彼の苛立ちを高めていく。
「ぐっぎぎ、何をする!」
 ホネくんは、ひゅ、と攻性植物をけしかけ、碧人へと絡みつかせた。
「こうして出会ったのも何かの縁。もし自信があるならばお前さんのダンスを見てやろう」
 コロッサスは黎明の剣を顕現させながらホネくんへと肉迫する。炎を宿す刀身を抜き放ち、碧人を苛むツタを切り払いながらこう付け足した。
「審査と採点はケルベロス流でやらせてもらうぞ」
 ――戦闘をもってして、と。
 じゅう、と草木の焼けるにおいとともに攻性植物の一部が切り落とされる。ホネくんの次の行動を待たずして、祥空が鉄塊剣を振り降ろした。ざんっ、と小気味いい音を立てて、伸び来たる蔓を切り落とす。
「ねえ、バルドルさんって何処に居ます?」
 オウガメタルから黒光を照射し、恭介は問うた。
「ッ……!?」
「ほら、だいぶ離れちゃったから、確認が必要でしょう?」
「ふん、その手には乗らん!」
「もしかして……忘れちゃった!? あ、ちなみにナンナさんは?」
「くっ……それでオレが口を割ると思ったか!」
 黒光から逃れるように身をよじると、ホネくんはダンスのような身のこなしで高く跳び、そこから捕食形態と化した攻性植物を伸ばす。カンギ戦士団に入る前のホネくんであればうっかり口を滑らせたところだが、さすがはカンギの兵と言ったところか。そこへ滑り込むようにして攻性植物の攻撃を受けながら、Nightingale Pledge、バトルオーラを纏った拳を叩きこんだのは鈴女だ。
「……ッ、だいごろー!」
 呼びかけると、ウイングキャットがホネくんにとびかかり鋭い爪でかきむしる。
「ぐぁっ……」
 堪らず鈴女に肩口に食い込ませた攻性植物を引くと、ホネくんは後方へと跳ぶ。
「……雑多な竜牙兵やクルセイダーズとも違う……なんというか、凄くゆるい雰囲気ね」
(「こんな雰囲気でも他のより強い気配感じるし、油断はしないけど」)
 アイオーニオンは、エアシューズを走らせると高く跳びあがり、流星の煌めきを宿した重たい蹴りを放つ。ガシャ、と音を立ててホネくんの身体が地に叩き付けられた。起き上ろうとするホネくん目がけ、後方から走り寄って同じように飛び蹴りを炸裂させたのはルチル。
「っぶ!」
 がしゃん、またも地に叩き付けられ、ホネくんは唸る。その隙に、風音はみーくんから光り輝くオウガ粒子を放出し、前衛の仲間を包み込んだ。


 激しい攻防戦が続く。アイオーニオンの言うとおり、緩い雰囲気ではあるが、さすがカンギの精鋭だけあった。何度張り倒してもホネくんは決して撤退しようとはしない。ここを通す気は毛頭ないのだ。恭介の声を聞いた安田さんが手にしたバールのようなもので殴り掛かる。がつん、と嫌な音を響かせながらホネくんはその打撃を受け、ホネくんは頭を抱える。何度も過ぎる『不採用』の文字。
「う、うぐおおおおお」
 それがなんなのか、既にカンギの戦士であるホネくんにはわからない。が、何かしらのトラウマとなりその身を苛むのだけは確かだった。
(「今か……!」)
 恭介はエクスカリバールを握り直し、釘を生成する。そして、勢いをつけるとありったけの力を振り絞り、それをフルスイングでホネくんの頭に直撃させた。バリッ、という音と共にホネくんの頭蓋の一部が砕け散る。
「我が地獄を治めし可憐なる乙女達に願い奉る。神討つ力を我に与え賜え……」
 ごう、と祥空の内に秘められた炎が9色に輝いた。その地獄の炎は刃となり、敵に襲い掛かる。がくん、と膝をついたホネくんが、カタカタと笑い始めた。
「……ここで犬死にするオレではない……!」
 ずず、と地に埋め込むはその左手。埋葬形態と化した攻性植物が前衛のケルベロスを襲う。
「あああぁぁっ!」
 悲鳴とホネくんの高笑いが響き渡る。鈴女を庇い、だいごろーが消えた。辛うじて立っていられるが、かなりの打撃を受けたケルベロス達は肩で息をする。それでも、鈴女はふらりと立ち上がり、
「ほーれ、皆。ふぁいとおーでござるよ!」
 影分身 『艶戯』で自分を含めた前衛の仲間たちを癒す。ずりずりと体を引きずるように移動させ、こちらを狙うホネくんに碧人は惨殺ナイフの刀身を向ける。
「させませんよ……」
 めくるめくトラウマ映像が、ホネくんを苦しめる。そのわずかな隙を狙い、コロッサスは素早くホネくんの眼前に躍り出た。そして、
「こちらも退くわけにはいかんのでな」
 降魔真拳をホネくんの胴体に思い切りたたき込む。
「っガ……!」
「骨にも神経通っているのかしら? 斬れば分かるかしらね」
 反撃を許さずにアイオーニオンが氷のメスでホネくんの左腕に斬りかかる。ひやりとした感覚に、ホネくんは身悶えた。それでも、もがくようにして蔓を伸ばして碧人を捕える。
「っ……く」
 蓄積したダメージに、碧人は顔を歪めた。その蔓を斬り払うかのように、ルチルは影鎌弓“水月”を振り降ろす。『虚』の力を纏った鎌は、その傷口から生命力を奪う。
「ぐ、あああああっ」
 痛みにたじろぐホネくん。風音はその隙に碧人に駆け寄り、エネルギー光球をぶつける。互いに消耗が激しい。だが、ここで追い詰めればきっと……。アイオーニオンは自らの傷を顧みもせず、殺神ウイルスをホネくん目がけて投射する。
「いいお薬あげるわ。すぐ楽になるわよ?」
「ッヒ……!」
 これで、ホネくんの自らを癒す能力は頼りないものとなった。
「なかなかのダンスでしたよ」
 ですが、そろそろ終わりです。祥空はそう告げると、地獄の炎を纏わせたライトキング・ハーデースを勢いよくホネくん目がけて振り下ろした。炎がゆらり、桃色に見える。
「うぐ、ああああああっ」
 恭介はトドメとばかりに手のひらから生み出した光の小鳥をホネくんへ向かわせる。触れた瞬間、ホネくんは光に包まれた。
「あ、ああああっ、あああああああ!!」
 断末魔と、切り刻まれる音。
「戦士団に終身雇用になりましたねぇ」
 ぽつり、恭介がそう呟いた時には、ホネくんの姿は無かった。大きな重力をその魂に叩き付けられ、潰えたのである。


「伊弉諾神宮も違う……か」
 向かった先、恐らくここかと思われる場所を地図でみやり、コロッサスは小さくため息をつく。
「できましたら……こういう時ではないときに、二人で来たかったですね……」
 小さく他に聞こえぬよう耳打ちするルチルにコロッサスは、
「……ん、そうだな」
 と短く答え、手を握った。
「次は、岩上神社のあたりですね?」
 祥空は確認までに問う。頷き合い、ケルベロス達は歩みを進めた。碧人は戦闘前と同じく手鏡で曲がり角や階下を確認しながら進む。特に接敵もせず、もうどれほど歩いたろうか。
 歩き疲れ、つかの間の休息を取るケルベロス達。風音はもふりと兔に姿を変え、周囲を見回した。
「今の所、……他に敵はいなさそうだね」
 疲弊したとみられるルチルの膝に乗り、ふわふわと風音は彼女を撫でる。
「疲れた時に甘いもの食べると~気持ちも落ち着きますし、一石二鳥ですよ~♪」
 優しく笑むと、ルチルは風音に甘味を差し出す。
「だんちょ、歩き疲れたでござろう♪」
 鈴女がコロッサスの足をマッサージしようかと提案した時だった。突如として迷宮が激しい揺れを伴い、崩壊し始めたのだ。
「崩れる……!」
 祥空は咄嗟にアリアドネの糸を手繰る。しかし、これで脱出するよりも……。
「破壊しましょう、どこかに向けてグラビティを打てば、早く抜けられるはずです……!」
「……だな」
 コロッサスは頷く。この迷宮が崩れるという事は、どこかで仲間がバルドルを討ちはたしたのであろう。既に反撃する壁も役目を果たさない。崩落に巻き込まれるわけにはいかない、と、ケルベロス達はめいめい外に面していると思われる壁にグラビティを打ち、脱出するのであった。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。