光明神域攻略戦～緑の階

■リプレイ

●迷宮
　前もって上空から見つけておいた入口。
　何が待ち受けるか未知数の琵琶湖上の植物迷宮へとケルベロス達は足を踏み入れた。
　ヘリオンから見た植物迷宮は内部が見えるものではなく構造は把握できない。
「やっぱりダメだったか」
　予想はもちろんしていた。フォンセ・グングニル（元戦乙女の一本槍・e24796）の扱う隠された森の小路。
　それはどうやら、この植物迷宮内では使えないようだ。
「俺知恵の輪と迷路って好きじゃねぇんだよなぁ……頭使うしよぉ」
　はぁ、と溜息つくフォンセを傍らの幼さ残る少女のビハインド、エレナが気に掛ける。するとぱっとフォンセは顔を向け。
「でも今回はぶっ壊しても良いんだろっ！？」
　それにエレナが頷くとよっしゃ、とフォンセは意気込んだ。
「こっちも使えねェか」
　ま、そんなもんかとヴェルセア・エイムハーツ（ブージャム・e03134）は試してみた携帯をしまう。
　使えれば、他の班と連絡が取れ情報交換もできただろうがここは敵の領域。
　それにしてもとヴェルセアは軽く笑う。
「宝箱のない迷宮なんザ、シケてやがんなァ」
「お宝はなくて敵はいそうだけどね」
　フェクト・シュローダー（レッツゴッド・e00357）はこのあたりにはいないけど、と周囲の様子を伺う。
　未知あふれる迷宮の踏破。そう聞いてオルテンシア・マルブランシュ（ミストラル・e03232）が想うのは一年前の事だ。
（「似て非なる回廊の踏破、此度も成して見せるわよ」）
　その気持ちはふと表情に現れ、傍らで従者のカトルがぴょんと跳ねた。
「あらカトル。やる気満々ね」
　それじゃあこの次の分岐で先に行ってもらうわよと言うとかぱっと蓋あけて答える。
「迷宮探検……って言葉だけなら楽しそうなんだがな」
　琵琶湖の上に現れた樹木の迷宮。
　その中へ足を踏み入れれば、上下左右、すべてが緑だ。
「変貌前の地図はあんまり役に立たないな」
　広げていた地図を疎影・ヒコ（吉兆の百花魁・e00998）は折り畳む。
　迷宮は、平面的なものではなく上下にも広がっていた。湖のどのあたりなのかはわかるがこの迷宮内での居場所を知るには迷宮の地図を作らなければならない。
　しかし方位磁石は狂っていない。進む方角については参考に出来そうだ。
　進む方向はこっちで良さそうかと狗上・士浪（天狼・e01564）は肩越しにヒコへ視線を。ちゃんと中心に向かっているとヒコが頷くとそうかと士浪は視線を前に。
「破壊されねぇ存在……んな反則級のモンまでいやがるたぁ。何でもアリだな、奴等は」
　迷宮のどこかにいる光明神ナンナの目的は、『無敵の樹蛇』ミドガルズオルムの召喚だという。
　それがどんなものかは分からないが、確かに放っておくわけにはいかねぇよなぁと士浪は零した。
「すぐさま襲撃があるかとも思っていましたが」
　拍子抜けするほど何もないですねとベルノルト・アンカー（傾灰の器・e01944）は周囲に視線を。
　迷宮中を敵がうろうろしているという事は今のところない様子。しかし、いつ襲撃されてもおかしくはない。
「何の音もしないもんなー」
　静かなもんだぜと深宮司・蒼（綿津見降ろし・e16730）は言ってあたり見回した。
　衣擦れや足音などの音に注意を払っているが、自分達以外のものは響いてこない。
　曲がり角も手鏡で先の安全を確認して進む。
「無敵の蛇かぁ……」
　無敵ってことはすんげぇ強いって事だろ？　と蒼は言う。どんな奴なんだろ、ちょっと見てみたい気はするよなとそわっと。
「んでも、侵略されるのは困るし。一番奥にいるやつ倒したら止められるんだろ？　んじゃ、とっとと行こーぜ！」
　にひっと笑顔浮かべて蒼はまっすぐでいいかと問う。
　この先に何者が現れるのか。そしてどうなっているのかは進まないとわからない事だ。

●カミヒメ
　探索を初めて一時間ほど経っただろうか。
　まだ迷宮が抜けられるような気配は感じられない。
　行き止りがあれば戻るか、進むか。行き止りをそのまま進むべく、ベルノルトは攻撃を駆けた。
　すると向けられる攻撃。しかしベルノルトが受けたのは本来の半分ほどの威力。
　大きく遠回りしそうな時には、そのまま進んでいく。
　そしてまた分岐に差し掛かる。分岐などではマーキングを残し、解るようにしてきた。
「導の鎖は反応してくれないかしら？」
　星と白花、夜空色の宝石が細工された鎖がしゃらりと鳴る。
「迷ったら占卦……」
「それで辿り着ければ簡単なんだけどな」
　笑うヒコにオルテンシアはもちろん軽口よと言う。
　中心へ向く道を選び進みゆく。
「――どうやら」
　あたりをひいたみたいね、とオルテンシアは言う。
　進んだ先は開けた場所。その中心に静かに佇み微笑んでいる少女がひとり。
「きましたね、ケルベロス。わたくし、カミヒメがナンナの元へは行かせません」
　ここで朽ちてしまいなさいなと笑う。
　フェクトはその名に覚えがあった。直接対した事はないが、自らを神と称し、『救済』と銘打って人生に絶望している者を自身の信者としている。
　そんな螺旋忍軍がいるという話を聞いた事がある。
　カミヒメ、とフェクトが名を紡ぐとわたくしを知っているのねと彼女は微笑む。
「あなたも救済されたいのかしら？」
　そんなものは、ここにはいない。そう、一瞬の沈黙で答える。
「神様を名乗ってる癖に他人の下に付くとか神様として意識低すぎじゃない？」
　フェクトの言葉に頷いてベルノルトは言葉続ける。
「敗北し、強者に仕える身に堕ちて。如何して神を名乗れましょう」
　しかしその問いに、わたくしは神ではないと幸せそうに少女は微笑んだのだ。
「そう、わたくしは神ではないの。カンギ様こそが神の体現、わたくしの喜びはあの方に尽くす事、あの方が皆救済してくれるの」
「戯言に付き合ってる暇はねェ。通らせてもらおうカ」
　その言葉にハッとヴェルセアは息吐いて笑う。それに、とヴェルセアはフェクトにちらりと視線向けて片目瞑って見せる。
「シシッ！　自称神様は間に合ってル。これ以上増えたら腹が捩れるゼ」
　フェクトは一緒にしないでよとカミヒメに視線向ける。
「神様っていうのは全てを救い、全てを創り出すもの」
　フェクトはとんと地面を蹴って走る。それは戦闘の合図。
　いつでも戦えるように構えていたが、それぞれ手を打つべく動き出す。
「私は私教絶対唯一の神様、フェクト・シュローダー！」
　フェクトの瞳はカミヒメを取られている。そして振り上げた脚には流星の煌めきと重力。
「それすら分かってない君なんかに、私は負けない」
　飛び蹴って、着地。フェクトはその負けないという気持ちのままに視線向ける。
「ごっこ遊びに付き合ってられるほど暇でも白状でもねぇんでな」
　もう一つ、喰らってくれとヒコも続けて、流星纏うその脚を振るった。
　まだこの身は十分仲間を守る事ができるとベルノルトが自身の状態を判断している。実際、壁を攻撃して受けたダメージは深くはない。
　今は攻撃の機会と踏み込んだ。
「稚拙な毒ですが、ご覧に入れましょう」
　刀身に映し出された色彩と太刀筋が描く一定の軌道。それにより発動する魔術陣はカミヒメの感覚を鈍らせる。
　そこへヴェルセアの蹴りが決まる。カミヒメは重力の力を蹴りと共にもらいまた動きにくくなっていた。
「お前の方が面白くねェみたいだナ」
　やっぱり自称神様はもういらないとヴェルセアは笑う。
　その影から蒼は飛び出し攻撃を。
「こっちからも行くぜ！」
　雷の霊力を螺旋手裏剣の、両剣のごとき二枚刃に宿らせた一撃にカミヒメのバランスが狂う。
　その間にオルテンシアは黄金の果実を実らせる。その恩恵は自身を含めた後列へ。
　すべき事は警戒する事。
　戦う皆の様子をみつつ余力あればと連携を意識する。
　そしてカトルは前列に立ち、庇いに入ったりと十分仕事を果たしている。
「救済できるものならしてみろ」
　それより早く、倒すとばかりに士浪はドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変える。
　後方から狙い澄ました一撃は、迷う事無くカミヒメを捉えていた。
「皆行くぜっ。その盾は飾りじゃねぇだろ！　一歩前へ、ここから先は行かせねぇ」
　フォンセは過去散って行った同胞達の中から大盾を好んで身に付けていた騎士達の霊体を召喚し前列の仲間達を守護させる。
「カミヒメも迷路も倒してナンナ見つけねぇとな！　な？　エレナ」
　こくりとと頷くエレナは後方から攻撃を可能な限り。
「あなたたちも負ければ、気が変わるかしら」
　救済されなさいとカミヒメは言う。そして振るうのは攻性植物だ。
「カンギ様から頂いたこれで倒してあげるわ」
　捕食するようにそれは動き、襲い掛かってくる。その威力は一撃で追い詰められるというものではないが、それでも続けて貰えば危ないものだと庇いに入ったベルノルトは思う。
　そして螺旋忍軍である彼女が攻性植物を使うという違和感。
　フェクトは自分が聞いて、知っていた話との差異を感じていた。
「まるで別人みたい……けど」
　今はその理由を考えるよりも先に、戦いを終わらせる事が優先される。
　この後の事も考えれば、望ましいのは短期決戦。

●歪んだ忠義
　様々な阻害をもって抑え込み動き辛くし一気に仕掛け決する。
「カンギ、カンギってそんなにそいつが好きか」
　ならそいつの夢でも、垣間見ろとヒコは言う。
「世の中は　恋繁しゑや　かくしあらば――……其の望み、抱いたまま零れろ」
　涅槃西風を纏った一蹴は、混濁した意識を白昼夢へ誘う。その眠りから意識を引き戻そうとするが、すでに甘き痺れがその身を一途に蝕んでいる。
「眠気覚ましは俺がしてやるぜ！」
　そう意気込む蒼へと紡がれる力がある。
「シビュラを疑え。ヴォルヴァを訝れ。――天を欺き、エヌマ・エリシュを覆せ！」
　未来に繋がる一手は在る。強い意志を以て引いたカードに宿るのは道ひらく力。オルテンシアは蒼へ援護よと合間に言葉向ける。
　傷は癒え、そこに一層力のるのを感じた蒼。
「凍てつき止まれ薄氷の壱式、氷魔針！」
　蒼の手元に集まる水気が氷の針となりカミヒメを貫いた。痛みはない、しかしダメージは確実に募り、動きは留まる。
　続けてカトルも攻撃を仕掛けていた。
　フォンセも光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変え突撃を。
「エレナ！」
　その声に反応するようにエレナも金縛りをかけ、敵を抑えこむ。
「先には行かせない……カンギ様の為にナンナまで行かせないわ」
　どこにいるのか問うても答えはない。
　カミヒメを這う攻性植物が足元へと根を張った。そのまま、足元から波のように盛り上がり前列へと向かい襲ってくる。
　その一撃には惑わしの力。意識が敵を仲間と、仲間を敵と認識しそうになる。
　くらりと傾きそうになる意識。この状態はよくないとベルノルトは薬液の雨をこの場へ満たす。
　それにより自身の意識もまたはっきりとしてくる。
「急ゲ、急ゲ、急いで返セ――その身が未だ動くうチ」
　金貨の眼をした女神の口吻。痛みを貸し付け生命を奪う――なんて不条理な高利貸し。
　ヴェルセアはカミヒメへ痛みを、そしてその生命を糧とする。
「もうちょっと貰いたかったけド」
　このくらいで勘弁してやると笑って離れる。
　カミヒメの足元は覚束ない。追い込みは今だと、ぱっと士浪は武器から手を離し走り込む。
　その掌に、身の内で練り上げた気を纏わせる。
「中から壊すぜ。……荒れ狂え」
　神速の一撃と共に、掌からカミヒメの体内へと、共鳴増幅された気が流れ込み荒れ狂い破壊の限りを尽くす。
　身の内の衝撃にカミヒメはひゅっと喉奥鳴らして動きを一瞬、止めた。
「あなたの終わりを！　私が祝福してあげるっ！」
　ふたつのライトニングロッドへ魔力と共にフェクトが乗せるのは強い想い。
　ひたすらに。ただひたすらに、神を目指す少女の想いが敵へと打ち込まれる。
　すでに消耗が重なっていたカミヒメを追い込むにはその一撃で十分。
「あ……カンギ、さま……」
「カンギも神様じゃないわよ」
　それは私なんだからとフェクトは果てるカミヒメへと向けた。
　カンギの配下であった事は確かだが、何だか変な感じだったとフェクトが零す。
　ベルノルトは攻性植物をカンギから貰ったようだったと思い出す。
「寄生されていたのかもしれませんね」
「寄生とは穏やかじゃないな」
　あまり良い感じはしないとヒコは零す。
　けれど止まってはいられない。先に進もうと再び迷宮の先へ。

●迷宮の崩壊
　行く先は変わらず植物によって模られた道があるのみ。規則性は無く広いところもあれば狭いところもあり。
　天井高い場所もあればと様々だ。
　しかし、その探索を進めている間に異変が起きた。
　それは植物迷宮の崩壊だ。
　今まできつく固く結びついていた植物たちが解けていく。
　突然の事になんだ、とフォンセは辺りを見渡した。大人っぽく振る舞い子供っぽさを隠そうとするが、突発の時にはそこは隠しきれない。
「エレナ、俺から離れるなよ！」
　そう声をかけるとエレナは傍らに。
「迷宮が……」
　ベルノルトはこれは、と零す。
　迷宮が崩壊する。その理由は考えうる限りひとつだ。
「誰かがナンナを倒したみたいですね」
　ナンナは倒され、召還の儀式は打ち崩した。だからこそそのためにあったこの迷宮が崩れているのだろう。
「――……アスガルド神、か」
　ヒコは呟き落とす。何か気にかかるのとオルテンシアが問えばいいやと首を振り。
「抗争の果て、他種の侵略者にまで堕ちた神にゃ真の死が似合いかね」
　そう思っただけだと笑む。
　崩壊が始まると、今まで攻撃を返していた植物の壁はやすやすと崩す事が出来た。
「あれ、このままここにいたらまずいよね」
　フェクトは足元に視線を向けた。
　ここは琵琶湖の上に生じた迷宮なのだ。足元がすべて崩れ去れば向かう先は一つ――水の中。
「寒中水泳なんてごめんだよ！」
　フェクトは帰ろうと声上げた。崩壊はまだ始まったばかり。すぐさまこの場が崩れるとは思えないが、時間の問題だ。
「そうだナ。落とすのはまだしモ、落とされるのハ楽しくなイ」
　ヴェルセアはさっさと帰ろうゼと踵を返す。
「確かに水に落ちるのは遠慮したい」
　濡れるのはな、と士浪は深く頷き続く。
「いざという時は私が助けるわよ」
　大丈夫とオルテンシアは笑う。そうなったらカトルは運べないかもしれない。自分で泳いでねと言うと驚いたように飛び上り進む速度を上げている。
「なんか脱出ゲームみたいだな！」
　そこで蒼は気付く。攻撃すれば自爆すると聞いていたが朽ちている今ならもしかしてと。それを皆に伝えた。
　壁へ攻撃をかけたベルノルトは、確かに今ならと頷く。
「なぁ、壁とかぶち抜いていこーぜ！」
　抜け道作るみたいでワクワクすると蒼はへへっと笑う。
　力を失った植物迷宮は自爆せず、攻撃を受ければ修復もない。
　攻撃をかけ新たな道を生み出すのは、外へ向かう為。

作者：志羽	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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