光明神域攻略戦~女神座す緑の迷宮

作者:天枷由良

●琵琶湖上空
「美しい湖ですね。バルドルに島を押し付けて、湖を担当した甲斐がありますわ」
 光明神ナンナは嬉しげに、眼下の湖面を見下ろすと、薄桃色の花弁を散らし『超召喚能力』を発動する。
 するとどうだろう、花弁の落ちた湖面から、巨大な植物が生み出され、瞬く間に琵琶湖全体を覆い出したでは無いか。
 ナンナは、嬉しそうに微笑むと、彼女の頼りになる仲間であるカンギ戦士団の面々を振り返った。
「侵入者が現れれば、この迷宮は皆さんにそれを伝えてくれるでしょう。ですから……私の事を、まもってくださいませね」
 そうお願いするナンナ。『ミドガルズオルム』の召喚という大役を果たす彼女は、その特殊能力に比して戦闘力が極端に低い。
 もし、ケルベロスが襲ってくればひとたまりも無いだろう。
「そのための、私達、カンギ戦士団です。私達の命にかけて、一人たりとも、あなたの元には通しはしません」
 ドリームイーター、螺旋忍軍で構成されたカンギ戦士団の団員達は、ナンナにそう受けあった。
 彼女達の間には、互いに命を預けあう程の絆が確かにあるようだった。
「では、『レプリゼンタ・カンギ』に、約束された勝利を届けましょう」
 ナンナの号令と共に、カンギ戦士団は、琵琶湖の上に作られた植物の迷宮の中へと姿を消したのだった。


「攻性植物勢力が大きく動いたわ」
 ミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)の語り口には、急くものがあった。
「パッチワークの魔女を支配下に置いて、ハロウィン攻性植物事件を引き起こした『カンギ』の軍勢が、『淡路島』と『琵琶湖』を同時に植物で覆ってしまったの」
 その目的は、無敵の樹蛇『ミドガルズオルム』の召喚であるらしい。
「ミドガルズオルムは、どのような方法でも破壊されないという恐ろしい特性を持っているわ。こんなものが地球上で召喚されてしまえば、攻性植物のゲート破壊や侵略阻止なんて至難の事よ」
 それだけ強大な力を持つものを喚ぶのだから、当然というべきか作業も大掛かりなものとなる。淡路島と琵琶湖には『侵略寄生されたアスガルド神』が設置されており、その神力によって大規模術式を展開、植物を繁茂させて同地を迷宮化させているようだ。
「この迷宮はカンギの配下である精鋭たちが守りを固めているわ」
 カンギ配下の精鋭軍は『これまでの幾多の戦いでカンギが打ち負かし、配下に加えたデウスエクス』であり、カンギとは熱い信頼と友情で結ばれている。
「何が起きても決して裏切ることは無い、まさに不屈の戦士団というわけね」
 その戦士団が守るは、先の通り淡路島或いは琵琶湖全域を覆い尽くしている植物迷宮。
「皆に向かって貰いたいのは『琵琶湖』よ」
 此方にはアスガルド神『光明神ナンナ』が座している。
「迷宮を構成しているのは植物だから、破壊して進むことも不可能ではないわ。けれど壁も床も、破壊されると自爆してダメージを与えてくるみたいなの。ある程度は迷宮に沿って、進まなければならないでしょうね」
 また、広大な迷宮の何処に光明神ナンナが居るかは分かっていない。
「同じ琵琶湖を探索するチーム毎に、探索開始地点や探索する地域を分けていくのが良いとは思うわ。そうでもしなければ、広大な迷宮を攻略するのも難しいでしょうしね」
 そして敵は、迷宮ばかりではない。
「カンギ配下の精鋭戦士団たちね。彼らは迷宮への侵入者を確認すると迎撃に出てくるから、一定時間が経過すれば何処に居ても何かと遭遇して、戦闘になるでしょう」
 当然手強い相手であり、簡単には突破させて貰えないはず。
「それらを倒し、迷宮を探索し、何処かにいる光明神ナンナを見つけて撃破する。……光明神ナンナを撃破すれば植物迷宮は崩壊して、残るデウスエクスたちも撤退するでしょうけれど、難しい戦いになるわね」
 幸いにも琵琶湖周辺の住民は避難が完了しているため、ケルベロスたちは知略と武勇の全てを迷宮攻略、光明神ナンナの撃破に注ぐことが出来る。
「場合によっては、光明神ナンナの撃破ではなく他のチームとの連携や援護などに動くことも重要になるかもしれないわ。光明神ナンナの撃破、そしてミドガルズオルム召喚阻止という最大の目的を果たすためにはどうするべきか。よく考えて、作戦を立ててちょうだいね」


参加者
佐竹・勇華(は勇者になりたい・e00771)
凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)
姫宮・愛(真白の世界・e03183)
鏡月・空(蒼炎烈火・e04902)
呉鐘・頼牙(漂流者・e07656)
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)
カティア・エイルノート(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e25831)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)

■リプレイ


「まさか、迷宮攻略をする事になるなんてね」
 呟く凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)の目の前には、ぽっかりと開いた穴が一つ。
 琵琶湖を覆う巨大植物迷宮へ東北東より侵入を計画したケルベロスたちは、今まさに、探索を始めようとしているところであった。
 目標は、この迷宮の何処かに居るという光明神ナンナ。彼女を倒さなければ、絶対に破壊されないという無敵の樹蛇ミドガルズオルムが喚び出されてしまう。
「そんなものを召喚されては、おちおちドラゴン狩りにも行けないな」
「絶対に阻止しないと!」
「愛も、できる限りがんばります……!」
 呉鐘・頼牙(漂流者・e07656)、佐竹・勇華(は勇者になりたい・e00771)、姫宮・愛(真白の世界・e03183)らが口々に言いながら、植物の要塞へと足を踏み入れていく。連れ立って続々と進む一行の殿を務めるのはミミックの『ヒガシバ』で、主人のソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)は気怠げに「面倒ね」と繰り返していた。

 そのソフィアの声が、迷宮に入るなり一段と重たくなる。
「ダメね。繋がらないわ」
「こっちも同じね」
 プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)も一緒になって、ひらひらと見せびらかすように手を振った。
 二人の手には、スマートフォンが握られている。ソフィアは同じ琵琶湖迷宮を探索するケルベロスたちと連絡を、プランは地図アプリとGPS機能を探索の手助けにするつもりだったが、スマートフォンは何処に向けても通信する様子を見せない。
「……敵の拠点だ。そういうこともあるだろう」
 言った頼牙もまた、班内連絡用にと準備した小型インカムを片付けている。これらの機器を使うことが出来れば探索も楽だったろうが、駄目なら別の手段を取るまでのこと。
 入れ替わりで取り出した方位磁針は正常に作動するらしく、静かに方角を示していた。あとは紙の地図を用意して、最初の目的地に定めた竹生島と都久夫須麻神社の方へ進むだけだが――。
「その前に、壁も調べておきましょう」
「ん。任せて」
 愛の言葉に応じて、プランが攻撃態勢を取った。
 ダメージを与えれば自爆するという植物壁。その耐久力や、ケルベロスたちに与える影響を調べる為に熾炎業炎砲を放つと、なるべく遠方を狙ったにも関わらず、炸裂した植物の欠片がプランの元へと勢い良く返され、身体を傷つけた。
「……必要に迫られなければ、道なりに進んだ方が良さそうね」
 淡々と感想を述べるプラン。その傷を治癒したカティア・エイルノート(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e25831)が森の小路を作れないかと壁に近づいてみるも、複雑に絡み合った植物が反応を示すことはなかった。
「そろそろ行こう。先鋒は俺に任せてくれ」
 隠密気流を纏って、いざ。
 気合充分で踏み出そうとした鏡月・空(蒼炎烈火・e04902)を、頼牙が引き留める。
「……何が有るか分からないんだ。慎重に、な」
 頼牙は軍人ばりに堅実な動きで進み、背を壁につけて先を伺った。
「いやー、偶にはこんなのも良いね、心が踊るよ。……あ、もちろん仕事はしっかりやるからね」
 小さく声を弾ませながら、迷彩柄のコートを着た悠李も続く。曲がり角から頭の代わりに手鏡を突き出して見れば、映し出された植物の道は何処までも深く、ケルベロスたちを誘っていた。
 それだけではない。下へ降りられそうな穴に上から垂れ下がる蔦、なだらかに上がっていく道と段々で下っていく道、更には破壊された植物壁の向こうにまで、新たな通路が出来上がっている。マッピングするとしても、大変な労力が必要そうであった。


 随時書き加えられていく紙にはスーパーGPSも有用と言えず、ケルベロスたちは琵琶湖一帯の地図と方位磁針で目指すべき方角だけを確かめて進む。
 静まり返った通路には、何の気配も感じられない。先行して確かめた空が後方へ手を振ると、それを勇華が追い越していった。
(「……ミドガルズオルムって、どれくらいの大きさなんだろう」)
 そんな事を考えつつ、勇華はランプで道を照らす。何者の姿もなく、今度は頼牙が勇華を追い抜いていく。
 三人の他に、悠李と愛も隠密気流を纏いながら入れ替わり立ち代りで先行して、最後尾で奇襲に備えるのはヒガシバとカティアのウイングキャット『ホワイトハート』のサーヴァント勢。間に挟まれる形で、ソフィアとカティア、プランが続く。
(「早く外に出たいな……」)
 床も壁も天井も全て、異様な植物の組み合わせで出来た迷宮は何とも薄気味悪い。
 隠密行動する仲間の後ろでは好きな歌を歌って気を紛らわせるわけにもいかず、カティアは感情の欠けた顔で辺りを伺った。
 幾らか迷宮を進んでみたが、他のケルベロスたちが通った痕跡は一つも見受けられない。
(「それだけ広くて……入り組んでいるのですね」)
 目印をつけるために用意した蛍光チョークを握り、愛は今一度、気を引き締める。

 しかし、小一時間ほど経った頃。
「何やら小細工を弄しているようですが、この迷宮の中で私たちカンギ戦士団から逃れることは出来ませんよ」
 慎重を期して探索するケルベロスたちの行く手を、阻むものがあった。
 何処か気品を感じさせる佇まいは、麗しい金髪に四枚の白翼と相まって高潔さを醸し出している。
「……なんかシャクに障るわね」
「ふふふ。でしたら貴女も、カンギ様から侵略寄生の祝福を賜っては如何かしら。健やかになれますよ」
 慈母の如き微笑みを返す螺旋忍軍『偽りの聖女』に、ソフィアは声を荒げた。
「冗談じゃないわ。みんな、遠慮はいらないわよ! こんなやつ叩きのめしてやりなさい!」
「言われなくとも!」
 倒さなければ先には進めないだろう。
 速攻で偽りの聖女を仕留めるため、空が大斧『ブレイクハザード』を掲げて叫び、高々と飛び上がった。
 そのまま頭をかち割るように、敵の真上から振り下ろす。じっと笑みを湛えたまま迫る刃を見やっていた偽りの聖女は、それが鼻先まで来た所でようやく動き、迷宮を滑るように退いていった。
「もっとよく狙って! ……今よ、ユーカちゃん!」
 ふんぞり返って偉そうに指示を出すソフィアには目もくれず、今度は勇華が一気に詰め寄って手刀を振るう。しかし闘気を纏った一撃を、偽りの聖女はまた踊るような足取りで、ひらりと躱す。
「楽しませてくれそうだね♪」
 迷宮を軽やかに跳ね回り、頬を上気させながら背後に回り込んだ悠李が白銀と黒輝の刀――『神気狼』と『魔天狼』で続けて斬り上げるも、刃は金の髪を僅かに撫でるだけ。頼牙の『同じ位置に二つの斬撃を存在させる』という技ですら、一太刀目から回避されてしまえばどうしようもない。
「……何と愚かな」
 張り付けた笑みは変わらぬままに、偽りの聖女は声の調子を一段落とす。その四翼がはためくと、オラトリオの放つ断罪の聖光に似たものが次々と撃ち出された。
 幾つもの白い線条は、前衛陣を焼き払おうと殺到する。斧を担ぎ上げた空、ヒガシバとホワイトハートが庇いに出るが、炸裂した光は彼らの姿を塗りつぶすように広がっていった。
 偽りの聖女は一度足を止めて、その様子を伺う。
 光は広く放った分だけ、一撃の威力に乏しい。それを示すように抜け出たヒガシバが蓋を開き、噛みつこうと飛びかかった。
 しかし盾役を任されたサーヴァントの攻撃など、カンギ戦士団の一員たる偽りの聖女には、さしたる脅威でもない。愚直なミミックを足蹴に、ホワイトハートの飛ばした輪っかまで躱して、偽りの聖女は嘆息を漏らす。
 その微笑みをようやく崩したのは、彼方から放たれたドラゴンの幻影と、白く長い髪を靡かせるサキュバス。
 カティアの歌う『朽ちた世界で幸せを運ぶ不思議な道化師の詩』によって、力を高められた愛の生み出した幻影は激しく燃え盛り、聖女の身体に喰らいつくと炎を移し与えた。
 そして羽ばたき、身を捩り、竜の痕を消し去ろうとする聖女を宥めるように、するりと後ろから抱きついたプランが両手と尻尾で体中を弄りながら囁く。
「偽物だけど聖女なんだよね。……気持ち良く堕としてあげる」
「っ! 祝福を受けたこの身体に卑しく触れるとは、何と無礼な!」
 白く薄い衣に包まれた双丘を掴んで足の間に尻尾を這わせると、聖女の余裕ぶった素振りは一挙に消え去った。


 光に代わって、膨れ上がった螺旋の力が迫る。
 それを空が大斧で弾き返すと、カティアの「寂寞の調べ」によって破剣の力を付与されたクラッシャーたちが一斉に飛び出していった。
 勇華が降魔の力を湛えた拳を、悠李が空の霊力を帯びた刀で斬り掛かるが、しかし猛撃は紙一重で空を切る。聖女の軽やかな動きは維持されたままで、ケルベロスたちは思うように攻撃を当てられず気ばかりが急く。
 それでもソフィアのぞんざいな指示の下、頼牙の繰り出した音速の拳が偽りの聖女を捉え、吹き飛ばした。聖女が幾つか纏っていた分身の一つが砕かれ、愛の放った強烈な回し蹴りが命中して、また一つが霧散する。
 更にはグラビティ・チェインを破壊力に変えて乗せた刀で、空が一撃。幻影を全て剥ぎ取られた聖女は、ヒガシバが新たな祝福を授けるように撒き散らした偽りの財宝の中に埋もれていく。
 程なく翼を翻して金銀宝石の山から這い出た聖女の顔に、もはや慈しみは欠片も残っていない。プランが魔力を籠めて撃ち出した白い蝙蝠に貫かれ、ホワイトハートの鋭い爪に襲われながらも、より苛烈さを増した光は後衛のケルベロスたちへと降り注いだ。
 肉体ではなく心を直接炙るような光に、カティアの感情が大きく揺さぶられる。それは変わらず冷めた色の顔には噴出せず、白い喉元を通じて歌となり溢れ出た。異質な迷宮に響き渡る「ブラッドスター」。その声音に手足を突き動かされ、ソフィアが撒き散らす紙兵の中をドラゴンの幻影とサキュバスが飛んでいく。
 スナイパー二人の攻撃は、絶えず聖女を捉え続けていた。愛の生み出す幻影は、聖女の光とは真逆に肉体そのものを焼いて生命を消耗させ、近づく死の恐怖を薄れさせるように、プランが聖女の身体を慰める。
 そして小さく漏れる嬌声は、すぐに苦悶へと変わった。
 足下には、齧りつくヒガシバ。大したものでないと感じていたミミックが、トラバサミの如く喰いついて離れない。
 それは敵の動きを鈍らせ、絶好機を作り出した。
 頼牙が懐に飛び込んで刃を一振り。もう避けられないと悟った聖女は、苦し紛れに腕を盾として防御の構えを取る。
 それから起きた出来事は、聖女にも仲間たちにも理解の及ばないものだった。ただ一つ、誰の目にも分かるほどはっきりとしていたのは、聖女の腕が幾ばくか削り取られ、まるで始めから存在しなかったかのように消え失せていたこと。
 ついには悲鳴を上げることも忘れて、聖女は呆然と、自らに訪れた結果だけを眺める。
 そうして止まりかけた時間を動かしたのは、無邪気な笑い声。
「――アハッ♪」
 声の主は世の理から外れたように不可思議な動きで、視線すらも逃れて二振りの刀を突き立てる。
 白い衣が赤く染まり、半ば閉じられていた聖女の目が大きく見開かれた。抗おうと動く度に羽根が抜け落ちて、それが悠李の気を更に高ぶらせる。
 抜き取った刀を振り上げて、追い打ちとばかりに一振り。聖女の身体には、ばっさりと引き裂かれた痕が残る。
 しかし聖女を騙った螺旋忍軍の咎を裁くには、まだ刃が必要だ。
「全てを斬り裂く桜花の奥義、今度こそ!」
 獲物を何度か逃した勇華の、闘気を纏った手刀。かつて騎馬武者を一刀両断に切り捨てた名刀になぞらえ『気刀・八文字長義』と名付けられた奥義が、聖女の半身を薙ぐ。
 次いで空が非物質化した斬霊刀を振るえば、霊力が残り僅かであろう生命を蝕み、聖女は嘆くように螺旋の力を生み出して、闇雲に放った。
 それは最後の抵抗でありながら、何者をも傷つけることなく、空の大斧に当たって散る。
「今よ! 思い切りやっちゃって!」
 もはやグラビティですらないソフィアの声に弾かれて、ケルベロスたちの攻撃が次々と叩きつけられた。
「――申し訳ありません、ナンナさま、カンギさ、ま」
 務めを果たせなかったことを詫びつつ、聖女は崩れ落ちる。
 遺骸は、やがて植物の迷宮へ溶けるように消えていった。


 偽りの聖女を打倒した一行が迷宮の探索を再開して、また暫しの時が経った。
 相変わらず他のケルベロスたちと遭遇することもなく、新たなカンギ戦士団に出会うこともなく、慎重に、そして淡々と進む一行は、目的地である竹生島と都久夫須麻神社辺りに着いたはずだった。
 はず、としか言えないのは、その痕跡が何一つ見当たらないからである。
「……この分だと、多景島とか沖の白石を目指しても同じかな?」
 警戒行動に気疲れも覚えて、勇華が吐息を漏らす。
 とはいえ休んでいるわけにもいかず、ケルベロスたちは一先ず予定通りに、方角を確かめながら迷宮を潜り続けていった。

 その後、更に時を経てから、彼らを異変が襲う。
 不意に迷宮が揺れ、先の通路が崩れ始めたのだ。
 迷宮の奥に座す女神を撃破すると気合を入れていたケルベロスたちは、それが示す意味を理解するまでに多少の時間を要した。
 ――光明神ナンナを撃破すれば、植物迷宮は崩壊。
 やっと予知情報に思い至った時には、既に先へと進む道はなくなっていた。
「……このまま琵琶湖に沈むわけにはいかないな。俺には、待っている人が居るんだ」
「妙な事を言うのはやめてくれませんか……」
 冗談めかして呟いた頼牙へ、やんわりと空が返す。
 この場に突っ立っていたところで、グラビティ以外でダメージを負わないケルベロスたちなら生存できるだろう。しかし最大の目的が他のケルベロスによって果たされた今、居残る意味はない。
 だが、迷宮へ踏み込んだ意義はあった。カンギ戦士団の一人を引き受け、討ち果たしたことはナンナの撃破にも通じていたはず。
 それでも……と、胸に燻るものを感じながら一行は引き返していく。
 足取りは極めて迅速なものであった。何故なら、プランの手元にある紙が迷宮から抜け出す道筋そのものなのだから。
 つつがなく撤退を終えたケルベロスたちを、冬の空気が出迎える。
 ようやく解放された気分のカティアが、そこに小さな吐息を混じらせた。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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