アポロン暗殺作戦~眠れる虫を起こすなかれ

作者:廉内球

「朗報だ。太陽神アポロンの居場所を掴むことができたぞ」
 アレス・ランディス(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0088)はほっとしたように一息ついた。
 飢餓状態のローカストが山間部に住む人々を襲う事件は、いずれもケルベロス達によって阻止された。その後御子神・宵一(e02829)ら多くの有志が調査を重ねたことにより、アポロンが潜む拠点を見つけ出すことができた。
「奴は急ごしらえの神殿に潜んでいるとのことだ。頭さえ潰してしまえば、ローカストどもも組織を保つことはできんだろうな」
 良くも悪くも強力なリーダーである太陽神アポロン。有力なローカストがその護衛に当たっているであろうことは想像に難くない。さらに神殿への襲撃があれば、周辺のローカスト達が援軍を出してくるはずだ。
「そこで、アポロンを直接襲撃するチーム、護衛に対処するチーム、そして周辺のローカストを攻撃し、援軍を阻止するチームに分かれることとなった。俺達は援軍阻止チームだな」
 言って、アレスはバインダーの資料をめくる。
 
 このチームが担当するのは、スポアローカストと呼ばれる、攻性植物を武器とするローカスト達だ。もとより低燃費なため、アルミニウム生命体に加えて攻性植物と共生することに成功している。
 さらに彼らはそのほとんどが眠りにつき、グラビティ・チェインの消費を抑えている。起きているのはスポアローカストマスターと一部のスポアローカストだけ。深く眠っているため、アポロンからの増援要請があるか、攻撃されでもしなければ起きることはない。
「つまり、起こさなければいい。寝ている連中は無視して進み、ボスと取り巻きを倒してしまうんだ。神殿からの知らせが来る前にスポアローカストマスターを倒せていれば、他のスポアローカストに指示を出す者はいない」
 このチームが戦うべきは、スポアローカストマスターと、緑の体色のスポアジャンパー、そしてカブトムシ型とクワガタ型の二体のスポアオーダーだ。
「マスターは攻性植物を自在に操る。スポアジャンパーは飛び上がってからの強力なキックがあり、カブトムシ型のほうは角を突き刺してアルミ化液を流し込んでくる。クワガタ型は、強力なあごで挟み込んで敵を破壊する攻撃を得意としているようだな」
 四者それぞれ攻撃方法は異なるが、概ね力と速さによる攻撃を使用する傾向があるようだ。また、共通する攻撃が一つある。
「連中はキノコ型攻性植物を使って毒を撒いてくる。指向性があり、胞子は遠くまで届くから、十分に注意してくれ」
 即座に致命傷を受けるわけではないとはいえ、放置もできない厄介な攻撃だ。対策は十分に練る必要があるだろう。
「ローカスト・ウォーから四か月、ついにここまで来たな。さんざん騒ぎを起こしてくれた連中と、決着をつけてきてくれ」
 ドラゴニアンはにやりと笑い、ヘリオンを示す。
「乗ってくれ。朗報を、期待している」


参加者
加賀・マキナ(灰燼に帰す・e00837)
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)
タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)
コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)
幽川・彗星(剣禅一如・e13276)
淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)
参式・忍(謎武術開祖のニンジャ・e18102)
リュリュ・リュリュ(リタリ・e24445)

■リプレイ

●眠れる虫たち
 森の中を、ケルベロス達は進む。草むらから所々飛び出したキノコのかさが目に付いた。シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)はちらちらとその攻性植物に視線を送りながら、やや名残惜しそうに先を急ぐ。
「あれが、眠りについたスポアローカストなんだね……」
 リュリュ・リュリュ(リタリ・e24445)は無意識に足音を殺している。
「いよいよ決着だな、それにしても、援軍を阻止したとしてあいつらはどうしようか」
 コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)が見え隠れする攻性植物のかさを睨む。ここで殲滅したい、しかし最大の目的は、スポアローカストマスターの撃破だ。
「放っておきましょう、一斉に起きられては困ります」
 幽川・彗星(剣禅一如・e13276)が冷静に先を促す。暗殺部隊の為に、今の段階で藪をつつくべきではないことは分かっている。
「アイズフォンは……圏外でござるか」
 参式・忍(謎武術開祖のニンジャ・e18102)は抜き足差し足で進みながらかぶりを振る。敵が拠点とするような場所だ、常に電波が届くとは限らない。
「要はスポアローカストマスターを倒しちまえばいいんだぜ?」
 やや小声でタクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)が問う。
「そうだね。援軍さえ阻止すれば、問題は無いはずだ」
 加賀・マキナ(灰燼に帰す・e00837)が答えるが、心はここに在らず。このタイミングでアポロンの神殿が見つかった、それ自体が誰かの意図によるものではと疑っていた。
 もっとも、この場で答えが出ることではないだろう。
 さらに森の奥へと進めば、直立しているローカストの姿が見えた。いずれも体のどこかからキノコ型の攻性植物を生やしている。
「……いたね」
 淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)は敵影を認め、表情を硬くした。ここで失敗すれば、アポロン暗殺は不可能になる。負けられない。
 ケルベロス達がたどり着くと同時に、スポアローカスト達もケルベロスの存在に気が付いたようだ。表情の読みづらい虫たちの目が、一斉にケルベロス達に向けられた。
「ドーモ、スポアローカスト=サン達。参式・忍です……覚悟召されよ」
 地底から響くような恐ろしさのある声で、忍は挨拶する。これから命を奪い合う相手に、失礼があってはいけない。
 ローカスト達の反応は希薄で、しかし敵意は確実に感じ取れる。互いに構える。
 決戦が、始まろうとしている。

●共生か、寄生か
 ケルベロス達が取った作戦は、司令塔であるスポアローカストマスターへの集中攻撃。ある程度取り巻きへのけん制を行ってから、アポロンからの指令を受け取るリーダー格を一気に倒す。
「君は勇者? それとも弱者?」
 リュリュの周囲に殺気が集まる。叩きつけられた気迫は幻覚となって敵を傷つけるだろう。ローカストがグラビティ・チェインを奪うなら。人か、ローカストか、どちらかしか生き残ることができないのなら。死すべき敗者、それはローカストの方だ。
「Question……あなた達にとってスポアは仲間と道具のどちらですの?」
 戦いの最中、スポアローカスト達に、シエナが問う。かつて黄金の不退転部隊の一員だったスポアスティンガーに同じ問いかけをし、決別に至っているが。
「……」
 スポアローカスト達は、答えない。ただその複眼で、シエナをじっと見つめるだけだ。
 沈黙が作る空隙に、風が鳴る。不意に振るわれたスポアジャンパーの鋭い鎌が、死狼を切り裂いた。しかしそれでも、死狼は倒れることなく踏みとどまる。
「そうやすやすと倒れてたまるか! 光の差さない、海の底へと消えていけ!」
 死狼が吠える。ブラックスライムは濁流の蛇となり、スポアローカストマスターの元へと這い寄り加護ごと嚙み砕く。
「言うじゃないか、援護するぜ」
 コールから送られた気の光が、死狼の傷を癒していく。
(「それにしても不気味な連中だな……」)
 先ほどの問答への無反応、何より頭部から生やした奇怪なキノコ。コールは眉をひそめる。グラビティ・チェインを分けあう共生関係。しかしコールには、それが攻性植物の『寄生』に見える。
「今のを答えとみなしますわ……Emprunts! ラジン、眷属を借りますの! En avant! 全軍突撃なの!」
 シエナの号令と共に、ラジンシーガンの封印箱の中から無数の蜂が飛び立った。群がりまとわりつく蜂の大群はスポアローカストマスターが回復を試みる端から針を刺し、その回復力を弱めていく。
 その間、クワガタ型スポアオーダーのハサミが忍を狙っていた。胴を両断せんとする攻撃を、忍は上体を大きく後ろに反らすことで回避。突いた手でバネのように素早く起き上がると、スポアオーダーの巨体を飛び越える。
「拙者の狙いはオヌシではござらん。イヤーッ!」
 狙うはボスであるマスター。回し蹴りがその胴を正確に打ち抜く。
「いろいろ聞きたいこととかあるんだけどねぇ……けれどアポロンに力貸すってなら見過ごせないんだぜ!」
 タクティもカブトムシ型ローカストの角の一撃を受け流しつつ、飛び上がって蹴りを頭部に見舞った。勢いで撒かれた胞子を吸い込まないよう息を止めるも、頭に強烈な蹴りを受けたマスター同様、タクティもふらつく羽目になる。そんな主人を援護するべく、ミミックも偽の財宝をばらまいて敵を惑わしにかかった。
 そんな様子を見て、戦闘前とは雰囲気を一変させている彗星が、皮肉っぽく笑う。
「とんだカオスだなァ……どきなッ!」
 彗星の手元で変形したドラゴニックハンマーから放たれた砲弾が、空気を切り裂きながらマスターのもとへと飛び込んでいく。強い衝撃を受け、スポアローカストマスターの足元はやや怪しくなった。
 その隙を見逃さず、マキナは切り込む。ぎりぎりまで詰められた間合い。敵をズタズタに切り裂くべく振るわれる惨殺ナイフをふと止めて、マキナはスポアローカストマスターに問いかける。
「お前は何者だ。お前は本当に、ローカストなのか?」
 答えは、無い。

●号令を阻止せよ
「くっそ、一体いくつ潰してくれてるんだぜ!?」
 タクティが叫びながら、味方の武装に破魔の結晶を施していく。敵の加護を打ち砕く疾走・晶化武装(シッソウ・ショウカブソウ)だが、スポアローカストもまたエンチャントを破る技を持ち合わせていた。
 スポアローカストマスターがアルミニウム生命体を鎧として纏うたび、ケルベロス達はその装甲を砕いている。それにはタクティの結晶が一役買っていた。
「回復しようって考えるくらいには、追い詰められてやがるわけだ。臓物ぶちまけてとっとと絶滅しやがれ」
 スポアジャンパーの鎌によって頬に浅い切り傷を作られながら、彗星はスポアローカストマスターに向き直る。
「さあ暴くぞ。都合のいい虚飾を殺し、真実を捻じ曲げて。お前に最も都合の悪い世界が生まれる」
 彗星の放つそれは、強烈な暗示。世界とはかくあるべしという自己暗示が因果改変を引き起こし、デウスエクスに拒絶反応を引き起こさせる。
「太陽の恵みを受けとるですの!」
 シエナがその手足に纏うオウガメタルは、黒太陽の力を開放。暗黒の輝きがローカスト達を包み込んだ。同時に、ボクスドラゴンのラジンシーガンのブレスがローカスト達を薙ぎ払う。
「スポアローカストの実力はそんなものなの?」
 守りに転じ始めたスポアローカストマスターを、リュリュは挑発する。カブトムシ型ローカストに嚙みつかれるが、その力はどこか弱弱しく思える。それほどまでにグラビティ・チェインの枯渇が深刻でも、倒すべき相手であることに変わりはない。
「その守り諸共……打ち通すのみ! 辞世のハイクはできたでござるか!」
 アルミニウム生命体を使って傷を塞ぐことに注力するマスターを、忍は喝破する。機甲式螺旋八極拳の一つ、機甲式螺旋寸勁(キコウシキラセンスンケイ)。肘から先をモーター回転させほぼゼロ距離での攻撃を放った。衝撃はローカストの体を駆け巡り、スポアローカストマスターの傷口が開く。
「生きることに必死なんだな。それでも……これ以上の跳梁は許せない」
 死狼の手から伸びる二本のケルベロスチェインが、スポアローカストマスターに巻き付いた。
「戦うことが罪であっても、僕は自分を抑えない!」
 力の限り引かれた鎖。同情すべき事情があったとしても、デウスエクスは不倶戴天の敵。死狼の瞳は覚悟に燃え、幾度となくスポアローカストマスターを木々に、地面に叩きつける。
「大将首さえとってしまえば、あとは瓦解するだけだろうね。容赦はしない」
 マキナはグラビティの力を高める。何を、どの攻撃を行うか、彼女は選ばなかった。すべて同時に解き放つ。ドラゴニアンの爪に御業を宿らせ敵を切り裂くそれは、マキナがミキシンググラビティと呼ぶ技だ。
「確実に……仕留める!」
 一瞬の間にコールが放った一撃。それはスポアローカストマスターに直撃すると、マスターは大きく傾き……そして、音もなく倒れ伏した。

●森の蠢き
 スポアローカストマスターが倒され、残るは残党三体。敵もいくらか手傷を負っている状況で、この三体を倒すのは不可能ではないように思われた。戦闘を続けようとするケルベロスの耳に、葉擦れの音が届く。
 ざわり、ざわりと不気味にざわめく草むらから、眠っているはずのスポアローカスト達のキノコが蠢く姿が見えた。
「マスターブッ倒したんだから号令は届かねえんじゃねぇのかよ……」
 悪態の中、彗星の言葉には動揺がにじむ。むくりと起き上がるローカストの姿に、否応なく緊張が高まった。
「クソッ、囲まれてる……」
 死狼もまた、周辺に一体、また一体と増えるスポアローカストを警戒する。死狼らを囲むようにゆらりと立ち上がったローカスト達は徐々にその数を増していく。
「……待った。あいつら、なんだか様子がおかしいんだぜ」
 攻撃の手が止んでいることに、タクティが気付いた。ローカスト達からは、意志が感じられなかった。もとより表情の乏しい種族ではあるが、それを差し引いてもなお、精神が抜け落ちたような不気味さで、スポアローカスト達はあらぬ方向を見ている。
 そして、虫たちはゆっくりと歩きだした。一糸乱れず、ケルベロスのことなどまるで眼中にないかのように。
「追わないと」
 リュリュがナイフを手に鋭く叫ぶが、それを制したのはマキナだ。
「相手が一斉に反撃してきたら、勝てない。それに、奴らが向かっている方角はアポロン神殿とは違う」
 もし、この薄気味悪いほど統制のとれた集団が、一糸乱れぬ反撃を見せたら。しかし、スポアローカスト達は援軍に向かうのではないようだ。自らの意志でも、アポロンの意志でもなく、もっと別のものに導かれていると感じる。
「Pourquoi……まさか、攻性植物の意志ですの?」
 シエナの表情には困惑と、わずかに喜色が浮かんでいるが、もしそうであるならば。
「スポアローカスト……あいつら、本当にアポロンの下僕か?」
 コールは呟く。マキナも同じ疑いは持っている。疑念は尽きず、されどこの場に答えは無い。
 忍はスポアローカストマスターを観察するが、キノコはしなびてしまっている。じっくり調べようにも、この場に留まることはあまり得策ではないように思われた。
「ひとまず、任務完了でござるな」
 援軍阻止の目的は達した。ローカスト達が立ち去った森の薄気味悪い静けさの中、ケルベロス達は撤退するほかなかった。

作者:廉内球 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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