雲ひとつ無い快晴の空。明るく大きな月と星の煌く夜。
しかし、それらの光は、地上に溢れる人口の光には敵うことなく、夜の街は煌びやかな光を放ち、夜を遠ざけているようだった。
そんな明るい夜の街を、一人の男が彷徨っていた。
ぼさぼさの髪に、古ぼけたコート、たいして美味しくもなさそうにガムを噛みながら、彼は街中を彷徨っていた。公園、川原、歓楽街、歩む足に迷いは無いものの、脈絡の無い道を歩いては彼は通り過ぎる人にちらりと目をやる。
「今時は夜も物騒だしな、犬の散歩なんて昼間か夕方に済ますわなぁ……」
ぐるりと街中を一周し、もどってきた公園で缶コーヒーを片手に男はしみじみと呟く。
「こんな記事が出回ってたら尚更か」
コートの内から彼が取り出したのは雑誌の小さな切抜きで、そのタイトルには人喰い銀狼の文字が大きく踊っていた。
「ま、他に手がかりもねぇし、ぼちぼち再開だな」
男がゴミ箱へと缶を放り投げ、再び歩き出そうとしたところだった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの興味にとても興味があります」
背中から胸へと抜けた鍵の先端が男の視界に映る。そのありえないはずの光景を目にした男の意識はそこでぷつりと途切れ、夜の街に、大きな遠吠えが響いた。
「皆さんは先日の月はご覧になられましたか? 大きく明るい月でしたねぇ、ニアはご先祖様の血が疼く、なんてことは無いですが、月の出る夜というのは不思議と何かが起こりそうな、そんな気がしませんか?」
ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)はフフっと軽く笑い声を上げると、くるりとその場で振り返り、ケルベロス達のほうへと向き直る。
「淫魔に限らず魔女やら吸血鬼やら、古来より月はオカルトな生物とは何かしら縁があるものです。狼なんてのもその一種でしょう。今回皆さんに退治してもらいたいのは、この狼なわけですね」
そういいながらニアは、今回ケルベロス達を呼び出すに至った経緯を説明し始めた。
最近とある地方都市で話題になっていた都市伝説、番を探す銀狼の噂に興味を持っていた男がドリームイーターにその興味を奪われたのが事の発端であったらしい。
「なんでも、よなよな巨大な銀の狼が犬を連れて散歩する人を襲っては、犬を逃がしているのだとか。その狼の目的が、番の生まれ変わりを探し出して人の手から解放するためなのだとか……ロマンチックではありますが、どうしてその目的が判明したのか……なかなか、穴が多い話です」
とはいえ、ドリームイーターとして実態となってしまった以上放っておくわけにはいかないため、被害が出る前にはやく片付けてしまいましょうと、ニアは語った。
「都市伝説によれば、そこそこ知能は高いようで、犬を連れていない人に出会った場合は、唸りを上げ威嚇し、それで静かに逃げていくのであれば人と襲うようなことはないようです。逆に騒いだり、大げさな態度をとると、牙を向き襲い掛かってくると……」
人語を介するという記述はないので、意思疎通は難しそうですね? とニアは首をかしげた。
「敵は市街地に潜み、犬を連れて散歩している人間を中心に狙っているようです。おびき寄せるためには犬を連れ歩くなどしてみてもいいでしょう。従来の同型のドリームイーター同様、噂話だけでも十分なおびき寄せは可能でしょうから、どのような手をとるかは皆さんにお任せします」
その後、敵のとるであろう戦闘行動について掻い摘んで話すと、ニアは一つ息を吐いて、説明を終える。
「龍なんかに比べたら迫力は劣りますが、中身はドリームイーターですからね。見た目は狼といえどあまり舐めてかかると痛い目をみるでしょう。しっかり気を引き締めて戦いましょう。これからの忙しい季節、ベッドの上ですごすなんてのは真っ平ごめんでしょう?」
参加者 | |
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ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544) |
ニケ・セン(六花ノ空・e02547) |
ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455) |
霧島・絶奈(暗き獣・e04612) |
アトリ・セトリ(緑迅残影のバラージ・e21602) |
キルティア・リーシュト(草の操者・e23570) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
ヨハネ・メルキオール(マギ・e31816) |
●
明るく輝く大きな月。
今にも落ちてきそうなほどに近く見えるそれが、地上を照らし、小さな人気のない公園に街灯の影が長く伸びている。
雲はなく、星も瞬いていても、やや離れた位置にある街の明るすぎる光が空に浮かぶそれらの輝きを曇らせているように見えた。
十二月を間近に控えた夜の空気は酷く冷たく、吐く息は白く曇り、やがて消えていく。
そんな空気よりも、より白い、純白の毛並みを持つフェネック狐が公園のベンチの脇にちょこんと座っている。
そのフェネック狐、ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)は辺りをしきりに見回しながらその大きな耳を四方へと向け、何かを警戒していた。
そんなディークスの様子を、櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)は周りの仲間達と喋りながら時折チラっと確認してはほんの少し、表情を和らげる。その隣で、同じ様にディークスの様子を伺っていたキルティア・リーシュト(草の操者・e23570)は千梨の袖をくいくいと引っ張った後、鹿の姿へと変身する。
「マスター、鹿じゃダメですかね、鹿じゃ? 僕と一緒に散歩しましょう!」
キルティアは千梨にそう訴えかけながら口元にリードを咥えながらその背中をドスドスと立派な角で突く。
「……何しに来たんだお前は、ほら大人しくしてろ」
日頃から慣れているのか、千梨は鹿姿のキルティアの鼻先を撫でてやりつつ、軽く溜息を吐く。
そんな二人のやり取りに、ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)はくすくすと笑いながら、ふと大きな月を見上げ、思い出したかのように話を切り出す。
「そうそう、知ってる? 最近このあたりに出るんだってさ」
含みを持った彼の喋りに、キルティアは興味を示したかのようにそちらへと顔を向ける。
「……っても、お化けじゃなくて人食いの、銀狼。
がぶっちょ! ってね」
手にした古めかしいランプで自らの顔を照らしつつ、かすかな溜めと共に、大きな声で驚かすようにルードヴィヒが続けると、キルティアはびくりと身を跳ねさせ、人の姿に戻ると千梨の後ろへと逃げるように引っ込んだ。
それをみつめつつ、楽しそうに笑うルードヴィヒにやや呆れたような視線を向けつつも、ニケ・セン(六花ノ空・e02547)はその噂話について、自らの知ることを語る。
「こういう月の夜に出るらしいね。番を探して回ってるらしいけど。耳をすませたら遠吠えの一つでも聞こえるかな?」
街の喧騒から離れたこの公園は酷く静かで、耳をすませば本当にどこからかそんな遠吠えが聞こえて競うな気がする。
「にしても、生まれ変わった番にまた会いたいだなんて、どれだけ熱烈な恋だったんだろうなぁ」
「それ程の想いを宿した銀狼はきっと美しいのでしょうね」
ヨハネ・メルキオール(マギ・e31816)が自らの肩に乗る白蛇を撫でつつ、呟いた言葉に、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は、その銀の狼の姿を脳裏に思い浮かべる。
「銀狼って言うくらいだし、毛並みも艶やかで高貴な姿を想像するね。月光で照らされた姿はさぞ綺麗だろう」
アトリ・セトリ(緑迅残影のバラージ・e21602)もまた、絶奈と同じく思い浮かべたその姿を語りながら、視線を月へと向けた。
雲ひとつない空には相変わらず月が輝き、その輝きが、一時、曇る。
ディークスがピンと両の耳を立て、いち早くその存在に気づく。
ケルベロス達の頭上を大きく飛び越え、それは音もなく公園の中央に着地する。
銀の毛並み、二メートルをゆうに越える、巨大な体。余計な肉のない引き締まった体とその鋭い眼光、月光を受け輝く美しいその銀狼の姿に、ケルベロス達は思わず息を呑む。
それは、ディークスの方へと一時視線をむけ、すぐにそれを外す。
「これが噂の……?」
驚いたように呟く絶奈の足元で、彼女の従えるテレビウムがその姿をカメラへと納めようとシャッターを切る。フラッシュの光が瞬くと、銀狼は唸りを上げ、その牙をむき出しにし、その鋭い視線をそちらへと向けた。
既に狼は四肢を地にしっかりとつけ、いつでも飛びかかれる状態にある。それ以上刺激すれば今にでも襲い掛かってきそうだ。
「噂じゃすまないだろ……こいつは」
警戒するように腰を軽く落としながら、千梨はその視線をキルティアに軽く向ける。キルティアは、足を微かに震わせながらも、気丈に狼を睨み返し、頭には攻勢植物で形成された角を生やし、臨戦態勢をとっている。
ぴんと張り詰めた空気の中、誰かの息を呑む音が聞こえた気がした。
●
足元の砂利がなり、銀狼が身を沈みこませる。
「さて、お手並み拝見だね」
敵が行動を起こすよりもはやく、ルードヴィヒが釘を刺すように、銀狼へ向けてオーラの弾丸を放つ。銀狼は向かい来るそれを横っ飛びに回避し、接地と同時前へと飛ぼうと地を蹴り、背に抜けるなりその軌道を変え、折り返してきたオーラの弾丸を受け、小さく唸りを上げる。
すかさず千梨が札を放り、腕を突き出し虚空を掴むように握りこむ。その動きに合わせ千梨の操る御業が、銀狼の巨大な体躯を鷲掴みにし足掻くその体を縫い止める。
「所詮は偽者、居もしない番を探し続ける哀れな存在に、せめてもの引導を」
顔に浮かぶ微笑と対照的に、淡々とした感情のない冷たい声。
絶奈は身動きの取れない銀狼の正面からその姿を見据え、蹴りを放つ。
同時にその足先に宿る重力が、銀狼の体を地へと押し付ける。抗うように、銀狼は四肢を震わせながらも、踏ん張り、ディークスの方へその視線を向け、逃げろと伝えるかのよう様に短く咆える。
「開放する心算だったろうが……悪いな?」
その姿は銀狼の見つめる前で瞬く間に人型へと戻り、月を背に長く伸びた影が銀狼のそれへと到達すると同時、影から無数のブラックスライムが立ち上がり、銀狼を影に引き込むかのように四肢に絡み付き、ついにその膝を折らせ、その体を地に伏せさせたと思った次の瞬間。
銀狼は水を払うかのように体を力強く震わせ、力任せにブラックスライムを引きちぎり、前足を踏み出すと同時、力強く咆哮をあげた。
魔力を含む音が空気をびりびりと震わせ、聞くものの足を竦ませる。
「残念だけど、番探しはここでお仕舞い。俺達が最後の戦いのお相手を務めるよ」
咄嗟にニケが地へと展開した魔法陣が魔力を含む咆哮を受け止めるものの、まともに正面からその咆哮にさらされたアトリは両の腕で耳を塞ぎ、足を震わせる。
それが悔しいのか、彼女は密かに唇を噛みながら、咆哮に晒されつつも負けじと耳に当てていた腕を外し、ヨハネの周囲にその隠密性を増強する魔法の木の葉を展開する。
夜の公園に長く響いた咆哮が収まり、銀狼が四肢をしっかりと地に着け、仕切りなおしとでも言わんばかりに足元の土を蹴り、見据える先で、ヨハネの周囲に漂う無数の煌く粒子が、仲間達の感覚を鋭敏に研ぎ澄まし、その感覚を覚醒させる。
「この世は弱肉強食、物騒な狼さんには退場していただきます!」
叫びと共にキルティアは鋭くなった感覚で、動きの鈍くなっている銀狼の動きを読み、その胴体に拳の一撃を見舞う。
●
彼の細腕でその美しく、厚い銀の毛皮の上から物理的にダメージを与えるのは至難の技。
しかし、魂を喰らう降魔の一撃は相手の体躯や見た目などに関係なく、その魂を等しく抉り取る。
銀狼の体が沈み込み、膝が折れる。
そのまま追撃の一手と、キルティアが踏み出そうとした瞬間、銀狼の沈み込んだ体が伸び上がり、跳躍と共に鋭い爪が月光を受けて鈍く輝く。
一瞬のフェイントの後、ケルベロス達の中からもっとも戦闘経験が浅いと判断したキルティアに対し、銀狼は仕掛ける。彼にあるのは生き残るための本能であり、そこに躊躇などというものは一切ない。
立ち竦むキルティアの喉元を銀狼の爪が深く切り裂くはずだった。
しかし、その銀の体躯はキルティアには触れることなくその脇を通り過ぎ、着地と同時に再び力強く地を蹴る。
古代語の詠唱と共に千梨の練り上げた魔法がその前足を石化させ、攻撃を阻んでいた。
キルティアが安堵の溜息を吐く間もなく、ルードヴィヒと絶奈の二人が後退する銀狼へと追いすがる。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性――」
絶奈の詠唱と共に、その見据える先へ向かい幾重にも魔法陣が立ち上がり、それらは複雑に絡み合い、干渉し、更なる巨大な魔法陣を組み上げる。流し込まれた魔力が魔法陣を起動し、青白い光を帯びたそれは、やがて輝く巨大な槍を造り上げる。
銀狼はその攻撃の先を察知し、避けるためにその体に力を込めていた。
だが、それがもたらす破壊の規模は、一息で抜けられるほど甘いものではない。
「――『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
詠唱の完了と共に公園を光が焼いた。長く瞬いた光が収まると、その美しい毛並みを土と血に汚した銀狼が地に打ち付けられ、飛び跳ねるようにして起き上がったところだった。
「Imagination means nothing without doing.」
その隙を、ルードヴィヒは逃がさず追撃を叩き込む。
手品のように、銀狼の背後に現れるルードヴィヒの姿、奇襲に対応すべく、振向きざまになぎ払うように前足を振るう銀狼。しかしその体はすでに風の刃によって切り裂かれている。
爪がルードヴィヒの眼前を切り裂き、一歩後退する彼を逃がさぬとばかりに、空を切ったその前足で地を叩く様に跳ね、銀狼は大口をあけて、ルードヴィヒに噛み付こうとする。
喉元を食い千切ろうと閉じられたその牙が沈み込んだのは柔らかい肉のそれではなく、紙のように柔らかな、和柄のミミックの体。
ニケの命を受け、仲間の変わりに攻撃を受け、その口に咥えられたままぐったりとするミミック。銀狼の体にニケの放つ矢が次々と突き立ち、銀狼は痛みからかその口からミミックを解放すると、大きく跳び退り、ケルベロス達と距離をとる。
「いやー……後ろが心強いと思い切りぶん殴りにいけるもんだね」
「ほら、いいから前を向いて、まだ終わってない」
銀狼同様、一度下がってきたルードヴィヒの背をニケは軽く叩き、その肩に軽く手を置いて力強く押し出した。
●
青白い月の光が照らす、夜の公園に響く戦いの音は、その激しさに比べ、とても静かだった。
呼吸の音、踏み込みの音、ささやかな詠唱の呟き。
銀狼が大きく声を上げたのは最初の一度きり、その体毛が血と土に汚れ、どれ程傷つこうと、その狼はただの一度も弱々しい鳴き声をあげることはない。
ヨハネの振るう拳が銀狼の体を掠め、その体毛を散らし、キルティアの蹴りを低く屈み避けた銀狼は、そのまますくい上げるようにその体勢を崩させるものの、決して深追いはせずすぐさま退く。
銀狼が先程まで居た場所を、アトリの放った銃弾が通り過ぎていく。
アトリはすぐさま錆付き、やや古ぼけたその銃をしっかりと握りなおすと、ステップから距離をつめ、更に二度、三度と銃撃をくりかえす。
その度に銀狼は細かく移動し銃弾を避け、彼女がリロードに入ったのを確認すると、地を蹴り飛び掛る。しかしそれは、彼女が仕組んだ罠。
迫りくる銀狼の背中に、街灯や遊具を跳ね、経由し軌道を変えた弾丸が突き刺さり、怯むその頭を踏みつけ大きく後退しつつ、リロードを終えおまけとばかりに弾丸を叩き込む。
それらの弾丸は銀狼の前足を貫き、風穴を開ける。
本物の狼であればもはや事切れているであろうことは間違いない。しかし、都市伝説の興味から生まれたドリームイーターであるその銀狼はまだ生きている。
傷は酷く、旗色が悪いのは銀狼も理解している、故にその足を微かにひこうとした。
その退路は千梨によって断たれていた。
一人と一匹の視線が交差する。
人語を解さぬその獣に、彼は言葉をかけようとして、それを飲み込む。傷つき、逃げ出そうとしながらも、濁る事のないその瞳の奥にその答えはあるように思えた。
「尚更ここは通せないな」
札を手に、気だるげに立つ千梨からすっと視線を外した銀狼は、再び咆哮を上げた。
夜の闇を振るわせるそれに、ケルベロス達の足が止まる。
もはやケルベロス達には目もくれず、その包囲を抜けるべく、銀狼は大きく跳躍する。
「興味の残滓……本体でない分、気負いも無くて良い」
咆哮に耐えたディークスは逃げようとする敵の背に向け、容赦なくその腕を振り上げる。
「其は生命……満ちる力を其の身に流し、術を好みて言を編む……。故に……其の手、其の意思、視線に至る迄……総てを、奪おう」
黒い爪に浮かぶ紋章が、闇に術式を描く。綴られるそれは蒼い雷撃となりその爪に刃として顕現する。
銀狼の背をディークスの爪が深く抉る。肉を裂き、幾筋も走る赤い線。地へと叩き落され、その巨躯を地に滑らせたその先には、白く短い杖を握る、ヨハネの姿。
「――凶れ、受け入れろ」
杖の先に宿る光が、銀狼の体を照らす。小さくも強い光はその体に濃い影を落とし、影は鎖となってその巨躯を絡めとり縛り上げる。
「お前は運命を信じるか? 番がお前の運命の相手なら、いずれまた巡り会えるさ」
残された力を振り絞り、拘束を解こうとする銀狼の抵抗もむなしく、その体は少しずつ、自らの影に飲まれていく。
鳴き声一つ上げることもなく、その体は全て影に飲まれ、そして跡形もなく消え去っていた。
●
街灯が明滅し、チカチカと辺りの影が揺れる。
公園の設備はもとより古ぼけていたこともあり、修復をおえてもそこかしこに傷やサビが浮いていて、戦闘の中心地以外は、あまり代わり映えした様子は見られない。
ケルベロス達は空に浮かぶ月を思い思いに眺めつつ、一息ついていた。
ふと、アトリは自らの相棒たるウィングキャット、キヌサヤの姿が見当たらないことに気づき、辺りに視線を向ける。
しかし、その姿は見当たらず、首をかしげつつ、その名を呼ぶ。
「キヌサヤどこにいるの?」
「どうかしたのか?」
それに気づいたヨハネが、そう声をかけると、他のケルベロス達も、どうしたとばかりにぞろぞろと集ってくる。
アトリが事情を話そうとしたところで、ふと、公園の端のほうからアトリの聞きなれたキヌサヤの声がする。
ケルベロス達は連れたってそこまで歩いていき、手入れのされていない薮を覗き込んで、皆一様にはっとした表情となる。
「そういえば、すっかり忘れてたな」
青白い月の光に照らされる、古ぼけたコートを着込んだ男と、その傍らで飛び回るキヌサヤの姿。
ばつの悪い表情を浮かべながらも、ケルベロス達はその男の肩を揺する。
寒い寒い夜の公園に、男のくしゃみが遠吠えのように大きく響いた。
作者:雨乃香 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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