紅葉が華やかに色付き染まる晩秋の頃。
山が連なる京都の奥座敷にある貴船神社では、木々が燃えるような鮮やかな赤に彩られ、秋の情緒を趣深く醸し出していた。
やがて夜も更け、人気のない静まり返った神社の中心で。闇の中から、白い翼を生やしたシスター風の少女が舞い降りてきた。
そして彼女の背後の空間に歪みが生じ、青白く光る怪魚達が虚空の中から姿を現した。
「あら……この場所で、ケルベロスとデウスエクスが戦いという縁を結んでいたのね」
デウスエクスたる紅い蝶のローカスト。彼女は何を想ってケルベロスに殺されたのか――想像するだけで口元が緩み、思わず愉悦に浸ってしまう。
「折角だから、彼女を回収して下さらない? 何だか素敵なことになりそうですもの」
修道女の死神は従えている怪魚達に命じると、翼を翻して再び闇の中へ溶け込んでいく。その顔に、狂気に歪んだ笑みを浮かべつつ――。
彼女が去った後、怪魚達は空中を規則的に浮遊して、放つ光の軌跡が魔法陣を描き出す。一瞬、魔法陣が眩く輝いて、中心部で何かが脈打つように蠢いた。
それは、深紅の甲殻を纏った少女の戦士。彼女の背中には、紅蓮に燃える蝶の翅が生えており、その姿はさながら妖精を思わせるような美しさがあった。
この地でケルベロスと死闘を演じ、命を落とした不退転の戦士たる少女。
その彼女が新たな生を得て、人々に死を齎すべく羽ばたいた――。
京都の奥地で、女性型の死神の活動が確認される。
修道女の姿をしたその死神は、『因縁を喰らうネクロム』と名乗る個体であることが判明されている。
玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)はヘリポートに集まったケルベロス達を前にして、予知した事件の内容を伝え始める。
死神が現れたという場所は、ケルベロスが不退転部隊の一体と戦った因縁の地でもある。
「めぐみ達が戦ったのは、ファルロッソさんという戦士です。でも、彼女の魂が死神に利用されるのは、すごく許せないのです」
不退転部隊と実際に交戦した若生・めぐみ(将来は女神・e04506) は、相手の戦士としての死に様を見届けたこともあり、憤りを隠せなかった。
彼女の言葉にシュリは同意するように小さく頷いて、再び話を戻す。
「ネクロムは怪魚型死神に、『ファルロッソの残滓を集めて変異強化させ、サルベージして持ち帰る』ことを命じていたみたいだね」
このまま放置しておけば死神の戦力が増強されてしまう。だから急いで現場に移動して、敵の作戦を阻止することが今回の任務となる。
「変異強化された彼女は理性を失ってしまっていて、会話することもできない状況なんだ」
死神の配下となった今では、自分達の言葉は届かない。やり切れない思いを抱くケルベロス達に、シュリは彼等の気持ちを受け止めながら説明を続ける。
敵の戦闘能力は生前と同じく蹴り技が中心だ。軽やかに舞うように繰り出される蹴りは、時には炎のように荒々しくて。時には嵐を起こして周囲にいる者達を薙ぎ払う。そして翅を擦り合わせて奏でる可憐な音色は、聴く者を魅了させてしまう。
更に三体の怪魚型死神が付き従い、積極的に攻撃を仕掛けてくるようである。
戦場は前回と同じく京都にある貴船神社だ。周辺には既に避難勧告が出されているので、心置きなく戦いに集中してもらえればいいだろう。
決して感情を表に出すことなく語るシュリだが、表情こそ変わらないものの、ケルベロス達を見つめる瞳には強い意思が込められていた。
「死神達のこうしたやり方は、死者への――それと、不退転の戦士への冒涜だと思うんだ」
一度は戦士として散った魂が、二度とこの世に舞い戻ることのないように――。
今度こそ安らかに眠らせてほしいと願いを込めて、再度の決闘の地へと向かうのだった。
参加者 | |
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ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447) |
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662) |
源・那岐(疾風の舞剣士・e01215) |
夜刀神・罪剱(熾天の葬送者・e02878) |
若生・めぐみ(将来は女神・e04506) |
リサ・ギャラッハ(花見月・e18759) |
詠沫・雫(メロウ・e27940) |
ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500) |
●
肌を刺すような冷たい夜風が吹き抜けて、赤く色付く紅葉が風に揺られて舞い落ちる。
以前にこの地を訪れた時は、汗ばむような暑さで、草木も青々と映えていたのだが。
季節は移ろい再びこの地に廻り来るのも、何かの因縁だろうか。若生・めぐみ(将来は女神・e04506)はそうした奇妙な縁を感じつつ、懐かしい戦いの地に足を踏み入れる。
「……久しぶりですね、ファルロッソさん。まさかこうしてまた逢えるだなんて。あの戦いでの貴方は敵とはいえ、立派な最後でした」
めぐみが呟くように語りかけた相手は、かつて戦った不退転部隊の戦士たる少女。背中に紅い翅を生やした蝶のローカストは、問いかけには何も応えず、虚ろな様子で佇んでいる。
そして奥で蠢く三つの青白い光。死の火を灯す不気味な怪魚が、虚空の中を漂っている。
「あれは、ローカストの魂を蘇らせた元凶……気を付けてください、来ます!」
詠沫・雫(メロウ・e27940)が咄嗟に叫ぶ。藍玉の瞳に映った冥府の住人達が、生者の匂いを嗅ぎ付けて、番犬達に牙を剥いて襲い掛かってきた。
対するケルベロス達は即座に反応して臨戦態勢を取り、迫り来る怪魚の群れを迎え撃つ。
血に飢えた死神達が、生命を貪ろうと獰猛な顎門で喰らいつく。が、テレビウムのクーがすかさず割り込んで、噛み付き攻撃を撥ね退ける。
「――赤、緋、紅い空。生命を喰らいし紅い空。堕ちよ汚れし紅い空」
ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)の口から祝詞のように紡がれる呪言。掌を上に向け、差し出したその指先からは、一滴の血が空に吸い込まれるように伸びてゆき。赤が滲んで広がり、球形の塊を形成しながら落下する。
「そんなに血が欲しいなら、たっぷり分けて差し上げますよ……♪ そう……お腹が破れるくらいまで」
優雅な言葉遣いながらも、ロフィの口角が微かに吊り上がる。地上に堕ちた球体は、大きく爆ぜて血弾となって、群がる怪魚達を撃ち抜いていく。
「不退転の強い意志、その信念を利用するのは許せません」
命を弄ぶ死神達に、源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)が静かに怒り震えて立ち向かう。
「――我が力、祝福の力となれ!! 白百合よ、我と共に舞え!!」
月に照らされ、銀に煌めく一房の髪を靡かせて。那岐が軽やかに神楽を舞うと、純粋なる白百合の花弁が風に運ばれ、標的たる敵へ示し導く道と成す。
「おなじ眠りについた命を、また傷つけるのは哀しい、ね……」
例え敵であろうがなかろうが、命であることには何れも変わりない。ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)は命の儚さに憂い嘆きつつ。翠緑の瞳で敵を見つめて、覚悟を決める。
「あなたたちも……いっしょに、眠りましょう」
再び安寧へ導けるのは、自分達ケルベロスだけなのだと。ハンナが魔力を練り上げ放った光弾は、時の流れを凍てつかせ、死神の動きを鈍らせる。
先に死神から排除を試みるケルベロス達。とはいえ不退転の少女を野放しにもできない。
「……舞台は夜、その名の通り俺の世界だ。来なよ、死神と憐れなマリオネット」
闇に煌めく一つの流星。加速を増して重力宿す夜刀神・罪剱(熾天の葬送者・e02878)の放った飛び蹴りが、ファルロッソへの牽制となって機動力を抑え込む。
「誇り高い不退転の末の死、穢すことは許せんな。彼女が覚悟し至った結末を、泥のついた足で踏み躙る様な行為だ」
死神にとっては不退転の矜持など意味はなく。命を道具としてしか見なさない価値観に、ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)は憤りすら感じる程だ。
「――折角美しい秋の夜だと云うのに、無粋な死神も居たものだね」
ネロは誰に聞かせるでもなく密やかな声で囁き終えると。伏せた双眸をゆっくり見開き、竜の力を宿した巨大な槌を、死神目掛けて豪快に振り下ろす。
「これで仕留めます――光を纏いて斬り裂け! ここから先は、一歩も通さない」
リサ・ギャラッハ(花見月・e18759)が強く念じると、彼女の手の中に、金色の光を纏った剣が現れる。リサが眩く輝く剣を握り締め、渾身の力で振り抜いた一閃は――。
死神を真っ二つに両断し、まずは最初の一体を討ち取った。
●
一体ずつ集中狙いで、確実に数を減らしていこうとするケルベロス達。その勢いは些かも衰えず、早々に撃破したことが更に優位に働いていく。
「ファルロッソさん……あなたの魂が穢され、死神に利用されるのは、許せません。もう一度、めぐみが止めてみせます」
精神を集中して敵の動きを見極めて、めぐみがブラックスライムを黒い牙へと変形させて死神に喰らい掛かった。サキュバスの少女が視線の先に捉えているのは、因縁の敵でもある紅胡蝶のローカスト。その彼女が広げた翅を月に翳して、ケルベロス達に飛び掛かる。
脚に纏った煉獄は、不退転の戦士としての闘争心。新たな生を得ても変わらず戦い続ける執念が、番犬達に迫り来る。その時、主の危機を察したナノナノのらぶりんが、瞬時に庇って炎の蹴りを受け止める。
「――水を起こす、詠」
ボクスドラゴンのメルから力を取り込んで、雫が祈りを捧げるように歌を紡ぎ出す。凛とした雫の声が闇夜に響き、顕現するは大蛇の如き水の霊。激しい水流は、虚空を漂う怪魚を瞬く間に飲み込んでいく。
「善も、悪も、今はただ、総てを還し――時よ凍れ、わたしは……護る」
ハンナが白い翼を羽ばたかせ、空に向かって呪文を綴ると。まるで雪が降るように、白い薔薇の花弁がふわりと舞い踊る。それは幻想世界へ誘うように、敵の感覚をも狂わせて。いつしか手に携えた聖剣で、ハンナは死の代行者の心臓を深々と刺し貫いた。
時を凍結された死神は、己が死んだことも解らずに、雪華咲く地に崩れ堕ちていく。
「残る死神は一体だけです。この調子で押し切りましょう」
鼓舞するように那岐が声を張り。星を宿した剣で描いた蠍座が、赤い光を放って仲間を覆い、加護の力を授け与える。
最後となった死神は、知性のない獣の如く、ただひたすら血肉を求めて番犬達に襲い掛かるが。今度はロフィが身を挺して攻撃を防ぐ。
「死者の魂を弄ぶ者ですか。ふふふ……後どのくらい、苦痛を与えて頂けるのでしょう♪」
身体に喰い込む牙の感触も心地よく。ロフィは痛みさえすら快楽を感じて、流れる血を指でなぞって舌を這わせて、恍惚とした笑みを浮かべるのであった。
「フィオナ、今です!」
リサが指示を出すのと同時に、テレビウムが心得たとばかりに行動を移す。手にした武器で死神を殴りつけ、続けてリサが護符に魔力を篭めて、氷の騎士を召喚させる。
全ての悲しみを討ち斬る為に――騎士は氷で創られた剣を振り翳して死神を断つ。
「此岸に憾みし山羊に一夜の添い臥しを、彼岸に航りし仔羊に永久の朝を――」
苦痛に藻掻く怪魚に対し、ネロが執行せしは禁忌の秘術。柩の魔女が織り成す力、相手の血肉は全て彼女の意のままに。注いだ魔力は死神を身体の内から蝕んで、存在自体を捩じ切るように――。
押し寄せる魔力の奔流に、死神は無残に捻り潰され、魔女の贄となって息絶えた。
「……これで残るはお前だけだな。ひと思いに眠らせてやるよ」
罪剱が緋色の双瞳で見据えるモノは、煉獄纏いし胡蝶の乙女。一度は死した者を蘇らせる――それは命に対する冒涜かもしれない。けれども、例え自我を喪失していようが再びこの世に舞い戻れるのなら……。
様々な想いが交錯し、罪剱は表情こそ変えないものの、その心境は複雑だ。だが戦いに私情は不要と割り切って。虚なる力纏いし断罪の大鎌で、紅胡蝶を鎧う装甲を鋭く裂いた。
三体の死神を撃破して、最後に残った蝶のローカストを倒すべく、ケルベロス達は勢いに乗じて一気呵成に攻め立てる。
しかし相手もそうはさせじと反撃に出る。身体を捻り脚を回転させて繰り出す荒々しい蹴りは、嵐を巻き起こして近付く番犬達を纏めて薙ぎ払う。
「ファルロッソさん、あなたはもう休んでいいんです。今度こそ、この手で終わらせます」
めぐみが駆け寄り間合いを詰めて、電光石火の蹴りを打ち込もうとするが。ファルロッソはめぐみの脚に止まるように跳躍し、身軽な動作で攻撃を躱したのだった。
「相変わらず、素早いですね……でも、次は当てます」
敵の敏捷力の高さはめぐみも身に染みて理解している。それでも先の戦いでは倒せたように、付け入る隙は必ずある筈だ。番犬達はその機を作り出す為に、闇夜に舞う胡蝶を必死で捕らえようとする。
「それならこれはどうでしょう!」
雫が闘気を脚に込めると炎が燃え盛り、灼けつくような蹴りを放つもファルロッソに受け流されて。僅かに焦げる臭いを残して、脇を掠める程度に留まった。
「ここは私が援護します。皆さんは攻撃に専念して下さい」
リサが纏う鋼の装甲が、月明かりを浴びて蒼い光を帯び出した。輝く光は粒子となって散布され、仲間の戦闘感覚を上昇させる。
月を背にして胡蝶が舞う。ファルロッソは死して尚不退転の意志に殉じて攻勢を掛ける。
得意の足技で灼熱の蹴りを見舞わせようとしたのだが。ロフィが積極的に盾役を担って、自ら傷付くことも厭わずこの攻撃も耐え凌ぐ。
「全ての痛みは、私の糧となりますの。この程度では、まだ私は満足しませんよ……♪」
傷付くことを恐れずロフィが不敵に微笑みかける。攻撃を仕掛けた直後に生じる一瞬の隙を、ハンナは見逃さない。全神経を研ぎ澄まし、大地を強く踏み締めて。空の霊力宿した脚で、天翔ける蹴撃を叩き込む。
「志高くして、戦い抜いたあなたを、もう誰も傷つけたくなんてない……」
ハンナの決意がファルロッソを捉えて、地上に落とす。そこへロフィが追い討ちを掛け、拳を握って降魔の力を帯びた一撃を捻じ込んだ。
●
一度掴んだ好機は決して離さず、ケルベロス達は一気に畳み掛けようと集中攻撃に出る。
気勢を上げる番犬達の足並みを乱そうと、胡蝶の少女は紅い翅を翻して音を奏でる。戦場に響く可憐な旋律に、聴く者は魅了されて夢の世界に心を囚われてしまう。
「どうか目を覚まして下さい! 惑わされてはいけません!」
那岐の気迫を込めた力強い歌声が、胡蝶の幻惑を打ち消し仲間を現実世界に引き戻す。
武人の家系に生まれ幼い頃から森を守護し続け、時期族長として修業を重ねてきた経緯から。那岐は不退転の意志に強く共感し、近い年頃だろうファルロッソにも親近感を抱いた。
だからこそ、不退転の少女の誇りを護りたい。那岐のそうした想いが力となって、仲間達も呼応するように闘志を奮い立たせた。
「いい加減終わりにしましょう。今度こそ、ゆっくり休んで下さい」
めぐみがいつしかファルロッソの懐に潜り込み、日本刀を抜いて刃を走らせる。月の光に反射して、描く軌跡に朱が混じり、鮮やかな血飛沫が京の闇夜に散っていく。
更に雫が勢いを付けて大鎌を投擲し、胡蝶の華麗な翅を禍々しい刃で斬り刻む。
それでもまだファルロッソは倒れない。幾度となくその身に傷を刻まれようと、不退転の決意は寸分たりとも揺らぐことはなく。死に場所を求めるように命の火を燃やす。
そんな彼女の姿を憐れむように、ネロが安らかな眠りを与えようと刃を向ける。
「その歪んだ再びの生ごと、君を喰らって差し上げる。おやすみ、誇り高きファルロッソ」
別れの言葉を口にして、突き立てたナイフが深々と肉を抉って、赤い雫が滴り落ちる。
頬に飛び散る返り血も構わずに。ネロはその手に伝わる鼓動を確かめながら、静かに刃を引き抜いた。胡蝶の少女の命が尽き果てようとする。死神に穢された彼女の魂を、今度こそ安寧の地へと送るべく。罪剱が剣に力を込めて振り下ろす。
「――貴女の葬送に花は無く、貴女の墓石に名は不要」
罪剱の瞳に映る黄昏が、悠久という名の刻の終焉を包み込み。詠唱せしは心を縫い付ける過去であり。内に眠る異能を極限まで覚醒し、罪を裁く負の力を胡蝶の少女へ注ぎ込む。
夜を統べし緋色の堕天使が、手を差し伸べて誘うは、魂が還るべき常世の果ての果て。ローカストの仮初めの肉体は、触れると灰のように朽ちて崩れ落ちていく。
――いつだって、求めるものに手は届かない。
命は儚く散り逝きて、紅葉が吹雪のように風に舞う。死出の旅路を見送るように――。
「わあっ、綺麗……」
夜空を彩るように降り注がれる紅葉の群れに、雫は思わず見惚れて心を奪われていた。
戦いを終えて訪れた静寂に身を委ね、ネロは瞑目しながら静謐なる祈りを捧ぐ。
願わくば、再びの墓土が君に暖かなものであらん事を――。
偽りの命を与えられ、自我を奪われたローカストの少女。戦士としての信念を利用されてまで、望まぬ戦いに駆り出されたことは、彼女にとっても耐え難い屈辱だっただろう。
「お休みなさい、紅き胡蝶の姫武者。もう二度と、貴女が戦うことのないように」
那岐は武人としての思いを共感し、死神の束縛から漸く解放できたことに安堵の溜め息を吐く。そして嵌めた指輪にそっと手を添えて、帰るべき場所へと心密かに想いを馳せた。
再び胡蝶の戦士の最期を見届けて、めぐみはどこか感傷的な気分に浸っていた。
かつて戦った相手とはいえ、安らかな死を得られず、魂すら玩具のように弄ばれる。その諸悪の根源である死神を、いつか倒すとめぐみは固く誓うのだった。
「今度こそ、覚めない安らぎの世界へ。優しい眠りに、つけますように……」
全ての命は等しく同じ。だからこれ以上、誰にも妨げられず安らかに休めるように。
そうハンナは願いつつ、祈りの歌を小さな声で口ずさむ。
リサもまた、両親からもらったヴァイオリンで葬送曲を弾く。
空を見上げた先にある月に、想いを乗せて届けるかのように。
死を悼み、餞に捧げる音色が風に流れて優しく響く。
死者を蘇らせるという『奇跡』。もしも自分がそれを望むなら――。
罪剱の中で葛藤する思い。時が停まったままの空ろな魂を、誰が満たせるものだろう。
深蒼に包まれた夜の世界を照らす月。
儚い程に美しく、柔らかな光に癒されながら。導かれるように茫洋たる空を仰ぎ見た。
心は夢に微睡むように。過ぎ行く時も忘れるが侭に――。
作者:朱乃天 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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