光明神域攻略戦～樹蛇降臨のラビュリントス

■リプレイ

●緑樹の迷宮
　『光明神ナンナ』を捜索、撃破するため、ケルベロス達は植物迷宮へと降り立った。琵琶湖の南南東より侵入し、探索を開始するつもりである。
　植物迷宮は琵琶湖の湖面に浮かぶように存在していた。外観を確認しただけでも、地上十数階はあると思わしき巨大なもので、なるほど、探索には骨が折れそうだ。
「あら……やっぱり、電波妨害されてるみたいね」
　斉藤・怜四郎（黒衣の乙女天使・e00459）は、スマートフォンの画面を見ながら言った。
　しっかり無線も妨害されているようだ。とは言え、ある程度予測のついていた事態であるため、その声に落胆の色はない。
「連絡が取れれば楽だったけど……そう甘くはない、って事だね」
　カロリナ・スター（ドーントレス・e16815）が答える。
　カロリナがスーパーGPSを使用すると、地図上――とは言え、これからマッピングするため、白紙ではあったのだが――に、自身の居場所が表示される。
「まぁ、スーパーGPSは問題ないみたいだし、他にも連携手段は用意してあるからね。気にせず行こうよ」
　カロリナの言葉に頷き、一行は迷宮へと足を踏み入れた。
　迷宮内部は、一面を植物に覆われていたが、不思議と暗くはなく、琵琶湖から流れてきたのだろうか、何処かひんやりとした空気が肌をくすぐった。
　さて、ケルベロス達が意を決して歩を進めると、植物迷宮の迷宮たる所以を、身をもって感じることとなる。
　通路や部屋が入り組んでいるのはもちろん、階段だけではなく、ツタを利用しての昇降、なだらかなスロープを登っての階層移動、ぐるぐると回って結局元の位置に戻らされたり、マップを書くのも一苦労だ。
「アリアドネの糸も、こんがらがってしまいそうですね」
　セレナ・アデュラリア（白銀の戦乙女・e01887）が苦笑しながらつぶやく。いざという時のために、彼女は入り口でアリアドネの糸を使用している。
　似たような地形の多い迷宮では、一度その場所に来た事が分かるアリアドネの糸の存在は、自分の位置を確認する上での参考になる。
「なんだか目が回っちゃいそうだよ」
　スプレーで、壁に大きく×の矢印を書いていたメリルディ・ファーレン（陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015）が答える。
　自分達のルートの確認と、こちらへやってきた別のチームへの道案内も兼ねての目印だ。
「ミドガルズオルム……北欧神話に出てくる毒蛇ですね。どのような方法でも決して破壊されないというのは、人々を守る騎士としてが羨ましい限りですが……」
　セレナが言う。
「破壊されない……コギトエルゴスムにすらならないのかな。厄介だね」
　絶花・頼犬（心殺し・e00301）が答えた。
　無敵の樹蛇『ミドガルズオルム』。その『破壊されない』という性質から、召喚を許せば、ケルベロス達の敗北は確定する。
「しかし、琵琶湖かぁ。できれば観光で来たかったねぇ、栞さん」
　と、自身のビハインドに声をかける頼犬。だが、栞はツン、と顔をそむけた。
「えっ、そんなことない？　ソウデスカ……」
　しょんぼりとする頼犬。栞は、そんな彼の背中をばしっ、と叩く。
「あたた……分かった、わかったよ！　真面目に頑張ります！」
　ケルベロス達の探索は続く。広大な迷宮に手を焼きつつ、一時間が経過しようとしていた。
「そういえば、ゆきとーさんと一緒に戦うの、久しぶりだなぁ……ね、ゆきとーさん、屈んで？」
　マッピングした地図と自分の居場所を照らし合わせていたアトリ・カシュタール（空忘れの旅鳥・e11587）が、微笑しつつ言った。
　彼女の言葉に、少し困惑しつつ、香坂・雪斗（スノードロップ・e04791）は従った。
　丁度良い身長差。アトリは優しく、雪斗の頭を撫でた。
「私、ゆきとーさんのこともちゃんと、守りますから、ね！」
　びっくりして目を白黒させる雪斗。アトリは悪戯っぽく笑った。雪斗ははじめは驚いていたものの、直ぐに落ち着きを取り戻した。
「ありがとうアトリちゃん。頼りにしてるね？　……俺も、絶対守るから。アトリちゃんの大切な人の為にも」
　そう言って、アトリの頭をぽんぽん、と優しく撫でる。
　アトリは目を細めつつ、それを受け入れた。
　２人には、残してきた大切な人がいる。だから、必ず作戦を成功させて、その人の元へ帰るのだと、改めて誓い合ったのだった。
「……と。どうやらお客さんだぜ」
　戦闘を歩いていた、ハインツ・エクハルト（光鱗の竜闘士・e12606）が言った。
　そこは、大広間のように広大な空間。その中心に、一人の男が立っている。
「無粋な来客者よ、身の程を知るがいい」
　大仰ななしぐさで、男が言う。
「カンギ戦士団か！」
　ハインツの叫びに、
「いかにも！　我こそは盟友『レプリゼンタ・カンギ』の刃！　闇のフェアツヴァイフルング！」
　これまた大仰なしぐさで返す。
「絶望（フェアツヴァイフルング）、か。あんたに付き合ってる暇はないんだ、此処を通してもらうぜ！」
　ハインツが構える。それを合図に、ケルベロス達もまた戦闘態勢に入った。
「よかろう、漆黒の闇に沈むがいい！」

●絶望との遭遇
「貴方の闇、甘いクリームで包んであげようか？」
　メリルディが翔る。軽やかな跳び蹴りはフェアツヴァイフルングに鮮やかな一撃を与える。
「その程度で我が闇を払う事は出来ん！」
「よーし、行こう、栞さん！」
　頼犬と栞が同時に飛び掛かる。２人のコンビネーション攻撃を受けたフェアツヴァイフルングは思わず後退。
「お前らがナンナと約束したように、俺も大切な人と約束したんよ。お前らの作戦を阻止して、無事に帰るって！」
　雪斗の時間を凍てつかせる弾丸。それを受けてなお、フェアツヴァイフルングは笑った。
「我ら侵略寄生を受けた者同士の絆、貴様ら如き人間の物と同じく語るな！」
「侵略寄生を受けた……！？」
　ハインツが驚愕の声を上げる。
「その通り！　この幸福は、貴様らにはわかるまい！」
　笑うフェアツヴァイフルング。ハインツの表情は怒りに染まっていった。
「……侵略寄生で命を落とした女の子の、躰の軽さをまだ覚えてる！」
　自身のオウガメタルから、援護の輝きを味方に降り注がせながら、ハインツが叫んだ。
　その叫びに応じるように、サーヴァント、チビ助の剣が、フェアツヴァイフルングを狙う。
「沢山の人が侵略寄生の犠牲になったんだぞ！　それを幸福だと！？」
「侵略寄生を幸福と称する……そのような世迷言、許すわけにはいきません！」
　言いながら、セレナは武器をフェアツヴァイフルングへと向ける。
「我が名はセレナ・アデュラリア！　騎士の名にかけて、貴殿を倒します！」
　叫び、駆けた。彼女の武器から放たれる必殺の一撃が、フェアツヴァイフルングを切り裂く。
「やるな！　だが、我が闇の力の前には貴様らなど無力！」
　手にした鍵に青い薔薇の攻性植物を纏わせ、フェアツヴァイフルングがカロリナへと斬りかかる。
「主よ、どうかボクの手と指に戦う力をお与えください」
　カロリナが呟くと、マインドリングよりライフルが具現化。その銃身で以て、フェアツヴァイフルングの鍵を受ける。
「闇、ね。じゃあその味、堪能させてもらおうかな」
　カロリナがライフルをふり、フェアツヴァイフルングの鍵をはじく。後方に飛びのくフェアツヴァイフルングへ、カロリナは追撃の銃撃。
　それを左手で受け、フェアツヴァイフルングは着地。
「貴方をやっつけて……いつも通り、皆無事に、帰るの！」
　アトリは雷の壁を展開。ケルベロス達の防御を固める。
「他人って感じがしないわね。前世ででもお会いしたかしら？」
　怜四郎が言いながら、同じく雷の壁を展開。
「あなたの偽りだらけの闇の力と、私のパーフェクトキラキラ乙女力じゃ格が違いすぎるのよ。お化粧ひとつ崩さず殺してあ・げ・る♪」
「偽り……だと！？」
　フェアツヴァイフルングが初めて怒りをあらわにした。怜四郎は自身のペースを崩すことなく、
「そうねぇ、あなたの侵略寄生って言うメイク、ヘタクソだわ。カンギにはメイクの何たるかを教えてあげたいくらいよ」
「カンギを侮辱するか！　あの人は私に新たな力を与えてくれたのだ！」
「ほら、相手は怜四郎だけじゃないんだよ！」
　頼犬が言う。メリルディが召喚した氷の騎士がフェアツヴァイフルングを攻撃。続いて、頼犬と栞が攻撃に参加する。
　ケルベロス達の猛攻に、フェアツヴァイフルングは徐々におされていく。
　雪斗の稲妻の如き突きがフェアツヴァイフルングの身体を捕らえる。吹き飛ばされたフェアツヴァイフルングに、間髪入れず、ハインツが追撃。
　巨大なハンマーから放たれる超重の一撃が、フェアツヴァイフルングに叩きつけられた。たまらず呻くフェアツヴァイフルング。
「馬鹿な、こんな……こんな事が！？」
　続いて、セレナがその剣でフェアツヴァイフルングを一閃。傷口を押さえつつ、大きく飛びずさるフェアツヴァイフルング。
「クソ……クソッ！　こんなはずでは……！」
　フェアツヴァイフルングが、両手を掲げる。足元が地面と融合、複数のツタがケルベロス達を飲み込む。
　だが、フェアツヴァイフルングの渾身の一撃も、ケルベロス達を止めるには及ばない。
　ツタの影をぬって、カロリナが翔る。マインドリングから光の剣を生み出した彼女は、
「気になるなぁ……あなたの魂の味。少し……少しくらいなら味見してもいいですよね？」
　呟き、笑うと、降魔の力を宿したその剣で、フェアツヴァイフルングに斬りかかった。
　相手を切り裂き、そのグラビティを奪い取る、彼女の奥義。『ソウルサクリファイス』。
　そのダメージは大きく、トドメとはいかないまでも、フェアツヴァイフルングは、もう、立っているのがやっとという状態だ。
「怜四郎さん……！」
　治癒の雨を降らせながら、アトリが言った。
　怜四郎がウインク一つ、頷くと、
「あなたのハート、いただきよ」
　弓矢を引くような動作。すると、怜四郎の純粋なLOVEパワーが、ハート型のオーラの矢となって具現。放たれた『LOVE☆ハートアロー（ラブラブハートアロー）』は、文字通りフェアツヴァイフルングのハートを射抜いた。
「嘘だ……俺は……俺は……」
　呆然と呟きながら、フェアツヴァイフルングが、地に倒れ伏す。
「残念。嘘ばっかりの人生だったわね、あなた」
　消えゆくフェアツヴァイフルングの姿を眺めながら、怜四郎が呟いた。

●勝利の予兆
　見事カンギ戦士団を撃退したケルベロス達だったが、作戦の目的はあくまで『光明神ナンナ』の撃破だ。ナンナを探し、ケルベロス達の探索は続く。
　時に、水没する通路を行き。
　時に、巨大な穴を、飛行して越え。
　やはり迷宮は広大だ。カンギ戦士団との戦いから、さらに数時間がたとうとしている。
「そろそろ休憩にしない？」
　と、提案したのはメリルディだ。彼女は、ブロッククッキーや宇宙食などの携帯食料と、水を取り出す。
「おむすびはないかな……ないか……まぁ、かさばるしね」
　少し残念そうなカロリナへ、
「疲れた時は甘いものが一番だよう。甘くないのもあるけれどね。タコ焼きとか」
「宇宙食のタコ焼き……どんなんやろ」
　タコ焼きに興味津々の雪斗である。
「それにしても……改めて、広大な迷宮ですね」
　ブロッククッキーをかじりつつ、セレナ。
「うん。もう何時間もたってるけど、まだまだ終わりが見えないよね。他のチームのみんなは無事なのかな……」
　少し不安げに、アトリが呟く。
「きっと大丈夫さ」
　頼犬が励ますように言う。
「ナンナの居場所を掴んだチームはもういるのかしら」
　と、怜四郎。
「どうなんだろうな……なんにしても、俺達も頑張らないとな」
　ハインツが言った。
「はいはい、休める時はしっかり休もう？　まだまだ探索は続くんだよ？」
　メリルディはそう言って笑顔で、携帯食のお代わりを取り出した。

　しっかりと休憩して鋭気をやしなったケルベロス達は、迷宮の探索を再開する。
　迷宮探索を再開して、一時間ほど経過したころだろうか？
　突如として、迷宮全体が振動し始めた。
　壁の植物がぼろぼろと枯れ始める。
「迷宮の植物が……死んでいく？」
　呆然と、アトリが呟く。
「迷宮が崩壊しているんだよ！」
　メルリディが叫ぶ。
「どこか別のチームが、ナンナを討伐したみたいだね」
　と、頼犬。
「なら……長居は無用です！　皆さん、脱出を！」
　セレナの言葉に、ケルベロス達は頷いた。
　一行は、急いで脱出を開始する。
　崩壊していく迷宮を尻目に、
「……ナンナ、あんたはこれで良かったのか？」
　ハインツが呟いた。
　
　迷宮からの脱出は、探索時よりも格段に簡単だった。
　迷宮の壁は破壊しても自爆しなくなったため、マップとアリアドネの糸の情報から、最短距離を駆け抜けることができたのだ。
　かくして、無事迷宮より脱出したケルベロス達は、琵琶湖の湖岸で、崩壊していく迷宮を見つめていた。
　迷宮の崩壊。それは、確かにケルベロス達の勝利を意味していた。

作者：洗井落雲	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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