光明神域攻略戦～植物迷宮に挑む者

■リプレイ

●植物迷宮
　ケルベロス達は洲本市南東部の端に集まっていた。眼前には淡路島全土を覆う植物で出来た迷宮が立ち塞がる。奥の見えぬ広大な迷路に足を踏み入れようとしていた。
「これが植物迷宮……」
　淡々とした様子のウェイン・デッカード（鋼鉄殲機・e22756）が、観察するように目を左右に動かして外から迷宮の構造を測ろうとする。だが草木が複雑に絡み合い、おおよその予測すらさせない複雑な構造をしていた。
「こりゃまたデケェ迷宮を作ったもんだ」
　呆れたように島を覆う植物の建造物を見上げ、ヴァーツラフ・ブルブリス（バンディートマールス・e03019）は不敵な笑みを浮かべる。
「これだけデカけりゃ攻略しがいがあるってもんだな」
　その巨大さを前にしても、ヴァーツラフは余裕のある表情を崩さない。
「淡路島もダンジョン探索も初めてです！」
　物珍しそうにエイダ・トンプソン（夢見る胡蝶・e00330）が島全体に出来上がった巨大な迷宮を見上げた。
「私もダンジョンなんて初めてだわ！　なんだかドキドキするわね」
　胸を高鳴らせて藤咲・うるる（ひだまりフォークロア・e00086）はどれほど大きいのだろうと周囲を見渡す。
「さて、迷宮探索なんて……まるで冒険者のようね。どこまでたどり着けるかしら」
　どこまでも続く迷宮を見通すように、月海・汐音（紅心サクシード・e01276）が目を細めて蔦や茎で出来た迷宮の入り口を見やる。
「迷宮がナンボのもんじゃー！　100や200じゃ効かない数のダンジョンをば攻略して来ました侠、黒斑物九郎たァ俺めのことですでよ！」
　黒斑・物九郎（ナインライヴス・e04856）が自信満々で胸を張る。
「ゲームで！」
　最後にオチをつけてドヤ顔をする物九郎を、仲間達は生暖かい目で見守った。
「光の神の迷宮。そう聞いた時、壁がガラス張りでマジックミラーとかの仕掛けがあるのかと思っていたら、植物を張り巡らせた迷宮とは……期待していたのになぁ」
　少しがっかりした様子で迷彩色のコートを着た天雲・戒（ブレイブハート・e00766）が、すぐ脇をホバリングするボクスドラゴンのダルタニアンに視線を向ける。
「この迷宮で、相棒である白竜のダルタニアンの秘めた力が！　とか期待したんだが、また別の機会に期待しよう」
　肩をすくめて気分を一新して迷宮探索に集中する。
「正直、これ以上こういった領域を広げられるのはいい気分じゃないんだよね」
　不機嫌そうにリルカ・リルカ（ストレイドッグ・e14497）が植物に覆われた地面を踏みつける。
「神様ってやつはいつだって勝手、ましてや他の種族の神なんてのは特に、出来ることならば速攻で叩き潰さなきゃね」
　神であろうと好きにはさせないと、リルカは全てを呑み込むような広大な迷宮の入り口と対峙する。

●探索
「それじゃ、行きましょ。慎重に、速やかにね」
　汐音が颯爽と入口に近づく。
「では探索開始だね」
　ウェインが先頭で迷宮に足を踏み入れる。広い道がすぐに分かれ、視線を向けるが曲線を描く通路の先がどうなっているのかは分からない。
「進みましょう、そこに道があるのなら！」
　元気よくうるるは右の道を指差した。
「張り切って頑張っちゃいますよ！」
　大きく頷いたエイダが右ルートへ足を踏み入れる。
「迷宮を傷つけないよう気をつけてな」
　そんな仲間たちに声をかけ、戒もダルタニアンと共にその後に続く。
「元気なのは良いが、中じゃ電話は使えないようだ。はぐれないようにしろよ」
　電話が使えるかを確認し、地図を手にヴァーツラフはＧＰＳで現在位置を確認しながら歩き出した。
　その後ろでは道に迷わぬように物九郎がペンキでペチャッとマーキングする。
「俺め冴えてるゥー！　ハイ拍手！　オケオケもっと褒めてくれてもいっスよ！　……って、ちょっと待ってっスよ！」
　ノリノリの物九郎をスルーして仲間が通路を進み、慌てて物九郎がその後を追いかけた。
「地道に調べていこう。見つけようが見つけまいが、地図の空白を少しでも埋める事が全体の利になるんだから」
　リルカが一つでも多くの場所を調べようと意気込み、糸を垂らしながら歩く速度を僅かに速めた。
　植物で出来た道は案外しっかいと作られていて、複数人が歩いても揺らぐような事はない。だがその道は左右だけでなく、昇り坂や下り坂にもなっていて、進むほど自分達が地表より上にいるのか下にいるのかも曖昧になっていく。
「何があるか分からない、だからこそ楽しんで行きましょ？」
　未知を恐れるのではなく楽しむのだと、勇気づけるようにうるるは笑顔を浮かべる。
「しかし島じゅう緑に呑まれちまいますとかよ、先のかすみがうらのアレと言い、攻性植物周りの繁殖力マジパないっスね」
　もう20分以上進めども進めども、道が分かれ複雑さを増す迷宮に、物九郎はそのスケールの大きさに感嘆する。
「神様ってパワースポットにやっぱりいそうですよね」
　エイダがそんな場所はないだろうかと周辺を観察する。
「ちょっと待て、何か音がしたぞ。少し戻れ」
　仲間を手で制した戒が耳を澄ます。
「……ごめん」
　先頭を歩いていたウェインが、探索に夢中になって仲間と離れている事に気づいて急ぎ足で戻る。
　ケルベロス達が息を潜ませじっとしていると、何やら慌ただしい音が通路の先、他の通路と合流している辺りから聞こえた。
「敵……かしらね」
　警戒した汐音はそっと曲がり角から様子を窺う。するとドシンドシンと何やら重々しい足音と共にドラゴンのような存在や、他の複数の者達が走り去っていったところだった。
「……行ったか、雑魚と戦うのが目的じゃねぇからな」
　懐の銃に手を触れていたヴァーツラフが、すっと手を抜き周囲を警戒しながら道に出る。
「敵と遭遇したら調べるどころじゃないからね、違うルートを辿ろう」
　リルカの提案に仲間が頷き、枝分かれする脇道を慎重に移動し始めた。

●襲撃
「今のところ敵とも出会わずに進めてるわね」
　既に探索を初めて一時間近くが経っていた。敵を避けながらこの調子で中央まで辿り着けるかもと、うるるは一層やる気を増して迷宮を進む。
「このままパワースポットまで直行したいですね。出来ればお忍びで日本に遊びに来てる某国のイケメンプリンスとか、石油王とお会いしてあわよくばお近づきになりたいですが」
　そんな妄想をしながらエイダが歩いていると、何か物音が聴こえた気がした。
「今何か……気を付けて」
　汐音が警戒を強めて仲間に声をかける。それと同時にすぐ傍の壁が盛り上がる。
『侵入者発見、排除スル』
　それは錆色の金属で出来た２ｍ程の人型のロボット。全身に植物を生やしていて迷彩となっていたのだ。ダモクレスが伸縮する腕を伸ばして襲って来た。
「させるかよ！」
　戒が振り下ろされる金属の拳を、鋼を纏った両腕をクロスして受け止める。
「見つかっちまったか、なら押し通るまでだ」
　突発的な襲撃にも動揺することなく、ヴァーツラフはすぐにソードオフショットガンを構え引き金を引く。放たれた徹甲弾の散弾が散らばり金属の体に幾つもの穴を空ける。
「さっさと倒して探索に戻るっスよ！」
　必ずぶっ壊すと信じる心を籠めて、物九郎がダモクレスの胸にチェーンソー剣を叩き込む。
「デウスエクスに用はないんだよ、でも出会ってしまった以上は倒しておかないとね。最初から全力でいくよっ！」
　リルカは左右にリボルバー銃とライフル、そして背中にアームドフォートを展開し、一斉に全弾を撃ちまくった。逃げ場のない弾幕にダモクレスの装甲が凹んでいく。
『迎撃、迎撃、スラスター展開』
　ダモクレスが長い両腕を広げると、幾つものノズルが現れ、ロケット噴射と共に飛翔して突っ込んできた。
「させないよ」
　そこへ割り込んだウェインが強大なハンマーを下から掬い上げるように叩き込み、ダモクレスの軌道を変えて天井に突っ込ませた。
「ダンジョンで立ち塞がる敵！　これはもう突破するしかないわね！」
　そこへ跳躍したうるるが大きな鎌を振り抜き、ダモクレスの装甲に切れ目を入れた。
『侵入者ヲ殲滅スル、射撃モード移行』
　天井に張り付くようにしたダモクレスの首が180度回り、顔のモノアイが忙しなく動きケルベロス達をロックオンしていく。
『ターゲットロック、発射』
　顔が展開し砲が現れ、ビームを次々と雨のように撃ち放ってくる。
「排除されるのはお前の方だ！」
　戒が敵との間にドローンを幾つも飛ばしてビームを防ぐ盾とする。ダルタニアンも身を挺して仲間を庇った。
「こんなところで足止めを食らっている暇はないの」
　壁を駆け上り、逆さで天井に着地した汐音がナイフを突き立て、引っ張るように天井からダモクレスを引き剥がした。汐音は敵を蹴って回転して着地し、ダモクレスはバランスを崩して頭から地面に突っ込んだ。
「ダンジョンはまだまだ奥がありそうです、ここを乗り切って先に進みましょう！」
　その間にエイダはギターを爪弾き、仲間を勇気づけるアップテンポの曲を歌って心を奮い立たせる。
『殲……滅、殲滅』
　ダモクレスが四つん這いになって顔の砲を向けてくる。
「大人しく故障してろ！」
　ヴァーツラフは降魔の力を籠めて敵の顔を蹴り上げると、放たれたビームが天井に穴を空ける。
「お宝は落としそうにないっスから、経験値にしてやるっスよ！」
　その隙に物九郎が飛び込み、チェーンソー剣でガリガリと火花を散らして装甲を削って内部にまで刃を届かせる。
『胸部破損、戦闘力低下、修復ノ必要有』
　傷から放電しながら、ダモクレスは両腕を広げて飛ぼうとする。
「飛ぶなら撃墜してあげなきゃね」
　リルカがアームドフォートから光線を放ち、飛翔するダモクレスの片腕を撃ち抜いた。ノズルが壊れ傾いた体はきりもみして壁に突き刺さった。
「逃げられないよ」
　赤色の粒子を纏ったウェインが手にした突撃槍にエネルギーを送り、空間を歪ませながら突き出す。不可知の一撃が胴を貫きダモクレスを串刺しにした。
「あなたを倒して先に進むわ！」
　うるるは病魔の力を拳に集め、鋭い踏み込みと共に胸に打ち込む。
『ガガ……危険、危険、早急ナ修理ガガガ……』
　壊れたスピーカーのように音声を発しながら、ダモクレスは壁から抜け出し、伸ばした腕を薙ぎ払うように振り回す。
「ぶっ壊してやるぜ！」
　その片腕を戒がカウンターで蹴り飛ばし半ばまで千切れそうになって垂れ下がる。そこへダルタニアンが突っ込んで体当たりを叩き込んで壁に押し付けた。
「出会いたいのは素敵な男性とです、ダモクレスなんて呼んでません！」
　エイダが矢を放ち胸の中央を射抜く。矢はエネルギーを乱し敵の思考を錯乱させる。
「俺めは一羽の鷹ですでよ！」
　そこへ自らを矢に定義した物九郎が、飛翔する鳥のように一直線に突っ込んで拳を叩き込んだ。ダモクレスの胸部装甲が砕け散る。
『破壊、破壊、破壊』
　ダモクレスの顔の砲が狙いもつけずにがむしゃらに撃ち出される。
「その顔に風穴を空けてやる、たらふく食らいやがれぇっ！」
　敵の背後に回ったヴァーツラフは2丁拳銃を壁や天井に向かって撃ちまくる、放たれた弾丸は跳ね刈り、四方からダモクレスの顔面を直撃して砲が爆発し顔半分が吹き飛ぶ。
『……ガ、ガガ』
　ダモクレスはまだ動く片腕で闇雲に攻撃を仕掛けてくる。
「これで終わりにしよう」
　ウェインがその腕をハンマーで叩き潰した。
「魔術回路開放、創造……！　ツヴァイ……ハンダー！」
　汐音の手に身の丈ほどの赫い大剣が生み出される。薙ぎ払う一撃は胴を両断し、ダモクレスの上半身が地面を転がる。
「ちゃんと止めは刺しておかないとね」
　そこへリルカが左右の銃を撃ち込み、完全に機能を停止させた。

●脱出
　新たな敵の気配をやり過ごしながら、ケルベロス達はずいぶんと島内部まで北上していた。
「そろそろダンジョンに入って２時間３０分が経過っスね」
　物九郎が腕時間を確認した時だった。突然ぐらりと地面が揺れたと思うと、ぼろりと草木が崩壊していく。周囲をみれば足場だけでなく壁も天井も全てが崩壊を始めていた。
「これは……崩れるぞ！　こっちに掴まれ！」
　ヴァーツラフが仲間に呼びかけ、大きな木の枝に掴まる。仲間達も枝を握ったところで、細かな木や葉は崩れて崩落し、通路には幾つも隙間が出来ていた。
「どんどん崩壊してるみたいだな。他のチームがバルドルってのを倒したんじゃねぇか？」
　迷宮に起こる異変を見て戒が事態を推測する。
「おそらくそうでしょうね、だから迷宮を維持する力を失ったという事でしょう。崩れ落ちる前に脱出したいけれど……」
　頷いた汐音が来た道を振り返る。ここまでの道程を戻る時間と崩壊速度を考え、間に合わないと眉を寄せた。
「あっ！　こっち！　穴が空いてるよ！」
　うるるが指さす壁があった場所には、崩落によって屈めば人が通れるような大きな隙間が出来ていた。そのずっと先から外の光が差し込んでいるのが見えた。
「行ってみましょう！　素敵なイケメンとクリスマスを迎える為にもこんなところでやられる訳にいきません！」
　エイダの言葉に仲間達も賛同し、細い穴を潜り他の通路へと這い出る。
「こっちの方が外壁に近そうだね」
　ウェインが淡路島の地図を思い出しながら、東に向けて進む。
「そうだ、もう迷宮が壊れているんだから……」
　思いついたように前に出たリルカが銃を構え引き金を引く。放たれた弾丸は植物の壁をぶち抜き容易く穴を広げた。自爆に対して身構えるが植物に何の変化もない。
「もう自爆の効果も切れているということね。なら話は早いわ」
　汐音が大剣を構え、一刀両断に壁を斬り裂く。
「こそこそするのも飽きてたところだ、派手にいくぜ！」
「このチタン製徹甲散弾の前には植物なんぞ紙みたいなもんだ」
　戒が意識を集中させ爆発を起こし、ヴァーツラフがショットガンをぶっ放し壁を吹き飛ばした。それに他の仲間達も続きどんどんと壁を破壊して一直線に外に向かう。
「おおっとっと、外に出たっス！」
　壁を破り勢いをつけすぎた物九郎が海に転落しそうになる。島の一番右端にまで到達したのだ。
「やったー！　出口だね！」
　その背中に後ろから勢い良く飛び出したうるるがぶつかり、物九郎の体が宙に浮いて海に落ちた。
「結構時間がかかったけど、何とか間に合ったね」
　リルカが外に出て振り返り、入った時とは全く違う隙間だらけの迷宮を見上げる。
「あ、崩れていきます」
　隣のエイダが後ろに下がりながら視線を向けると、どんどんと迷宮が崩れてゆくのが見える。
「冬の海は寒いっス」
「大丈夫？」
　海から上がる物九郎の手をウェインが引っ張った。
　一気に崩落した迷宮は姿を消し、無数の植物の残骸と成り果てる。
「これで任務完了ね」
　汐音の言葉に仲間達も頷いて息をつき、迷宮探索を終えるのだった。

作者：天木一	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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