折り紙細工の百獣王

作者:飛翔優

●草原の折り紙動物を探して
 冷たい風が紅葉を一枚、二枚と散らしていく、夕方前の住宅地。川に沿うように設けられている遊歩道を、小学一年生の少女・ミオリは上流へと遡るかのように歩いていた。
「ふふっ、聞いちゃった聞いちゃった、楽しいお話聞いちゃった♪」
 鼻歌交じりに語るのは、クラスメイトから聞いた噂話。
 この街のどこかにある原っぱには、折り紙でできた動物たちが駆け回っているというお話だ。
 もっとも、折り紙の動物たちは獣としての野生も併せ持つ。
「お腹が空いてたら人も食べちゃうって聞いたけど、準備したから大丈夫♪」
 リズムを取るついでに叩いたポシェットの中には、動物たちに上げるウインナー。お腹をしっかりと満たした上で遊ぶのだと、ミオリは意気揚々と進むのだ。
「わぷっ」
 周囲に意識を飛ばしながら歩いていたからだろう。不意に現れた誰かにぶつかり、ミオリは立ち止まる。
 一方後ろへ下がった後、鼻を押さえながら顔を上げた。
「あ、その……ごめんな」
 謝罪の言葉が終わらぬうちに、誰かは……女性は突き刺した。
 鍵を、ミオリの胸に。
「え……」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの興味にとても興味があります」
 女性が鍵を引き抜けば、ミオリは瞳を閉ざして倒れていく。
 代わりに、出現した。
 大型の肉食獣くらいのサイズを持つ、折り紙を織り込んだ果に空気を入れてふさわしい姿に膨らませたかのような……折り紙でできた、ライオンが。
 たてがみと思しき場所をモザイクで覆い隠したドリームイーターが……。

●ドリームイーター討伐作戦
「……というわけなんだ」
「なるほど……あ」
 灰縞・沙慈(小さな光・e24024)と会話していたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、足を運んできたケルベロスたちと挨拶を交わしていく。
 メンバーが揃ったことを確認した上で、説明を開始した。
「どこかの野原で折り紙の動物たちが駆け回って遊んでいる……そんな噂を聞いて探していたミオリさんという名前の小学一年生の少女が、ドリームイーターに興味を奪われてしまう……そんな事件が発生します」
 興味を奪ったドリームイーターは早々に姿を消してしまう。しかし、奪われた興味を元にした怪物型のドリームイーターが事件を起こそうとしているのだ。
「ですから、この怪物型ドリームイーターによる被害が出る前に、撃破してほしいんです」
 怪物型ドリームイーターを打ち倒せば、興味を奪われてしまったミオリも目をさますことだろう。
 続いて……と、セリカは地図を取り出していく。
「ドリームイーターが発生しているのはこの街。発生点はこの、川に沿うように設けられている遊歩道ですね」
 その遊歩道を出発点として、怪物型ドリームイーターの探索を行うと良い。
 また、怪物型ドリームイーターは、人間を見つけると自分が何者であるのか問いかけてくる。正しく対応できなければ殺してしまう、という性質を持つという。
 そして、自分のことを信じていたり噂している人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質もある。これらを上手く利用すれば探索が用意になる上に、戦いを優位に進めることもできるだろう。
「最後に、怪物型ドリームイーターの特徴について説明しましょう」
 姿は、折り紙のライオンを空気を入れて膨らませて、大型肉食獣くらいのサイズまで肥大化させたもの。たてがみがモザイクになっている。
 戦いの際は相手の攻撃を捌きながら、隙のない一撃を叩き込んでくる。
 技は三種。前足の一撃を放ち加護を砕く、飛びかかり噛み付き生命力を奪う、姿勢を保つ事で守りを固め傷を癒やす、といったもの。
「以上で説明を終了します」
 セリカは資料をまとめ、締めくくった。
「噂に聞いた、夢のような光景。興味を持って探し歩いていたミオリさんを救うためにも、誰かが被害に合わないためにも……どうか、よろしくお願いします」


参加者
英・陽彩(華雫・e00239)
弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
レティシア・シェムナイル(みどりのゆめ・e07779)
天照・葵依(蒼天の剣・e15383)
ユーディアリア・ローズナイト(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e24651)
ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)
木乃枝・久遠(弁証論治のアンチノミー・e30308)

■リプレイ

●百獣の王を探して
 茜色に抱かれ始めた空の下、散りゆく紅葉が風に彩りを与えている遊歩道。
 冷たい川のせせらぎを聞きながら、木乃枝・久遠(弁証論治のアンチノミー・e30308)はおどけた様子で首を傾げていく。
「ねーねー、折り紙の動物さんだって。何がいるかなー、バクとかパンダとかいるかな?」
 楽しげな言葉とは裏腹に、声音はどこか棒読みだ。
 けれど気にする様子はなく、様々な意見が述べられる。
 少なくとも鶴はいるだろう。キリンや犬、蛇などもいるかもしれない。
 もっとも、形となったのはライオンだけ。
 たてがみをモザイクに変えた、ライオンだけ。
 それでも……と、折り紙の動物たちが野原を駆け回っていく……そんな光景が語られていく中、ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)は空を仰いだ。
 前は、空を飛んでいた。
 今回は野を駆けている。
 ならば、次は海だろうか。そうだとしたら面白い……。
「っと、いけない。今は目の前のをなんとかしないとね」
 首を振り、折り紙のライオン……と言った姿を持つドリームイーターの探索を再開する。
 仲間たちと協力して、時に避難を促しながら。
 人払いの力を用いながら……。
 おびき寄せるための会話も欠かさない。
 英・陽彩(華雫・e00239)は笑顔で語っていく。
「ふふ、それにしても……折り紙が動くだなんて楽しみだわ。襲われた女の子、ミオリちゃんが興味をもつのも分かるわね。私も小さい頃、折り鶴を作って動けばいいのになぁって考えたことがあるもの」
「野原で折り紙の動物たちが駆け回って遊んでいるなんて凄く幻想的だもんネ」
 レティシア・シェムナイル(みどりのゆめ・e07779)は楽しげに、うんうんと頷いていく。
 傍らを歩く天照・葵依(蒼天の剣・e15383)も、口元を緩め思いを馳せていく。
「ドリームイーターがライオンの形を取ったのは、獣を代表してということなのだろうな。いや、しかし……他の動物たちも見てみたかった」
 ケルベロスたちは語り合いながら、折り紙のライオンを探していく……。

 おおよそ十メートルほどの緩やかな斜面を水が流れている……そんな川の近くへといたった時、弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)は小さく肩をすくめた。
「皆さんも仰っていましたが……折り紙で作られた動物、少し不謹慎かもしれませんが楽しみですね」
「そうだね。本当かな? って思うけど……でも、きっと、動いているんだよね。折り紙の動物たちが、ほんとうに」
 リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)が頷けば、他のケルベロスたちも肯定していく。
 穏やかな眼差しで見届けた後、仁王はしかし……と肩をすくめた。。
「雄ライオンの象徴であるタテガミがモザイクなのは少し残念ですが」
「でもでも、百獣の王様なんですよね? 動物園とか行ったことないのでとても興味があるのですよ!」
 首を振り、キラキラした瞳で、ユーディアリア・ローズナイト(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e24651)は語っていく。
「それに折り紙で出来てる……折り紙は見たことはありますけど、動物の形にもなるなんて……とてもすごいです。ぜひぜひ会ってみたいです! ……っ!」
 誘われたかのように、何かが草を踏む音がした。
 素早く視線を向けたユーディアリアは、見た。
 夕日を浴び、威風堂々と薄紙でできた四肢で立つ……黄色がかった折り紙を折り膨らませたような姿を持ち、タテガミがモザイクとかしている……折り紙ライオン型のドリームイーターが。
「あ……ほんとうに、本当にいたんですね! とっても素敵です」
 胸の前で手を合わせながら、ユーディアリアは満面の笑みを浮かべていく。
 ――我は何だ。
 ライオンが厳かな声を紡ぐと共に表情を陰らせ、小さく首を横に振った。
「……んと、折り紙のライオンに会えてとてもとても素敵なんですけど、キミはライオンなんですけど……」
 満足気に頷いたライオンに聞こえぬように、つぶやいていく。
「ドリームイーターでもあるんですよね。だったら、ちゃんと退治しないといけません」
 告げながら、武装する。
 ミオリのために幻想を残す方法を、心のなかで考えながら。
 他のケルベロスたちも瞬く間に準備を終え……仁王が、一歩前に踏み込んだ。
「では、始めましょうか」
 幼い少女の興味が、悪夢を産んでしまわぬうちに……。

●一人ぼっちの百獣王
 己等が悪夢の一ページとなってしまわぬよう、葵依は紙兵の加護を前衛陣に施していく。
「後ろは任せて存分に戦ってくれ。遠慮はいらない」
 受け取りながら、ヴァーノンは小さな息を吐き出した。
「見るまで信じてなかったけどいや、本当」
 見てしまった今、少しの驚きがある。
 けれど表情には表さず、腰元のホルスターに収めているリボルバーに触れた。
「今回もよろしくさん」
 告げた後、拳を固め踏み込んでいく。
 右ストレートがライオンの頬を捉えた時、リュートニアがライオンの眉間にリボルバーの銃口を向けた。
「クゥ、お願い」
 狙いを定める中、ボクスドラゴンのクゥが大きく息を吸い込んでいく。
 吸い込んだ分だけ強く、早く、凄まじい風量のブレスが放たれた。
 風の流れを読み、ライオンが避けるだろう方向と距離を再計算。
 虚空めがけて、魔力を込めた弾丸を連射する!
「……」
 読み通り、弾丸の群れはブレスを避けてきたライオンの側面を貫いた。
 痛みを感じた様子はなく、ライオンはそのままかけていく。
 遊歩道と川を隔てるフェンスの前で踵を返し、近づいていた陽彩へと襲いかかった。
 鋭い前足の一撃を、陽彩はバールを横に構えて受け止める!
「あなたは……そうね、ハイエナかしら?」
 明らかなる間違えを前にした、ライオンは激しい咆哮を轟かせた。もしも彼に世界を薄く映し出す瞳があったとしたならば、その中には彼女しか映らない状態となっただろう。
 ライオンの獲物が陽彩のみに定められていく中、彼女が万全の状態でライオンを迎え撃つことができるように、葵依は気力を渡していく。
「無理そうなら行ってくれ。陽彩さんだけに負担はかけない」
「ええ……その時はよろしくね」
 視線を交わす中、ボクスドラゴンの月詠がライオンの側面に体当たりをぶちかました。
 揺らぐ様子を見せなかったライオンが、不意に体を硬直させていく。
 瞳と思しき印の先、久遠がナイフを横に構えていた。
 磨き上げられた刃に、ライオンを映し出していた。
「ふふ、早々自由にはさせないよー。万業老師もよろしくねー」
 頷き、シャーマンズゴーストの万業老師は炎を放つ。
 折り紙の体が炎に蝕まれ始める中、ユーディアリアが懐へと入り込んだ。
 左腕にグラビティ・チェインを集中させ、手刀を構え……。
「大きく構えてまっすぐ突き出す!」
 漆黒の炎を纏い、槍のよう鋭く銛のように食らいつく形をなし、ライオンの体に噛み付いた。
「わ、なんかくしゃくしゃ、でも破けない!」
 腕が折り紙に抱かれているような錯覚を覚え、すぐさま引き抜き距離を取る。
 猛追は許さぬと、リュートニアは咆哮した。
 先のライオンに負けぬほどの激しさで、ライオンを押さえ込んでいく。
 勢いに乗り、クゥが体当たりをぶちかました。
 彼らが押さえ込んでいるうちに、ケルベロスたちは攻撃を重ねていく。
 三つ、四つと重なった後、ライオンは咆哮を振りほどき陽彩に向かって駆けてきた。
 真正面から見据えつつ、陽彩は赤い雷を纏った狼を召喚する。
「穿て」
 告げた刹那、狼が一閃。
 赤い雷をライオンの全身へと巡らせて、勢いを著しく減じていく。
 それでもなお駆け、放たれた飛びかかりを、陽彩は華麗なステップで避けていく……。

 翼は輝き、ヴァーノンの体を虚空へ運ぶ。
 全てを光の粒子へと変化させたヴァーノンは、ライオンのもとへと向かっていく。
 貫くようにすれ違い、ライオンの後方にて光なき姿へと戻っていく。
「……流石に応えたみたいだね」
 苦悶の声を聞きながら、振り向きリボルバーに手をかけた。
 視界に入り込みながら、久遠はため息を吐き出していく。
「……はあ。さっきも言ったけど、ボクってインドア派なんだけどなぁー……」
 攻撃は不得手……と思わせる言葉を紡ぎながら体を回転させ……白衣を翻しされど制服風のミニスカートは必要以上には浮かばせず蹴りを連打する。
 逃れることは許さぬと、万業老師が炎を浴びせ押さえ込んだ。
 仁王はツルクサを解き放ち、ライオンの四肢を体を捉え縛り上げた。
「いくらすばやくても、じわじわと追い詰めて行きますよ」
「今のうちニ、叩き込んで行くヨ!」
 弓にエネルギーの矢を番えたレティシアは、心静かに狙いを定めていく。
 ツルクサに囚われたライオンは、逃れるために身を捩る。
 よじる度にツルが食い込み、しなやかな体を歪まさせて……。
「っ!」
 矢を離し、ライオンの体を貫いた。
 直後、ウイングキャットのイチマツさんが距離を詰め、爪を縦横無尽に振るっていく。
 遅れは取らぬとばかりにクゥがブレスを吹き付けていく中、リュートニアはリボルバーを引き抜き。
「……」
 次の刹那には、弾丸がライオンの尻尾を消し飛ばしていた。
 勝利が見えたと、ケルベロスたちは猛攻を仕掛けていく。
 イチマツさんが尻尾の輪を飛ばし、ライオンの体を拘束。
 導かれ、レティシアは水の力と共に突進する!
「これでモ、忍者なのデ……!」
 水しぶきと共に自らの身体をぶちかまし、ライオンを横に押し倒す。
 頭の先には久遠がいた。
 脚に炎を宿していた。
「さあ、決めちゃって!」
 絶妙な角度で蹴りを放ち、太ももを輝かせながら、ライオンを空へと打ち上げる。
 さらなる炎に蝕まれていく中、その巨躯が更に高く打ち上げられた。
 視認する暇も与えずに、ヴァーノンが引き抜き放ったリボルバーの弾丸で。
「これで……」
「撃破……なのですよ」
 落ちた来たところを、ユーディアリアの炎が殴り飛ばす。
 ライオンは二回、三回とバウンドし、川のそばにて停止した。
 体を振るえさせているものの、立ち上がる気配を見せないライオン。歩み寄り、ユーディアリアは伝えていく。
「キミが本当に幻想の動物で、仲良くできたら嬉しかったです。でもキミを倒さないと倒れてしまった女の子が起きないんですよね。だからそこだけはごめんなさい」
 返答もないままに、ライオンは炎に抱かれ……黒い灰へと変わり、風にさらわれ消滅した。

●折り紙細工の動物たち
 風の訪れとともに、葵依は深い息を吐き出した。
「まったく……折り紙といえども油断はならないな。手ごわい敵だった。皆お疲れ様」
 互いを労いながら、各々の治療や戦場の修復と行った事後処理へと移っていく。
 もちろん、倒れたというミオリの事も忘れてはいない。
 陽彩はミオリのいる方角へと視線を向け、小さく頷いた。
「この寒い時期、放置はしたくないし……フォローをしなくちゃね」
「怖い思いをしちゃったと思うケド……こう言う興味って大事だと思うノデ、どうかなくさないで欲しいなっテ、フォローをしてあげたいヨ」
 レティシアもまた頷いて、有志を募っていく。
 次々と声が上がる中、仁王は治療を行う傍ら遊歩道のベンチで折り紙を折っていた。
「そうですね。駆け回っている姿は見せられませんが……見つけたミオリさんが少しでも喜んでくれたらいいですね」
 基本のもの、あるいはアレンジしてサーヴァント……様々なものを折りたいと言う仁王のもとに、元々折り紙を買って帰りたいと考えていたリュートニアも加わった。
 ミオリを励ますため、女の子が一人できちゃ駄目と少しだけ注意も行うため、ケルベロスたちはやがてミオリのもとへと向かっていく。
 折り紙細工の動物たちを夢見た少女。その好奇心は、きっといつか素敵なものに出会えるはず。
 だから、陰ることのないように。いつまでも、輝いていられるように……。

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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