ただ、死神の意のままに

■リプレイ

●死神の所業に……
　北海道にやってきたケルベロス達。半数あまりがシャドウエルフという編成のチームだ。
「この寒い時期に、寒い場所で……。敵も態々ご苦労なことだね」
　ニクス・ブエラル（枷ニ非ズ・e06113）は白い息を吐きながら、呟く。
　１１月ともなり、北の地はすでに雪で覆われていた。しかし、ケルベロス達はそんな寒さを感じさせぬ闘志を燃やす。
「命をなんだと思っているのでしょう……」
「テイネコロカムイ、相変わらず悪辣な企みをしている様ですね」
　御伽・姫桜（悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600）が静かな怒りを見せたのに、この場にいない黒幕を名指ししたサラ・エクレール（銀雷閃・e05901）もまた、静かに告げる。
「私達ケルベロスがいる限り、決して好きにはさせません」
「暴れるダモクレスは許せないけれど……。亡くなった命を弄ぶのは、もっと許せない！」
　クー・ルルカ（続いたずら妖精・e15523）は逆に、その怒りを大声でぶちまける。出来るならば、それを直接本人に叩き付けたいところだが……。
「倒されたデウスエクスさえ蘇らせるその力……本当に厄介だね」
　リョウ・カリン（蓮華・e29534）はその力に関しては魅力を感じさえしているが、死者は安らかに眠るべきという考えより優先されることはない。
「死後の安息まで奪われるとは、なんともやりきれんな。遺恨を晴らす為、という方がよほど救いがある」
　そう告げるのは、実に雪が似合う白熊のウェアライダーの笹ヶ根・鐐（白壁の護熊・e10049）だ。しかしながら、彼は何気なく呟く。
「己の意思で死神と取引できるなら……？　もしそうなら、危険な誘いだな」
　鐐の言葉に、死神を自称するニーナ・トゥリナーツァチ（追憶の死神・e01156）がそばで微笑んでいたのだった。

　ケルベロス達は敵の発見の為、２人１組４班に分かれて釧路外環状道路上から捜索に当たることにする。
　まずは、クー、リョウ、可愛らしいシャドウエルフ男女のペアだ。
　リョウが念の為にと殺界を作り、人払いを行う。クーも双眼鏡を使って遠方を眺め、発見したときに備えて通信機もすぐ使えるように用意していた。
　少し離れた場所には、サラがニクスと行動していた。こちらも同じく、サラが殺界を展開した上で、両者共に双眼鏡を使って遠くに視線を向ける。
　隠密気流で気配を消しつつ、サラは北側を注視する。一方、サラとは逆側を観察していたニクスはふと、背中合わせのパートナーへと声をかける。
「寒空に男女２人。これが索敵の最中じゃなければ、悪くないシチュエーションなんだけどね」
「……はぁ」
　一方で、やや人見知りである上に真面目なサラは、なかなかニクスと顔を合わせられず、やや気のない返事をして捜索に臨む。それが肩肘張っているように見えたニクスは、両手を上げてしまっていた。
　他が男女ペアなのに対し、ニーナ、姫桜組のみ女性同士のペアだ。
　ここはニーナが殺界を担当する。彼女は音や違和感を元に、敵の接近を先んじて発見しようとする。
　パートナーとなる姫桜は桃色の翼で空を飛び、隠密気流を使いながら望遠鏡で遠くを見ていた。こちらの２人は淡々と捜索に当たっていたようである。
　残る鐐、ローレン・ローヴェンドランテ（夢中・e14818）組。こちらは地上から鐐が地図、ＧＰＳを駆使し、彼はタブレットで仲間の位置も確認するなど、万全の体制でこの依頼に当たっていた。
「迷子はどこかな？」
　灰色の瞳と髪を持つローレンもまた、目立たぬよう気流に身を潜めて灰色の翼で空を飛び、望遠鏡で遠くを見やる。
「おや……？」
　そんな彼女が真っ先に敵を発見する。怪魚に引き連れられるダモクレスの男性だ。
　ローレンはすぐさま地上に降りて鐐に伝えた上で、仲間達へと通信機で連絡した。２人は敵の進行方向を予測し、道路を移動していくのである。

●雪降る湿地での戦い
　いつの間にか、戦場には雪が降り出していた。
　その中で南へと向かい来る怪魚型の死神。そして、それらに従うダモクレス。その一団が向かう先にはすでに、４人のケルベロスが待ち構えていた。
「人を傷つけることは絶対に許しません。……全力で参ります。――覚悟は宜しいかしら？」
　姫桜がそう告げるが、敵の一行が止まる素振りはない。
「湿原は美しいのにねぇ……。無粋な輩には早々に退場願わねば」
　鐐がまず、熊の右腕にはめた縛霊手から巨大光弾を発射した。敵は全員が前列に布陣しており、光弾を受けた死神一行は体に痺れを覚えながらも襲ってくる。
　大きく口を開いて食らいついてくる怪魚の攻撃を、鐐がその身を盾となして受け止めた。
「意思なき者に、この盾は貫けぬよ！」
　護り手だと自認する鐐を、後方にいるボクスドラゴンの明燐が自らの属性を注入し、主の耐性を高めていく。
「さぁ、シオン、一緒に参りましょう」
　ボクスドラゴンのシオンが姫桜の声に応えて嘶き、自らの属性を彼女に注入する。
　姫桜も自らの体より大きな白いライトニングロッドを構える。それには、桜、菫、薔薇などの花々が蔦のように巻きついていた。
「どうか護って、私の大切な仲間達を」
　大きなロッドをまるで蝶が舞うように軽々と操り、姫桜は自身を中心に雷の壁を展開していく。
「相も変わらず魂を弄ぶのね、貴方達は」
　ニーナは醜悪な見た目の怪魚へと告げ、高く跳躍する。
「死した魂は眠りなさい」
　今はもう、此処に貴方の居場所はないのだから。
　冷淡に告げたニーナは、手近な敵の体を真上から蹴りつけ、その動きを鈍らせる。
「せっかく寝てたのに、起こされちゃったんだね……。すぐに眠らせてあげるから安心して」
　隠密気流を解除したローレンは、前線の仲間にドリルの腕で殴りかかってくるダモクレスに告げてから、敵に狙いを定めてガトリングガンを構える。
　敵陣に弾丸の嵐を浴びせかけようとも考えたが、どうやら、グラビティの活性に難があったらしい。ローレンはやむを得ず、ガトリングガンを連射させ、怪魚１体を撃ち貫いていた。
　そこへ、やや遅れてニクスとサラが駆けつける。
「見逃すわけにもいかないし、さっさと片付けてしまおうか」
　ニクスの言葉に頷くサラ。彼女はすでに交戦する仲間を援護するように素早く位置取りし、弾丸をばら撒くことで怪魚やダモクレスの足止めを行う。
　それに気を取られる敵の背後から、ニクスが迫る。彼はまず、伸ばした腕から蔓触手形態と変形させた攻性植物を放ち、怪魚の体を縛り付けていく。
　そいつへと２本のサーベルを両手に握り、戦化粧を顔に施したクーが迫る。
　一振りは母の形見。そして、もう一振りは親友から譲り受けたもの。
　気丈な表情で敵に迫る彼は、怪魚の後ろから２つの刃を十字に振るう。
　シャアアアアァァァ…………。
　奇怪な声を上げ、怪魚１体が滅してしまう。クーはそれを冷静に見届けた上で、背中の蝶の翅を羽ばたかせて華麗に地面へと着地して見せた。
　クーを狙い、別の怪魚がかぶりつこうと口を開く。それを、ミミックのどるちぇが受け止めてくれた。
「さぁ、此処は通行止めだよ」
　さらに、駆けつけてきたリョウが敵へと言い放つ。彼女は両手足の腱を地獄化し、勢いよく燃え盛らせる。
「先に進みたければ、私達ケルベロスを倒してからにしてもらおうかな？」
　開戦の狼煙代わりと考えたリョウだったが、自身のグラビティが最後になってしまったことには目を瞑りつつ。彼女はドラゴンの幻影を発し、地獄の炎をクーのそばにいた怪魚に浴びせかけた。
「灰も残らないくらい燃やしてしまえば、サルベージもできなくなるかな？」
　怪魚はそれでも、リョウの言葉を聞き流したかのようにケルベロスへと襲い来る。
「テキ、センメツ――」
　そして、ダモクレス。彼は全く表情を動かすことがなく、まるで奇怪音のような声を発し、全身に展開させたミサイルポッドから大量のミサイルを発射してくるのだった。

　降りしきる雪の中、ダモクレスが飛ばすミサイル。ニクスはそれを警戒していた。
　着弾することで、痺れを与えるのが厄介な攻撃。飛んできた際には、ニクスは桃色の霧を発し、その痺れを取り払う。
　前線では、サラが最善の立ち回りを配慮しつつ、オウガメタルを纏わせた拳で怪魚の体を容赦なく殴りつける。
　そこに、魔法の木の葉を纏ったクーが仕掛けた。
「氷漬けになっちゃえぇ！！」
　相手は魚。凍れば動きが鈍ると踏んだクーは魔力を伴う叫びによって、周囲の空気もろとも怪魚達を凍りつかせてしまう。それにより、凍りついた怪魚１体が息絶えていた。
　しかしながら、もう１体は姫桜へとしつこく食らいつく。
「魂を弄ぶその頭蓋、全て残さず喰らってあげましょう」
　ニーナはその怪魚を中心にして、呪術を発動する。
「……影は揺らぎ、死は踊る」
　因果をねじ曲げることで、ニーナはその結果だけを顕現させる。怪魚は自らの中心より現れた死神に食われてしまい、その生を終えてしまった。
　怪魚型死神が倒れ行く間も、ダモクレスはただ与えられた指示だけを遂行する。前のめりに攻撃してくる敵に、盾となるメンバーもかなり消耗させられてしまう。
　姫桜もダモクレスのドリルを受け止めていたのだが、敵の猛攻は脅威だ。油断すれば、あっさり深手を負ってしまいかねない。
　対して、こちらの回復役はボクスドラゴンのシオンのみ。とてもではないが、回復が間に合わず、他のメンバーもまた回復に当たることとなる。
「――どうか彼の人に届けて。大切な人を癒すためのこの唄を」
　それは、高い塔より、外の世界に憧れる女の子のもの。金色に輝く長い髪と祈りを込めた歌声……それらが幸せを運ぶことを信じて。
　危機を察した姫桜が歌うその歌は、前線に立つ仲間の破壊された防具や体に走る痺れを取り去っていく。
　なおも攻めようとする名も無きダモクレス。そいつへとローレンが会話を試みる。
「サルベージをした死神……。どちらの方向に行ったか知らないかな？」
「――ヘントウ、フヨウ。ハイジョ……」
「そう、なら……」
　無機質な声だけ返す敵が再び攻撃を行う前に。ローレンは質問を諦め、自らの影を広げて武器と成す。
「煌めき、喰らえ、絢爛せよ」
　影は白くなり、幾多の刃に変化した。そして次の瞬間、影の刃は荒ぶり、これでもかとダモクレスの体を切り刻む。ローレンは笑みを浮かべたままでそれを見つめていた。
　敵に隙を与えぬように。ニーナが死神の大鎌を投げ飛ばしてダモクレスの装甲を砕くと、敵から距離を取ったニクスが詠唱を始める。
「Ad augusta per angusta.」
　狭き道によって高みに。そんな言葉によって、ライトニングロッドが元々持っている電撃の威力が高められて。
「――libero」
　自由を意味する言葉が合図となり、その電撃は前方へと放たれる。ホーミングを伴ってそれはダモクレスを追尾し、そいつの体を焼き焦がす。
　さらに、ニクスが攻性植物をけしかけ、その体へと食らいついて毒を与えた。
　そのタイミングで、ダモクレスは何かを呟く。
「ハイジョ、ハイジョ――」
　ダモクレスは胸部に大きな発射口を出現させる。……そして。
「ハッシャ」
　集まるエネルギー。それがケルベロスへと放射される。
　とっさに鐐が前に出る。身を抉るような感覚を覚えたが、彼の体を貫通させるには至らない。
「言ったはずだ。貫けはせんと……！」
　しかしながら、かなりの傷を負った鐐は、気力を溜めて自らの傷を癒す。明燐もまた、主の回復に力を費やしていたようだ。
　怯む敵目掛け、サラが躍りこむ。ダモクレスはかなりの傷を負っている。確実にトドメをと彼女は考えたのだ。
「我が閃光、その身に刻め！」
　日本刀『異形切安綱』を握り締めたサラは居合いによって、ダモクレスの体を一閃する。その上で、彼女はさらに敵の胸を貫く。
　だが、ダモクレスは己の敗北を是とはせず、右腕をドリルのように回転させた。
「今　最後の望みが絶え　虚空の彼方へと消えてゆく……」
　そこで、クーが歌い始める。ダモクレスはあからさまにその歌に不快感を覚え、クーへと殴りかかろうとする。
　敵をクーが押し留めている間に。手足を燃え上がらせるリョウが迫った。
「過去を糧に燃え上がれ私の焔　理不尽を払い　不条理を覆し　心のままに舞い踊ろう」
　溢れ出す炎を燃え上がらせたリョウは舞い踊るように拳を、蹴りを叩き付け、地獄の炎を浴びせかける。その炎はまるで鳳凰のように赤く輝き、彼女の敵を滅していく。
「――ガ、ガガッ」
　体の至る所を焼け焦がしたダモクレス。ついにその活動は完全に停止し、糸が切れた操り人形のように雪の上に崩れ落ちたのだった。

●討伐を終えて……
　ダモクレスを倒したケルベロス達。雪は一先ず降り止んだらしい。
「お帰りなさい。それと、お疲れ様」
　ニーナは倒したそのダモクレスの魂を掬い上げ、口の中へと入れる。その味は実に淡白なものだった。
「次はないけれど、ゆっくり休んで頂戴ね」
　また、ダモクレスの体は、リョウが念の為にと地獄の炎で火葬してしまう。
「痛かったよね、ごめんね……。ゆっくり休んでいいよ。もう、起きなくていいから……」
　クーはそれを目にし、涙を流す。
「バイバイ、ダモクレス。ゆっくり永遠に眠っておくれ」
　ローレンが餞の言葉をかけ、サラはダモクレスに対して敬意を込め、その焼け跡を土に埋めて供養する。
　その間、戦場となった湿原に気力を撃ち出していた鐐。彼は作業を終え、取り出したスキットルの中に入った琥珀色の液体を、口の中へと流し込んでいた。
「さぁ、風邪を引かないうちに暖かい場所へ移動しようか」
　ニクスは仲間達へとそう促す。長い間外にいることもあり、メンバー達の体は芯から冷え切ってしまっている。
　帰路に着くメンバー達。クーは少し寂しさを覚えていたのか、母を思わせる年上の女性を求めて姫桜に寄り添っていたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年11月27日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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