過ちは輪廻の末に

作者:幾夜緋琉

●過ちは輪廻の末に
 北海道道東に広大に立する大湿原、釧路湿原。
 その釧路湿原の奥地に、不敵に微笑む死神……テイネコロカムイ。
「……さて、と。そろそろ頃合いかしらね? それじゃあなたに働いて貰うわよ。今から市街地へと向かい、暴れて来なさい」
 とテイネコロカムイが指示を飛ばすのは……壮年、20歳程度の風体をした、狼耳のウェアライダー。
 正しく言うなら、一度死したウェアライダーの彼は、テイネコロカムイの指示に。
「……お言葉の通りに、テイネコロカムイ様……」
 仰々しく頭を下げる彼。そして狼の姿に変身すると……そのまま市街地へと向けて、3体の怪魚型死神と共に駆け抜けて行くのであった。
 
「最近、釧路湿原の近くで、死神にサルベージされた、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスが暴れ出す事件が起こっているんッすよ……」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロス達に、少し困った様に話し始める。
 釧路湿原の死神……最近起こり続けている、テイネコロカムイの事件。
 共通しているのは、サルベージされたデウスエクスは、過去のデウスエクス。更にこの釧路湿原地帯で死亡した者達ではなさそう……という事。
 つまり、彼ら死神の被使役者達は、何らかの意図で以て、釧路湿原へと運ばれてきているのだろう。
 彼らサルベージされたデウスエクス達は、死神により変異強化させられており、周囲には数体の深海魚型死神を引き連れている……。
 そんな説明を、ダンテは次々と話ながら。
「このデウスエクス達は、どうやらテイネコロカムイによって、市街地の襲撃を指示されている様なんッス。幸い予知により侵攻経路は解ってるッすから、釧路湿原の入口辺りで迎撃は可能ッす。周囲に一般人がいない状態で戦闘できるッスから、皆さんは戦闘に集中して欲しいッスよ!」
 そして、更にダンテが。
「このデウスエクス、どうやら24歳位の狼型ウェアライダーのデウスエクスの様ッス。彼は基本、狼の姿形で動き回っており、釧路湿原という足場が悪い中においても、迅速に、そして素早く走り回る事が可能ッス」
「このデウスエクスは、既に意識が希薄になってるッスから、交渉事は殆ど無意味ッす。そして駆け寄り、牙による噛みつき攻撃をメインに仕掛けてくる様ッス」
「この牙の攻撃は、体内深くに毒を回す効果もある様ッすから、噛みつかれたらすぐに毒を癒さないと、一気に体力が削られてしまうッス。注意して欲しいッスよ」
「又、廻りにいる怪魚型死神達は3体居る様ッス。こいつらも噛みつくことで攻撃してくるッスが、こっちは特に毒の効果などは無いッス。つまり、噛みつき攻撃してくるのが4体居る……って事になるっすよ」
 と、そこまで言うと、最後にダンテは。
「こうして死したデウスエクスを復活させて、更なる悪事を働かせようとする死神の策略……ホント許せないッスよね! という訳で、ケルベロスの皆さん、どうか宜しく頼むッスよ!!」
 と、拳を振り上げ、送り出すのであった。


参加者
桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)
無拍・氷雨(レプリカントの自宅警備員・e01038)
イピナ・ウィンテール(折れない剣・e03513)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
大上・零次(螺旋の申し子・e13891)
シュネー・アップフィル(ウェイワードプリンツェスィン・e21763)
ヴィルヘルム・アードラー(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e21790)
時司・朔夜(医術の戦乙女・e26301)

■リプレイ

●北の闇
 北海道は道東の、釧路湿原。
 日本最大の湿原であり、自然も多くある大湿原……そんな湿原に現れたのが、テイネコロカムイ。
 彼女が今回、毒牙に掛けたのは……何処から来たかは分らないが、24歳位の、若い狼のウェアライダーの青年という。
「……狼のウェアライダー……お父さんと同じ……わたしにも、彼らの血が流れてる……」
 と、悲しげに神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)がぽつりと呟くと、時司・朔夜(医術の戦乙女・e26301)、シュネー・アップフィル(ウェイワードプリンツェスィン・e21763)も続々と。
「全く、死神もやってくれるわね。死したものの眠りを妨げるなんて」
「死して尚、働かされるのなんて可哀想に……」
 同情の念を抱き……死神への怒りがつのる。
 今迄も、様々な死神はいるものの、このテイネコロカムイはこのように、この釧路湿原を中心に、この場にいない筈の死した者を次々と復活させ、糧としている。
 ……その理由も、今はまだ分らない。
「死して尚、安息はなシ……か……」
 とヴィルヘルム・アードラー(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e21790)が呟くと、無拍・氷雨(レプリカントの自宅警備員・e01038)、大上・零次(螺旋の申し子・e13891)、イピナ・ウィンテール(折れない剣・e03513)らも。
「死神……本には美味しいって書いてあったけど、実際はどうなのかしら」
「……食べたいとは思わないが、死神は嫌な奴らだ。俺も目の前で爺さんをサルベージされた。みんなの気持ちは良く分る……早く終わらせて、簡単な供養でもしてやらんと、彼も羽化馬連だろう」
「そうね……かつては地球を脅かすものだったとはいえ……死後もいいように使われる様は、憐れですね……早く、安息を与えてあげたい。そう、思います」
 そして桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)が。
「同じ狼のウェアライダーやしな。介錯したるわ……」
 と拳を握りしめると、ヴィルヘルム、鈴も。
「ああ。哀れと言エば、哀れか。死しテ、操られルのは……」
「……うん。お父さんを殺し、徒にご先祖様の仲間の命を弄ぶ死神は許せない!」
「甦った骸に罪はなイ。速やかニ土に還すのが、手向けダ」
 と……そして、ケルベロス達は強い怒りと覚悟と共に、死神になりし青年の駆けし場所へと、夜の帳の中を急ぐのであった。

●牙に誇る
 そして、釧路湿原の入口付近にまで辿り着いたケルベロス達。
「さあ……追い立てますよ!」
 と、イピナは力強く声を上げ、翼を展開、空へ飛翔。
 かなり高い所から湿原を見渡すと……湿地帯方角から駆けて来ているウェアライダーの姿を発見。
「あれね……みなさん、北東方向から来ます。対峙体制を!」
 とアイズフォンを経由し指示を与え、零次、ヴィルヘルム、そして。
「バッシュフル。宜しく頼むわね?」
 と、ボクスドラゴンのバッシュフルに指示を与え、ヴィルヘルムの近くへと配置。
 そして、他の仲間達は、駆けてくるウェアライダーに対し、真っ正面から向かい、誘導を開始。
 イピナの指示を受けて、左翼方面、右翼方面から向かい行き、仲間達の待つ所へと。
 ……ウェアライダーは、唸り声を上げながら、獲物であるケルベロス達を発見すると、噛みつくが如く攻撃をしてくる。
 その攻撃に、ナギが。
「お前! 仮にも狼なら犬ッコロみたいに従っとらんで、死神の手でも噛んで見せろや! 狼は大神やで! 死神なんかなんぼのもんじゃいってところ見せたれや!!」
 とハッパを駆けるが……ウェアライダーの青年は、聞いた風ではない。
 正しく獣の如く、噛みつき、暴れる青年……その動静を見て、シュネーは。
「魂を穢されるのはとても悲しい事。彼がきちんと眠れるといいけど……」
 と呟き、妖精弓を構えながら。
「此処から先は、貴方の行く場所じゃないわ。貴方の行く本来の場所に送ってあげる」
 と、毅然と言い放つ。しかし、青年は。
『グゥゥ……』
 と、唸り、睨み付けるばかり。
 その瞳の中に光はなく……正気など、もはや残っていない事は明か。
(「彼の知り合いが、この姿を見たらきっと泣き崩れてしまうから。だから」)
 と、内心呟きつつも、弓を射て、注意を引付ける。氷雨がスーパーGPSを元にして、待ち伏せする所へのルートを指示しながら、段々と距離を狭める。
 更に、その背後からは、上空から降りてきたイピナと朔夜が。
「逃げられると想わないことです……!」
 と威嚇攻撃を行い、幅を狭めていく。
 そんなケルベロス達の包囲網に阻まれ、ウェアライダーは、次第にディフェンダー陣の待つ所へと追い詰められていく。
 ……そして。
「此処かラ先には行かセん。骸は、土へ還レ」
 とヴィルヘルムが宣言すると共に、グラビティシェイキングを叩き込み、敵全体へのプレッシャーを叩き込む。
 対しウェアライダーは、周りの怪魚型死神達と共に、ただただ噛みつきの攻撃を繰り返す。
 攻撃一辺倒のその姿は、まるで知識の無い、戦闘マシンの様でもある。
 特に、ウェアライダーの噛みつき攻撃は、一撃食らえば、強く毒が身体を蝕む訳で。
「うっ……!? これは、想定よりも……」
 と、回る毒に冷や汗を浮かべるイピナ。と、それにすぐ。
「リューちゃん、回復して!」
 と鈴は、ボクスドラゴンのリュカに指示、すぐリュガがキュア付きの属性インストールで彼女を回復。
「ふぅ……ありがとうございます」
 とイピナは感謝を伝えつつ、敵陣容を見渡す。そして。
「取りあえず……手早く倒せそうな怪魚型死神を先に仕留めましょう!」
 と言うと共に、ナギが。
「ああ、了解! 火―ふーみー……そこや!」
 と蜘蛛ノ掌から蜘蛛糸を発射、『晴龍透衝』で怪魚一匹を取りあえず捕らえて攻撃、イピナもホーミングアローを同敵に撃ち抜く。
 流石にクラッシャーの二人の渾身の一撃を集中的に受けては、怪魚型死神も持たない。
 一匹が地面に落下、残る怪魚は2体。
「大地に眠る祖霊の魂…今ここに…闇を照らし、 道を示せ!」
 と、鈴が『狼の追跡者』で、前衛陣に狙アップを付与すると、更に氷雨もメタリックバーストを前衛列に行い、狙アップを重ねていく。
 ウェアライダーが素早いからこそ、狙アップを大量に付与する事で、命中率を高める作戦。そして。
「さあ、周りの魚達も、覚悟してくださいね」
 と朔夜は言いつつ熾炎業炎砲を放ち、焼くと共に、シュネーも御霊滅殺法を敵全体に叩き込み、パラライズ効果を追加する。
 そして……怪魚2体及び、ウェアライダーの攻撃を、零次、ヴィルヘルムとバッシュフルが身を挺して受け止める。
 そして、ディフェンダー陣は逆に、ウェアライダーに対しての攻撃を軸に。
「そうら!」
 と零次の血襖斬りを軸に、ヴィルヘルムの旋刃脚、バッシュフルのボクスブレスで、ウェアライダーへの猛攻。
 ……しかし、それら攻撃はギリギリの所で躱されてしまう……やはり、彼は素早い。
「素早イな……」
 とヴィルヘルムの言葉に、シュネーが。
「やっぱり素早い様ね。もっと狙を上げる必要があるわ」
 と言うと、氷雨が。
「解ったわ。怪魚には問題無くあたっているみたいだから、ナギさんとイピナさんは、怪魚への攻撃を継続お願い」
「りょーかいや!」
 ナギは頷き、イピナと共に次の怪魚型死神にターゲットを絞り、旋刃脚とドラゴニックスマッシュ。
 確りと取り巻きの怪魚型死神を討ち倒して、敵の手数を減らす一方。
「ほら、もう一度狙ってみるんだ!」
 と、鈴の狼の追跡者や零次のメタリックバーストで、確実に狙アップを積み重ね、命中力を強化。
 怪魚型死神3体を、数分の内に倒しながら強化を施し……そして、6ターン目。
「これでくたばれや!」
 とナギの一撃に、最後の怪魚型死神が倒れ、残るはウェアライダーのみ。
「さア、当るかナ」
 とヴィルヘイムは言いながら、ウェアライダーを見据えて攻撃を叩き込む。
 その一撃……上手く命中。
「そろそろこれでよさそうか! よし、その足を止めてやる!」
 と、命中率の高まった零次のライジングダークがウェアライダーの足元を斬り付ける。
 その一撃に、体制を崩すウェアライダー。更に氷雨の禁縄禁縛呪が彼を雁字搦めに縛り付ける。
 ……動きが制限されたウェアライダー。
『グ、ウォォォォ……』
 と、苦しげな咆哮を上げるのに、鈴は。
「狼さん……苦しいですよね。今、楽にしてあげますから……
 と小さく目を瞑りながら、狼の追跡者を放ち、シュネーもシャドウリッパーでバッドステータスを加算。
 そして朔夜が。
「わが神技、その身に刻め! STARDUST VARESTY!」
 と、敵に接近、光の槍を投げつけ、磔にした『STARDUST VARESTY』の一閃をその胸元に貫く。
 ……光の槍が消え、そして地上に落下したウェアライダーに。
「これで最後や! ガルド流、晴龍透衝!」
 と……ナギの渾身の一突が決まり、断末魔の叫びを上げるのであった。

●折れた牙
「……これで終わりです。眠りなさい、目覚める事無く……」
 と、イピナの宣告と共に……ウェアライダーの青年は、消失する。
 残滓もなく、跡形も無い……戦いし傷痕のみが、最後に残ったウェアライダーの残滓。
「……」
 そんな光景に、虚しさを覚えるイピナ。
 確かに彼は……テイネコロカムイに操られたとはいえ、元々は、自分達の仲間と同じ、ウェアライダー。
 ……そんなウェアライダーの、少ない痕跡を拾い集め、周囲をオラトリオヴェールで修復した後、青年の墓を建てて供養。
 僅かに残った痕跡を土中に埋めて。
「願わくば、その力……わたしにお貸し下さい……命を弄ぶ死神を滅ぼす為の力を……」
 と祈りを捧げると、零次も、シュネーも。
「……本当ならば、戦わずに済んだかもしれない。テイネコロカムイに従わされ、死から呼び起こされたお前……」
「そうね。これでようやく、ゆっくり眠れそうで良かったわ……」
 と、ぽつり。
 そんな仲間達の弔いの動きを、後ろから見つめているヴィルヘルム。
「……此レは、何時カの俺達の姿なンだろう。戦い続けルなら」
「そうね」
 とヴィルヘルムの言葉に頷くシュネー。そして傍らで見上げてきていたバッシュフルを抱き上げて、お疲れ様、とほおずりをしながら。
「この子も、ヴィルヘルムも死なせる気なんてないけれど、こうさせぬよう、しっかりしなくてはね」
 微笑むシュネーに、ヴィルヘルムも。
「あア、そうダな」
 と頷く。
 そして……そんな仲間達の言葉を劈くように。
『……ウォォォォォォン……!!』
 と、声高く、天まで届くかの如き遠吠えを上げるナギ。
 その声は、悲しさと怒りの愛待った……何とも言えない複雑な咆哮。
 何度も、何度も啼き続ける中、暫しの間、無言で聞き続けるケルベロス達。
 ……そして、ナギの咆哮が止むと共に。
「……さて、と。死神の痕跡を、探してみるとするか。手がかりがあればいいがな……」
 と零次の言葉に氷雨が。
「そうね。死神の痕跡……持って帰れば、何か分るかもしれないしね」
 と頷きつつ、捜索を手伝う。
 ……広大な湿地帯故、捜索出来るところは限られるものの、出来る限りの部分で、テイネコロカムイ、そして死神の爪痕を探す。
 ……だが、目立った痕跡を見つける事は出来ず、小さく落胆と共に……ケルベロス達は、釧路湿原を去りゆくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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