サンタクロースのサプライズ

作者:飛翔優

●びっくり箱と爆弾と
 夜の闇も冷たい風も、きらびやかなぬくもりで抱いていく。星々にも似たイルミネーションに抱かれているクリスマス。
 商店街の中心、クリスマスツリーのたもとでサンタクロースがプレゼントを配っている。
 小学一年生の少年・ショウヤもまた両親から離れ、サンタクロースに駆け寄った。
 キラキラした瞳で見つめる中、サンタクロースは抱えるくらいの袋の中から取り出してきた。
 笑顔で受け取り、ショウヤはお礼の言葉を告げていく。
 穏やかな眼差しを送り合いながら、両親の元へ戻ろうときびすを……。
「え……」
 ……風が、プレゼントボックスを結ぶリボンをさらっていく。
 誘われるかのように包装用紙も剥がれ、フタも横にずれ落ちた。
「わあっ!?」
 飛び出してきたのは、バネ付きオバケ。
 びっくり箱だと認識した瞬間、世界は白に染められて――。

「うわぁ!」
 焼けるような痛みを感じた時、ショウヤは布団をふっ飛ばしながら跳ね起きた。
 呼吸を整えながら周囲を眺めれば、自分の部屋のベッドの上だと気がつく。
「……夢、だったのかな」
 早鐘のように打ち鳴らされていく胸を抑えながら、ショウヤは深呼吸を始めていく。一つ、二つと刻むたび、徐々に鼓動は収まって……。
「っ!?」
 ……不意に、窓の方角に気配を感じた。
 視線を向ければ、一人の女声が佇んでいる。
「だ、だれなっ」
 口を開くことなく、女性はショウヤの胸を貫いた。
 手にした、鍵で。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの驚きはとても新鮮で楽しかったわ」
 女性が鍵を引き抜くと共に、ショウヤはベッドの上に崩れ落ちていく。
 入れ替わるようにして、一つの影がベッドの傍に顕現した。
 それは、穏やかな笑顔を浮かべたサンタクロース。背負う袋にモザイクを纏う、ドリームイーターと呼ばれる存在で……。

●ドリームイーター討伐作戦
 ケルベロスたちを出迎えた黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004) は、メンバーが揃ったことを確認した上で説明を開始した。
「子供の頃は、びっくりする夢を見たりするっすよね。理屈は全く通っていないんっすけど、とにかくびっくりして夜中に飛び起きたり」
 そのびっくりする夢を見た子どもがドリームイーターに襲われ、その驚きを奪われてしまう事件が起きてしまう。
「奪われる子供の名前は、ショウヤくん。小学一年生の男の子っすね」
 驚きを奪ったドリームイーターは早々に姿を消してしまう。しかし、奪われた驚きを元にして具現化したドリームイーターが、事件を起こそうとしているのだ。
「だから、現れたドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して欲しいんっす」
 このドリームイーターを倒すことができれば、驚きを奪われてしまったショウヤも目をさましてくれることだろう。
 続いて……と、ダンテは地図を取り出した。
「発生源となるショウヤくんの家はこの、住宅地のマンションの一階っすね。ここがドリームイーターの出発点となるっすから、皆さんも同様にここから捜索を行うと良いと思うっす」
 ドリームイーターは街中を練り歩き、一般人をびっくりさせようとしている。故に、付近を歩いているだけで向こうからやってくるだろう。
 姿はサンタクロース。プレゼントの入っている袋がモザイクに覆われているという特徴がある。
 戦いにおいては妨害特化。大きなびっくり箱のプレゼントを開けることで複数人を驚かし威圧する、手のひらサイズのプレゼント爆弾を手渡し爆発によって加護を砕く、ぶつかると爆発する袋を振り回し近づくものを足止めする。
「また、このドリームイーターは自分の驚きが通用しなかった相手を優先的に狙ってくるようっす。この性質を上手く利用できれば、有利に戦えるかもしれないっすね」
 以上で説明は終了と、ダンテは資料をまとめていく。
「子供たちに夢を運ぶ、サンタクロース。それが、こんなことをしたいなんて望んでいないはずっす。だからどうか……全力でお願いするっす」
 ショウヤを救い出すためにも……。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
ヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128)
御剣・冬汰(愛し君へ・e05515)
タカ・スアーマ(はらぺこ守護騎士・e14830)
死屍・骸(光のカデンツァ・e24040)
御ヵ啼・文(花色ヴァンガード・e33000)
上鶴・陽翔(星導のエルピス・e33652)
柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)

■リプレイ

●クリスマスにはまだはやい
 おぼろげな灯火が道を照らし、冷たい風と共に人々を自宅へといざなっていく深夜の街。遠くに聞こえる車のエンジン音を聞き流しながら、死屍・骸(光のカデンツァ・e24040)は弾んだ調子で歩いて行く。
「一足先のクリスマスね! 本物のサンタさんに会えるのだわ、嬉しいわ楽しいわ! 而も面白いマジックまでしてくれるらしいし、よりワクワクするわね!」
 明るい笑顔に誘われたか、柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)もまたふわふわの口元に指を当てくすりと笑いながら口を開く。
「そうね。あわてんぼうのサンタさんどんな方なのか、とても楽しみね」
「……」
 聞き止めていた相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は、骸に聞こえないよう配慮しながら言葉を投げかけた。
「もっとも……年末に向けての始まりにすぎねぇんだろうな。デウスエクスの動きも活発化するだろうし」
 小さく肩をすくめた後、惜しげもなく風にさらしている肉体を盛り上げ虚空に向かって拳を放つ。
 御剣・冬汰(愛し君へ・e05515)はうなずき返し、やはり聞こえないほど小さな声でつぶやいた。
「純真無垢な夢多き少年に、理不尽な不幸は似合わない……っていうか、サンタさんってクリスマスのヒーローに泥を塗るのは如何なものかな★」
 早々にご退場願いたい。そのためにも……と冬汰が周囲を警戒し続けていく中も、骸は意気揚々と進んでいく。
「サンタさん出てきてー! サンタささーん!」
 時には電信柱の影を探し、時には公園の中へと目を凝らす。更には空き家の庭、マンションの自転車置き場……と、サンタクロースの形をしたドリームイーターが隠れられる場所を探していく。
「サンタさん、サンタさーん」
 明るい声を響かせながら、骸は仲間たちとともに夜の街を歩いて行く……。

 少しだけ人員を分割して月極駐車場の探索を行っている時、御ヵ啼・文(花色ヴァンガード・e33000)は拳を握り語った。
「サンタクロースは夢を運ぶもの! 危ないものはお断りだよねっ」
「……」
 同道する上鶴・陽翔(星導のエルピス・e33652)はコクリ、コクリと頷いて、ノートにびっくりするより嬉しくなるものの方がよいと書き記す。
「そうだよね! だから、早く見つけないとっ」
 同じ決意のもとに探した後、いなかったと駐車場の中心へと戻っていった。
 どこで何が起きても良いように駐車場の中心で待機していたヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128)は、次々と戻ってくる仲間たちを……サンタクロースへ様々な感情を抱いている仲間たちを眺め、ただ小さく目を細めた。
「子供の頃か、多分俺もそのような夢を見たのだろうな」
 瞳に宿っていた感情は、果たしてどのようなものだっただろう。
 誰かに語ることのないままに、ヴィンチェンツォはメンバーが揃ったことを確認する。
 次の場所へ向かおうと振り向いた時、駐車場の入口部分に何かの気配を感じて制止をかけた。
「おっと、これは驚いたな。俺としたことが」
 軽く後ずさる素振りを見せながら、目を凝らして入り口に立つ者の正体を探っていく。
 赤を基調としたふわもこ衣装に、太った体。白い髭を蓄えているさまは、サンタクロースと呼ぶにふさわしい。もっとも、背負う袋はドリームイーターの証たるモザイクに覆われてしまっているのだけれど……。
「……」
 サンタクロースは何も語らぬまま、袋から大きなプレゼントボックスを取り出した。
 地面に置かれたプレゼントボックスは風の訪れと共にリボンが解かれ……。
「ワア!」
 タカ・スアーマ(はらぺこ守護騎士・e14830)が懐中電灯を当てた時、蓋が外れバネ付きピエロが飛び出してきた。
 驚きおののいたタカは懐中電灯を取り落とし、尻もちをついていく。
 文も軽く胸を抑え、呼吸を整えている。
「ほんと……すっごいびっくりした!」
 同様に、陽翔のミミック・事務員さんも後ろに倒れてしまっている。宇佐子は後ろを向いてうずくまり、白ウサギの尻尾をぷるぷると震わせていた。
 一方の骸は目を輝かせ、キャッキャと笑顔を見せている。
「面白ーい!」
「……」
 陽翔もまた驚き締まっていた翼をひろげていた。
 けれどすぐさま調子を取り戻し、事務員さんを引き起こしていく。
 唯一驚かなかったのは、冬の夜空に似合わぬ半裸の格闘家スタイルな泰地だけ。それが気に入らなかったのか、サンタクロースは泰地を見つめたまま一歩、二歩と近づいてくる。
 泰地はにやりと口を持ち上げながら、一歩、二歩と近づき始めた。
 間合いの内側へ踏み込んだ瞬間に大地を蹴り、顔面めがけて蹴りを放つ。
「んなもんいらねえんだよ、替わりにこの足裏をくらえ!」
 足裏は、掲げられた腕に阻まれ弾かれた。
 お返しとばかりに手のひらサイズのプレゼントを手渡され、素早く上空へと投げ捨てる。
 次の刹那にプレゼントは爆発し、離脱しようとバックステップを踏んでいた泰地の体を地面に縫い付けた。
 すかさず陽翔が泰地との距離を詰め、治療を始めていく。
 泰地が感じただろう痛みを和らげていく中、事務員さんに視線を送った。
 頷いた事務員さんはサンタクロースとの距離を詰め、得物を作り襲いかかっていく。
 戦いが始まった音を聞いたからだろう。宇佐子は呼吸を整えながら、恐る恐る振り向いていく。
「……ふぅ」
 深い息を吐いた後、小さく頷き空を仰いだ。
「みんな、よろしくね!」
 手元のスイッチを押したなら、爆発する勇気が前衛陣に新たな加護を注ぎ込む。
 力が高まっていくのを感じながら、文は懐から瓶を取り出した。
「我が握るは正義! 我が投げるは地獄への鍵! くらえ、じいちゃん直伝、ヘドロ瓶投擲!!」
 勢い良く投げつけて、振り回された袋に砕かれる。
 ばらまかれた液体は異臭を放ちながらサンタクロースの服に、頬に付着して、老いた肉体を蝕み始めた。
 直後、背後に回り込んでいたヴィンチェンツォの二丁拳銃から二発の弾丸が放たれた。
 虚空を駆ける弾丸は、背中から両脇腹を貫いていく。
 血が溢れることはない。
 傷跡はすぐに凍りついたから。
 されど振り向く素振りも見せないサンタクロースを見つめながら、ヴィンチェンツォは言い放つ。
「サンタとは夢やプレゼントを届けるものだ」
 けして、子供を騙し、驚かせ、悲しませ、殺すような存在ではない。
「まだまだ時期外れ、大人しくバンビーノに戻ってもらおうか」
 サンタクロースを……驚きを奪われ昏睡状態に陥っているショウヤの身を案じながら、引き金にかけた指に力を込めて……。

●偽りのサンタクロース
「オレの心を君の言葉で、心で、息で、満たして、染めて、傷つけて、剰え殺して欲しいな! そうすれば、オレは永遠に君だけのモノ♪」
 それは詩か、それとも呪詛か祝詞か。
 紡ぐ冬汰の涙が溢れた時、数多の影手が溢れ出しサンタクロースを取り巻く光を縦横無尽に貪りだす。
 闇に閉ざされていくサンタクロースに狙いを定め、タカは半透明の御業を解き放った。
 サンタクロースの体を掴み取った手応えを感じながら、タカは落ち着かない様子で周囲を見回していく。
「あー、もう驚かすことはないよな……?」
 手元を震えるさまを見せながらサンタクロースへと向き直った時、視界が塞がれていた。
「え……」
 瞳の中には、雪に似た白が散りばめられている赤。
 一歩引いて眺めてみれば、それは……車くらいのサイズを持つ、大きな……。
「うおっ!」
 プレゼントボックスと認識した瞬間、蓋が開き何かが飛び出してきた。
 驚くままに一歩後ろに退けば、バネ付きピエロがゆらゆらと揺れている様が見える。
「せ、戦闘中もお構いなしか!」
 頷くように体を揺らしながら、バネ付きピエロはプレゼントボックスとともに消え去った。
 視界が晴れた先には、闇から抜け出したらしいサンタクロースが袋を肩に担いだまま佇んでいる。
「……」
 深い息を吐いた後、大きく息を吸い込んだ。
 サンタクロースのみを視界に収め、激しき炎のブレスを吐き出していく。
 ――灰塵と化せ!
 収束する炎に煽られて、サンタクロースは一歩、二歩と退いた。
 距離を詰めていく事務員さんを見つめながら、陽翔はオーロラのような光を放ち前衛陣を包み込んでいく。
 びっくり箱の影響を最小限にするために。
 支えることで、仲間たちを勝利へと導くため。
 仲間たちが動きの精細を取り戻していくさまを横目に、冬汰はサンタクロースとの距離を詰めた。
 間合いの内側へ踏み込むと共に英雄が愛用した剣を模したバールと勇者の力を込めたバールのようなものを両手に握りしめ、Xを描くかのようにクロスさせていく。
 前方へと強く跳躍し、至近距離へ迫るとともに左右に振るった。
 盾代わりにされたモザイクの袋に傷跡を刻み込み、サンタクロースを更に後方へと押しやっていく。
 行き着く暇も与えぬ攻撃が行われていく中、タカもまた静かに腰を落とした。
「これ以上は驚かされん、行くぞ」
 静かな言葉と共に大地を蹴り、雷を宿した拳を突き出した。
 左肩を捉えた直後、振り回された袋に弾かれ右側へと退避する。
 同様に左側へと逃れた文は、ナイフでサンタクロースを指し示した。
「黒き刃と黒き牙、くらうがいい、黒影弾!」
 切っ先から影の弾丸を撃ち出して、袋を振り回す腕へと食い込ませていく。
 毒に、氷に蝕まれながらも、サンタクロースの動きは止まらない。白い髭を振り乱しながら、袋を振り回し続けていく……。

 傷つく仲間を癒すため、更なる力を与えるため、宇佐子は再び勇気を爆発させた。
「大丈夫、わたしもサポートするもの。みんなはこころおきなく、ぜんりょくでやっちゃってね」
 風に運ばれ混じり合うカラフルな爆煙が、仲間たちに勇気が届いた証。
 湧き上がる力を手刀に込めて、泰地は凍てついた脇腹を切り裂いた。
 直後、サンタクロースが何かを取り出してくる気配を感じ、手元に向かって裏拳を放っていく。
 何かとぶつかった瞬間、爆発音が轟いた。
 至近距離で爆発を浴びてなお退かない泰地を援護するために、タカはブレスを吐き出していく。
 髭が、ふわもこの白が焦げていくさまを見据えた後、声を上げた。
「決着は近い。油断はせず……けれど臆せず、畳みかけようぞ」
「うん、そうだね」
 頷き、冬汰は再び言葉を紡ぎ出す。
 溢れた影手が、サンタクロースを闇の中に閉ざしていく。
 速やかなる決着を果たすため、憂いなき攻撃を願うため、陽翔はオーロラのような輝きで前衛陣を治療した。
 意気揚々と事務員さんが襲いかかっていくさまを見つめながら、祈るように両手を組み合わせていく。
 傷が、痛みが消えていくのを感じながら、泰地は脚を振り上げた。
「つか、まだクリスマスじゃねえっつーの」
 顔面に押し付けるかのような蹴りを放ち、サンタクロースに尻もちをつかせていく。
「終わらせようぜ、この夜を」
「全ては始めるため。一月後、サンタクロースを招くことができるように」
 落ち着いた調子で、大人びた様子で、骸は雷走る槍でサンタクロースの左肩を貫いた。
 それでもなお起き上がってこようとするサンタクロースの体に、ヴィンチェンツォが片側六発計十二発の弾丸を浴びせかけていく。
「Addio」
「またね、サンタさん」
 地面に縫い止められているサンタクロースのもとに歩み寄り、宇佐子は瞳を瞑り詠唱した。
「ほーくす、ぽーくす、ぱーく!」
 迸るエネルギーをサンタクロースに叩き込み、様子を伺っていく。
 開かれた瞳で見つめる先、サンタクロースは深い息を吐き出した。
 風の訪れとともにつま先から光の粒子に変わり始め、何処かに向かって飛んでいく。
 それは、ショウヤが眠る家がある方角。
 ケルベロスたちが見守る中、サンタクロースは跡形もなく消え去って……。

●クリスマスに備えよう!
 事件解決を確認し、タバコに火をともしたヴィンチェンツォ。
 静かに煙を吐き出しながら、ショウヤの家がある方角へと視線を向けた。
「ショウヤ少年はベッドで倒れたというのだから、起きればびっくりした夢、で済ませられるだろうさ」
「……うんそうだよね。怪我もなかったはずだもの」
 文は小さく頷いて、各々の治療や戦場の修復といった事後処理へと移行していく。
 作業が進められていく中、ヴィンチェンツォは静かにひとりごちた。
「……そう、バンビーノにはちゃんとクリスマスに訪れるだろうさ」
 確信めいた願いを、星空へと運んでくれる風に乗せながら……。

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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