黒き鳥は聖か悪か

■リプレイ

●黒き鳥は聖か悪か
　夜の帳、闇の中に優しい光を湛えて満月が淡く世界を照らす。
「満月の夜。高層ビルの屋上に現れる黒い鳥。どこぞのRPGのボス戦っぽくて、シチュエーションは悪くないな」
　満月を仰ぎながら、村雨・柚月（チャーハンつくるよ・e09239）は、そう呟く。
（「月を呑む大烏……映えるかねぇ。カラスだったら光り物とか好きそうだが、まさかな」）
　ガロンド・エクシャメル（愚者の黄金・e09925）も、そんな事を思った。
「みんな、今日は宜しくなの！　それから、カイトちゃんとたいやきちゃん、柚月ちゃん、ジェミちゃんはお久しぶりなのよ！」
　ミーミア・リーン（笑顔のお菓子伝道師・en0094）は、一緒に戦うケルベロス達に手を振りながら挨拶をする。そして、久しぶりに会う霧島・カイト（凍護機人と甘味な仔竜・e01725）と、彼のボクスドラゴンのたいやき、柚月、ジェミ・ニア（星喰・e23256）にも改めて声をかけた。
「ミーミアさん、シフォンも気を付けて頑張っていきましょうね」
「うん、ありがとうなの！　ジェミちゃんも気を付けてね！」
　優しいジェミの言葉に、ミーミアは笑顔で返す。それにジェミも薄っすらと微笑んだ。
　月明かりの下とはいえ、夜。各々、ライト等の光源を用意し、屋上にも邪魔にならない程度の物を用意した。
　倒れている克哉も見つけ、危なくない場所まで連れて行く。彼の傍には月城・有架（あなたの隣の真祖様・e33027）が、護るように傍につく。
「安心してね。きっとすぐ助けるから」
　そう、優しく声をかけて。
　カイトが念の為にキープアウトテープを貼り、それをミーミアも手伝う。
　戦う場所の準備も整い、後は噂を始め、ドリームイーターを呼び寄せるだけだ。
「黒くて大きな鳥だって、興味あるなあ……。ミーミアは鳥って好き？」
　同じオラトリオのマイヤ・マルヴァレフ（オラトリオのブレイズキャリバー・e18289）の言葉に、ミーミアは笑顔で頷く。
「鳥さんも大好きなの！　大きな鳥さん、見てみたいの！」
「そうだよね！」
　そう同意し合う二人の傍にはマイヤのボクスドラゴン、ラーシュとミーミアのウィングキャット、シフォンも楽しそうに飛んでいる。
「知ってる？　満月の夜って色んな不思議が起こるんだって」
「月夜と共に現れる黒鳥……ふふふ、神秘的ですが、少し怖いですね♪　私としては、ぜひ会ってみたいものですが……」
　改めて噂話をマイヤが切り出し、ロフィ・クレイドル（ペインフィリア・e29500）も続ける。
「月が綺麗な夜にビルの屋上に大きな鳥が現れる……。それだけ大きければ月の光も遮ってしまうかもしれない。きっと月を覆ってなお余りある美しさなのだろうね。一度お目にかかってみたいものだよ。月の光は黒を美しく映し出す……。黒い鳥の翼はきっと漆を塗ったように艷やかな黒だろうね」
　美しい物語の様に語るのは、サロメ・シャノワーヌ（ラフェームイデアーレ・e23957）。
（「だけどせっかくなら、幸せの青い鳥のほうが見てみたいのだけど……」）
　そんな事を思ってみたりもするけれど。
「黒い鳥と言えばカラス。巨大なカラスというと、『ヤタガラス』とかか？」
　柚月はそう話しながら、今まで見てきたドリームイーターの話も混ぜてみる。神話生物系の可能性もあるからだ。
　そんな話をしていると、大きな影が月の光を遮っていく。薄っすらと光が鳥の輪郭を映し出していて、深い闇色の鳥なのに、どこか美しい神秘的にも感じられる、そんな姿をしていた。
　ふわりと屋上に降り立った大きな鳥は、ケルベロス達へと声をかける。
「私が如何なるものか分かりますか？」
　その声は、誇り高く綺麗で澄んだ声。
「鳥」
「さて、黒い鳥といえば九官鳥だったかな、ヒクイドリだったかな」
　そう答えるのはカイトとサロメ。それに漆黒の鳥は、ため息をついた。
「……確かに私は鳥で黒い姿をしていますが、神の使いでもあるのです。もう少し、理解を示して頂ければ嬉しかったのですが……仕方が無いでしょう。あなた方には、残念ながら消えて頂きます」
　そう言うと、黒い巨鳥はふわりと舞い上がった。

●漆黒の巨大鳥型ドリームイーター
　漆黒の鳥は翼をはためかす。それは、夜の闇を取り込むように集め……その羽ばたきによって、サロメに向かって闇の風を送り込む。彼女の周りに纏わりつく様に風が渦巻き包み込んで、サロメの思考力を鈍らせていった。
　ジェミは漆黒の鳥を見ながら思う。
（「黒は神秘的な色。威厳や尊さ。一方で夜や死を連想させる。でも、聖か悪かは見た目じゃなく行動で決めるものだから」）
　ジェミは身に纏うオウガメタルからオウガ粒子をカイト達に放ち、その集中力を高めていく。それを受けたカイトは、バイザーを下げて戦闘モードに切り替えると、攻撃をしかけてきて近くにいるドリームイーターに飛びかかると、内蔵しているドリルを回転させて攻撃をしかける。しかし、ドリームイーターは巨大な身体であるのにも関わらず、綺麗にその攻撃をかわした。
「当て損ねたか」
　一方、たいやきは支援をするべく有架へと飛んでいき、属性である鯛焼き効果で、属性インストールによる護りを高める。なんだか甘い感じを有架は感じた。
「さすがに動きを止めないときついか……」
　柚月はカイトの狙った場所を目がけて、植物の蔓を放ち縛り上げようとする。それもかわそうとしたドリームイーターだが、完全ではないものの捕縛に成功した。
「動きは速いが当たらないわけじゃないな」
　ただ、しっかりと攻撃が入っていない。今は、当たっただけでも儲けものといった所だろう。
「闇をまといし怪鳥と、輝き背負いし黄金竜。月を賭けて暗夜のドッグファイトといこうじゃないか……！」
　鳥のドリームイーターにドラゴニアンのガロンド。同じ翼を持つ者同士。そして、戦闘スタイルもほぼ同じ。やる気も一層湧いてくる。ガロンドはドラゴニックハンマーを変形させると、ドリームイーターへと撃ち放った。避けようとするドリームイーター。俊敏な動きを取るが翼に砲弾が着弾し、ガロンドのミミック、アドウィクスがドリームイーターへと向かって噛みついた。
（「巨大な鳥……生命を狩る黒鳥……。彼の者は、いかにして私たちに苦痛を与えてくれるのでしょうか？　あるいは、どのように楽しませて、その仮初の命を咲かせてくれるのでしょうか？」）
　そう考え気持ちが昂るのはロフィ。彼女は攻撃を受ける事が快感に感じるのだ。だが、今回は遠くから敵を狙う。それが少し残念だ。ロフィはドリームイーターの足元を狙って、煌めきを放つ重い蹴りを放ち、彼女のテレビウムのクーは上品な映像を流す事で、サロメを癒していった。
　マイヤは、纏ったオウガメタルによるオウガ粒子をガロンド達へと放ち、その集中力を高めていく。ラーシュはジェミへと飛んでいき、属性インストールによる護りを与えていった。
　回復して貰ったサロメも攻撃に移るが、残念ながらドリームイーターが綺麗に羽ばたき、空振りに終わってしまう。やはり、まだまだ当たりにくいようだ。
　今回、ケルベロスとして戦う事が初めての有架は少し緊張していて、一瞬怯むが、地獄化している右手と右目から黒い地獄の炎を漏らし、ドリームイーターを見据える。
「デウスエクスは倒す！　何故なら、あたしはケルベロスだからだ！」
　そう宣言すると、ドリームイーターに向かって魔力を秘めた瞳で睨みつける。しかし、それが効いている様子が無い。彼女をサポートするシャーマンズゴーストのダーくんはロフィの元に行くと、祈りを捧げて護りの力を高めていった。
　ミーミアは雷で作り上げた壁をサロメ達へと展開して護りを固める。そして、シフォンはジェミ達へと護りの与える聖なる風を送り込んで行った。
　ドリームイーターは羽ばたくとマイヤに向かって突っ込み、その翼から幾重もの漆黒の羽根を突き刺そうとした所を、サロメが庇って守る。
「お嬢さん、怪我はないかい？」
「うん、ありがとう！」
　まるで王子様のような口調で話すサロメに、マイヤは少しどきどきしてしまった。
　ジェミは攻撃の要であるが攻撃が当たりにくいカイト達に、再びオウガ粒子を放ち集中力を高めていく。集中力を高めて貰い、現在接近状態のドリームイーターへ向かってカイトは輝きを伴う重い蹴りを放つ。たいやきは、餡子の様な炎を吐いて、ドリームイーターを燃え上がらせた。
「よし、今度は当たった！」
　カイトの声を聞いた柚木も、狙いを定めて攻撃を繰り出す。それは刻詠夕緋という彼のグラビティ。緋色の魔術の力を秘めているカードを発動させることで固有魔法「レッドバレット」が解放され、緋色の魔弾はドリームイーターへと着弾し燃え上がらせた。
「動きを止めてやる……！」
　ガロンドの日本刀は弧を描くと、ドリームイーターの急所を目がけて斬り付ける。続き、アドウィクスが輝く黄金をちらつかせて、それに注意を向けようとした。しかし、月の光の方が良いらしいドリームイーターは、その惑わしには引っかからなかった。
「漆黒の攻撃……それでも月明かりに照らされ光る……直接感じたい所ですが……どんな魂をしているのでしょうか？　ふふ、戴きますよ？」
　ロフィは、ドリームイーターへと飛びかかる。そして魂を喰らう一撃を放った。一方のクーは傷を負っているサロメの所に向かい、癒しの動画を流してその傷を癒していく。
　流石のドリームイーターも、傷が深くなって来たらしい。その巨大な翼を広げると、上空に舞い上がり、月の光を全身に浴び、漆黒の身体をきらきらと輝かせて、光と闇の不思議な輝きを纏う。
「……綺麗。あ、見とれちゃ駄目だよね！　回復しちゃったから……ガロンド達にもう一度かけるよ！」
　マイヤはオウガ粒子を放って、ガロンド達の神経を研ぎ澄ませて集中力を高めていく。ラーシュはドリームイーターへと向けて、タックルを叩き込んだ。
「月の光を浴びるに相応しきは、真祖たる我のみ。我の舞台を穢す不届き者は滅するのが世の道理よ！」
　有架は、そうドリームイーターへと宣言すると地獄の炎を次々と繰り出し、燃え上がらせる。ダーくんも非物質化させた爪で、その霊魂へと攻撃を叩き込んだ。
「カイトちゃん、頑張るの！」
　ミーミアは雷を放って、カイトの力を底上げする。シフォンはロフィ達へと護りの風を送り込んだ。
　力を与えられたカイトの高速ドリルがドリームイーターを捕らえて強烈な一撃を与える。たいやきは続けてタックル攻撃を叩き込んだ。
　柚月も動く。植物の蔓がドリームイーターを捕らえて縛り上げた。ジェミは更に攻撃が入りやすいように雷の霊力を纏った突き攻撃を放つ。
「……裁いてみせろ」
　ガロンドは日頃から操っている死霊から、自らに強い恨みを持つ死霊を砲弾にして撃ち放つ。その死霊の攻撃はドリームイーターへと纏わりつき、同時にガロンドへ敵意を抱く様に仕向けた。それを何故かロフィは羨ましく思いつつ、攻撃に移る。
「赤、緋、紅い空。生命を喰らいし紅い空。堕ちよ汚れし紅い空」
　ロフィの指先から一滴の血が空へと昇る。空は血色に染まり球を成して、ドリームイーターへと降り注がせた。クーもそれを手伝うように凶器を振り回して攻撃を叩き込む。
　マイヤは炎の攻撃をドリームイーターへと与えて燃え上がらせ、ラーシュが畳み掛ける様にブレスを放った。
　ドリームイーターは翼をはためかせて闇を織り交ぜていく。織り交ぜた闇を羽ばたきによって風に変えるとガロンドへ向かって放つが、サロメがそれを庇う。
「危険だから私の後ろに」
「あ、ああ。助かった。でも、僕もサロメさんの分も戦わせてもらう」
　王子様の様に丁寧に言うサロメに、感謝を述べながらもガロンドは彼女の分も戦うと誓う。
　その間に有架はドリームイーターへと接近し、稲妻を纏った突きを放ち、ダーくんはサロメの治療へと向かった。
「次は柚月ちゃん！」
　ミーミアは雷の力を用いて柚月の力を底上げしていく。シフォンはリングを飛ばしてドリームイーターへと叩き込んだ。
「人生は舞台、ならばお前に「相応しくない役」を与えようか」
　カイトの召還した二つの歯車がドリームイーターを挟み込み、ドリームイーターの身体に変調を与えていく。たいやきも餡子のようなブレスを放った。続けてジェミが、ドラゴニックハンマーを変形させた砲弾を撃ち込む。
　先程、サロメに助けて貰った思いも込めて、ガロンドは急所を狙ってドリームイーターへと刃を突き立て、更にアドウィクスが噛みつき攻撃を行った。
「そろそろ終幕だ。夢喰いは番犬に喰われて消えな！」
　柚月の緋色のカードが緋色の弾丸をドリームイーターへと次々に叩き込まれる。そして、その放たれた弾丸の炎に包まれて、ドリームイーターは闇へと輝きながら散っていった。

●月夜の下で
　ビルの屋上の壊れた部分をヒールしていく。流石に巨大な鳥が暴れまわっただけあって、かなり酷い状態になっており、ヒールには時間がかかってしまった。
　一方で、克哉の手当てもしている。ミーミアが回復を行っている傍には有架が体育座りで、心配そうに様子を見守っていた。
「……ん……」
　やがて、克哉の意識が戻ってきた。それを確認した有架は慌てて、月の光を浴びるように立つ。
「覚えておくがよい。月が綺麗な世に相応しきは真祖であると言う事をな」
　残念ながら克哉やミーミアは、その言葉の真意が伝わっていないようだが、それに構わず有架はサキュバスの翼を広げる。
「では、さらばだ！　寒いから気を付けて帰るのだぞ！」
　そう言い残すと、有架は屋上から飛び降りようとして……。
「きゃー、危ないの！　みんな、有架ちゃんを止めるの手伝ってほしいの！」
　有架に縋り付くミーミアとダーくん、そしてシフォン。しかし、力が足りないので、他のケルベロス達にも手伝って貰い、無事にそれを阻止する事に成功した。

　月の光が屋上を優しく照らす。
（「結局元になった噂の黒い鳥って良いヤツなのか悪いヤツなのか」）
　月を見上げながら、バイザーを上げたカイトは思いを馳せる。しかし、その横で……。
「たいやきちゃんは、相変わらず食いしん坊なの」
　大食いのたいやきは、いつの間にかミーミアからワッフルを貰って、せっせと食べている。たいやきの前にはワッフルが沢山積んであった。
「こら、たいやき！　人様の分まで狙ったら駄目だからな！」
「大丈夫なの。たいやきちゃんが来るって知ったから、頑張って沢山作って来たの！　カイトちゃんも、どうぞなの！」
　にこにこ笑顔のミーミアにカイトはワッフルを受け取る。……その隣では凄い勢いで、ワッフルを平らげているたいやき。……全部お腹に収まるのは時間の問題かもしれない。
「俺も温かい飲み物とお菓子を持って来ているから、みんなで食べよう」
「ありがとう、お菓子楽しみなの！　じゃあ、他のみんなにも配って来るの！」
　てくてくと仲間達の方へと出かけていくミーミア。それを見送りながら、カイトは美味しそうにワッフルを食べているたいやきが暴走しない様にと、心に刻んだ。
「ミーミアさん飲み物持ってきてくれたんですね。ありがとう。僕もクッキー持ってきたから皆で分けましょう」
「うん！　美味しいお菓子を皆で食べながら、お月様を楽しむのって、とっても素敵なの！　カイトちゃんもお菓子を持って来てくれたし、楽しい時間を過ごせると良いの！」
　ジェミの言葉にミーミアは嬉しそうに頷く。お月見の準備が進んで行った。
（「スーパームーン。今なら1番月が近いんだったか」）
　ガロンドは、満月に向かって手を伸ばす。
（「今ならこの手が届……くわけないか。いい宝だと思うんだけどな」）
　レア物ハンターをしているガロンドは、そう思う。どうしても手に入らない物が一番美しいものなのかもしれない。
　お菓子と温かい飲み物を戴きながら、ケルベロス達は満月を楽しむ。とても綺麗だ。その中で、カイトはたいやきが皆のお菓子を平らげない様に必死で抱きしめている。たいやきは既にミーミアから貰ったワッフルは平らげているのだが、まだまだ食べ足りていないようだ。
「お月様、とっても綺麗だね。確かに大きな鳥が現れたら……それはロマンかも。ね、ラーシュもそう思わない？」
　マイヤは隣りにいるラーシュにそう話しかけた。
　王子様の様なサロメと、基本的にはお嬢様のロフィは優雅な作法で、月を見上げながらお菓子と飲み物を戴いている。クーは、メイドの様に色々と頑張っていた。皆に止められた有架もダーくんを抱きしめて、克哉の隣にいる。
　普段からドリームイーターを追っている柚月も、満月を見ながら色々な事に思いを馳せる。本当に、ドリームイーターは興味深いと改めて思った。
　マイヤは月の光の中をラーシュと共に飛ぶ。傍には、彼女に誘われたミーミアも居た。少しだけ月が近くなる。まるで独占しているみたい、そんな事をマイヤは思った。
（「空気が澄んで月が凄く綺麗だ。それに見惚れるのも狂気を覚えるのも畏怖を感じるのも見る者次第」）
　ジェミは満月を見上げながら、そう思う。あのドリームイーターも、きっとその一つだ。
　満月の美しさを感じながら、月見を楽しむ優しい時間が過ぎていく。柔らかい月の光の中で――。

作者：白鳥美鳥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年11月29日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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