光明神域攻略戦～翠の迷宮

■リプレイ

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　攻性植物に覆われた淡路島は、すっかりその姿を変えていた。上空から見えるのは、ただただ緑だけ。そこに元々何があったかなど、わからぬほどに浸食されて。
　そんな、異様な光景を前にして。ケルベロス達は意を決して、ヘリオンより飛び降りた。
「さて……そろそろ降下しに行こうか、であります」
　言葉と共にヘリオンを飛び出し、ジャミラ・ロサ（癒し系ソルジャーメイド・e00725）は淡路島の中央地点目指して降下していく。それに続いた瑞澤・うずまき（ぐるぐるフールフール・e20031）は、眼下に広がる景色に目を奪われた。
　植物蠢く島は原形をとどめていないけれど、その奥に見える瀬戸内海までは侵されておらず、鳴門の大渦が今も発生している。そんな、自然の姿に気を取られて。ほうっとしていたうずまきは、その間に大地が接近していたことに気付かなかった。
　落下しながらも手にした杖にグラビティの力篭め、輝島・華（夢見花・e11960）が雷を放つ。進行方向の緑、狙われた攻性植物は雷の着弾とほぼ同時に爆発した。
「わっ、とと！」
　立ち込める煙にはっとしたうずまきは、慌てて体勢整えて。ぽっかり空いた穴の中へと飛び込み着地するけれど、その衝撃を両足に受け止めきれず、彼女はつんのめって転んでしまった。
「大丈夫でありますか？」
　ジャミラが助け起こせば、恐縮しながらも手を借りて。そんな二人の側へ落下してきた風呂井・シンヤ（夢遊描・e33378）は、ひらり着地して声を弾ませる。
「ヘリオンから落ちる浮遊感って、楽しいよな」
　笑う青年の隣には、ビハインドの夢の中の少女が現れる。その間にも続々と迷宮内へ着地して、ケルベロス達は周囲を確認した。
「突入早々敵に包囲される、という事態は避けられたようね」
　羽ばたく翼、ひらりと地に足つけてリィ・ディドルディドル（悪の嚢・e03674）が言葉紡ぐ。彼女の後を追うように翼ぱたぱたやってきたボクスドラゴンのイドは、すでにあちこち傷ついていた。突入口をこじ開けるため、リィが放り投げて植物の自爆を受けたからだ。
　シンヤがそのダメージを癒そうとオーラに力篭めれば、華はふわと笑って礼を述べる。
（「正直不安も大きいですが、皆様と一緒ならきっと大丈夫」）
　見知った顔も多い此度のメンバー、こうして揃っていれば心強い。薄紫色の髪の少女が信頼の瞳向ければ、翡翠寺・ロビン（駒鳥・e00814）もこくりうなずいた。そうして持参した淡路島の地図を広げれば、その上に明滅する光が生まれて彼らの現在地点を示す。
「スーパーGPSは使えるみたい、ね」
「アイズフォンは使えません。そんなバナナであります」
　ジャミラの言葉にリィが無線機を確かめると、こちらもノイズばかりで通信できない様子。デウスエクスの作り出したフィールドでは、通信機器による連絡は難しいのかもしれないが――それでも、彼らが行うべきことに変わりはない。
　まず目指すは、感応寺山。ダメージ覚悟で島の真ん中に飛び降りたのだ、目的地まではすぐそばのはず。地図を確かめながら歩き出す仲間達に続いて、リシティア・ローランド（異界図書館・e00054）は周囲を警戒しながら進んでいく。その表情は無機質で、どんな感情を抱いているかはわからないけれど、地中からの奇襲も警戒する彼女の藍の瞳に油断はなかった。

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　そうして道を進むうち、ケルベロス達はこの迷宮が複雑に入り組んでいることに気付いた。
「地図上では、先程通った地点へ戻ってきたようでございますが……分岐が異なります。三次元的に考えた方がよさそうでございますね」
　双眼鏡をのぞきこんで、ギヨチネ・コルベーユ（ヤースミーン・e00772）が考えを述べる。攻性植物が絡み合い形成された道は平坦ではなく、上り坂もあれば下り坂もある。平面である地図上でGPSが同じ地点を指すのなら、階層が違うと考えるのが適切だろう。上下もあれば、うねうね続く道は迂廻路だらけ。近付いたかと思えば遠ざかる感応寺山に、ロビンはその瞳をわずかに伏せた。
（「山の中は、空気が澄んでいて好き……だけど。ここは、自然のここちよさは、感じられないわ、ね」）
　この迷宮は、気に食わない。不快感に眉寄せながらも、彼女は仲間を先導し道を進んでいく。通信がとれる環境ならば他班と探索場所が被らないよう協力し合おうと思っていたが、それが叶わぬ今は彼らがどこにいるのかもわからない。迷宮自体に目印をつけ合えば、仲間が通った道かわかったかもしれない。そんな後悔を胸に浮かべながら、シンヤも彼らについて進んでいった。
　複雑な道の果て、彼らはやっと感応寺山のある地点へ辿り着く。とは言っても、スーパーGPSがその地点を示すのみで、周囲の景色は変わらなかった。ケルベロス達が思っていた以上に攻性植物の壁は厚く、淡路島にあったもの全てを覆い隠しているようだ。
　代わり映えのない景色、目的地へ辿り着いた達成感も薄く。気落ちする仲間達を見かねて、リィは持参した包みを取り出した。
「サンドイッチ作ってきたけど、食べる？」
「……サンドイッチ」
　反芻したのはロビンで、同時に彼女の腹がぐううっと空腹を訴える。そんな彼女の横では、華もまた瞳輝かせて。
「わ、リィさんありがとう。いただきます」
　そしてケルベロス達はわずかな間、休息の時を過ごす。
「気が利いてる、のね。……これが、女子力ってやつ？」
　首傾げながらロビンがサンドイッチ齧れば、話題は淡路島の名産品、玉ねぎのことへと変化していく。
「買うのはここが平和になったら。何かお料理してみんなで食べましょう？」
　華の提案には、リィもロビンもうなずいて。そして、ケルベロス達が決意も新たに、前へ進もうと立ち上がった時。
「――あら。おしゃべりはおしまい？」
　かかる声は、女のもの。
　突然のことに驚きケルベロス達が振り返れば――そこには、ドラグナーの女が立っていた。

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　中東の踊り子のような衣装に身を包み、妖艶な瞳でケルベロス達を見て。彼女は、楽しそうに吐息を漏らす。
「あらあら、可愛らしい子が、こんなにたくさん」
　警戒する面々を、品定めするようにじっくり眺める。その瞳が向けられた時――ギヨチネの体には、無意識のうちに力が入った。
　忘れてなどいない、彼にとっての仇。けれどその存在を目の当たりにした今、彼は駆られるほどの激情が自分の内にはないことに気付く。だから、ギヨチネは言葉を発することもなく。ただ静かに、『Nalmuqtse』を担ぎ上げて戦闘態勢をとった。超重量を誇る巨人の鎚は主の意のままに変形し、竜の力篭めた砲弾を宿敵目がけて撃ち出した。
「ふふっ、とんだご挨拶だこと……！」
　言葉の中に、不気味な興味を潜ませて。ブラックスライム操る女はその武器でもって砲撃の勢いを殺し、そのまま黒い液体広げてケルベロス達へと襲い掛かった。狙われたのは、前衛務める四人と二体。ロビンへ向けられた口はリィが受け止め、初めよりリィを狙っていた分はシンヤのビハインドである少女が受ける。体力の少ない彼女ではあるが、敵の範囲攻撃は大人数を巻き込むことで威力を減らしている。このくらいならば、耐えられる。
　傷受ける仲間達見てお返しと、華はエアシューズで地を駆ける。植物蔓延る地面は平坦ではないけれど、彼女の勢いはそんなものには削がれない。
（「ギヨチネ兄様の本懐が遂げられるよう、私も頑張りますの」）
　決意を胸に跳んで、向ける蹴撃は流星の煌めき。叩き込まれた衝撃にウージェニィの体が揺れる隙、その死角に回り込んだのはロビンだ。
「さようなら」
　唇に小さく音乗せて、駒鳥は『レギナガルナ』を大きく揮う。情けをかければ己が死ぬと、かつて教えられた彼女の一撃には迷いがない。冷徹な一閃は紅い軌跡を描き、斬りつけられたドラグナーの身もまた、紅に染まる。
「酷い人達……。寄ってたかって女をいたぶるなんて」
　言葉とは裏腹、楽しそうに瞳細めて。女の手は自身の腿へ手をやり、体のラインを強調するかのように滑らせて、その蠱惑的な視線をケルベロス達へ送る。
「――ねえ、力に自信があるのなら、あなた達もカンギ様の配下になってはどうかしら？　あの方に従うのなら、イイコトがあるわよ」
　くすり。口元覆う布の奥で、彼女の唇が吊り上がるのが見えるように。誘う女にふらりと、翼はためかせたのはイド。誘いにも巨乳にも弱い箱竜にそのハニートラップはてきめんだったのだが――近付くより先、リィがその身をむんずとつかむ。
「これは本当にあなたの意志？　カンギに負けて、その上パシリなんて。良いザマね」
　かけた言葉は、ウージェニィの行動が洗脳からくるものではないかと探るため。赤茶の瞳で見据える先、しかし女は瞳見開き首を振った。
「カンギ様は、素晴らしいお方なのよ。こんなに夢中になれる相手、初めてだもの。あなた達だって、頑なにならなければきっと」
「お断りよ」
　ぴしゃり、返す言葉と共にリィは手の中のイドをウージェニィ目がけて投げつけた。放物線描く箱竜は、そのまま女目がけてタックルを繰り出す。このドラグナーに侵略寄生した、攻性植物の影響はわからないけれど。今目の前にいる彼女を倒す以外にないのだと、悟ったからには容赦はしない。
　リィが戦場に紙兵撒く中、シンヤもまた癒しのグラビティを放つ。
「うへぇ……綺麗だけど、怖いお姉さんだ」
　ウージェニィへの感想漏らしながら、彼が顕現させたのは角の代わりに翼の生えた六つ目の牡鹿。疾くて、自由で、軽やかで。緑の世界を駆けた牡鹿は、前方の仲間達の傷塞ぎ、集中力を高めていった。

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　カンギ配下の精鋭たるウージェニィは、油断のならない相手だった。揮うはブラックスライムと、寄生によって得た攻性植物の力。全てを喰らい尽くす黒と、丸呑みの攻撃。それから要所で黄金の果実による回復も行ってくる敵に、戦いは長引くこととなった。
　しかしそれは、ケルベロス達にとっても好都合。前衛を厚くし守り手多い此度の構成は、この後の探索のため耐え切ることを目的としたものだっただろう。互いの戦闘傾向が似ていたため然程危険な局面もないままに、ケルベロス達は少しずつドラグナーの体力を削っていった。
　だが、強力なデウスエクス相手にこちらも無傷とはいかない。仲間守ろうと健闘した守り手達はやはり消耗し、一番体力のないビハインドの少女は限界迎えて姿を消した。イドはなんとかまだ戦場にいるが、次強力な攻撃を受ければ立っていられるかはわからない。
　けれど、ケルベロス達は決して諦めない。敵の攻撃にちぎれそうになったリィの腕を、元に戻そうとウイングキャットのねこさんが癒しの羽ばたきを送る。出血激しいギヨチネには、シンヤの光の盾が守護について。
　ダメージは確かに蓄積されていくのだが、それでも潤沢な癒しは戦線を支える。そして癒しながら攻める戦法は、ウージェニィを焦らすのに十分だった。
「あぁ、もう。なんだか冷めてきてしまったわ。早く終わらせましょう」
　白けた瞳、ブラックスライムを広げて。一気に片を付けようと、動き出したのはドラグナーの方。そしてヒールグラビティを使わなくなった今こそ、ケルベロス達にとっても最大のチャンス。
　この時を見逃すまいと、華は青の瞳に力を篭めて敵の頭上へ魔力の花を生成する。
「綺麗な花吹雪、楽しんで下さいませ！」
　響く声は年相応に無邪気、花纏う杖より花が溢れて、吹雪となる。
　その背後ではリシティアが巨大な魔法陣を展開し、上空より光の柱を産み落としていく。
「古来より雷は神に喩えられている……神鳴る裁きよ、降りなさい雷光」
　求める言葉、それに応えるは雷か神か。敵目掛けてまっすぐ落とす一撃を、受けた時。ウージェニィは確かに、たたら踏んで眉跳ねあげた。
「ジャミラさん、いこう！」
　敵の反応見たうずまきが、反射的に駆ける。敵はきっと、終わりが近い。ならば今こそ、仲良しな彼女の力となりたい。
　願いが、槍握りしめる手に力を与える。帯びるグラビティは稲妻の光、ドラグナーの懐飛び込んで、渾身の力で突き上げる。
「えーい！　痺れちゃえ！」
「グッジョブ……ぴったしカンカンのタイミングであります」
　気合いの言葉に続くのは、友の声。メイド服翻したジャミラは、リミッターを解除し終えた全兵装を、ぴたりと敵へ向けていて。
「照準を固定……鎮圧、開始。無限の硝煙と弾幕の流れの中で溺れてください」
　淡々と告げれば、迸る光。巻き起こる弾幕は戦場に轟き、たまらず敵は膝をついた。
「っ……なぜ、私が負けるの……？」
　呆然と零れる言葉、しかし僅かながら体力残したウージェニィは――突然腕を振り上げて、リシティアへとブラックスライムを奔らせた。
「おとなしくやられるものですか！　あなたを道連れにしてあげる！」
　響く高笑い、迫りくる黒き液体。その攻撃が届く前に倒してしまえばと、リティシアが『N weapon <No626.Res Arcana>』を構える。しかし、わずかに間に合わず、飲み込もうと黒が広がって――。
　次の瞬間その攻撃を受け止めたのは、屈強な男だった。
「なっ……」
　ドラグナーが、言葉を失う。満身創痍のその身体で、なおも盾となるギヨチネを見つめて。
　――しかし、その顔に過去の因縁思わせる表情はない。彼の存在など、籠絡してきた数多の男達の影に隠れた一人にすぎないのか、それともカンギ配下に落ちた時全て忘れたのか。
　どちらだろうと、構わない。ケルベロスとなった今、ギヨチネは仲間を守る盾となるだけだ。
　そして、仲間を守るために。ギヨチネは指先の爪を硬化させ、敵の心臓目掛けて高速の突きを繰り出した。
「はっ……！」
　とどめ受けて、零したのはただ、小さな吐息だけ。
　今度こそ倒れ込んだドラグナーの女は、そのままゆっくり消滅して、緑の迷宮に溶けていった。

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　そして、戦い終えて傷を癒して、ケルベロス達は再び探索を始める。先山、千光寺。目的地までの道はやはり滅茶苦茶で、彼らは行ったり来たりを繰り返し進んでいった。
　翠の迷宮を彷徨う事、数時間。やっと千光寺付近へと辿り着いたところで、迷宮に異変が起きる。あんなにがっしり絡み合っていた植物の壁達が、解け零れて崩壊を始めたのだ。
「うまくいったみたいだね」
　きっと、他の班の誰かがバルドルを討ち取ったのだろう。うずまきが呟けば、仲間達にも安堵が広がる。
　翠に覆われた迷宮の探索、そして宿縁の戦い。バルドルに相見えることは叶わなかったけれど、たくさんのケルベロスが手分けし探索したからこそ、敵にその手を届けることができたのだ。
　崩壊進む迷宮の中、彼らは微笑み出口を目指す。誰も倒せず帰れる達成感を胸に、植物達を蹴散らして。その歩みは真っ直ぐに、彼らの還る場所へと続いていた。

作者：真魚	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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