プリンス・オブ・カエル

作者:玖珂マフィン

●カエル・プロポーズ
 ここは、どこだろう。
 女の子はふわふわとした気分で見たことのない道に立っていた。
 なんとなく、そのままの気持ちであてもなく歩き出した女の子。
 しばらく歩いていると、カエルと出くわした。
「……え?」
「ナ、ナンテ、かわいいんだろウ!」
 王冠をかぶって二束で歩くカエルは、ベタベタした手で女の子の手をつかんだ。
「ひっ、ちょ、ちょっといや……」
 嫌がる女の子を意に介することなく、感極まった様子でカエルは叫ぶ。
「ボクと結婚してお姫様になってほしいんダ!」
「や、やだ……キャッ!」
 カエルはそのまま女の子をお姫様抱っこ。どこからともなく現れた馬車に乗って、そして二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
 めでたし、めでたし。

「め、めでたくないよ! ……あれ?」
 思わず飛び起きた女の子は、自分が今までベッドにいたことに気が付く。
 いつもどおりの自分の部屋。さっきまでのは夢だったのだ。
「なーんだ、びっくりした……。そうだよね、カエルの王子様なんて……」
 ――ざくり。
 女の子の高鳴っていた胸を、鍵が貫いた。
 血の一滴も流さずに、女の子はベッドに倒れこむ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 鍵を引き抜きながら、魔女が告げる。
 倒れた女の子の隣から、王冠をかぶった両生類が立ち上がろうとしていた。
 
●ウエディング・トード
「王子様にプロポーズって、何だかお伽噺みたいですよね」
 びっくりするような夢を見た子どもが『驚き』をドリームイーターに奪われる事件が起こった。
 そう聞いてヘリポートへ集まったケルベロスたちへ、和歌月・七歩(花も恥じらうヘリオライダー・en0137)は説明を始めた。
「此度奪われた『驚き』の夢は、王子様は王子様でも、カエルの王子様が出て来る夢です」
 『驚き』を奪ったドリームイーターは既に姿を消している。
 しかし奪われた『驚き』は現実化し、プロポーズをしてくる二足歩行で王冠をかぶったカエルの王子様の姿になって周囲の人間を驚かせる事件を起こそうとしている。
 このままでは、夜道を現れる人々の前に突如現れ、話も聞かずにプロポーズし続けるだろう。
「放っておけば被害は広がるばかりですし、『驚き』を奪われた女の子も眠りから覚めることはありません」
 被害を防ぐためにも、女の子を目覚めさせるためにも、なんとしても具現化したドリームイーターを倒す必要がある。
 ドリームイーターは眠る女の子の家の近所、深夜の市街地に一体のみで現れる。
 驚きから生まれたカエルの王子は人間を驚かせたくてしょうがないようで、近くを歩いているだけで向こうから近づいてプロポーズしてくるだろう。
「この時、プロポーズしてくる対象は見境ないみたいですね。男の人でも女の人でも若くても老いてても、どんとこいみたいです」
 驚かせることが目的だからだろうか? 手当たり次第、目につく限り求婚と激しいボディコミュニケーションを繰り返し驚かせようとする。
「例えば、ぺたぺたした身体で抱きついてきたり、伸びる舌で舐めてきたり、飲み込もうとしてきたりするらしいです」
 ちょっと気持ち悪いですね……。と、嫌そうな顔で七歩は予知の書かれた手帳を捲る。
「あ、それとドリームイーターは自分の驚きが通用しなかった相手を優先的に狙ってくる傾向があるみたいですね」
 もっと驚け! ということなのだろう。この性質を利用すれば戦闘を有利に進めることができるかもしれない。
「カエルの王子様なんて、本当だったらお伽噺っぽくて夢があるのかもしれませんけど……」
 夢は夢。現実ではない。
 夢から生まれたドリームイーターに、夢を感じても仕方がないだろう。
 七歩は手帳をぱたんと閉じてケルベロスたちへ向き直る。
「このままでは女の子は目を覚まさず、近隣住民はカエルに脅かされ続けてしまう……。そんなこと、見逃すわけには行きませんよね?」
 がんばって倒しましょう! と、ぎゅっと手を握って七歩は呼びかけた。
「さあ、行きましょうケルベロス。望みの未来は見つかりました?」


参加者
アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)
白波瀬・雅(サンライザー・e02440)
深山・遼(烏豹・e05007)
春花・春撫(屠竜系アイドル・e09155)
ラッセル・フォリア(羊草・e17713)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
カリュクス・アレース(ごはんをおやつをくださいまし・e27718)
鉄砲小路・万里矢(てっぽうはつかえません・e32099)

■リプレイ

●ビックリ・ドリーム
 街灯が照らす市街地をケルベロス達は歩いていた。
 夜の街に靴音が響く。他に人気はなかった。
「なんでよりによってカエルなんだろ……」
 ぬめぬめしたその肌を思い、白波瀬・雅(サンライザー・e02440)は軽くため息をつく。
 悪夢に注文をつけても仕方ないかもしれないが、女の子も難儀な夢を見たものだ。
「ああ。本物の蛙は好きだが、夢喰いの蛙王子か……」
「でも、カエルの王子様なんてメルヘンチックで可愛らしいかもしれません。リアル系だったら驚いちゃいますけど……」
 深山・遼(烏豹・e05007)と春花・春撫(屠竜系アイドル・e09155)が同時に正反対のことを口にして、うん? と顔を見合わせる。
 普段から交流がある友人同士の二人だが、その趣味まで似通っているわけではないようだ。
「カエルか……。確かに不気味だよね。それだけ驚きそうな格好をしているのかな」
 懐中電灯で行道を照らしながら、カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は生真面目に敵を分析する。
「カエルの王子様か。俺の知り合いは喜びそうだけど。あっ、俺はそっちの気はないけどさ!」
 にこにこと楽しげにラッセル・フォリア(羊草・e17713)は相槌をうつ。
 嫌そうな顔をする仲間たちの中で、一人独特の反応を示していた。
「そっちの気……。もしかして両性類だけに両性に、ってか? くだらねー」
 何かに納得して鉄砲小路・万里矢(てっぽうはつかえません・e32099)は面倒くさそうな顔をする。
「ところで、カエルの丸焼きっておいしいのでしょうか?」
 今まで黙って考え込んでいたカリュクス・アレース(ごはんをおやつをくださいまし・e27718)が、突如口を開いた。
 ぴたり。と、足を止めて振り返る一同。
「……なんで今、それを聞くんだ?」
 一同の疑問を代弁するように、アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)がカリュクスを見て聞いた。
 はあ。と仲間たちの反応に不思議そうにしながらカリュクスは応えた。
「そんなお料理があると伺いまして」
 はは、と声を上げてラッセルが笑った。
「流石に王子様は食べたくないかなー」
「王子様じゃなくても嫌ですよ!」
 抗議の声をあげる春撫。
 アマガエルは食べられないんじゃ……。いや、そもそも食用でも食べたくない。など色々な言葉が飛び交う中、警戒を怠っていなかったカシスがそれを見つけた。
「あ、居たよ」
「ワァーォー! コ、コンナにもキレイな子が揃ってるなんテ!」
 ナンテ素晴らしいんだろウ!
 それは、二足歩行の王冠をかぶったカエルだった。
 感動した様子で、両手を上げてペタペタと走り寄ってくる。
 カエル王子との死闘が始まろうとしていた。

●ドッキリ・ナイト
「ネ、ネ! キミたち! ボクのお姫様にならないカイ!?」
 ぴょんぴょんと跳ね上がってカエル王子はケルベロスたちに近寄ってくる。
 ジュ・テーム。図々しいことに、その場の人間全て同時に求婚を行いながら。
「えぇっ!?  リ、リアル系のカエル……!」
 割とリアルだった両生類を前に、驚くというか引いているというか、とにかくショックを受ける春撫。
「……気が合うな、はるはる。残念ながら、やはり本物の蛙の可愛さには劣るようだ」
 せめて掌に乗る位のサイズならよかったが。と、冷静に観察して批評する遼。
 気が合っているかどうかは、ともかく。
 先程は意見が別れた二人であったが、此度のカエル王子がよろしくないという意見は、どうやら一致しているようだ。
「うわっ、大きい!」
 ラッセルは少々大げさなぐらいに驚いた素振りをしてみせる。
 想像以上にしょうもない感じのカエル王子に微妙な気分になりつつも、万里矢も驚いたフリをする。
 カエル王子の目的は驚かせること。求婚へのリアクションが薄い相手へと攻撃を繰り出す。
 驚くものと驚かないもの。役割を分担して攻撃を制御する作戦だった。
「うう、うわあ……」
 同じく、驚いている演技をしようとした雅だったが、それ以上にカエルへの拒否感が勝る。
 カエルのぬめぬめした肌がてらりと光る。思わず目を逸したくなるが、何とか鋼の意志で耐えた。
 けれど、素の嫌悪感からくる驚きは、演技以上の効果がありそうだった。
「まぁ」
 本人なりにとても驚いているらしい。演技なのか本気なのか。
 カリュクスも口に手を当てて二足歩行のカエルを見た。
「……ケロッ!」
 ばちこん。ウィンクしてみせるカエル王子。それと同時に鋭い目がケルベロスたちを観察する。
 誰が驚いているのかいないのか。カエルアイで見極める。
「…………。キミに、決ィーめェータァーッ!」
 カエルジャンプ。
 飛び上がり、抱きつこうとする先には、呆れたような瞳で王子を見るアマルティアが居た。
 角度の付いた跳躍は、放たれたタイミングも含めて、回避することは困難だった。
「雷の障壁よ、仲間を守る力となれ!」
 その抱きつきが、空中で何かにぶつかって止まる。
 カシスの放った電光の盾。そして、アマルティアの頭の上から飛び出したボクスドラゴンのパフが攻撃を防いだのだ。
「ナ、ナンテことだ……!」
 衝撃を受けた表情でパフにぶつかった王子を見て、奇襲とは意外に油断できないな、とカシスは思う。
「キミもお姫様にして欲しいんだネ……?」
 うっとりとした表情? を浮かべながら、パフの手を取ろうとする王子。
 ……そうでもないかもしれない。カシスは思い直した。
「0点だ。時と場合と、相手に合った言葉を選べ」
 厳しい採点とともに高速で振り抜かれるアマルティアの巨大剣。
 今度こそ本当に、カエルとの死闘が幕を開けようとしていた。

●オドロキ・カエル
「キミのクールな顔モ、食べちゃイたいぐらい、キュートだヨ!」
 あんぐりと大きな口を広げてカエルの王子様は遼へと飛びかかる。
 確かにそれは回避しづらい攻撃では合った、が。
「夜影」
 遼は冷静に自らのサーヴァントに庇わせて対処する。
「こ、怖いです、気味が悪いです、気色悪いですー!」
 ほぼ演技のない純粋なリアクションを取りながら、春撫は前線へ向けて三味線の弦を弾く。
 祈りとともに響き渡る音が、退魔の力を授け、傷と不調を遠ざける。
 バランスの良い隊列に戦術。盾役へと攻撃を引き付ける工夫。癒し手による補助。
 それらが揃ったケルベロスたちが負ける可能性は万に一つもなかった。
 それでも懲りずにカエルは求愛を繰り返したが、流石にそろそろ限界なのか。少しづつ動きが鈍ってきていた。
 万里矢を筆頭に重ねられた麻痺の不調が王子の身体を責め立てる。
「さぁ、両生類は身体が濡れているだろうから、電気が通りやすそうだな」
 雷龍の魔力が込められた杖を振り上げて、カシスは雷光の矢をカエルへと打ち込む。
 狙いすまされた魔力を躱すことなど出来はしない。
「ギャワワワワワ!! シビレル! コ、コレが恋!? ツマリ、運命ダ!」
 麻痺しながらもカエルは何とか口説きにつなげようとする。
 その執念に呆れた瞳を向けながら、鋼鉄のような翼と尾を広げ、万里矢は氷の騎士を召喚する。
「もう冬も近けーし冬眠しとけ」
「ジャ、ボクと一緒ニ、巣穴に入らな……。フ、ワワワワワ!!」
 誘いを一蹴。騎士の斬撃が、カエルの肌を凍らせていく。
 慌てるカエルへと、夜影を先導に遼は駆ける。揺らぐ炎の道の中で悪魔の名を冠した口紅で印を描く。
 呼び出されるのは、地獄の番犬。不可視の魔物。全て焼き尽くさんと喰らいつく。
「居るべき場所へ還れ!」
「ボ、ボクの居場所はキミのトナ……フギャプッ!」
 熱がカエルの肌を焦がす。膝を付いたカエルへとアマルティアは跳んでいた。
「――すまなかったな、驚かせ甲斐が無くて」
 心臓の地獄が全身を沸き立たせる。強化された肉体は鉄塊剣による神速の斬撃を実現させる。
 斬り降ろし、横薙ぐ。同時とすら感じられるほどの瞬間に、発せられた無数の斬撃が敵を刻む。
「つ、つれないキミも素敵サ……。」
「……それで、結局カエルって美味しいんでしょうか?」
 おっとりとした表情のまま、カリュクスはカエル王子に話しかける。
 その腕に巻き付くのは銀の茨。詠唱と共に咲き誇るのは青い薔薇。
 花言葉は奇跡、神の祝福。契約の力が王子の身体を絡め取る。
「ネ、ネネ……。なんでソレ、ボクに聞くノ……?」
 流石に戸惑うカエル王子にも疲労が見える。打倒まであと少し。
 好機を見取り、本当は嫌だけど雅は近づいた。
「……行くよ、ブリュンヒルデ!」
 雅は、自身の魂に宿るヴァルキュリアから、光の槍ブリュンヒルデを再現して戦っていた。
 べたべたの肌に触りたくない……! その一心で初撃の蹴り以降は槍しか使っていない。
 ぬめぬめと粘着する何かが付着した槍を見て、雅は少し情けなくなる。
「(ごめんヴァルキュリア……でも私だって苦手な物は苦手なんだよ)」
 魂の中の戦乙女に申し訳無さを覚えながらも、輝きと威力を増した槍を突き刺し、蹴り飛ばした。
 万が一にもその肌に触れないために。
「アベッ……!」
 吹き飛ばされ、足元に転がってきたカエル王子に、ラッセルは表情を崩すことなくエクスカリバールを叩きつける。
「いやっ、来ないでー!」
 巫山戯た明るい調子に見合わぬ釘釘釘の滅多打ち。カエルを潰す感覚がラッセルの手に響く。
「ひ、ひどいヤ……」
 打ちひしがれたように地に伏せるカエルに、ラッセルは優しげな口調で話しかける。
「……なんて、ね。君の様な激しい愛情表現、嫌いじゃないよ?」
「ジャ、ジャア結婚……!」
「あ。それは無理」
 とどめの一撃。にこやかな笑顔とともに振り下ろされたバールのようなものがカエル王子を叩き潰す。
 末期の言葉を言うことも出来ずカエルは爆散。夢へと返った。
「……カエル自体は夢があって可愛いと思うけどねー」
 何かの救いになるだろうか。ラッセルはコロコロと転がってきた王冠を手に取った。
 消えていく夢への言葉とともに、カエル王子求婚事件は幕を下ろした。

●パニック・トーク
「ふぅ、しばらくカエルを見るのも嫌になりそうな相手だったな……」
 カエルが消えた夢の跡。カシスの呟きが夜の道に響く。
 さほど強い敵ではなかったが、精神的にはなかなかどうして疲れるものがあった。
 カエル王子の求婚。童話のお姫様のようだと言えば聞こえもいいが、目の前に現れるとなかなか面食らう。
 ましてや、本物でなく夢の存在なのだし。
「わたしには、もう王子様がいますしね……」
「せめて狐であるならまだしも――こほん」
 それぞれ思う相手でも居るのか。春撫は目をつぶり思いを馳せ、アマルティアはパフを定位置に戻して誤魔化した。
「私もそろそろ恋人が欲しいよ。あと、お風呂入りたい……」
 このままだとクリスマスも彼氏無しになりそうだ。
 そんなことを思いながら雅は飛び散った体液でねちゃねちゃと汚れた服を見下ろして溜息を付いた。
「少し片付けておこうか」
 戦場となった公道を見渡して遼はヒールグラビティを用意する。
 燃えたタイヤ痕に鉄塊剣によって砕かれたアスファルト、氷や稲妻で傷ついた塀。
 確かに、このままでは明日からの近隣住民は不便するだろう。ケルベロス達はそれぞれ周囲を修繕することにした。
「帰ったら、ちょっとくらい甘いもの食べてもいいでしょうか……ふふ」
 カエルの話でお腹が空いたのだろうか。周囲をヒールしながらカリュクスは微笑む。
「これで、女の子も目が覚めるだろうか」
 修復も一段落。概ね元の機能を取り戻した頃、夢を生んだ女の子のことをカシスは思い出す。
「様子見に行こうよ。目を覚ましてたら変なカエルは倒したって言って安心させるぞー」
 みんなも一緒に行ってみない?
 子供っぽい表情で万里矢は仲間たちを誘う。
 それもいいかもしれないと、ケルベロス達は歩きだした。
「今度こそ幸せな夢が見られると良いねー」
 ラッセルは軽い笑みととに空を見上げて呟いた。
 驚きの夢は払われた。穏やかな夜が戻ってくる。
 二度寝の先はきっと良い夢になるだろう。

作者:玖珂マフィン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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