光明神域攻略戦～緑の迷宮を行け

■リプレイ

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　事前にナンナ捜索班全体と示し合わせた通り、琵琶湖南西部に位置取ったケルベロス達。
　迷宮探索を前にシェン・リー（神籬・e19187） 、天泣・雨弓（女子力は物理攻撃技・e32503）、白いのと呼ばれるナノナノが迷宮上空を飛行し、探索予定地点を上から観察する。
　峰岸・雅也（ご近所ヒーロー・e13147）は迷宮から距離を取り、侵入を試みる地点へと火の弾を放った。被弾した壁は破裂し、飛び出した鋭い葉や蔦が雅也に反撃するかのように勢い良く吹きかかってきた。
「……まるでカウンターだな。破壊を試みた者だけを正確に狙ってくるらしい」
「なるほどな。まあ大爆発して全員ダメージ、よりはましか」
　月詠・宝（サキュバスのウィッチドクター・e16953）がそう言いながら雅也にヒールを施す。
　上空偵察をしていた雨弓達が舞い降り、観察の結果を報告する。
「天井は完全に植物に覆われていて中は見えなかったけれど、見る限り目立って怪しげな所は無かったわ」
「迷宮全体が不規則に隆起しているようだ。場所によっては、中は相当な階層数になっているかもしれんな」
「……通信手段はやっぱり駄目ですね。他班と連絡が取れれば有難かったのですが」
　立花・吹雪（雲外に蒼天あり・e13677）は未練なくそう言い、琵琶湖沿いの様子に目をやった。
　隣の班との距離はかなり遠い。各々の班が、相当広い範囲を探索することになりそうだった。
「そうね……。不安もあるけど、皆と一緒ならきっと大丈夫、よね」
　五嶋・奈津美（地球人の鹵獲術士・e14707）がメンバーの顔を見渡して微笑む。この班のメンバーは、縁あって全員が旅団『日進月歩』の所属者で構成されていた。見知った者同士で難題に挑戦できることに、それぞれが高揚や安心を抱いている。
「しかし大げさな舞台だこと……。夢叶も居るみたいだし、負けてられないわね」
　穂村・華乃子（お誕生日席の貴腐人・e20475）がそびえ立つ迷宮を見上げ、思いを口にする。マティアス・エルンスト（レプリフォース第二代団長・e18301）もまた、変わり果てた琵琶湖の情景を睨むようにしていた。
「攻性植物の究極の侵略など、許すわけにはいかない。地球は……住む人間は、良いものだから。それに……」
　マティアスは改めて仲間たちを振り返る。彼らのことも必ず守り抜く、とマティアスは静かに胸に誓った。
「日進月歩の仲間が揃ってるんだ、他には真似できないチームワークの良さを見せようぜ! 　いざ、出陣！！」
　団長の雅也の号令に合わせ、団員たちは意気揚々と迷宮へと足を踏み入れた。

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「迷宮というものは些か厄介だな。自由に飛べればすぐに目当てを見つけられるというのに」
　迷宮探索開始から２０分ほど経った頃、シェンが呟いた。マティアスのアリアドネの糸のお陰で迷子になることはなさそうだったが、それでもなお広大な琵琶湖迷宮を攻略するのは困難な作業だった。
「……ごめんなさい、私一人じゃマッピングしきれなそうで……」
　スーパーGPSを使用し、迷宮の地図を作成しながら進んでいた雨弓が、地図の束を持ち直しながら額の汗を拭う。
　迷宮の立体的に入り組んでおり、階層の多さに地図の枚数は既に１０枚を超える見込みだった。その階層も場所によって高さが変わり、階層が変化したことが実感しにくいなだらかな坂などもあって、明らかにマッピングしにくいように生成されていた。
「悪いな、了解。マッピングは補佐が必要だな」
　雅也の指示で華乃子がマッピングの補佐、雅也自身が嵩んでいく地図の管理を引き受ける。
　通った道には、奈津美がアイテムポーチで持ち込んだ大量のカラースプレーを用い、壁に進んだ方向の矢印と、自分たちの班の識別記号『Q』を書き込んでいく。
　行き止まりに当たればその先に様子を出来る限り探る。動物形態を取って聴覚を研ぎ澄ませていた華乃子が、壁から耳を離して首を振った。
「……じゃあ、この道はここまでね」
　行き止まりの壁を壊すべきでないと判断すれば、奈津美が進めなかった矢印の横にバツ印を書き込んだ。
「今の所、周囲に人気は感じませんね……」
　警戒を続ける吹雪が報告する。次の行き止まりに当たり、壁の下の方に隙間があるのを見つけた宝が、ナノナノを掴んで引き寄せた。
「白いの、ちょっと見てくれ」
　ぶに、と小さな隙間に押し込まれたナノナノがジタバタと暴れるが、ややすると白い胴体ががすぽんと反対側に抜けた。
「お。つながってるらしいな。そっちに誰かいるか！？　……白いの、退いてろよ！！」
　団員たちが頷き合い、宝が壁を破壊する。壊れた壁の向こうでは、ナノナノが驚天した表情で曲がり角に身を潜めていた。
　少しずつながら着実に迷宮の攻略を進めていく団員達。そして迷宮を行く彼らにはさらにもう一つ、成すべき重要な任務があった。
「ほら、髪に葉っぱが付いてるぞ、雅也」
　宝が不意に雅也へと顔を近づけ、色気むき出しの声音で相棒に語りかける。
「たっ、宝……！　わり……サンキュな……」
　雅也はそんな宝から慌てた様子で視線をそらし、照れたように頭を掻いた。
　二人の距離が妙に近いのは決してそういう関係だからではない。怪しいやり取りはカンギ騎士団のドリームイーター、夢叶をおびき出すための、れっきとした作戦だった。華乃子の情報によると夢叶は同性愛者を毛嫌いしているらしく、それを利用して皆で一芝居打てば、より確実に標的を誘い出せるだろうという魂胆だった。
「マークを手伝ってくれてありがとう、吹雪。この広さの迷宮探索は大変だけど、吹雪が一緒なら頑張れるわ」
　奈津美は微笑み、左手で吹雪の肩に触れながら、スプレーを差し出した。
「わたしもですよ、奈津美。あっ、いけない……奈津美さん」
　吹雪はわざと呼び方を間違えつつ、差し出された右手を包むように握る。
「全員異常ないか？はぐれた物はいないな。……マティアス、も」
　シェンは仲間全員の様子を確認しつつ、たっぷりと間をため、いかにも含みがありそうな笑顔でマティアスの名を呼んでみせる。
「父さんこそ、歩き疲れていないか？　今日は充分に食べてきたか？　頼むから自分の身を一番にしてくれよ？　……父さん」
　マティアスはその言葉にシェンの身を案じる本音を込めていたが、彼が『父さん』と呼ぶ声にも、普通の父子としては異様な親密さが込められていた。
　仲間達が繰り広げる同性同士の絡みに、華乃子はガッツポーズしたり、不意に天を仰いだりして常にご機嫌状態だ。
「華乃子さん、大丈夫ですか？　……私の肩を貸しましょうか？」
　華乃子を過剰に心配することで親密度アピールをしようとしていた雨弓だったが、挙動不審な華乃子の様子に半ば本気で心配し始める。華乃子も鼻を片手で抑えながら、輝くような笑顔で演技に参加する。
「ありがとう、大丈夫よ。皆最高だわ。もちろん、雨弓ちゃんが一番ね！！」
　そんなやり取りも交えつつ、団員たちは根気強く迷宮の攻略を進めていく。適宜立ち止まって地図の見直しや確認を行い、壁や床を破壊する際は、ディフェンダーを中心に全員が順番にその役割を果たしていった。
「この場所、壁を壊すと未探索場所への近道になりそうです」
「じゃあ、次は私ね。……すいません、誰かいますか！？　危険なので離れて下さい！」
　雨弓の報告に、奈津美が歩み出る。破壊を試みるたびにこうして声をかけていたが、ここまで一度も人の気配を感じることはなかった。返事がないことを確認し、奈津美が攻撃を放とうとした瞬間、吹雪が違和感に気がついた。
「下がって！！」
　吹雪の警告を聞いて、全員が一斉にその場を飛び退く。壁が破裂した瞬間、蔓や葉に混じって、モザイクの波動が一刻前皆が立っていた所に放たれた。

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「……くっさい気配がすると思ったら、揃いも揃って何なのあんた達、気持ち悪い」
　不意打ちに失敗したことに舌打ちをしつつ、壊れた壁の裏から、嫌悪感を露わにした夢叶が姿を現した。
「来たわね、夢叶……」
　華乃子に名を呼ばれ、夢叶はクスリと笑う。
「世界中の羨望と愛情を欲していた不完全な私はもういないの。今は恩義あるカンギ様からの信頼と、カンギ様に連なる者達との絆によって、私の心は満たされたのよ」
　恍惚とした表情で語り、直後にその表情を軽蔑へと一変させる。
「……だけど、あんた達みたいなのはやっぱり我慢ならないわ。不潔な害虫共は今すぐ消えて」
　攻撃しようと構える夢叶に先んじて、雅也が夢叶へといち早く飛び込んでいった。正確には夢叶の足元の床へと一撃を加える。床が破裂して葉が巻き上がり、雅也と夢叶が下の階へと落ちていく。
「雅也さん！？」
　突然の行動に団員は驚きつつも、咄嗟に動いた宝を先頭に、仲間たちも床の穴へと飛び込む。下の階に降りると、そこは迷宮内では比較的開けた空間になっていた。
「悪いな、夢叶。でも、皆が思い切り戦うにはここのほうがいい」
　雅也がにやっと笑う。直ぐ隣に降り立った宝が、
「いい案だが、唐突すぎだろ。団員を脅かすなっつの」
　立ち上がる雅也に手を貸しながら笑い返した。その側で、夢叶が苛ついた表情で立ち上がる。
　宝が白いのをぽい投げして配置に着かせ、団員も直ちに戦闘体制に入る。
　夢叶が身につけた花から熱を帯びた光線を発射し、身を挺したバロンが、尻尾を焦がして熱さに跳ね回る。
「攻性植物の技……これが侵略寄生、なんですね」
　吹雪が呟く。夢叶はこの技を中心に攻撃を組み立ててきた。モザイクを飛ばす範囲攻撃は前衛に撃つと威力が分散する上に……
「吹雪！　なんてこと……大丈夫よ、今わたしが回復するからね！」
「華乃子さん……！　立てますか！？どうかしっかりして……！」
「マティアス、お前……！」
「いいんだ、父さんは俺が守るから」
　めくるめく百合薔薇劇場をこれでもかと見せられるハメになる。歯ぎしりが聞こえそうなほど荒んだ顔を見せる夢叶へと、
「こうもあからさまに動揺してくれるとはな」
　宝が正確無比なコントロールで、胸部に殺神ウイルスを撃ち込んだ。
「我らが手にするのは勝利のみ！　推し通らせてもらうぞ！」
　よろめく夢叶へと、シェンは普段よりやんちゃ気味の笑みを浮かべつつ急加速し、敵の身体を斬霊斬で豪快に薙ぎ払う。
「この斬撃、あなたに見切ることができますか？」
　体内汚染に顔を歪める夢叶に、雨弓が両手の大剣を軽々振るい、華麗な舞と苛烈な斬撃を繰り出す。容赦ない回転斬りと、だいふくのさりげないひと突きが合わさり、夢叶の毒汚染が広がっていく。
　雅也はこの作戦では後衛に下がり、全体を見渡して戦況を見極めていた。敵の高火力な攻撃に、仲間を庇ったバロンが姿を消したが、団長の的確な指示に団員たちもよく従い、次々と繰り出されるコンビネーション技で敵を翻弄していく。
「……攻撃、軌道計算完了。」
　たまらず飛び退いた夢叶に対し、マティアスが呟きと共に攻撃コマンドBefehl "Breitschwert"（ベフィール・ブライトシュワート）が実行、 夢叶の着地地点に無数の大剣が展開される。斬撃の嵐を浴び、夢叶が回復を試みたが、ヒール阻害と浴びせられた毒の効果でろくに傷を癒せず、夢叶がその場に片膝をつく。
「こんな汚れた連中に、押されるなんて……！」
「……どうしてそこまで同性愛を嫌うの？」
　仲間を癒す奈津美の問いに、夢叶が勝ち気な表情を取り戻して言う。
「ありえないからよ。同性同士のつがいなんて異常だし、無意味だわ」
「無意味ですって……？」
　その言葉に、聞き捨てならんと華乃子が歩み出た。
「……同性カプがアブノーマルなのを認めるとして、その愛を無意味と切り捨てるなど、言語道断！！　常識を超え、意味すら覆して生まれる思いに、究極の愛が宿るのよ！　萌えが生まれるのよ！！」
　熱く語る華乃子を、生暖かい視線で見守る団員たち。理解を超えた主張に唖然とする夢叶へと、蒼い雷光が迸った。
「決めて下さい、華乃子さん」
　閃光のように敵の懐に飛び込んだ吹雪が、斬魔刀で雷華を咲かせながら、敵を中空へと切り上げる。
　構えた拳にありったけの情熱を込め、猛然と駆けてくる華乃子の姿に、夢叶は既に恐怖すら抱いていた。
「……何なのあんた、何なの、何なのよ！？」
「愛と萌に生きる、ごく一般的な妙齢のお姉さんよおおおおお！！！」
　夢叶が光線を放つよりも早く、跳躍した華乃子の愛と痛恨の一撃が炸裂した。萌の力は夢叶の胸のモザイクを貫き、夢叶は甲高い断末魔を残し、霧散していった。
　戦闘が終了し、皆が緊張を解いていく中、奈津美は一つ咳払いをした。
「……本当に騙せるのか内心ヒヤヒヤだったけど、おびき寄せ作戦はうまくいったみたいね」
「奴が居たってことは、目標の方向もそちらかもしれない。向かってみないか？」
　マティアスの提案に乗り、団員達は演技の感想を言い合いながら探索を再開する。
「……次に生まれるときには、あんたにもきっと愛が見つけられるわよ。世界中には素敵な愛が一杯溢れてるんだからね」
　戦闘跡を振り返り、華乃子が呟いた。

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　迷宮突入から三時間半が経とうかという頃、突然迷宮が僅かに振動し始め、植物迷宮の蔓がプツプツと切れる音がそこら中から聞こえ始めた。
「この迷宮、壊れだしたのか！？　ってことは……。」
「上手く行ったんですね……！　……ですがこの迷宮、出口に着くまで保つのでしょうか？」
　地鳴りが響く中、雨弓が疑問を発し、マティアスが迷宮の壁へと向き直る。
「俺が道を切り開く。後に続いてくれ」
　仲間を守りたい一心で、マティアスが躊躇なく迷宮の壁へと突撃した。
「おい、無茶を……！」
　シェンの制止する声。しかし突撃を受けた壁はただ朽ち果て、もはや反撃は無かった。
「……帰り道は、存分に壊し放題のようですね」
　吹雪がクスッと笑い、斬魔刀を構える。団員たちは顔を見合わせて笑い、壁を派手にぶち抜きながら迷宮の外まで一気に駆け抜けた。

　迷宮は時間をかけ、ゆっくりと崩壊していった。
「いやー眼福眼福！！　最高の思い出になったわ！！　帰ったら原稿しなきゃ♪」
　満面の笑みで感謝を伝える華乃子の右手は、目にも留まらぬ速さで携帯に何かを打ち込んでいた。
「程々でお願いね、華乃子。……これだけの人数が協力し合ったんだもの、ちゃんと勝利を掴めてよかった」
　奈津美が元の姿を取り戻しくゆく琵琶湖を見渡して、ほっと一息つく。
「だ、な。皆、おつかれ。……白いのもな。いい働きだったぞ」
　主人の宝から不意に発せられた労いに、ナノナノが嬉しそうに瞳を潤ませた。
　雅也は仲間たちの笑顔を見渡し、肩の荷を下ろすように一つ深呼吸した。
「やっぱり俺たちの絆は無敵ってわけだな。よし、日進月歩隊、凱旋帰投だ！」
　団員達はいつものように談笑し、和気藹々と帰還ヘリオンに乗り込んでいった。

作者：ともしびともる	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 1／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 4
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