光明神域攻略戦～神狩りの烽火

■リプレイ

●植物の迷い路
　これまでの攻性植物事件を引き起こした張本人、『カンギ』の野望を阻止する為に集ったケルベロス達。彼等が現地に到着すると、信じられない光景を目の当たりにする。
　淡路島全土が植物に埋め尽くされて、巨大な迷宮を作り上げていたのだ。
「淡路って相当大きいはずなのに、よくもまぁこれ全て被い尽くせたもんだわ」
　神戸に拠点を置くクロノ・アルザスター（彩雲に煌く霧の剣閃・e00110）にとって、この地は馴染み深いよく知る場所だ。それ故に、地元が攻性植物の根城にされた惨状に、クロノの心中は穏やかではない。
「植物迷宮か。再生するようだが、道や地形まで変化するってことにならなきゃいいが」
　渡羽・数汰（勇者候補生・e15313）は仲間へ注意を促すように呟くが。その一方で、迷宮探索や待ち受ける強敵との戦いに、数汰は密かに心躍らせていた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。壮大に過ぎる隠れん坊の開始だな」
　攻性植物がハロウィン時の滑稽さとは一変し、これ程の大仕掛けをしてきたことに、ウルトレス・クレイドルキーパー（虚無の慟哭・e29591）は驚きを隠せなかった。
　だからこそ、余計に油断してはならないと。ウルトレスは気を引き締め直して、未知なる迷宮へと足を踏み入れる。
「……救いたかったのに救えなかった人達の命。これ以上悲しいことを増やさない為にも、ここで絶対に止めるのです」
　これまで攻性植物が起こした数々の事件。ナティル・フェリア（パナケイア・e01309）は犠牲になった人々を憂いつつ、その全てを終わらせる為に。ナティルは俯いていた顔を上げ、前をしっかり向いて迷路の中を進んでいった。
「しっ……いつ敵と遭遇するか分からないから、慎重にいかないとね」
　隠密気流を纏った織戸・来朝（爆音鳴らす蒼き狼・e07912）が、敵との遭遇を警戒しながら歩みを進める。聞き耳を立てて曲がり角を覗き込み、安全を確認して迷路の奥に踏み込んでいく。
　やがて彼等は程なくして一つの神社に辿り着く。その神社の更に奥、高い岩壁に埋もれるように祀られている社こそ、彼等が目指していた岩楠神社だ。
「ここもイザナギ伝説が残された霊地……何とも神秘的な感じですね」
　自然と融合したかのような神社の姿に、ミチェーリ・ノルシュテイン（青氷壁の盾・e02708）は感嘆の溜め息を漏らす。
　この神社はイザナギの幽宮に繋がる洞窟があると云われており、もしやそこに手掛かりがないかとミチェーリは考えていたが、どうやらそのような痕跡は見当たらないようだ。
「うーん……ここには何もなさそうね。後は地道に探していくしかないかしら」
　羽丘・結衣菜（黒き翠緑の奇術師・e04954）は残念そうに肩を落とすも、すぐに気を取り直して探索を再開する。
　進路をメモに記して地図を描いて、現在地を常に把握しながら、植物に囲まれた迷い路を練り歩く。地図の作成には鷹野・慶（魔技の描き手・e08354）も協力し、極力時間を短縮させようと、一刻も早く次の目的地へと足を延ばした。
「次に行くのは淡路島公園か？　しかしこうも道が複雑に入り組んでると、厄介だな」
　慶が上を見上げると、そこには新たな植物の道が浮かび上がっていた。迷宮は幾重にも階層を成していて。上階に上がる為には蔦を昇っていかなくてはならなかったり、上下を何度も行き来する場所もあり、移動は困難を極めていた。
　そして探索開始から１時間が経過しようとした時だった。淡路島公園を前にして、一つの影がケルベロス達に立ちはだかった。
　それは、一人の女性の姿であった。燃えるような赤い髪に褐色の肌。背中に黒いタールの翼を生やした、シャイターンの魔女。そして彼女の髪には、金色の花が彩りを添えていた。

●煉獄の魔女
「カンギの邪魔をする、薄汚い番犬共め。私の爆炎で、燃やして灰にしてあげるわよ」
　彼女こそがカンギ戦士団の一人、シャイターンのアルティングルである。髪に咲く花は、カンギと信頼と友情で結ばれた絆の証。そのカンギの計画を阻もうとする侵入者に死を与えんと、アルティングルの瞳に殺意の火が灯る。
「漸くお出ましね。でも、用があるのはあなたじゃないの。悪いけど通させてもらうわよ」
　クロノが精神を集中し、強い意思を込めて鋭く睨むと、アルティングルの肩が衝撃波によって爆発を起こす。そこへ数汰が猛然と駆け寄り、追撃を仕掛ける。
「こっちは先を急いでるんでな。アンタに時間を掛けてる暇はない」
　勢いを付けて高く跳躍し、重力を乗せた飛び蹴りをアルティングルに炸裂させる。
「デウスエクスの企みを挫いてやんのが趣味みてえなもんだ。相手が神だろうが、全力で殺しに行ってやる」
　慶の滾る闘志が炎に変じ、両脚が灼けるように赤く燃え盛る。枷を外した荒ぶる蹴撃は、火食鳥の如く獰猛に、炎の魔女を圧倒する。
「爆炎の花を咲かす火炎地獄の魔女……。笑いながら全てを火の海にしたあなたを、私は覚えてる」
　結衣菜の脳裏に去来するのは、火の海の中で不気味に佇むアルティングルだ。目の前にいる炎の魔女は、自身の記憶の中と変わらないまま。
　その姿を見た瞬間、結衣菜の心は恐れを抱いた。しかし過去と決別し、炎の記憶と決着を付ける為、勇気を振り絞って立ち向かう。
「音も、光も、そして拍手も無いマジックショーの開幕よ」
　結衣菜がくるりと身を翻し、魔力によって光を曲げて音を掻き消して。自らの影を隠蔽させて敵を惑わし、隙を狙った一撃を見舞わせる。
「あなたが誰だか知らないけど、歯向かうなら消し炭になってもらうわ」
　アルティングルは戯言には関心ないと切り捨てながら、手にした杖を掲げると。水晶球が赤く輝き出して、荒れ狂う炎が結衣菜を飲み込もうと迫り来る。
「そうはさせません！」
　間を遮るようにミチェーリが割り込んで。炎の奔流を怯むことなく正面から受け止める。ミチェーリの全身が爆炎に包み込まれるも、冷気の装甲が熱を耐え凌ぎ、最小限の被害で踏み止まった。
「この身全てが氷壁の盾……炎を防ぐ氷があると知りなさい！」
　纏わりつく炎を振り払うように一喝し、青氷壁の盾が魔女に対して敢然と向かい合う。
「お願いヴェルサ……すぐに回復を」
　ナティルがボクスドラゴンに命じると、気弱な小竜は涙目ながらも健気に頑張り、癒しの気をミチェーリに注ぐ。ナティルにとっては今回が初めての戦いで、緊張からか杖を持つ手も震えていたが。共に戦う仲間達の支えになろうと、星を描いて加護の力を付与させる。
「さあ、吼えるよヤロウ共！　地獄の扉をこじ開けるぜッ！」
　来朝が絶叫しながら髪を振り乱し、ギターを派手に掻き鳴らす。アップテンポのリズムに合わせるように、どこからともなく爆音が鳴り響き。来朝の力強い歌声が、ケルベロス達の闘志を奮い立たせる。
「こっちもいくぜっ！　サイレンナイッ、フィーバァァァァッ――！！」
　ウルトレスもギターを激しく弾いて、来朝が奏でる曲に重ね合わせる。疾走感溢れるデスラッシュが仲間達の戦意を呼び覚まし、眠れる力を活性させていく。
「耳障りな音楽ね……。こいつで吹き飛びなさい！」
　アルティングルが番犬達を一掃しようと杖を振るう度、轟音と共に炎の花が狂い咲く。
「うるさいのはそっちも一緒だろ。ユキ、頼んだぞ」
　慶に従うウイングキャットが、宙を飛び交いながら盾となって仲間達の身を護る。
「地元をこんな風にしてくれた落とし前、きっちり付けてもらうわよ」
　怒りを力に変えて、クロノが脚に魔力を込めて舞い上がり。流星の如き華麗な蹴り技を、アルティングル目掛けて叩き込む。
「アンタの炎と俺の氷、どちらが上か勝負と行こうか」
　数汰が漆黒の大鎌を両手で握って身構えて。刃に冷気を纏わせ振り抜くと。蒼い軌跡を描いて緋焔を断って、アルティングルの身体を容赦なく斬り刻む。
「まんごうちゃん、そこよ！」
　結衣菜のシャーマンズゴーストが、鋭利な爪を伸ばしてアルティングルに斬りかかる。
　ケルベロス達は攻撃の手を休めることなく、積極果敢に攻め立てる。
　ここまでの戦いは五分と五分。手数で勝るケルベロス達に対して、炎の魔女が一撃の破壊力で押し返す。拮抗した勝負はどちらに傾くか、その行方は後半戦に委ねられていく。

●神々の死と崩壊
「さあ！　回復は私達が担うから、攻撃の方は遠慮なくやっとくれ！」
　燻る思いをぶつけるように、来朝が一心不乱にギターを弾き続ける。超高速で奏でられるメロディに、仲間達は気勢を上げて盛り返す。
　オルトロスのリヤも軽快に跳ね回り、口に咥えた短剣で、魔女の肢体を斬りつけていく。
「我ら只の番犬に非ず。獲物とあらば神をも狩る猟犬――」
　咥え煙草を吹かしつつ、ウルトレスがバスターライフルの照準を絞る。標的たる魔女に狙いを定め、引き金に掛けた指に力を込める。
「これが――神狩りの烽火（のろし）だ」
　トリガーを引き、突き付けた銃口から白く眩い光が放たれる。凍気を帯びた光芒は、的確にアルティングルを捉えて炎の威力を削いでいく。
「私もお役に立てるように頑張るのです。敵の守りを打ち砕く力を……！」
　ナティルが祈りながら翼を大きく広げると、光を纏って輝き出して。優しく舞い降る光の羽根は、祝福を授けるかのように、仲間に破邪の力を齎した。
「しつこい連中が！　いい加減に消えてもらえないかしら！」
　一向に倒れる気配のないケルベロス達に、アルティングルは苛立ちを募らせる。噛みついてくるなら何度でも捻り潰そうと、ひたすら業火を撃ち込んで、戦場を紅蓮の世界に変えていく。
「この程度の炎で倒せると思ったら大間違いです。あなた達の野望は、この手で砕きます」
　炎の魔女が作り上げる煉獄にも動じることなく。ミチェーリが頭上に掲げた巨大な槌を振り下ろし、超重力の一撃を叩き込む。
　一瞬、アルティングルが態勢を崩してよろめいて。そこへクロノがすかさず間合いを詰めて、全重力を剣に乗せ。高火力の斬撃を食らわせて、力で敵を捩じ伏せる。
「早くバルドルの居場所を吐いてくれれば楽だけど……。どうせ絆とやらが邪魔をして、何も言わないんでしょ」
　カンギが結んだ絆の証。それが寄生型攻性植物に起因するものだということは、容易に想像が付く。クロノは蔑むような口調でアルティングルを一瞥し、対する炎の魔女は苦虫を噛み潰したような顔で、肩を震わせながら敵意を剥き出しにする。
「じっとしてろよ。絡まったら困るだろ？」
　慶がその唇から紡ぎ出すのは、古より伝わる呪いの言葉。織り成す魔力は敵を締め上げる為の帯となり、強固な呪詛をアルティングルの肉体に刻み付けていく。
　慶の呪織が魔女の生命力を消耗させたところへ、ミチェーリが素早く回り込んで掌を押し当てる。
「震えることすら許さない……！　露式強攻鎧兵術、“凍土”！」
　強制冷却機構を展開して発動された冷気の渦が、アルティングルから熱を奪って瞬く間に凍てつかせ、敵の炎を氷に変えて封じ込む。
「あともう一息ね！　ここは一緒に盛り上げてくよ、ＵＣ！」
「オッケーだ。俺とあんたで最高のロック、聴かせてやろうぜ」
　来朝のギター捌きは相も変わらず絶好調だ。同じくギターを鳴らすウルトレスと背中を合わせ、ボルテージも最高潮に達して、勝利に導く歌を熱唱し続ける。
　ウルトレスにとって、血と硝煙の臭いが入り混じる戦場こそが、生を見出せる唯一無二の場所である。常に虚無感に囚われている彼は、表情にこそ出さないが、この戦いの高揚感にすっかり酔い痴れていた。
　鼓動が高鳴り溢れる闘志を漲らせ、勝負に出た番犬達の畳み掛けるような猛攻で、アルティングルは一気に追い詰められる。
「破壊の炎しか知らないあなたは、実に孤独で、哀しい奴だわ。……決着を付けるよ」
　どこか憐れむように呟く結衣菜。これまで彼女を縛り付けていた因果から、解き放たれる時が近付いている。
　息を止め、杖を持つ手に力を込めて魔力を集中させて、怨敵たる魔女目掛けて振り翳す。迷いのない渾身の一振りは、刃の如き斬撃となり。魔女の炎と肉を斬り裂き、朱い血飛沫が鮮やかに舞う。
　しかしこの攻撃も致命傷には至っておらず、深手を負わせはしたがアルティングルを仕留め切れていない。
「そろそろ幕を下ろそうか。こいつで全て終わらせてやる」
　もはや瀕死の状態にあるアルティングルに止めを刺すべく、数汰が全ての力を注ぎ込む。
「――冥府の最下層、陽の光届かぬ牢獄に汝を繋ぐ」
　数汰の内に宿る膨大な重力が、うねりを上げて掌に集束されて、負の力に変換される。
「全てが静止する永劫の無限獄にて――魂まで凍てつけ！」
　絶対零度を超えるマイナスエネルギーを拳に帯びて打ち込むと。アルティングルは纏う炎と共に凍結し、炎の花は氷の欠片となって砕け散る――それが炎の魔女の最期であった。

　カンギ戦士団を撃破した後も、休息する間を惜しんで探索を再開するケルベロス達。
　やがて迷宮内を彷徨い続けて、２時間半が経過した頃――。目の前で巨大な蔦が突然倒れて、進路を塞いでしまったのだ。
「くそっ、今度はこういう仕掛けか？　面倒くせぇな……」
　慶が思わずぼやいたところへ、今度はナティルが声を震わせながら遠くを指差した。
「あ……あれを見て下さい。この迷宮が……崩れているのです！」
　その言葉に全員が驚き、指が示す方向を見てみると。先に進む予定であった道の一部が、音を立てて落ちていくではないか。
　迷宮の崩壊が始まった。それは即ち――バルドルが死んだということだ。
「と、とにかく……早くこの場を逃げ出さないと、私達も危ないのです！」
　ナティルが狼狽えながら必死に叫んで呼び掛けて。勝利の余韻に浸るのも程々に、番犬達は迷宮からの脱出を開始する。
「よーし。それじゃこの植物達を、ぶち抜いてくわよ」
　クロノが高らかに声を張り上げる。迷宮が崩壊していく今となっては、グラビティで攻撃しても植物が自爆することはない。ケルベロス達はそうして道を切り拓き、迷宮からの脱出を無事に果たした。
　崩れていく迷宮を見届けながら、彼等は何を思ったことだろう。
　こうして一つの戦いが終わりを告げる。だがそれは――更なる戦いの始まりでもあった。

作者：朱乃天	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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