光明神域攻略戦~光の呼び声

作者:こーや

●淡路島上空
「ここが淡路島、ナンナが担当する琵琶湖と対となる美しい島ですね。さっそく、私の『超召喚能力』を見せるとしましょう」
 光明神バルドルが、手にした頭骨型の魔具を掲げると、淡路島全土を覆う植物の迷宮が生み出されていく。
 それを満足そうに見やったバルドルは、彼の護衛として付き従っていた、カンギ戦士団の面々に信頼の視線を向けると、軽く一礼する。
「では、私はこの中で、『ミドガルズオルム』の召喚を行います。皆さんには、私の身を守る警護をお願いしますね」
 そう言われた、カンギ戦士団の戦士達……ダモクレス、エインヘリアル、シャイターン、竜牙兵、ドラグナー、ドラゴンといった多種多様なデウスエクス達が、その信頼に応えるように胸を叩いた。
「任せて貰おう。我らカンギ戦士団、生まれも種族も違えども、確かな絆があるのだから」
 光明神バルドルが迷宮に入ると、それに続いて、カンギ戦士団の戦士たちも迷宮へと歩を進める。
 全ては、彼らの主たるカンギの為に。

「『淡路島』と『琵琶湖』が、同時に植物に覆われました」
 河内・山河(唐傘のヘリオライダー・en0106)の表情は硬い。
 パッチワークの魔女を支配下に置き、ハロウィン構成植物事件を引き起こした『カンギ』の軍勢による事件だという。
「目的は、無敵の樹蛇『ミドガルズオルム』の召喚のようです。……地球上での召喚を許してしまえば、攻性植物との戦いが不利なものになってしまいます」
 無敵と言われる所以は、どのような方法でも破壊されないという特性にある。
 そんな樹蛇が現れてしまえば、攻性植物のゲートの破壊及び侵略の排除が至難となってしまう。
「今、淡路島と琵琶湖は繁茂した植物で迷宮化しています。内部に『侵略寄生されたアスガルド神』が設置されていて、その神力でこの大規模術式を展開してるみたいです」
 この術式を死守すべく、迷宮には『カンギ』の配下の精鋭軍が守りを固めている。
「この精鋭軍は『これまでの幾多の戦いでカンギが打ち負かし、配下に加えたデウスエクス』です。『カンギ』と厚い信頼と友情で繋がってるので、裏切りはあり得ません。不屈の戦士達です」
 山河はくるりと唐傘を回す。視線はひたと集まったケルベロス達に向けられたまま。
「植物迷宮は淡路島を覆いつくしてます。植物やさかい、破壊して進むことも出来ますけど……壁や床は破壊されると自爆します。巻き込まれたらケルベロスでもダメージを受けますから、ある程度迷宮に沿って移動する必要があります」
 広大な迷宮のどこにアスガルド神がいるかは分からないという。
 ゆえに、探索するチーム毎に探索開始地点や探索する地域を手分けするのが良いだろう。
 せやけど、と山河は言い添える。
「迷宮だけが敵やありません」
 迷宮内には『カンギ』に支配され、攻性植物に寄生されたデウスエクスもいる。彼らが侵入者を排除すべく攻撃してくるのは間違いない。
 侵入者を確認すれば、デウスエクス達は迎撃に出てくる。一定時間が過ぎれば、何処にいても敵の攻撃を受けることになる。
「皆さんにお願いしたいのは、敵であるデウスエクスを撃破して迷宮を探索すること。それと、この事件を引き起こしているアスガルド神の撃破です」
 淡路島の迷宮にいるアスガルド神『光明神バルドル』を撃破出来れば、植物迷宮は崩壊を始め、デウスエクス達も撤退するはずだ。
 説明を終えた山河はふぅと息を吐いた。
「周辺住民は大丈夫です。避難は完了しています。皆さんはこの事件を解決することに専念してください。……よろしくお願いします」


参加者
アリッサ・イデア(夢夜の月茨幻葬・e00220)
斬崎・霧夜(抱く想いを刃に変えて・e02823)
ロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)
虹・藍(蒼穹の刃・e14133)
御影・有理(書院管理人・e14635)
御船・瑠架(紫雨・e16186)
アーリィ・レッドローズ(ぽんこつジーニアス・e27913)
篠村・鈴音(助く者の焔剣・e28705)

■リプレイ

●緑の迷宮
「駄目だな」
 スマートフォンには『圏外』を示すマーク。御影・有理(書院管理人・e14635)はもう一度だけ画面を確認すると、スマホを狩猟服の中にしまい込んだ。
「やはり……。霧夜さん、そちらは?」
「残念だけど、こっちも同じ。予想通りってとこだね」
 おどけるように肩を竦め、インカムを外す斬崎・霧夜(抱く想いを刃に変えて・e02823)。刹那、御船・瑠架(紫雨・e16186)の目が厳しく輝いたが霧夜は気付かない。
 通信機器が使えない可能性は分かっていたが、事実として突き付けられれば嬉しくない話だ。
 瑠架は小さく息を吐いて周囲を見回した。
 どこもかしこも緑で覆われている。明かりが必要なほどではないが、隙間から差し込んでくる程度の光では気分を晴らすには至らない。
 アーリィ・レッドローズ(ぽんこつジーニアス・e27913)の赤い瞳が鬱陶しいと告げている。緑ばかりの景色にはうんざりさせられる。いっそナパームで石器時代に戻してやりたいくらいだ。状況がそれを許さないのだから、嫌気はさらに増すというもの。
「地道にいくしかない、か」
 言いながら虹・藍(蒼穹の刃・e14133)は気流を纏う。アーリィと霧夜も同様だ。もう先行偵察するつもりはないが、8人全員が発見されやすい姿でいるよりは時間を稼げるはずだ。
 見知った顔もいるのだ。先の分からぬ迷宮の中においても心強く、藍の表情に不安の色は無い。
「敵はどこから来るかわかりません。先ずは焦らず、確実に進みましょう」
 篠村・鈴音(助く者の焔剣・e28705)の言葉に頷きを返し、ケルベロス達は緑の迷宮を進み始めた。
 最初の曲がり角で、ロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)が小さな手鏡を取り出した。
「少し待っていてくれ」
 壁に体を隠したまま、低い位置で鏡を使う。進行方向の様子を探って簡単に安全を確認すると、ロウガは小さく大丈夫だと言って先を促した。
 背後は最後尾についた鈴音が気を配り、周囲の警戒はアーリィが担っている。不意打ちで乱される心配はない。
 アーリィは蔓や茎、幹などを組み合わせたような足場に辟易しているようではあるが、些細な問題だ。
 何度目かの丁字路。
 やはりロウガが手鏡で進行方向を見定めている間に、アリッサ・イデア(夢夜の月茨幻葬・e00220)は黒い油性ペンでどこから来たかが分かるように目印を記す。
 その様を覗き込むビハインド『リトヴァ』にアリッサは囁いた。
「終わりの見えぬ迷宮はまるでこの星の行く末のようね」
 落ち着いた眼差しで2枚の地図を眺めている有理。1枚は『淡路島』の地図。もう1枚は有理が迷宮に入ってからマッピングし始めたものだ。
 迷宮の地図に現在地を示すマーカーがあるのに対し、淡路島の地図には無い。
 それでも有理が淡路島の地図を確認したのは、自分達の当初の予定と現状を照らし合わすためだ。
 ちらりと背後を窺ってから、鈴音は小さな声で有理に問いかけた。
「どうですか?」
「神社の近くは通れたはずだが……マッピングが難しい」
 言いながら、有理は自作の地図を示す。迷宮と言うだけあって複雑な構造だ。ここまで歩いてきた以上、理解してはいたが図で見ると改めてよく分かる。
 いくつもの分岐だけでなく、行き止まりや下の階層へ通じる穴。逆に、緩やかな登り道を進めばいつのまにか違う階層にたどり着いていた、なんてこともあるせいで地図にするのが難しいのだ。
 そして今度は天井に大きな穴。3階層ほどをぶち抜いたような高さがあり、ご丁寧にも登るのに使えそうな蔓が壁に絡みついている。
 これまた地図にするのがややこしい地点だ、と有理は小さく息を吐く。
 一方で、霧夜とアリッサ、ロウガが顔を見合わせた。
「これは……」
「私たちが手伝った方が良さそうね」
 ここに藍を加えた4人は翼で空を飛べる。分担して飛べない仲間を運んだ方がいいと判断したのだが――。
「皆、構えて。敵が来る」
 望遠鏡で上層を覗き込んでいた藍の短くも鋭い警告。
 全員に緊張が走った。穴の奥を見上げながら武器を構えるのだった。

●金の翼
 バサリ。金の翼を持つ女は羽音と共に舞い降りるや否や、床を蹴った。
 一瞬で間合いを詰め、霧夜に剣を振るう。重い一撃が霧夜の体から血を散らさせた。
「っ……! 突然だね、挨拶も無し?」
「侵入者相手に挨拶が必要と思って?」
 女が言い終わるよりも先にロウガが動いた。太く長大な銃身を女に向け、凍結光線を放つ。
 体を反転させて躱した女の顔が、この時はっきりと見えた。
 既視感のある顔立ちに藍は眉を顰める。誰かに似ているような気がしたが、誰だろうか。
 巡り始めた思考を止めたのは、ロウガの声だった。
「何者だ」
「言わずとも分かるでしょう? 私はこの迷宮を守る者」
「そういうことではない! 貴殿は……まるで他人とは思えない。何故、カンギ戦士団なぞに……?」
 ここで藍は思い至った。この女はロウガと似ている気がするのだ。それが、少し前に解決した攻性植物の事件の記憶を呼び起こす。苦い記憶だ。
「ホント、嫌な連中ね……」
 有理が放った正確無比な狙いの竜砲弾が女の肩を打つ。衝撃で身をのけぞらせたところに、今度はアーリィの光線が着弾した。
 女は舌打ちすると、大きく跳び退った。
「私の名はルーチェ。侵略寄生を受け入れ、カンギの信頼と友情に応えんとする戦士の1人。それだけよ」
 ルーチェは霧夜の雪のように白い刃を剣で防ぐ。
 すぐに距離を取った霧夜の背を打ったのは瑠架の苦い声。
「あなたらしくないですね。頬を張って気合を入れて差し上げましょうか」
 無敵の樹蛇なんてものを復活させるわけにはいかない。
 そして、攻性植物に寄生された友人。その友人を討った過去。最近では、犠牲者を救えなかった事件。それらのことがあり、霧夜は思いつめていた。
 瑠架の声音が鋭くなる。
「今は目の前の敵に集中しろ」
「……ああ、わかっているよ、瑠架くん。目の前の敵だって無視出来ない。コイツも斬って、復活も止める」
「分かっているなら結構。また同じ顔を見せたら、今度こそ張り倒してあげますよ」
 タタッ、瑠架は軽い足音を立てて女の眼前に迫り、電光石火の蹴りを見舞う。
 鈴音は静かに瞼を下ろした。紅い刃に己の意識を重ね、霊的防護を断ち切る力を引き出す。
 アリッサが発生させたカラフルな爆発。その爆風に押されるようにロウガが飛び出した。
 雷の霊力を宿した刃が、神速で突き出される。痛みに顔を歪めながらもルーチェは大きく翼を広げ、光を放った。
 ロウガは己が姿勢を崩すことに構わず、アーリィを庇う。
「ルーチェ、貴殿のことが何故こうも気にかかるかは分からない」
 立て直しながら、ロウガはルーチェを睨み付けた。
「だが、カンギの戦士として闘う宿命から、あなたを解き放たなくてはいけないということだけは分かる」
「結構よ。友情と信頼の為に剣を振るう。それは私の喜びなのだから」
「信頼と友情、か。デウスエクスにも大切な繋がりを持つ者達がいるのだな」
 緑の迷宮に響く、有理の声。
「そう。私達は繋がっている。だからここにいるの」
「絆結ぶ者がいるのは私も同じ。負けるわけにはいかない」
 寄生植物事件で消えていった命。取りこぼしてしまった命。
 今回の件がその元凶ともいえるカンギに繋がっているというのならば、打ち砕くのみ。
 ゆえに有理は迷わない。
 守護の願いと祓魔の祈りを胸に、闇色の翼を広げ進む。
「己の成したいように成し、守りたいものを守る。それが御影の一族の……私の在り方だ!」

●緑の終焉
「熱風の刃……疾れッ!」
 鈴音の神速の一撃が、無数の鋭い熱風を呼ぶ。女はなんとか逃れようとするが叶わない。新たな切り傷が白い肌に刻まれていく。
「不屈の戦士とはよく言ったもんよね」
 アーリィは、呼び出した氷河期の精霊がルーチェを凍らせたのを見て呟いた。
 腕は凍てつき、肌は焦げ、数え切れぬほどの傷を負っている。それでもルーチェの闘志は衰えるどころか、激しさを増すばかり。
 ビハインド『ヴァレイショー』が背後から襲い掛かるが、ルーチェは大きく剣を振るって相殺してみせた。
 そこには強い意志がある。
 けれど、今まで寄生された人々に意志はなく。助かった命もあれば、零れていった命もある。
 彼らの無念を思えば、瑠架の刃が自然と震える。
「お前に此の声が聴こえるか?」
 鬼と化した腕を細い体に叩きつけられた。
 女はギリと歯噛みし、すかさず距離を取る。が、畳みかける機を霧夜は逃さない。
 繰り出した神速の突きがルーチェの肩を穿つ。
 咄嗟に肩を抑え、崩れ落ちそうな体を懸命に動かす女めがけて、ロウガは駆けた。
 その背を押すように、アリッサは禁断の章を紐解いた。足元を彩る夜色のミュールのように紫水晶の瞳が揺れる。
「最期は、あなたが」
 剣に不死鳥の形をした霊力を宿す僅かな間も、ロウガはルーチェから目を逸らさない。
 女の髪を彩る赤と青の花が妙にはっきり見えた時、胸が騒ぐ理由が朧気ながらも見えた気がした。
 記憶にない自分の『母』は、このような姿をしていたのかもしれない。
 複数の分身からなる斬撃が女に襲い掛かった。
 耐えることができず、女は緑の地面へと倒れ込む。浅く小刻みに上下する胸が、生命が終わる時が近いことを告げている。
「カンギ……すまないわね。私は、ここまで」
 姿の見えない戦友へと手を伸ばすと、女はカハッと血を吐いた。ゆるりと腕を下ろし、己にとどめを刺したオラトリオへ視線を向ける。
「貴方、名前は?」
「……ロウガ。ロウガ・ジェラフィードと言う」
「そう……いい、名前、ね……」
 血で赤く染まった唇で緩やかな弧を描いて、女は最期の時を迎えたのであった。

 何に気付いても、何を知ってもやるべきことは変わらない。進まなくてはいけないことを、藍はよくよく理解していた。だから、静かに先を促す。
「……行きましょ」
「ええ。でも、これだけは」
 アリッサはそっとルーチェの体に触れた。簡単に遺体を整えてやる。これ以上は、何もできないけれど。
 祈りを捧げていたロウガの眦から涙が一滴零れ落ちる。
 母上という呟きには、全員が耳を閉ざした。触れていいことではないと、誰もが思ったからだ。
 そして一行は再び迷宮を進み始めた。
 道は相変わらず複雑で、行き止まりも珍しくない。今もまた、行き止まりで足を止めた。
 感応寺山の方には近づいていたのだが、戻らなくてはいけない。遠ざかることになる。
 アーリィは面倒だとばかりに顔を顰めた。
「……やっぱ焼き払いたいわね。爆発とか鬱陶しいったらありゃしない」
「どういう仕組みなのかしらね、この植物」
 藍が小さく溜息を吐くと、鈴音も苦笑いを零した。
「うんざりしちゃいますね。……あれ?」
「鈴音ちゃん、どうかした?」
「今、何か変な音が……」
 途端、はっきりと何かが崩れる音を全員が耳にした。
 この場で崩れるものと言えば一つしかない。迷宮を構築している植物だ。他の班がバルドルを倒したのだと理解するにはそれで十分だった。
「引き返しましょう。このままだと崩壊に巻き込まれます」
「急いだ方が良さそうだね。生き埋めは嫌だし」
 霧夜と瑠架の言葉に頷くと、ケルベロスは一斉に走り出した。
 外を目指す間にも崩壊は進む。
 落ちてきた人の胴よりも太い茎がアリッサの体を打つよりも先に、リトヴァが心霊現象で弾いた。
「頼りにしているわ、わたしの『いとし子』」
 柔らかな笑みを浮かべ、銀髪のサーヴァントを見遣る。たとえ強すぎる光に焼かれても。夜よりも濃い闇に飲まれても、一緒なら乗り越えられる。
 リトヴァも応えるように笑みを浮かべた。
 かくなる上は仕方ない。藍は植物の壁へ鎌を振るった。覚悟していた衝撃は無い。バルドルが倒れたからだろうか。
「このまま外を目指しましょ」
「あ、それなら遠慮なく」
 たまった鬱憤を晴らす勢いで、外への道を阻む壁に穴をあけていくアーリィ。
 往路とは比べ物にならぬ速さで駆け抜けた一行は、迷宮が完全に崩壊するよりも先に淡路島の地面に足を着けることができた。
 皆がほっと息を吐く中、一人のオラトリオは静かに迷宮へ頭を下げるのであった。

作者:こーや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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