光明神域攻略戦~神の檻

作者:黒塚婁

●淡路島上空
「ここが淡路島、ナンナが担当する琵琶湖と対となる美しい島ですね。さっそく、私の『超召喚能力』を見せるとしましょう」
 光明神バルドルが、手にした頭骨型の魔具を掲げると、淡路島全土を覆う植物の迷宮が生み出されていく。
 それを満足そうに見やったバルドルは、彼の護衛として付き従っていた、カンギ戦士団の面々に信頼の視線を向けると、軽く一礼する。
「では、私はこの中で、『ミドガルズオルム』の召喚を行います。皆さんには、私の身を守る警護をお願いしますね」
 そう言われた、カンギ戦士団の戦士達……ダモクレス、エインヘリアル、シャイターン、竜牙兵、ドラグナー、ドラゴンといった多種多様なデウスエクス達が、その信頼に応えるように胸を叩いた。
「任せて貰おう。我らカンギ戦士団、生まれも種族も違えども、確かな絆があるのだから」
 光明神バルドルが迷宮に入ると、それに続いて、カンギ戦士団の戦士たちも迷宮へと歩を進める。
 全ては、彼らの主たるカンギの為に。

●待ち受けるは
 集まったか、と雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はケルベロス達を一瞥し、説明を始める。
 曰く――パッチワークの魔女を支配下に置き、ハロウィン攻性植物事件を引き起こした『カンギ』の軍勢により、『淡路島』と『琵琶湖』が同時に植物に覆われる事件が発生したようだ。
 彼らの目的は、無敵の樹蛇『ミドガルズオルム』の召喚。
 ミドガルズオルムはどのような方法でも破壊されないという特性を持っている――もし地球上での召喚を許してしまえば、攻性植物のゲートを破壊し侵略を排除する事は至難となるだろう。
 現在、淡路島と琵琶湖は繁茂した植物で迷宮化しているが、その中には『侵略寄生されたアスガルド神』が設置され、その神力でこの大規模術式を展開しているようだ。
「迷宮は『カンギ』の配下の精鋭軍が守りを固めている。奴らは『これまでの幾多の戦いで、カンギが打ち負かし配下に加えたデウスエクス』であり、『カンギ』と熱い信頼と友情で結ばれており、決して裏切ることは無い不屈の戦士団……とのことだ」
 そこまで説明すると、辰砂はひと呼吸おき、
「現れた植物迷宮は淡路島と琵琶湖全域を覆い尽くしているようだ。植物で出来ているゆえ、破壊も不可能ではないが、どうやら破壊されると自爆し、反撃してくるようだな。ある程度は迷宮に沿って進まねばならぬだろうな」
 忌々しいことではあるが、と彼は続ける。
 何より、広大な迷宮の何処にアスガルド神が居る場所が不明である――と、すれば、探索するチーム毎に探索開始地点や地域を手分けしていくのが無難であろう。
 ――そして、敵は広大な迷宮だけではない。
 迷宮内には『カンギ』によって支配され、攻性植物に寄生されたデウスエクスがおり、迷宮への侵入者を確認すると迎撃してくる。つまり、一定時間が経過すれば何処にいても敵の攻撃を受けることになる。
「デウスエクスを撃破し、迷宮を探索し、この事件を引き起こしているアスガルド神を撃破することが全体の目的となる」
 このチームは淡路島に向かって貰う――辰砂はそう告げると、ケルベロス達を見据えた。
 淡路島の迷宮にいるアスガルド神『光明神バルドル』の撃破に成功すれば、植物迷宮は崩壊をはじめ、デウスエクス達も撤退していくだろう、と。
「神狩り、か。実に重い目標だ……無論、先の迷宮攻略から厳しいものになるだろうが、貴様らなら達成できる――せねばならぬ。心して征け」


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)
キルロイ・エルクード(埋葬者・e01850)
片白・芙蓉(兎頂天・e02798)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
八上・真介(徒花に実は生らぬ・e09128)
一津橋・茜(紅蒼ブラストヘイム・e13537)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)

■リプレイ

●迷宮
 植物で造られた迷宮は、その名に恥じぬ――或いは予想を超えるほど広大であった。皆並んで通れる程に広く口を開いている場所もあれば、くぐり抜けるのに苦心する場所も、一方にしか続かぬ道もあれば、数多に分岐する道もある。
 高低差もかなりある。行き止まりかと思えば、蔦を登れるようになっていたり、片や底が見えぬ虚空にひやりとすることもあった。
「皆、どこまで行ったかな……」
 暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)がぽつり零す。
「さてね。やりとりすら聞こえないってことは、かなり距離があるんだろ」
 せめてこいつが通じればな、とハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は通信機を示して肩を竦める。
 嫌な予感はあったが――迷宮の内部では通信の類いは一切遮断されてしまうようで、他の班とのやりとりは望めなかった。
「できないならできないで、あたしらなりにやるだけだろ?」
 煙草を咥えたまま、口の端をにっとあげて仲間を見やれば、キルロイ・エルクード(埋葬者・e01850)がふっと笑んで頷いた。
 そう、迷宮内での通信は探索の効率化を図るためのことで、出来ぬから困るということはない――と同時に神が作り出した深緑の迷宮で孤立無援の状態という解釈もできるが、
「フフフ本格的に神話じみてきたわね」
 腰に手をあて前方をまっすぐ見つめ、片白・芙蓉(兎頂天・e02798)が不敵に笑う。これは間違いなく楽しんでいる。
「神隠し、とならないようにな、芙蓉」
 察した八上・真介(徒花に実は生らぬ・e09128)が軽く諫めるように声をかける。
「そうならないよう、慎重にいきましょう」
 アリアドネの糸を紡ぎながら、ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)が促す横で、周囲の匂いを嗅ぐように鼻をひくひくと動かしていた一津橋・茜(紅蒼ブラストヘイム・e13537)が、はあ、と小さく溜息を吐いた。
「煮ても焼いても食べられない植物とかお話にならないのでせめて食べられるようにしてくれませんかね」
 彼女の野生をフル稼働した探索もいかんせん張り合いが無い――辺り一面、四方を植物に囲まれている。実もならず、花も咲かない。ただ青々とした匂いが続くだけ。
 つい、愚痴に似た内心が零れてしまう。溢れついでに茜の理想の迷宮といえば――。
「肉が生えてきたら最高ですが」
「怖いだろ、そんなダンジョン」
 何の肉だよという真介の言葉に色々想像したのか、はあ、と茜は吐息を再び零しながら目を閉じたかと思うと、不意に耳をぴんと立て、開眼し前方へ指を差す。
「ふっ、わたしの第六感はこっちだと叫んでます!」
「それは当てになるのか?」
「信じるモノは救われるのよ!」
 真介の問いかけに、芙蓉が参戦した。その心は当たるも八卦当たらぬも八卦。
 曲がりなりにも神に挑むのだ。易々と道が示されるはずはない。
「今は前に進むしかありませんからね」
 和気藹々とした仲間達の空気に思わず微笑んだ藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)が、穏やかに纏める。先頭を行こうと、鴉羽色のインヴァネスをひらりと返し、ふと思い出したように眼鏡の下、菫青石の瞳を僅かに細めた。
「探索開始から三十分強といったところですか……そろそろ、かもしれませんね」

●狂気の聖女
 そして景臣の予測通り――そのデウスエクスは唐突に、然れど当然というようにそこにあった。
「お待ちしておりましたわ……ようこそ、歓迎いたします」
 紅で彩られた女であった。鋼の肢体、結い上げられた金の髪に映える、華やかな装飾を施した紅の帽子――仮面で視線はわからぬが、口元に微笑みを湛え、貴婦人然とした優雅な一礼を披露する。
 彼女を見――クイン、と。キルロイは思わず口にする。
 ダモクレスはその言葉に僅かに首を傾げる。カンギによる侵略寄生によって、何処まで『彼の知る彼女』から変化したのか――或いは、解っていての反応なのか。いずれにせよ、彼のすべきことに変わりは無い。
 この女は『どちらとも』違うだけだ――彼は銃口をそれへと向けると、それでよいと肯定するかの如く、聖女は頷き両腕を広げた。
「此度の邂逅、これで終わるのは惜しくもありますが……カンギ様のため、此処で決着といたしましょう」
 声音は穏やかであったが、膨れあがる殺意と同時、攻性植物が彼女の両腕を覆う。腕から地面を繋ぐように伸び広がった蔓と、鮮やかに咲き誇る紅い薔薇はドレスのようでもあった。
 真っ先に対応したのは、輝凛。
「レディ・トゥ・ネクスト! ――「レディアント・モード」ッ!」
 燐光転身、良く通る声で高らかに叫べば、裡よりグラビティ・チェインが黄金の光子となって彼の身を包む――否、グラビティ・チェインそのものに変じた。髪と瞳は黄金に輝き、器から零れる力もまた黄金。
 景臣は眼鏡を外す――聖女を射貫く彼の瞳は地獄の炎が揺らめき、藤色に輝いた。黒鞘から舞藤を抜き払い、輝凛と共に仲間達の前に立つ。
 皆が仕掛けると同時、煙草を指で弾いて捨て、両の拳を構えて軽くステップを踏む。オーダーメイドのスーツは、彼女の身体にぴったりと寄り添いスタイルの良さを引き立てる――されど、踊る金色の髪の影から覗く赤の瞳は、獰猛な戦意に輝く。
「なんだ、聴いてたより大人しいじゃねえか」
 それとも男の前で猫でも被ってるのか、悪態混じりにハンナは空気を撃った。
 破裂音に似た高い音と共に拳から放たれたオーラは、聖女の纏う植物を突き破るように食らいついていく。
「ふふ、カンギ様との戦いで、目が覚めたのですよ」
 聖女はしとやかに笑って、気咬弾を地へ叩きつけるように両腕の植物をより増殖させながら、大地へと振り下ろした。
 攻め込んでいたケルベロス達を足下から揺らす衝撃の後、植物で編まれた大地は大きく膨らみ――足下から、いくつもの蔓が彼らを穿たんと飛び出してきた。
「前言撤回、やっぱり危ない女だな」
 ま、あたしも人のことを言えた義理じゃあないか、絡みついてくる蔦を力任せに振り払いながら、ハンナがどこか楽しげに嗤う。
 ダモクレスでありながら、植物を主体とした攻撃か――真介は目を僅かに細め呟くと、槍を一閃して蔦を振り払う。
「植物で支配して『確かな絆の仲間』にしてるのかね」
 攻性植物に寄生されてる方もどうかと思うが、真介は辛辣に言い放つと、槍を正面に構え地を蹴った。
 強く踏み込み、稲妻を帯びた刃を深く、刻むように繰り出す。
 が、手応えは浅かった。刃を巻き込むように無数の蔓が一気に伸び、その威力を弱めていた。
 一連の攻防で散った紅い花弁が、はらはらと舞う。
 ふと気付けば、白い何かが共に舞っていた――それはケルベロス達の傷を癒やし、鼓舞する兎耳つきの紙兵。
「支援、ばーっちり行くわよー!」
 後ろは任せなさい、高らかに芙蓉が声を発すると、はいっとルーチェが応える。
「きらめく愛の魔法少女、ぷりずむルーチェです!」
 紙兵の狭間を奔る流星の輝き、真っ直ぐ振り上げられた蹴撃は、弾力のある蔓をいくつか斬り裂いて、紅の肌を露出させる。すかさず、ブラックスライムの槍が食らいつく。
「隙ありです!」
 自慢げに尻尾をぴんと伸ばし、茜が不敵に笑った。
 迷宮に響き渡る破裂音が数発、続いて聖女の足下にいくつも穴を穿ち、その動きを阻む――更にライドキャリバー『ファルコン』が凄まじい速度で聖女の前に飛び込みスピンする。
 硝煙纏う銃口を軽く息で冷やし、キルロイは仮面の下、彼女を見つめる。
「……おめおめと生き恥を晒してきた甲斐があったってもんだ。必ずその無間地獄から解放してやる。 待っていろ、クイン」
 その声音に宿るは、悲哀と――明確な殺意であった。

●薔薇と眠る
 聖女の攻撃は遠くから追い立て弱らせていくことに特化しているようだった。徹底して敵の動きを阻害し、時に幻惑させ搦め捕ろうとしてくる。
 キルロイの記憶によれば、彼の心身を傷つけることを至上の喜びとする女だったが、どうやらそれほどの加虐心――戦いながらそう称するのも奇妙であるが――は持っていないようだ。目が覚めた、と称しているが、つまり侵略寄生による変化であろう。
 攻性植物を自在に操り盾とする守りは堅く、そして攻撃はこの迷宮において、どこから飛んでくるか読み切れぬ軌道を描く。
 対するケルベロスは、景臣と輝凛が攻撃を読むことに徹して捌き、キルロイ、ルーチェ、茜が正確に盾となる蔓を切り拓く。間隙を真介とハンナが強烈な一撃を叩き込む。
 適宜、即したサポートを芙蓉が多彩に付与効果を分けた業で行い、皆を支える。
 頬にひとすじ、朱が走る。
 傷を微塵も気にせず、眼前に迫り来る蔦を短い刃で捌いて前進し、根本を刀で一閃すれば、下がり藤の透かし鍔から通された銀細工が揺れる――景臣が切り拓いた道を、金の光を零しながら輝凛が駆け上がる。
 速度を乗せた重い蹴りは目にも留まらぬ。まさに閃光が如く。
 されど千々に爆ぜた蔦の奥より、待っていたと言わんばかりに、彼の脚に蔦がきつく巻き付いた。
「くっ……」
「輝凛さん! 今行きます!」
 演算より導き出される急所へ、ルーチェはオーラ纏う拳を叩きつけた。
 更に赤毛が揺れる。思い切り反った姿勢から、乱暴に振り抜かれるドラゴンハンマー。
「オラァ! 退け! です!」
 茜に叩きつぶされた蔦は先から凍結していき、砕け散る。解放された輝凛の身体を半透明の「御業」が包み込む。
「フフ、完璧なタイミング! 誉めてくれて良いのよ?」
 芙蓉は胸を張りつつ盛大に自負する。
 言葉だけで無く――ちゃんと周囲と状況を見、献身を尽くしているからこそ、他の者が攻撃に集中できていると真介は解っている。
「このまま任せる」
「勿論! ばっちり連携取ってケルベロス最高! これで行きましょう」
 縛霊手でぐっと親指を立てて請け負う。
 技のみならず、閉塞感ある戦場で、務めて明るく皆を鼓舞する。敢えて言葉にしない矜持のひとつを、形にするために。
 そんなケルベロス達の姿に、聖女は何故、と零す。
「無敵の樹蛇が召喚されれば、あなた方に先は無い……無謀な戦いを仕掛けるよりは、僅かな時であれ、穏やかに過ごす方が有益だと思いませんか?」
 今まで暴虐をつくした存在が発した問いかけには、哀れみの色が滲んでいた。
「無敵の樹蛇……そんなもの、呼び出させるわけにはいきません!」
 ルーチェにとって忘れられない存在でもある、小阿久――そして葬らざるをえなかった、寄生植物事件に巻き込まれた人々。
 同時に、輝凛も。かつて共に戦った場で、大切な武器を失わせてしまったと。
「だから、此処に来たんです!」
 二度と同じような思いをする者が出ないように、戦うと決めた。その思いを乗せて、彼女は駆けた。
「打ち抜け、太陽のビート! サンライト…インパルス!!」
 小柄な身体から繰り出された正拳――それは、触れた相手のグラビティ・チェインの流れをかき乱す特殊な波長を帯びている。
 特殊な衝撃に、怯み、咄嗟に防御に回したことで手薄になった場所を見逃さず、ハンナが待ち構えていた。
「悪いな……あたしは素手の方が強い」
 下方から思い切り振り抜くボディーブロー。瞬時、自らに走った痺れるような手応えにも怯まず、ハンナは振り切った。
 重いものがぶつかり合ったような音が低く響き、紅の身体を浅く蜘蛛の巣のように罅が広がる――銃をも凌ぐ鉄の拳は、鋼で出来たそれを穿った。
「あたしらはお前の後ろで動いている奴らに用があんのさ」
 ここで止まってられるか、とハンナは一蹴する。
 思わぬ痛手に一歩退いたにも関わらず、容赦なく突き立てられる白刃があった。
「……たとえ相手が誰であれ。それこそ神であろうと、番犬らしく、その首に噛み付いてさしあげましょう」
 派手に立ち回った二人の影に紛れるように気配を消していた景臣は、容赦なくその傷を空の霊力をもって深く斬り裂く。
 場に縫い止められたように動けなくなった聖女はがくりと片膝をついた。
 好機――、目標を真っ直ぐ見据え、茜はひとつ深く息を吐いた。
「紅王クレナイノアカ―――赤の手により我が血に染まれ」
 腕輪の封印を解き、赤いオーラに包まれた身体はまるで燃えているようである。
 いつもと変わらぬ跳躍で、あっという間に距離を詰める。
「スマートにぶっ飛ばします!」
 言葉と共に右手の爪を横薙ぎに、重ねて牙の形をした左手のオーラで引き裂く。それは長々連なっていた聖女の守りを一気に剥ぎ取った。
「疾く往け。」
 平静と変わらぬ淡々とした声音で、真介が発する。
 人知れず、聖女の直ぐ真後に回り込んでいた彼の無造作な――極自然な、神速の抜刀。
 日陰草と称する通り、その瞬間まで気取らせず放ったそれは紅い金属の腕をあっさりと斬り落とす。
 片手を失い、ほぼ動くこともできぬ傷を負った聖女は、それでも諦めず残った腕を伸ばす。
 追撃すべく正面から飛び込んだ輝凛を飲み込む束ねた蔦の群れ。だが、彼は速度を緩めることはなかった。
「僕らは絶対に負けない!」
 叫び、ドラゴニック・パワーを噴射し加速したハンマーを叩き込んで相殺――更に、残る片腕も吹き飛ばす。
 片白式符・良縁兎舞で呼び出された狛兎――と芙蓉が呼んでいる――のエネルギー体が、ケルベロス達の攻撃にぴょこぴょこと跳びはね喜び消えていくのを見送りつつ、両腕を破壊された聖女をひたと見つめた。
「身を尽くすのは良いわ。本懐よね。けど、聖女を名乗るなら――自分以外に従うな。」
 それが聖なると言う事だ、と告げ、
「最後、ばっちり決めなさいよ!」
 満月のようなエネルギー光球をキルロイに向けて放つ。言葉ごと受け止めた彼は、僅かに首肯する――仲間達への感謝と、いよいよ本懐を果たすのだという僅かな寂寥感。
 如何に考えようとも、引き金にかけた指は正確に段取りを踏み、銃口は真っ直ぐに聖女へと向けられ揺るがない。
「あばよ」
 短い言葉と共に放たれた、聖女を穿つ魔弾。
 無数の花が散り視界を赤く染め――仮面が、割れた。
 眉間に穿たれた孔は、ダモクレスであろうと致命傷であろう。何より、既に再起不能寸前まで破壊されていた。
 深緑の大地に仰向けに倒れた深紅の女は、もう立ち上がることも出来ぬ。
 その傍までキルロイは静かに進み――銃は未だ構えたまま、低い声音で問うた。
「カンギとは何者だ……何を企んでいる」
 その在り方こそが当然という彼の姿に、女は笑むような呆れるような吐息を零した。
 最期にかける言葉がそれか、とでも言いたげに――しかし、彼女は何も語らず微笑んだまま、息絶える。
 記憶の中の面影と、似て非なる貌。
「安らかに眠れ……クイン・ローズ」
 ケルベロス達に見守られながら――帽子を目深に被り直し、キルロイは今度こそ『彼女』に別れを告げた――。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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