光明神域攻略戦～グリーン・ダイバーズ

■リプレイ

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　滋賀県に浮かぶ日本最大の湖、琵琶湖。
　今、その地は植物生い茂る巨大な迷宮と化していた。
「バルドルってのは神話じゃ、ヤドリギの枝で刺されて死んだんだっけか……攻性植物に寄生支配されるとか……因果なモンだな」
「北欧神話だとヤドリギ以外で傷を負わないのがバルドルで、そのお嫁さんがナンナだけど……デウスエクスだと破壊されないものを呼び出す側になってるんだねー」
　やや憐みの表情を浮かべた滝川・左文字（食肉系男子・e07099）の呟きに、普段とは打って変わって厚着となった峰谷・恵（暴力的発育淫魔少女・e04366）が手にしたスマートフォンを弄りながら、やや呑気な口調で答えを返す。
「アスガルド神……彼らもデウスエクス、なのですよね……」　そして、そんな二人の会話を横に、神の名を冠するデウスエクスの事を同じく思い浮かべたリコリス・セレスティア（凍月花・e03248）が、そっと呟きを漏らす。
　神と聞けば、その存在に手を下す事は、何気に恐れ多い気がする。しかし、人々を守る為には、自らの手を汚さなくてはならないだろう。
　そして、そんな思いを秘めた彼女の呟きが、他のケルベロス達の耳には入る事無く風に乗って消えていく中。
「今回は、琵琶湖東岸より迷宮に侵入。目標は湖中心に浮かぶ竹生島を目指す、という事ですよね？」
「はい、そうですね。必ず迷宮を突破して儀式を阻止しましょう」
　ジド・ケルン（レプリカントの鎧装騎兵・e03409）と、アト・タウィル（静寂に響く音色・e12058）が、互いのアイズフォンの調子を確かめ合いながら、今回の作戦内容を確認し合っていると思えば。
　ひとりだけ浮かない顔をした四方堂・幽梨（ジャージのシェフ剣鬼・e25168）へと、そっと近づいた火乃宮・レミ（火呑み屋・e25751）が、
「ゆりちー、どうかしたのか？」
「いや、どうも今回は、イヤな予感がするな……って」
　固い表情のまま、黙々とアイテムポケットに道具を詰め込んでいく幽梨の肩をぽんと叩くと、にっと笑みを見せてみせる。
「まあ、気楽に……とはいかないけど、儀式なんて潰せばいいだけの話だし、な？」　
「あ、ああ、そうだな……今は、作戦の事だけを考えるよ」
　そんなレミの言葉に幽梨が、少しだけ表情を和らげる中。
「ペイルウイング、ＯＫ……ナイトヴィジョン、ＯＫ……酸素供給、正常……」
　マーク・ナイン（取り残された戦闘マシン・e21176）は、自身の装備の最終チェックを滞りなく進めていく。
「……全システム異常なし。いつでも行けるぞ」
　そして、全ての確認を終えた彼が、仲間達へとそう告げた瞬間……ヘリオンが高度を下げ始めた。

「ここが植物迷宮か……思ったより厄介そうだな」
　そう左文字が呟くのも無理はない。琵琶湖に現れた巨大迷宮は、一見するだけでも途方もなく巨大であり、その構造も複雑だろうと思われたからだ。
「まあ、それは迷宮に入ってみれば、嫌でも分かる事だ」
「そうだな。では行こう」
　ジドとマークの言葉を合図に、ケルベロス達は迷宮へと足を踏み入れる。
　そして、彼らは早々に、この迷宮が厄介極まるものだという事実を思い知らされることになった。
「ある程度は予想していましたが……まさか、ここまで複雑とは……」
　そう口にしたリコリスの言葉通り、迷宮内部は複雑に入り組み、難局極まるものだったのだ。
　様々な植物が絡みあった広さや天井の高さもまちまちな通路は、時には下に抜ける穴、時には上へと上る蔦の崖、はたまた全く違う階層へと連なる坂道となり、ただでさえ巨大な迷宮をより複雑なものに作り上げている。
　しかも、ネットへの接続どころか事前に準備していた通信機器すら使えない。
「……仕方がない、レミのスプレーによる目印、ジドのアリアドネの糸を使って慎重に進んでいこう。幽梨は……マッピングを頼む」
　マークの方針にケルベロス達は同意すると、迷宮の探索を進めていった。

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　迷宮内を風が吹き抜け、周囲の枝葉をざわざわと蠢かせる。
　そんな、ほの暗く不気味なまでの静寂に包まれた迷宮を、ケルベロス達は慎重に進んでいく。
「静かですね……他の班の方達は、どの辺りにいるのでしょうか」
「大丈夫、きっとみんな、ボクたちと一緒で、どんどん奥へ進んでるよ」
　迷宮内部へと進む中、蔦の崖を登り切ったリコリスがぽつりと呟くと、先行して進む左文字とレミの方を見ていた恵が振り向き、にっこりと微笑んだ。
　ここまでケルベロス達は、既に幾度もの分かれ道に塗料やアリアドネの糸を用いて目印をつけながら、行き止まりにぶつかっては引き返して、幽梨が作製した地図を確認するという、地道な作業を淡々とこなしてきた。
　だが、そんな彼らの努力を嘲笑うかのように、書き込まれていく地図はどんどん複雑になっていく。
　ただ、着実に迷宮の奥へは進んでいる。それだけは確かだ。
　……それから、一時間程が経った頃だろうかか。
　突然、幽梨がぶるりと身体を震わせた。
「どうしました？」
「い、いや……何でもないよ」
　アトが彼女の様子に気が付いて声をかけるも、幽梨は何もない事を強調する。
　だが、彼女達より先行していたレミが、ふとした異変に気付く。
「この香りは……花……ジャスミン？」
　同じく香りに気付いた左文字が辺りを見渡すと。
　その視線の先にあったのは、やや高い天井にぶら下がっている忍び装束を纏った少女の姿だった。
「キキキキキ、侵入者はっけーん。カンギ様に盾突くお馬鹿さんは、ここで抹殺……あら？　そこにいるのは……」
　少女は侵入者たちを値踏みするように見まわす……そしてその一団の中に幽梨の姿を見つけると、ニヤリと笑みを浮かべてから、くるくると宙を舞い、スタンと床に舞い降りた。
　そんな少女の姿は、どことなく幽梨に似た……根本から異なる存在であった。
「ゆりちー……のそっくりさん、ってわけでもないな。あの笑い方……邪悪すぎる気ぃする」
　そう呟いたレミが、友に似た敵へと苦々しい表情を浮かべながらバスターライフルを構える。
　その姿を見た後続の仲間達も、敵の到来を悟ると彼女の元へと駆け付けてきた。
「ＳＹＳＴＥＭ　ＣＯＭＢＡＴ　ＭＯＤＥ」
「アンタは……！」
　マークが戦闘態勢を整える中、同じく駆け付けた幽梨が目前に現れた彼女の宿敵を見るや……眼前の少女、『零禍道沫莉』をキッと見据え、静かに怒気を高めいく。
「……アンタとここで逢えて良かったよ。ずっと逢いたかった……！」
「ふぅーん、師を殺めたお陰か、案外といい顔をするようになったね。でも、お遊びは……今日で終わりだよ」
　その場へとケルベロス達が集まり、続々と戦闘態勢を整える中。
　因縁に捕らわれた二人の少女は。互いに殺気を発しながら対峙する。
　怒りを露にする幽梨と、その姿を愉しむ様にキキキキキ、と嫌らしい笑い声を上げる螺旋忍軍の少女。
「アンタの奪ったもの……その弔いをやんなきゃ、ダチに顔向けできないんだ。そのツラであたしの仲間を傷つけるのは……許せない！」
「落ち着きな、ゆりちー……ここでキレたら、敵の思う壺だぜ」
　手にした愛刀、黒鈴蘭で今にも斬りかからんとする幽梨を制止するレミ。
　対して、沫莉はといえば。
「……へえ、それが新しいお友達？　じゃあ……また、殺してあげる！」
　手にした螺旋手裏剣をペロリと舐めると、変わらぬニヤニヤ笑いを浮かべながら、低く構える。
　かくして、戦いの幕は上がる。
　果たして、どちらが勝つのか……それは、まだ誰にも分からなかった。

●
　まるで獲物に襲い掛かる獣のような動きで、沫莉が壁を蹴り上げ、高く跳躍する。
　そして天井より、手にした螺旋手裏剣を放つと、大量に分裂したそれは、ケルベロスの前衛に向かって頭上から一気に降り注ぐ。
　とっさにマークと左文字がカバーに入りはしたが、それでも皆が少なくないダメージを受けてしまう。
「今は神ではなく、星に祈りましょう……どうか、皆様に星の加護を」
　リコリスが地面に描いた守護星座が光を放つと、ジド達の傷が癒えていく。
　そこへお返しとばかりに、恵が杖の先端から大量の「魔法の矢」を一斉発射すると、その内の何発かが沫莉に命中する。
「ＧＲＡＶＩＴＹ　ＡＲＭＯＲ……ＥＸＰＡＮＳＩＯＮ」
「速いですが……その動き、捉えてみせましょう」
　短い言葉と共に、マークがグラビティの防護膜を展開させる中、ジドが己自身の感覚を増幅させて、周囲をスローモーションの様に知覚できる様にする。
「沫莉！　アンタとの因縁は……ここで終わらせる！」
「ふうん、アンタもなかなかできるようになったじゃないの」
　幽梨は敵の名を叫びながら、その急所を斬り裂かんと、愛刀から緩やかな弧を描く斬撃を繰り出していく。
　対して沫莉は、そんな吐き捨てる様な言葉と共に放たれる斬撃の幾つかを避けながら。
「キキキ……雨ちゃん、だっけ？　そう、君は誰かを喪って、憎んで、そして強くなる……そんなアンタが、アタシは大好きなの」
「黙れっ！　そのツラで、これ以上……騙るな！」
　亡き親友への思いを知ってか知らずか、自身につけられた傷の痛みを気にすることなく、沫莉はそれでも笑みを浮かべ、幽梨への挑発をやめない。
　そんなやり取りを横目に見ながら、左文字は仲間を鼓舞せんと気合を籠め、
「戦の…風！」
　さらに大きく息を吸い天に向かい叫ぶ左文字。
「アオォォォォォォォォォオオオオオ！！」
　突如放たれた咆哮がケルベロス達の背中を押す様に彼らの士気を高揚させていく。その勢いには流石の沫莉も一瞬たじろいだのか、軽く後方へと飛び退るも。
　その勢いを駆りながら、敵を焼き捨てんとアトが掌から「ドラゴンの幻影」を放ち、レミが構えたバスターライフルから凍結光線を発射すると、わずかながら沫莉の腕に薄い氷が張り付いていく。
　凍らされた腕を見ても尚、薄い笑みを浮かべながら、沫莉はケルベロス達を見渡すと。
「残念だけど、この程度じゃ、カンギ様から力を頂いたアタシには勝てないよ？　キキキキキ……！」
　沫莉は不快な笑い声を上げる。
　その声は、自身に張り付いた薄氷にも似た微笑みと共に、ケルベロス達の神経を逆撫でするのだった。

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　激しい攻防が続く。
　敵は通路内を縦横無尽に飛び回り、ケルベロス達を翻弄していく。
「くそっ！　ちょこまかと動きやがって！」
　ジドが負けじと天井近くまで高々と跳び上がり、天井の蔦を掴む。
　そして落下のタイミングをずらすと、手にしたルーンアックスで沫莉を頭上から叩き割らんとする。
　その一撃は頭部を外すも敵へ直撃し、さしもの沫莉も地へと叩き落とされた。
　しかし、すぐさま体勢を立て直すると、不敵な笑みはそのままに、手裏剣に内蔵された螺旋力で精製した毒ごと手裏剣を幽梨へと放つ。
「ＤＥＦＥＮＤ　ＡＧＡＩＮＳＴ　ＹＵ－ＲＩ」
　しかし、幽梨へと放たれた毒の手裏剣は、すんでの所でマークが受け止めるも、その分厚い装甲を突き抜けた手裏剣から回った毒が、マークに苦痛を与えていく。
「御業の守護を、此処に……」
「皆さんが動きを止めぬよう、私から送る曲です。どうぞ……」
　リコリスの「御業」が鎧に変形し、マークの身体を覆っていくと同時に、アトが仲間の気分を向上させんと、ハーモニカでテンポの良い、しかしどこか切ないメロディーを奏でていく。
　するとマークの受けた傷がみるみる内に塞がり、毒を中和された彼の動きにもキレが戻っていく。
「この調子でどんどんいくよ！」
　恵が目にも止まらぬ速さで礫を放つと、沫莉の手裏剣を持つ手に命中し、少なくないダメージを与える。
　さらに畳み掛ける様に、左文字が獣化した拳に重力を集中させると、高速かつ重量のある一撃を放つ。
　すると、それまで余裕の表情を浮かべていた沫莉の顔色に……微かな陰が浮かんだ。
「キキキ……アタシが……二回も敗れるなんて、ありえない……」
　その瞬間、沫莉の姿が一瞬ブレると、ちらちらとした分身がその場に現れ、ケルベロス達の目を欺く。
　……が。
「へえ、結構満身創痍って感じじゃないか。ならｌこれでも喰らいな」
　そこにファミリアロッドを構えたレミが、凄惨な笑みを滲ませてみせると。
「魂の熱を、光を呑め……フレイム――ドリンカアアアァッ！」
　彼女のファミリアロッドが差し示した場所に、巨大な氷の龍の頭部が現れる。
　続く瞬間、放たれた青白き龍は、分身ごと敵を飲み込み、噛み砕く。
「今だ、幽梨！」
「抜き打つ……受けてみろ……！」
　レミの声を受けた幽梨が、緩慢な構えと息吹により練り上げた剣気を、裂帛の気合と共に沫莉へと抜き打つと……その刃を受け、その身を袈裟懸けにされた沫莉は、ニヤニヤ笑いを浮かべたまま、ゆっくりと崩れ落ちていく。
「キ、キキ……まさかアンタに、殺さ、れる……なんてね……ザン……ギ、さま……お、許し……を……」
　その言葉を最後に、カンギ戦士団『零禍道沫莉』は薄笑いを浮かべたまま、息絶えた。
「雨……仇はとったよ。そして沫莉、アンタの業も……アタシが継いでやる」
　その姿を目にしながら、幽梨は亡き友と去りゆく強敵へと、小さな呟いを送った。

　迷宮の守護者であったカンギ戦士団の一人を討ち果たした一行は、さらに迷宮を奥へと進んでいく。
　しかし、迷宮はそんな一行を拒むかのように、複雑な構造でケルベロス達を目的地から遠ざけ続ける。
「あれから敵は一体も出ませんね。すでにナンナは撃破されたのでしょうか？」
「どうだろう……迷宮に目立った変化がない所を見ると、まだじゃないだろうか」
　そして、突入から３時間２０分後だろうか。
　再び新たな分岐路に辿り着いた事を、アトとジドが現状を把握し合っている時だった。
　突然、迷宮の床がグラグラと揺れだしたのだ。
　いや、床だけではない。壁も天井も大きく揺れだしている。
「これは……！？」
「どうやら、誰かがナンナを倒したみたいだね」
「状況把握。急いで戻るぞ！」
　分岐路の先へと先行偵察に出ていた左文字とレミも、その異変に気付きすぐさま合流する。
　そして、一行はためらう事なく元来た道を戻りはじめた。
　だが、ケルベロス達が帰還を目指す間も、迷宮はどんどん崩れ落ちていく。
「このままじゃ、巻き込まれる！」
「だったら、強行突破だ！」
　道なりでは間に合わないと判断したケルベロス達は、崩れていく壁を破壊しながら外延部を目指す。
　そして、次々と崩れゆく壁を破壊しつつ、ケルベロス達は迷宮外へのと脱出に成功した。
「何とか間に合いましたね……どうやら、ナンナの撃破に成功したのでしょう」
　リコリスが振り向けば、巨大な植物迷宮は轟音を上げながら琵琶湖へと没していく。
　その崩壊を見届けるケルベロス達には皆、安堵の表情が浮かんでいる。
「任務完了。帰投する」
　そして、マークの言葉と共に、ケルベロス達は帰還するであった。

作者：鯨井琉可	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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