光明神域攻略戦～無敵の樹蛇召喚を阻止せよ

■リプレイ

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「やっぱり携帯は通じないようね。他の班と連絡が取れれば、いろいろ楽だったけれど、まあ仕方がないわね」
　英・陽彩（華雫・e00239）が通じない携帯電話を仕舞い込んだ。
「データそうしんもできません。でも、目立たないようがんばります」
　同様に、出田・ウチュージン（ばるきりわ・e24872）も持参したスマートフォンを片付ける。
「まあ、ほら、俺たちは俺たちで行けるだろ」
　そのための準備はしてきたのだから。
　ロア・イクリプス（エンディミオンの鷹・e22851）が気持ちを切り替えるようにひとつ小さく伸びをしてみせた。
　陽彩とウチュージンは顔を見合わせて頷きあう。
「うん。他の班のみんなも、きっと頑張って捜索しているよね」
　捜索開始地点の淡路市北部から出発して数分、他の班の声は聞こえてこない。
　広い範囲での捜索だからこそと、ルア・エレジア（まいにち通常運行・e01994）は手にした地図を見た。
「現在の場所は……どうだ？」
　周囲を警戒しながら、ヴィンセント・ヴォルフ（白銀の秤・e11266）も一緒になってルアの手元を覗き込む。
「淡路島のどの辺りって言うのはわかるけど、島の地図じゃあ迷宮にはあんまり意味ないよね」
　肩をすくめてルアが答えた。
「何階層にもなっているようですしね」
　話を聞いていた祝部・桜（残花一輪・e26894）が頷く。
　ケルベロスたちが足を踏み入れた迷宮の床や壁は、植物ががっしりと組み合わされて作られており、上ったり下ったりの複雑な階層になっているようだ。
　それにしてもこんなに植物が。
　桜は周辺の植物を見ながら、ここで必ずバルドルらを止めなければならないと思った。必ずだ。たとえ命に代えたとしても、絶対に必ず。
　それほど、彼女のこの仕事にかける思いは強い。
「Paradis！　あぁ、攻性植物がこんなに沢山！」
　人知れずこぶしを握りかけた桜は、仲間の声にはっと顔を上げた。
　シエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する人形娘・e00858）が瞳を輝かせて迷宮の壁を見ている。
　できればここに永住したいという雰囲気さえあった。
「んー、緑化活動もここまでやられたら困りものじゃな」
　その様子を見ていたキーリア・スコティニャ（老害童子・e04853）も迷宮の壁を見上げる。
　光を当ててみると、植物で構成された天井に伸びるように、さらに蔦がいくつも這い上がっていた。
　慎重に一歩踏み出してみる。この場所は天井が低くてあいにく飛べはしないけれども、好奇心が沸いてくると言うものだ。キーリアは仲間の足元を照らしてやりながら、再び植物が伝う壁を見上げた。
「さあ進もう」
　ヴィンセントが仲間たちを促す。
　油断せず、焦らず、かつ迅速に、と。
　迷宮探索は始まったばかりだ。

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　ケルベロスたちは迷宮を、奥へ奥へと進んでいった。
　今は、緩やかのぼりの道を少しずつ前進している。
「このまま行けば、階層が変わるかもしれないぜ？」
　周囲に気を配りながらロアが言った。
「そうね」
　陽彩が確認するように後ろを振り返り、頷く。
　先ほどまでは、入り組んだ細い道を歩いていた。何度も曲がり、来た道と未踏の場所を区別しながら、進んできたのだ。
　今歩いている、のぼりの道に入ってから、分岐が無くなった。
　陽彩はもう一度道の様子を確かめ、皆に言う。
「やっぱりこの道は上へ向かっているわよね」
　仲間たちもこれに同意した。
　やがて視界が開け、比較的広い場所に出る。壁や床の作りは今までと変わらないが、細い道は無く通路も幅広くなっていた。
「今までとずいぶん違う印象じゃのう」
「ここも、天井はひくくて飛べません」
　キーリアとウチュージンは共に天井を見上げる。飛んで迷宮全体を見渡すことが出来たら、ここは一体どんな様相なのか分かったのだろうか。
　とは言え、今は地道に歩くしかなさそうだ。
「桜……そこは足元が」
　ヴィンセントが桜の手を引いた。植物が絡み合って出来ている頑丈な床だけれど、決して平らな通路ではない。
　それに、見通しが良い場所は、敵からこちらの姿も良く見えると言うことだ。
　ヴィンセントは一層注意深く警戒の目を走らせた。
「大丈夫ですヴィンセントお兄さま」
　敵の動きを警戒するヴィンセントの意図を汲み取り、桜が頷く。
　そうして、周囲を警戒しながら、壁を壊さないよう十分注意してケルベロスたちは迷宮を進んだ。
　いくつか坂を上がり、階段を登り、再び植物の蔦が生い茂る狭い通路の階層に来た。
「ええと、広かったり、抜け道があったり、俺たち随分進んだよね」
　更に増えていく迷宮の情報を整理しながら、ルアが辺りを見回す。
　迷宮に足を踏み入れてから、そろそろ一時間が経とうとしていた。
「heureux……ずっと攻性植物を眺めることが出来ましたの」
　うっとりと壁の植物を眺めシエナが頷く。
　ここも、そこも、全てが植物だ。
「ダヨネー。とっても良い所、デショ？」
　ふと。九つ目の声がした。
　ロアは自然な風に足を止め、仲間に目配せをする。
　皆が静かに歩みをやめた。
「consentement！　はい。ここはとても興味深くて、愛しい場所ですの」
　シエナは胸の前で両手を組み、声のした方を向く。
「分かルー。植物サイコー！　ばあ！」
　狭い通路の先を塞ぐように、それは現れた。
「Decouverte！　お父様、ようやく会えたですの！」
「ハイ？」
　裸体に植物の蔦が這い、色とりどりの花を咲かせている。
　植物を衣類のように着込んでいると言っても良いかもしれない。
　髪を後ろの高い位置で一つに結った金髪の少女は、お父様と呼びかけられて首をかしげた。
　彼女はエインヘリアルのアシュトレテ。
　カンギによって支配され、この場所でケルベロス達の行く手を阻む敵である。
「アシュトレテはお父さまだけど女の人……なんだよね？」
「植物使いのエインヘリアル……む、シエナの父とな？　男どころか母か寧ろ姉くらいにしか見えないが、見た目で判断できんものじゃな……」
　ルアとキーリアはわさわさと蠢く敵の植物を注視しながらこそこそと話し合った。
「シエラの、父……？　通してもらうわけには……いかない、か」
　ヴィンセントの言葉に、アシュトレテが首を振る。
「とにかく、ココは通さないゾ！　とっとと植物の養分になるがいいヨ。まあ、宿主になって苦しんでもいいケドネ」
「じたくていぎを私達と我々の護るものへ一時再編。自陣・防衛線――再認」
　ウチュージンが爆破スイッチを構えた。
「此の先我等が陣。汝の進軍を禁ず」
　仲間の配置を確認し、そのスイッチを押下する。カラフルな爆発がいくつも発生し、爆風を背にした前衛の仲間の士気が高まる。
　そして、戦いが始まった。

●
「entendu……お父様、はじめましてですの」
　ボクスドラゴンのラジンシーガンを従えシエナがアシュトレテの前に立った。
　自己紹介をし、いかに攻性植物が愛おしいかを訴えかける。
「ちょっとナニ言ってるのかわかんないケド、植物は可愛いよネ！」
　アシュトレテはニコニコと頷きながら、身体に這い回っている蔦を伸ばした。
　敵の攻撃の気配を感じ取り、ルアが地面を蹴る。
　手足を獣化させ、肥大した蔦を引きちぎった。
「ふーん、アンタがアシュトレテ？」
「チョット、痛いじゃないの」
「シエナちゃんのお父さんらしいけど、傷付けたりしたら許さないよ？」
　正面から話しかけるシエナに攻撃が集中してしまうかもしれない。そうならないよう頑張らなければとルアは思う。
　植物を傷つけられ抗議するアシュトレテを無視して、最後にもう一度植物の触手を蹴り上げて距離を取った。
「まぁ見た目など些細な話。邪魔するならば倒すのみじゃ」
　その間にエアシューズを煌かせキーリアが飛び込んでくる。
　アシュトレテが一歩飛び下がった。
　だが、キーリアも次の一息で再び間合いを詰め、敵に肉薄する。
「逃がしはせんのじゃ」
　届くと判断し、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放った。
　凄まじい勢いの蹴りがアシュトレテの身体を吹き飛ばし、機動力を奪う。
「これがシエナさんの、お父さま……？」
　くるくると床を転がるように逃げる敵を見下ろして桜は言った。
　身体に巻きついている植物が主を庇うように這い回り、怪しく蠢いている。
「エヘヘ。植物チャン、ありがとー！」
　伸びた植物の蔦に頬ずりしながらアシュトレテが立ち上がった。
　その姿を見て、桜は惨殺ナイフを握り締める。
　そして走った。
　これは明確な殺意だ。
　ナイフの刃をジグザグに変形させ、真正面から突き刺す。
「っ、たぁい」
　アシュトレテが顔を歪めた。
　全く取り合わず、桜はナイフを力任せに動かし、傷口を無造作に切り開いていく。
「桜……」
　怒り狂ったような桜の姿に驚きながら、ヴィンセントは妖精弓を２つ束ねた。
　そんな彼女を、最大限サポートしたいし守りたいと思うのだ。
　桜が敵から離れた瞬間を見計らって漆黒の巨大矢を放つ。神々を殺すほどの巨大な矢が敵の身体を貫き、自由を奪った。
「ヴィオロンテ！　激励お願いしますの！」
　仲間の攻撃の間に、シエナが攻性植物ヴィオロンテを呼ぶ。ヴィオロンテは大顎を形成し咆哮をあげた。
　仲間を激励する、大音量のリュジスモン・ヴァジー・フォンスだ。
「ここは何としてでも食い止めないといけないわね」
　陽彩も仲間に続く。
　他の仲間同様、少女の姿のアシュトレテが『お父様』とは、戸惑いもある。だが、負けられない。負けたくない。
　陽彩は植物を捕食形態に変形させ、敵の身体に喰らい付かせた。
「あ、あはっ。可愛い、カワイイ、植物チャンだぁ」
　確かに毒を注入しているはずなのに、アシュトレテは嬉しそうな声を上げる。
「なにか、すごく、喜んでいます」
　おかしいぞ。傷を負っているはずなのに、喜んでいる？
　ウチュージンが敵の姿を見て、不思議そうに首をかしげた。
「あー、うん。別に気にしなくてもいいんじゃないか？」
　ロアは顔の前で手をひらひらと振り、遠くを見る。
　それから思い直したように、鎌の刃に『虚』の力を纏わせ地面を蹴った。
「…………なんで、こう。露出高いのかねぇ」
　言いながら、植物も敵の身体も、容赦なく切り刻んでいく。
「きればきるほど、もっと見えます」
　続いてウチュージンも殺神ウイルスを放った。
　投射したウイルスカプセルがアシュトレテに命中し、更に傷を増やす。これで、回復も阻害できるはずだ。
「エヘヘ。よくわかったヨ。それじゃあ、植物チャン、行こうカ」
　確かにダメージを与えているはずだが、それでもアシュトレテは余裕の表情で立ち上がった。
　攻撃が来る。
　ケルベロスたちは表情を引き締め狭い通路を走った。

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　植物で出来た壁を、アシュトレテの植物が這いまわる。
「ネ、植物はかわいいでしょ？」
「entente……分かります、お父様。攻性植物はこんなにも素敵で愛おしいの」
　シエナは頷き、ヴィオロンテを撫でた。
「ダカラ、みぃんな、取り込まれると良いよネ！」
　アシュトレテの植物が触手状に伸びてロアに絡み付こうとする。
「そうは、させぬのじゃ」
　素早くキーリアがその前に立ちはだかった。
　蔦がキーリアの身体を縛り上げ、ぎりぎりと締め付ける。
「おい、大丈夫か？」
　すぐに引き剥がそうと、ロアが蔦を掴んだ。力を込めるが、普通にしていたのでは、全くピクリとも動かない。
「引き剥がすわよ」
　陽彩は言うと、半透明の『御業』をけしかけアシュトレテの身体を鷲掴みさせた。
「了解、これは厄介だぜ」
　ロアは頷き、達人の一撃で伸びた触手を断ち切る。
「ふう、なかなかの攻撃じゃったな。体に纏う植物ごと石となるがよい」
　自由を取り戻したキーリアは、すぐに古代語の詠唱をはじめ、魔法の光線を放った。アシュトレテの一部が石化するのが見える。
「すごい、しょくぶつでした！　どーんと回復します」
　敵が離れたのを見て、ウチュージンがキーリアに駆け寄った。
　傷の具合を確かめ、すぐにウィッチオペレーションで回復させる。
「Negation……お父様、わたしは宿主となる人の意思を無視して寄生させる事だけはいけない事だと思うですの」
　アシュトレテの行いを見つめ、シエナが首を振る。
　寄生に対する考え方だけは、相容れないようだ。
「ムッ。煩い小娘デス。アシュトレテは女ダヨ。変なこと言わないでネ！」
　シエナの攻撃を避けながら、アシュトレテが頬を膨らませた。
「うーん。話があんまり通じてないよね？」
「カンギの支配……か」
　ルアとヴィンセントが顔を見合わせる。
　目の前の敵は、『カンギ』配下の精鋭軍、カンギが打ち負かし、配下に加えたデウスエクスだ。元の性格の雰囲気は残っているようだが、もはや別人になっているのかもしれないと、二人は思った。
「それでも、どうあっても、倒します」
　話を聞いていた桜が再び惨殺ナイフを構える。
　ルアとヴィンセントは頷き、桜に続いた。
　打ち合い、護り、癒しながら数分が過ぎる。
「くっ、ナカナカ、だネ」
　ついにアシュトレテが膝を付いた。
　ここぞとばかりに、ケルベロスたちは攻撃を叩き込む。
「みなさん、だいじょーぶですか？」
　仲間達の体力はウチュージンが支えていた。
　傷の具合を常に確認し、考え、適切な回復の業を向けている。
　今は悪い効果を背負った前衛の仲間達に向けて、薬液の雨を降らせた。仲間達の傷がたちまちいえていく。
「シエナちゃん、お父さん倒させてもらうね」
　ルアはシエナが頷くのを見て怒りの咆哮を放った。
「いまコロスから逃げんなよ！！」
　咆哮と共に怒りの感情を生み出し、肉体と精神の破壊衝動を高める。止まらぬ怒りを拳に宿し、アシュトレテの身体を打ち砕く。
「ここまでです」
　最後に桜が音速を超える拳で吹き飛ばすと、アシュトレテは砕け散り消えていった。

「Deuil……さようなら、お父様」
　消えていったアシュトレテを弔うシエナを仲間達は見ていた。
「さあ、まだ進めるか？」
　ロアが声をかけると、シエナは立ち上がり皆の後ろについてくる。
　しばらくは、ケルベロスたちは迷宮を探索した。
　迷宮に入り２時間３０分が過ぎただろうか、突如植物迷宮の崩壊が始まったのだ。
　バルドルが倒されたことを察し、ケルベロスたちは撤退を決める。
　随分奥まで進んでいたけれど、崩れる迷宮をグラビティで撃ちぬいて破壊しながら潜り抜け、ケルベロスたちは無事帰還した。

作者：陵かなめ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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