「皆、集まったね?」
大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)はばさりと、ローカストに関する資料を広げた。
「御子神・宵一(e02829)君をはじめとして、たくさんの番犬が調べた結果、太陽神アポロンとローカストの残党が集まってる拠点を見つけたの」
太陽神アポロン。その名に、多くの番犬達に緊張が走った。アホ王、などと揶揄された事もあるが、それは番犬達の憤りの顕れである。この時を待ち望んだ番犬も、少なくはないはずだ。
「見つけた拠点は、アポロンが住んでる急造の神殿っぽい建物の周りを、有力なローカスト氏族が取り囲むように布陣してるの。でもグラビティ・チェインが枯渇しているせいか、警戒は疎かになってて、アポロンの神殿に直接攻撃し、暗殺する事は十分に可能だよ。アポロンさえやっつければローカストウォーの効果も消えるから、ローカスト達の組織はダメになっちゃうよ!」
同胞すら捨て駒にするこの戦いに、終止符を打てる。緊張の中に希望が見え隠れするが、ユキの表情は晴れない。
「でも、アポロン以外のローカストも強敵で、皆には護衛してる氏族の一人、ヴェスヴァネット・レイダー・レイジングを神殿から引き剥がしてほしいの」
その名に、戦慄。一度は確かに倒したはずの敵だった。螺旋の双槍と、細かな羽音が一部の番犬達の脳裏に蘇る。
「ヴェスヴァネットは、先代のヴェスヴァネット・レイダーの復讐を望んでるローカスト達を率いる部隊長だよ。戦闘意欲が非常に高い半面知性は低く、皆を見つけたら配下を率いて死ぬまで追いかけてきて殺そうとするはずなの。ヴェスヴァネットの足止めは、皆が攻撃に来たことを見せ付けた後、追いかけてくるヴェスヴァネットの軍勢から逃げ続ける事で達成できるよ。最初は、二十人くらいのローカストが追撃に加わるけど、ヴェスヴァネット以外のローカストは、グラビティ・チェインが枯渇して、戦線離脱しちゃうから逃げきれればヴェスヴァネット本人以外を脱落させる事ができるの。ヴェスヴァネットが孤立した状態で充分に戦力が残ってたら、ヴェスヴァネットを撃破する事ができるかもしれないよ」
裏を返せば、そこまでしなければ勝ち目はない。圧倒的な力量差を前に、番犬の胸に抱かれるのは死への恐怖か、強敵への高揚か。
「でもね、無理に戦う必要はないの。アポロンの神殿と反対方向に逃げて、おびき寄せさえできれば、アポロンへの援軍は間に合わないから作戦成功って言えるよ。怪我する前に帰って来て!」
咄嗟に出た想いに、胸元を押さえてポツリ、ゴメン。消え入りそうな謝罪を口にして、少女は続ける。
「ヴェスヴァネットは黄金装甲に連なる強化手術で更なる改造を受けて、理性をギリギリ保ちながらより狂暴化してるの。同胞を救う為に……そして、多くのローカストを倒した怨敵抹殺の為に」
ふと、ユキの目が捉えたのは誰だったか。一瞬の間をおいて、ヘリオライダーは続ける。
「見た目は緋色の全身に黄金装甲を散りばめて、本当にスズメバチみたいな姿だね。目立つから見つけるのは簡単だと思う。でも、強さは段違いだから気をつけて」
釘を刺したうえで、敵の情報だが……ユキの表情が曇った。
「攻撃方法は、両腕のドリルで刺し貫いてきたり、オーバーヒートした改造部分の熱を周囲に放って一瞬で加熱させて焼き払ったり、両肩のエンジンを起動して自分の細胞を活性化させて瞬時に自己再生しながらドリルの回転率と稼働限界を無理やり引き上げたりするの……でも、本当に強敵みたいでグラビティの特性が分からなかった……!」
顔を覆ってしまう声は、震えていて。
「絶対に一人で立ち向かおうとしないで。ヴェスヴァネットが強敵なのは確実だよ。一対一じゃ勝ち目はないから、ある程度逃げた後、戦力が足りないと思ったらそのまま逃げて。お願い……」
いつまでも泣いてはいられない。目元を拭い、赤くなった少女は番犬へ向き直る。
「この戦いでアポロンさえやっつければ、この戦いを止められるの。だから頑張って欲しいけど……約束して。『おかえり』って、言わせてくれるって……」
参加者 | |
---|---|
ケーゾウ・タカハシ(鉄鎖狼の楽忍者・e00171) |
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440) |
出門・火蓮(自称地獄から来た爆炎娘・e00672) |
エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490) |
リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130) |
罪咎・憂女(捧げる者・e03355) |
神咲・刹那(終わりの白狼・e03622) |
軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069) |
●
山間に響く銃声。ヴェスヴァネット・レイダー・レイジングが見やれば、遥か先に人影あり。
「貴様の氏族とその者の所属した隊の長を討ったのは私だ! 仇が討てるなら討って見せろ……!」
朗々と、リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)の声が響く。鉄屑を組み合わせた長銃を置き、掲げるは黒き角と紅き羽。
「ギ……」
それを前に、今代の部隊長は小爆発を伴う急加速で番犬達に迫ってくる!
「敵軍、動き始めたです!」
完成させた手配書を確認するエスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490)の声に、番犬達は逃走を開始。
「捕まりそうになったらぶん殴って良いなんて、普段追っかけてくる借金取りに比べたらよっぽど逃げきりやすい奴らだぜ」
「それは死亡フラグってやつか?」
「縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ!!」
軽口を叩く軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069)だったが、ケーゾウ・タカハシ(鉄鎖狼の楽忍者・e00171)の一言で瞬く間にツッコミ役に。双吉に笑いを返したケーゾウが黒狼へ変身。背中に白犬を乗せた白狼、京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)と並走して森の中に突っ込み、二人の前を乱立する木々が避けて道ができる。
『やぁお嬢さん。このまま二人で秘密のデュオはいかがかな?』
狼語? で語りかけるもシカトされるケーゾウに、悲劇が!
『ちょ、何すんだ!?』
夕雨の背にちょこん、と乗っていたえだまめによる奇襲攻撃!
『イダダダ!』
ケーゾウを足蹴に夕雨の背に戻り、ふん。白狼乙女には違う番犬がいたようだ。
「敵が接近してきてるです。速度はこっちより格段に上です」
エスカの冷静たろうとする淡々とした報告に、番犬達は身構えた。
「やはりね……想定してたけど……」
いざ距離を詰められると、重圧はある。それでもなお、罪咎・憂女(捧げる者・e03355)は仲間達へ微笑んだ。
「まずは引きつけること、それに専念しましょう?」
●
「やっぱ距離を保つのは無理か」
逃走を始めて少しした頃。見え隠れし始める緋色に出門・火蓮(自称地獄から来た爆炎娘・e00672)は苦い顔をする、が。
「お? もう数が減ってるぜ?」
兵士が四、五人がいなくなっており、一人転んで、もう起き上がることはない。
「今回はアポロン暗殺の布石です。このまま引きつけて……」
「後ろだ!」
「え?」
双吉の声に、チラと神咲・刹那(終わりの白狼・e03622)が振り向いた時だった……赤き装甲が視界を覆ったのは。
「ッ!?」
感じるのは、視界に負けないほど頭を真っ赤に染める、熱。腹部を貫通した得物から、遅れて激痛が全身を駆け巡る。
「にゃろっ!」
「チィッ!」
血の塊を吐き出す刹那を見た火蓮が発破。急接近してきたヴェスヴァネットへ粉塵を巻き上げ、その隙にケーゾウが人狼化。ハープの弦を弾く傍らでリヴィが穿孔槍から刹那を奪い返し、追撃せんとする蜂を発破して衝撃で足止め、再び走り始める。憂女は翼を畳み、更なる加速に備えて大地を踏みしめた。
『単調な軌道じゃダメだ! もっと振り回さないと神殿から引き離しきるまえに撃墜されるぞ!』
リヴィの腕の中、ハープの音色に傷が塞がれた刹那が荒い息を吐く。一先ず踏みとどまったようだ。
「OK、皆ついてきな。借金持ちの逃走術、見せてやんぜ」
夕雨を抱き上げて、自分の前に道を開かせる双吉が部隊の一歩前を行く。
「悪いが振り向く余裕はねぇ。背中は頼む!」
「了解です、えだまめ、やりますよ」
人型に戻った夕雨とえだまめが双吉の肩越しに背後の蜂を狙う。
「さっきみたいに急に加速されないよう……」
狙いを定めた夕雨の視界がグルンッ、ほぼ直角に双吉が曲がった!
「おい!?」
刹那を抱えるリヴィが地面を滑りながら曲がる後を、盲目的に追跡していたヴェスヴァネットが立ち並ぶ木という壁に突っ込み、追随していた兵士がそこに玉突き事故を起こしてあらぬ方へ吹っ飛んだ。
「ハッ! ザマァみろ!」
「あの、追ってきてますよ?」
「はぁ!?」
番犬達の斜め後方、木々をその身で薙ぎ払いながら赤い蜂が追って来る。
「今度は私が」
ぴょい、飛び降りた先を行き、緩やかに曲がっていく。段々赤い蜂の部隊が迫ってくるが。
「それではみなさん、ご一緒に」
ぴょーん。緋色の蜂の前を横切るようにして反対方向に跳び、また緩やかに曲がっていく。その程度でどうにかなるヴェスヴァネットではないが、配下は違う。ただでさえ空腹なのに定期的に急な方向転換をされて、体に余計なブレーキと負担をかけねばならないのだ。逃走が蛇行する度に一人、あるいは二人ずつ消えていく。気づけば追手は真紅の蜂一人になっていた。
●
「神殿からの距離、十分です」
左右に敵を振り回して走り続けた番犬達を、エスカの報告が引き留める。
「っしゃ、使えねぇのは一人だけ、やっちまおうぜ!」
サラッと薄情な物言いをする火蓮だが、直撃をもらった刹那はまともに戦える状態ではない。次に攻撃をもらえば、確実に……。
「前衛は私が支えるです。刹那さんは後方支援を」
「すみません……」
一先ず出血は止まった刹那が下がったところで、派手に樹木を巻き上げて赤と黄のローカストが姿を見せた。
「では……」
前に出ようとするエスカを、双吉が止める。
「こういう危ねぇ役は俺の仕事だ」
にやり、悪人面に不敵な笑みを浮かべ。
「さぁて、徳の稼ぎどころだ!」
「正義のヒーロー、ケルベロス参上! なんちゃって」
ドヤッ、てへ☆ 火蓮のコンボのオチに派手な爆発が巻き起こり、周囲の重力鎖をかき集めて前衛の身に宿らせる。
『その意思、その想いには敬意を。ただこちらにも譲れないものがある、此処で果てていただこう』
周囲に小型機を展開、憂女が前衛の前に機体の壁を築こうとした時だ。ヴェスヴァネットが消える。
『しまっ……』
理解した時には既に目の前に穿孔の槍が。されど憂女には届かない。
「させっかよぉ!!」
割り込んだケーゾウが肩を穿たれながらも、後ろには通さない。しかし一撃で腕一本が動かなくなった彼の胸を、更に二本目の槍が穿つ。引き千切る様に両腕を開き、投げ捨てられたケーゾウが木に叩きつけられ辺りに鮮血をまいた。
「男ならやっぱ女の子を守らねぇと、な……」
あえて軽口を叩き、吹き飛びそうな意識と流れ出る血液への焦燥を押しとどめ、広がる血だまりに指を伸ばし、描くは『収束』の陣。完成と同時に淡く輝くそれは光の線となり、ケーゾウの身に複雑な文様を描いて傷を塞ぐ。
「こーなった俺は、中々倒れないぜ?」
魂を体表の紋様たる陣で囲み、肉体という外殻をレンズに生命力を治癒力に変換する。命を削って命を救う。矛盾しているようで循環するそれは、ある種『果て』を持たない円形の、陣の在り方に似ていた。
「共に戦う仲間に、私が斃す者に、私を斃す者に、敬意を」
エスカのそれは、まるで祈りのよう。交差する金銀二挺の銃。天に向けて放たれた弾丸は重なり、爆ぜて番犬の身を包む加護となる。
「舞台は整った。いざ、勝負!」
鉄屑――元はダモクレスの外装を呪法で繋ぎ合わせた銃口が禍々しく光を放ち、散る。爆散する光を全身で受け乍ら突っ込んでくるヴェスヴァネットへ白い獣が二匹、回り込む。
「同胞を傷付けられて殺された事が憎いのですか? それはこちらも同じですよ」
夕雨の放つは橙の地獄。天に昇るそれを目で追う彼女は、ふと向き直り。
「生きるためとはいえ、人々を殺し、喰らう輩を見逃す道理はないのです」
チュン。一発の銃声のような音と共に、雨粒ほどに圧縮された地獄が右翼を撃ち抜き、制御を失った蜂が重力に引かれ。
「せめてもの情けです。即刻逝きなさい」
落下する蜂の首を、えだまめが断つ!
「ギィ!?」
花吹雪の如く舞う鮮血の中、踊る様にもがく蜂。返る朱に染まるえだまめをそっと抱き上げる夕雨の横を、ケーゾウが駆ける。
「一気に仕留めるぞ、まともにやり合ったらこっちが瓦解する!」
一発食らったからこそ分かる。二度はない、と。防御を固めて、加護をうけて……それで、耐えれば上々。ケーゾウも、刹那も、今回の耐久を重視した編成だったが故に一撃で倒れなかったと言って過言ではない……ならば為すべきは一つ。
●
「ケーゾウさん、後退するです!」
前に出ようとするエスカを、黒狼の背中が塞ぐ。
「そんな隙はねぇし、女の子をあんな危ねぇヤツの前に立たせられるかっつぅの……このままいく!」
当初は陣形をスイッチして耐えるはずだった。しかし、一度の回復では二撃は耐えられない火力に加えて、今回の編成に攻め手は狙撃手に収まる火蓮のみ。にも関わらず二人が入れ替わることで敵に攻め入る隙を与えるのはあまりにもリスキーだ。
「縁起でもねぇこと言うからそうなんだよ」
けらり、お返しとばかりに嘲笑う双吉から魔法少女の幻影が分離、ケーゾウの周りを動き回って光を振りまき、その傷を癒す。
「くっ、戦闘は避けるべきだったでしょうか……!」
漆黒の祭壇機腕をかざす刹那が治癒の光をケーゾウへ送る傍ら、エスカが直接傷口にヒールを叩きこんでどうにかケーゾウの傷を塞いだ時だ。ヴェスヴァネットの両肩が轟音を響かせて炎を吹き、一直線に火蓮へ突っ込む。
「ハッ! 理性がブッ飛んでても忘れられないくらいド派手に決めてやるぜ!」
カチリ、握り込むスイッチは敵ではなく目の前で。火蓮自身の肌すらも焼く熱の中、突っ込んだヴェスヴァネットが炎上、火蓮の爆炎と自らのエンジンの炎が混じり、酸素を求めて激しく猛る。火柱から距離をとった火蓮が舌打ち。
「こっちの攻撃に怯みもしねぇ! 自分から爆発に突っ込むとか、いかれてるぜ!」
「ギィイイイ!!」
絶叫。同時にフワと、熱が頬を撫ぜた。
「まずい! 全員退けっ!!」
リヴィが叫べど時既に遅く熱が薙ぎ、露出の多い彼女の肌はいともたやすく溶け、噴き出す血すらも瞬く間に焼き固められ歪な焼き跡を晒す。全身に溶けた鉄を塗りつけられたような激痛を受けてなお倒れないのは、彼女の意地だろう。
「く……皆、まだやれるか……?」
かつては自身の拳を阻んだ黄金の鬼鋼、黄鎧で死んだ皮膚を覆って騙し騙し立っているリヴィ。咄嗟に仲間を庇おうと踏み込んだ故に、熱波の直撃を食らって一時の涅槃を彷徨った事を考えれば、立っているだけでも十分におかしいのだが。
「リヴィは姫騎士様か何かか?」
ポタリ、庇われたケーゾウの手から黒い雫が落ちる。導かれるように伸びるそれは線を描き、円を描き、陣を描く。
「しかし美女には守られるより守りたいものだ」
柏手を一つ。仄暗く光を放つ陣はリヴィの傷を内側から癒し、焼けただれた皮膚の細胞を作り直して元の美しい肢体を鎧の下に再臨。
「すみません……!」
えだまめを抱いてピクリともしない夕雨と、白目を剥いて倒れている双吉から目を背けた刹那が腕甲をリヴィへかざして治療を始め、緋蜂の羽音に顔をしかめる憂女が深く息を吸う。
―――!
声ならぬ声。そう語るのが最も適切に思えた。憂女の届かざる絶叫はただの空気の振動ではない。周囲の重力鎖をかき集め、ヒールへ『変質』させる。
「なるほど、これはそういうものですか」
変異した重力鎖の向かうはエスカ。銃弾に込める己が重力鎖に、寄せ集められるモノを織り込んで、銃口は動かない味方の上に。
「ギ……」
その様にヴェスヴァネットが穿孔槍を引けば火蓮がニコッ☆
「ぽちっとな」
ハート型の赤いボタンを見せつけるようにして、人差し指でプッシュ。赤い蜂の下、地面から光が溢れ、巨大な火柱が天を焦がす。巻き込まれた蟲人がもがく隙にエスカの放った弾丸は中天に煌めく星々を描き、駆ける輝きが夕雨と双吉の意識を覚醒。
「カハッ!?」
息を吹き返した双吉は赤き蟲人を睨み、揺らぐ意識を奮い立たせて大地を踏む。
「まだ闘ってる奴らのために……少しでもなにか積み上げる……ッ!」
外した眼鏡を握り、テンプルに仕込まれたナイフを構えた。
「そのくれぇできねぇと、俺の満足いく『徳』は手に入らねぇんだよ………」
一際強い、風。羽ばたきは炎を払い、真紅の装甲を赤熱させるヴェスヴァネットへ、小さな刃物をむける。
「ドリルもハ-トもずいぶん熱くなってんな。だが、それは俺のスライムもだ! やってやるッ!」
太陽の如き蟲人を、暗雲の如き不定なる得物が呑む。霧状のそれに真紅の蜂は腕を振るえど意味はなく。黒の世界に映えるは桃の髪。蜂に微笑む少女めがけて槍を放てば幻影は消えて、霧が晴れた途端穿つは虚空。
「シアター、オンッ!!」
双吉の声に反転、彼の喉を穿孔槍が穿ち、『背後から』羽に小さくも鋭い一撃が叩き込まれる。
「ギ!?」
振り向けば、そこには双吉の不敵な笑み。
「感謝しろ、本当は俺の夢だけを描く所、もう一人の俺も描いてやったんだからなぁ!!」
消えかけの灯を振り絞り、二つの幻を生んだ奇襲。決して浅くない傷を残して弾き落とされた双吉が二、三度地面を跳ねて動かなくなった。
「えだまめ、これが最後です」
世界が揺らぐ前後不覚の中、幸い意識だけははっきりしている。感覚のない脚に鞭打ち、握力を失った腕でなく、顎で地獄を纏う刃を構えた。低く姿勢を落とし、倒れないよう両腕で体を支え、隣のえだまめと呼吸が重なる。
「「がうっ!!」」
二匹の獣が、駆けた。一つは橙の、一つは蒼の尾を引いて、複雑に入り乱れる軌道を描く。理性無き蟲人を前に、彼女らにとってこれは戦いではなく、狩り。追い詰めるように走り回り、時に脇を抜けて、下をくぐっては頭上を越える。三次元的に退路を失った獲物が闇雲に腕を振りかぶった瞬間、前後から二つの刃が腕を挟み、無理やり『噛み潰す』。
「ギィイイイ!?」
赤黒い水たまりに穿孔槍が突き立ち、片腕を失った緋色の蜂が叫びは苦悶か、憤怒か。残る得物が唸りを上げ、憎悪のままに刺突の構え。
「終わりだな、貴様も、こちらも」
双方満身創痍。リヴィの握る拳もまた、これが最後だろう。もはや襤褸でしかない服を捨て、文字通り肌で戦場の空気を感じる。
「最期は蜂らしく、華と舞え……!」
握る拳に纏うは雷。回る槍に纏うは熱。にらみ合いの中、ヴェスヴァネットが消える。次の瞬間にはリヴィの胸を貫いて……。
「だろうな」
覚悟していたように、彼女の掌が蟲人の胸にあり、一つの陣を広げていた。自らの心臓を穿たんとする槍に骨を削り砕かれ血反吐を吐きながらも、不敵な笑みは崩さない。
「失せろ……!」
陣の中心に、拳が叩き込まれる。本来拡散させる雷撃を、逆に描いた陣で収束。ただ一点、敵の胸を穿つ。
「ギ……ギ……ッ!」
光の奔流が周囲一帯を飲み込む。全てを白く塗りつぶすは、雷撃。
「私たちの……勝ちだ……ッ!」
最期に残ったのは、リヴィ。彼女の意識もまた白濁して、世界が暗転した……。
作者:久澄零太 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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