光明神域攻略戦~紡ぐ災厄の種

作者:秋月諒

●淡路島上空
「ここが淡路島、ナンナが担当する琵琶湖と対となる美しい島ですね。さっそく、私の『超召喚能力』を見せるとしましょう」
 光明神バルドルが、手にした頭骨型の魔具を掲げると、淡路島全土を覆う植物の迷宮が生み出されていく。
 それを満足そうに見やったバルドルは、彼の護衛として付き従っていた、カンギ戦士団の面々に信頼の視線を向けると、軽く一礼する。
「では、私はこの中で、『ミドガルズオルム』の召喚を行います。皆さんには、私の身を守る警護をお願いしますね」
 そう言われた、カンギ戦士団の戦士達……ダモクレス、エインヘリアル、シャイターン、竜牙兵、ドラグナー、ドラゴンといった多種多様なデウスエクス達が、その信頼に応えるように胸を叩いた。
「任せて貰おう。我らカンギ戦士団、生まれも種族も違えども、確かな絆があるのだから」
 光明神バルドルが迷宮に入ると、それに続いて、カンギ戦士団の戦士たちも迷宮へと歩を進める。
 全ては、彼らの主たるカンギの為に。

●光明神域攻略戦
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はそう言うと、真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「ハロウィン攻性植物事件で情報のあった『カンギ』の情報が確認されました」
 それはパッチワークの魔女を支配下に置き、ハロウィン攻性植物事件を引き起こした者の名だ。
「あの時、情報にあった『カンギ』軍勢により、『淡路島』と『琵琶湖』が同時に植物に覆われる事件が発生しました」
 そこまで言うと、レイリはひとつ息を吸う。
「彼らの目的は、無敵の樹蛇『ミドガルズオルム』の召喚であるようです」
 ミドガルズオルム。
 それは、どのような方法でも破壊されないという特性を持つ存在だ。
 もし、地球上での召喚を許してしまえば、攻性植物のゲートを破壊し侵略を排除する事は至難となる。
「これを、許すわけにはいきません」
 そう言って、レイリはケルベロス達を見た。
「現在、淡路島と琵琶湖は繁茂した植物で迷宮化しています。その中には『侵略寄生されたアスガルド神』が設置され、その神力により、この大規模術式を展開しているようです」
 この迷宮には『カンギ』配下の精鋭軍が守りを固めている。
 『カンギ』配下の精鋭軍は『これまでの幾多の戦いで、カンギが打ち負かし、配下に加えたデウスエクス』であり、『カンギ』と熱い信頼と友情で結ばれている。決して裏切ることは無い不屈の戦士団であるようだ。
「彼らにとっても、最大戦力の召喚であることは事実なのでしょう」
 容易い相手ではありません、とレイリは言った。
「皆様に向かっていただくのは、淡路島側となります」
 戦場となる植物迷宮は、淡路島全域を覆い尽くしている。
「植物迷宮であるため、破壊して進むことは不可能ではありませんが……、植物の壁や床は破壊されると自爆してダメージを与えてきます」
 彼らの迷宮であることは事実なのだろう。
「ある程度迷宮に沿って移動する必要があるでしょう」
 その上、とレイリは顔を上げる。
「広大な迷宮の何処にアスガルド神がいるか不明です。探索するチーム毎に探索開始地点や探索する地域を手分けしていくのが良いかもしれません」
 それと、とレイリは息を吸う。
 まだ他にも何かあるのかと、聞こえた声に軽く肩を竦めて静かに頷いた。
「敵は、広大な迷宮だけではありません」
 迷宮内には、『カンギ』によって支配され、攻性植物に寄生されたデウスエクスがおり、侵入者を攻撃してくる。
「迷宮への侵入者を確認すると、デウスエクス達は迎撃に出てくることは分かっています。一定時間が経過すれば何処にいても敵の攻撃を受けてしまいます」
 この作戦の目的は、敵であるデウスエクスを撃破し、迷宮を探索、そして、この事件を引き起こしているアスガルド神を撃破する事だ。
「盛り沢山、ですよね。ですが、これを為さねばなりません」
 無敵の樹蛇『ミドガルズオルム』の召喚を許すわけにはいかないのだ。
 淡路島の迷宮にいるアスガルド神『光明神バルドル』の撃破に成功すれば、植物迷宮は崩壊をはじめ、デウスエクス達も撤退していく。
「住民の避難についてはどうぞお任せを。既に、淡路島と琵琶湖周辺の住民の避難は完了しています。どうか、迷宮の攻略とアスガルド神の撃破をお願い致します」
 アスガルド神を撃破する事ができれば、作戦の目的は達成できる。だが、ほかのチームを援護する事もまた重要となってくるだろう。
「カンギ配下の戦士団もまた、かなり手ごわい敵になるでしょう。容易い相手ではありません」
 ですが、と言って、レイリは顔をあげた。
「皆様ならば、成せると信じています」
 そして、ちゃんとみんな揃って無事に帰ってきてくださいね。
 無茶を言った自覚はそのままに、だが信頼を込め、そう言ってレイリは真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「それでは行きましょう。皆様に幸運を」


参加者
フィオレンツィア・エマーソン(ハウンドチェイサー・e01091)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
アリエット・カノン(鎧装空挺猟兵・e04501)
ティスキィ・イェル(魔女っ子印の劇薬・e17392)
リヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)
響命・司(霞蒼火・e23363)
マリアンネ・ルーデンドルフ(断頭台のジェーンドゥ・e24333)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)

■リプレイ

●緑陰の回廊
 それは、異様な光景であった。
 淡路島がすっぽり、植物に覆われているのだ。
「……」
 は、と息を吐き、アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)は迷宮を見上げた。そう、見上げた、だ。淡路島全土を覆う程の迷宮。
「美しい島だと思うのなら勝手に迷宮生やしてるんじゃないわよ」
 挙句、内部の床や壁は攻撃に反応し、自爆するという。
「壁に穴をあけて直進するわけにもいかなさそうなのがなんだか腹が立つわね」
 簡単には進ませないつもりなのだろう。だからと言って、歩みを止めるつもりはない。
(「難儀なもの呼ばれる前に、止めなくちゃ」)
 大事なのは自分じゃなくたって、誰かが神を名乗る暴虐者を止めることよ。
「私、神様なんて大っ嫌いだもの」
 紡ぐ声が切り裂く風に紛れる。ごう、と気まぐれに唸る風と共に8人が上陸したのは島の南側であった。随分と広い。
「他の班と被ることはなさそうですね」
 マリアンネ・ルーデンドルフ(断頭台のジェーンドゥ・e24333)は周囲を見渡す。この分だと、互いに声が聞こえることも無いだろう。
(「我らを支配していたエインヘリアルの長たるアスガルド神。その彼らもまた、攻性植物の支配下に落ちた、ということでしょうか」)
 因果……と言ってしまえばそれまでですが。
 彼らには彼らの理想や信念がありましょう。然し我らにもまた譲れぬものがある。
 なれば互いに相争うのみでございましょう。
「お呪い程度ですがやっておいて損はないでしょう」
 入り口を前に、アリエット・カノン(鎧装空挺猟兵・e04501)は雑草の汁を擦り付けて匂いを消す。服装も皆、動き安く音の鳴らないものを選んだ。武器に布を被せてそうっと、迷宮の中に足を踏み入れる。
「……」
 最初にケルベロスたちを出迎えたのは緑の濃い、匂いだった。植物迷宮というだけある。音はーー無いか。なだらかな斜面がまっすぐに続いている。
「ふぅん……これは、また」
 興味深いわね。とフィオレンツィア・エマーソン(ハウンドチェイサー・e01091)は笑みを敷く。長く続く道は、下っているようでいて登りに変化していた。迷宮、という言葉が似合う。
(「傭兵時代の血が騒ぐわね。こういう展開大好きなのよ。敵に気取られないように後ろを取り、騒がれる前に殺すというのはよく取ってきたわ」)
 だけど、相手の実力が分からない以上、安易に交戦するのは避けねばならない。目的はあくまで光明神の居場所を探ることなのだから。
 フィオレンツィアはその身を黒豹の子供へと変える。先行する二人の背を見送りながら、小さく尾を揺らした。
(「仲間の指示には従うわ。折角のパーティなのだし、今の私は傭兵ではなく、ケルベロスとしての自分だから」)


 右に、左に。下っているかと思えば気がつけばひとつ前の階層に辿り着く。周り巡ったことに気がつけたのは響命・司(霞蒼火・e23363)のアリアドネの糸のお陰だろう。苦笑ひとつ、再び、アリエットとリヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)が螺旋隠れを使いながら先行する。
 複雑な迷宮だ、とリヴァーレは思う。通路の幅も勿論だが、天井の高さもまちまちだ。
(「こいつか」)
 通りの向こう、ガッシリと組み合わされた植物の壁の中に、掴める蔦を見つけて、リヴァーレはアリエットに目配せする。これが道で間違い無いだろう。
 道を戻っていけば丁度、司が地図を手にしている所だった。
「どうだった?」
「あぁ。蔦があったからな、そいつを上ってくことになるぜ」
 小さく頷いた司が地図を書きあげていく。通路にはアリシスフェイルがマークを書き足した。地図アプリも、スーパーGPSも用意はしていたのだが、淡路島の地図では迷宮用には役立たない。
「GPSの情報は司くんの地図と組み合わせればいいかな」
 ティスキィ・イェル(魔女っ子印の劇薬・e17392)はそう言って、隣を見る。
「予想はしていましたが、見事に他班との連絡は取れませんね」
 無線も同様だ。小さく息をついて、アリエットはスマホをしまった。連絡が取れれば色々と便利だったが、相手は光明神バルドルの作り上げた迷宮だ。
「では無いなら無いで、ございますね」
 静かに鴻野・紗更(よもすがら・e28270)はそう言った。進めているのは事実だ。
「宝さがしはわりと好きな部類でございますよ。最も今回は宝ではなく、代わりにアスガルド神ではありますが」
 ぶらり再発見を使うことも考えたが、迷宮の中では意味が無いだろう。
「一筋縄にはいきませんね。気を引き締めてまいりましょう」
 まずは目の前の壁登り。上へと辿り着けば、今度は細い道が一行を出迎えた。
 奥へ、奥へと進んで行く。
「今の所は同じ場所を回って無いな。だが、敵の懐へ潜り込んでるから何が起きても不思議じゃねぇか」
 アリアドネの糸を手に、司はそう言った。
「一時間、くらいか? 今」
「随分と来ましたね。ではあちらを見てきます」
 そう言ってアリエットはリヴァーレと二人、先行する。
 この依頼、思う所は多くあった。
(「エインヘリアルンに滅ぼされたはずの神々がこのような形で生き残っていたとは……」)
 いえ、とアリエットは口の中、言葉を作る。
(「既に別の存在ですね」)
 ひとつ息を吐く。進んだ先、通りは真っ直ぐな回廊らしい。天井が高いくらいね、と息をつき、リヴァーレに視線を送ろうとしたそこでひゅ、と息を飲む。
「来ます!」
 鋭い声と同時にアリエットの頭上に生まれた影が一斉に降り注いだ。それは無数の枝の雨。
「敵襲か!」
「その通り」
 顔をあげたリヴァーレの耳に歌うような声がひとつ届いた。女の声。靡く黒髪の狭間から見えるのは尖った耳。背にあるのはタールの翼。
「シャイターン……!」
「いかにも。それにしても、一撃で片付けるつもりだったんだがのう」
 耐え切ったか。とゆるりと淀んだ瞳でシャイターンの女は笑みを浮かべる。
「こそこそと移動するのはこれで終わりぞえ。探すのはあまり好かぬ」
 その片目をダリアの花で覆い、甘い花の香りを漂わせながら言った。
「消えてもらうぞえ」
 我らがカンギの為に。

●紡ぐ災厄の種
 ゴウ、と轟音が静寂を貫いた。吹き付ける風にマリアンネは顔をあげる。
「アリエット様とリヴァーレ様が!」
「あぁ。急いで合流するぞ」
 頷いた司が床を蹴る。急ぎ一行が踏み込んだ先、回廊に見えたのは血だらけの二人とーー襲撃者の姿だった。
「悪い、知らせに行く余裕はなくてな」
 敵を正面に見据えたままリヴァーレはそう言った。しつこくて、と静かに微笑み告げたアリエットが先に受けた一撃の情報を告げる。血で歪む視界でも膝を折らぬ彼女の横に壁役のマリアンネが立つ。司はリヴァーレの前だ。
「回復を……!」
 ティスキィの声が響く中、シャイターンはやれやれと息をつく。
「揃ったか」
 花の眼帯をした女はケルベロス達を見据えた。
「ならば、一度に片付けるしかないのう」
 声音ばかりは柔らかに、そこに見える敵意にケルベロス達は顔をあげる。しゅるり、と女の腕にダリアの枝が絡みついた。
「妾は蠱惑のダリア。戦士団がひとり。潰れてもらうぞえ。ケルベロス」
 唸る砂嵐が、戦いの始まりを告げた。

 唸る風がケルベロス達を押し返すかのように放たれた。衝撃が向かう先はーーリヴァーレ達の所か。
「させねぇっての」
 たん、と司が踏み込む。瞬間、衝撃と共に視界が歪んだ。これはーー。
「幻覚」
 は、と息を吐いた司の前、カンギ戦士団・ダリアは笑みを浮かべる。正解とでも言いたげな指先がすい、と前に出れば、狙いくるのは追撃か。
「避けれないのなら、速効で倒す!」
 たん、と身を前に飛ばす。ローラーダッシュの摩擦を利用して司はダリアへと炎を纏った蹴りを叩き込んだ。正面から受け止めたダリアがにたり、と笑った。
「その言葉、そのまま返そうぞ?」
 花の匂いが濃くなる。
「ゆずにゃん!」
 着地と同時に声をあげる。応じた司のウィングキャットはその翼を大きく広げた。紡ぐ光が、前衛へと耐性を紡ぎあげる中、ティスキィは声をあげた。
「回復するね」
「手伝うわ」
 アリシスフェイルの言葉に頷きながら、ティスキィは息を吸った。
(「敵がカンギのためにその力を使うなら、私達は人々を守るためにこの力を使うよ」)
 手を、伸ばす。ふわり、と花の香りが舞った。
「負けないで! きっと癒すからっ!」
 ふわり、とアリエットの足元からガーベラの花籠が出現する。それは光の幻影。凛花の祝福。包み込むようにアリエットを癒していく。
 優しい、花の香りだ。
 魔法の木の葉がリヴァーレへと届く中、た、とフィオレンツィアが前に出た。接近に、ダリアが視線をあげる。ごう、と唸る稲妻を帯びた一撃の方がーー早い。
「ふはは、早いのう」
 突き出した槍を引き抜いて、そう? と静かに女は笑う。返すダリアの枝が、伸びるより先に地を蹴りあげれば、続いて踏み込むのは紗更だ。
「いざ、参りましょうか」
 最後の一歩は、飛ぶように。
 腰の刃を抜き払い、沈めるは達人の一撃。斬撃にダリアは身を揺らした。
「っはは、さすがはやるのう」
 だが、と続く先は潰すか。にたりと浮かべられる笑みは変わらずに、敵意を膨れ上がらせるダリアにマリアンネは息を吸う。
「わたくしは、霧夜のJane=Doe」
 名も無き罪、名も無き刃、名も無き殺人鬼。
「この身命にかけましても、この星の行く末をお守り致しましょう」
 その手に掲げし黄金の林檎の加護を、前に立つ仲間へと送って。覚悟ひとつ告げるようにヴァルキュリアは告げた。
 花の香りを躍らせながら、戦いは激化する。ダリアの動きは素早い。踏み込めば至近での枝の矢を降り注がせる。
「さぁ、遊びの時間ぞえ」
 降り注ぐ矢には、毒が込められていた。だが一撃も情報さえあれば、ダメージは受けても対処はできるのだ。
「悪いが、その遊びは終いだぜ」
 踏み込んだ先、司の刃は仲間の刻んだ傷をなぞる。
「青の境界が、世界の欠片が、護るわ」
 アリシスフェイルの声が響く。花の踊る戦場に、熱と雷光が満たす中、立ち上がる光が中衛へと癒しと耐性を紡ぎあげる。
「忌々しい」
「そう?」
 緑がかった薄灰の髪を靡かせ、少女は笑う。その後方、音もなくアリエットは敵へと指先を向けた。
「終わりにします」
 戦場にあって冷静な、娘の掌から黒色の魔力弾が打ち出される。避けるように身を捩るが、その声によって初めて気がついた状態ではまずーー無理だ。
「っく」
 衝撃がダリアを襲う。蹈鞴を踏んだ敵の元へと男が紡ぎ届けるのは吹雪の形をした氷河期の精霊。
「アイスエイジ」
 リヴァーレの声が、戦場に落ちた。次の瞬間、ゴウ、と唸る音と共に吹雪は、ダリアを覆い尽くした。
「グ、ァア……ッこんなところで、私は」
 堅音と剣戟を響かせ、迷宮の戦場は熱を帯びる。降り注ぐ枝に、その腕を切り裂かれようともケルベロス達は動き続ける。この先にある絶対に止めなければならないものの為に。
「回復するよ……!」
 ティスキィの声が響き渡る。傷は誰もが多かった。カンギ戦士団は精鋭と言われるだけある。ただ一体に対してこの状況だ。
(「けど」)
 今、戦いの流れは自分たちの方へと来ている。
 そうティスキィは思った。だからこそ回復を紡ぐ。
「戦闘では誰1人倒れることのないよう、みんなのことをしっかり支えるから」
 そのためにも私自身も耐えきる
「必ず止めようね」
「あぁ」
 えぇ、と声が、視線が重なりーーケルベロス達は行く。加速する戦場に、血と痛みと共に。
「授けられし御業にて。肉を削ぎ。骨を断ち。血を啜りましょう。……さあ。ご照覧あれ」
 滑るように、踏み込んだマリアンネの一振りの刃がダリアの胴に沈む。それは受け継いだ業。それは授けられた業。血と刃の狂宴。
「っく……ッぁ、私、私はこんな場所で」
 衝撃にダリアは蹈鞴を踏む。タールの翼が歪む。
 振り上げた腕に、マリアンネは身を横に飛ばした。
「さあよく狙ってー、ごー!」
 アリシスフェイルの声と共に、炎が戦場に満ちる。
「多少手荒になりますが―――失礼致します!」
 唸る熱が敵を焼く中、紗更の蹴りが届く。ガウン、と重い音を響かせ、ぐん、と敵の視線がこちらに向いたそこで青年は間合いを取り直す。風を頬に感じたからだ。
「わが脚は光の如く戦場を駆け、わが拳は風の如く敵を打ち抜く」
 高速でステップを踏むことにより残像を残したフィオレンツィアにダリアが惑う。
「こっちか……!」
「悪いけど」
 ダリアの伸ばした腕が空を切る。ひゅ、と息を飲む音が耳に届く。
「こっちよ」
 刃が深くダリアの胸に沈んだ。完全な死角。振り返って漸くその事実に気がついた戦士団が一人は息を飲む。
「こんな、こと……」
 ダリアがーー散る。
「私、は……」
 巻き上がる風は止み、落ちた花に見送られるようにカンギ戦士団・蠱惑のダリアは崩れ落ちた。


 荒く、肩で息をする。三度目の呼吸で息を整え、ケルベロス達は顔をあげる。勝ったのだ。あのカンギ戦士団の一人に。
「敵も強敵でしたね」
 ティスキィから治療を受け終え、アリエットはそう言った。先行していた分、リヴァーレと共に皆に比べて傷は多い。さすがに螺旋隠れで完全にかわすのは無理があった。最も目立たなくなるという程度だ。此処まで出会わずに来られた事実は大きい。
「探していたと」
「あぁ。そこら辺考えると、随分と来ているってことかもな」
 頷いてリヴァーレはダリアの言葉を思い出す。
「ゆずにゃん、ちょっと見てきてくれ」
 司の肩口いたゆずにゃんが小さく頬を摺り寄せて、とん、と飛ぶ。奥を覗いた先でゆるり、と尾を振る。道に問題はなし、ということだろう。
「進むだけだな」
 行こう、の声と共に奥へと進む。足音を殺し、歩を進め迷宮に入り2時間30分が経過したその時、異変は起きた。
「音が……」
「! 何か、来ます……!」
 はっと、紗更とマリアンネが声をあげるその時、大地が鳴いた。地震のような大きな振動がケルベロス達を襲ったのだ。轟音と共に天井の枝が落ちる。
「これは……」
「えぇ、罠じゃないわ」
 紗更の言葉にフィオレンツィアは口を開く。
「崩落ね。植物迷宮が崩落を始めてる」
「誰かが、召喚を止めバルドルを倒したのね」
 アリシスフェイルは通路の奥を見る。
 誰かがこの迷宮の再奥に辿り着き、止めたのだ。
「脱出しましょう」
 この迷宮について、敵についての情報もある。
 植物迷宮というものの情報、ダリアの武器も攻性植物だったのは戦士団だからか。思いつく所は多くある。だがまずは無事に帰ってからだ。
「帰り道なら、任せてくれ」
 つい、と司はアリアドネの糸を引く。
 今は掴んだ情報を手に、勝ち抜いた一戦を胸に。これを自分たちの力とするために。
 ケルベロスたちは迷宮を脱出した。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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