光明神域攻略戦～樹蛇の降臨を阻止せよ！

■リプレイ

●湖に広がる植物迷宮
　滋賀県で、その存在を大きく主張する琵琶湖。そこは今、巨大な植物に覆われてしまい、迷宮と化していた。
「また、ドでかい物をおっ生やしてくれたもんだねぇ」
　琵琶湖の様子を一通り眺めた平島・時枝（フルメタルサムライハート・e15959）は、いっちょ草むしりをと意気込む。
　こちらは、琵琶湖の南西部、西大津にいるケルベロスのチーム。たくさんのチームが展開する作戦。それが間もなく始まる。
　ケルベロス達が展開する大型作戦とは、『無敵の樹蛇』ミドガルズオルムの召喚を阻止することを最終目標とした、光明神域攻略戦である。
「召喚を防ぐのはかなり厳しい条件……。だけど、だからこそ、やらなきゃ、だよね」
「ユグドラシルにミドガルズオルム、興味深い存在ではありますが……。顕現は、阻止しなければいけません、ね」
　髪に菊と牡丹の花を咲かせたサフィーナ・ファイアワークス（菊牡丹の双華・e00913）。そして、一際大きな胸が目を引くクノーヴレット・メーベルナッハ（知の病・e01052）も、召喚阻止に意欲を見せる。
「面倒とか言ってる場合じゃなさそうだな」
　無気力な態度でこの場へとやってきていたチーム唯一の男性、水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）は、そうも言ってはいられぬと表情を引き締めて依頼に臨むのである。

●植物迷宮の探索
　琵琶湖に出来た迷宮……光明神域への突入に当たり、ケルベロス達は入念に準備を行う。
　サフィーナが他チームとの窓口となり、チーム作戦を立案する。
　クノーヴレットがスマートフォンと琵琶湖の地図を用意し、他チームの番号を入れて連絡体制を整えていた。
　進む為の地図は各チームでの作成だが、こちらではクノーヴレットが当たる。突入に当たっては、探索範囲が均等になるようにと、チームごとに均等になるよう配慮し、探索漏れが無いようにと考えていた。
　多数のチームが参加しているからとはいえ。自チームが敵を見逃しては話にならない。
「それぞれの持ち場で異常を見逃さないように、集中しねーとな」
　フードで自らの耳を隠したアンナ・シドー（ストレイドッグス・e20379）が気を引き締めるよう仲間を促すと、全員が頷き合ってから、迷宮へと足を踏み入れていく。
　広い琵琶湖内。しかも、迷宮内部では通信の類はまるで使用できず、他チームの所在も分からなくなってしまった。
　時枝もアイズフォンを使って地図の送受信を試みるが、通信エラーが出ていたようで両手を上げる。
「敵もそれなりに対策を練っているというところですかね」
　村雨・ベル（エルフの錬金術師・e00811）がふむと唸る。
　結局、迷宮の全体見取り図を把握することが出来ない為、自チームのみの地図を作成することとなる。
「拙者は邪魔にならぬようついていくでゴザル」
　仲間がこの状況に対応する中、マーシャ・メルクロフ（月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659）はサポートを行うタイミングを図っていた。
　メンバーは植物迷宮の中歩いていく。空から迷宮を見られるかと矢武崎・莱恵（オラトリオの鎧装騎兵・e09230）は翼を羽ばたかせるが、多いところでは階層は何重にも連なる多重構造のようで、空から迷宮の構造を把握するのは難しい。
　また、思った以上に床や壁はしっかりとした構造をしている。破壊すると自爆する為、誰一人グラビティを行使しようとはしない。
　通路は幅も高さもまちまちである。狭いと感じた場所に関しては、鬼人が隠された森の小路を発動させて通路を広げていた。
　探索においては、方位磁針が使えたことが救いだろうか。メンバーは琵琶湖の中心、北東を目指して進む。とにかく、同じ場所をぐるぐると迷わないように。マーシャは花札を一定間隔で地面に置いて目印とする。
「思った以上に複雑だねぇ、迷わないようにしないと」
　分岐点では、サフィーナは壁にスプレーで自チームの識別番号、そして、選択した方向の矢印を描いていく。袋小路へと直面した場合、戻ってきた際に矢印に線を足して×印としていた。
　マッピングはクノーヴレットが進める。残念ながら、他チームと情報共有が出来ず、思うようにマップ作成は進まない。
　迷宮は琵琶湖全体に広がる。その大きさもそうだが、構造が極めて複雑なのだ。通路は水平方向だけでなく、非常に緩やかな坂になって上層に至ることがあれば、途中落ち込んで深い穴となる場所もある。
　こうした状況もあり、マップ作成に苦慮するクノーヴレット。定期的にベルがマップにカラフルなマジックで目印を書き加え、マッピングの精度を上げる。また、時枝は地図を移動した跡を埋めることで、探索済みの領域を記録していた。
　その間、莱恵はボクスドラゴンのタマと一緒に、地面に視線を落としててくてくと歩き、出っ張る根っこやワナなどに備える。
　そこで、構造に変化がないかと周囲を見回すベルが莱恵の様子に気づき、障害を最小限にすべく、隠された森の小路で邪魔な根っこを退けた。
「ベルお姉ちゃん、ありがとう！」
「森の妖精、エルフですから！」
　……と、２人の微笑ましいやりとりにタマが笑う。
「迷宮の中から、敵を探せ、か」
　それで多少ほのぼのはしたものの、マーシャはザコの出現にも構えていたが、それらしき敵影を見かけることなく歩いていく。
　鬼人もまた、いつでも敵が出現してもいいよう戦闘態勢を整える。
　とりわけ、音や臭いには気をつけ、また、暗がりが広がる場所や曲がり角は仲間を制して立ち止まり、彼は敵の奇襲に備えていた。

●現れしカンギ戦士団は……
　迷宮突入から４０分ほど。メンバーはやや大きな空間に出た。
　襲撃を受けるのならばこういう場所と、鬼人がさらに警戒を強める。
「いるな、間違いなく」
　暗がりからゆっくりと現れた相手。それは、小麦色の肌を持つ女性だった。
「んー、レプリゼンタ・カンギさんの為にも、ここを通すわけにはいかないんだなー」
　モザイクの水着姿のドリームイーター、『夏の日の無念』。莱恵がキッと敵を見据える。
　水着コンテストに参加できなかった者の無念から生まれた存在だが、今は侵略寄生の影響からか、カンギ戦士団の一員と成り果てている。
「なんとも気が抜けそうな相手だが……」
　敵の様子を観察していた鬼人が呟く。ややノリが軽そうにも見える相手だが、油断が出来ぬ相手には違いない。
　鬼人は手始めに、日本刀の刀身に炎を巻きつかせて切り込む。
　いっそ壁の樹木まで吹っ飛ばして壁ごと破壊し、爆発に巻き込んでやろうと考えた一撃。しかし、敵は涼しい笑みを浮かべて踏みとどまり、素早く反撃を行う。
「こっちからもいこっかなー」
　そいつがこちらへと飛ばしたモザイクは、手紙のような形をしていた。
「私に任せて！」
　それに対処すべく、身を張ったのはサフィーナだ。
　その手紙は、悲しいかな自らの要望が応えられることがなかった知らせ。申請したにも関わらず、涙を呑むしかなかった衝撃が彼女の体を駆け巡り、痺れを走らせた。
「うふふ、捕まえました……♪」
　クノーヴレットは魔力を込めた指先で、そっと敵の体に触れる。彼女のミミック、シュピールも敵に食らいついて動きを封じていた。
「さぁ、私のこの指で奏でて差し上げますから、素敵な声で歌ってくださいね……」
「うー」
　時に優しく、時に激しく撫で、揉み、擦る。クノーヴレットは巧みな指使いで相手の露出した柔肌を触ることで、理性を鈍らせようとする。
「やっぱり、油断は禁物ね……」
　その間に、痺れの走る体を強引に動かし、サフィーナは自らの翼を広げる。片翼は地獄化していたが、それは彼女がケルベロスとなった証でもある。自らを癒すべくオーロラの光を発して、サフィーナは自らの痺れを取り去ってしまう。
　続いたビハインドのカミヒメは、サフィーナの双子の妹。瓜二つの容姿をした彼女は心霊現象を引き起こし、夢喰いの体を縛り付けた。
　敵の攻撃の様子は、シャーマンズゴーストを従えたベルが注意深く見定める。彼女は雷の壁を前線で戦うメンバーに展開させながら、目の前のカンギ戦士団についてメモを取っていた。
「いざ、神妙に勝負ですぞ！」
　マーシャは斬霊刀『苺大福-和-【改】』を構え、敵を見据える。
「道なくば道を知り、欲すれば我が歩を道とする」
　まず、主導権確保を。マーシャは将棋の戦術を形とした戦法で攻め込む。まるで、戦術の基点となる銀将の駒の様に、彼女は眼前の敵を排除し、続く仲間の為の道を作ろうとその刃で切り開く。
　時枝も逃走された場合に備えて手配書を作成した上で、戦士団員に挑む。
「畜生道に身を窶し、心機衰えて頭を垂れるべし。……つまりは、這いつくばりやがれって事よ」
　銃弾を発射した時枝はレプリカントとしての身体能力を活かし、間髪入れずに破敵剣【Sagittarius】に紫電を纏わせて追撃を行う。
「カッ飛べ、畜生剣すていやああぁぁぁぁぁ！！」
　傷を負わし、動きを阻害する神速・精妙の奇剣。時枝の狙い通り、夢喰いは体を痺れさせてやや動きが鈍らせる。
　莱恵はそいつ目掛け、ボクスドラゴンのタマが吐くブレスの直後に、ドラゴニックハンマーから発射した凍結弾を発射する。多少体を凍らせたところで、夢喰いの笑みは全く崩れる気配はない。
　そこで、目つき鋭く敵を見据えたアンナは徒手空拳で迫り、降魔の拳で殴りかかる。中国拳法崩れではあるが、様々な手段で敵に打撃を与える戦法こそアンナのスタイルだ。
　アンナのそばにいる名もなきビハインドも金縛りによって敵を縛りつけようとするが、夢喰いは嬉々としてモザイクを飛ばしてくる。
　相手の楽しい思い出を奪おうとする攻撃。アンナはそれを受け、手足にモザイクが絡み付いて邪魔してくるのを感じる。どうやらそれは、他の前列メンバーにも飛んでいたようだ。
　だが、阻害が主目的ではなく、攻撃でこちらの体力を大きく削るのが敵の狙いらしい。
「敵はクラッシャーか……」
　アンナは仲間が攻撃を仕掛ける間に、懐から事前に自らの気を浸透させた金平糖を取り出す。
「今、治す」
　その金平糖を砕き、アンナは甘い霧を巻き起こす。それにより、自身と仲間を賦活させる。
　武器からモザイクが晴れたことを確認したメンバー達は、さらに攻勢を強めていった。

　見た目は軽い感じにも見えるドリームイーター、夏の日の無念。しかし、カンギ戦士団の一員となっている敵は決して弱い相手ではない。
「皆もあるでしょー、水着コンテストに出られないようなトラウマがさー」
　どこからか取り出した鍵を夢喰いは突き出してきた。その鍵は、相手の心を抉り、トラウマを思い出させるのだ。
　鍵での突きを受け止めたクノーヴレット。彼女はトラウマを発症して虚空を見ていたが、アンナが気力を撃ち出すことでそれを晴らしていた。
　無名刀で敵の霊体を斬りつける鬼人。幾度も攻撃は与えているはずだが、夢喰いはなかなか倒れない。
　それは、メンバー達がディフェンダーメインで布陣してことが一員としてある。長期戦ともなる戦い。時枝は剣と銃弾での攻撃の合間、地面に守護星座を描いて仲間の護りをより高める。
　攻撃に関してはサーヴァントを含め、ケルベロス達は手数で攻め立てていた。
　しかし、敵は素早い身のこなしで攻撃を躱すこともしばしばある。その為、マーシャは咆哮することで敵の身を竦ませていた。
「それ、それー」
　それでも、夢喰いは攻撃の手を止めず、モザイクメールを飛ばす。それを受けて、精神的なダメージを受けたサフィーナはやや息を荒くしていた。
「ここで倒れる訳にはいかないからね……！」
　サフィーナは祖母から教わった魔術を使い、自身の髪の花を切り落として幹部に当てて傷を癒していく。
　ベルも癒しの雨や緊急手術を繰り返し、前線で戦うメンバーの回復支援に当たる。クノーヴレットも桃色の霧を発し、仲間の回復を繰り返していたようだ。
　ただ、ケルベロス側も炎や氷、痺れなどを与え、相手の動きを苛んでいる。それを見ていた時枝が握る剣に空の霊力を込め、仲間の付けた傷を斬り広げた。
「ちょーっとマズいかなー」
　表情は変わらないが、夢喰いは徐々に追い込まれているらしい。なにやら彼女は黒いオーラを自身に集め、力を少しずつ高めていく。これが、水着コンテストに参加できなかった者の無念なのだろうか。
　敵の力の高まりに危険を察したアンナは、音速を超える拳を叩きつける。それにより夢喰いの体は吹き飛ばされ、高まっていた力が霧散していく。
　そこで、メンバーが畳み掛ける。オウガメタルを拳に纏わせたマーシャが連続して殴りかかれば、鬼人も刀を手にして敵の懐に潜り込む。
「我流剣術『鬼砕き』、食らいやがれ！」
　刹那の間に、鬼人は左切り上げ、右薙ぎ、袈裟がけの順に斬撃を浴びせる。その中央を、彼はさらに刺突でぶち抜いた。
「た、倒れない、よー」
　強がる夢喰いだが、その存在には徐々にモザイクがかかり始める。かなり追い込んでいるのは間違いない。
「水着コンテストに参加出来なかった鬱憤を晴らすよ！」
　ここぞと莱恵はドラゴニックハンマーを振り上げ、力の限り超重の一打を叩きつける。
「は、はうー」
　ぺしゃりと倒れる夏の日の無念。全身がモザイクに包まれたドリームイーターは程なく、完全に消え去ってしまったのだった。

●探索を続けるも……
　カンギ戦士団、夏の日の無念を撃破したケルベロス達。
　探索を再開したメンバー達はその後は、淡々とした探索を行うこととなる。敵に出くわすことも無く、他のチームとも連絡が取れぬ状況が続いた。
　そして、遺跡突入より３時間２０分後のこと。突然、迷宮が音を立てて揺れ始める。
「ナンナは倒されましたか……」
　状況を察したクノーヴレットが呟く。作戦が成功したのは喜ばしいことだ。
　しかし、彼女には直接、ナンナに直接ぶつけたい疑問があった。
　例えば、ナンナの存在について。なぜ攻性植物勢力の一員となっているのか。また、アスガルド神とは……。撃破チームが聞き出していることを、クノーヴレットは願うばかりだ。
　ともあれ、迷宮はもう長くは持たない。そう判断したメンバー達は、来た道を戻ることにする。メンバー達が通り過ぎた通路は、音を立てて崩れ始めたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 5
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