作者：鹿崎シーカー
●琵琶湖上空
「美しい湖ですね。バルドルに島を押し付けて、湖を担当した甲斐がありますわ」
光明神ナンナは嬉しげに、眼下の湖面を見下ろすと、薄桃色の花弁を散らし『超召喚能力』を発動する。
するとどうだろう、花弁の落ちた湖面から、巨大な植物が生み出され、瞬く間に琵琶湖全体を覆い出したでは無いか。
ナンナは、嬉しそうに微笑むと、彼女の頼りになる仲間であるカンギ戦士団の面々を振り返った。
「侵入者が現れれば、この迷宮は皆さんにそれを伝えてくれるでしょう。ですから……私の事を、まもってくださいませね」
そうお願いするナンナ。『ミドガルズオルム』の召喚という大役を果たす彼女は、その特殊能力に比して戦闘力が極端に低い。
もし、ケルベロスが襲ってくればひとたまりも無いだろう。
「そのための、私達、カンギ戦士団です。私達の命にかけて、一人たりとも、あなたの元には通しはしません」
ドリームイーター、螺旋忍軍で構成されたカンギ戦士団の団員達は、ナンナにそう受けあった。
彼女達の間には、互いに命を預けあう程の絆が確かにあるようだった。
「では、『レプリゼンタ・カンギ』に、約束された勝利を届けましょう」
ナンナの号令と共に、カンギ戦士団は、琵琶湖の上に作られた植物の迷宮の中へと姿を消したのだった。
「さて、と。謎だったハロウィン事件の黒幕が動き出したみたいだね……」
いつになく厳しい表情をたたえ、跳鹿・穫は資料をめくった。
ハロウィンの折り、パッチワークの一人『第十一の魔女・ヘスペリデス』を支配下に置き、多数の攻性植物事件を引き起こした存在『カンギ』が自らの軍勢を従え行動を開始した。
一団は淡路島と琵琶湖を植物で覆い尽くして迷宮を生み出し、内部で儀式を行うようだ。その儀式とは、『無敵の樹蛇』ミドガルズオルムの召喚の儀。いかなる手段をもってしても決して破壊されない、名実ともに最強無敵の攻性植物。
そんなものが、もし地球に召喚されてしまえば、攻性植物は最強の勢力となり、攻性植物のゲートの破壊は困難となるばかりではなく実質ケルベロスの無条件敗北につながりかねない。
そこで皆には、迷宮化した淡路島と琵琶湖に座して召喚術式を展開するアスガルド神『光明神ナンナ』を排除し、ミドガルズオルムの召喚をなんとしてでも阻止して欲しいのだ。
しかし敵も召喚の要を放置はしていない。迷宮の行く手にはカンギが自身の力を以って打ち負かし、配下に加えた精鋭軍が守りを固めている。この不屈の戦士団を打倒して神への道を切り開き、最終的にナンナを討つ。厳しい戦いになるかもしれないが、皆の力を合わせてどうにか突破してほしい。
今作戦においては、ナンナを討つため彼女がいる琵琶湖迷宮に侵入することになる。植物は琵琶湖全域を覆い尽くしているばかりではなく、壁や床は破壊されると自爆する厄介な性質を持つ。ある程度は道なりに進まなければならない上、広大な迷宮のどこにナンナがいるかわからない。他の探索チームと連携し、手分けして探すのがいいかもしれない。
ただし、前述したようにカンギの軍勢が侵入者を確認し次第迎撃に来るので、長い隠密行動はできない。こちら側では攻性植物に侵略寄生された螺旋忍軍のニンジャやドリームイーターが守りに入っているようだ。ナンナ討伐のためにも、これら防衛軍を撃破する必要がある。
なお、ナンナの撃破に成功した場合は、植物迷宮は崩壊し他のデウスエクス達も撤退していくだろう。
「これまで必死になって守って来たのに、出ただけで負けなんてふざけてる。みんな……頑張ってきてね！」
| 参加者 | |
|---|---|
 篁・メノウ（わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903） |
 セラス・ブラックバーン（竜殺剣・e01755） |
 パール・ホワイト（サッカリンミュージック・e01761） |
 マサヨシ・ストフム（蒼炎拳闘竜・e08872） |
 リン・グレーム（銃鬼・e09131） |
 シュテルン・プラティーン（天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171） |
 忍乃・飛影丸（ダークブレイズ・e09881） |
 銀山・大輔（お鍋大好き青牛おじさん・e14342） |
■リプレイ
●
「あーだめだちっくしょう繋がんねえーっ！」
ノイズを吐くトランシーバーを放り出し、セラス・ブラックバーン（竜殺剣・e01755）は寝転がった。転がる通信機の電源を切り、どっしりとアグラをかいた銀山・大輔（お鍋大好き青牛おじさん・e14342）は苦笑する。
「まあまあ。イライラしても始まらねぇだ。時間はねぇけど、だからって焦ったら失敗するだぁよ」
「わかってっけどよー……なぁパール。なんかわかんねえの？」
胸にケミカライトを差し、手書きの地図とにらめっこするパール・ホワイト（サッカリンミュージック・e01761）は、輝くような笑顔で振り返った。
「うん、ぜんぜんわかんない！ シュテルンちゃんは？」
「……圏外です」
光の消えた目でシュテルン・プラティーン（天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171）。揺れるランタンが虚ろな表情を不気味になでる。
「ふふふふふ……いつの間にか圏外です。面白そうな場所もありませんしね……ふふふふふ」
「まぁ、湖の上だしねー」
篁・メノウ（わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903）が閉じていた目を開き、忍乃・飛影丸（ダークブレイズ・e09881）はダイヤルを回す手を止める。ポケットから四つ折りにしたメンバーリストを取り出し、メノウは難しい顔で首をひねった。
「ほぼ予想通りだけど、あたしの方もやっぱダメ。誰とも繋がんない」
「無線にも出まセーン。アウトオブアモーデース」
「同じくっす。流石は迷宮、一筋縄じゃ行かないっすね」
手書きの地図と琵琶湖のマップ、ジャイロコンパスを見比べながら、リン・グレーム（銃鬼・e09131）は楽しげに腕を組む。
「ただの迷宮かと思えば、まさか階層方式っすからね。しかも通信不能、と」
「植物の迷路って怖いねー……遭難しそう」
「半分遭難してるがな」
ぐたっと倒れ込むパールの横で、マサヨシ・ストフム（蒼炎拳闘竜・e08872）が頭をかく。
敵地に踏み入れ早四十分。無線は圏外。コンパスと地図、目印の蛍光スプレーを使いながら進むも、分岐に行き止まりはもちろんのこと。気づけば元の場所にいたり、上の階に登っていたり。目印の蛍光スプレーはもはやアートめいている。
高い天井を見上げ、セラスはうんざりとつぶやいた。
「マジでどーなってんだよー……複雑すぎんだろ。書ききれねーよ」
「想像以上に厳重だな。出せば勝ち確定の切り札とはいえ、こんな迷路にしまうとは。相当、失いたくない手札だと見える」
「ミドガルズオルム……ヨルムンガンドって言うくらいだしね。早くどうにかしないと」
難しく黙る面子の前で、マサヨシは不意に立ち上がった。
「やめだ。こうしていても仕方ない。お前たち、ちょっと下がってくれ」
距離を取り、コンパスを確認。そびえる緑の壁をにらみ、腰だめに両手を構えた。手の間に青い炎がくすぶり始める。背後に回る女性陣を尻目に、大輔は微妙な面持ちでうなった。
「もしかして、やる気だぁね？」
「ああ。ちまちま探るより、派手にブッ壊すほうが性に合うんでなッ！」
牙をむき、膨らんだオーラを発射する。蒼炎が壁を撃つと同時、その周囲が赤く赤熱。次の瞬間、炎を撒き散らして爆発した。
「ワーオ！ グレイトフルなカトン・ジツデース！」
「何言ってんすかこんなときに……ん？」
頬をかくリンの苦笑いが引っ込んだ。周囲の暗闇に視線を走らせながら首にかけたヘッドフォンを装着し、大輔にしがみついたパールにささやく。
「……パールさん、大声出してもらえるっすか」
「ふぁ、大声？ なんで？」
振り向き首を傾げるパールの瞳に忍び寄る植物のツタが映り込む！
「メノウさんがいない！」
その瞬間、赤と青の炎が巻き起こる！ 爆炎に飲まれたツタは一瞬にして焼き切られ、灰になって崩れ去る。真紅のマントひるがえし、セラスは自慢の剣を振り抜く！
「テメー……そこかぁぁぁッ！」
突き上げた刃が火球を放つ。炎は暗がりの一部を消し飛ばし、ふたつの影法師を落とす。ひとつは後ろ手に縛られたメノウ。もうひとつは露出度の高い衣装をまとった女の忍者！ 笑みを残す忍者の顔を、闇の帳が隠す。
「行くよーっ！ ロックンロぉぉぉぉぉルッ！」
パールのギターの音色を頼りに、リンは手榴弾を投げつける。目が眩むほどの閃光！ 浮かぶ影めがけてシュテルンが相棒のヨタローに乗って飛び込んだ！ 金に輝きながら！
「ライジングモード起動ッ！ 篁流格闘術……」
スピードを得たシュテルンは跳躍！ 自由落下する忍者めがけて飛び蹴りを繰り出した！
「『吹雪』ッ！」
「がはっ……」
露わになった背中にヒット！ ヨタローの銃眼が火を噴き、ツタを撃ち抜く。敵の手から零れるメノウを、三角跳びを決めた飛影丸がキャッチ。それぞれ空中で回転し着地したのち、飛影丸はオジギした。
「ドーモ、アナスタシア＝サーン！ ダークブレイズデース！」
「あらあら……ふふふ」
女忍者、アナスタシアは背をさすりながら立ち上がった。
「美人さんにもてなされるなんてね。もうちょっと小っちゃかったら恋してたわ」
「へっ。相変わらずの幼女趣味かよ？ アナスタシア」
「あら、別に幼女に限らないわ。もちろん大歓迎だけど」
セラスを見返し、アナスタシアは妖艶に微笑む。そして女性陣を順に、値踏みするように見渡した。
「でもまさか、あなたが来てくれるなんてね。強くなって、しかもこんな可愛い子たちを連れて来て……」
「捕まるために来たわけじゃないから」
首を振り、メノウは刀を構える。肌がひりつくような空気の中、くノ一は破顔した。
「そうね。いきなりは急ぎ過ぎたかも。だから……」
両腕を、緑の二重螺旋が絡めとる。光を散らして咲く純白の百合。アナスタシアは腕をしならせた。
「寝かせてからゆっくり調教してあげるッ！」
空を裂き、手裏剣が飛ぶ！ 三枚の星型刃を大輔は金棒をフルスイングして打ち返す。金棒を包む稲光！
「あんたに付き合ってる暇はないんだぁよ！ 押し通るだ！」
突き出された金棒をアナスタシアは回転回避。胸のライトを投げ捨てパールはギターに手を添える。
「ロックン、ロぉぉぉルッ！」
白魚めいた指が閃き、弦をつま弾く。小型アンプが音符を掃射。側転でかわされた第一波は弾け、五線譜となって大輔の背と外れた音符を受け止めた。メノウは刀を手に剣舞を踊る！
「篁流回復術……『黄雀風』！」
「御託はいらん！ ナンナの居場所を吐いてもらうぞッ！」
暖かな風を受け、マサヨシは拳を握る。引き絞られた五線譜が、大輔と音符を発射した！ 音符は新たな五線譜になりアナスタシアを締め上げる！
「あら？」
「ウオォォオオッ！」
下には金棒、上には拳。輝く五線譜に巻かれた忍者は微笑み、金棒に飛び乗る！ フックを避け、金棒の勢いを利用して高く跳躍！ 宙を舞う彼女を狙い、飛影丸は燃える蹴り足を繰り出す！
「クビキリ・ジツ！ イヤーッ！」
「お熱い子達ね。嫌いじゃないわ！」
首を狙う火炎車！ アナスタシアは海老反りになり、足で手裏剣を投げた！ 弧を描いた三枚は飛影丸の脇腹に突き刺さる。ぶれたかかとが露わな鎖骨を打ち据える！
「グワーッ！」
「ぐっ……」
空中で組み合う二人！ だが長大な銃身を支えるリンの照準はただ一人を捕捉する。
「なーんか勘違いしてるみたいっすけど……俺は男なんすよねえッ！」
銃身が輝き、連続で翡翠色の光を放つ。飛影丸はフックロープを投げて退避。着弾・爆破！
銃を再装填し、リンは思わず目を見張る。爆煙の中、複雑に絡み合ったツタが飛び出す。小さな百合を備えた縄めいた腕が、二本！ 煙を払い妖艶に笑うアナスタシアが顔を出す！
「そうなの？ でも可愛いから飼ってあげるわ」
「……お断りっすねえッ！」
エンジン音を響かせディノニクスが走り出す。連射される稲妻弾を百合のツタが絡めとる。回る緑の剛腕！ 爆発する音符弾をも防ぎきる防御網に、光の線が刻まれた。直後！
「篁流格闘術……『棲汰亞封印牙』！」
「うおらあああああッ！」
一閃。星型の光を連れてシュテルンはツタを斬り捨てる。破れた壁からマントをひるがえすセラス！
「どうしたよ！ 随分弱くなったんじゃねーの！」
セラスの剣に炎が逆巻く。千切れたツタを再生しながら忍者は、オーバーヘッドキックめいて手裏剣を投げる！
「清き風、邪悪を断て！ 篁流回復術、『禍魔癒太刀』ッ！」
虚空に振るったメノウの刀が真空の刃を連続で撃つ。見えざる剣はツタと手裏剣を細切れにし、仲間たちの背中を押した。炎月を描く竜殺剣！ アナスタシアは身をひねってこれを避け、続く水平斬りの上に乗る。
「……いい加減、これ邪魔ね」
刀身を蹴って回転跳躍！ 振り向きざまの斬撃とシュテルンのアッパーを潜った先には、パール！
「テメッ……！」
「大輔ッ！」
「うらァーッ！」
金棒のに足をかけ、マサヨシが飛ぶ！ 演奏を続けるパールの手が、止まった！
「うぇっ!? な、なにこれ！」
演奏停止。青いギターに絡んだツルが花を咲かせ、首にも巻きつく。素早く照準を合わせたリンの視界が白く染まった。
「うッ!?」
銃口がぶれ、弾は明後日の方に去る。銃身を縛るツルにも百合が咲く。
「ふふふふふふ……」
五線譜がほどけ、うつむいていたパールは解放されたギターを鳴らす。放たれる音符弾幕を、マサヨシはラッシュで切り開く！ 余裕の表情を浮かべたアナスタシアはパールの頬に指をはわせた。
「やっぱり、縛るのがいいわ」
「篁流格闘術……っ！」
足を立てたシュテルンの腹に刃が刺さる。至近距離で刀を突き立てたのはメノウ。首には百合で編まれた邪悪なリース！
「篁流剣術」
「……え」
バイザーの奥で目が点滅。装甲を突いた剣は、横薙ぎに切り払われた。
「『繊月』」
「イヤーッ！」
弾幕に落ちるシュテルンに飛影丸はフックロープを投げ回収。不浄の炎で音符群を相殺しながら着地。壁を蹴り、隕石めいた勢いでセラスがダイブする！
「二人を、離しやがれぇぇええッ！」
無造作に上げた腕から、ツタの波。百合は焼かれながらも成長し、セラスを飲み込まんとする。乱れる百合の香りが意識を刈ろうと魔の手を伸ばした。
「諦めなさい。楽になれるし……なにより、この子たちともいられるわ。その力、カンギ様のために振るいましょう？」
「ふざけんな……冗談じゃねー」
炎ごと包もうとするツタの中で、セラスはうめく。
「誰が催眠で操られてやるかよ。俺の体は、俺だけのもんだ！ 行くぜ、アイディィィールッ！」
剣から火球が膨れ上がった！ 邪念の花を焼き尽くし、コロナを噴き上げる太陽。中心には黄金の鎧をまとった小さき勇者。剣を振るい、残るツタも灰に帰す！ リンは気力をしぼって剣を展開。百合を力任せに引き千切る！
「雷鳴は大気を震わせ、稲妻は空を裂き、雷は地を焼く！ この身一条の雷弾なりて突き穿つッ！」
雷の剣が指す道を、砲弾めいて疾駆する。高速回転する腕がシュテルンと結ぶメノウの首筋をかすめ、アナスタシアへ一直線！ みぞおちに拳をたたき込んで吹き飛ばす！ 太陽が、破裂する！
「うぉぉぉおおおおおおッ！」
燃え上がる迷宮！ 熱された壁や床が爆発し闇をかき消す。炎の海はいくつもの渦を巻いて荒れ狂う。爆熱の中響く、凛とした声！
「篁流回復術……『東尋坊』！」
炎の暴風を身に纏い、シュテルンとマサヨシが殴りかかった。アナスタシアは即座に手裏剣を投げて迎撃するも、マサヨシは全てを体で受ける！
「ハッハッハ！ どうした！ こんなの眠気覚ましにもならんぞッ！」
「好き放題やってくれた代償、支払ってもらいましょうか。今、ここで！」
零距離に踏み込み、二人は拳を撃ち出す。マシンガンめいたラッシュ！
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……オラァッ！』
激烈な乱打がアナスタシアを跳ね上げる。手裏剣を握る腕は大輔が投げた金棒を受け、あらぬ方へ折れ曲がった。
「ぐッ……！」
金棒は忍者を宙へ連れていく。サーファーのように乗った、飛影丸と共に！
「ヒサツ・ワザ！ イヤーッ！」
地獄の炎に燃える手が、アナスタシアを捕まえた。そのまま上下反転！ 隕石めいて落下する！ 落下地点には、竜殺しの剣を携えた黄金のセラスが立つ！
「お前との因縁もここまでだ。決着つけてやるぜッ！」
周囲の炎が一点収束！ たちあがる黒炎は翼を広げ、不死鳥へと姿を変える。あらん限りの力を込めて叫ぶパール！
「セラスちゃんっ！ 行けええええええッ！」
魂の声が虹色の光となって炎に混ざる。焼け付く幻想の輝きに、アナスタシアは目を開く。セラスはその目をにらみ据え、いななく不死鳥を解き放った。
「全部纏めてッ！ 焼き尽くすッ！」
不死鳥は飛影丸の手をすり抜け飛翔する。天井を爆破し突き抜け、さらに高く！ 切り取られた空の果てで、爆轟となって燃え尽きた。
●
「しかし……結局ナンナの居場所はわからず仕舞いでしたね」
装甲を解除したシュテルンが体を伸ばす。やや機械的なマサヨシは首を鳴らした。
「命乞いもしなかったしな。一貫してカンギ様カンギ様……変態かと思えば、大した忠義だ。いっそ、わざと洗脳されりゃあ、ナンナのトコまで行けたかもな」
「やめときましょうよ。アレ、結構キツかったっすよ？」
「俺もそう思う。おいパール、大丈夫か？」
「うぇー……」
リンとセラスが髪をかき混ぜる。疲労か催眠の余韻ゆえか、表情はどこか眠たげ。セラスに負ぶわれたパールに至っては目を回していた。大輔はメノウを背負い直す。
「思ったより時間かかっただぁね。先に誰か着いてるかもしれないだぁよ」
「フーム、わかりやすく中心で光の柱とか立ってるといいのにデース」
迷宮に突如地鳴りが響く。揺れは徐々に大きくなり、周囲の壁がひび割れる。硬い欠片がバラバラと降って来た。リンはヘッドホンに手を当て周囲を探る。
「敵影なし。広範囲で崩壊……タイムアップ、みたいっすね」
「おおおおお!? ど、どうすればいいだ!?」
激しくなる迷宮崩壊。シュテルンはヨタローにまたがった。
「どうするって、決まってるでしょう。……逃げるんですよ」
「ワッザ!? どこにデースか！」
右往左往する大輔の背で、薄目を開けたメノウが苦しげにうめく。
「さっき、天井に開けた穴……そこからなら」
「後ろは任せろ。行けッ！」
彼方から迫る崩落を背に、目印をたどって走り出す。徐々に遠ざかる仲間を眺め、セラスは零すように呟いた。
「なんか、悪ィ。付き合わせちまったよな。メノウとリンもさ、あんな……」
「いいから行け。他の班も優秀だ。ここで因縁にケリつけても、誰も文句はあるまい。逃げるぞ！」
「おーい、何してるだぁーっ！ 早くするだぁーよ！」
頭を振り、駆けだすセラス。
「今行く！」
小さな背中に揺さぶられながら、パールは小さく微笑んだ。
| 作者：鹿崎シーカー |
重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし |
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種類：
公開：2016年12月9日
難度：普通
参加：8人
結果：成功！
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